【祭祀】想いを告げる衣(森静流 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 今日は紅月ノ神社の納涼花火大会です。
 21時~22時の間に花火が上がるのですが、あなたと精霊は、花火大会の席取りも兼ねて夕方頃に大輪の園にやってきました。
 夕暮れ時に、美しく咲き乱れる夏の花々を見ながら散歩。なかなかロマンチックなひとときです。
 大輪の園の中には、いくつか屋台もあり、あなたと精霊は興味深くそれらを見て回りました。
「あ、あれ……屋台??」
 屋台というには大きなテントを見つけて、あなたは足を止めました。
「貸衣装だな。浴衣、貸し出しますだって」
 精霊も同じく足を止めて、神人を振り返ります。
「浴衣、着てみる?」
「え……どうしようかな。私、着付けが分からないんだけど」
 あなたは、精霊の前で浴衣を着てみたい気持ちはあったのですが、自分で着付けが出来ないために躊躇っていたのです。それで、今日は普通のワンピース姿で来ていました。
「こういうところには、大抵、着付けの先生がいるだろう。まだ、花火の開始まで時間があるし、興味があるんなら着てみたら?」
 どうやら、精霊も、あなたの浴衣姿が見て見たいようです。
 あなたは躊躇いながらも貸衣装屋に入っていきました。
 色とりどりの浴衣は、花の柄のものが沢山ありました。
 あなたは、その中でも、好きな花である白い朝顔のものを選び出し、係の人に着せつけてもらいました。
「よく似合うね、素敵だよ」
 精霊も喜んでいます。
 そうして、あなたたちは花火の場所を取り、しばらく静かに待ちました。
 花火が上がる頃、あなたは自分から、隣に座る精霊の手を強く握りしめていました。
「いつも、どんなときも、一緒にいてくれてありがとう」
 普段は決して言えなかった言葉が自然に口からついて出てきます。今、花火を見上げながら、本心や本音をさらけ出せる。自然にそんな気持ちになっていたのでした。
「あなたがいてくれれば、どんなときだって、私は頑張れる。だから、あなたにとっても私はそんな存在でありたい。決して壊れないウィンクルムの絆を作り上げていきたいの。あなたの事が、大好き」
「……え、ど、どうしたんだ?」
 突然の事に、精霊の方は戸惑っているようですが、悪い気持ちはしていない様子です。あなたは微笑みながら、精霊の手を強く握りしめました。

--キスして欲しい

 どうやらそんな事まで、言ってしまえそうです。

解説

【解説】
個別エピソードになります。花火大会に来た神人(精霊)は、屋台の貸衣装で浴衣を着ます。
その浴衣に描かれた花の柄によって、様々な感情や記憶を精霊(神人)に吐露してしまいます。
浴衣を着るのは両方でも構いませんが、吐露するのは神人か精霊どちらか片方となります。

・朝顔 相方と絆を作りたい強い想い
・紫陽花 相方に対する不安
・梔子 今まで言えなかった秘密
・芙蓉 相方へのあらゆる情熱
・桔梗 悲しみや怒りなど負の記憶、感情
・山百合 喜びや楽しみなど正の記憶、感情

お好きな浴衣柄を自由に選んで参加なさってください!

※碑文の影響で、神人も精霊も、普段よりも本音や本心を吐露しやすい状態になっています。

※貸衣装代として300Jrいただきます。


ゲームマスターより

本音をぶつける相方を、もう片方はどのように受け止めるでしょうか!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

クロス(オルクス)

  ☆浴衣
紫陽花

☆心情
「貸浴衣? 折角だし着てみようぜ!
俺は、紫陽花にしようかなぁ♪」

☆吐露
「――なぁオルク、俺さ、このまま幸せになって良いのかなぁって考えるんだ…
あの時、3人で幸せになろうって言ったけど、普通世間じゃ叩かれる存在…
それにあの丘で将来新しい家族と…って約束したけど俺達は結婚だって入籍だって出来ない筈だ…
子供が出来たとしても、後々虐めの対象になるかも知れない…
もしかしたらオルクが俺を捨てて他の女に…(ポロポロ/抱き締められる
オル、ク…?(静かに精霊の話を聞く
ホント、か…?
本当に、オルク達は俺を、捨てない…?
うん、俺は、信じるよ…
俺達らしい、幸せ…?
――ふふっ、そう、だな…(微笑」


シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  【紫陽花】の浴衣。
こんな風にお祭りにこられて嬉しいです。
もっともっと思い出を作りたい。今度は絶対忘れたくない。
私、自分のことが許せないんです私の罪を忘れてたことノグリエさんとの約束を忘れていたこと。
思い出したことは悲しいことばかりでそれなのにノグリエさんは傍に居てくれたのに。
私、ノグリエさんのこといっぱい傷付けたんじゃないかって不安なんです。
これからも傷つけてしまうじゃないかって。
どうやって接したらいいのか分からなくなって。
私のどこを愛してくれてるだろうとかそんなことが浮かんで。
こんな風な気持ち初めてでどうしたらいいのか分からないんです。
ただ、ノグリエさんには嫌われたくない。


ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
  『今度お祭りに行くときは着てくださいねっ』って、言いましたよね?
約束は守ってもらいますよー。
と、前回夏祭りに行った時の出来事を持ち出します。
ほら、ちょうどあそこの屋台で浴衣を貸してくれるみたいです!
いきましょ、どんな浴衣があるのかなー(精霊の手を引っ張り誘導)

精霊の美しさに思わず見惚れます。
っ、ご、ごめんなさい、すぐ出ていきますからっ。

浴衣を着てから精霊の様子が変だと思いつつも、彼の誘導で人気がない場所へ。
エリオス、さん・・・?
サリア・・・って。
ど、どうして母の名を、母を知ってるんですか?
うそ・・・それじゃ、わた、わたし、は、ずっと、ずっと、貴方に、憎まれて、
ごめ、ごめんなさい、うわあああ!!


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  前(SP花火大会)にも一回来たけど、やっぱりそこそこ人がいるね

あ、その浴衣も似合ってるよ

…?ガルヴァンさん?
浮かない顔をしている精霊を心配

なに?
どうしたのいきなり?

ガルヴァンさん…

大丈夫だよガルヴァンさん
何かの作戦で離れる事はあっても、勝手にどこかに行かないよ
必ずガルヴァンさんのところに戻るよ
…ガルヴァンさんが嫌がらない限りは、だけど…

ありがとう…でもねガルヴァンさん
怪我は、すると思う
誰かを守った時とか、何かへまをした時とかで
それは仕方ないと思う
戦ってるんだから

…ガルヴァンさん
私は、顕現したからには誰かを守りたい
勿論ガルヴァンさんも守りたい
おこがましい願いだと分かってるけど、それでも守りたいの


伊吹 円香(ジェイ)
  あの、ジェイ
ジェイの浴衣姿、見たいです(にこっ
どうでしょう?
ありがとう、ジェイ!(目きらきら
柄、どうしますか?
ええ。任せてくださいっ
とても楽しげ

梔子も良いかと思いましたけれど、
芙蓉、とっても似合いますね。ジェイ

相方が髪に触れたことに気付き、振り返り
…ジェイ? どうかしました?
…なんだか今日のジェイ、いつもと違いますね
いえ。あなたはもう少し自分の思いを表に出した方が良いんですよ
柔らかく伝える
んー……。あ、貪欲
そう、貪欲さがジェイには必要だと私は思います

私もジェイのこともっと知りたいです(にこっ
自分より高い身の丈を持った相方を見上げる
知っても良いでしょうか
ふふっありがとう、ジェイ


●アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)編

 その日は紅月ノ神社の納涼花火大会でした。アラノアと精霊のガルヴァン・ヴァールンガルドは大輪の園に見物に着ています。ガルヴァンは貸衣装屋で赤い紫陽花の柄の浴衣に着替えていました。
「前にも一回着たけど、やっぱりそこそこ人がいるね」
 夕暮れ時の大輪の園を見回しながらアラノアが言いました。
 二人は花火を見るのにいい場所を探しているところです。
「ああ」
 ガルヴァンは虚ろにそう返事をしました。
「あ、その浴衣も似合ってるよ」
「そう……だな……」
「……? ガルヴァンさん?」
 アラノアは浮かない顔をしているガルヴァンの事が心配になってきました。
 ガルヴァンの胸につかえているのは、鎮守の森のデミ・オーガの事でした。
 そのデミ・オーガはアラノアに化けて、散々な酷い言葉をガルヴァンにぶつけたのです。
(アラノアは優しい……)
 ガルヴァンは、黙ってじっとこちらの様子をうかがっているアラノアの事を見つめます。
(故に偽物とはいえアラノアに辛く当たられたのは流石に応えた……。それに気を張っていてそれどころではなかったが、あの顔の大怪我も思い出せば出すほど衝撃的すぎる。アラノアにはあんな怪我を負ってほしくない)
 ガルヴァンは紫陽花の浴衣を着ているうちにふつふつとそういう気持ちが沸き起こってきたのです。
 アラノアに対する不安な思いが止まりません。
「……アラノア。お前には、無理をして欲しくない」
「なに? どうしたのいきなり?」
 アラノアは朱殷の瞳を見開いて問いかけます。
 その暗い赤の色が、鎮守の森でのアラノアの大怪我を思い出させて、ガルヴァンは頬を歪めました。
「俺は、お前には怪我をしてほしくない。必死に守っても、それでも守り切れるかどうか不安だ。お前が、いつか俺の下から離れるんじゃないかと思うと不安で仕方がない」
 溢れる不安を精悍な顔に表して、ガルヴァンは苦渋に満ちた声で言います。
「大丈夫だよガルヴァンさん。何かの作戦で離れる事はあっても、勝手にどこかに行かないよ。必ずガルヴァンさんのところに戻るよ。……ガルヴァンさんが嫌がらない限りは、だけど……」
 突然、心の中の暗い不安を吐露し始めたガルヴァンに、アラノアは戸惑いながらも応えます。ガルヴァンを安心させたいのですが、もともと自己評価の低いアラノアは、だんだん語尾が小さくなってしまいます。
「アラノア……。俺は、お前を拒まない。絶対に」
 自分も不安そうになってしまったアラノアに対して、ガルヴァンははっきりした声音で告げました。
「ありがとう……でもねガルヴァンさん、怪我は、すると思う。誰かを守った時とか、何かへまをした時とかで。それは仕方ないと思う。戦ってるんだから」
 両手をぎゅっとつかみながらアラノアは言いました。
「っ……お前は……」
 真っ直ぐな目と、願い。
 それを真正面に受けて、ガルヴァンは声を失います。
 アラノアは唇を噛みしめながらも、また、話し始めました。
「……ガルヴァンさん。私は、顕現したからには誰かを守りたい。勿論ガルヴァンさんも守りたい。おこがましい願いだと分かってるけど、それでも守りたいの」
 守られるばかりではなく、守りたい。それがアラノアの願いなのです。
「……だからお前を守りたいんだ、俺は……」
 何故こんなにも不安なのか。
 何故、アラノアを守りたいのか。
 その答えがはっきりと分かったのでした。
 ガルヴァンはアラノアの方へと歩を進め、彼女の腕に触れようとして、手を止めました。微妙な距離の二人の間を、夕暮れの風が吹きすぎていきます。

--その優しさ故に1人で抱え込まないように

 ガルヴァンの祈りが夕闇にひっそりと消えて行きました。

●伊吹 円香(ジェイ)編

 今日は紅月ノ神社の納涼花火大会です。伊吹円香と精霊のジェイは大輪の園に訪れています。花火が上がるまでの時間、大輪の園を散歩していた二人は、浴衣の貸衣装屋を見つけました。
「あの、ジェイ。ジェイの浴衣姿、見たいです」
 にこっと笑って円香が言いました。
 ジェイは隻眼を瞬かせます。
「どうでしょう?」
「私が……で、ございますか……? ……貴女のお頼みであれば」
 戸惑いながらもジェイはそう答えました。
「ありがとう、ジェイ!」
 円香は目をきらきらさせて喜んでいます。
「……貴女のお頼みであれば」
 ジェイは苦笑してそう答えました。そんなに喜ぶと思っていなかったのです。
「柄、どうしますか?」
「自分では決められません、選らんで下さりますか。お嬢」
「ええ。任せてくださいっ」
 円香はとても楽しげです。まるで円香がリードするように、二人は貸衣装屋の中に入っていきました。
 しばらくして、二人は貸衣装屋の中から出てきました。
「梔子も良いかと思いましたけれど、芙蓉、とっても似合いますね。ジェイ」
 円香はにこにこと上機嫌です。
「……ありがとうございます、お嬢」
 ジェイは礼儀正しく頭を下げました。
 それから二人は、花火のいい場所を取るために夕闇の大輪の園を歩き始めました。虫の音色が微かに響いていて、花壇では白百合が風に揺れています。
 ジェイの一歩前を円香はしっかりとしていて優雅な足取りで歩いていました。
(…何故こうも、お嬢の御髪は綺麗なのだろう)
 衝動に駆られ、ジェイは手を伸ばすと円香の髪の毛に触れました。
 円香の青みがかった黒の長髪は真っ直ぐな絹糸のような手触りでした。
 ジェイは一房を手にすくい取ってしまいました。
 円香が気がついて振り返ります。
「……ジェイ? どうかしました?」
 そこでジェイは我に返りました。
「……! も、申し訳ございません……!」
 ジェイはかっと赤くなりながら、頭を深く下げます。
 円香はほう、と息をつきました。
「……なんだか今日のジェイ、いつもと違いますね。いえ。あなたはもう少し自分の思いを表に出した方が良いんですよ」
 円香は思った事を柔らかく伝えようとします。
「んー……。あ、貪欲。そう、貪欲さがジェイには必要だと私は思います」
 ちょっと首を傾げながら円香は微笑んで言います。
「貪欲……でございます、か 」
 ジェイはちょっとびっくりしています。
 はい、と円香はいつもの笑みを向けています。
「……貴女を知りたい。心底そう思う私はきっと、既に貪欲でしょう。……円香様。どうか、私に貴女をお教え下さい」
 芙蓉の浴衣をまといながら、ジェイはいつにない情熱でそう告げました。
 ずっと幼い時から知っていた少女は美しく成長し、穏やかで優美な姿でジェイの事を見つめています。
「私もジェイのこともっと知りたいです」
 にこっと笑って円香はそう答えます。
 自分よりも背の高いジェイを見上げるのでした。
「知っても良いでしょうか」
「……知って下さいませ、お嬢」
 そのときジェイの脳裏には自分の生い立ちや過去の事がよぎりましたが、そのときは、情熱に駆られてそんなことは忘れてしまいました。
「ふふっありがとう、ジェイ」
 ジェイにどんな謎があるかすら、気がついていない円香は、ただ純粋で無邪気な笑みを浮かべて、彼の情熱を受け止めています。
 いつも謙虚で礼儀正しく、口数の少ない精霊からの情熱的な想い--。
 円香は、ジェイの全てを知った時に、そうして笑っていられるのでしょうか。いえ、きっと大丈夫でしょう。円香の強さがあれば……。

●ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)編

 今日、ミサ・フルールは精霊のエリオス・シュトルツとともに紅月ノ神社の納涼花火大会に来ています。
 ミサは大輪の園を歩きながら、エリオスに浴衣を着てもらうように頼みます。。
「『今度お祭りに行くときは着てくださいねっ』って、言いましたよね? 約束は守ってもらいますよー」
 そんなふうに前回の夏祭りに行った時の出来事を持ち出したのでした。
(あまり気乗りはしないが……)
 エリオスは子供のようにはしゃぐミサに押されて、折れてしまったのでした。
「仕方ない、今回だけだぞ」
「ほら、ちょうどあそこの屋台で浴衣を貸してくれるみたいです! いきましょ、どんな浴衣があるのかなー」
 ミサはエリオスの手を引っ張って浴衣の貸衣装の屋台に入っていきました。
「ではこの『桔梗』の柄にしようか。着付けは結構だ、自分で着れる」
 そうは言いますが、ミサはエリオスに手を貸そうと近づきます。そうして間近から、桔梗の柄を体に当てたエリオスを見てしまいました。あまりのエリオスの美しさに思わず見とれてしまいます。
「……いつまで見ているつもりだ。俺の裸に興味があるのか?」
 エリオスは意地悪な笑みで言いました。
「っ、ご、ごめんなさい、すぐ出ていきますからっ」
 ミサは慌てて着替えの部屋から出て行きました。
 程なく、エリオスは浴衣に着替えて貸衣装屋から出てきました。ミサは花火を見るためにいい場所を探しに行こうとしますが、エリオスは無言でミサの手首を掴んでどんどん人気のない暗い方に向かっていきます。ミサは浴衣を着てからエリオスの様子がおかしいことに気がつきました。
「エ、エリオス……さん?」
 やがて花壇の突き当たりに行き当たって、エリオスは立ち止まりました。
「ふふ、あはは……! この浴衣には何やら仕組みがあると見た……もう少し遊びたかったのだがなぁ」
 突然、笑い出したエリオスに対して、ミサはびっくりして固まってしまいます。
「何故俺を裏切ったサリア!」
 そのミサを睨み付けてエリオスはそう叫びました。
「サリア……って。ど、どうして母の名を? 母を知ってるんですか?」
「ああ、よく知ってるとも。かつてお前の母とは結婚を誓い合った仲だった、お前の父は俺の唯一の親友だった! ミサ、お前は俺にとって、憎しみの対象でしかないんだよ、『親子ごっこ』はもう終わりだ」
 ミサは驚愕のあまり、何も言い返す事が出来ませんでした。
 エリオスとサリアは結婚するはずだったのに、実際にはサリアはミサの父と結婚して、ミサが生まれて来ているのです。
 それならば、エリオスにとって、ミサはどれほど憎い対象でしょうか。
「まさか俺がお前の事を娘のように思っているとでも? そんな訳ないだろう、この裏切り者」
 桔梗の浴衣を身に纏った、美しいエリオスは、憎悪に顔を歪めて、吐き捨てるように言ったのでした。
「うそ……それじゃ、わた、わたし、は、ずっと、ずっと、貴方に、憎まれて、ごめ、ごめんなさい、うわあああ!!」
 あまりの出来事に、ミサは両手で頭を抱えて、その場に突っ伏すようにして泣き出しました。
 そんなミサをエリオスは憎しみと、行き場のない悲しみを感じさせる瞳で見つめています。ずっと憎んでいた娘とはいえ……。
『2人が憎しみ合わずにいられる道を探したいの』
 ミサはそう願っていました。ですが、それはどれだけ険しい複雑な道なのでしょうか。母はエリオスを裏切った女で、エミリオはそんな母と父を殺して。
 もつれた愛憎の蜘蛛の糸はますますもつれるばかりで、ミサにはほどく方法すらも分かりません。
 ただ突っ伏して泣きながら、ミサは何かに許される事を心の奥で祈っています。
 女神ジェンマがウィンクルムを守るというのならば、エリオスとエミリオとミサのもつれた糸をほどいて欲しい……。
 ジェンマの微笑みがミサに届くのはいつの日なのでしょう。

●クロス(オルクス)編

 今日、クロスは精霊のオルクスと紅月ノ神社の納涼花火大会に来ています。二人は大輪の園を歩いていて、浴衣の貸衣装の屋台を見つけました。
「貸浴衣? 折角だし着てみようぜ! 俺は、紫陽花にしようかなぁ♪」
 クロスはそう言ってオルクスを誘いました。
「そうだなぁ、よし着てみっか! オレは桔梗かな」
 そう言う訳で、二人は夏の花の柄の浴衣に着替えて外に出ました。
 虫の声がどこからともなく聞こえる紫の夕闇の大輪の園。
 クロスとオルクスはあらかじめ目をつけていた芝生の方へ行き、並んで草の上に座りました。ところどころにカップルの影が見えますが、声が聞こえない程度の距離です。
 二人は、花火が上がるのを待ちました。
「--なぁオルク、俺さ、このまま幸せになって良いのかなぁって考えるんだ……」
「クー? 一体全体どうした?」
 突然、語り出したクロスにオルクスはちょっと驚いています。
「あの時、3人で幸せになろうって言ったけど、普通世間じゃ叩かれる存在……それにあの丘で将来新しい家族と……って約束したけど俺達は結婚だって入籍だって出来ない筈だ……子供が出来たとしても、後々虐めの対象になるかも知れない……もしかしたらオルクが俺を捨てて他の女に……」
 クロスはぽろぽろと涙を流し始めました。紫陽花の浴衣が、クロスの心の奥底にあった不安を表に出させてしまったのです。クロスは次から次へと涙をこぼして、不安な気持ちを明らかにしていきました。
 オルクスはそんなクロスを抱き締めました。優しく。
「--なぁクー、確かにオレ達3人は世間からしちゃ異端だろう。結婚だって入籍だって普通なら出来やしねぇ。子供が出来たとしても苦労をかけちまうと思う……」
「オル、ク……?」
 クロスは静かにオルクスの話を聞いています。
 銀色の瞳を見開いて、オルクスの赤い瞳を見ています。赤い瞳の中には、クロスの泣いた顔が映し出されていました。
「だがオレ達は違う、クーを捨てて他の女になんか行かねぇよ。オレ達二人はクーを心から愛しているからな」
「ホント、か……?」
 半信半疑の声でした。
「他の女なんざ目に入んねぇから安心してくれ」
 オルクスはそっとクロスの涙を拭いました。
 オルクスはやけに男臭く、大人っぽい笑みを浮かべてクロスに触れているのでした。彼は、クロスが愛しくてならないのでした。
「うん、俺は、信じるよ……」
 オルクスの愛情深い手に触れられて、クロスはいくらか落ち着いたようでした。それでも不安そうに彼の掌に頬を寄せていきます。
「それにさ、世間が何と言おうとオレ達は3人で幸せになるだけだ。他人なんかどうでもいい、オレ達はオレ達らしい幸せを築こうぜ?」
「--ふふっ、そう、だな…」
 クロスは微笑みます。
 世間がなんと言おうと構わない。
 三人の繋がりは誰にも分からない、自分たちだけのものなのだから。
 そして世間ではなく、その三人の繋がりを選んだのはクロス自身なのです。
 どんなに不安でも、無理解な目にあっても、それを越える愛や喜びや、真実ががある事を知っているのは、クロス自身なのです。
(やっと笑ってくれたな……)
 オルクスはクロスの微笑みを見つめ、自分もくしゃっと笑いました。
 こんなときのクロスは本当に可愛いと思います。
 ひとしきり泣いた後のはにかんだ笑み。クロスはそれを自分のものにしたくて、そっと顔を近づけていきました。
 花火が上がり始めます。二人には見えません。
 空に轟く花火の音を聞きながら、二人は目を閉じて、くちづけをかわしていたのでした。
 お互いを信じるという意味のくちづけを。

●シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)編

 今日は紅月ノ神社の納涼花火大会です。シャルル・アンデルセンは精霊のノグリエ・オルトと大輪の園に花火を見に訪れました。そこで二人は浴衣の貸衣装の屋台を見つけ、シャルルは着替える事にしました。
 シャルルが着たのは紫陽花の花の柄の浴衣です。
 それから二人はまた大輪の園に出て、花火を見る場所を探しながら歩き始めました。夕暮れの園、夕顔の咲き乱れる花壇の側のベンチに二人は腰掛けました。
「紫陽花の浴衣。似合っていますね。紫陽花の雰囲気はどこかシャルルに似ている」
 ノグリエはシャルルに話しかけました。
(紫陽花が雨に濡れる姿は綺麗で悲しい……)
 その雰囲気にシャルルは似ていると思いますが、声には出しませんでした。
 シャルルも答え始めました。
「こんな風にお祭りにこられて嬉しいです。もっともっと思い出を作りたい。今度は絶対忘れたくない」
 シャルルを蜂蜜を溶かしたような瞳をノグリエの方に向けます。
 それから、悲しい不安を口にし始めました。
「私、自分のことが許せないんです私の罪を忘れてたことノグリエさんとの約束を忘れていたこと。思い出したことは悲しいことばかりでそれなのにノグリエさんは傍に居てくれたのに。私、ノグリエさんのこといっぱい傷付けたんじゃないかって不安なんです」
 ノグリエはいつも側にいてくれます。
 そんなノグリエを傷つけたかもしれない。傷つけていたかもしれない--そして、ノグリエは傷つけられても、笑顔で側にいてくれたのかもしれない。
 そんな不安が口をついて出てくるのです。
「……ボクに不安を告げるキミは綺麗で悲しい。キミの知った真実がキミを苛めるてしまっているのだろうけれど。……ボクがキミに関してのことで傷付いたことなんてない。まぁつまらない嫉妬や独占欲はあったけれど」
 ノグリエは穏やかな調子で答えるのでした。
 それが思いやりのための嘘なのか、本当の事なのかは、ノグリエにしか分かりません。ノグリエは不安を感じさせるシャルルの瞳を感じながら、話を続けます。
「キミがボクを傷つけたことなんて今も昔も一度だってない。あぁ、でも今は少し悲しいかな……前みたいに君が純粋に楽しむことができていないこと」
 記憶が曖昧だった時のシャルルは、様々な事を楽しむ事が出来ました。
 悲しい過去を知らないからこそ、純粋な少女でいることが出来たのでした。
 だけど今は、それが出来ないのです。
 自分が罪人なのではないかと--その不安に怯えて。
「どうやって接したらいいのか分からなくなって。私のどこを愛してくれてるだろうとかそんなことが浮かんで。こんな風な気持ち初めてでどうしたらいいのか分からないんです。
ただ、ノグリエさんには嫌われたくない」
 震える声でシャルルはそう告げました。
 両手をぎゅっと掴んで、目を閉じながら、言うのです。
--嫌われたくない--
「キミを嫌いになったりしない」
 馬鹿だな、というようにノグリエはため息をつきます。
「キミがボクを嫌いになる日が来てもボクはキミを嫌いになる日は決してこない。キミが好きな気持ちだけでボクは生きてる」
 その気持ちが真実であるのならば、心が全てシャルルに届きますように。
 ノグリエの揺るぎない愛情が、シャルルの不安を抱き締めて、癒やす事が出来ますように。
 シャルルは自分の腕を自分で抱き締めながら、微かに震えているようでした。
 自分が罪人ではないかという自覚、ノグリエを傷つけてきたのではないかという不安、それらに小さな体で耐えています。
 美しく悲しい紫陽花の柄に彩られた夕闇のシャルルは、儚げで不安そうでとてもか弱く、優しい存在でした。
 守ってあげたいという気持ちに駆られて、ノグリエはそっとシャルルの方に手を伸ばします。その手で触れてよいのか、いけないのか……不安で躊躇うノグリエの手。
 闇の中、シャルルがその手を取ったかどうかは、誰にも分かりませんでした。




依頼結果:成功
MVP
名前:アラノア
呼び名:アラノア
  名前:ガルヴァン・ヴァールンガルド
呼び名:ガルヴァンさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月26日
出発日 08月31日 00:00
予定納品日 09月10日

参加者

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