【祭祀】夜空と花火と君と(森静流 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「静かだな」
 あなたは言った。
「うん」
 相方は口数少なく答えた。
 宵闇の花降る丘。満点の星空の下に、花畑が広がっている。鮮やかな白の月見草が風に揺れ、花の香りをふわりと漂わせる。木々に揺れる百日紅、蝦夷菊の花、夕顔、ブルースター。花に満ちた丘の上、二人以外に姿は見えない。
 紅月ノ神社の納涼花火大会における穴場のスポットだという話だが、本当に、花も夜空も二人で独り占めしているような空間。
 虫除けハーブを手に握りしめて、あなたは芝生の上に座る。
 隣に、相方も座る。
「花火はもうすぐ?」
「うん」
 相方は相変わらず口数が少ない。だが、腕時計を見せてくれたので、あと十五分ぐらいで始まるという事が分かった。
 相方が喋らないので、辺りは本当に静かだった。まるで花が囁く声が聞こえてくるよう。あなたはそんなことを考えて、おかしくて一人で笑ってしまった。
「?」
 相方が振り返ってくる。
「ああ……さっき、屋台から買ってきたんだけれど、飲む?」
 あなたはバッグの中から冷えたラムネの瓶を相方に渡した。相方は一つ頷いて、ラムネを受け取った。
 二人でぽつぽつと会話をしながら空と花を見ていると、やがて、ドンッ……と音が響き渡り、空いっぱいに、大きな花火が開花した。
 円い花火。
 それからパチパチと音を立てながら連続花火が打ち上げられる。
 色とりどりの光の共演、鳴り響く轟音。
 あなたは花火を見ていたが、やがて、大人しい相方の方を振り返る。花火の明かりに照らされた、相方の精悍な顔。
「実家で花火とか、よく見ていた?」
「あんまり」
「花火、好き」
「……うん」
 ぼそぼそと相方は、前に見た事のある花火の話をし始める。それも途切れて、あなたはラムネを時折飲みながら、花火を見続ける。夜空には花火の煙がたなびいて、薄い雲のよう。花の丘から見る花火は、格別だ。
「……好きだから」
 そのとき、相方が花火の方を見ながらぼそっと言った。
「え、何」
「あんたが……」
 ぼそぼそと口べたな相方は何か言っているが、花火の音がうるさくてあなたはよく聞き取る事が出来ない。
「何、はっきり言って」

「あんたが、好きだから」

 相方は花火を見ていたが、視線がそのとき、芝生の方に落ちてしまった。
「…………」
 あなたは、突然の出来事に何を言ったらいいのか分からない。まじまじと相方の方を見てしまう。相方は、芝生の自分の下駄の方ばかりを睨むように見ている。どうやら緊張して恥ずかしくて仕方ないらしい。
「いいから、花火見ろよ」
 とりあえずあなたはそう言って、相方の背中を叩いたのだった。
(ああ、どうしようかな)
 あなたは心が沸き立っているのを感じるが、態度に出したりはしなかった。夜空の打ち上げ花火を見ながら、今日は特別の日だと思った。

解説

 他に誰もいない花降る丘で、相方と二人きり。
 やがて花火が次々上がって来ます。(花火は21:00~22:00)
 そういうシチュエーションで、どんなプランでも自由です。(公序良俗は守ってください)
 飲み物は屋台から好きなものを買ってきています。虫除けなどの対策も充分取っている事でOK。このあたりはプランに書いても書かなくてもOKです。
 また、現在碑文の影響で、どんな本音でも打ち明けてしまいやすくなっています。本文のように告白などをしてもOK。キスしたいなどそういう内心が出てもOK。普段言えないような話もしてしまうかもしれません。

※飲み物代や虫除けスプレー代として300Jrかかりました。

ゲームマスターより

オーソドックスな花火のデート。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)

  和服

短歌とサーシャの告白を聞いて数時間後(エピ50
向日葵の香りが混じってたら哀愁の表情

花火が始まる前にサーシャに何故住人を皆殺しにしたか理由を聞く
サーシャの十字架は受取拒否
本音を吐露し立ち上がる
サーシャへ手差し出す
一瞬心から笑う

空に描かれた華に見惚れる
再び座る


台詞
…俺が今更お前を手放すと思うか?見くびるな
お前と契約した時から…それが何者か底が知れないお前から得た悪魔のような力と知ってでもだ
俺は強くなると誓った、あんな思いは二度と御免だ
元々、利害一致からの契約だろう
お前が俺の知るお前で在る限り離れない、お前は俺の相棒だ
守れる力を、刃を向ける相手を夢でさえも見誤らないよう―道標となれ、これからも


天原 秋乃(イチカ・ククル)
  イチカの過去を知ってから、あいつとどう距離をとっていいのかわからなくなってきた。
イチカはいつも通りにみえるけど、以前のように過ごせない。
喧嘩したわけでもないのに、いつまでもこのままじゃいけない。なんとかしないと。
ってなわけで、イチカを誘って花火をみにきた。

花火があがるまでの時間、屋台で買ったラムネを飲みながら過ごす。
続かない会話に息が詰まる。

花火があがり始めるとイチカは花火に釘付けになってしまって、さらに遠くに感じる。
このままじゃ置いていかれる。そんな気がして、思い切って声をかけた。
「あ、あの!!・・・手を繋いでくれないか」
イチカの体温が伝わって顔が熱くなる。
「あきのんって呼ぶな。・・・ばか」


李月(ゼノアス・グールン)
  花降る丘に着き不意に後から抱え込まれる形で座る「おわっ
何時もの事と気にしなくなってきた自分に気付く(絆されてる…
受取り「ていうか耳元でしゃべるな(照

「里帰りの準備は万端 来週には出発だな
「当たり前だ その為にあらゆる情報駆使して計画立てたんだからな!
 本当に片道3日ルートを開拓できた自分を褒めたい フフン

花火が始まって飲みながら見入る
見事さに圧巻
相棒が何か言ってる?
聞き取れない
不意に聞こえたのは 惚れ 
どきり
その後の言葉が入ってきて
(…やっぱり僕の気持ちを尊重してくれてたんだ
胸が苦しい
精一杯心落ち着けて 腕ぽんぽん

「…う うん(羞恥に耐える覚悟しておこう
この旅で気持ちの整理がつきそうな予感


●李月(ゼノアス・グールン)編

 今日、李月は精霊のゼノアス・グールンとともに、紅月ノ神社の花火を見るため、花降る丘を訪れています。
 どちらも夏祭の和装です。李月は夜行の振袖「渦巻」、ゼノアスは【浴衣】白銀-影-を身に纏い、水風船やりんご飴を手に花の丘にやってきたのでした。
 李月は花降る丘に着くと、程よい暗闇に二人きりだなと思いました。それはゼノアスも感じ取ります。
「人はいねえ、問題ねーよな」
 不意に後ろから抱き込まれて、李月は芝生の上に座り込みました。
「おわっ」
 背後を振り返ろうとすると身近にゼノアスの顔があります。
(いつもの事だ)
 そう思い、気にしなくなってきた自分に李月は気がつきます。
(絆されてる……)
 照れるような困るような複雑な気持ちでした。ゼノアスが李月にじゃれつくのは本当にいつもの事なのです。どうやらゼノアスは李月に触っていると落ち着くようなのです。
 ゼノアスは嬉しそうな表情で後ろから腕を回して李月にラムネを渡します。李月はラムネを受け取って口だけでもゼノアスを叱ります。
「ていうか耳元で喋るな」
 しかしゼノアスは気にせず李月にひっついてぬくもりに浸るのでした。李月は引きはがしませんでした。だって、引きはがしても、またくっついてくるでしょうから。
「里帰りの準備は万端。来週には出発だな」
 ゼノアスはそのままにして、李月は話し始めました。
「マジで遠いぜ? ホントに行くのか?」
「当たり前だ。そのためにあらゆる情報駆使して計画立てたんだからな!」
 李月はとても得意げです。
(本当に片道3日ルートを開拓できた自分を褒めたい。フフン!)
 最近、ゼノアスには恩人の訃報が届いたのでした。そのお墓参りに、李月が同行してくれると言うのです。その帰省旅行についての話題でした。ゼノアスは本当に遠方の僻地の出身であるため、一回帰省するのにも何日もかかり、本当に大変な行程になるのです。
「まあ、最後はおぶってでも連れてってやる。だから安心して潰れろ」
 ゼノアスは笑って言います。
「なにおー」
 李月のそんな反応に、ゼノアスはさらに笑います。
 やがて花火が始まって、二人はラムネを飲みながら見入っていました。
 ドンッ……
  ドンッ……
 その花火の見事さときたらまさに圧巻です。大きな音とともに、次から次へと花火は打ち上がっていき、夜空に大輪の華を咲かせます。ドラマティックに繰り広げられる光の演舞に李月はすっかり見入っています。ゼノアスも田舎では見られなかった盛大な花火を美しいと思います。
 しかしゼノアスは、花火を見上げながらも、全く別の事を考えていました。
(故郷でコイツ、なんて紹介する? 神人でパートナーで……親友)
 思わず声がこぼれてしまいます。
「……やっぱ親友は違うよなぁ」
 李月はゼノアスが何か言っている事に気がつきますが、花火を打ち上げる轟音が大きすぎて聞き取る事が出来ません。なんだろうと思いつつ、それでも花火に集中したいという気持ちが、ごく間近にいるゼノアスには伝わってきました。
 ゼノアスは花火の音に声が消されてもいいと思いました。その気持ちをはっきりと声に出してしまいたかったのです。
「……オレはオマエに惚れてる……」
 打ち上げ花火の途切れ目に、「惚れ」という言葉が聞こえました。
 李月は心臓が高鳴る事を感じます。
 李月はゼノアスの独占欲を知っています。たった一人の神人を所有したいという想いが強すぎるのです。李月は、異性愛者なのですけれど。
 ゼノアスは李月が腕の中で肩を震わせた気配を感じましたが、構わず言いました。
「けどよ。オマエが今のままがいいってんならそれでもいい。こうしてオレの中にいてくれんなら」
 自然とゼノアスへと意識を集中し、耳を澄ましていた李月には、その言葉は聞こえました。
(……やっぱり、僕の気持ちを尊重してくれてたんだ)
 李月は胸が苦しくなります。ゼノアスが想ってくれるということ、それだけで、様々な感情が次から次へと湧いてきて、胸を締め付けてくるのです。異性愛の自分は、彼の事をどうすることも出来ない--。
 ゼノアスは李月を抱き締め直します。力強くなる彼の腕。
 ゼノアスはラムネをぐいと飲み干しました。
 空に向かって、李月に聞こえるように--
「故郷の奴らに、オマエの事こう言う。『オレの宝だ』」
「……う、うん」
 李月は頷きながら、ちょっと曖昧に笑います。
(羞恥に絶える覚悟をしておこう)
 ゼノアスがそんな紹介をしたのなら、故郷の人々はどんな表情をするでしょうか……。
 ですが、李月は、この旅で気持ちの整理がつきそうな予感がしていました。
 異性愛者ではあるけれど、春に桜の手紙に書いた事は間違いないのです。自分が戦う理由は、全てゼノアスのため。彼を守るため、傷つけないため、笑顔でいて欲しいため--。それらの感情に正直になったのなら、何が起こるのでしょうか?
 ひときわ大きな音が鳴り響いて、夜空いっぱいに、荘厳な花が開いていきました。

●天原 秋乃(イチカ・ククル)編

 今日は紅月ノ神社の納涼花火大会です。天原 秋乃と精霊のイチカ・ククルは花火を見に花降る丘を訪れました。
(イチカの過去を知ってから、あいつとどう距離をとっていいのかわからなくなってきた。イチカはいつも通りにみえるけど、以前のように過ごせない。喧嘩したわけでもないのに、いつまでもこのままじゃいけない。なんとかしないと)
 そういう訳で、秋乃の方からイチカを誘ったのでした。
 イチカの方はそれはそれでいいのです。
「秋乃から誘ってくれるなんて嬉しいな~♪」
 などとからかってみます。
 ですが、秋乃はどうした訳か上の空でした。
(……つまらないな)
 反応が鈍いとイチカだって困ってしまいます。
(最近秋乃と以前のように話すことができなくなった気がする。……まあ、僕のせいなんだろうけど)
 二人は花降る丘に二人きり、暗い芝生の上に座って、屋台から買ってきたラムネを飲みながら過ごしました。
 会話はなかなか続きません。
 イチカは冷えたラムネの瓶を秋乃の首筋に当てて驚かせたりしてみましたが、それ以上の会話が続きませんでした。
 思わずイチカはため息をこぼしてしまいます。
 秋乃はイチカを意識しすぎています。
 イチカは、自分の変化に気がついているのでしょうか。
 以前は、ことあるごとに、イチカは秋乃に「好き」と言っていました。秋乃はずっと戸惑っていましたが、やがてそれに慣れてしまっていたのです。「好き」相手の全てを受け入れて肯定する言葉。しかし、イチカは、秋乃が過去の事を知ってからは、その言葉を言わなくなってしまいました。
 途絶えてしまったその言葉には、どれほどの威力があったというのでしょうか。
 秋乃は流され体質ではありますが、人付き合いが苦手なタイプではありません。それでもぎくしゃくしてしまうほどに、イチカの言葉には威力があったのです。
 そうこうしているうちに、花火が打ち上げられました。

 ドンッ……

 イチカは絢爛と夜空に花開く花火に見入ります。全身に響いてくるような音、空いっぱいに広がる光のショー。全く見事なものでした。
 秋乃は、花火に釘付けになっているイチカを見て、ますます遠くに感じました。
(……綺麗だな)
 イチカはそれだけを考えています。
(このままじゃ置いて行かれる)
 そんな焦りが秋乃の中に浮かびました。
 そう思ったらたまりませんでした。
「あ、あの!! …………手を繋いでくれないか」
 イチカはその大きな声に、はっと我に返ります。
 手を繋いで欲しい。
 秋乃はそう言って、イチカに手をさしのべました。
 イチカは差し出された手にそっと触れます。
 イチカの体温を感じた時、秋乃の顔は自然と真っ赤になっていきました。
「……はは、あきのん、顔真っ赤だよ?」
「あきのんって呼ぶな。……ばか」
 照れながら怒る秋乃でした。
 そうしたいつものやりとりをしながら、秋乃の心には、ある要求が浮かんできます。それをまだ、イチカに告げる事は出来ないのですが--。
 それをはっきりと認識出来るのは、碑文の効果なのかもしれませんでした。
(いつか、イチカに、俺の事を見て欲しい。俺自身の事だけを)
 秋乃はうっすらと、イチカが、自分ではなく失った恋人に対して「好き」と言っていた事を感じ取っていました。
 失った恋人はイチカの「すべて」だったと言います。
 オーガによって恋人を失うという生涯最大の事件の後に、イチカは秋乃の精霊となりました。そして、秋乃は、恋人と同じ色の目をしていました。
 他は性別からして違っているのですが、秋乃の瞳の緑は、恋人の緑と同じ色なのでした。
 ……だから。
 だから、イチカは秋乃に執着していたのです。秋乃の中に恋人を見て、その影に向かって「好き」と繰り返し、やがてそれは秋乃を縛る言葉となりました。
 秋乃といれば、イチカはオーガと関わり、オーガと戦い続けなければなりません。それはイチカの中でどのように整理がついているのでしょうか。恋人との辛い記憶に直面してしまいます。オーガを倒す事で、恋人の恨みを晴らしているのでしょうか。あるいは辛い気持ちを断続的に感じているのでしょうか。それとも、恋人への想いでいっぱいで、オーガの事などもうどうでもいいのでしょうか。秋乃にはそれは想像もつきませんでした。
 秋乃は、自分の中の何に、イチカが恋人を見ているのかは知りません。それでも、今、彼とともにオーガと戦っているのは、自分です。自分なのです。
 だから、自分を見て欲しい。
--自分と今を生きて欲しい--
 そんな純粋な要求が、秋乃の中で浮かんでは消えて、やがて猛烈な感情となって、秋乃はイチカの手を強く握りしめました。
 その感情が一体なんと呼ばれるものなのかは、秋乃自身にも分かりません。イチカにも分かりません。だけれど、イチカはからかうように、受け流すように、秋乃の手を握り返しました。指先から何もかもわかりあえれば、伝わればいいのに。

●ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)編

 今日は紅月ノ神社の納涼花火大会です。ヴァレリアーノ・アレンスキーとその精霊のアレクサンドルは、花火を見に花降る丘を訪れました。
 ヴァレリアーノが短歌とサーシャの告白を聞いて数時間後の事です。
 ヴァレリアーノは花降る丘をそぞろ歩き、ふわりと漂う向日葵の花の香にふと眉を顰めました。愁いの影が過ぎります。
 アレクサンドルはヴァレリアーノからいくぶん離れて歩き、その足は朱く咲き誇る彼岸花を紙のように踏みつぶしました。
 花の香の噎せるような闇の丘の上、アレクサンドルは己の掌を見つめます。闇に仄白く浮かぶ掌には見えない血の穢れがこびりついているのです。
 アレクサンドルはそのまま手を伸ばしました。
 空へ。何かを求めるように。何かに絶望するように。
 ヴァレリアーノは離れた位置に座り、アレクサンドルの様子を見つめ、やがて口火を切りました。花火が始まれば、騒音で、相手の声も聞き取れなくなってしまいます。
「何故、住人を皆殺しにした?」
 理由を尋ねました。
「至極簡単。ただ殺したかったからだ。この手を幾度となく血に染めようとも満たされぬ我をも享受するか」
 その白い顔は無表情に近かったのですが、ヴァレリアーノにはわずかにですが挑発的なものがある事が分かりました。
「……俺が今更お前を手放すと思うか? 見くびるな。お前と契約した時から……それが何者か底がしれないお前から得た悪魔のような力と知ってでもだ。俺は強くなると誓った。あんな思いは二度と御免だ」
 ただ強く在るためには悪魔の力も恐れないのです。
 ヴァレリアーノは挑発的なアレクサンドルに対して微かに頬を歪めて笑い、不敵、不遜とも思える態度で言い切るのでした。その幼さをとどめた容姿には不似合いなほどの自信がみなぎっています。
「その力を得る為に我が契約したとしても?」
 今度は揶揄するかのようなアレクサンドルの声。彼は離れた位置に立ち、十二歳の子供としか思えないヴァレリアーノを見下ろしています。
「元々、利害一致からの契約だろう」
 ヴァレリアーノは怯む事はありませんでした。
「汝は脆い……故に強い。我の目に狂いはなかった。汝のその眼に我は惹かれている」
 紫(ヴァイオレット)の瞳を見下ろし、表情の少ない顔に餓えを感じさせる笑みを浮かべ、アレクサンドルはヴァレリアーノを見つめます。
「お前が俺の知るお前で在る限り離れない、お前は俺の相棒だ。守れる力を、刃を向ける相手を夢でさえも見誤らないよう--道標となれ、これからも」
 ヴァレリアーノは謎に満ちた魔物のような存在に信頼の言葉を放ちます。信じるという事は、どれほどに危険なのでしょう。己にとっても、相方にとっても。そんな危険を危険とも思わないようにヴァレリアーノは笑っているのでした。
「我はアーノの保護者……そして相棒、か。悪くないのだよ。汝が望むなら我が示そう」
 アレクサンドルは満足そうでした。悪くない。そう……悪くないのです。
(いずれは汝の全てさえをも……)
 己を信じるこの不遜な子供をいつか手に入れる事が出来るのなら--。
 アレクサンドルはヴァレリアーノに貰った十字架を彼の前に差し出しました。闇の中きらめく十字の聖印は、アレクサンドルの髪の色にもヴァレリアーノの髪の色にも似ていて危うい刃物のようにも見えました。
 言うべきことを言い終わったヴァレリアーノは優雅に断固として手を振ってそれに拒絶の意志を見せました。
 かわりに、ヴァレリアーノは立ち上がると、アレクサンドルの方へ、まるで恐れを知らぬ王者のように己の手をつきつけました。
 ほんの一瞬ですが、心から笑っていました。
 本音の吐露を終えたアレクサンドルは、ヴァレリアーノの前に跪き、姿勢を凛とただします。
 まずは十字架への接吻。敬虔なる従者のごとく。
 そしてアレクサンドルは十字架を胸にしまうと、ヴァレリアーノの手を押し頂き、その手の甲の紋章にそっと羽根の触れるような口づけを行いました。
 そのとき、音が轟き渡り、夜空いっぱいに光と炎の芸術が広がりました。刹那で消える二つとてない華--空を見上げます。
 アレクサンドルはヴァレリアーノの光に照らされる横顔を見て、今までにない感情が芽生えてきたのでした。本人は気づいていませんが、それは執着でも独占でもなく、最も原初の聖なる欲望でした。
 ヴァレリアーノは空に描かれた華に見とれています。ふと、彼は芝生に座り込み、次々と打ち上げられる花火に見入りました。
 闇に広がる一瞬の光の華。一つとして同じものはない。
それらに見入る紫の瞳には光の虹彩がくるくるかわり、プリズムの宝石のようです。その一瞬を見つめる間だけ、ヴァレリアーノの表情は無防備な子供にかえり、純粋と何者にも犯されない高潔を同時に感じさせたのでした。
 だから欲しいのか。だから守りたいのか……アレクサンドルは己に問いかけます。決して終わる事のない問い。正解などどこにもない問い。
 虚空の霄に広がる華の乱舞を見上げながら、アレクサンドルは刹那で変化る(かわる)危うい生命に己の魂が囚われている事にすら気づく事が出来ないでいたのでした。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ヴァレリアーノ・アレンスキー
呼び名:アーノ
  名前:アレクサンドル
呼び名:サーシャ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月13日
出発日 09月19日 00:00
予定納品日 09月29日

参加者

会議室

  • ヴァレリアーノ・アレンスキーと相棒、のサーシャだ。
    李月達とは別々に花火を見ることになりそうだが、もしすれ違ったら宜しく頼む。

  • [1]李月

    2016/09/17-12:48 

    李月と相棒ゼノアスです。
    よろしくお願いします。


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