プロローグ
露店がひしめき、人々は楽しそうに声を上げ、つかの間現実を忘れる――。
皆がそうであるように、ウィンクルムである貴女たちも祭りを楽しんでいました。
「あれ、あそこ、人が他より多くないか?」
精霊が指差した方を貴女が見ると、老若男女問わずたくさんの人々が列をなしていました。
気になって様子を見に行くと、列の先頭では人々が店の人にお金を渡して、ふんわりと触り心地の良さそうな綿毛を受け取っています。
何かわからず、かと言って忙しそうな店員に聞くことも出来ないので、列の後ろに並んで前にいる人に聞いてみることにしました。
「ああ、あれは『願い綿』だよ」
「願い綿?」
「そう、ほら、青色と桃色の綿があるだろう? あれはね、青には自分自身の願い、桃色には他者に対する願いを叶える力があるとされる綿毛なのさ。あれを買って、この先にある広場で願いを込めて飛ばすんだ」
「面白いですね」
「ただ、あんな軽くて安物でも、願いは真剣なものでなくちゃいけないんだ。願い綿は願いでもあり、誓いを意味するのさ。自分や、他者に対する決意、願いを叶えるために努力をしますっていうね。そんなに真剣なものだから有言実行、きちんと口に出すんだよ。誰かが聞いてても、一人でもいい。とにかく一度、願いを口にしてから吹いて飛ばす。それはやがてどこかの地に着き、埋もれて中の種が花を咲かせる。その花が、飛ばした奴の願いを叶える手伝いをしてくれるっていうお伽話さ」
それを聞いた貴女たちは顔を見合わせました。
「……買って、みようか?」
そして、貴女たちは店員から一つの願い綿を買いました。
解説
露店で願い綿を購入した貴女たち。
これは購入後、広場についてからのお話です。
このエピソードでは選択する項目が二つあります。
一つは何色の願い綿か。
青色は自分の願い。
例えば、苦手なものを克服したい、これからのパートナーやご自身のために、貴女自身が乗り越えたいトラウマなどについてです。
桃色は他者への願い。
ここでの他者は精霊への願いに限らせて頂きます。
いつもクールな彼の本心が知りたい、絆を強くするために甘い時間を過ごしたいなどです。
もう一つは天候です。
一つは晴天。
綺麗な夜空に星が瞬き、願い綿はどこまでも飛んで行けそうです。
ロマンチックな雰囲気を演出します。
もう一つは小雨。
ぽつりぽつりと雨が降ります。
がっかりするのか、恵みの雨と思うのか。
雨宿りの木の下で身を寄せ合っていれば、二人の目の前で願い綿が濡れて地面に着き、これからどんな花が育っていくのか想像して楽しく話せるかもしれません。
以上の二つの項目の選択肢をそれぞれ選んで頂き、
「どんな願いなのか」
「天候に合わせて、どのように願いを込めて飛ばすのか」
「その願いがすぐ叶いそうなのか、道のりが長いのか」
おおまかなことを書いてください。
また、願い事は口にすればいいだけで、精霊に隠れてこっそり言って飛ばすのも有りです。
そして、願い綿は神人さんのために使います。
皆様がどのような願いを願い綿に託すのか、楽しみにしております。
願い綿の代金として300ジェール頂きます。
ゲームマスターより
たんぽぽの綿毛が飛ぶのが好きで、思いつきました。
こういうジンクス、私はとても好きです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リヴィエラ(ロジェ)
桃色の願い綿・天候は晴れ リヴィエラ: この前、フィヨルネイジャでとても悲しい夢を見ました(EP113) ロジェが罪人として、処刑されてしまう夢… ロジェはご自分に罪があると思っているのですか? 生きる事を諦めてしまっているのですか? そうだとしたら、私はこの桃色の願い綿に願いを託します。 『ロジェが罪に怯えず、生きる事に怯えず幸せに生きていけますように』 どうか忘れないでください。 私が貴方と共に生きていきたい事を。 私はいつでも貴方と共に在る事を… (頭を撫でられ) はわっ!? …ええと、ええと…(もじもじ) ロジェ、貴方が好き、です…夢とはいえ、もういなくなったりしないでください(涙目で上目遣い) |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
桃色 晴天 私の願い事は…羽純くんに頼られて、何でも言い合えるように、しっかりした大人の女性になりたいのです 今はまだ…彼に頼ってばかりの私ですけど…私だって羽純くんを支えたいし頼って欲しい だから、この夜空に誓って、願い綿を飛ばします 「羽純くんを支えられる素敵な大人の女性になれますように」 道のりは遠いかもしれないけど、頑張る! ぐっと拳を握って言えば、羽純くんが笑って… も、もう!そういう風に羽純くんが私を子供扱いして甘やかすから… 絶対に大人の女性になって、いつか羽純くんをあっと言わせて…思う存分、甘やかせてみせるんだからねっ 覚悟してよね! うん 羽純くんがずっと傍で見ていてくれるなら、私、絶対に強くなれる |
真衣(ベルンハルト)
桃色! ハルトがもっと私をたよってくれますように! ハルトの隣でしっかり声に出して、晴れたお空にとばすわ。 うんとね。 私はまだ小さいから、ハルトが戦うお仕事をえらばないのしょうがないかなって思うの。 だから、私が大人になって戦うお仕事をするようになったら。 ハルトが私といっしょでよかったって、言えるように今からがんばるっていみなのよ?(にこっと振り仰ぐ 私にできることってまだ少ないけど。 何にもできないわけじゃないわ。 少しずつでもね。ハルトといっしょにできることをしたいの。 ……いい?(伺うように上目遣い ハルト?(きょとんとする 情けなくなんてないわ。 ハルトはいつも優しくてかっこいいんだから! うん!(笑顔で返事 |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
青色晴天 雰囲気出るかなとオーケストレイション 自分への願い… …ねえガルヴァンさん 私、初恋の時に散々な目に遭って以来 ずっと自分に自信が持てないでいるって知ってるよね? うん… 恋に臆病になっちゃったというか こんな私に好きになられたら困るんじゃないかとか 色々余計な事を考えちゃって… う…そ、れは… いるともいないとも言えず ノ…ノーコメントで… あ、うん …このままじゃダメだって事は私がよく知ってるから 真っ直ぐ空を見 …自分にもっと自信が持てますように 吹いて 綿毛の行方を見守る 夜空に綿毛って不思議な感じ…綺麗 それはこれから頑張らないと …よく撫でられるけど私、子供っぽく見られてるのかな… …頑張る 恋に前向きになれるように |
周(ディム=シェイド)
青/晴天 お願い事、なにかありますか? え? 私…ですか? そう、ですねぇ…(思案 …今の私にはこれくらいしか願えませんが 『いつか姉さんを見つけられますように』 精霊の隣でそう呟いて、綿を飛ばす 夜空に舞う綿が幻想的で思わず見とれた へ? …あ、 そういえば、まだ言ってませんでしたね 私、A.R.O.A.職員の姉がいるんです でも、突然いなくなってしまって。どこにいるか分からない状態で 今はまだ探しに行けませんがいつかは、と思いまして …ディムは、頭撫でるの好きなんですか…? この間も撫でてましたから(EP1) なら、私も撫でて良いということになりますね? ふふっ、なんですかそれ わわっ髪ぐしゃぐしゃになりますー! |
桃色の願い綿を大切そうに手に包んだリヴィエラは、多くの人々が願い綿を飛ばしている広場に着いた。
一歩後ろに下がって歩いていたロジェがリヴィエラの華奢な背中を見つめていると、その体がぴたりと止まって、振り向いた。
「ここで、飛ばしましょうか」
「ああ、そうだな。ちょうど夜風も吹き始めた頃だ、止まないうちに遠くに飛ばそう」
リヴィエラが目を瞑り、桃色の願い綿を両手のひらに包んで願い事を言おうとして……止めた。
「どうしたんだ? 飛ばさないのか?」
ロジェが心配そうにリヴィエラの顔を見ると、彼女は首を振った。
「この前、フィヨルネイジャでとても悲しい夢を見ました……。ロジェが罪人として、処刑されてしまう夢を……」
「……君には随分心配を掛けてしまったみたいだな。気にしているのか?」
「気にしていないと言えば、嘘になります。ロジェは、ご自分に罪があると思っているのですか? 生きることを諦めてしまったんですか?」
願い綿は夜風でリヴィエラの手のひらをころころと動きまわる。
ロジェがどう答えようか悩んでいる間に、リヴィエラは再び願い綿に向き合った。
「そうだとしたら、私はこの桃色の願い綿に願いを託します。『ロジェが罪に怯えず、生きることに怯えず幸せに生きていけますように』……」
ふっと息を吹きかけると、桃色の願い綿は夜風に乗って空高く舞い上がる。
二人の視界の中で願い綿はどこまでも飛び上がり、やがて他の願い綿と混じって見えなくなるほどに遠くまで流されて見えなくなった。
「まったく、どこまでも優しいんだな、君は」
「優しい、と言うのでしょうか……」
「少なくとも俺はそう思うけどな。……確かに、犯した罪の重さは感じているさ。けど、それでさえも君を守る為だったと思えば後悔などしていない。マントゥールになど屈しない。生きる事を諦めたりしない。あれは、ただの白昼夢だ。俺の意志は今、ここにある」
ロジェのしっかりとした想いを初めて聞いて、リヴィエラは胸が暖かくなった。
ロジェの服の裾を掴み、乞うるように言う。
「どうか忘れないで下さい。私が貴方と共に生きていたいことを。私はいつでも貴方と共にあることを……」
リヴィエラの揺れる瞳に向かって、ロジェは微笑む。
「あの時『ガウェインの所に行け』と言っただろう? でも俺は、君のことをあいつに渡す心算はさらさらないんだからな」
そう言って、リヴィエラの頭を撫でた。
途端にリヴィエラの顔は赤くなってしまう。
「はわっ!? ええと……ええと……」
「……でもありがとう。俺のために願ってくれて」
二人の間に漂う甘い空気。
風に流された願い綿が二人の周りを囲み、より雰囲気をロマンチックに演出している。
リヴィエラは思い切って告白した。
「ロジェ、貴方が好き、です……夢とはいえ、もういなくなったりしないでください」
潤む目に見上げられ、ロジェはほんのり顔を赤くした。
それを悟られないためにリヴィエラの頭を撫で続ける。
「ああ、もうどこへも行かないよ。君を愛してる」
「……! 嬉しい、です! ロジェ……私、私っ……!!」
嬉しさのあまり言葉に詰まるリヴィエラに向かってかがんだロジェは、その旋毛に軽くキスをした。
願いを共有することで、二人の距離は確かに縮まった。
●
晴れ渡った夜空に、半分の月がさやかに光る。
アラノアは精霊のガルヴァン・ヴァーンガルドと共に、青色の願い綿を持って広場にやってきた。
広場は他にも願い綿を買った人たちで賑わっており、二人は隅の静かな場所に移動した。
オーバーエフェクトのオーケストレイションでメサイアが奏でられ、時間がより緩やかに流れていく。
「自分への願い……ねえガルヴァンさん」
「何だ」
「私、初恋の時に散々な目に遭って以来、ずっと自分に自信が持てないでいるって知ってるよね?」
「あの時の記憶か……」
アラノアは手の中で転がる願い綿を見つめている。
ガルヴァンはそんなアラノアの横顔をそっと眺めた。
「うん……恋に臆病になっちゃったというか。こんな私に好きになられたら困るんじゃないかとか、色々余計な事を考えちゃって……」
「恋に破れ恋に奥手になっている事を今気にしているという事は……お前は今、好意を寄せている人物がいるのか……?」
自らのアラノアに対する恋心を持て余していたガルヴァンは、アラノアの恋の気配を敏感に察知した。
しかし、アラノアは俯いてその心を隠してしまった。
「う……そ、れは……いるともいないとも言えず。ノ……ノーコメントで……」
「……そうか」
煮え切らない返事が少し不満でもあったが、ガルヴァンは先を促した。
「では、お前は何を願うんだ?」
「あ、うん。このままじゃ駄目だってことは、私がよく知ってるから……」
顔を上げたアラノアは、既に他の人々の願い綿が舞う夜空を見る。
「……自分にもっと自信が持てますように」
ふっと息を吹きかけた。
あまりにも軽い願い綿は、アラノアの口笛のように柔らかな息でも高くに飛んでいった。
「夜空に綿毛って不思議な感じ……綺麗」
「そうだな……」
二人は青色の願い綿を目で追いかけた。
無数の綿毛が夜空に踊るように飛んでいる光景は神秘的である。
やがてアラノアの飛ばした願い綿が見えなくなると、ガルヴァンは言った。
「お前の願いは叶えられそうか?」
「それはこれから頑張らないと」
「……あまり無理はするなよ」
ガルヴァンに頭を撫でられて、アラノアは自分が子供のように思われているんじゃないかと若干不満に感じた。
しかしすぐに
(……頑張る。恋に前向きになれるように)
と固く決心をした。
きっと願いはゆっくりと、しかし確実に歩みを進めて、いつか叶う時が来るだろう。
そういう確信をアラノアは得ることが出来た。
ガルヴァンはガルヴァンでこういう時に気の利いたことを言えない自分を歯がゆく思っていた。
(……俺は女性の扱いが不得手だ。昔しつこく迫られ仕方なく付き合った女性が何人かいたが何ら興味が湧かず、女性が喜ぶような事を学びも実行もせず過ごしてきた。それが今仇になっている。親密になるにはどう接すればいいのか分からない)
だからと言って、このままアラノアが他の男に奪われるのは絶対に我慢出来ない。
きっとアラノアにとって大切な存在になってみせると決意して、アラノアの頭を撫で続けていた。
アラノアとガルヴァンの間に、お互いを想いが溢れて、端から見るともどかしいようにも思える空気が流れている。
●
「ハルト見て! 綺麗な桃色ね!」
「ああ、可愛らしい見た目もしているな」
精霊であるベルンハルトの前を駆けながら、真衣は桃色の願い綿を摘んで空に掲げる。
無邪気に微笑む真衣を見ながらベルンハルトは足元のおぼつかない真衣を心配して抱き上げた。
「ハルト?」
「危なっかしいから、広場に着くまではこれで移動だ」
「もう! 大丈夫ったら!」
頬を膨らましている真衣を宥めるように笑いかけながら、ベルンハルトは歩いた。
道中、風にのって広場からやってきた願い綿のいくつかとすれ違う。
広場に着くと、蛍のようにぼんやり光って見える願い綿が無数に風に流されていた。
幻想的な光景に真衣は喜ぶ。
「綺麗……!!」
「そうだな。よし、この辺で飛ばそう」
ベルンハルトがそっと真衣を下ろすと、真衣は一度深呼吸をした。
そして、願い綿に笑いかける。
ベルンハルトはその様子を微笑ましく見つめていた。
(何を願うんだろうな)
「ハルトがもっと私を頼ってくれますように!!」
ふっと強く息を吹きかけると、桃色の願い綿はあっという間に飛び去った。
真衣がどこまでも高く飛ぶ願い綿を見送っている中、ベルンハルトは驚いて目を見張る。
「……俺?」
頷いて、真衣はベルンハルトにだけ聞こえるような声量で語る。
「うんとね。私はまだ小さいから、ハルトが戦うお仕事をえらばないのしょうがないかなって思うの。だから、私が大人になって戦うお仕事をするようになったら。ハルトが私といっしょでよかったって、言えるように今からがんばるっていみなのよ?」
にこりと破顔して、真衣は振り向いた。
「頼る……か」
ベルンハルトは、真衣の予想外の願いに戸惑った。
(真衣なりに考えてのことだろうが……確かに俺達はウィンクルムで、真衣は契約した神人だ。けれど、それ以前に俺には偶に預かる大事な子で。そう考えているのが伝わったのだろうか)
他の同世代の子どもたちより、ずっといろんなことを考えている真衣。
そんな彼女の一言、一つの行動に、ベルンハルトは振り回されていた。
「参ったな」
「ハルト?」
「いや、真衣にそんな事を言わせる自分が情けなくてな」
「情けなくなんてないわ。ハルトはいつも優しくてかっこいいんだから!」
ムキになって否定するところは、歳相応に可愛らしい。
ハルトは真衣の頭を優しく撫でる。
すると、真衣は途端に花のように愛らしい笑顔になった。
「ああ、ありがとう。じゃあ、これから少しずつ頑張ろうか。一緒にな」
「うん!! ずっと一緒よ。約束、破ったら駄目よ!」
「もちろん。約束だ」
願い綿に乗せた祈りによって、二人は互いを思いやる温かい気持ちを再度確認しあうことが出来たのだった。
●
願い綿を飛ばす人々の喧騒を遠くに聞きながら、桜倉歌菜は自らに誓うように言った。
「私の願い事は……羽純くんに頼られて、何でも言い合えるように、しっかりした大人の女性になりたいのです」
隣で聞いていた月城羽純は驚いて歌菜を見るけれど、歌菜が願い綿を飛ばすまでは黙っていようと決め、口を開かなかった。
しかし、その頬は緩んでいる。
「今はまだ……彼に頼ってばかりの私ですけど……私だって羽純くんを支えたいし頼って欲しい」
それは、日頃歌菜が抱いていた切なる願いだった。
自分をいつも暖かく見守ってくれるパートナーに自分が出来ることをしてあげたい。
いつか、彼が心から安心して自分の隣で羽根を休めてくれればと、そう思っていた。
歌菜は桃色の綿毛を置いた手のひらを持ち上げる。
「だから、この夜空に誓います。『羽純くんを支えられる素敵な大人の女性になれますように』……」
息を吹きかけると、願い綿は夜風に弄ばれ、次第に遠くなっていく。
(まったく、敵わないな)
羽純は心の中で苦笑する。
せっかくの歌菜の願い綿を自分のために迷いなく使ってしまえるなんて、歌菜はいつも羽純には予想もつかない行動をする。
「道のりは遠いかもしれないけど、頑張る!」
拳をぎゅっと握って羽純に向き直り、花咲く笑顔で決意する歌菜へ羽純はやっと話しかけた。
「俺は……歌菜は今のままでいいけどな。思った事が直ぐ顔に出る百面相は見てて飽きないし、俺はお前に頼られる事が好きだ。……甘やかしたくなる……」
微笑んだ羽純の顔に一瞬見惚れてしまった歌菜だったが、すぐに頬を膨らまして拗ねてしまう。
「も、もう! そういう風に羽純くんが私を子供扱いして甘やかすから……!!絶対に大人の女性になって、いつか羽純くんをあっと言わせて……思う存分、甘やかせてみせるんだからねっ! 覚悟してよね!」
「覚悟してもいいが…歌菜だって覚悟が居るぞ?」
「え……え?」
「俺を思い切り甘やかすと…そう言ったよな? 例えば……俺が甘えたら……こんな風にお前を俺の腕の中に閉じ込めてしまうかもしれない」
刹那、腕を引かれた歌菜は羽純の胸の中に収まってしまった。
大きな羽純の体に、女性らしく華奢な歌菜の体はすっぽり嵌って、歌菜は頬が熱くなっていく。
「……なんてな」
「きゃっ」
すぐに歌菜を解放した羽純は冗談めかして笑い、歌菜の額を指で軽く弾いた。
「は、羽純くん!!」
「はは、悪かったよ。……こうやって軽口が叩けるほど、俺は今だって十分、お前に支えられてるし……頼ってる歌菜が思うよりずっと……俺は……もうお前なしじゃ歩けないんだと思う」
歌菜は、思いがけない言葉に目を見開いた。
羽純の目は慈しむように優しい。
「責任、ちゃんと取れよ。俺はずっと歌菜の傍に居て、歌菜の事を見てるから」
夜風が二人の間を通り抜ける。
穏やかに微笑む羽純へ歌菜が寄り添い、ついには風すらも二人を邪魔できないほど密着した。
「うん。羽純くんがずっと傍で見ていてくれるなら、私、絶対に強くなれる」
「俺も、歌菜が側にいれば、なんでも出来る気がするよ」
二人でいれば、きっとどこまでもお互いのために強く優しくなれる、歌菜と羽純は心からそう思えた。
ぴったりと寄り添っている歌菜の手を、そっと羽純が握りしめる。
きっとこの手を離さないと、心の中で誓った。
その心を知ってか知らずか、歌菜も手を握り返した。
●
周は、買った青色の願い綿をディム=シェイドに渡した。
「お願い事、なにかありますか?」
しかし、ディムはすぐに願い綿を周の手のひらに返す。
「オレは別に良い、思い付きもしないからな。……オマエは? なんかあるだろ」
「……そう、ですねぇ……」
周は願い綿を見つめながら思案し、やがてゆっくりと頭を上げる。
「……今の私にはこれくらいしか願えませんが、『いつか姉さんを見つけられますように』」
ふっと息を吹きかけられた願い綿は、よく晴れた夜空に旅立った。
数多の願い綿が夜空を舞う光景は、夢のようでもあり、非常に幻想的だった。
周がその行く先を追っていると、ディムが聞く。
「……なあ、アマネ」
「へ?」
「オマエに姉なんていたのか」
「……あ、そういえばまだ言ってませんでしたね。私、A.R.O.A.職員の姉がいるんです。でも、突然いなくなってしまって。どこにいるか分からない状態で。今はまだ探しに行けませんがいつかは、と思いまして」
「……ほう……行方知らず、ねぇ」
初めて聞いた周の家族の存在、そして辛い境遇にディムは表情には出さないけれど周の心を想う。
そして、無意識に周の頭を撫でていた。
「……ディムは、頭を撫でるの好きなんですか……?」
「……は? 頭? 別に。何故だ?」
「この間も撫でてましたから」
「そうだな。オマエの頭、撫でやすいんだよ。見てるとなんか撫でたくなる」
少し嬉しそうな表情のディムを見て、周は手を伸ばしてみる。
「なら、私も撫でて良いということになりますね?」
「ざけんな。相方の頭撫でんのはオレだけで充分事足りてる。オマエはなんも言わず撫でられてろ」
周の手を受け止めて、反対の手でディムは周の頭をわしゃわしゃと撫で続ける。
思わず周は吹き出した。
「ふふっ、なんですかそれ」
「そのまんまの意味だ」
「わわっ、髪ぐしゃぐしゃになりますー!」
広場の片隅に周の笑い声が響く。
少しずつ、心の距離が縮まっていった。
夜は徐々に深まり、願い綿を消すほどに濃い闇色に染まる。
「願い、叶うといいな」
「そうですね。でも、願い綿に何も効果がなくてもいいんです。口にすることで、きっと願いを叶えてみせるって思えましたから」
「……そうか」
夜空に無数の星が瞬く。
それは、いつか必ず願いが叶うと、教えてくれているようにも思えた。
そう思えるから、周は心穏やかに笑うことが出来たのだった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 弓原 響 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月05日 |
出発日 | 09月10日 00:00 |
予定納品日 | 09月20日 |
参加者
会議室
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2016/09/09-23:46
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2016/09/09-23:46
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2016/09/09-12:24
私は周で、こちらの方はディムといいます。皆さんどうぞよろしくお願いしますね。
願ったことが叶うお手伝いをしてくれる綿ですか…素敵なお話ですねっ
お願い事が叶いますように。 -
2016/09/09-00:21
桜倉歌菜と申します。
パートナーは羽純くんです。
皆様、よろしくお願いいたします♪
お願い事、叶うといいですね…! -
2016/09/08-18:30
アラノアとガルヴァンさんです。
よろしくお願いします。
願い事…ですか(うーんと考える)
言ってから飛ばすとその願いが叶うように頑張れそうな気がしますね。 -
2016/09/08-12:19
こんにちは、リヴィエラと申します。
皆さま宜しくお願いしますね。
お願い事、沢山沢山あります!
どうか叶いますように、願いを込めて飛ばします! -
2016/09/08-10:30
真衣です! よろしくお願いします。
お願いをいってからとばすのね。
うん。きまったわ。