【祭祀】君と屋台の焼きそば(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 屋台の脇を通ると、ソースの香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。

「やっぱり粉ものがいいかなぁ」

 パートナーの手を握って、人混みをかき分けながら進む。
 粉ものが、とは言ってみたものの、パートナーは綿あめに釘づけだ。

「ふわふわだね! 美味しそう!」

 むしろふわふわなのはこの人の頭なのではないだろうかと思いつつも、ここで喧嘩になってもまずい。
 ぐっと押し黙って、先を進む。綿あめでは腹は膨れない。

「いらっしゃいませ!」

 呼び込む声に、足を止める。

『巷で  と評判の焼きそばの店』

 もう、嫌な予感しかしない。
 げんなりしつつ、他の店をあたろうかと探してみる。

「一つください」

 ふわふわ頭が何か言った。

「ちょっ、おまっ、待って、コレ記憶なくなる系だから! ねえ待って!?」

 慌てて引き止めるも、時すでに遅し。焼きそばは見る間に作られていく。

「ソースはどれになさいますか」
「えっと……辛い、甘い、衝撃……、衝撃?」
「まっ、それ絶対ダメなヤツ!」

 なぜ、このふわふわ頭は途中で止めたのか。
 もう少し目を向ければ、他にも『酸っぱい』『普通』『長い』とある。
 ――長い?
 ソースの味としては不適切すぎる。その上、もう衝撃焼きそばができあがってしまっている。
 変更はできない。

「お待たせしました、300Jrです」

 相変わらず高い。
 渋々受け取りながら大輪の園まで移動する。
 これだけ広ければ何があっても大丈夫だ。
 焼きそばを一口、パートナーが口に運ぶ。その様をじっと見つめる。

「あ、今日ね、二人目の精霊と契約してきたの」
「――はっ!?」

 なんだ、この衝撃。
 ――あ。衝撃って、そういう……。

 あの変な空白はまた塗り潰したらしい。

解説

『巷で適当と評判の焼きそばの店』です。

ソースは6種類からお選びいただけます。

1.辛い……辛すぎて発汗が促されますので、鎖骨ちらりとか! 胸元がちょっとちらりとか! あるかもしれません。
2.甘い……やたら甘い台詞を言うようになります。
3.衝撃……さらりと爆弾発言をします。そういうよくわからないソースです。
4.酸っぱい……食べると酸っぱさのあまり、涙目で見つめて酸っぱい過去を語り出します。
5.普通……記憶なくなる系。食べると一時的に記憶をなくします。記憶を取り戻すには何かの衝撃を与えてあげてください。
6.長い……ソースは一般的なものですが、焼きそばが物理的に長いです。二人で食べればお顔が近づくぎりぎり耐久レースとなります。キスしたっていいんですよ!

どのソースにも言えることですが、人目があるのでほどほどで止めてあげてください。
『長い』以外は神人さん、精霊さんのどちらかが食べください。
(長い焼きそばは二人で食べることが前提です)

ちょっとセクシーさを醸し出すもよし、黒歴史を語るもよしです。


プランにて「甘い台詞を言う」というご指定だけの場合は、
なんだかよくわからない気障ったらしい感じの台詞が連発されるだけとなります。
もしくは『酸っぱい(物理)』などの可能性もございますので、予めご了承ください。
※ソースの効果は一時的なものですので、時間が経てば元に戻ります。

目的としては、相手の発言にどぎまぎ、しどろもどろ、な感じを楽しんでいただければと思います。
長い焼きそばに関しては、そのままなので、どちらかが耐えかねて折れるもよし、そのまま意地で突っ走るもよし、それ以外でも大丈夫です。

焼きそばの代金として、300Jrが必要です。

ゲームマスターより

屋台の定番はなにかなぁと考えておりましたら、どうしても焼きそばしか浮かびませんでした。
だって、それ以外でキスできな……

最近キス推し過ぎる気がしています。

ジャンル不問でお待ちしております。
特に衝撃ソースに関しましては、本気の衝撃発言でも全然問題ありません。
まさかの暴露とか、大丈夫です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リヴィエラ(ロジェ)

  長い焼きそばを注文

リヴィエラ:

屋台って見るだけでもわくわくしてきますね!
大丈夫です、貴方から離れないと誓ったのは私ですから。
何かあったら、私がロジェを守ります!

えぇと…巷で評判の焼きそば…?
まぁっ、素敵! ロジェ、私も食べてみたいです!

そ、そうですか?
ではこの、『長い』焼きそばをお願い致します。
(注文してから、二人で食べる事が前提と知りドキドキ)

(食べ始めると、麺が繋がっている事に気づく)
はわわっ…! ロジェ、麺が、麺が…!(顔を真っ赤にして目を回す)
ロジェ、お顔が近いれふ~っ!(涙目)

!!??

(食後の挨拶は? と聞かれ)
は、はひっ…ご、ごちそうさま、でっ…でででしたっ…!


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  ソースの味なのに、「長い」って?
凄く気になったので、長いで注文
どんな味がするか気になるねと、羽純くんを見れば…彼は渋い顔
も、もしかして焼きそば嫌いだった?
え?そういう訳じゃない?
取り敢えず出来たし、熱い内に食べようよ
評判の焼きそばだもん、きっと凄く美味しいよ!

うん、普通に美味しいね♪
けど、何だか麺が長いような?
あれ?もしかして…これって一本になってて羽純くんが食べてるのと繋がってる?
思わず離そうとしたら、羽純くんの一言
うう、確かに食べようって言ったのは私だし…
普通に美味しいけど…どんどん羽純くんと近付いていって…
ああ、もう…恥ずかし過ぎて駄目…!
思わず目を閉じた所で…

も、もう…羽純くん…(涙目


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  長い。
その言葉がどうにも引っかかりました。
私、気になると確かめずにはいられないので。
「長いのを下さい」って言っちゃったんです。

あら。本当に物理的に長いって意味でしたか。
しかもそんな食べ方推奨だったのですね。
より美味しいかもですか?それは試して確認しなくては。
では、端っこ同士を口に。
そのまま、もぐもぐします。
どの位長いのかとても気になりますから。
まさかこれ1本しか無いなんてことは…
あったりして?
沢山ありそうで、実は1本のみという鋭意的焼きそば。
それはそれで斬新過ぎる気がします。
(注:1本でも数本でもOK)

フェルンさんの顔が近付いてきて、やっと本当の意味に気が付きました。
ち、近いです。
固まります。


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  食べて大丈夫ですか?(心配

かき氷をつつきながら
…カルヴァドスさんも、誘えばよかったでしょうか

…えっ?
見上げて硬直
食い入るように見つめ

取り繕う精霊に
ねぇ、カルヴァドスさん?

確信
時折感じるデジャヴ
もう一人の精霊に対する戸惑いと敵対心
全て合点がいく
止まらない涙

待って!!
去ろうとする精霊の背に抱き着き
ずっと、会いたかったんです、もうどこへも行かないで…!

嘘なんかついてないです
だって、ジュニールとしては「はじめまして」でしょう
あの村であなたが身を守る術を教えてくれたから、私は今ここにいて…大切なあなたにもう一度会えたんです

契約より前から私を守ってくれた
そんなあなた以上に、相応しい精霊はいないでしょう?


スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
  5.普通
見た目は普通の焼きそばよねー
どんな違いがあるのかしら?
美味しそうだからクロスケが食べる前に食べちゃお

…ってあれ?
私、スティレッタって名前なの?
あなただぁれ?
私の精霊?ってことは私達ウィンクルムなの?
すごい!じゃあ私達恋人?
え…そっかぁ…違うのね…
だってこんな格好いい人と恋人になれたら素敵じゃない?
えへへ。照れてる。でも格好いい
私達、いつか恋人になれるのかしら?

って、へ?バルダー?
顔近いわよ…?

…って。あら。記憶無くしてたみたいね
ふふふ。クロスケ、私を助けてくれるためにしてくれたの?
そんなガッカリしないでよ。ホラ
焼きそば食べて
これ食べればさっきのことも忘れちゃうから
ほら、あーんして?



「ソースの味なのに……」
 桜倉 歌菜がぽつりと言って首を傾げる。
 ソースの種類としては不自然な言葉だから、分からないでもないが。
「じゃあ、『長い』で」
 注文した途端、月成 羽純はどこか遠くを見つめた。
 ――歌菜の奴、看板をちゃんと見てなかったな……。
 ある意味気になるものではあるが、せめて普通が良かった。
「どんな味がするか気になるね、羽純くん」
「うん? ああ、そうだな」
 ――覚悟を決めるか……。
 注文をした以上はやむを得ない。
 どれも微妙なことに変わりはないし、こうなれば腹を括るほかない。
 けれど、なんとも言えない気持ちが晴れるはずもなく、そのうえでの渋い表情もすぐに取り繕えるものでもない。
「も、もしかして焼きそば嫌いだった?」
 歌菜は羽純の渋い表情の理由をそちらにもっていったようだが、羽純は首を横に振る。
「いや、焼きそばは嫌いじゃない」
 むしろ、『長い』に引っかかっているのだ。
「そう?」
 などと言っている間に、焼きそばが出来上がる。
「とりあえずできたし、熱いうちに食べようよ」
 受け取った歌菜は期待に目を輝かせている。
「評判の焼きそばだもん、きっとすごく美味しいよ!」
「そうだな、美味いといいな」
 ここまで無邪気に、疑いもしていない様子を見ていると怒る気すら起きない。
 嬉しそうだし、まあいいか、なんて思ってしまう。
 ――惚れた弱みか。
 苦笑いを浮かべてそんなことを思う。
 適当な場所を探して席に着くと、ひとつの焼きそばを食べ始める。
「うん、普通においしいね」
「ああ、普通にうまいな」
 上機嫌な歌菜に、羽純も頷いた。
 味は、普通だ。特別不味くもなければ、驚くほど美味くもない。
 ただ。
(でもなんだか長いような?)
 食べても食べても焼きそばの端が見えてこない。
「長い……」
 ちょっと長い、とかではなく、ものすごく長い。
 羽純が思わず零してしまうのも分かる気がする。
(あれ? もしかして……これって一本になってて羽純くんが食べてるのと繋がってる?)
 ようやく言葉の意味に気付いた歌菜が、思わず焼きそばを離しかける。
「歌菜が食べたいと言ったんだから最後まで離すな。責任を持って食べろ」
 歌菜の様子に、羽純はぴしゃりと言った。
 こう言ってしまえば、歌菜が食べることを止められなくなる。
(うう、確かに食べようって言ったのは私だし……)
 計算のうえで言ったのだから、少し意地悪だったかとも思うが、よく見なかった歌菜も悪い。
 ――これくらい、役得があっても許されるだろう。
 怒る気は失せてしまったが、悪戯心はいくらでも湧いてしまう。
 少しずつ焼きそばが短くなり、互いの距離が近づいていく。歌菜は当然、最後まで離さず食べているが、真っ赤になって小刻みに震えている。
(ああ、もう……恥ずかしすぎて駄目……!)
 堪らず歌菜が目を閉じた瞬間、一気に食べきって唇を重ねる。
「――っ!」
「ご馳走様、美味かった」
 歌菜は顔を覆いって恥ずかしさに相変わらず震えている。
「こういうやつなら、また食べてもいいな。可愛い歌菜も見られるし」
「も、もう……羽純くん……」
 涙目で睨まれても、まるで説得力はなかった。


「見た目は普通の焼きそばよねー」
 湯気のあがる焼きそばを眺めて、スティレッタ・オンブラが呟く。
「どんな違いがあるのかしら?」
 先に席に着いたスティレッタに遅れて、バルダー・アーテルがやってくる。
(美味しそうだからクロスケが食べる前に食べちゃお)
 バルダーが席に着くよりも早く、焼きそばの誘惑に負けて手を付ける。
「あ。ちょ馬鹿! 俺が食おうとした焼きそば!」
 まさか一口目を取られるとは思っていなかったバルダーが声を上げる。
「……ってあれ?」
「……は? どうした、スティレッタ?」
 二の句を継ごうかと思っていると、スティレッタの様子が何やらおかしい。
「私、スティレッタって名前なの?」
「は?」
 もう一度問い直した。
「あなただぁれ?」
「あー……」
 バルダーの思考は今、あらゆる意味で混乱気味だ。
 ――これは記憶喪失か……?
 それでも冷静に事実を見定める。
 自分の名前も忘れているようだから、まずはひとつずつ情報をスティレッタに伝える。
「俺は精霊のバルダーだ。で、お前は神人」
「私の精霊? ってことは私たちウィンクルムなの?」
「ああ、そうなるな」
「すごい! じゃあ私たち恋人?」
「……いや恋人じゃないが」
「え……そっかぁ……違うのね……」
 スティレッタの記憶がどうのよりもまず、このいつもと明らかに違う彼女の様子にバルダーは戸惑った。
「……そんな残念そうな顔するな」
「だってこんな格好いい人と恋人になれたら素敵じゃない?」
「って、はぁ!?」
 思わず前のめりになりかけた。
「えへへ。照れてる。でも格好いい」
「か、格好いいって……う、むぅ……」
 調子が狂う。
 はっきり言って、今目の前にいるスティレッタは、まるで少女だ。些細な言葉に一喜一憂して、きらきらと目を輝かせて言葉にする。
「その言葉はありがたく受け取っておこう」
 おそらく否定するだけ無駄だ。
「私たち、いつか恋人になれるのかしら?」
 どうすれば、調子の狂わないいつものスティレッタに戻るだろうか。
 ――ショックを与えたら治るんだろうか?
 なら、いっそ殴ってみるか。
 ――いやだが殴るのは良心が痛む。
 そこまで考えを巡らせて、ふと思考が止まった。
 恋人に見えるのなら、この際そうすればいい。それに、過去数回、スティレッタには唇を奪われている。
「今日だけだからな? キスするのは!」
 そう言ってスティレッタの唇にバルダーが唇を重ねる。
 軽く触れて離れると、分かりやすいほどの羞恥がバルダーを襲う。
 ――恥ずかしくて死ぬ!
 そのうえ、スティレッタと目が合ってしまった。
「って、へ? バルダー? 顔近いわよ……?」
「戻った、か?」
「……って、あら。記憶失くしてたみたいね」
 記憶を探るようなスティレッタから、バルダーは距離を取った。
 治ったようで何よりだが。
「ふふふ。クロスケ、私を助けてくれるためにしてくれたの?」
 言葉にされると、息の根を止められそうだ。
 あの純真なスティレッタがなぜか懐かしく思えてしまう。
「そんながっかりしないでよ。ホラ、焼きそば食べて。これ食べればさっきのことも忘れちゃうから」
 いつものスティレッタだ。調子は狂わないが、他のものが狂いそうでならない。
「ほら、あーんして?」
「そんな恥ずかしい食い方できるか!」


「屋台って見るだけでもわくわくしてきますね!」
 ごく一般的な感覚から言っても、縁日の屋台というのは心躍るものだ。
 リヴィエラにとってはなおさら楽しいだろう。
 とはいえ。
「あんまりはしゃぐなよ?」
 釘を刺しながらリヴィエラの手を取る。
「この客の数だ、どこにマントゥールがいたっておかしくないんだ」
 はぐれないように引き寄せて、辺りを警戒する。こんな人混みこそ、奴らには格好の的だろうから。
「大丈夫です、あなたから離れないと誓ったのは私ですから」
 つい先日、一人で屋敷へ行ってしまったリヴィエラがしてくれた約束だ。
「ああ、なにかあっ――」
「なにかあったら、私がロジェを守ります!」
 言われて、片手で顔を覆った。やけに男前な台詞に照れた、とは言えない。
 屋台を見て回りながら、リヴィエラが足を止める。
「えぇっと……巷で評判の焼きそば……?」
 読み上げて、リヴィエラがぱっと表情を明るくした。
「まぁっ、素敵! ロジェ、私も食べてみたいです!」
「待て、リヴィエラ。この店、なんだか怪しいぞ」
 明らかな塗りつぶしのある看板は、不自然さしかない。しかも。
「この変なソースのものはやめておけ」
「そ、そうですか?」
 ソースの味がどう考えてもおかしい。
 そもそも味覚では測れないものすらあるのだ。マントゥールの手先かもしれない。
「では、この、『長い』焼きそばをお願いいたします」
 ――『長い』というのはなんだ……?
 味ですらない。が、リヴィエラは長い焼きそばを頼んだ。
 見た目も香りも怪しいところはない。単に、物理的に長いだけのようだ。
 二人で食べる前提ではあるようだが、量も申し分はない。
 座って食べられそうな場所を探して席に着く。
 食べ始めてすぐは気づかなかったが、食べ進めていくうちに、どうやらこれは一本であるらしいと気づく。
「はわわっ……! ロジェ、麺が、麺が……!」
「べっ、別に繋がっていることくらい、なんてことないだろっ」
 繋がっていることはなにということはなくても、このまま食べ進めると――。
 その先を考えたらしいリヴィエラが顔を真っ赤にする。
「ロジェ、お顔が近いれふ~っ!」
 涙目になりながら、それでも懸命に食べているあたりは完全に混乱をしているなと思いながらも、自分自身の顔も熱くなっている。
 慌てて視線を逸らし、あわあわとするリヴィエラに声を掛ける。
「黙って食べないと、周りの客が俺たちを見るぞ?」
「それも困りまふ~!」
「じゃあ黙って食べろ」
 時間をかけていては本当に周囲に気付かれてしまう。
 一気に食べ進めると、リヴィエラが硬直したように動きを止めた。
「!!??」
 柔らかくキスをして、そのまま麺を噛み切る。
 さすがに平気な顔でリヴィエラの顔を見ることはできずに、そっぽを向く。
「ご馳走様」
 目を合わせない代わり彼女の頭を撫でて、素っ気ないとも思えるようにぽつりと言葉が漏れる。
「は、はひっ……」
「リヴィエラ、食後の挨拶は?」
「ご、ごちそうさま、でっ……でででしたっ……!」
 目を回しているリヴィエラにくすりと笑って、その頬にキスをする。
「はわっ!?」
「ソースがついてた」
 そんな嘘を織り交ぜて、君に触れる喜びを独り占めする。


 酒が入っていたこともあって、ジュニール カステルブランチはノリと勢いで焼きそばを頼んだ。
「衝撃……」
 秋野 空が不安げに見つめる。
「大丈夫ですよ。見た目は普通ですし、衝撃……の美味しさでしょうか?」
 やはり空の不安は消えない。
 別の屋台で空がかき氷を買って人混みから離れる。適当な席を見つけて座ると、かき氷をつつきながら言葉を漏らす。
「……カルヴァドスさんも、誘えばよかったでしょうか」
 ジュニールが焼きそばを口に入れ、嚥下したあとで首を傾げる。
「なぜです?」
「せっかくですし、ジューンもカルヴァドスさんと親睦――」
「彼は偽物です。カルヴァドスは俺ですから」
 空の手がぴたりと止まる。
「……えっ?」
 食い入るような視線にジュニールがようやく気付く。
「……えっ?」
 自分で言った言葉の意味が瞬時には理解できなかった。
 ――……しまった!
 ほんのりと回っていた酔いが一気に醒めていく。
 今まで隠し通してきたカルヴァドスの正体を、こんな形であっさりと告げてしまった。
 ずっと空に嘘をついていたのだ。
 幻滅されてもおかしくない。
 ――嫌われる? 契約破棄?
 それだけならまだいい。あの男に、空を奪われてしまう可能性だってある。
 最悪のシナリオが脳内を駆け巡っていく。
 取り繕ってでもごまかさなければならない。
「お祭り楽しいですね!」
「え、ええ……」
「焼きそば、美味しいですよ!」
 言いながらさらに食べる。味などまるでしないし、祭りが楽しいなど今は嘘も甚だしい。
「ねぇ、カルヴァドスさん?」
「なんですか、空さん……ッ?!」
 反射的に呼んでしまってさらに墓穴を掘った。
 項垂れながら次の言葉を待ちわびて、空に目を向けると彼女の涙に心臓が掴まれたような衝撃が襲う。
 身体が、まるで動かなくなった。
 笑顔を守ると決めた人を、泣かせてしまった。
「不思議だったんです。ジューンが彼に敵対心を向けることも、ときおり感じる既視感も……」
 思わず背を向けて、逃げるように立ち去ろうとすると、背後から空に抱き着かれた。
「待って!」
 抱擁ではなく、捕まえるような、強い力に足を止める。
「ずっと会いたかったんです、もう、どこへも行かないで……!」
 知っている。
 空がずっとカルヴァドスに会いたがっていたことくらい。
 けれど。
「俺は……契約の時、ソラに嘘をつきました。こんな奴が貴女のパートナーだなんて……」
「嘘なんかついてないです」
 自虐的な言葉を、空は否定する。
「だって、ジュニールとしては『はじめまして』でしょう?」
 それでも、あの時カルヴァドスだと言っていれば、嘘をつき続ける必要などなかった。
「ずっとお礼が言いたかったんです。あの村であなたが身を守る術を教えてくれたから、私は今ここにいて……大切なあなたに会えたんです」
 知っている。
 カルヴァドスに伝えきれない感謝の気持ちを抱いていることも。
「契約より前から私を守ってくれた。そんな、あなた以上に相応しい精霊はいないでしょう?」
「俺がパートナーで……ソラの隣にいてもいいんですか?」
「ジューンでないと、だめなんです」
「ああ……ソラ……!」
 抱き締めて、奪うように口付ける。
 丸ごと包み込んでくれるその慈愛に、すべての罪悪感が洗い流されていくような気がした。


 瀬谷 瑞希が注文をする前から、周囲を見渡していたフェルン・ミュラーには、なんとなく焼きそばがどんなものか察しがついていた。
「長い……」
 けれど、瑞希は周囲の様子よりも自分の好奇心に忠実だった。
「長いのをください」
 瑞希がそう注文をすると、フェルンは驚くと同時に、楽しげでもあった。
 まさか長い焼きそばを選ぶとは思っていなかったからだ。
 多分、瑞希はその焼きそばがどういうものかをまるで分っていない。未知への好奇心だけで頼んだのだ。
 出来上がったばかりの焼きそばを受け取って席に着くと、瑞希は焼きそばを少しつついた。
「あら。本当に物理的に長いって意味でしたか」
 引っ張ってみても終わりは見えそうにない。
「ねぇ、ミズキ」
 フェルンが周囲を示すと、瑞希も視線を向ける。
「長い焼きそばを、みんなは二人で食べているようだけれど?」
「え?」
 そうするべきだよ、と軽くニュアンスを含ませてフェルンが言うと、瑞希はなるほどと頷く。
「そんな食べかた推奨だったのですね」
「そのほうが美味しくなるのかもしれないよ?」
「より美味しいかも……ですか。それは試して確認しなくては」
 面白いほど素直に瑞希は信じた。
 多分、味は変わらない。
 知らないものに対する好奇心。その答え。それらに瑞希は弱い。
 上手く誘導すると、フェルンの思惑通りに瑞希は乗ってくれた。
「では……」
 そう言って、お互いに両端をから食べ始める。
 瑞希の好奇心の行方のひとつは、焼きそばそのものの長さだ。
 複数の長い麺が折り重なっているのか、はたまた異様に長い麺がこれだけのボリュームを出しているのか。
 食べ進めていると、だんだん不安になってくる。
(まさかこれ一本しかないなんてことは……あったりして?)
 どこまで進んでも終わりはないし、他に端らしいものも見当たらない。
 徐々に麺が減っていく。そして、そろそろ気づいた。
(本当に一本だけ……)
 その焼きそばは異様に長い麺が一本だけだった。
 まさかとは思っていたが、斬新な気がする。むしろどうやって作ったのか、そちらへの興味がふつふつと湧いてしまうほどだ。
 フェルンは黙って麺を食べていたが、ふと、瑞希が食べるのを止めた。
「ち、近いです」
 なぜ、麺が一本だけなのか。
 なぜ、こうも長いのか。
 本当の理由に気付いて固まっていると、フェルンが小さく笑う。
 ――ここまで来てようやく気付くなんて、ホント可愛い。
 逆に言えば、それまでは長い焼きそばへの好奇心に没頭していたのだ。
 けれど、気付いた途端に瑞希が固まった。このままずっと食べていけば、当然キスをすることになる。
 どちらかが噛み切ってしまえばそこで終わるのだが、予想していなかったことに瑞希は動けない様子だ。
 だったら、とフェルンは少しずつ距離を詰めるように食べ進めていく。
「――!」
 唇が触れそうなところまで顔を寄せると、瑞希は少し驚いたようだった。
 ぎりぎり触れないあたりで噛み切って離れる。
「ごちそうさま」
 そう言って微笑めば、瑞希は恥ずかしそうに頬を染めた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月17日
出発日 08月25日 00:00
予定納品日 09月04日

参加者

会議室

  • [6]秋野 空

    2016/08/24-23:52 

  • [5]瀬谷 瑞希

    2016/08/24-23:43 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    プランは提出しました。
    楽しいひと時をすごせますように。

  • [4]秋野 空

    2016/08/24-00:19 

    なんでしょう、何とも言えない既視感が…
    気のせいだと良いのですが

    あ、こんばんは
    秋野空とジュニール・カステルブランチです
    どうぞよろしくお願いいたします

  • [3]リヴィエラ

    2016/08/23-17:15 

    リヴィエラと申します。パートナーはロジェです。
    どうぞ宜しくお願いしますね。

    巷で評判の焼きそばだなんてわくわくします!
    どんな焼きそばを頂けるのでしょう…?

  • [2]桜倉 歌菜

    2016/08/22-00:19 

  • [1]桜倉 歌菜

    2016/08/22-00:19 

    桜倉歌菜と申します。
    パートナーは羽純くんです。
    よろしくお願いいたします♪

    評判の焼きそばのお店…!どんな評判の焼きそばがいただけるのでしょうか…!
    ワクワクします♪


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