【祭祀】星を掬う(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 祭りの喧騒から少しずつ離れていく。
 そろそろ露店も終わりかけた道の端に、人気のない、寂れた露店がひとつ。
 薄ぼんやりと光る灯りに誘われるように足を向けた。

「珍しいね、こんなところまで」

 店番をしていたのは陽気な笑顔を向ける老人。
 彼が守っているのは透明な水槽だ。
 興味本位から、中を覗いてみる。
 きらきらと、光る何かが水槽の下を流れていく様が見て取れた。

「星だよ」

 訝ったことに気付いたのか、老人は笑ってそう言った。

「星?」
「みんなの願い事の欠片、かなぁ。夢とか、希望とかのね」

 水槽の中身は、水が漂うと言うよりも、川を映し込んで流れているように見えた。
 まるで、水槽の下に川が流れているような、そんな錯覚を覚える。

「お星さまに願い事はしたことがあるかい?」

 流れ星に願いを掛けたり。
 夜と共にやってくる淡い光に話しかけたり。
 覚えがないわけではなかった。

「ひょっとしたら、君らの願い事も流れてるかもしれないねぇ」
「まさか……」

 老人は、じゃあ、と笑って手を水槽へと差し入れた。
 掬い上げたのはひとつの星――の形をしたもの。
 紙ではない。
 プラスティックでもない。
 金属とも違うけれど、それらに近い『何か』だ。
 そこには、文字がさらりと浮かび上がっている。

『背が伸びますように』

 まるで、七夕の短冊のようだ。

「これは七夕の短冊かなぁ。時々こういうのもあるけどねぇ」

 老人は再び星を水槽へと戻した。

「試してみるかい?」
「他人の願い事を掬っても大丈夫なの?」
「また戻してあげれば大丈夫だし、願い事は叶えるためにあるからねぇ」

 けれど、他人の願いを叶えてどうするのだろうか。
 老人は笑顔のまま、それに、と続ける。

「君らの場合はたぶん、お互いのを掬うんじゃないかなぁ。それに、これは泡沫の夢、だからねぇ」

 夢――。
 これが、一時が見せる幻なら、願い事に大きな意味はなくて。
 ならば。

「試してみようかな」

 なにが現れるか、試すくらいなら。
 そっと手を水槽に差し入れて、ひとつ。
 星を、掬う。

解説

星に書かれた願い事を叶えてあげましょう。

1.神人さんの願い事が書かれた星を掬う
2.精霊さんの願い事が書かれた星を掬う
3.全く知らない人の星を掬う

いずれかとなります。
お好きなものを掬って頂き、願い事もご自由に設定してください(ですがご利用は計画的に)
プロローグのような願い事の場合は、実際には無理ですので、そこは、物理的、知恵と工夫で何とか……!

掬うのは、神人さん、精霊さんいずれかでもいいですし、両方でも構いません。
掬い上げるものも、別々に選んで頂いて大丈夫です。

例えば、
神人さんが自分の願い事を掬ったけど、恥ずかしくてすぐに戻してしまった。
だけど、精霊さんが神人さんの願い事を掬って叶えてあげる。

とかも全然大丈夫です。

願い事のない星を掬ってしまう場合も、あるかもしれません。
そんな時は、その場で書いてみるのもいいかな、と思います。

掬った星は願い事が叶うと光の礫のようになって霧散して消えますので、ご了承ください。

また、願い事は特にないけど、という場合がございましたら、3番を選んで頂いて、

■背が伸びますように
□美味しいものが毎日食べられますように
◇安眠枕が欲しい

この辺りを叶えてください(笑)
3番の願い事はこの辺りで大丈夫です。困ったときにもご利用ください。
(願い事は番号指定、記号指定OKです。文字数はプランに使ってください。例:3■)

一般的に見かける露店と、見晴らしのいい高台もありますので、ご自由にお使いください。

どう考えてもちょっと難しいようなことは、物理的、知恵と工夫、そして屁理屈で乗り切ってください。
(オーガが全滅しますように、は無理なので、射的場まで戻って景品を総取りする、とか)

願い事を叶える手段は限られていますので、

※星を掬うため、300Jrを支払いました。

ゲームマスターより

星掬い屋、とか書かれていたりするんでしょうか。
屋台を想像してみて、この店はなんて名前なんだろうかとだいぶ真剣に悩みましたが、
変な屋台、で落ち着きました。

素敵な願い事が叶いますように。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  うん、綺麗なものは飽きないから
どうしようか
見たなら責任あるし叶えたいけど


本当?

苦笑)お気の毒に
・・・ちょっと待って

■食べ物屋台へ。弁当箱をあけ
「お金は払いますから場所とアドバイスもらえませんか?
ボリュームをだしたいのだけど。味を引き出すにはどうしたら」
調味料や加熱させてもらう

タイガどうぞ
残り物の再利用だけど今あるものでしてみたんだ

前の僕じゃ考えられないけどね(照

■安堵
真心と、アドバイスのおかげかな


僕の番だね
『駆け落ちしたい』
1■見た瞬間流す
何でも!・・・どう考えても無理そうだったから
(僕の・・・かな?別人かも知れないけど、まだ僕らには重い未来の話だし)

どき)・・・叶えるよう頑張るから大丈夫


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  2ラキアが書いた星を掬う。
願い事:セイリューに頭ぽむぽむして欲しい。

「あたま、ぽむぽむ…」
思わずラキアの方を見ちゃったぜ。
明らかに動揺してるケド。目を白黒させているじゃん。
こういうラキアってちょっと可愛い。
ちょいちょいとラキアを手招きして屈んでもらって。
頭に手をやり、ナデナデ、ぽむぽむ、するぜ。
ウチの猫達にするように愛情込めてだな!
ラキア嬉しそうだし。
俺がラキアにしてあげたい事、も追加でしてあげよう。
そのままギューっと抱きしめてやるのだ。
抱きしめつつ、さらに後ろ頭をぽむぽむと。
ラキアって髪が柔らかくて、触れていると気持ちいいんだよな。
「ラキアを抱きしめられてすげー幸せ」
と暫くこの幸福に浸るぜ。


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  願い事…もし自分のを見付けてしまったらとてつもなく恥ずかしいと思っていたら、フィンが掬って…え?直ぐに戻した?
…もしやと思い、さっと手を伸ばしてフィンが戻したと思われる星を掬う

この願い事って…フィンを見上げれば…その顔、反則だろ
…ちょっとここで待てとフィンに言い、露店でおもちゃのベール付きティアラを購入し隠し持って

フィンを連れ、人目を避けて高台へ移動

流石にウェディングドレスは用意出来なかったけど…
ベール付きティアラを装着して、フィンへ振り向く
…ちゃんと見てろよ
フィンの為にだけ、歌うから

恥ずかしい感情を紛らわすには歌が一番で
歌なら素直になれるから

フィンの願いなら何でも叶えたいと思う
当然じゃないか


李月(ゼノアス・グールン)
  2
『リツキとキス』
見たとたん胸に抱え 人に見られない様 場を離れる
(こここ こんなダイレクトなヤツッ 
ニヤケ面にイラッ

碑文バリバリ影響 取り乱し
「大体お前 じゃれ方変わってきただろ
 無邪気と思ってたから許してたのに
 最近は尻尾絡めるし 先でつつくし
 どさくさ紛れにキ キス狙ってくるし しないからな!

「思うなよ ていうか 男とはしない!
「した事なんてないよっ くそ なんて事言わせるんだっ

ぐっ
神妙顔の相棒は性別の境界が曖昧になる美貌で
思えばこのせいで心の中の境界も曖昧にされて
そこに入り込んできて 僕は…
無理強いしないにほっと

霧散タイミングに「お前が掬ったの 僕の…?





「…出来る範囲でなら その
「精一杯だ
真赤(何かを 越えてしまった…


咲祈(ティミラ)
 
星を、取れば良いの? …変わってるね
それは掬って確かめてくれ

本当に掬うって思ってなかったよティミラ
思ってなかったからこそ星に書いた願いは「過去を知りたい」
…前は別に知らなくても良いって思ってた
知ったって、思い出せないなら意味ない

だけど、自分から知りたいって思うのも悪くないから
もっと教えてくれるかい? 過去の僕について(親とは対面済み・EP2)
どの道、君しか知らないだろう…
そればっかりかい
…そういえば君は書かなかったみたいだけど、願い事ないの?
そうかい
ふむ。そうしよう
…一瞬ティミラがお兄ちゃんに見えた
あ、そうか



「……セラってこういうの好きだよな」
 火山 タイガが屋台の前で足を止めたセラフィム・ロイスに言う。
「うん、綺麗なものは飽きないから」
 きらきらとした輝きや、清潔そうな美しさは、人の心を捉え続ける。
「どうしようか。見たなら責任あるし叶えたいけど」
 少し躊躇うセラフィムに、タイガは「じゃ」と一歩進み出た。
「俺から。お手本になるといいけど……っと」
 掬い上げた願い事は――とびっきりのカツサンドが食べたい。
「俺のだ」
「本当?」
 思わず瞠目したタイガだが、セラフィムの問いかけに願い事を見せるように差し出す。
「カツサンド限定だし、間違いねーと思う。馴染みのばっちゃんの弁当屋、畳んじまったんだよなー。上回る味に出会えなくてさ」
「お気の毒に」
 苦笑いを浮かべたセラフィムは、何ともなく辺りを見回した。
「……ちょっと待って」
「セラ? どした?」
 タイガの言葉に聞いているのかいないのか分からないような返事を返したセラフィムは、食べ物屋の屋台へ足を向けた。
 そして、思いがけない行動に出る。
「お金は払いますから、調理できる場所と、あとアドバイスをもらえませんか?」
 そんなことを言いながら持参していた弁当箱を開け始めている。
 しかも、屋台の店主も食い気味なセラフィムに気圧されたのか、たまたま閑散時間だったからなのか、快くスペースを貸している。
「……叶えるのか……」
 タイガがセラフィムの大胆な行動を眺め、邪魔にならないように隅で待つことにする。
 ボリュームを出すためには、とか味を引き出すためには、といったことを尋ねがら、セラフィムと店主の会話は弾んでいる。
 しばらくすると、店主に丁寧に礼を言ってタイガの側にセラフィムが戻ってくる。
「タイガ、どうぞ」
 弁当箱を差し出すと、タイガの表情がぱっと明るくなった。
「残り物の再利用だけど、今あるもので作ってみたんだ」
「~~っ、ありがとな、セラ! 大胆でびっくりした」
「前の僕じゃ考えられないけどね」
「ほんとにな~」
 照れながらも、どこか誇らしげなセラフィムにタイガはますます嬉しくなる。
 ――俺のためにやってくれただけでどんなもんが出てももういっぱいだ。
 出来上がったばかりのカツサンドを取り上げ、タイガは一口頬張る。
「うまっ!? どうやったんだよ」
「よかった」
 タイガの反応に安堵すると、セラフィムはにこりと微笑む。
「真心と、アドバイスのおかげかな」
「そっか。んじゃ、次ぎからのセラ弁当、期待してるぜ」
「うん、またおいしいのを作るよ」
 もぐもぐと食べ続けるタイガに、セラフィムも喜びを隠せない。
 再び件の屋台に戻る。
「僕の番だね」
 そう言って掬い上げた星を見て、セラフィムは瞬間的に星を戻した。
「あー! 見損ねた! どんな星だったんだ!?」
「なんでも!」
「ちぇー」
 慌てた様子のセラフィムに、タイガは唇を尖らせた。
「……どう考えても無理そうだったから」
 不服そうなタイガだったが、とてもではないが言えない。
 ――言えないってことは刺激が強いのか、際どいもんだったりすんのかな。
 セラフィムが掬い上げた願い事は――駆け落ちしたい。
(僕の……かな? 別人かもしれないけど、未だ僕らには重い未来の話だし)
 いずれにせよ、それが叶うとすればもう少し先だろう。
「カツサンドは叶ってよかったけど、セラの掬いたかったなー」
「っ……、叶えるように頑張るから大丈夫」
 セラフィムは心臓がひとつ高くなったが、努めて冷静を保ちながらそう呟く。


 李月とゼノアス・グールンは、同時に星を掬い上げた。
「……!」
 見た途端、李月は胸に抱えてその場を逃げ出すように離れた。
 ゼノアスはその後をついて行ったが、人目を離れると面白そうににやりと笑う。
「あんだ? ヤバイの来たか?」
 李月が掬ったのはよりにもよって――リツキとキス。
(こここ、こんなダイレクトなヤツッ)
 ゼノアスの願い事だというのは一目瞭然だった。だから余計に、にやにやと笑うゼノアスに苛立った。
「だ、大体! お前じゃれ方変わってきただろ」
「あ?」
「無邪気と思ってたから許してたのに、最近は尻尾絡めるし、先でつつくし……!」
 突然怒り出す李月に、ゼノアスは、ああ、と合点がいった。
「それ、オレのか。願いはキスだな?」
「っっ! ど、どさくさに紛れてキ、キス狙ってくるし! しないからな!」
 相変わらずにやりと笑いながら、なにかを思い出すようにゼノアスは言葉を探す。
「さっき型抜き成功してドヤ顔してんの可愛くてしたいって思ったな。それだな」
「思うなよ! ていうか、男とはしない!」
「あ? 女とはしてるのかよ」
 言いながら、ゼノアスは李月に掴みかかった。
 溢れる嫉妬が抑えきれなかった。
「離せよ、したことなんてないよっ! くそ、なんてこと言わせるんだ」
「ないのかよ」
 安堵したのか、ゼノアスはぱっと手を離し、先ほどまでの勢いはどこかへと消えていた。
 その代り、李月の頭を撫でて、ゆっくり頬に手を添える。
 先ほどまでのにやけ顔から一変して、神妙な面持ちでぽつりと声を漏らす。
「してくれねぇの? こんな乱暴だから?」
「ぐっ……」
 さすがに、こんな表情はずるい。
 押し黙っていると、ゼノアスはふっと笑った。
「無理強いはしねぇ。大事な親友だ」
 ゼノアスの手から、星がふわりと消えていく。
「……お前が掬ったの、僕の……?」
 おそらくだが、ゼノアスが掬ったのは李月の願い事だったのだろう。
 内容は、これもやはり推測でしかないが――大切な親友のゼノと、今の関係が続きますように、と言ったところだろう。
 ゼノアスは、踏み込もうと思えばいくらでも李月をかき乱して踏み込めるのだ。
 けれど、決してそうはせず、李月の気持ちを尊重してくれた。
 しばらくの沈黙が二人の間に流れ、李月は長い逡巡を繰り返した。
 そして。
「……できる範囲でなら、その……」
 これが今の李月にできる最大限の譲歩だ。
 ゼノアスはくすりと笑う。
「結局受け入れてくれるんだな」
「できる範囲でだからな……」
「ああ」
 屈んで目を閉じると、李月のされるままに身を委ねる。
 少しして、柔らかな感触が口の端に軽く触れた。
「っ、精一杯、だ」
 目を開けて李月を見ると、本当に精一杯だったらしく、顔を真っ赤にしている。
 けれど、ゼノアスにしてみれば、自分からするよりも李月からしてもらったことに意義があった。だから。
「満足!」
 李月の手の星も、空へと還るようにふわりと消えて行った。
(ああ……何かを越えてしまった……)
 踏み止まっていた何かを越えた李月は遠くを見つめた。


「願い事か……なんだかちょっとドキドキしちゃうね」
 フィン・ブラーシュはそんなことを言いながらも、
「海十の願い事が掬えたら素敵だけど」
 と躊躇せずに星を掴んだ。
 願い事は――海十の花嫁さん姿が見たい。
 ――俺の願い事……?
 一瞬考えて、はっとしてフィンは我に返る。
 これは見られては大変だ。どちらかと言えば絶対的に見られてはいけない類だ。
 フィンは慌てて水の中に星を戻した。
(……え? すぐに戻した?)
 そんなフィンの様子に、海十はすぐさま手を伸ばした。
(たぶん、これかな……)
 自分のものを見つけたらとてつもなく恥ずかしいだろうなと考えていた蒼崎 海十は、多少のためらいがあった。
 その結果、一連のフィンの動作を見ることになっていた。
 フィンの行動を見るに、もしかしたら、という思いが脳裏をよぎった。
 そして、いまフィンが流したと思われる星を掴む。
「この願い事って……」
「……いや、その……」
 見上げたフィンは、困ったような、照れたような、恥ずかしそうな――そんな顔をしていた。
 さすがの海十もくらりと眩暈がする。
(その顔、反則だろ)
 観念したようにフィンはしおらしくぽつぽつと言葉を漏らした。
「去年の冬に海十がウェディングドレスを着てくれたでしょ?」
「ああ」
「すごく綺麗で……もう一回見たいなぁって……ごめん。海十は嫌だよね」
「嫌っていうか……」
 ただただ恥ずかしかっただけだ。
「……ちょっとここで待ってろ」
「え、海十!?」
 それだけを言い残して、海十はどこかへ走り去っていく。少しして戻ってきた海十は、フィンを連れて高台まで移動する。
「海十、どうしたの?」
 首を傾げるフィンに背を向け、先ほど露店で買って隠し持って戻った玩具のベール付きティアラを取り出す。
「さすがにウェディングドレスは用意できなかったけど……」
「ッ!」
 頭に付けて振り返ると、フィンは息を詰めた。
「……ちゃんと見てろよ。フィンのためにだけ、歌うから」
 恥ずかしい気持ちを紛らわせるために、海十は静寂の中に声を響かせた。
 嘘も偽りもない、素直な海十の気持ちのすべてを乗せて。
 ――いくらなんでもこんな願いは叶えるのは無理だと思ってたのに……。
 夜空の下、歌う海十の姿はとても幻想的だった。
 ――綺麗……。どこまで俺を夢中にさせる気なんだろう。
 幻のような海十に手を伸ばす。そのまま引き寄せて、抱きしめる。
「ありがとう、俺の願いを叶えてくれて。こんな、無茶な願いを聞いてくれて」
「フィンの願いならなんでも叶えたいと思う。当然じゃないか」
 それは、当たり前のことではない。けれど、海十にとっては至極当然のことなのだ。
「海十の願い事、聞いてもいい?」
「俺の?」
「うん。俺も海十の願い事を叶えたい」
 海十はそっとフィンを抱き返した。
「フィンを幸せにすること」
 少し、驚いた。海十の愛情はどこまでもフィンに向けられている。
 ――ああ、こんなに幸せで……。
「……なら、もう叶ってるね。俺、今とても幸せだから」
 誓うように口付けを交わして、胸を満たす幸せを噛み締める。


「星を、取ればいいの? ……変わってるね」
 咲祈は一度覗き込んだきり、流れる水をぼんやりと眺めていた。
「ツバキの願い事って?」
「それは掬って確かめてくれ」
「あは、それもそうか」
 咲祈が問いかけをさらりと流すと、ティミラは星を掬い上げた。
「――本当に掬うって思ってなかったよ、ティミラ」
 掬うとは思っていなかったからこその願い事だった。
「え、掬うと思わなかったってどういう……?」
 言葉の意味が分からず、ティミラは掬った願いごとに視線を落とした。
 そこに記されていた願いは――過去を知りたい。
 もし、ティミラが本当に掬い上げると分かっていたら、きっと違ったことを願っただろう。
「ツバキ、これってつまり……」
 過去について、特段執着を見せなかった咲祈が、こういった願いを書いたことをティミラは意外に思った。
 その反面で、少し嬉しくもあった。
「……前は別に知らなくてもいいって思ってた。知ったって、思い出せないなら意味ない」
 抜け落ちた記憶の欠片は、いまだ咲祈に戻ってはいない。
 思い出せない記憶を知ったところで、と咲祈が思うのも理解はできた。
「だけど、自分から知りたいって思うのも悪くないから」
 だから、こうして願ってくれることを嬉しいと思ってしまう。
「――過去の僕について、もっと教えてくれるかい?」
 咲祈はティミラに目を向けた。
 両親とは一度会った。けれど、それ以外の記憶は当然、まだまだ抜け落ちている。
 勿論、両親のことも思い出したわけではなくて、こんな人がいたのか、程度の認識に近い。
「えっ、オレでいいのか……?」
 ティミラは意外だと言わんばかりの様子だったが、咲祈は頷くことはなく、けれど口を開いた。
「どのみち、君しかしらないだろう……」
「まあ、そうだけど、さ」
 顎に手を当てて、ティミラはすうっと双眸を眇める。
「なに?」
「ツバキがそんなことを思ってたなんて感激……!」
 咲祈は深く溜息を吐いた。
「そればっかりかい」
「だって、お兄ちゃんとしては感激するさ!」
 そして、両腕を広げてこの上ない笑顔で抱き締める準備をする。
「ささ、おいでっ」
「……、……」
 咲祈とティミラの温度差は、顕著だった。咲祈が喜んでティミラの腕に飛び込むがはずはない。
「恥ずかしくないのかい?」
「家族大好き。これがオレ」
「……そうだったね」
 感激のティミラから一度視線を外して、咲祈は少し遠い空を眺めた。
「……そういえば君は書かなかったみたいだけど、願いごとはないの?」
「え? あー、オレは特に」
 特に、書くほどの願いはなかったけれど。
「ツバキの願いが叶えばいいか、って」
「そうかい」
 素っ気ない返事だったが、僅かに咲祈が眩しそうに目を細めた。
「それより、昔のツバキについて教えるから、なにか食べながらどう?」
「ふむ。そうしよう」
「気になることはオレに言ってごらん?」
 そう言ったティミラに視線を戻した咲祈は、一瞬の沈黙のあと。
「……一瞬ティミラがお兄ちゃんに見えた」
「いや、お兄ちゃんだってば!」
「あ、そうか」
 明るく笑うティミラに、咲祈はゆっくりと目を伏せた。


 セイリュー・グラシアが手にした願いの星――セイリューに頭ぽむぽむしてほしい。
「あたま、ぽむぽむ……」
「エゥ」
 思わずラキア・ジェイドバインを見たセイリューだったが、ラキアがよくわからない変な声を出していた。
「ラキア、明らかに動揺してるケド」
「大丈夫」
 何が大丈夫なのか分からない。不安げにセイリューはラキアを見つめているが、やはりどう見ても動揺している。
 目を白黒させて、ときおり低く唸っている。
「以前、流れ星にそんなのをお願いしたことがあったような……」
 時として、ラキアも寂しさを感じることがある。
 そんな折に見かけた流れ星につい、願ってしまったことがまさかこんなところに流れ着いてくるとは思わなかった。
 変な声だって出る。
 とはいえ、まさかセイリューがそれを引き当てるとは夢にも思わなかった。
 へこみそうになっているラキアに、セイリューがくすりと小さく笑った。
「動揺してるラキア、ちょっと可愛い」
「うーん……」
 甘えたい気持ちを明確に形にされると恥ずかしい。
 だから、言葉を多く重ねてしまいがちだ。
「ほら、俺ってセイリューより身長高いから、セイリューをぽむぽむするのは簡単だけど、してもらうのは、ね」
 まるで言い訳をしているようで、ますます恥ずかしくなった。
 照れ隠しに重ねた言葉は、結局墓穴を掘るようで。
 けれど、セイリューは「ああ」と一つ頷いて、手招きをする。
「ラキア、ちょっと屈んでくれ」
「え、うん」
 言われるままに屈むと、セイリューはラキアの頭をそっと撫でた。
 初めは遠慮がちに、けれどそのうち愛猫にするように愛情をたっぷりと込めて撫でる。
 そうしていると、うっとりとするようにラキアは嬉しそうに目を閉じた。
「ラキアの髪って柔らかくて気持ちいいよな」
「そうかな」
「ああ、オレは好きだぜ」
 撫でるついでに、セイリューがラキアにしてあげたいこと、も同時に付け加えた。
 背に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。
「――っ!」
 抱き締められることに、というよりも、今このタイミングで、ということに驚いたようにラキアは身を固くした。
 けれど、セイリューは構わず、頭頂部から後頭部に優しく撫でていく。
「ありがとう、セイリュー」
 ラキアもセイリューをぎゅっと抱きしめ返した。
「セイリューに撫でられるとやっぱり嬉しい」
「ああ、オレもラキアを抱き締められてすげー幸せ」
 お互いの温もりも、触れる指先も、かけがえのないものだと感じる。
 しばらく幸せに浸りながら、セイリューは変わらずラキアの頭を撫でていた。
「ラキア、遠慮せずにいつでも言えよな」
「うん、ありがとう」
 とはいえ、何度も撫でて欲しい、とは言い辛いのも事実だ。
 セイリューの頭をぽむ、とラキアが撫でる。
「うん?」
「お返し」
 なんて言いながらも、実際はもっと触れていたいから。
「じゃあ、お返しのお返しだ」
 じゃれ合うように撫で合って、些細なことが幸せだと、改めて感じる。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月31日
出発日 09月07日 00:00
予定納品日 09月17日

参加者

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