プロローグ
「いやぁ~、毎日暑いですねぇ」
団扇でパタパタ首筋を仰ぎながら、A.R.O.A.職員がぐったりと自分の事務机に突っ伏す。
「ちょっと暑気払いでも企画しましょうか」
向かいの机で同じように団扇をパタつかせていた別の職員。
「ああ、いいね。それ」
「夏らしい宴会がいいなぁ」
「花火見ながらとか?」
「だったら水辺が涼しそうでいいかも」
「あ、屋形船なんかどう?」
「夏らしいし情緒もあっていいね!」
「うんうん、何艘か屋形船を貸し切って、希望する職員を募集して、大勢でぱーっと」
話しているうちに、2人の職員はだんだん元気になってきた。
肝心の仕事は全く進んでいないのだが……。
そんな流れで、希望者を募って暑気払いの宴会を執り行うこととなった。
夏らしい宴会にしたいということで、数艘の屋形船を借り、川の上で花火を見ながら飲食を楽しむことに。
ウィンクルムの面々も、都合の付く者はペアで出席していた。
あなたたちもその中の一組。
あなたたちの乗った屋形船では、何組かのウィンクルムが宴席を共にしていた。
貸し出された浴衣に身を包み、和食中心の料理を味わい、空に登る花火を眺める。
そろそろ宴会も後半、というところで、給仕係の女性が一升瓶を手にやってきた。
「こちら、当店の秘蔵のドリンクなんですよ」
にっこり笑顔で瓶の蓋を開ける。途端に、甘く、なんとも言えず魅力的な香りが漂った。
「アルコールではありませんので、どなたでもお楽しみいただけます」
あなたのパートナーが、それなら是非、とコップを差し出した。
「でも、ひとつ注意がありますからね」
給仕係が希望者にドリンクを注いで回りながら言う。
「このドリンクは、アルコールではありませんけど、一定の条件で『酔う』ことがあります。それは……」
自分のパートナーに恋心を抱くほどに、酔うという。
その想いが強ければ強いほど、深酔いしてしまうというから飲み過ぎには注意しなくてはいけない。
「でも、とっても美味しいので、是非飲んでいただきたくって」
給仕係の笑顔に悪意はない。
そしてあなたの隣では、ドリンクの良い香りに負け、給仕係の説明もよく聞かずにドリンクを飲み干してしまったパートナー。
あなたは嫌な予感がする。
「わー、なんだか気分がいい~」
途端にパートナーがしなだれかかってきた。
「なるほど、愛されてるんだねぇ」
一緒に宴を楽しんでいた仲間の神人がにやにやとひやかしてくる。
ところが、その後ろから彼の精霊が真っ赤な顔をして
「世界が回っているよ~あははは~」
とおぶさってきた。どうやらあなたのパートナーより酔っている様子。
「そっちの方が重症じゃないか」
「はぁ~。しょうがないなぁ」
と言う仲間の神人も、なんだかほろ酔いの様子。なるほど、ここのペアは両想いであるも精霊の方が想いが強く、神人はまだそこまでの気持ちではないようだ。
周りを見れば、あちらこちらで同様のやり取りが行われている。
これはちょっとしたカオスじゃないのか、と船内を冷静に見つめているあなたの背を、
「楽しいねー」
と、ぱしぱし叩くのであった。
空には大輪の花火。宴会はまだ終わりそうにない。
あなたは諦めの溜息をつき、デザートのすいかシャーベットを口に含むのであった。
解説
相手への想いに比例して酔ってしまう困ったドリンクの登場です。
2人とも飲む、神人か精霊の片方だけが飲む、どちらでも構いません。
2人とも飲まない、という選択はできません。
どの程度酔って、どんな行動に出るのかプランにお書きください。
エピソード参加者が皆同じ船になりますので、互いにひやかしたりといった遊びもできます。どんなふうにひやかすか、ひやかされた時の反応は?などプランに記入していただければ、エピソード内で他のウィンクルムと絡む可能性が高くなります。
絡み不可を希望する場合は、その旨プランにご記入願います。
宴会への参加費は一組【800ジェール】かかります。
浴衣のレンタルもできます。希望の柄があればお知らせください。
メインの食事は終わり、デザートのシャーベットが提供されています。
味は、すいか、メロン、ゆずの3種類。ご自由にお食べください。
ゲームマスターより
屋形船での宴会は私の憧れだったりします。
自分の夢を、ウィンクルムの皆様に託してみました。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
月とうさぎが描かれた浴衣 ドリンク飲む側 見た目はほろ酔い程度、実際は深酔い ふらふらと落ち着かず積極的に出歩き恋愛話をする 羞恥心が薄れている分、普段以上に素直に喋るので 何を聞かれても惚気になる 話したい。同じくらいに話を聞きたい あなたはあの人のどんなところが好きなの?おしえて? ふふふ、うれしいな。だれかと恋の話をするなんて、はじめて ラセルタさんはかっこよくて、可愛らしくて、青い瞳がきれいで 少し意地悪で、すごく優しくて ぜんぶ、好きだよ だって(片頬膨らせ 俺の大切な恋人を、自慢してみたかったの 色々なことを、あきらめていたけれど ラセルタさんは絶対に誰にも譲れない …あなたは俺のもの、なんだからね(相手擦り寄り |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
絡みOK 2人共ドリンク飲む 浴衣は藍色基調なシンプル系。 シャーベットはメロン味。 花火見眺めつつ料理を楽しむ。 刺身や天ぷらがウマい。幹事職員、GJだ! 秘蔵と聞けば飲むっきゃないじゃん? ラキアとカンパーイって飲もう。コレもウマイ! お、ラキアすごく楽しそーじゃん。 (2人であははと笑い合う。賑やか系酔い) うん、食べる。あーん。(口あけてもぐもぐ) ラキアにはこの、えびフライをお返しにぃ。 あーん。(食べさせる) フィンさんはもっと飲めー。(更に飲ませる) その想いをぶちまけるんだぁ。 クラウディオさんが、喋ったー!?(驚愕。 アツさに千代さんを団扇でパタパタ仰ぐ。(微笑ましい。 ラキア、オレも大好きだ―(ギュっとハグ |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
浴衣は黒の縦縞しじら シャーベットはゆず 飲まない 絡み歓迎 フィンが先に飲み、泥酔状態に ああもう、最後まで説明を聞いてから飲まないから… って、ちょ…そんなにくっつくな…! (こんな風に酔ってるフィンなんて初めてで… 何だか子供みたいで可愛いな、なんて思ってしまう) あーもう、仕方ないな 取り敢えず、俺から離れるな (今のフィンを一人にしておくのは危険) え? (酔っ払ってるとはいえ、今の発言はちょっと頂けない) 馬鹿だな 俺は…そんな事しなくても…フィンの事、誰よりも好き…なんだからな…(顔から火が出そうだ) からかわれたら、いやあの、これは違…!(と言い掛けて、フィンが悲しそうな顔をするので)ち、違わないです…(自爆 |
柳 大樹(クラウディオ)
「俺も貰えます? 後、こっちにも」(クラウのグラスを示す 「アルコールじゃないし、あんたが飲んでも問題無いだろ?」 あ、ほんとだ。結構美味い。 でも、別に酔う感じしないなあ。だろうとは思ってたけど。 まじかー。(クラウをチラ見し、結果確認 「酔っちゃうのかよ」(口内で呟く 「おーおー、皆さん愛されてるねえ」(揶揄い半分で、煽る 「オアツイことで、熱気以外でも茹りそうだよ」 んー、そうだね。(宴会の空気を壊す気は無い なら、「クロちゃん。はい、あーん」(シャーベットを掬って食べさせる 「はいはい、いーから」(場の空気に乗り、膝枕をする クロちゃんが、ねえ。 別に、嫌とは思わないんだよな。(最後の一口を飲み、ほんの少し酔う |
カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
貸浴衣 濃紺の掠り縞に白の帯 1回だけイェルが家呑みで酔った時凄かったんだが…※本人見る …もっとすげぇな、これ 海十んとこは旦那の方が酔ってるのかー そっちも凄い酔いっぷりで…愛されてるな 他の連中も愛され具合で、愛されとけって笑ったり、仲がいいことでとからかったり 俺も弄られるのは覚悟しておく※悟りの目 イェル、脱ぐのはダメだ、脱ぐのは 公共の場だから、な ああ、うんうん、俺も見せたくねぇし、な※宥め したいようにさせとくが※メロンシャーベット食べてる へべれけだよな 寝たらいつも通り頭を撫でる 帰りはイェルを荷物担ぎで帰る 初めて意識ある時にキスしたの、思い出すな しっかし、誘惑、か 俺の嫁はホント可愛くて困るわ(くく |
夜空にどぉんと大輪の花。川面に浮かぶ屋形船を明るく照らす。
「たーまやー、ってヤツ?」
柳 大樹の蜂蜜色の右目が花火を映し出す。
その隣で、クラウディオが静かに食事を口に運んでいる。今はさすがに口布を外している。
2人は揃って羽織「戯」を着用し、夏の宴らしい装いだ。
「刺身ウマイ!天ぷらウマイ!幹事職員、グッジョブだ!」
藍色基調のシンプルな浴衣に身を包んだセイリュー・グラシアは御膳の料理に舌鼓。大丈夫、ちゃんと花火も見ています。
「美味しいね」
相槌を打つラキア・ジェイドバインは白地に赤色と青色の朝顔と緑葉柄の浴衣でたおやかに。
「この料理、どこの地域の食材だろう」
旅のルポライターらしい視点で料理を楽しむフィン・ブラーシュ。灰の沙綾形の浴衣がよく似合っている。蒼崎 海十は黒の縦縞しじらの浴衣で、こちらも彼にぴったりの色と柄。
薄青無地に紫紺の帯のシンプルな浴衣のイェルク・グリューンは、「このお料理、出汁は何でしょうね」などと、羽瀬川 千代と料理談義。
千代の浴衣は月とうさぎが描かれた趣がありつつも癒されるもの。対してラセルタ=ブラドッツは蜻蛉柄の浴衣という、彼らしい選択。
イェルクたちの料理談義を聞きながら、濃紺の掠り縞に白の帯の浴衣に身を包んだカイン・モーントズィッヒェルは、この談義が嫁の手料理に反映されることを内心期待しているのであった。
和やかな宴の中、給仕係の女性が一升瓶を手にやってきた。
「こちら、当店の秘蔵のドリンクなんですよ」
瓶の蓋を開けた途端に魅力的な香りが漂った。
セイリューが興味津々で香りを嗅ぐ。
「秘蔵と聞けば飲むっきゃないじゃん?」
早速ラキアと2人、ドリンクを注いでもらい、「カンパーイ!」
フィンも仕事柄、秘蔵ドリンクというものに心惹かれる。
「アルコールではありませんので、どなたでもお楽しみいただけます。けど、一定の条件で『酔う』ことがあります」
酒には強い自信があるフィンは、このドリンクにだって酔う気がしなかったので、自分も一杯いただくことにした。
「このドリンクは、自分のパートナーに恋心を抱くほどに酔う、ということですよ」
「俺も貰えます? 後、こっちにも」
大樹が給仕係に自分のグラスを差し出し、さらにクラウディオのグラスも指差す。
「大樹」
自分にも飲ませようという大樹の意図を知りたくて、クラウディオは大樹に声をかける。
問いを含んだ呼びかけだったが、大樹は問いに答えず
「アルコールじゃないし、あんたが飲んでも問題無いだろ?」
と、クラウディオのグラスに自分のグラスを軽くぶつけた。
「ふむ」
給仕係の説明を聞き、ラセルタは含み笑い。ちらと千代に視線を向ければ、千代はまだイェルクと料理談義に花を咲かせ、給仕係の説明は聞いていなかったようだ。
(以前、千代が酔った時は随分と甘えられたものだが……)
また違った一面が垣間見れるか、と胸を弾ませ千代を呼んだ。
「千代、良い香りの美味そうな飲み物があるが、試してみないか」
もちろん、ドリンクの効能についての説明はしない。
「本当だ。甘い香りがするね」
表情を華やがせ、千代はグラスに注がれたドリンクを口にする。
「美味しそうですね。私もいただけますか」
と、同じく説明を聞いていなかったイェルクもドリンクをこくりと飲みくだした……。
「あ、ほんとだ。結構美味い」
大樹は素直な感想を述べた。
「でも、別に酔う感じしないなあ」
それは予想済みではあったのだけれど。
ちらとクラウディオを盗み見ると、彼は何かを確かめるようにさらに二口三口とグラスに口を付けている。
確かにアルコールは感じないというのに、クラウディオには思考が緩む感覚があった。
(……酔う、のか)
その事実に驚きはするが、反面、すとんと腑にも落ちる。
これまでに、大樹の言動に何度か思考を乱されたことがあった。その時は、なぜなのか理解できなかったけれど。
(今までの思考の乱れは、これか)
まるで他人の思考を覗き見ているかのように、はっきりと認識した。自分の中にある大樹への想いを。
クラウディオの目元がほんのり染まったのを大樹は見てとった。
(まじかー)
「酔っちゃうのかよ」
大樹は人知れず口内で呟いた。
クラウディオが見た限り、大樹には酔った様子はない。
しかし、他に飲んだ者達は、即座に判別できる程に酔っている。
「はれー?そんなに飲んでないのに、ふふふ、何かとっても楽しい気分だねぇ?」
「お、ラキアすごく楽しそーじゃん」
セイリューとラキアは顔を見合わせ陽気に笑う。
「見事に酔ってるねぇ」
その様子を見て、ほんのり赤い頬の千代も笑う。
普段からおっとりした印象の千代は、表情も喋り方も一層ゆったりとしていて、傍目にも彼が酔っていることがわかる。但し、ほろ酔い程度のものと誰もが思うであろう。
実際にほろ酔い程度で済んでいるとは限らないのだが。
「お酒じゃないんら、酔う訳無いじゃーん。あはははは」
ラキアはどこからどう見ても立派な酔っ払いだった。
「セイリュー、もっと料理食べなよぅ。ほら食べさせてあげるから」
「うん、食べる。あーん」
ラキアがセイリューに刺身を食べさせると、セイリューもお返しにエビフライをラキアに「あーん」と食べさせる。
セイリューもラキア同様、しっかり酔っている様子。
「あはは、海十~オニーサン、とってもふわふわしていい気持ち……」
「ああもう、最後まで説明を聞いてから飲まないから……って、ちょ……そんなにくっつくな……!」
フィンは海十に子供のように抱きつき離れない。
「もっと飲めー!」
上機嫌でフィンのグラスに更にドリンクを注ぐセイリュー。
「その想いをぶちまけるんだぁ!」
セイリューに煽られ、フィンは注がれたドリンクをぐいと飲み干すと、
「もうぜーったい離れないーっ」
と、さらに海十をぎゅうと抱き締める。
海十は、自分も飲んでいたら大変なことになっていた、と慄きながらも、
(こんな風に酔ってるフィンなんて初めてだ…
…何だか子供みたいで可愛いな)
なんて思ったりもしていた。
「あーもう、仕方ないな。取り敢えず、俺から離れるな」
特に深い意味はなく、泥酔状態のフィンを1人にしておくのは危険、と判断しての言葉であった。
「ん、わかった……海十の傍に居る」
大人しく海十の言葉に従うフィン。
「そしたら……海十は、俺のこと、もっと好きになってくれる?」
「え?」
「俺は海十が大好きだから……もっともっと海十に好きになって欲しいんだ……」
縋るような瞳がいじましい。が。
(酔っ払ってるとはいえ、今の発言はちょっと頂けない)
こんなことを言われるなんて心外だ。なぜなら。
「馬鹿だな。俺は……そんな事しなくても……フィンの事、誰よりも好き……なんだから、な……」
言ってるうちにどんどん顔の温度が上昇していくのが自分でもわかる。このまま顔から本当に火が出ても不思議ではない。酔わずに言うにはかなり勇気のいる台詞であった。
「本当?……嬉しい」
フィンは蕩けるような笑顔になった。
「もっとぎゅーっとしていい?」
いいも悪いも答える前に、フィンは海十に再び抱きつく。先ほどよりも強く。
「ふふー海十、いー匂い……すき、すき、だいすき」
皆の目の前で甘えられるのはいたたまれなかったが、海十にフィンの腕は振り解けなかった。
「海十んとこは旦那の方が酔ってるのかー。そっちも凄い酔いっぷりで……愛されてるな」
カインにからかわれ反射的に
「いやあの、これは違……!」
と言いかけるも、フィンの悲しげな顔が目に入り、
「ち、違わないです……」
と自爆する。
「うん、違わないよね。俺と海十は……愛し合ってるもん」
海十は、頬の熱を冷ますように、ゆずシャーベットを口に含む。
そこへフィンが、自分のすいかシャーベットをひと匙掬って海十に食べさせ合いっこを促す。
ところで、カインが「そっち『も』」と言ったのには理由がある。
(1回だけイェルが家呑みで酔った時凄かったんだが……)
カインはイェルクをちらと見た。
(……もっとすげぇな、これ)
「あついですー。すこしぬぎ……」
上気した顔のイェルクが艶っぽい仕草で浴衣の襟元をはだけ始め、その手をカインが押さえて止めた。
「イェル、脱ぐのはダメだ、脱ぐのは」
「なんでとめるのですー」
「公共の場だから、な」
大人として、そこはわきまえねばなるまい。
「あーどくせんよくですねー」
「ああ、うんうん、俺も見せたくねぇし、な」
酔っ払い相手に真剣に否定するのも手間だし、まぁ独占欲もないことはないので、取り敢えずそう言って宥める。
「えへへカインにあいされてますので、ぬぐのやめまーす。いいつまでしょー」
「ああ、いい嫁だ」
そんなやり取りを微笑ましげににこにこと見ていたラキア。
「そーですか、イェルクさんはおよめちゃんですか、かわいいですね」
褒められ、イェルクは目尻を下げる。
「ありがとうございますー。そしてカインはぁとーってもやさしくてー。とーってもすてきなおっとなんですー。えへへー、いつもみたいにカインのひざのうえにすわりますー」
イェルクは、胡座をかいてメロンシャーベットを食べようとしていたカインの脚に横座りで収まる。
「いつもなんだ」
千代がわざとらしく目を瞠る。
カインは苦笑するも、脱がれるよりはマシだ、と、したいようにさせておくことにした。
「人目につかぬところなら、もっといろいろしてるのではないのか?」
にやりと笑うラセルタ。
「ごそーぞーにおまかせしますー。でも、かわいいわたしはカインのものなのでー、どんなことをしているかはないしょー」
イェルクは自分のゆずシャーベットをひと匙掬うと、
「はい、あーんです」
と、カインの口元へ。
「仕方ねぇな」
ため息をつくも満更ではない表情でカインはイェルクのゆずシャーベットを口にする。
「いい旦那さんですねえ」
ラキアはにこにこしながら、「ウチのセイリューはこんなので」とセイリューの頭をぐりぐり撫でる。
「言うこと聞いてくれない。でもそこが好きー」
うふふ、と笑うとセイリューは「俺もラキア大好きー」と自らもぐりぐりとラキアの手に押しつけたのち、がしっと抱きつく。
「あははー、セイリューさんてうちのティエンににてますー。あ、ティエンてうちのレカーロなんですけどー、カインがおとうさんでー、それはもう、すてきなおとうさんでー」
ペットの話も絡めつつ、彼らの惚気あいは続く。
「おーおー、皆さん愛されてるねえ」
大樹が煽る。
「当然だぜ!」
セイリューが親指を立てる。
「はいー、あいしあいされてるんですー」
イェルクはすでに眠そうだ。
「皆もとーっても仲良し♪」
フィンは、にこにこと周囲を見渡す。
「オアツイことで、熱気以外でも茹りそうだよ」
大樹は軽く笑い、場の暑さに溶ける前に、とシャーベットをつつき始めた。
「好きな人の話をするのって楽しいよねぇ」
普段大っぴらに他者と恋愛話などすることのない千代であったが、今は羞恥心が薄れているせいか、恋の話をしたい欲求が頭をもたげている。
話したい。同じくらいに話を聞きたい。
「あれ、クラウディオさんも酔ってる?」
任務遂行時の鋭い瞳とは違い、赤らんでぽうっとした顔のクラウディオに、千代は声をかける。
「あ、いや……」
返答もなんだか鈍い。
「クラウディオさんが、喋ったー!?」
セイリューが驚愕する。
千代は恋する同志を見つけたことに嬉しそうな顔になる。
「あなたはあの人のどんなところが好きなの?おしえて?」
クラウディオに向かって膝を詰める。
「私は」
反射的に口を開くが、その後の答えに窮する。
なんと答えれば良いのだろう。
平素から無口なクラウディオには、自分の気持ちを整理し言葉にすることは難しい。
それに何より、この想いを公にして良いものかどうか。
千代の隣では、
「クラウディオさんとこもラブラブなのか?」
と、セイリューがわくわくした顔をしている。
クラウディオは助けを求めるように大樹を見遣る。
「んー、そうだね」
大樹とて、宴会の雰囲気を壊すほど不粋ではない。
「クロちゃん。はい、あーん」
自分のゆずシャーベットをひと匙掬い、クラウディオの口元へ。
「む?」
これは……セイリューやカイン、海十が恋人であるパートナーと行っていた「あーん」というやつでは……。
それを自分がしてしまっていいのか。
一瞬悩むも、酔いというものは、深く思考する力を失わせる。
クラウディオは差し出されたシャーベットを ぱくりと食べた。
おおおーっと一同盛り上がる。
「みなさんもーらぶらぶですよねー。らぶらぶはーとーってもドキドキしますぅ」
時折しゃっくりしながらイェルクが笑う。
(ふふふ、うれしいな。だれかと恋の話をするなんて、はじめて)
千代は幸せそうに微笑んでいる。
「千代さんこそ、ラセルタさんのどういうところが好きなの?」
海十に問われて千代の頬がさらに上気した。
ラセルタは、千代のやつ何を言うのやら、と内心楽しみに聞き耳をたてる。
「ラセルタさんはかっこよくて、可愛らしくて、青い瞳がきれいで」
皆はふむふむと千代の言葉に聞き入る。
セイリューが「アツいねぇ!」と千代を団扇でパタパタ扇ぐ。
「少し意地悪で、すごく優しくて」
初めのうちは満更でもなく聞いていたラセルタだったが、あまりにも堂々とした千代の惚気に、照れからくる居心地の悪さを感じ始める。
しかし、千代がここまで惚気るとは……。
ほろ酔い程度に見えて、実は深酔いしてるのではないだろうか。
「ぜんぶ、好きだよ」
にこっと笑う千代に、ラセルタはとうとう我慢出来なくなった。
「こう見えて可愛いことろもあるし。この前なんか……あ、これは秘密にしておこうっと」
うふふ、と笑いながら尚も喋りそうな千代を、
「少し酔いが過ぎるようだな」
と、その腕をとって回収し、酔いを醒ますべく窓辺に連れていった。
「わたしもー、カインのすきなところならたーくさんありますー。けどカインのよさにきづいてゆーわくされたらいやなのでぇ」
「大丈夫!イェルクさんがさらに誘惑すれば良いんだよ!」
フィンに煽られ、はっとした表情になるイェルク。
「わたしゆーわくがん……」
ここまで言ったところで、がくり、と力尽きカインの膝の上に崩れ落ちる。
カインはやれやれとイェルクの頭を撫でる。
眠るイェルクの頭を撫でるのはいつものことだ。
帰りはカインがイェルクを担いで帰ることになりそうだ。きっとイェルクは途中で目を覚まし、事態に気付いて赤面絶句することであろう。
カインは、初めて意識ある時にキスしたときのことを思い出す。
(しっかし、誘惑、か)
「俺の嫁はホント可愛くて困るわ」
カインはくくく、と喉の奥で笑った。
「膝枕ー、良いなー」
寝転がったイェルクを見てセイリューが言うと、ラキアが「セイリューも、どうぞ」と自分の膝をぽんぽん叩く。
「わーい」
ごろーんと身を横たえるセイリュー。
「クロちゃんも、どう?」
場の空気に乗り、大樹はクラウディオに膝枕を勧める。
クラウディオはおずおずと大樹の太腿に頭を乗せるが。
「この体勢では、直ぐ動けない」
護衛対象たる大樹に何かあったとき、反応が遅れてしまう。
クラウディオは身を起こそうとするが、大樹にぽんと肩に手を置かれ、「はいはい、いーから」と止められる。
クラウディオは大人しく大樹の太腿に収まった。
(大樹は、私の状態に気づいているだろう)
クラウディオは大樹の顔を見上げ、そう思う。
気付いているうえで、大樹は何も言わないのだ。
安堵と寂しさがクラウディオの胸を過る。なぜ安堵し、なぜ寂しく思うのか、自分自身がよくわからないままに。
(クロちゃんが、ねえ)
大樹は脚にクラウディオの重みを感じながら、窓の外の花火を見上げる。
(別に、嫌とは思わないんだよな)
大樹はグラスに残ったドリンクの最後の一口を飲み切った。
ほんのりと、浮遊感。
最後の最後に少しだけ酔った自分に、大樹は口の端だけで笑った。
空に上がる花火は、そろそろ終わりが近いらしい。
クライマックスとばかりに、連発で大輪の花が咲く。破裂音の震動が心地良い。
セイリューとラキアは仲良く肩を並べて、メロンシャーベットとゆずシャーベットを楽しんでいる。
窓辺では、ラセルタが不満顔で千代の口にゆずシャーベットを運んでいる。
「あんな顔で俺様への想いを口にして……」
「だって」
と、千代は片頰を膨らませる。
「俺の大切な恋人を、自慢してみたかったの」
「お前の恋心を知っているのは俺様だけでいい」
独占欲丸出しでラセルタは言う。
酔っている千代もまた負けず劣らずの独占欲を露わにする。
「色々なことを、あきらめていたけれど、ラセルタさんは絶対に誰にも譲れない」
千代はラセルタに身を摺り寄せた。
「……あなたは俺のもの、なんだからね」
ラセルタは千代を愛しげに見つめると、彼の前髪を搔き上げ、そっとキスを落とした。
「……もっと聞かせろ。お前の独占欲は心地良い」
但し、自分だけに聞こえるように。
「うん」
両目を細めて笑う千代を、咲いた花火が彩った。
船内ではまだもう少し、惚気あいの宴会が続いたそうな。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:柳 大樹 呼び名:大樹 |
名前:クラウディオ 呼び名:クラウ、クロちゃん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月14日 |
出発日 | 08月20日 00:00 |
予定納品日 | 08月30日 |
参加者
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
- 柳 大樹(クラウディオ)
- カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
会議室
-
2016/08/19-23:57
-
2016/08/19-23:57
-
2016/08/18-13:45
セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
交流は大歓迎だ。
屋形船で花火見ながら宴会!
宴会なら食べるし、もちろん飲む!
ということで、オレ達は2人ともドリンクを飲む。
秘蔵と聞いて飲まないワケねーじゃん?
これはツッコミ不在になる予感。
ラキアは「酔ってないよ、あはははは」と言いつつハジケそう。
オレは酔いに任せて積極的に皆に絡んで行くつもり。
そんなこんなで、楽しい時間が過ごせそう。みんな、ヨロシク! -
2016/08/18-01:52
ラセルタ=ブラドッツと千代だ。宜しく頼む。
俺様も屋形船は初めての体験でな、どのようなものか心待ちにするとしよう。
件のドリンクは千代が口を付けていた。俺様は素面での参加となる。
さて、どうなる事か(く、と喉鳴らし)
交流は問題無い。酔った千代がどう反応するかは俺様にも読めんがな。 -
2016/08/18-00:48
-
2016/08/18-00:48
カイン:
カインと嫁のイェルだ。
よろしくな。
……嫁が、飲んでしまった……。
嫁は、酔うと、その、ちょっと、いや、ちょっとじゃねーな、あれ、かなり、だよな……ハッピーに酔うんで、まぁ、酔いから醒めたら優しい目で見守ってやってくれや。
俺らも浴衣は折角だし借りるつもり。
交流は歓迎すんぜー。
海十は積極的に弄っていくスタイルだが、嫁がそもそも……わっ
イェルク:
わたしがー、しょうかいにあずかりました、カインのよめのイェルクですぅ、うふふふふ
あついですーちょっとくらいならぬ…(カインストップ)
むぅーカインがとめますー
えへへ、しんぱいです?どくせんよくです?
わたしのおっとは、しかたないですねぇー
えへへへへへへへへ、しかたないのでぇー、わたしはー、いつもどおり、カインにどくせんされちゃいますー(カインにぴとっとくっつく)
カイン:
弄られるのはもう覚悟した(悟りの顔)
っていうか、これ、イェル、酔いから醒めたら恥ずかしさの余り死ぬんじゃないだろうか。
まぁ、何にせよ…… -
2016/08/17-22:44
-
2016/08/17-22:44
蒼崎海十です。
パートナーはフィン。
皆様、よろしくお願いいたします!
屋形船、楽しみですね。
折角なので、浴衣も借りようかと。
ドリンクは、フィンが飲んでしまう予定です。
物凄く酔ってるみたいで…こんなフィン、俺も初めてです…。
絡みは歓迎いたします! -
2016/08/17-07:43
柳大樹とー、クラウディオでっす。
よろしく。(右手をひらっと振る
屋形船初めてなんで結構楽しみかな。
「恋心」で酔う、ねえ。
俺らへの絡みはおっけーだよ。無理に絡まなくても大丈夫。
それと酔い加減は、
俺が酔わないで、クロちゃんがちょっと酔うっぽい。