【討魔】アイの無くなった夜(月村真優 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「愛してる」と言う事も。「好きだよ」なんて笑いかける事も。
抱きしめる事も、口づける事も、もう不可能となった。
普段のように、インパイアスペルを唱える事ももう無理だ。それどころか、信じ抜く事すらも危うさを孕んでくる。

何せ、「アイ」は無くなった、いや奪われてしまったのだ。言霊を喰らう妖に。


その夜は依頼により、ウィンクルムたちはデミ・オーガの暴れまわる『鎮守の森』をパトロールしていた。妖怪たちがどこに潜むともわからない森の暗がりを照らしながら、ウィンクルムたちは慎重に森を歩く。
 何かの鳴き声が聞こえる、と言い出したのは誰だったろうか。耳を済ませれば、確かに遠くからその声は微かに聞こえてきていた。人の話している声にも聞こえるが、それにしては声が高すぎる。そして、その響きはどこか邪悪に歪められているようだった。
 デミ・オーガならば、倒さなければいけない。それが彼らの役割だ。ウィンクルムたちはその声が響く方へと足を向けた。
音の正体はすぐにわかった。蓄音機のようにラッパを頭から生やした四本足の妖怪がふらふらと彷徨っている。それはこちらに気が付いていないのだろう、そのラッパから奇妙な呟き声を延々と流し続けていた。
「オト、オト、タリナイ、コトバガホシイ、ヨコセ」
 壊れたレコードのように足りない寄こせと歪んだ音を放ち続ける。その濁った音、瘴気を纏った姿は明確にこれがデミオーガ化していると示していた。
 ウィンクルムたちは事前に聞いていた話を思い出す。この妖怪の名は『言霊喰らい』。時々人間の言葉を奪っていく妖怪だ。被害者は奪われた言葉は発せなくなる。適当な言い換えを使ってその概念を示して見せるか、直接そいつを懲らしめてやれば奪われた言葉は戻って来る、そんなたわいもない妖怪だ。
 まだ何も奪われてはいないが、さっさとトランスして倒せば何も問題はないだろう。そう考えて行動に移そうとした瞬間、『言霊喰らい』はウィンクルムたちに頭を向けた。
「アイ、アイ、アアアIIIII、タリナイ、ヨコセ」

 その声が放たれた途端、彼等から「I」が奪われた。「あい」が奪われただけではない。母音「I」を含む全ての単語が奪われたのだ。さらに、彼等は言葉だけでなく行動までも封じられてしまった事を悟った。母音「I」を含む全ての動作はもう行えない。

 「■してる」と■う事も。「好■だよ」なんて笑■かける事も。
抱■■める事も、■づける事も、もう不可能となった。
普段のように、■ンパイアスペルを唱える事ももう無理だ。それどころか、■じ抜く事すらも危うさを孕んでくる。

何せ、「■」はもう奪われてしまったのだ。言霊を喰らう妖に。

「タリナイ、タリナイ、シメセ、ツタエロ、シメシテミセロ」

 この化け物から奪われたものを、そして戦う術を奪還する手段は、奪われた「I」を使わず『愛』を伝える事、それだけだ。
 さあ、あなたがたはこの妖怪から奪われたものを「取■返せる」だろうか?

解説

●要約
『言霊喰らい』は大変なものを奪っていきました。それはみなさんのプランの文字です。

●概要
「I」を使わずに愛を相互的に伝えてください。文中では愛って言ってますが要するに親密度です。広義の愛ってことで。相互的に伝わればオッケー。
 「インパイアスペルを唱える」さえ出来れば瞬殺できるような相手なので、トランス以降の戦闘に関しては特に文字数を割かなくても大丈夫です。GMもあんまり割く気はありませんし。

●特殊ルール
 台詞及び行動指定において「I」を含むものは全て無効となります。
 キーボードのローマ字入力で「I」を使わなければ大丈夫です。つまり「しゃ(SYA)」「ちゅ(TYU)」などはセーフ。
 また心情や状況の描写、「『好■』って言おうとしたけど声が出ない」みたいな描写および地の文での接続詞やら副詞やらは存分に使ってください。というか使わせてください。

それでは皆様のプランを楽しみにしております。


ゲームマスターより

 お久しぶりです。キーボードの「G」が使えなくなったりした月村真優です。
 最初は文章のすべての部分において「I」禁止、というのを考えていましたがお互い厳しすぎるのでこういう形となりました。
 そんなわけで今回の敵はプランにダイレクトアタックをかましてくる敵です。中々難しい所もあるかとは思いますがよろしくお願い致します。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

李月(ゼノアス・グールン)

  (相棒がさっきからツーツー言ってるのは
 リツキが言えて無いからか 奪われたのは本当の様だな

「ゼノ ハートフルなラブだ
「ハートフルだからな!(念を押す

(あわわ 調子に乗って!
「ぼ 僕等は上手くお互■…相互の不足をカバーするパートナーだと思ってる
 カンケーは良好だな これからもよろ■く…頼むよ
(くそ ニヤケ面ムカつく(紅潮

(羞恥で精神が…
「お前はもう僕の■■…僕に不可欠なや■なの■める…僕に不可欠だ!
(ヤケだ もう何だこれ(涙目

抱擁され(ぎゃー 人前ヤメロー

解放後即トランス
動きを鈍らせる為(精神奮い立たせ)攻撃する
仲間との連携になれば幸い

「宝物って…(照
(嬉しくはあるけど 今日ずっとこの調子だぞこいつ 溜息


胡白眼(ジェフリー・ブラックモア)
  []は行動指定

EP22以降精霊が少しよそよそしい
Iを使えない状況で余計不安に

彼の声と温もりに徐々に安堵して
「予行練習ならぬ復習ですか?」
[肩をすくめ、おどけた顔。普段の彼を真似てからかう]
EP10で頬に口付けされたことを
コンフェイト・ドライブの動作と紐づけ揶揄
彼ならわかってくれるはずだ

「俺がタブロスでなんとかなってるのは……からかって心をほぐす貴方のおかげだ」
俺が落ち込んだり緊張した時、この人はいつも元気づけてくれる
あの街での暮らしを好きにはまだなれないけど……
[目と目を合わせ]
「パートナーが貴方でよかった。貴方と会えてよかった」

彼にスキル使用

照れて顔を合わせられず
「さ、さあ!帰って報告を!」


鳥飼(隼)
  どうすれば伝わるんでしょう。(悩む
そうだ。「隼さん、屈んで」
敬語が使えないのって、なんだかむずむずします。
両手で頬を軽く挟んで、おでこへ『ちゅっ』と。
それと笑顔を浮かべます。「僕からは、こうです」

伝わったでしょうか。
何を言いかけたのか気になりますけど。隼さんの行動を黙って待ちます。
動きが止まる度にはらはらしちゃいますね。
同じことをしようとしてくれてるんでしょうか。
同じじゃなくても、できなくても。しようとしてくれるだけで嬉しいのに。
頭を撫でられるとは思ってなかったです。(ふわっと笑顔

トランスができたら後ろに下がって、隼さんに任せます。
撫でられたところを、隼さんに気づかれないようにそっと触ります。


●うばわれたもの
「ヨコセ、アイヲヨコセ、アイヲヨコセ、アイヲヨコセ、アイヲ」
 壊れたレコードを延々と再生するように、『言霊喰らい』は繰り返し続ける。その機械的な声は繰り返しを続ける内にだんだんとかすれ、擦り切れ、ノイズを混じらせ始めていた。 さらに、そのノイズの中からは狂ったような笑い声が聞こえてくる。これが狂わされた妖怪の笑いなのだろうか。
「ザザザ……コセ、アイヲヨコセ、ハハハ………ヨコセヨコセ……」
 神経を削る様なノイズ、空虚な高笑い、そして繰り返される錆びついた呪詛の声。その音から逃れる様に心を閉ざそうとすれば、■の消えた胸の空洞に目を向けざるを得なくなる。
 ■が戻るかどうかはお互いのパートナーにかかっているのだ。かかっているのだが。
「■してる」と■う事も、「好■だよ」なんて笑■かける事も、抱■■める事も、■づける事も、もう不可能だ。それどころか、相手の名前を呼ぶ事も出来なくなった者すらもいる。
「……ツ、ツ!」
 妖怪の喚き声を遮る様にして、誰の名前にもならない声が響く。名前も言えない苛立ちと焦りの滲み出た声は、それでも意味をなしていない。切り刻まれた呼びかけの残骸が、夜の森の暗がりの中に吸い込まれるようにして消えていった。

●終わ■な■■光のロードを共■
相棒のゼノアス・グールンが途切れ途切れに叫ぶ声を聞きながら、李月は考えていた。
(相棒がさっきからツーツー言ってるのは「リツキ」が言えてないからか)
 どうやら本当にこの妖怪は声を、行動を奪ってしまったらしい。示せば取られたものは戻るのだろう。懸念が確信に姿を変えた所で、李月は決断して口を開いた。
「ゼノ」
名前を呼ばれたゼノアスは李月を呼ぼうとするのをやめてこちらを向く。彼の名前なら問題なく呼べるようだ。
「ゼノ、ハートフルなラブだ……ハートフルだからな!」
 どことない気恥ずかしさに彼は念を押すようにして告げた。
「ハートフル……おう!」
 それに意味があったのかどうか、ゼノアスはそう言ってから李月が続けるのを待つようにこちらに目をやった。そうして妖怪からこちらを守る様に、あるいは庇うようにして動く。不測の事態への備えとして守ってくれているのだろうが、今からやろうとしている事とあわせて考えるととてつもなく照れくさい。
 まっすぐこちらに向けられた目にあわわと焦りながら李月は思った。この男、間違いなく「何を言ってくれるのか楽しみだ」とか期待している。
(調子に乗って……!)
 焦りながらも彼は言葉を紡ぐ。
「ぼ、僕等は上手く……」
 そこまで告げて「お互■」が言えないと気づいた。
「あー、相互の不足をカバーするパートナーだと思ってる」
 自分でも顔が紅潮していくのがわかる。だが続けるしかないのだ。それにしても自分の言葉を聞いているゼノアスがニヤケているのが腹が立つ。精神が削れそうだ。
「カンケーは良好だな……これからも……その、頼むよ」
 何とか言葉を終えても、相棒はニヤケ面のままで黙っている。まだ足りないというのか。羞恥が膨らんでいく中で、半ばやけくそになりながらも彼は叫んだ。
「オマエはもう僕の……不可欠な……ああもう、僕に不可欠だ!」
 言葉を終えるころには、もはや李月は涙目にすらなっていた。それでようやくゼノアスは満足したらしい。今度は彼の番だ。
「オレの……」
 台詞を途中で止め、続きを考え始める。李月と同様、言葉を探しているのだろう。それまでのにやけた表情とは一転して真剣な表情だ。真面目な顔をしていれば見惚れるほどに美形なのがなんとも悔しいところだ。そんなことを思いながら、彼はゼノアスの言葉を待った。

 さて、何を告げればいいだろうか。ゼノアスは考え、言葉を選ぶ。
「オレのパートナーはオレだけのモノだ」
 そう断言して、さらに続ける言葉を探す。
「傍が幸福で、ゴハンがウメー」
 そう告げてから、少しだけ目線の下にある李月の頭を撫でる。恥ずかしいのか儚い抵抗を受けたが、特に気にしない。彼は先ほど何と言っていたのだったか。「相互の不足をカバーするパートナー」だった。なるほど、彼はそんな風に自分の事を思っていたらしい。
「細けー事はやってくれる、オレは構えて大事から守る。……それで上手く回る、ああ、極上のパートナーだ」
 頭を撫で回すのとそれを告げるのを同時にやれば、だんだんと李月の抵抗がなくなるのがわかった。その反応にちょっとした悦びを覚えながら、満面の笑顔を浮かべて彼は続けた。
「笑っても怒っても呆けても腕ん中収めたくなる。オレの全ての切望が詰まった宝物なんだぜ、オマエ」
そう告げて、ゼノアスは赤く染まった李月の頬を撫でた。そうして腕を下げてそっと抱擁する。「ぎゃーっ」という悲鳴があがったのを抑える様に、ゼノアスはそっと腕の中の温もりの名前を呼んだ。
「なあ、『李月』」
 もう大丈夫だ、こちらの「I」は戻っている。そして、それに答えるように。
「人前ではやめろ!」
「I」を取り戻した李月が叫ぶ。それを確認してから、ゼノアスは仲間たちに「解けた!」と伝えた。後はトランスして戦うだけだ。何も怖れる事はなかった。大事なものは腕の中にちゃんとある。
「終わりなき栄光のロードを共に!」

●悔■なく歩もう
 延々と繰り返される声を前に、鳥飼は悩んでいた。愛を示して見せろ、伝えて見せろと妖怪はずっと声を上げ続けている。
(どうすれば隼さんに伝わるでしょうか)
 渋い顔をしている隼を見上げ、考えを巡らせる。ふと閃きが脳内に浮かんだ。そうだ、これはどうだろうか?
「隼さん、屈んで」
 考えた事を実行に移すべく、彼は隼に声をかけた。敬語が使えないのはなんだかむずむずするが、致し方あるまい。鳥飼は素直に屈んだ隼の頬を両手で軽く挟んだ。そうして、そっと顔を寄せる。隼はこちらの動きを目で追っている。視界にはおそらく鳥飼しか映っていないだろう。
 そっと顔を寄せた鳥飼はそのままおでこに『ちゅっ』という軽い音をたてて触れた。
 ノイズが混じった『言霊封じ』の声にくらべれば遥かに小さい音だが、この距離ではかき消されることもない。「■ス」とも「■付け」とも呼べないようなささやかな接触だったが、それでも確実に何かは届いただろう。そう思いたい。
 伏せた瞼をゆるりと上げた隼に向かって、鳥飼は笑顔を浮かべた。
「僕からは、こうです」
 果たしてこれで伝わっただろうか。隼は何かを言いかけたようだが、何か声が発せられる事はなかった。何を言おうとしたのかは気になったが、彼は黙って相手の行動を待つことにした。

 額に伝わった暖かさが離れて、隼は瞼を上げた。視界一杯に笑顔を浮かべた主が映る。暗い森の中で、鳥飼の腕の中だけが奇妙に静かで、明るかった。言霊喰らいの声も周囲のウィンクルムたちもどこか遠くの事のように感じる。今この瞬間だけは、彼の世界には二人しかいなかった。
「僕からはこうです」との声に、自分に順番が回ってきたのだと理解する。
 何とかして取り返さなければならない。ウィンクルムの絆が■だというなら、これは天敵のようなものだろう。力の元を奪われたに等しい。
隼は「主」と呼びかけようとして、声が出せない事に気が付いた。そうか、と一人納得する。現状では主の本名以外では呼べないらしい。彼は声をかける事を止め、代わりに行動で何とかする事にした。
 受けた動きを真似て、屈んだまま緩やかな動作で同じように両の頬へと手を添える。先ほどの自分と同じように、おそらく鳥飼の視界には自分しか映っていない事だろう。さてここからどうするか。思い浮かぶ行動は全て奪われたものばかりだ。探せども中々「■」から離れた表現が思いつかなくなってくる。
 手の中の鳥飼の顔に目をやれば、彼は少しはらはらした表情で、それでもどこか嬉しそうな表情をしていた。それに勇気づけられるようにして、隼は動いた。頬へと添えた手が自然と上へと動く。鳥飼の頭の上に片手を乗せ、撫でた。ぎこちない動きだと思うが、伝わっているのだろうか。
「これで」
 撫でながらそう呟き、「これで良いか」と言えもしない事に気づく。隼は黙って鳥飼の様子を伺った。

少し意外な行動に、鳥飼は目を瞬いた。頭の上の暖かくて柔らかい感触に目を細める。それから、こちらを伺っている隼にふわっと笑顔を浮かべた。
「頭を撫でられるとは思ってなかったです」
その言葉と笑顔に、隼の雰囲気が和らいだのを感じた。
同じ事をしてくれるのだろうか、と思っていた。動きが止まる度に少しハラハラしたが、それでも嬉しかった。同じ事をしなくても、あるいは出来なくても、やろうとしてくれた事そのものが鳥飼には嬉しかったのだ。
ふと、触れられた頭から何か暖かいものが全身まで降りて来たような気がした。もしかして無くなっていた「I」が戻ってきたのではないか。本能的にそう感じる。
「ありがとうございます」
 そうやって笑いかけてみれば、思い浮かべた台詞は何の問題もなく声になった。そのことに気づいた隼も試すように「主」と呼びかける。出てきた声はいつもの調子だった。いつものように、頬に口付け、インパイアスペルを唱える。
「悔いなく歩もう」
光の羽が舞い踊り、緑のオーラを纏う。いつも通りの風景だ。

●トランス、ある■は■ンパイアスペル
(見せつけられるほどの■なんて持ち合わせてないけど……やるしかないか)
 ジェフリー・ブラックモアは傍らで不安げにしている胡白眼を横目に覚悟を終えた。やると決めれば行動は速い。ジェフリーはそっと白眼の頭に手を伸ばして撫でた。
「フーくん」
 頭を撫でながら、静かに呼びかける。撫でるのは時々白眼がやってくる事だ。別に頼んだわけでもないし、必要なわけでもない事だと彼は思っていた。それでも今はその行為に頼る事になったのだから、意味はあったのかもしれない。
「フーくん」
 彼はもう一度呼びかけた。手の下にある温もりを感じながら考える。こんな状況下だというのに、なぜかこの温もりが心地いい。いつの間にかこれを悪くないと感じ始めている事を自覚させられる。
(最近の俺はどうかしてる)
 頭を撫でながら考える。白眼はどうやら徐々に安堵してきたらしい。だんだんと肩の力が抜けていくのを感じる。安心しているのは自分の声になのか、それともこの暖かさになのか。自分は信頼されているのだろうか。では翻って自分はどうなのだろう?
(神人なんて信頼できない、その考えは変わらないけど)
 彼だけは違うんじゃないか、信じてもいいのではないかという馬鹿げた期待が頭をもたげている。
「フーくん」
 彼は何度も何度も頭をぽんぽんと撫でる。ああ、そうだ。先に信じさせたのは君だ。だから、こんな子供の悪戯じみた妨害なんかで、不安そうな顔をしないでよ。そんな思いが胸裏に浮かぶ。だから、顔を上げた白眼がどこかおどけた顔をしていた時は逆に自分が安心した。
 もう大丈夫だろう。ジェフリーは手を降ろして相手の行動を待つ。白眼は肩をすくめ、からかう様に答えた。先ほどの表情といい、どこか普段の自分を真似しているように見える。彼をからかっている時の自分だ。
「予行練習ならぬ復習ですか?」
 そう言われて思い出す。いつだったか、ハイトランスの予行練習と称して頬に口付けてみた事があった。そんな思い出に少しだけ力が抜けたことに、ジェフリーはまだ気づいていない。黙っているジェフリーに、ぽつぽつと白眼は言葉を繋ぐ。
「俺がタブロスでなんとかなってるのは……からかって心をほぐす貴方のおかげだ」
 そうして彼はまっすぐに目と目を合わせて続けた。
「パートナーが貴方でよかった。貴方と会えてよかった」
 言い終えると、彼はそのままジェフリーの紋章に「唇を落とし」、インパイアスペルを宣言した。
「トランス」
 
●とりもどされたアイ
 かくして、奪われていたものを取り戻した彼等は本来の力を取り戻す。トランスさえしてしまえば、攻撃手段が喚く事くらいしかないデミオーガなぞ敵になるはずもない。
 前に出た隼は前に踏み込み、デミ化した妖怪を上から下へと叩き斬る。めこん、と音を立てて横へと吹っ飛んだ『言霊喰らい』を目で追って、ふと鳥飼の行動に気が付いた。トランスを終えて後ろに下がった鳥飼が、自分の撫でた場所にそっと触れている。……どうやら気づかれないようにしているつもりらしい。物好きな事だ。また、機会があればやってみるのも悪くはないかもしれない。そんなことを考えたりもした。
 一方、トランスした白眼とジェフリーは行動を逆転させていた。先ほどとは逆に、白眼の方がジェフリーの頭をぽんぽんと撫でている。今回はコンフェント・ドライブとしての行動だ。纏うオーラを強めたジェフリーは、流れるように銃を抜いて精神を奮い立たせた李月に足止めされている『言霊喰らい』に発砲する。弾丸は正確に、吸い込まれるようにしてその体を撃ち抜いた。そして、最終的に妖怪はゼノアスのタイガークローによって完全に動かなくなった。
「ア……シメ……サレ……」
 そんな呟きを最後に漏らし、『言霊喰らい』は淡い光に包まれる。そうして光が消えた時、そこにはボロボロの錆びついた蓄音機が一つ転がっているだけだった。これで終わったのだ。誰もがそう理解する。
「……それにしても、宝物って」
 訪れた沈黙を破ったのは李月の小さな呟きだった。
「ん? 前にうっかり偽物に言っちまったから本人に言っとかねぇとな。リツキ」
 ゼノアスは再び李月に抱き着きながらそう答える。そう、今となっては抱きしめる事も名前を呼ぶ事も出来るのだ。心底嬉しそうに満面の笑みを浮かべるゼノアスに、李月は内心溜息をついた。嬉しくはある、嬉しくはあるのだが。
(今日はずっとこの調子だぞ、こいつ……)
 大人しく腕の中に収まった彼はただ羞恥に耐える覚悟を決めるのだった。
 そして、それを少し離れた所で見ていたジェフリーはからかうようにして白眼に問いかける。
「あれ、俺たちもやってみる?」
「なっ……さ、さあ!帰って報告を!」
 照れて白眼は顔を合わせる事も出来ない。目と目を合わせて「貴方と会えてよかった」と言ってのけた力はどこへ行ったのやら、と自分で思う。それでも、あれは本心だった。いざやられると落ち着かないものではあるが、自分が落ち込んだり緊張した時、この人はいつも元気づけてくれる。あの街での暮らしを好きにはまだなれないけれど、それでも出会えてよかったと自分は思うのだ。
その様子を見ながら疲れたようにジェフリーは右目を眇めて物思いに沈む。
(からかって心をほぐす、か。俺からのアプローチをあんな風に捉えていたとはね)
 そう言った時の白眼の顔を思い返す。もしも、「君を意のままに操るためだ」なんて言ったら、彼はどんな顔をするのだろうか。
 取り戻した「アイ」を胸に、彼等は森を出ていくのだろう。そしてその後、「アイ」はどのように移り変わっていくだろうか。どのような形になってゆくのだろうか。それぞれの思惑を乗せて、藍色の空に月が登る。




依頼結果:成功
MVP
名前:胡白眼
呼び名:フーくん
  名前:ジェフリー・ブラックモア
呼び名:ジェフリーさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 月村真優
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月31日
出発日 09月08日 00:00
予定納品日 09月18日

参加者

  • 李月(ゼノアス・グールン)
  • 胡白眼(ジェフリー・ブラックモア)
  • 鳥飼(隼)

会議室

  • [3]李月

    2016/09/07-15:20 

    ぎりぎり参加失礼します。
    李月と相棒ゼノアスです。
    どうぞよろしくお願いします。

  • [2]胡白眼

    2016/09/06-15:26 

    ジェフリー:
    プレストガンナーのジェフリーだよ。
    ほぼ個別描写だろうけど一応よろしく。

    これはまた厄介な敵だねぇ。人によっては名前を呼ぶことすらできないじゃないか。
    やられっぱなしというのも癪に障るけど……■…、■ねぇ…。

  • [1]鳥飼

    2016/09/03-09:23 

    僕は鳥飼と呼ばれています。
    こちらはハードブレイカーの隼さんです。
    まだ誰もいないようですけど、よろしくお願いしますね。

    言えないだけじゃなくて行動もできなくなるなんて。
    取り戻す為にも、どうやって隼さんに伝えるか考えます。


    ※会議室から「i」抜きへの挑戦は、挨拶も出来なくなるので断念しました。


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