【討魔】秘め事(梅都鈴里 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

『いま、かえりたい、と思ったな、おまえ』
「……えっ?」
 問われた精霊は目を見開いた。
 デミオーガの出現と救助要請を受け『鎮守の森』へと出向いた矢先。
 目の前に現れたのは一匹の猿。
 精霊を指差し、問いかけてきたのも、その猿。
『猿が喋った、そうも思ったろう、そちらのおまえ』
「なっ……!」
『どうして思ったことが読まれるのか? 簡単なことだ、オれは『そういう存在』。おまえたちの心を、読み透かす存在』
 サトリだ、猿はそう答え、口の端を釣り上げてニイィ、と不気味に笑う。
 真っ暗な闇夜の中で、聞こえるのは猿の声だけ。頭に生やしたツノを見るに、報告にあったデミ化妖怪に相違ないだろう。
 たたっきればいい。ただそれだけのことなのに、何故だか剣を抜けない。
 神人は身をすくませ、無意識に精霊の腕を掴んだ。
『こわい、と思ったな。たすけてほしい、とも。どうだ? チガウか?』
「そっ、そんなこと」
『……読まれてしまうなら『あのこと』がバレてしまう。ソウも、考えたな……?』
「……!」
 精霊の足が一歩後ずさった。
 異変に気付いて、神人は問いかける。
「どうしたんだ? なにか……知られたくない事があるのか?」
「ちっ、ちがう! なにもない、黙ってることなんて、なにも……!!」
 二人の様子を見遣って、サトリ――猿の口は更に弧を描いた。
『そう。おまえは、秘密を抱えている。それは――……』
 猿はゆっくりと告げた。
 彼にだけは、知られたくないと思っていた真実を。

解説

▼敵情報
デミ・サトリ
心を読む以外は何もしませんが、攻撃されれば猿の爪で反撃します。
物理攻撃力、防御力はそこまで高くありません。デミ・ラットなんかと同じぐらいのレベル。

▼目的
デミ・サトリの浄化。
サトリは常に心を読み透かし、相手が狼狽するほど調子に乗りますが、思わぬことが起きると驚いて消え失せる妖怪です。
秘密や隠し事が暴露されても、二人で上手く解決すれば浄化成功となります。説得するとか、大丈夫だよと言って克服させてあげるとか。
プロローグでは演出上試していないだけで体は普通に動くので、バラされる前に物理的に叩っ斬っても勿論構いません。
どちらかといえば火力でなんとかするというより、わだかまっている確執や秘め事の解消に使って頂けたらと思います。

▼プランにいるもの
蟠りやパートナーに告げていない真実、偽りなど。
解決に持っていく行動や諭し言葉など。
暴露内容はシリアスでもちょっと間の抜けた感じの物でも、なんでも構いません。
昔楽しみにしていた相方のアイスを食べたのは自分だったとか、実は暗いところが怖いとか、言ってなかったけど別の誰かと付き合ってた過去があるとか。
本人が『隠しておきたい』と思った事なら何でもいいですが、出来ればその理由までお願いします。

ゲームマスターより

お世話になります、梅都です。
秘め事は人それぞれかなと思うのですが、何かひとつくらいは大事な人に知られたくないことって誰でもあるのではないかなとも思います。
よければお気軽にご参加ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  ■心の声、筒抜け度お任せ
そんな・・・サトリって。姿から彼かはわからないけど(依頼28、48

うん


・・・ああ、実体験があるから効かないよ
(僕は秘密あるかも。トキワや友達とよく遊ぶようになった事だとか
いや考えちゃいけない)

■明るみ
びく)ご、ごめん・・・タイガ
黙っててごめん。わざわざ言うのも怒らせそうで言いだせなくて
・・・何で嫌いなの?根無し草だけど悪い人じゃないよ


タイガには敵わないのに。僕の一番なのに
(怒り方似てる。僕の事がなければ仲良くなれそうなのにな)
ありがとう・・・最善を尽くすよ

でもどうしたら

そうだね(タイガの力だったらすぐだけれど・・・優しいね)


最終手段■狙撃
彼を救いたいと望むなら(苦悩


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  敵と会ったら即トランス。
思った事が他の人にも解るってのは、良くあることだ!
そんなのでいちいち慌てていられねーっての。

ラキアの怖れ?
ああ、ラキシスとの関係ね。
オレ、大体解ってるぜ?なんとなく。
ラキシスがそう言ってるし?
オレと出会う前から2人はずっと一緒で。
出会うまでに誰かと愛したり恋したりしてのはあるだろ。
大事なのは、今オレがラキアの事が好きで、ラキアもオレの事が好き。だろ。
一緒に居て嬉しくて楽しくて幸せじゃん?
(ラキアの頬に手を当てて撫でる)
何も怖がらなくていい。困難も2人で乗り越える。
オレが心底そう思っていると、サトリも良く解るよな?

サトリに札を使って攻撃するぜ。デミなら退治しなきゃな。


柳 大樹(クラウディオ)
  暴露:オーガではないヒトを、結果的に3回も手にかけさせたのを気にしてること

「そう言うって判ってたから、知られたくなかったんだよ!」
価値観の違いは知ってる。
けど、「俺が選んだ任務でやらせて、気にしない訳ねーだろ!」(怒鳴る
「そんなの知ってんだよ」(気にして無いこと
だから、嫌だったんだ。言う意味が無いから。(強く眼帯を掻く

「俺は、あんたを気する余裕なんて無いんだ」
(返しに睨む
扱いがよくない自覚はある。直したくても、今は無理で。(自己嫌悪
「その辺の感覚が俺と違うのは知ってるけど」それでも。
「そんなこと、させたい訳じゃない」

「そうじゃねーよ」
俺じゃなく、自分を気にしろよ。(嬉しいやらもどかしいやら複雑


李月(ゼノアス・グールン)
  トランス済
僕の武器で動き鈍らせ相棒が止めのコンボの考え
敵の挙動警戒しながらの会話

思い当たる
先日珍しく相棒宛に手紙が届いていた あれか!
「行く気ないってどういう事? 恩人なんだろ
「何で置いてく前提なんだよ 僕も行くに決まってる 関係ないとか言うなよ!
「1カ月 マジか

沈黙ののち
「ちょっと待て
 忘れていた お前がきちんと交通手段を把握している訳がない!
 1カ月は徒歩や馬を使った計算じゃあないのか!?
計算!眼鏡キラリ
「片道3日だ 飛行機!バス!寄り合い馬車!自転車!これらを駆使して
 往復と滞在日数で10日の旅だ どうだ!

「当然だ その人のお陰でお前に会えたなら 僕にだって恩人だ
敵見据え 敵が健在なら戦闘
「お前の故郷も見てみたい



「手紙」
 サトリは一言告げた。
 神人、李月ではなく、精霊であるゼノアス・グールンに向かって。
 僅かに曇ったゼノアスの表情を李月は伺いつつ、警戒も解かない。トランスは既に済ませてある。
 少しでもサトリにおかしな挙動があれば、李月の武器で動きを鈍らせゼノアスがトドメを、というコンボもお互い事前に話し合ってある。
 それだけ、息が合う様になってきたと思っていても、ゼノアスが己に告げていない真実とは一体何のことだろう。
「そう、手紙だ。思い当たる節はナイか?」
 サトリの言葉に、ゼノアスは黙ったままだ。
 けれど李月は思い出した。先日ゼノアス宛に届いていた封書の事を。
 筆不精っぽいのに、となんとなしに声を掛けてみたが、そのときは中身を確認するまでは至らず――何より。
 内容に目を通したゼノアスが、いつになく神妙な面持ちで、すぐさま手紙をしまいこんでしまった事が、印象強く残っている。
「ゼノアス、というオマエ。隣の人間と契約する前――」
 サトリはぽつりぽつりと告げた。
 ゼノアスが李月と契約する前の話。
 荒れていた少年時代、彼の目を覚まさせてくれた老人の存在があった。
 手紙は、その老人の訃報だ。
 恩人とも言える人、死に目すら看取ってやれなかった人。
 大事な人だった。けれど――。
「……行く気ないって、どういう事?」
 李月の言葉に、ゼノアスはハッと我に返る。
 墓参りに行くつもりはなかった。理由なんて解りきっている。
「俺の故郷は遠い。そんな長い間、オマエをほっとけるか!」
 開き直ったような言葉に、李月はかっと逆上する。
「なんで置いてく事前提なんだよ、僕も行くに決まってる!」
「オマエにゃ関係ねえ、これはオレの事情だ。巻き込む訳には――」
「……ッ、関係ないとか、言うな!!」
 らしくもなく視線を逸らした相棒の前へ、李月は声を荒げ一歩ほど歩み出た。
 真剣な眼差しでゼノアスを見据える。大事な事なら何だって話して欲しかった。今もそれは変わらない。
 李月の真摯な想いに射抜かれて、ゼノアスは一言、正直に告げた。
「片道一ヶ月だ」
「……一ヶ月」
「過酷な旅になる。オマエにゃ耐えられねぇ」
 ゆるゆると首を振って返された想定外の言葉に、李月は目を見開く。
 沈黙に包まれた中、ゼノアスが自嘲気味に笑い、口を開いた。
「いいんだよ、別れはとっくの前に済ませて――」
「……ちょっと待て」
 相方の言葉を遮る様に、額に手を当てた李月が口を挟む。
「僕は肝心な事を忘れてた。お前がきちんと交通手段を把握している訳がない。一ヶ月っていうのは、徒歩や馬を使った計算じゃあないのか!?」
「!? ほ、他に何があんだよ!」
 きょとりと目を丸くするゼノアスに、やっぱりか! と呆れ半分に確信を得る。
 しかしすぐさま眼鏡をキラリと光らせ、瞬く間に思考を巡らせた。
「片道三日だ。飛行機にバス、寄り合い馬車、自転車! これらを駆使し、往復と滞在日数含め、合計十日間の旅だ!」
 まくしたてる様に提案した末、どうだ!? と胸を張る李月に、ゼノアスは空いた口を塞ぐのも忘れて呆けていたが、ハッとまた我に返って。
「……おおっ!? そんなもんで行けんのか、行ってくれんのか!?」
 自分の思い至らなかった知識を目の当たりにし、羨望の眼差しで李月を見る。
「当然だ。その人のお陰でお前に会えたなら、僕にだって恩人だ」
「李月……!」
 ゼノアスは感動していた。
 知らない方法を相棒が見つけてくれた事は何より、恩人の訃報は私事でしかない。
 たかが十日間。一ヶ月に比べればずっと短い。
 それでも、自分の為に李月が着いて行くと言ってくれた事が、純粋に嬉しかったのだ。
「急用が出来た。サトリ、悪いが倒させてもらうぜ……ってアレ?」
 振り向いた時にはもう、妖怪は姿を消していた。
 揉めさせる筈が、想定外の事が起きて驚いた、とでも言ったところだろうか。
 周囲に敵の影がない事も確認して、ふう、と一息吐き出すと、李月は横目でゼノアスを伺い、少しだけ笑って呟いた。
「……墓参りついでに、お前の故郷も見てみたい」
 楽しみだ、と告げられて、華が咲いた様な笑顔に刹那見惚れた後、
「おお、見せてやる!」
 と、力強くゼノアスは頷いて見せた。


「そんな……サトリって」
 木の上から見下ろしてくる妖怪を見上げ、神人、セラフィム・ロイスは苦渋に顔を顰める。
『彼ら』を見るのは初めてではなかった。テンコ様の頼みで追いかけっこをするに至ったり、新年の挨拶に紛れ込んだり。
 ただその時はどれもこんな形ではなく、もっと日々の戯れめいた、ささやかな出会いで。
「……遊んだヤツもいるのに、戻せねぇのか」
 精霊、火山 タイガは過去を思い、ぎりりと歯を軋ませた。
 デミ化した生物を元に戻す方法は今の所見つかっていない。
 ともすれば、対処方法はひとつしかない。
「被害者をこれ以上出したくねぇ。なんとかすっぞ!」
「……うん!」
 タイガの言葉に、セラフィムは力強く頷いた。

「……? オマエたち……」
 あまり、動揺しないな。
 読み透いた二人の心に揺らぎがない事を、サトリは不審に思う。
 首を傾げる妖怪の心を逆に読んだように、セラフィムは告げた。
「効かないよ。実体験があるから」
「もう告白もしちまったし、秘密なんて無いもんねー」
 相方に続けて、挑発めいた物言いをしつつタイガは両手を頭の後ろに組む。
 その姿はあまりに楽観的で、サトリはおもしろくないな、と言う風に顔を顰めて。
 隣のセラフィムを見て――にたりと笑った。
「オマエ、動揺が見える。考えてはいけない、と、そう考えたな?」
「……」
 沈黙のまま、セラフィムの肩が少しだけ揺れた。
「【トキワ】。それがオマエの、知られたくナイ言葉か?」
 続けざまに放たれた単語は、セラフィムだけでなくタイガの心を揺さぶるには充分な三文字。
 はあ、とセラフィムは息を吐く。
 サトリを相手に僅かでも動揺してなお、黙っていても何の意味もない事は十二分に思い知っている。
「友達や、トキワとよく、遊ぶ様になったんだ。最近」
「……セラ」
「黙っててごめん。わざわざ言うのもおかしいと思ったし、何より、怒らせそうで言い出せなくて」
 突然の告白に、タイガは目を丸くして相方を見るに留まる。
 けれど、その瞳に叱責の感情は無い。
「別にー、いいけどー? セラがダチと遊ぶのは良い事だし」
「タイガ……」
 安堵しかけた瞬間。あの野郎以外は、と付け足されて、やっぱり……とセラフィムは罰の悪い顔をする。
 肩を落とす様子に、ああもう、とタイガも頭をがしがしと掻いた。
 こんな風に彼を責めたい訳じゃないのだ。内向的な相方が、外の世界へと馴染んでいく様子を、微笑ましく思う感情も変わらない。
 ただ、そこにあの精霊の姿があると思うと、酷く気持ちがささくれ立つだけで。
「……なんでそんなに、トキワの事が嫌いなの? 根無し草だけど悪い人じゃないよ」
「根無し草な時点で人として信用出来るか」
 間髪いれず答えたのはタイガではなくサトリだ。おかしそうに、くつくつと笑って二人を見ている。
 タイガが一つにらみを効かせると「おおコワイ」と言って閉口した。
 気に入らないところなら、トキワの全部だ。セラが好意を寄せている時点で腹が立つ。
「……ああ畜生! そうだよ只の嫉妬だ!サトリの前だから隠さねーけど。どうひっくり返しても変わんねぇからな」
「タイガ……」
「何も口出しするつもりはねぇけど、そう思ってるって事だけは伝えておく。セラが悲しそうなのは嫌だしさ」
 今度はタイガの方が罰の悪そうな顔をして、ぽりとひとつ頬をかいた。
(怒り方が、似てる)
 セラフィムはふと、そんなふうに思った。自分に、負い目を感じさせない様な怒り方を、タイガはしてくれる。
 その様子に、セラフィムは今ここに居ない精霊の姿を重ねた。
(……僕の事が無ければ、仲良くなれそうなのにな)
 自分の為に二人が、怒ったり悲しんでくれたりする事は、純粋に嬉しいけれど。
 それで二人の仲が悪くなってしまうのはひどく複雑だった。
 僅かに陰の落ちたセラフィムを見て、サトリはまた楽しそうに口角を吊り上げる。
 口を開こうとしたその時、タイガが痺れを切らしたように吠えた。
「いい加減にしろサトリ! お前は一体、何がしたいんだ!?」
「……オレはそういう存在だ。心を読み透かし、取って食おうとするのは息をするのと同じこと。何やらこの妙な角が生えてから、人間に対するその欲求は強くなった」
 サトリは言う。心を読まれ狼狽した人間を食うのは簡単だと。
 思いほど純然な生命の源たるエネルギーは他にないのだと。
 それならば、とタイガは考える。 
「心が読めるなら、心で訴えるのも手か」
「……そうだね」
 優しい、と。セラフィムはタイガを見て思った。
 彼の力を以ってすれば、サトリを退治するだけなら造作も無いことだ。
 けれど、力ずくではなくて。以前出会ったサトリの事もずっと彼は覚えていて――。
(……お前を救いたい。どうしたい? 叶えたいこと、叶えられる範囲なら聞いてやれる)
 目を閉じて、タイガは強く願う。その思いにサトリは驚いた。驚愕した。
 そんな風に――堕ちた妖怪である自分に語りかけて来た者は、今まで居なかった。
「……イミがわからない。ああ驚いた、おどろいた……」
 吃驚して、狼狽して、それから。
 角を残して本体は消え失せ――その角も程無くしてさらさらと砂の様に、風の中へ散った。
「救えたのかな? 俺は……」
 その様子をじっと見据えていたタイガがぽつりと言葉を落とす。
「うん。……きっとタイガの気持ち、通じたよ」
 最終手段にと準備していた銃器をそっと下ろして、セラフィムはタイガの肩を優しく叩いた。


「小人、ヒト……オーガではない、ヒト」
「……」
「黙っていてもわかるぞ。ソレが、お前の心のキズか」
 サトリは、神人、柳大樹を長い指で差して、ニヤニヤと歪に笑う。
 ――柳大樹は、オーガではないヒトを、結果的にとはいえ三度も、パートナーの手にかけさせた事を気にしている――。
 サトリが、精霊クラウディオへと向けて言い放った言葉の概要であった。

「問題は無い。何を気にする事がある」
 サトリの動きを警戒しながら――大樹を庇う様に前へ出ながら。
 淡々とクラウディオは言う。俯いた大樹の表情に、影が差した。
「そう言うって判ってたから、知られたくなかったんだよ……っ」
 珍しく、苦い顔を隠せもせず、視線を逸らしたまま返す。
 決して短くはない付き合いの中で、価値観の違いは嫌と言うほど身に染みている。
 詮無いことだ。こんなのは――こんなどうしようもない事実を腑に落とそうと言うのは、単なる自己満足でしかない。
 それでも、そんな大樹をじっと見据えるクラウディオには。
「大樹の言い分がわからない」
 精霊の心を声に出したのはサトリだ。
 二人が揉めて隙を作らないかと待ち侘びている。
 そんな敵の動向を把握しながらも、決して相手にする事は無く、クラウディオは大樹から目を逸らさない。
「私の任務は大樹の護衛だ。その上でウィンクルムの任務を行っている」
「俺が選んだ任務でやらせて、気にしない訳ねーだろ!?」
 らしくなく大樹は声を荒げる。あくまで冷静に、淡々と思いを突き返してくる精霊の態度に苛立った。
「私は……」
 言いかけて、逡巡する。怒りの滲む声の矛先は、クラウディオ自身に、だろうか?
 それとも――否、どちらにしても。
「私は何も、気にしていない。……大樹」
 どちらにしても、これが正しい答えだ。
「……そんなの知ってんだよ」
 ああほら、堂々巡りだ。だから嫌だった。
 こんな事、口に出しても何の意味も無い。価値観が違う以上、分かり合うことなんて出来ない。
 でも――そんなの。分かり合えないからって、そんな風に割り切る事が出来るほど、きっと大樹の心は器用に出来てはいなくて。
 やりきれない思いを、眼帯を強く掻く事で遣り過ごそうとした時、やわりと黒に包まれた手がそれを止めた。
「大樹が私を気にする必要は無い」
 見上げた先のクラウディオが、ゆるゆると静かに、首を横に振る。
「俺には、あんたを気にする余裕なんて無いんだ」
 掴まれた手は振り解かないまま、大樹はクラウディオを睨み付けた。
 扱いがよくない自覚はある。直したくても、今はどうやったって無理で。
 そんな自己嫌悪の繰り返しだ。この不器用な精霊と過ごす日々は。
「その辺の感覚が俺と違うのは、知ってるけど……」
 それでも、と大樹は願う。掴まれたのと反対側の手で、今度はクラウディオの漆黒のローブをぎゅう、と握り締めた。
「そんなこと、させたい訳じゃないんだ」

 ――契約当初。大樹が自分に全く興味が無かった事を、クラウディオはよく知っている。
 興味がないどころか苛立たせるばかりだった。第一印象は殆ど最悪。四六時中付き纏われる事に嫌悪する感情を、常に隠しもしなかった。
 けれどいつからか、そんな精霊の存在が視界に入り始めた事も解っている。
 そして今、大樹はおそらく『向き合う』と言う事を、しようとしているのだろう。
 大樹に精神的な余裕が無い事も、安定して見えるのが表面上だけであることも全部、クラウディオは理解していた。
「……大樹が、気にするのなら……」
「……?」
 考えた末、落とされた言葉に、大樹は逸らしていた視線を合わせる。
「今後は、考慮しよう」
 それで大樹が落ち着くのであれば。
 無愛想な表情を少しも変えずに、そうクラウディオは付け足した。
 大樹は一瞬、ほんの少しだけれど、呆気に取られた顔をした。
 目の前の精霊が――自分はこうだからいい、と、スタンスをまるで変えなかった無骨な男が。
 大樹が吐き出した事で、遣り方を変えよう、と。そう言ったのだ。
 そしてそれはきっと、お互いにとって大きな進歩で。
「そうじゃねーよ」
 俺じゃなく、自分を気にしろよ。
 思ってようやっと、いつまでも離してはもらえなかった手を振り解く。
 いつもの大樹だ、とクラウディオは無意識に、小さく息を吐いた。
 いつまでも動きがないな、と見上げた先で、サトリは既に消えうせていた。
(……複雑だ。なんだこれ)
 抱えてきた苦味を吐露した事で、少しだけ変わったお互いの距離感。
 嬉しいやら、もどかしいやら。
 先程までの怒りとはまた別の、やり場のない思いを抱えたまま、大樹は精霊に背を向けた。


「思った事が他の人にも解る? よくあることだろ、そんなの」
 きっぱり、はっきりと言い放った神人、セイリュー・グラシアに、サトリは一歩後ずさった。
 そんなのでいちいち慌ててられねーっての、なーラキア? 目の前で繰り広げられるやりとりに、しかし、精霊ラキア・ジェイドバインの怖れを、サトリは見逃さなかった。
「パートナーのオマエ、兄、ラキシス……そうか」
 にやりといやらしく、小馬鹿にするようにサトリは笑う。
「幻滅されるのがコワイ、知られたくナイ……良い色の恐怖だ」
「……ラキシスと、ラキアの事なら。大体解ってるぜ、オレは」
 ラキアを見るサトリの視線から庇う様に、セイリューは一歩前に出る。
 それでも、精霊の顔は僅かに青褪めていた。
(セイリューに知られるのは、怖い)
 ラキアは恐怖する。この話がお互いの間に出るのは、何も初めてではないのだ。
 何度かラキシスとセイリューは出会っているし、会話もしているし。
 自分と似通った容姿である兄とセイリューの仲に、嫉妬した事だってある。
 その都度兄は「ラキアは恋人だ」と言って止まなかった。
「過ぎた寵愛。歪な愛情。オマエはソレを心地良く受け入れていた、変わらない過去ダ」
「……っやめて」
 サトリが全て見透かして笑う。ラキアには、搾り出す様な一言がやっとだった。
 いくら取り繕ったって、今の兄に調子付くなと当時を否定しようとも、あの頃の自分が兄を受け入れていたのは事実なのだ。
 そしてそれを、きっとセイリューは知らない。
 どれほど深かった仲か、それが特異で異質だと、今は充分に解るぶんだけ比例して。
 大切な神人に、その事を知られたら、寄せてくれている好意が冷めてしまうのではないかと。
「変なヤツ」そう言い放って、どこかへ去ってしまうのではないかと――。
「ラキア……」
 セイリューは、じっと黙ってラキアを見ていた。
 どうしたらいいだろう、と思う。だってセイリューは実のところ、何も気にしてなんていないのだ。
 ムーンアンバー号の中で夢に見た過去の二人。兄弟愛と言い切ってしまうにはあまりに行き過ぎた関係。
 あれは嘘偽りないラキアの過去だった。
 目の前で繰り広げられた仲睦まじい二人の密事は確かにセイリューを不安にさせた。
 けれど、そうと知っても、全部受け入れて、黙って覚えておこうと決めたのだ。
 それは紛れも無く、他の何にも変え難い、今のラキアを形成するに至る過去なのだから、と。
「……大事なのはさ、ラキア」
「っ、」
 セイリューの手が、ラキアの頬に触れる。
 少しだけ肩を揺らして、それまで合わせる事も出来なかった視線を、ようやくラキアはパートナーへと向けた。
「大切な事は。今、ラキアがオレを好きで、オレもラキアが好きだ、って事だろ」
「……でも、当時の俺とラキシスを見たら、きっとセイリューは……」
 ラキアが全てを言い切る前に、セイリューは首を横に振って「変わらない」と惑い無く告げた。
「オレがラキアと会うまで、二人はずっと一緒で。出会うまでに他の誰かを愛したり、恋したりなんて事はあるだろ。それがたまたまラキシスだったってだけだ」
「セイリュー……」
 ラキアの頬に当てた手でそのまま、やんわりと白い肌を撫でた。
「一緒に居て、嬉しくて楽しくて、幸せじゃん。何も怖がらなくていい」
 サトリは動揺した。ラキアの心情に反して、セイリューが何一つ迷わなかったこと。
 けれどこれに一番驚いたのは、ラキアだった。
(こういう性格だって、知っていたけど)
 セイリューが朗らかに歯を見せて笑う。あまりにも純粋で、真っ直ぐな思いが、サトリでなくても読み取れる。
 無知を建前に全て享受していた過去も、怯えながら何一つ晒せず居たくせに、どこかで知って受け入れてほしいと願っていた、身勝手な自分の事も。
 ぜんぶ許された気がして、ラキアは安堵した。
「ありがとう。……もう、大丈夫だから」
 頬に置かれていた手に頭を摺り寄せ、その手を取って、セイリューの気持ちに微笑み返す。
 サトリへと視線を戻した瞬間、驚愕のまま静かに姿を風に溶かし、やがて完全に消えうせた。



依頼結果:成功
MVP
名前:李月
呼び名:リツキ
  名前:ゼノアス・グールン
呼び名:ゼノアス/ゼノ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 08月23日
出発日 08月30日 00:00
予定納品日 09月09日

参加者

会議室

  • セイリュー・グラシアとLBのラキアだ。
    プラン提出でーきーたー。
    ギリギリで超焦った。おのれ、モ=ジスウめ。
    皆、巧く行くように祈っている!

  • [4]柳 大樹

    2016/08/29-20:35 

    柳大樹とシノビのクラウディオ、参加するよ。
    よろしく。

    個別っぽいね。
    サトリには前に会ったことあるけど、今回のはデミ化してんのか。
    どうなることやら。

  • [3]セラフィム・ロイス

    2016/08/28-23:37 

    :タイガ
    よっ!俺タイガと相棒のセラだ。
    相手はサトリか・・・あいつかどうかわかんねーけど何かと妖怪とは縁があるんだよな
    最善を目指すけどさ・・・

    ま、皆の検討も祈ってる!頑張ろうぜ!

  • [2]李月

    2016/08/27-18:38 

    李月と相方ゼノアスです。
    よろしくお願いします。


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