【討魔】鏡の映すもの(叶エイジャ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 薄暗い『鎮守の森』を、おぼろに光る球が移動していく。
「待て!」
 光を追っているのは、ウィンクルムだ。
 精霊が先行し、神人がその後ろをついて走っている。
「まずいな。このままだと逃げられる」
 精霊が、光の球を見て呟く。
 張り出した木の根や、暗がりに紛れた石に邪魔され、中々距離を詰めることができないのだ。
「先に行って、回り込んでくれ!」
 神人が言った。少し息が切れている。
「挟み撃ちにしよう」
「それはいいが……大丈夫か?」
 精霊は一瞬ためらった。全力で走れば追いつけるだろう。しかしその間、神人をこの森の中で孤立させるのは気が引けた。
「少しは信頼してくれ。さあ、見失う前にケリをつけよう!」
「……分かった」
 さっさと倒せばいいだけだ。
 そう決めて、精霊は森の中を全力で駆けた。

 このウィンクルムはその時、敵の正体を「デミ・オーガ化した元妖怪」としか知らなかった。
 そのせいで、敵の術中にはまってしまう。

「今のは……?」
 前方で光が爆発する。神人は襲ってきた閃光に目をつぶった。
 おそらく、精霊が光る球を倒したのだ。
「これでこの森の脅威も減ったな」
 あとは合流して、森を出るだけだ。
 前方の木立の間から、精霊があらわれる。
「やったな」
 そう言って駆け寄ろうとして、神人は精霊の様子がおかしい事に気が付いた。
「どう、したんだ……?」
「危うく、こっちも死ぬところだった」
 精霊が腕を見せる。焼けただれていた。
「これは……っ。大丈夫か? すぐ手当を――」
「大丈夫か? 手当を? どうせ知ってたんだろ」
「なんだって? なんのことだ」
「とぼけるなよ。お前はいつも、危ないやつが相手の時は俺だけ先行させるだろう。怪我するのも精霊の務めだと思っていたが、よくよく考えりゃおかしなことばかりだ」
「そんな……そんなわけないだろう!」
 精霊に怪我をさせた自責。そしてそのことをなじられ、神人は震える声で否定する。
「俺はお前を信頼してたから――」
「信頼か。いい響きだよな。だが俺は、もうお前を信用することができない」
 契約したのがそもそもの間違いだったんだ。
 その言葉がなによりも鋭く、神人の心を突き刺した。不安が生まれていく。
「俺は、そんな風に思われていたのか……」
 フラフラと後退する。
 精霊の目が微かに笑っているのを、神人はまだ気づかない。

 ――同じころ。本物の精霊も、妖怪の扮した神人に心を乱されていた。

 ◆◆◆

 あなたがパートナーと歩いていると、A.R.O.A.職員の声が響いた。
「気をつけろ! その近くにデミ・オーガ化した妖怪がいる! 光る球体の妖怪だ。何人かやられてしまった!」
 あなたたちが警戒していると、森の中に光る球が遠ざかっていくのが見えた。
 あれに違いない。
 すぐさま動けるのは自分たちだけだ。
 あなたたちは、鎮守の森の奥へと入っていった。

解説

・エピソード概要
 デミ・オーガ化した妖怪を追ったあなたたちは、冒頭のウィンクルムのように離れてしまった。
 そこへ現れたのは妖怪が変装したパートナー。
 このデミ・オーガは、元は変身して人をだますのが得意な妖怪だったのだ。

 パートナーへの不安をあおったり、不信感を植え付けようとしてくる敵。はたして乱れる心を克服し、勝利につなげることができるのか。


・今回の特別仕様
 『ヴァルハラ・ヒエラティック』に記された試練の効果が発動中となっています。
 そのため、「普段感じていること、不安などを吐露しやすい状態」になりやすく、またそれによって仲違いしてしまう可能性が大きくなっています。

 普段ならば、妖怪の変装やその言動がおかしいと気付けるかもしれませんが、今は少々難しくなってます。動揺しているせいで、違和感を抱いても偽物だと気付けないかも……!

・デミ・オーガ化妖怪について
 本体は鏡の形状をした妖怪で、あまり強くありません。
 パートナーに化けて不信感をあおったり、仲違いを起こそうとしてきます。強い愛によって身体が浄化してしまうため、仲違いとならず不安を克服した場合は浄化され消滅します。

・予定リザルト形式
 先述の理由により、デミ・オーガ化妖怪との戦闘シーンはほぼありません(あっても一撃くらい)。
 どう不安を克服するか、あるいは妖怪がどんなことを言ってくるかに文量を割いて戴ければ。
 神人が精霊、どちらか一方の不安に注力する形を推奨いたします。
(例:精霊が偽物として酷いことを言うプラン。神人がそれを克服するプラン、等)

 状況は「一人になったところに、もう一方の偽物が接触して来た場面」から始める予定です。

ゲームマスターより

ご無沙汰しております。
こんにちは、叶エイジャと申します。

今回は、パートナーに変装して信頼関係を崩しにかかるデミ・オーガが敵となります。
不安を自分自身で克服するのか、
はたまた、不信感を抱きそうになったところでパートナーに助けられ、協力して克服するのか。

ウィンクルムによって、様々なアプローチがあるかと思います。
参加される皆様のプラン、お待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  「」が偽者

大丈夫?
「いつもオマケだよな。安全になったらきて俺ばっか危険な所で戦ってさ」
突然どうしたの…?
それは、そうだけどタイガの手助けができるよう僕は
(足りないかな。足りないよね前線にでる神人だっている。比べれば。でも)
戦いが嫌いになった?
「好きな奴なんていないだろ!」
『守れるよう強くなりたい』って言ってたのはどうしたの
楽しんでいつも励んでた
僕はそれを支えたいと思ってる。今も

行かなきゃ(近くにいるはず)
「!俺が本物だっていってるだろ!」
偽者なんだ。・・・タイガの顔で酷い事言わないで

■駆けつけ
僕も頑張る戦うから!そんな事言わないで(振られても)


お疲れ様(微笑
・・・よく顔見せて。僕のタイガだ


鳥飼(鴉)
  偽物:
何で、着いて来てくれなかったんですか。
お陰でしなくてもいい怪我をしました。
当然でしょう? 精霊は神人を守ることが役割じゃないですか。
片腕が動ないなら、なおさら。
本当、役に立ちませんよね。

本物登場:
鴉さん!(発見し、叫ぶように名前を呼んで近づく
そっちの僕は偽物です。僕もさっき鴉さんの偽物に会いました。
最初はわかりませんでしたけど。(偽物を警戒し、鴉の隣に並ぶ
思ってることを、全部受け止めたら消えてました。

鴉さん?(信じて貰えないのかと、少し不安になる
前から思ってましたけど。結構、好戦的ですよね。
な……!(むっと偽物を睨む

倒したのを確認して、報告が終わったら。
お祭りを楽しんで気分転換しましょう。


李月(ゼノアス・グールン)
  トランス済
本人
言葉が突き刺さる
強さに頼っていたのは確かだ
自分のせいで大怪我させてしまった過去を思い出し苦しい
あの時相棒は笑って僕を責めなかった
それに甘えていたのか
相棒失格じゃないか

記憶を手繰るが笑ってる顔ばかり…
違和感を感じる

確かに戦場も外の世界も怖い 僕は臆病者だった
ひきかえ相棒は怪我なんて恐れない勇猛果敢な戦士で
その姿に僕は勇気を貰ってるんだ
僕の役目は相棒を生かす事(戦いでも命の上でも
その為なら何も怖くない
命掛けて助けるよ
お前は僕の相棒じゃない
相棒返せ
武器構える

敵は光る球体なので
幻覚と思わず操られてる可能性を考える

合流
抱き付きは心細かったので受入れ
涙堪える
今は互いの無事を喜ぶ


むつば(めるべ)
  ※偽者

「める、実は……」
めるに声をかけ、話を切り出す
「背後にオーガがいるぞ!」
と言って、釣られためるを不意に突き倒し、勢いでのしかかる。

抵抗するめるに近づき、騙される方が悪いのじゃと罵る。
頭を地面に押し付け、息が出来ないようにした。
「心配するでない、お主に代わる精霊などいくらでもおる!」

腕を止められ、言葉を放っためるに固まる。
言った自分が愚かに感じ、弓矢を己の頭のこめかみに突き刺した。
「める……その言葉、ゆめゆめ忘れるでないぞ」

※本物

ん?めるよ、何をしておる!?
……わらわに襲われた?
代わりなどいくらでもいるから?

何を言うのじゃ!
わらわの精霊は、そなた一人!
他の精霊で代わりが務まるわけなかろう!



咲祈(サフィニア)
  (克服には成功したかと)
サフィニア、大丈夫だったかい
そう。それなら良いけれど
…サフィ、ニア?
精霊から、いつもの優しげな雰囲気がないように思えた

そうかい。…君はそう思っていたのか
すまない…気付かずいて
確かに僕は皆を置いていった
記憶がないから。…これはただの言い訳なんだ
…本当のことを知っても、それでも君は今までずっと僕と居てくれた
だから僕は咲祈のままでいれたんだ
…本当の気持ち、教えてくれて感謝している
このまま、なにも気づくことなく過ごしたくはないからね



「むつと別れてしもうたか」
 白いバンダナを巻いた、少年然としたテイルスは、しばらく周囲の気配を探った。近くに人らしきものはいない。
「……まぁよい。二手に分かれた事で、オーガが探しやすくなる」
 ――そうときたら、こっちのもんじゃ。
 めるべは追跡行を再開した。
「……んん?」
 驚いた声をあげたのは、暫く歩いてからだった。
 前方から、分かれたはずのむつばが現れたのだ。
「おおい、むつ」
 声をかけると、安堵したように笑い返してくる。少女にしか見えない可憐な笑顔だ。
「奴は見つかったか?」
 これには首を横に振って、むつばは否定する。
「める、実は……」
 声を潜めて、むつばが話を切り出す。
「ふむ?」
「背後にオーガがいるぞ!」
「なに……」
 めるべは動揺した。次の瞬間、むつばが彼を突き倒し、勢いでのしかかってきた。
「なっ! むつ、これは……」
「ふふ。騙される方が悪いのじゃ」
 抵抗をおさえつけ、むつばがそう罵った。
 めるべの頭を地面に押し付け、息が出来ないようにしていく。
「心配するでない、お主に代わる精霊などいくらでもおる! 安心して逝くがよい!」
「む――?」
 唐突に振られた言葉にめるべは目を剥き――そして思わず、吹き出した。
 息がほとんどできないので、笑い声はどんどん小さくなっていく。それでも、笑いを禁じ得なかった。
「な、なにがおかしいのじゃ!」
「ふっ、ぬるい。ぬるいのぅ!」
 かすれた声でめるべは笑った。
 そうして首をよじり、空気を吸い込んだ。
 うまい。
 そう思いながら、大声で言う。
「喜怒哀楽にも嵌まらぬ、つまらぬ戯言じゃ!」 
「戯言じゃと!?」
「……何も言うまい。お主が思うよう、好きなようにすればよかろう?」
 ただな、と腕を掴み、めるべは攻撃の手を止めさせる。
「おい! 覚えておけ! 例え、この鎮守の森を埋め尽くす程の神人がいようと、わしの神人は、この世界にたった一人!」
 むつ!
 お主だけじゃ!
 朗々と森に響いた言葉に、しばしむつばが固まった。
 そして、立ち上がってめるべから離れた。
「める……その言葉、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
「むつ、なにを――」
 取り出した矢に訝しげな顔をするめるべの前で、むつばは矢じりを自らのこめかみに突き刺した。
 めるべの叫び声が上がった。

「ん? めるよ、何をしておる!?」
 森の中でうずくまる少年の背を見つけ、むつばは声をかけた。
 めるべは肩越しに振り返り、つまらなさそうに前へ向き直った。
「今更、何しにきたのじゃ?」
「ずいぶんとご挨拶な……ん、それは鏡か?」
 めるべの埋めている、何かの破片を見てむつばは首をかしげた。

「……わらわに襲われた? 『代わりなどいくらでもいる』と言われた?」
 事の顛末を聞いて、むつばは笑った。
「何を言うのじゃ! わらわの精霊は、そなた一人! 他の精霊で代わりが務まるわけなかろう!」
 ――その言葉は、もう少し早く現れて言って欲しかった。
 視線で暗にそう語ると、めるべは立ち上がった。
「一瞬だけ、肝を冷やしたぞ」



 ゼノアス・グールンを神人が弾劾した。
「この大喰らいが。ウザイんだよ。自分勝手でこっちは迷惑してるんだ。もういっそ相棒解消してくれよ」
「んなの今更だろ、諦めろ!!」
 ゼノアスは開き直って、言葉の大鉈で罵詈雑言を切り捨てた。
「手放すと思うのかオレの宝を!」
 そのまま神人の李月を抱き締める。
 切なくキスしようとして――恐怖の表情で敵は消滅してしまった。
 驚いたのはゼノアスである。
「うぉおおおオレのリツキどこだー!?」
 慟哭が森の中に響いた。

 ゼノアスの目が憎々しげに李月を射抜く。
「俺がオーガ退治の間、遅いと思ったらこんな所でサボリか?」
 李月は荒い息を吐きながら首を振った。全力で走っても追いつけなかったのだ。
「頑張ったフリしてるようだが……オレをイヌか何かと思ってんじゃねーの?」
「そんな。そんなことなんて……」
「いつもオレの働きを二人で頑張ったみてぇな顔しやがって――物陰で震えてるだけの役立たずが」
「っ! 確かにゼノの力には頼っているが――」
「ほら認めた。オマエの尻拭いで怪我すんのはいつもオレだ」
「相棒!」
 李月は思わず叫んだ。が、事実自分のせいでゼノアスに大怪我をさせてしまった経験があって、それ以上は言葉を紡げない。
(すべて、俺の甘えが原因か――)
 あの時、相棒は笑って、責めることはしなかった。
 その行為がどれだけ、心を救ってくれたことか。
 だが、自分はそれに甘んじるだけで、また今回も彼だけに危険を背負わせてしまった。
(相棒、失格じゃないか……)
「命張る勇気も無い臆病者が」
 ゼノアスが吐き捨てる。
 一瞬、その表情に違和感を覚える。記憶にあるのは、いつだって笑ってる顔ばかりだった。
 俺のせいで、そうなったのか?
 なら、俺自身の言葉で元のあいつに戻ってもらうしかない。
 李月はゼノアスに対峙した。
「へえ、一丁前に反論か? 臆病もやし」
「確かに戦場も外の世界も怖い。僕は臆病者だった」
 それにひきかえ、相棒は怪我なんて恐れない勇猛果敢な戦士だったんだと改めて思った。
「ゼノのそんな姿に僕は勇気を貰ってるんだ」
「口だけだろ? 無理しなくていいんだぜ」
「違う! 僕の役目は相棒を生かす事だ。戦いでも、命の上でも!」
 神人は武器を抜きはなった。
「お前は、僕の相棒じゃないな。今すぐ返せ」
 敵は光る球体だった。
 身体はゼノアスでも、心が敵に操られているかもしれない。
「できるのかよ、俺相手に」
「その為なら何も怖くない。命懸けで助けてみせる!」
 李月が偽ゼノアスへと肉薄する。
「チッ、ここまでかよ」
 触れる寸前、偽物の姿が消えた。甲高い音がして、地面に鏡の破片が散らばる。
「これが、敵の正体……?」
「リツキー!」
 ゼノアスがそこへ現れた。李月が声をかけようとすると、それより早く抱き締めてくる。
「お、おい、相棒!」
「よし、本物だな!」
 安心したゼノアスが回した腕に力を込める。
 抗議しつつも、李月も心細かったのでそれを受け入れた。
「最初、愛想尽かされたかと思ったよ」
「なに言われたんだよ。全部否定してやるから言ってみろよ。愛想尽かすとかある訳ねぇ」
 李月はその声に、袖でこっそり目元を拭う。
 今は互いの無事を喜ぶことにした。


「!?」
 火山 タイガは顔を覆った。森の奥の方から光の爆発が上がったのだ。
 ほぼ直感で、先ほどまで追っていた光の球体を連想する。
「倒したのか……?」
 その疑問に答えるように、爆発の起こった場所からこちらへ歩いてくる影が目に映った。
「セラ……! 無事か!」
 セラフィム・ロイスは無言だった。さきほどまでとは明らかに違う様子に、タイガは首を傾げる。
「なあ、どうしたんだセラ? 何か変だぜ」
「もう、嫌だ」
 セラフィムの声は押し殺したものだったが、やるせない怒りににじんでいた。
「ウィンクルムだかなんだか知らないけれど、もう戦いに巻き込まないで」
「なに……言ってんだよ」
「恐いんだ。醜い戦いなんて見たくもない。もう勝手に行ってくれ!」
「なっ!? 待てよ、セラに危害が及ばないようしてるだろ!?」
「知らない!」
 セラフィムは走り出した。危ないと言っても、速度を落とさず闇の中を進んでいく。
(……変だ)
 タイガの中で警鐘が響いたが、神人を放っておくわけにはいかなかった。すぐさま追いかける。

「大丈夫?」
 同じころ。
 セラフィムは、デミ・オーガの爆発後に戻ったタイガに話しかけていた。
「やっぱり早いね。走っても全然追いつけなかった」
「触んな」
 触れようとした手はしかし、邪険に振り払われてしまう。驚いて硬直したセラフィムに、タイガが冷たい目を向けた。
「いつもオマケだよな。安全になったら来て、俺ばっか危険な所で戦ってさ」
「……突然、どうしたの?」
 状況が分からず、セラフィムは困惑した。
 なにか、彼を怒らせるようなことをしただろうか?
「それは、確かにそうだけど。タイガの手助けができるよう僕は――」
 言葉が途切れる。
 彼は、もっと近くで――すぐ隣で共に戦うことを望んでいるのか?
(僕は……足りないかな? 足りないよね……前線にでる神人だっている)
 比べれば、自分は未熟な面が多い。
 でも、さっきの発言はそれとはまた違う気がする。
 慎重に相手の様子を見ながら、セラフィムは口を開いた。
「戦いが嫌いになった?」
「好きな奴なんていないだろ!」
「でも、『守れるよう強くなりたい』って言ってたのはどうしたの?」
 楽しんで、いつも励んでた。
『新しい世界を見せてやる』って言葉を守ってくれてた。
「僕はそれを支えたいと思ってる。今も」
「そうかい。じゃあ勝手にしてろよ」
「――」
 セラフィムはタイガの全身を見た。どこにもおかしなところはない。
「気持ち悪いな。じろじろ見んなよ」
 だが、何かおかしい。
「……違う」
「あん?」
「本物のタイガじゃない」
「なに言ってんだよ」
 鼻で笑う声を無視して、セラフィムは歩き出した。
 行かなきゃいけないと思った。
 ――近くにいるはず!
「俺が本物だっていってるだろ!」
 違う。この声は偽者なんだ。タイガはそんなこと言わない。
「……タイガの顔で酷い事言わないで」
 言って、森の中へと駆け出した。

(セラじゃ……ない?)
 追いかけながらタイガは思案し、観察する。
 目を見る。洗脳か、例の不安が募る症状かと思ったが、暗いせいかいまいち決定打に欠けた。
(くすぐればすぐさまわかるとは思うが……癪だ)
 見慣れた神人の姿が、違う何かに見えてくる。そんなのに触れるのは嫌だった。
「わかった。もう連れて行かねぇ!」
 立ち止まった。振り返った神人に、大声で宣告する。
「今日でお別れだ! さよならだ」
 顔を背ける。ちらりと横目で伺うが、神人は黙したままだった。
 ――と。
「嫌だ!」
 別の木陰から、もう一人の神人が現れた。
 その後ろから、自分とうり二つの姿をした男も。
「!?」
 さすがに呆然としていると、セラフィムが勢いよく駆け寄ってくる。
「僕も頑張って戦うから! そんな事言わないで!」
「わーってる、わーってるって!」
 腕を振っても離れないので、抱きしめる。
「泣かせてごめんな。俺の好きな奴は、誰より優しくて我慢強い、芯がある奴なんだ」
 タイガは偽者二人を睨みつける。
「さあ、偽者はご退場願おうか」
「あーあ、もう少し愁嘆場が欲しかったな」
 偽神人が言った。次の瞬間には鏡の割れる音が響いて、偽者たちが消えている。
「お疲れ様」
 神人が微笑した。
「よく顔見せて……うん、僕のタイガだ」
 ――当たり前だろ。
 言う代わりに、タイガは笑った。


 追っていた光の球が遠くで爆発するのが、咲祈には見えた。
 やがて、彼の精霊が木陰から姿を現わす。
「サフィニア、大丈夫だったかい」
「……ああ、うん。特に怪我はないよ」
 精霊を労おうとして、咲祈はいつもとサフィニアの雰囲気が違うことに気づいた。
「そう。それなら良いけれど」
 だが、それが何かわからない。結局、お茶を濁すようにそう口にした。
「なにが良いの?」
 返ってきたのは不機嫌そうな声だった。
「……もう咲祈には着いていけない」
「……サフィ、ニア?」
 呆然と、神人は精霊を見返す。
 何を、言ってるんだ?
「気がつけば、いつも振り回されてばっかりだ」
 黒髪をかきあげ、赤い瞳が酷薄な視線を投げてくる。
「全てが物珍しい咲祈からしてみれば、そんなこともないんだろうけど」
 咲祈はようやく、違和感の正体に気づいた。
 精霊から、いつもの優しげな雰囲気がないように思えた。向けられると安心する、あの人懐っこい笑顔がない。
 今あるのは、憎悪のこもった冷たい表情だった。
「それに咲祈は、ツバキだった頃に沢山の人を傷つけた。それが幼馴染みの女の子で、咲祈のお兄さんのティミラ。家族だってそうなんでしょ? 記憶を無くしてほとんどの人を置いていくわけだ」
 咲祈を見守り、一緒に知った彼の過去で、サフィニアは傷つけてくる。
「なんでって今更だけど思ったよ。なんで、俺は大切な人を置いていく神人なんかと契約したんだろうって」
 神人のすぐ前に立つと、精霊は至近距離から見下ろしてくる。
「記憶がないとか、そんな言葉じゃ片付けられないよ。こんな神人をなんで助けたんだろう?」
 助けなきゃ、よかった――
 精霊のそんな視線を受けて、咲祈はいったん目を閉じた。
 次に開かれた時には、金の瞳に強い意志を秘めていた。
「そうかい。君はそう思っていたのか。すまない、気付かずにいて」
 でも、と赤い目を見据える。
「確かに僕は皆を置いていった。記憶がないからって。確かにこれはただの言い訳だ」
「認めるのかい?」
「ああ。その上で、君に感謝してるんだ」
 サフィニアの目に、初めて揺らぎが生じた。
「……な、にそれ……感謝?」
 咲祈はうなずく。
「本当のことを知っても、それでも君は今までずっと僕と居てくれた。だから僕は咲祈のままでいられたんだ」
 もし、今のような心境になる前に離れてしまっていたら……壊れていたかもしれない。
「救われた、ってこんな時に言うのかな……少し残念だけど、本当の気持ち、教えてくれたのは感謝している」
 ――このまま、なにも気づくことなく過ごしたくはないからね――
「だから、あり――サフィニア?」
 サフィニアは目を見開いたまま後ずさっていた。どうしたのかと手を伸ばした瞬間、何かが割れる音とともに精霊の姿は霧散する。
「……幻だったのか」
 地面に散らばった鏡の破片に、咲祈は沈痛な視線を落とした。
 ――僕は、どうなのかな。
 真実を全て知った時、果たして壊れてしまうのか――。
「俺が支えるよ」
 声が聞こえた。振り返ると、サフィニアが人懐っこい笑みを浮かべている。
「できれば、もっと早く偽者って気づいてほしかったな」
 そんな軽口を言う彼に、咲祈は思わず笑みを浮かべたのだった。


「何で、ついて来てくれなかったんですか」
 鎮守の森の中で、不和が生まれようとしていた。
「お陰で、しなくてもいい怪我をしました」
 糾弾されて、ああ、もしやこれで終わったのかなと、精霊である鴉は思った。
 少し――ほんの少々のはずだ、と思い直したが――残念だと思った。
「先へ進んだのは主殿でしょう。私は怪我をしても良いような発言ですね」
「当然でしょう? 精霊は神人を守ることが役割じゃないですか」
 女性と見まごうその青年は、普段のおっとりした雰囲気からは想像できないくらい見下した視線を、鴉の右腕へと向けた。
「片腕が動かない不自由者なら、なおさら頑張るべきでしょう?」
「……そのように思っていたとは」
 鴉は目を細め、そのまま押し黙った。他に何を言うのか聞くための沈黙だったが、神人の鳥飼はショックを受けたものだと口の端を上げた。
「いつも思いますが本当、役に立ちませんよね」
「それだけですか」
「……なんです?」
 鴉は溜息をついて首を振る。
「言いたい事はそれだけですかと、言ったのです」
「ないわけではないですが……そうですね、そろそろ君の意見も聞きたいところでしょうか」
「では私の番ですね」
 呼称が少し気になったが、鴉はもう気にせず「胡散臭い」とよく言われる笑みを浮かべた。
「良い機会です。私はずっと前からあなたと――」
「鴉さん!」
 鴉の声を遮って現れたのは、二人目の『鳥飼』の叫び声だった。

「主殿が……二人」
「そっちの僕は偽者です。僕もさっき鴉さんの偽者に会いました」
 近づきながらそう説明する神人に、鴉の目がかすかに見開く。
「私の偽者? よく間違えませんでしたね」
「最初はわかりませんでしたけど……」
 偽者を警戒し、二人目の鳥飼は鴉の隣に並ぶ。
「『彼』の思いを全部受け止めたら、消えてました」
 しばし、沈黙があった。
「鴉さん……?」
 信じてもらえなかったのかと、本を取り出した精霊に不安げな眼差しを送る鳥飼。
「そうですか。あなたらしい」
 やがて鴉がそう言った。
 そして、最初の鳥飼へと「さて」と本を向けた。本物の鳥飼が先制攻撃しようとして――鴉に遮られる。
「鴉さん?」
「いえ、好き勝手言われましたので。自分で片をつけようかと」
「……前から思ってましたけど。結構、好戦的ですよね」
「ああ、腕の事も言われましたので、ね」
「な……!」
 わざとらしく言った彼に、鳥飼はむっとした表情で偽者を睨む。
「僕の姿でそんなことを」
「いつも思ってることでしょう?」
 偽者がそう言って口の端を吊り上げる。
「いいえ。鴉さんは――」
「主殿、それ以上は結構です」今度は鴉が遮った。「カタをつけますので」
 飛ぶように駆け出した鴉に、偽者は反応できなかった。鴉が偽者の顎を表紙で殴りあげる。
「逃がしませんよ」
 そして腹部を全力で、本で殴り飛ばした。

「……この程度にしておきますか」
 落ちた鏡を踏み割って、鴉はようやくそう言った。
 そんな彼を神人がニッコリと迎えた。
「まだお祭りはしてますし、報告が終わったら遊んで気分転換しましょう」
 その声に、鴉は感情の読めない笑みでうなずいたのだった。
 ――偽者でも、距離を置きたいと言えたなら。
(これ以上惹かれる前に、離れられたのでしょうか……)
 心の中でそう、つぶやきながら。



依頼結果:普通
MVP
名前:鳥飼
呼び名:主殿
  名前:
呼び名:鴉さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 叶エイジャ
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 08月18日
出発日 08月24日 00:00
予定納品日 09月03日

参加者

会議室

  • [5]むつば

    2016/08/23-12:32 

    神人のむつばと、精霊のめるべじゃ。
    そうそう厄介な依頼なだが、落ち着いて対処したい。

  • [4]咲祈

    2016/08/22-23:08 

    僕は咲祈。精霊はサフィニア。
    …出来る限りのことはしよう、よろしくね。

  • [3]セラフィム・ロイス

    2016/08/22-22:40 

  • [2]鳥飼

    2016/08/21-20:31 

    僕は鳥飼と呼ばれています。
    こちらは鴉さんです。よろしくお願いします。

    光る球体の妖怪ですね。
    これ以上の被害を防ぐ為にも、ここで止めます。(ぐっと拳を握る

  • [1]李月

    2016/08/21-12:25 

    李月と相棒のゼノアスです。
    どうぞよろしくお願いします。


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