地獄のボウリング大会ーッ!(桂木京介 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 地獄だ……まあ色々と!
 今日も平和な(?)悪の秘密結社マントゥール教団テューダー派のアジトである。
 桃色の髪のこめかみあたりに、右、左、渦を巻く不思議なヘアスタイル。
 これはテューダー派幹部プリム・ローズの特徴だ。この日も彼女は意気揚々と、作戦室の扉を開けた。
「ボウリング場の買収に成功したから!」
 作戦室内では円卓に世界地図がひろげられ、覆面の参加者たちが綿密な相談を……繰り広げたりはしていなかった!
 卓上には白いテーブルクロスが敷かれ、その席で向かい合って、やはり幹部のバル・バラと、その副官サンチェスが食事を取っているのであった。ご丁寧にも、給仕に扮した戦闘員(黒づくめ黒覆面)が、ナプキンを腕にかけ控えている。
「……何やってんの?」
「ランチだ。ちょうどメインの『フォアグラのテリーヌ、シェフの気まぐれトリュフソース仕立て』が来たところだぞ」
 優雅にナイフで肉を切りつつバルが言う。どのあたりが気まぐれなのか不明だが、確かにそれっぽい料理だ。
「それどころじゃないでしょ!」
 声を荒げ、プリムは腰に手を当てた。
「このところ最高会議の締め付けも厳しくなってきたってのに!」
「そうカリカリするな、ベル。腹が減っては戦が……」
「だからー!」
 バルの言葉をその妹は遮って、
「本名呼ぶなっての! 私の名は『プリム・ローズ』なんだから!」
「だからカリカリするなと言うに……そもそも、なぜお前は本名をそれほど嫌う?」
 バルの言葉に、一瞬プリムは詰まった様子を見せたがすぐに声のトーンを落として、
「……なんか、古典少女漫画のタイトルみたいで嫌なの……」
 恥ずかしげにうつむいたのだった。
「そうか?」
 バルは言う。
「名は『ベル』、姓は『バラ』、続けて読めば……」
「やめい!」
「愛、それは……」
「それは歌劇のほうだろ! ていうか、わかってて言ってるな!」
 どしんとプリムがテーブルを叩いたので、乗っていた皿も軽くジャンプした。
 慌ててサンチェスがとりなす。
「そ、それでプリム様……ボウリング場を買い取った、という話でしたね……?」
「そう」
 プリムは腕組みして、憤懣やるかたないという表情だ。
 ところがバルのほうは、ふーん、という顔で言う。
「温泉でも掘るのか?」
「それは『ボーリング』でしょ! 『ボウリング』よ、ボ・ウ・リ・ン・グ!」
 だいたい、温泉なら前にやったから……とプリムはまたまたお冠である。
「ええと」
 サンチェスは、早回し映像のように大至急で食べ終わって述べた。
「ボウリング場を経営することが、どう我々テューダー派の活動に結びつくのでしょうか……?」
「布教拠点にするの」
 やっと聞く気になったわね、とばかりに顎を上げ、プリムは得意げに言う。
「格安ボウリング場で遊んでいたら、いつの間にかマントゥール教の信徒に……って塩梅よ」
 以前やった温泉宿作戦のように、あの手この手で洗脳をはかるというのである。
「しかし……」
 バルは、約束していたギャラが確保できない興行主のように、なんとも話しにくそうに告げる。
「またA.R.O.A.の連中が嗅ぎつけて計画をつぶしにくるかもしれんぞ」
「それこそ、望むところよ!」
 プリムはボウリングのポーズを取って言うのである。
「ボウリング勝負を挑んで叩きつぶしてやるから! うちが勝ったら奴らには口出しをさせない。負けたら経営から手を引く、って約束でね!」
「勝てるのか?」
 当然よ、とプリムは右手に黒革製オープンフィンガーのグローブをはめた。
「私の最高スコアは220! 返り討ちにしてあげる!」
 おおー、とサンチェスは思わず拍手するのだが、バルのほうはやっぱり「ふーん」という顔をしている。
 ほほう、その余裕……よほど自信があるようね――とプリムは誤解した。
 彼がボウリングのスコアの意味はおろか、そもそもボウリングをやったことすらない、という事実はもちろん知らない。

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 このとき新規改装オープンのボウリング場『ヘルズ・ボウル』に君たちが足を踏み入れたのは単なる偶然か、それともA.R.O.A.の使命を帯びてか。そこは自由に決めてほしい。
 いずれにせよその内部で、プリム・ローズ一派がボウリング勝負を挑んでくることになるだろう!
 正攻法でねじ伏せてもよし、奇策を用いてもよし、ともかく、勝負に勝ってその野望を阻止するのだ!(具体的には経営を放棄させるのだ!)
 割合気楽な、運命の対決が幕を開けるッ!(気楽、って言っちゃってるし)

解説

 マントゥール教団には、テューダー派という分派がありまして、そこにはプロローグ本文で登場した幹部がいます。
 彼らとボウリングで対決するという、限りなくハピネスエピソードに近いアドベンチャーエピソードです。
 みなさんの6人チームと、彼らの6人チーム(プリム・ローズ、バル・バラ、サンチェス、あとは全員黒覆面の戦闘員)で対決するというのがメインとなるでしょう。合計得点の高いチームの勝利となります。
 みなさんのボウリング能力については自己申告してくれたものをそのまま採用します。(全員プロ級、とかだったらまず間違いなく勝つでしょう)

 参考までに、彼らのボウリング能力について記します。

●プリム・ローズ
 ハイティーンくらいの少女ですがかなりの手練れです。この日は絶好調で、途中まではパーフェクトゲームのペースで突き進みます。
 ただし精神的に脆い部分があるので、間違った名前で呼ばれる、うっかり本名を知られる等のアクシデントがあるとたちまち乱調をきたすことでしょう。

●サンチェス
 金髪の美青年です。プリムほどではありませんがかなり上手です。精神的には割とタフですが、過去、彼と会った記憶がある人は、そのあたりの思い出話を語ってやると乱れるかもしれません。

●バル・バラ
 ボーリングのルールも知らないど素人です。なのに根拠なき自信に満ちています。

●戦闘員たち
 平均スコア100を越える程度の実力です。ぼちぼちストライクも取りますが、ガーターもしっかり出します。

 彼らと適当に遊ん……いや、対決して、経営から手を引かせることができれば成功です。
 
 一度負けるとプリムは、「だったら4対4で仕切り直しよ! もちろん同志バル抜きで!」とか無茶を言ってきます。要するに、戦闘員とバルを抜いたプリム+サンチェス組にA.R.O.A.チームから2人よこして勝負しろと言っているのです。この変則勝負に応じる応じないは自由です。


ゲームマスターより

 ボウリングは超下手です。マスターの桂木京介です。

 悪の秘密結社という割りにはみみっちい連中と、正々堂々(?)ボウリングで対決しましょう。
 コミカルな、なんだか和気あいあいとしたお話にしたいと思っています。健全なスポーツ対決なので、彼らを逮捕するような展開にはならないでしょう。

 導入部は、プリムが経営するボウリング場に特命を帯びて潜入した……でも、たまたま遊びに来たらプリムたちがいた……でも構いません。※方針はチーム全員で統一しておいてくださいませ。

 『プリム+サンチェス+A.R.O.A.側から2人(ひと組のウィンクルムである必要はありません。精霊だけ2人、神人だけ2人等でもOKです)』VS『残るA.R.O.A.チーム』戦に応じる場合は、誰と誰がプリムたちの側に入るか決めておいて下さい。(なおこの勝敗はシナリオの成否には関係しません)

 それでは、次はリザルトノベルでお会いしましょう。
 桂木京介でした。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  ■スコア:調子が良くて150程悪いと100前後
本日の調子はそれなり

怪しいボウリング場と聞いて来てみたら…
この人達バスジャックの時の?
仲間にこんな女の子もいたのね
とりあえず、ちょっとこの人達の事を探ってみましょうか

バル・バラさんの名前って本名なの?
貴方の名前最初に聞いた時、私、子供の頃に読んだ漫画を思い出したのよね
男装の麗人が主人公の素敵な漫画だったの
だから偽名なんじゃないかなって思ったんだけど本名なのね
じゃあ、上の名前がベルじゃなくて良かったわね
くすくっと笑い、妹さんの様子に「?」

変則バトルで向こう側に行くアルに唖然
まあ、お遊びだって言うなら…
手を抜く気はないけど、疲れてきてスコアを下げていく


かのん(朽葉)
  スコア120位
基本真っ直ぐに投げてスペアを確実に取るタイプ
ストライクもたまに
懐中時計の効果が有効なら)ストライク連続しました!今日は調子が良いみたいです

幹部3人と戦闘員見比べ、見た目にわかりやすい上下関係ですね
お三方の中では階級の順番とかあるのでしょうか?

テューダー派の情報収集兼ねて、派内の階級や3人のお互いの関係、テューダー派立ち上げた経緯や普段何をしているのかなどをバルに聞いてみる
(主義を主張されてますし、お喋りそのものはお嫌いじゃなさそう?)
持ち上げながらそれとなく話題を振ってみる
会話の中でプリムとバルが兄妹だとわかったら、名字が違うのは何故ですか?と素で不思議そうに3人に聞いてみる


御神 聖(桂城 大樹)
  スコア:120~135
絡みOK

うちの勇の教育に悪そうだなー
任務のパートナー、今日は大樹で良かった

順番は出来れば、早い順に投げたいかな

プリムさん上手いみたいだね
大樹が言うにはメンタル弱そうなんでちょっと一石投じてみるか
「や っ ぱ り 恋人が2人もいると張り切っちゃうなんて可愛いね」
※多分違うと判ってるけど敢えて言う
ムキになってボロ出してくれないかな
「違うの?え、どういう関係?不健康な関係なの?」(ニヤニヤ)
切り返されたら
「息子が懐いてる恩人の契約制霊だけど?恋人?さぁ、どう見える?」(にっこり)

4人変則は応じる
アルベルトさん何か考えてるみたいだし
あちらが可哀想になる位の楽しい展開になるといいね(笑顔)


 ガコン、と鳴るその音は、大きく、しかも心地よく。
 景気よくバタバタと白いピンが倒れる。
 ここはボウリング場なのである。
 リニューアルオープンしたばかりなので、広い場内は胸がすくほどに清掃されていた。ボールもレーンもピンもピカピカしている。けれどもご用心、輝かしきピンの側面には『ヘルズ・ボウル』という物騒な響きの店名が刻印されているではないか。
 そう! ここは悪の秘密結社マントゥール教団テューダー派が経営するボウリング場なのだった!
 ……という事情は承知の上だから、従業員が黒覆面だったり、『オーガ聖典』なる本がショップに置かれていてもかのんは平然としていた。
 けれども朽葉は、今にも噴き出しそうな顔をしている。
「従業員はともかく、ボウリンググッズに混じって明らかに怪しい本が売られておるのは違和感ありすぎんか……?」
「朽葉おじ様、お気をつけを。あくまで私たちは『何も知らない一般客』です」
 指を立てるようにして、かのんはその美しい顔を曇らせる。
「おお、そうじゃったそうじゃった」
 朽葉は山羊髭をなでつけた。
 御神 聖は形のいい眉をしかめていた。
「うちの勇の教育に悪そうだなー」
 彼女の目は分厚い装丁の『聖典』をとらえている。マントゥールの教条がしたためられた書なのだろう。毒々しくサイケデリックな表紙は、触れるだけで感染しそうな雰囲気だ。
 任務のパートナー、今日は大樹で良かった――と聖は思う。
「教育に悪そうってのに賛成だ」
 桂城 大樹は肩をすくめた。すっぽり黒覆面をかぶった『従業員』を見て溜息をつく。
「子どもってああいうの真似しそうだよね」
 聖のストッキングを被ってちょこんと座る勇の姿を想像し、大樹は思わず微笑する。可愛らしいけど、あまりやってほしくはない。
 六人はA.R.O.A.の特命を帯び、潜入捜査のためにやって来たのだった。といってもこそこそせず、堂々とプレーに興じていた。
 開店直後の『ヘルズ・ボウル』は閑散としている。軽くプレーしながら月野 輝は何気なく会場を見回し、こちらを凝視している少女に気がついた。
 少女の目は「隙あらば刺す!」と言っているかのようだ。
 ――あの女の子……?
 輝はアルベルトに目配せする。
 桃色の髪、頭の左右に謎の渦巻き。美少女と言っていいが、なかなか性格はきつそうだ。従業員の制服らしきオレンジ色のポロシャツを着ている。
「……どうやら我々に気がついたらしい」
 アルベルトは眼鏡の位置を直すと、銀行員のようなにこやかな笑み(輝いわく『営業スマイル』)を浮かべて、自分から少女に近づいて行った。
「なにか私たちにご用でも?」
 このとき少女の両脇を固めるように、左右に颯爽と一人ずつ青年が立った。揃ってオレンジのポロシャツ姿だ。うち一人、左側に立ったほうは、どことなく少女と顔立ちが似ている。
 けれどもその勢いのよさとはうらはらに、右側の青年はおずおずと口を開いたのだ。
「あ、いえ……別に用というわけでは……」
 ブロンドの青年である。華奢で、深い海のような青い眼をしている。
 ところがこのとき、ぐいと彼を押しのけると、もう一人の青年、要するにバル・バラが高笑いしたのである。
「A.R.O.A.だな! 私が、マントゥール教団テューダー派のバル・バラである!」
「やはりテューダー派の方でしたか。よくよくご縁がありますね、あなたたちとは」
「フハハハ、そのようだな。今日はタダでは帰さんぞ! とりあえず3ゲームくらいしていくがいい!」
 最初は、そうだそうだ、と言わんばかりだったバルの妹つまりプリム・ローズであったが、バルの発言後半からは「ハァ!?」という表情になっている。
 だがそんな妹の様子などつゆ知らず、バルは腕組みして続けるのである。
「3ゲームすると次回の1ゲーム無料券を進呈するからな! あと、ランチのお勧めは……ぐべっ!」
 バルは腹部を押さえてうずくまった。「もてなしてどうすんの!」と一喝してプリムが彼に膝蹴りを入れたからだ。
「あいつらは敵よ敵!」
 悶絶する兄、彼を慌てて介抱するサンチェスをよそに、プリムは指をアルベルトに突きつけた。
「あんたの顔は知ってるんだからねっ! また邪魔しに来たんでしょっ!」
「それは心外ですね。邪魔しになんて来ていませんよ」
 アルベルトは笑みを崩さない。
「この人たちバスジャックのときの……?」
 輝が顔を見せた。さらには、
「へぇ、彼らが噂の……ボウリング場経営とは妙に健康的だね」
「とすると、もしかしてあの子が『プリム・ローズ』? 思ってたよりずっと可愛いじゃない?」
 大樹と聖もやってくる。
「可愛い言うな!」
 ガー! 怒れる小動物みたいに歯をむき出しにしてプリムは言うのだった。
「こうなったら叩きつぶしてやるから!」
 このとき、
「まあ、待つがよいぞ、お嬢さん」
 すっと音もなく朽葉がプリムの前に立ち、片手を上げた。
「こんなところでチャンバラするのは他の客にも迷惑というもの。どうじゃな、ボウリングで対決するというのは?」
 しめた! というようにプリムが目を光らせたのをかのんは見逃さなかった。よほど自信があるに違いない。
「望むところよ! うちが勝ったらもうA.R.O.A.はここの経営に口出しをないこと! そのかわり、うちが負けたら経営から手を引いてあげる! いい!?」
 もう半分以上勝った気でいるようなプリムの笑みであった。

 確かにプリムの自信は、根拠のないものではなさそうだ。彼女は初手を見事にストライクで飾ると、
「次は?」
 余裕の笑みで聖に場所を空けた。テューダー側はバルもサンチェスも、そしてオレンジ色のポロシャツに黒覆面という戦闘員三名も、「わー」とか言って万歳している。
「結構やるなー」
 聖は両脚を揃えてレーンを見据え、右手にずしりと球を構え左手を添えた。
 深呼吸する。この程よい緊張感がたまらない。
 床を蹴り助走を付け、四歩目ちょうどのところで、投げ込むと言うより置くような気持ちで聖はボールを投じた。
 加速しながら一度左に傾いたボールだったが、途上で大胆なカーブがかかり、ほぼ中央から8本のピンをごとりごとりと倒したのである。
「……あー、スプリットだ」
 残念ながらピン2本は、歯抜けのような状態で離れて立っていた。ここから危うげなく1本だけ倒して、聖のスコアは9。
 続いて、真剣な表情でサンチェスが9の状態からスペアを獲得した。
 大樹はゲーム開始からずっとテューダー側に近い席に陣取り、黙って彼らの会話に耳を傾けていた。そうして少しずつ、三幹部の力関係を理解する。
 代表者なのはバルらしいが、彼はプリムに頭が上がらないらしい。サンチェスはバルの副官のようだが、大将がアレなのでやはりプリムの言いなりのようだ。
 ――色々と関係が見えて面白いね。
 ふっと笑んだことが好結果につながったのか、大樹が投じたボールはぶれずにストライクを獲得した。
「やるじゃない」
 と声を掛けてきた聖に顔を寄せ、大樹は得てきた情報を耳打ちする。聖は静かに微笑した。
 テューダー側の三番手は、バルではなく戦闘員(便宜上Aとする)だった。スコアは8。
 プリム、サンチェス、戦闘員たち……そしてバル、全員おそろいのポロシャツなのが珍妙だが、見た目は実にわかりやすい上下関係がある。
 そうすると――ふと気になってかのんは訊いてみた。
「お三方の中では階級の順番とかあるのでしょうか?」
 すると、「うむッ!」とバルが立ち上がった。
「私が代表である! 妹がそれに次ぐ地位、サンチェスは私の補佐だ」
 プリムはカップのドリンクをついーっと飲んだ。
「まあ、そういうことにしとく。あと、『妹』って呼ばないでよね。公式には『同志プリム』だから」
 怒ったりしないのは、ここまでいい調子でゲームを進めているからだろうか。
 だがまもなくしてプリムの眉間にしわがよりはじめた。
「あっ、ストライクです」
 かのんが嬉しげな声を上げたのだ。ボールが当たって9本までは簡単に倒れたものの、1本、しばらくぐずぐずと回転していたものが観念したように横倒しになったのだ。
 戦闘員Bはまた8。
 続けて、
「ボウリングなど何十年ぶりじゃ」
 飴細工を手がけたときと同じようなことを口にしつつも、朽葉は飄然とボールを投じ、文句の付けようのないストライクを飾った。プリムは思わず立ち上がっている。
「全然ブランク感じないんだけど!」
「さあのう」
 ほっほほと煙に巻くように朽葉は笑う。
「体が覚えておったようじゃ」
 食えないジジイ――とでも言うような顔をしてプリムはどかっと座った。
 戦闘員Cは、1投目は1本に終わったものの、2投目で残り全部を倒すスペアを獲得して面目を保った。
「今日の調子はそれなりかなあ……」
 輝がボールを手にしたとき、一瞬バル・バラと視線が合った。
 そういえば『バル・バラ』という名前は何かに似ているような気がする。『バラバラ』という素朴な言い間違いではなく、もっとずっと素敵で印象的なものに……?
 ――いけない、雑念が。
 気がついたときには輝の手からボールは離れていた。ごろごろと転がったボールは、ヘッドピンを外して奥のピンだけ3本倒すにとどまった。しまった、と思って投じた2投目も3。あまりいい成績ではない。
「気にしないでいい」
 アルベルトは輝に素直な笑みを見せて肩を叩いた。
「まだ始まったばかりだ」
 アルベルトの言葉が終わるより先に、バルがすっくと立ち上がっている。
「さて……いよいよ私の番というわけか」
 バルは自分から希望してチームのトリ(ラスト投者)になったという。これまで、彼はプリムのように一喜一憂せず、胸を反らせ気味に腕組みして、静かに試合を眺めていた。
 バルは足元からボールを取り上げた。
「マイボール!?」
 かのんは気がついた。バルが手にした黒いボールには、真っ赤な薔薇の模様がプリントされている。
「やるじゃない」
 聖も固唾を呑んでこれを見守っていた。
「見るがいい。これが私の」
 カッ、とバルの目が光った。ダンサーのような軽やかなステップで一気にアプローチし、そして、
「これが私の……人生初ボウリングだーーッ!」
 まさしく稲妻! 弾丸のごとく投じられたボールは怒濤の勢いで側溝に叩き込まれていた!

《業務連絡》
 ところでボウリングで側溝に落ちることをよく『ガーター』って言ってしまいますが、正式には『ガター(Gutter)』らしいですね。
 作者も『ゲームマスターより』欄で間違っていました。謹んでお詫び申し上げます。
《業務連絡終わり》

 かくして1投目は『G』と記録されたわけだ。あっけにとられる一同を尻目に、バルは2投目も豪快にガターボール! スコアは見事に0となった。
「ちょっと同志バル! ボウリング経験なしってどういうこと!?」
「言ってなかったか?」
 バルは笑っているが、
「聞いてなーい!」
 プリムは鬼気迫る表情で彼の襟首をつかみ前後に烈しく揺すっていた。
「……やるじゃない」
 聖も、別の意味で固唾を呑んでこれを見守っていた。
「次は私ですか」
 アルベルトは普段通り薄笑みを浮かべているが、その実、バラ兄妹の愉快なやりとりで実にリラックスしていた。
 その1投目は、見事なストライクに終わっている。

 残すところ3フレームの時点でほぼ勝敗は決していた。
 総合得点ではまず間違いなくA.R.O.A.チームの勝ちであろう。トップのアルベルト、コンスタントにいい得点を出す大樹、朽葉、どんどん調子を上げる輝、今日はストライク連発などで絶好調のかのん、安定して外さない聖と、全員平均で150を越えそうな勢いなのである。
 一方でテューダー側はガタガタだ。
 戦闘員たちはそこそこ頑張っている。サンチェスもかなりのハイペースで、スペアとストライクを連発していた。その一方でバルは以後も、壊滅的なスコアであることに変わりがなかった。多分、30点を下回るだろう。なにせ3本やっと倒して、「見たか!」と大はしゃぎしているのである……。
 敵チームで群を抜くのは、やはりなんといってもプリムだろう。これまで7投してすべてストライク、パーフェクトゲームのペースなのである。アルベルトもかなりの腕前でこれに追随しているが、3フレームはスペアに終わったためこれに劣った。
「うーむ、終わってみて『実は個人戦でした』とか言われたらプリムの優勝になってしまうのう。団体戦のはずじゃが……」
 そこで朽葉は一計を案じた。かのんに言う。
「突然じゃが、トランスせぬか?」
「え? なぜです?」
 と言うかのんの頬は上気していた。調子がいいのだ。このまま行けば、彼女は自己ベストを上回る140台を狙えそうなのである。
「トランスして、プリムが投げる時にファンファーレを鳴らせばいい嫌がらせになると思うんじゃがの」
 これにはかのんは賛成しなかった。気まずそうに、
「それでは私たちが敵役です……」
「やはりいかんか」
 ああ見えてテューダー側もズルはしていないのだった。それでも朽葉は敵の投球時にそっと、「手の運動でもするかの」などと言っていきなり袖からカードを出したり、コインを出したり消したりしているが、戦闘員程度ならひっかかってもプリムもサンチェスも動じない。集中力があるらしい。
 総合力では勝利確実だが、個人得点ではプリムを止められそうもない――と思われたこのとき、突破口を作ったのは聖だった。
 大樹からの情報を総合すると、プリムはプライドが高すぎ、情緒が安定しないようだ。すなわち、メンタル面に弱点ありと見た。なので聖は、いよいよ第8フレームに入ろうとするプリムの背に向かって言ってみた。
「やっぱり、恋人が2人もいると張り切っちゃうなんて可愛いね」
 この『やっぱり』にはとりわけアクセントを置いている。文字起こしするならきっと特太ゴシック体だろう。
「ちょ……! ちょっと! 何言ってんの! そこ!」
 ものの見事に過剰反応して、髪すらピンピン立ちそうな勢いでプリムが戻ってきた。
「あのね! さっきの話聞いてなかったの!? あの役立たずは兄! 認めたくないけど血がつながってる兄なわけ!」
 それから、と、プリムはサンチェスを指さしさらに声を上げる。
「このサンチェスは単なる仕事上の関係者! 無関係なんだから! でしょ!?」
 鋭い一瞥を向けるもサンチェスのほうは、
「僕は……別に……」
 なぜか視線を逸らすのだった。
 あらあ――聖はなんだか愉快になってきた。これは、思わぬ埋蔵金を掘り当てたかも?
「違うの? え? でもそっちの彼は否定しきってないみたいだけど? 不健康な関係なの?」
「ふ、ふ、不適切だなんてそんな!」
 サンチェスの声が裏返った。
「じゃあそっちはどうなの!? あんたと、そこの彼!」
 プリムは攻撃に転じるつもりらしい。聖と大樹を交互に指す。
 ところが聖はまるで動じなかった。聖とプリムとでは越えてきた人生経験の量が違う。人間力の差が圧倒的なのだ。
 聖は自分が一児の母で、婚約者はすでに亡いことまでさらりと明かし、
「大樹は息子が懐いてる恩人の契約制霊だけど? 恋人? さぁ、どう見える?」
 右手を腰に当ててくすっと微笑んだ。一方で大樹も落ち着いたものだ。
「そういうことだよ。怪しい? 僕が口説きたいと久々に思う人はこのくらいで動じてくれないんでね」
 こう告げて大樹は、ブルーガーネットのような瞳を細めたのである。大人の余裕だ。完全にプリムを子ども扱いしていた。
 うっ、とプリムが怯んだところで、かのんは素直に思ったことを口にしてみた。
「バルさんとプリムさんはご兄姉なのですよね? 名字が違うのはなぜですか?」
 呼ばれたと知ってバルが即座に答えた。
「ああ、それか。妹、いや、『同志プリム』は芸名を名乗って……」
 とまで言いかけたところで、
「やめーい!」
 プリムが猿のごとく敏捷に、バルに飛びついて口を塞ごうとした。
 兄妹がもみ合っているこのタイミングで、輝はさきほど、『バル・バラ』の名に何が似ているのか思い当たった。
「ということは、バル・バラさんの名前って本名なの?」
「そうですが……」
 兄妹のどっちに加勢すべきか決めかねて、ただオロオロしているサンチェスが答えた。
「彼の名前から私、子どもの頃に読んだ漫画を思い出したのよね……。男装の麗人が主人公の素敵な漫画だったの。だから偽名なんじゃないかなって思ったんだけど本名なのね? じゃあ、上の名前が『ベル』じゃなくて良かったわね。ベルだったらそれこそまさしく……」
 くすっと笑った輝は、さっきまでバル相手に暴れていたプリムが、青白い顔をして立ち尽くしているのを見て目を丸くした。
「あら?」
「あー」
 きまり悪そうにバルは頭をかいている。
「……まあ、そっとしておいてやってくれ」
「まさか?」
 輝の問いにプリム(本名ベル)は答えない。ただ、涙ぐんだ目をしてボールを手にし、レーンにごろんと放っただけであった。
 ガター。2投目も同じ。
 さすがに気の毒になって、
「でも、いい名前だと思うよ」
 恐る恐る輝は言ったものの、プリムはうなだれたまま「もういいから」というように片手を上げるにとどまった。
 ――まさしくストライクな話題だったらしい。
 プリムには悪いが、勝負なのだから仕方ないとアルベルトは思う。それにしても、一発で爆破スイッチを見つけ出した輝には恐れ入った。
 自他ともに認める『腹黒眼鏡』としては、勝利をより盤石なものにしておきたい。
 そこでアルベルトは言うのである。次にサンチェスが投げる番を狙って、
「そちらの青年、今日はきのこ怪人の格好はしてないのですか?」
 と。
 ヒットしたようだ。
 びくっ、とサンチェスは凍り付いていた。
「あの格好でショーをやると子どもの客が増えるのではありませんかね?」
「あ、あれは……ですね」
 いい反応だ――さらにアルベルトは追求する。きのこ怪人はジャブにすぎない。必殺のアッパーカットはこっちだ!
「そういえば、先日とてもお綺麗なかたに話しかけられたのですが、どことなく君に似ていたような気がするのですよねえ……?」
 あの暑い日、アルベルトに逆ナンしてきた『美女』がサンチェスであることを彼はとうに見抜いていた。 
「ひ、人違いですっ!」
「おや? 私はまだ、先日『お綺麗なかたに話しかけられた』としか話していないのですが?」
 などと言いながらアルベルトは顎に手をやる。
「まあ、趣味は人それぞれ、非難はいたしますまい」
「女装趣味はありません! あれはプリム様に命じられて……!」
 語るに落ちるとはまさにこのこと、アルベルトは黒い笑みと共に告げた。
「『女装』と言った覚えもありませんがねえ?」
「うわー」
 サンチェスも、沈没した。
 かくしてA.R.O.A.チームは完勝を遂げたのだった。

「これで和やかに帰ることができそうだね」
 大樹は明るく告げ、和気あいあいの自チームと、死屍累々のテューダーチーム双方に告げた。
「3ゲームやると次回の無料券がもらえるんだってね。どうする? もう決着は付いたけどあと2戦する?」
「やろうやろう。経営元が変わって『次回無料券』が使えるか謎だけど」
 聖が真っ先に応じた。
「ええ、是非。今日は調子がいいんです。念願の140も達成できましたし……」
「我も異存はないぞ」
 かのんと朽葉も二つ返事だ。
 ところが、
「待ちなさい!」
 声を上げたのはプリムだった。吹っ切れたのか、もう闘志あふれる顔に戻っている。
「負けは負けで認めるけど、このまま退散するのは腹に据えかねるから、次は4対4で仕切り直しよ!」
「4対4、ですか?」
 きょとんとするかのんに、プリムはうなずいて、
「こっちは戦闘員と同志バル抜き! そのかわりそっちから二人メンバーをよこしなさい! チーム差がありすぎるから!」
「おいおい、私の実力はこれから……」
 抗議するバルだが、プリムには完全に無視されていた。
 いいでしょう、とうなずいたのはアルベルトだ。
「では、私と輝がテューダー側に入りましょう」
 この瞬間プリムとサンチェスが見せた「え!?」という表情を、きっとアルベルトは忘れることはないだろう。

 再戦の結果は……秘密である。



依頼結果:成功
MVP
名前:月野 輝
呼び名:輝
  名前:アルベルト
呼び名:アル

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 桂木京介
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 3 ~ 3
報酬 少し
リリース日 09月10日
出発日 09月16日 00:00
予定納品日 09月26日

参加者

会議室

  • [13]かのん

    2016/09/15-22:29 

  • [12]かのん

    2016/09/15-22:29 

    こちらもプラン提出済みです
    ……どんな勝負になるのでしょうね、これ
    (ちょっと想像がつかない模様)

  • [11]月野 輝

    2016/09/15-21:51 

  • [10]月野 輝

    2016/09/15-21:51 

    かのんさん、方針の書き込みありがとう。
    よろしくお願いします。

    とりあえず文字数は何とか収まったのでプランを無事提出しました。
    何かあれば対応は可能だと思うけど、背後が寝落ちちゃう可能性も高いので
    ひとまずご挨拶を……

  • [9]かのん

    2016/09/15-07:11 

    おはようございます
    それでは、私達はAROAからの依頼でボーリング場に来たことは、私か朽葉おじ様のどちらかで担当しますね

    字数に余裕があるので、手持ちのボン・ヴォヤージュの効果(敵の大失敗発生率と味方の大成功発生率の補正)で、こちらのストライク増えたら良いななんて期待を書き込んでみたりしてます

  • [8]月野 輝

    2016/09/15-01:09 

    それでは方針はAROAからの依頼と言う事で。
    プランへの書き込みの方は、お言葉に甘えまして、朽葉翁、お願い致します。

    御神さんも変則への対応の許可有難うございます。
    ええ、ご期待に応えられるように頑張ります(笑顔)

    ざっと仮プランを書いてみて、何かあればお願いするように致します。

  • [6]御神 聖

    2016/09/14-21:16 

    遅くなってごめんっ。
    御神 聖と桂木 大樹。
    よろしくね。

    情操教育に良くなさそうなので、息子はお留守番。

    >スコア
    この前やった時はあたしが135、大樹が180位だったかなぁ。

    >変則に応じる応じない
    あたしは受けてもいいと思ってるよ。
    受けないと勝ち逃げとかうるさそうだし。
    その時アルベルトさんと輝さんがあちらにつくのは大丈夫だよ。
    とてもイイ笑顔なんで期待してる(サムズアップ)

    >戦闘員以外の皆
    あたしも初対面だなぁ。
    あ、でも、友達が関わった依頼でバル・バラさんとサンチェスさんの花粉症凄かったみたい。
    関わってないから別方向でいこうかなとは思ってるけど。
    妹ちゃんを弄りにいこうかな。

    あたしの方も余力あると思うから何かあったら言ってね。

  • [5]かのん

    2016/09/14-19:47 

    最近は日が短くなってきたのう
    こちらもその後、対策を考えたので書き残しておくよ

    スコア:長々書くより数字で書いた方が楽だと気付いたようじゃ
    かのんが120、我が150位にしておけば良いかなーなんて幻聴が聞こえておる

    こちらは順番を待っている間、バルに話しかけてみようかと思うておるよ
    中身は幹部クラスの3人の階級順や各自の関係などかのう
    兄妹だということを、ぽろっとこぼしたりせんかなと期待しているのじゃが

    ボウリングにいる状況については、依頼があったが無難かの承知した
    アルベルト達は、4対4の組み分けやら、サンチェスつつくのに文字数食うのではないか?
    我等はまだ余裕がある故、【AROAから「怪しいボウリング場があるから調査してきてくれ」と依頼された】の書き込みはこちらで請け負うことも可能じゃが

  • [4]月野 輝

    2016/09/14-18:55 

    さて、御神さんの意見がまだですが、プラン記入期限が明日までですし、方針だけでも決めておかないとマズイですね。

    それでは無難な所で、AROAから「怪しいボウリング場があるから調査してきてくれ」と依頼された事にしましょうか。
    これなら誰の場合でも、遊びに来たら偶然出くわしたと言うより出かけやすいと思いますし。

    4対4に関しては有難うございます。
    それでは私達が行かせて頂きますね。

    サンチェス君に関しては、以前きのこ怪人をやってたり女装して私をナンパしてきた事がありますので、
    その件で弄って……ああ、いや、突っ込んでみようかと思っていました。

    輝:
    「今、明らかに『弄って』って言いかけたわよね?
    私はちょっと昔読んだ男装の麗人が主人公の漫画の話題でも出してみようかなって思ってるわ。
    バル・バラさん狙いのつもりなんだけど…もしかしたら別の人にヒットするかも、よね?」

    腕前に関しては、私は200前後、輝は調子が良ければ150くらい、の腕前と言う事になると思います。

  • [3]かのん

    2016/09/14-07:21 

    ふむ、勝負が決まったあとの4対4はあちらさんが挑むのなら、受けて良いかと思うがの
    先の勝負結果に影響するものでもなさそうじゃし
    プリム+サンチェス組に誰が行くかは、希望者優先が良いんじゃないかの
    聖と大樹の考え待ちじゃが、我等は4対4の時にアルベルトと輝があちらにつくのは構わんよ


    さて、ボーリングの腕前は具体的にスコア書いた方が良いんじゃろうか?
    我等2人は普通~普通より少し上手いで、
    戦闘員<かのん<朽葉<サンチェス
    くらいな感じがわかるようにしておけば良いかと思うておるが

    ちなみに、プリムとサンチェスの崩し方は現在考え中じゃが、テューダー派とは今まで面識がない故、プリムの方はまだ何かしらやりようはありそうじゃが、サンチェスの対応はどうしたもんかのうという所で止まっておる

  • [2]月野 輝

    2016/09/13-23:08 

    まったく…またこの方達ですか。どうもご縁があるようですねえ。

    ああ、失礼。
    私はアルベルト・フォン・シラー、マキナでシンクロサモナーです。
    神人は月野輝。よろしくお願い致します。

    そうですね、私達は「遊びに来たら連中と遭遇した」と言うのを想定していましたが、
    彼らの事を知って乗り込んだ、でも全く構いません。皆様に合わせます。

    それから、4対4を挑まれた際は如何しましょうか。
    私は受けてもいいかと思っているのですが。
    その場合、あちらのチームには私達を派遣して頂けると幸いです(にっこり)

  • [1]かのん

    2016/09/13-07:27 

    神人かのんと精霊の朽葉と申す、よろしゅうに
    ……それにしても、マントゥール教団にも色々な輩がおるんじゃの

    ひとまず、我等がボーリング場におる理由に拘りはないのでの、他の皆の希望に合わせればと思うておるよ


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