プロローグ
「悪い、今度の夏期休暇は里帰りするよ」
「え……?」
デートの最中、そう言った相方に、あなたはびっくりしてしまった。
ウィンクルムになってこの方、長期休暇は一緒に過ごすのが当たり前だったのである。
「俺のばあちゃんが、この間、腰を痛めたとかで……。それで気が弱って、俺に会いたがっているんだとさ。ばあちゃんも八十歳を越しているしな。今のうちに孝行しておこうと思って」
「そうなんだ」
そう言われたら、あなただって聞き分けをよくしなければならない。
孫が、祖母孝行したいというのを、引き留めてまで一緒にいたがる相方を愛せる?
自分だったら、到底そうは出来ないから。
「そうなんだ。それじゃ、行ってきなよ。いっぱい、家族にサービスしてあげて。特におばあちゃんにね」
「うん、分かってる。お前ならそう言ってくれると思った」
そう言って、相方はいい笑顔である。
あなたはその日のデートは、その後、無難に食事をして帰った。
そうして、相方が実家に帰る日。
あなたは駅まで見送りに行った。
車窓ごしに手を振る相方。
これから五日間、あなたは相方には会えないのだ。
笑顔で手を振りながら、寂しさが押し寄せてくる。
(ううん。私には友達だっているんだし、家族だっているんだし、これぐらい、平気--)
やがて列車は出発し、あなたは、相方を見送る。大丈夫、ほんの五日間。
五日間、会えないだけ。
相方を見送った後、あなたは早速、スマホをいじってしまう。相方からのメール。こんなすぐに来る訳がない。
(私って、こんなに、あいつのことが好きだったっけ?)
自分でびっくりしてしまう。
そうして、あなたは、メールから電話帳の欄をいじっているうちに気がついた。そこには相方の緊急連絡先として実家の住所が書かれてあった。
そこに、次の列車が滑り込んでくる。それは、たまたま、相方の地方へ連携している電車だった。
あなたは、何も考えずに、その電車に飛び乗った。
財布とスマホは持ってきてある。相方の住所だって分かっている。身の回りのものは現地調達すればいい。
あなたは、相方を追って、次の電車に乗り込んだ!
解説
夏期休暇、精霊、もしくは神人が、実家に里帰りしてしまうというエピソードです。
プロローグと同様のパターンでなくても構いません!
実家が近所である場合は、地方にいるどちらかの祖父母や親戚が会いたがっているというものでも構いません。
精霊、もしくは神人は、五日間は帰ってきません。
その間、あなたはどうするでしょうか?
五日間、遠距離恋愛を楽しむでもよし。
自分も自分の実家に里帰りするでもよし。
プロローグのように、相方を追いかけていくでもよし。
あるいは最初から、ご両親に挨拶がてら一緒に帰るものでも構いません。
夏期休暇に、もしも相方と離ればなれになるとしたら--?
素敵なプランをお待ちします!
※駅への入場料で300Jrかかりました。
ゲームマスターより
皆様、夏期休暇はいかがお過ごしですか? 皆様のウィンクルムはどんな夏期休暇を過ごすでしょうか。楽しみにしています。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
かのん(天藍)
ご挨拶に天藍の実家へ 急な仕事の都合で一緒に行けず1日遅れて天藍を追いかける形に 初めて会う天藍の家族に対し降りる駅が近づく程緊張が高まる 駅まで迎えに来ていた天藍の姿にほっとする …この状況で緊張しない方が変です 玄関前に着き 深呼吸一つついた所で内側から勢いよくドアが開く 大歓迎の出迎えに驚く 先に来た分、かのんの事、婚約した事 ウェディングハルモニア地下の遺跡でウィンクルムとして結婚の儀を行った事 模様替えが済んだらかのんの自宅で新しい生活を始めるつもりな事等話しておいたと天藍から聞く 私の事褒めすぎで少し恥ずかしい 帰路 天藍の家族に見送られ振り返り何度も手を振る これからの私達もご実家みたいに温かな家にできたら |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
羽純くんが親戚のお店のお手伝いに行くと聞いて、寂しいけど我慢しなきゃと思っていたのですが… おじいちゃんのお弁当屋さんも夏季休暇で、手持ち無沙汰になったら、どうしても羽純くんの事ばかり考えてしまって… こっそり様子を見に行く事にしました つば広帽子に日傘を差し、避暑に来たお嬢様風服装変装 電車に乗って彼の居る喫茶店の前へ まずは窓から様子を窺って…うわあ、凄いお客さんの数 羽純くん、忙しそう… うう、もう見ているだけじゃいられない…! 店内に入って、お手伝いをします お店の営業が終わった後、羽純くんに謝ります ごめんね、勝手な事して…どうしても羽純くんに会いたくて来ちゃった 羽純くんに会えて、お手伝い出来てよかった |
シャルティ(グルナ・カリエンテ)
帰 占い師である父親がぎっくり腰をやらかしたので、ついでに里帰りすることに (ぎっくり腰なんてなにやってるのよもう) 実家はタブロスからだと電車を乗り継がなくてはならないほどの遠さ …大丈夫かしら。グルナ って、なんで私があいつの心配なんか いつもなら声をかければ返事をする相手が今はいないから、なんとなく釈然としない 五日くらい空けたって死にはしないわよ …なのに、なんで気になるのかしら ふと、携帯に目を向ける 実家の近くは携帯の電波は届かなくなるから連絡するなら今の内 …は? えっ…!? ちょっと待って。なんでいるのよあんたが ふぅん、そう バカ。なわけないでしょ 照れていることを知られたくなくて咄嗟にそっぽを向く |
スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
養父の妹さんに会いに行ったみたいね 「結婚相手紹介されるだろうが断る」って言ってたけど 彼が養子とはいえ上流階級の出だってこと忘れてたわ 軍に復帰したら自信もついてやさぐれも治ると思うのよ その人と結婚してコネで軍人になった方が… わ、私は愛人になるのなんて慣れっこだから、それでも、いいと… クロスケ… 駄目 私クロスケの所に行く 何処に行ったか知ってるもの って、クロスケ? 叔母様に追われてる?誤魔化すって夫婦のフリでいいの? …分かった 目の前で特別なキスしてあげる …って、誤魔化すのは上手く行ったけど クロスケには刺激が強かったかしら クロスケー伸びてないで起きなさいよー …介抱して、あと何日一緒に休みを過ごせるかしら? |
水田 茉莉花(聖)
いつの間に来たのかしら、実家に帰るからその間の世話お願いしたのに… ってかあのバカちび、またひーくんに騙されたな 駅のホームで泣かない!さっさと乗るっ! ふぅ、実家に着いたけどどう説明しようっ…ひ、ひーくん?! お父さんお母さん良く見て、手の甲、ウィンクルムなの! …あたしも良くわかんないんだけど、契約した当初からそう呼ばれてるの …ち、違うわよ、彼とも関係はないし にてるような気がするけど他人ったら他人なの 今日の会議終わったら、彼も合流する予定、ひーくんこっちに居るし うん、この子も一緒に住んでて…あっこらひーくん、ワガママ言わないの! どうせだったらニンジンの美味しい食べ方を教わって 自由研究に纏めなさいっ! |
●水田 茉莉花(聖)編
今日、水田茉莉花は実家に里帰りするために駅に来ました。
本当は、一人で帰る予定だったのです。
「ママー!!」
そこにリュックを背負った子供がタックルしてきました。なんと、精霊の聖です。
「ぼくもおじいちゃんとおばあちゃん家に行くー。ママだけずるい、ぼくも、ぼくもつれてってー!」
茉莉花はびっくりして声も出ません。
(いつの間に来たのかしら、実家に帰るからその間の世話お願いしたのに……)
茉莉花は、出がけにもう一人の精霊八月一日智に聖の事を頼むと言って来たのです。ところが何故か駅のホームまで追いかけて来てしまった聖。
聖は茉莉花の位置から見ると「ママーママー」と泣いています。ですが、見えない角度ではこっそり舌を出しています。
(ってかあのバカちび、またひーくんに騙されたな)
茉莉花は智に対して腹を立てますが、ここまで来られてしまっては仕方ありません。一緒に実家に連れて行く事に決めました。茉莉花は茉莉花で聖に騙されています。
「駅のホームで泣かない! さっさと乗るっ!」
茉莉花は聖をそう叱りつけて、頭を押しながら一緒に列車に乗り込みました。
(ふぅ、実家に着いたけどどう説明しよう)
なんだかんだで旅を終えて、実家の玄関をくぐり抜け、茉莉花は考えあぐねます。現在、智の家に住んでいる事はともかく、聖の事はまだ説明していないのです。
玄関に入ったところで茉莉花の両親が出てきました。
「おじいちゃん、おばあちゃん、はじめまして。ぼく、聖っていいます、ママといっしょに里帰りしました!」
途端に、聖が元気にそう挨拶しました。
両親は目を丸くして茉莉花に色々問いただしてきます。誤解してしまったのです。
「お父さんお母さん良く見て、手の甲! この子、ウィンクルムなの!」
茉莉花が大慌てでそう叫ぶと、両親の誤解はいくらか解けますが、やはり質問を繰り返してきます。何故、ただの精霊にママと呼ばれているのか不思議に思ったのでしょう。
「……あたしも良くわかんないんだけど、契約した当初からそう呼ばれてるの」
茉莉花も何故そう呼ばれるのかわからないのです。わからない事はわからないと言うしかありません。そうすると両親は、同居している智の事を心配して色々訊ねてきました。
「……ち、違うわよ、彼とも関係はないし、似てるような気がするけど他人ったら他人なの」
茉莉花はうろたえながらそう答えました。両親と色々会話をしながら玄関から上がり居間の方へと向かいます。
「パパですか? パパはお仕事で来られないって言ってました」
聖の方はけろっとしたものです。おばあちゃんがすすめるままに二人はテーブルに着きました。
「今日の会議終わったら、彼も合流する予定、ひーくんこっちに居るし」
茉莉花は聖の言う事に補足して両親に説明しました。
(……ちっ、ちびパパ合りゅうしちゃうのか)
聖は小声で舌打ちします。大人たちには聞こえないように。
「うん、この子も一緒に住んでて……」
茉莉花は両親が色々聞いてくる事に答えます。そこでおばあちゃんが大きなスイカを二人のために冷やそうと、風呂場に持って行き始めました。
「わぁいおばあちゃん、ぼくスイカ大すきなんです! もって行くの手つだいます。あとねーあとねー、ぼくそうめん食べたいです。おいもの天ぷらとそうめん!」
「あっこらひーくん、ワガママ言わないの! どうせだったらニンジンの美味しい食べ方を教わって自由研究に纏めなさいっ!」
茉莉花は早速、聖の事を叱りつけます。こうしていると本当にママですね。
「えー、ニンジンキライー! じゆうけんきゅうなら、虫のかんさつがいいです。ねぇおじいちゃん、とりに行こうよー」
そして聖は本当にその年齢らしい子供。びっくりしていた両親ですが微笑ましく二人を見ています。楽しい夏休みになりそうですね。
●かのん(天藍)編
今年、かのんは精霊の天藍の実家に、挨拶のために一緒に帰ります。
ですが、かのんは急な仕事の関係で都合がつかず、一日遅れて天藍を追いかける事になりました。
そのため、行きの列車の中では一人です。初めて会う天藍の家族の事を考えると、降りる駅が近づくごとに緊張が高まっていきます。天藍が一緒なら緊張を解いてくれたでしょうか? 逆に余計に緊張してしまうかもしれないし、複雑な気持ちです。
この時のかのんの衣装は、舞姫装束「胡蝶華月」に【浴衣】清夏、足下は【下駄】イチョウの葉です。アンダーウェアはスタイリッシュ・フォース、靴下は毬つき【ソックス】、小物は星屑の閃き【ネックレス】、【耳飾】遊戯日和、【腕輪】一陣、と全体的に和風で夏の季節感を出している出で立ちでした。
一方、天藍は、一足先に実家についています。
天藍の方は、狐神御服「黒衣大和」に夜叉装束「黒桜」、【下駄】イチョウの葉です。アンダーウェアはスタイリッシュ・フォース、手袋は和心、頭に【手拭】和紅葉、それに【首飾り】神珠輪と、彼もまた、和風で夏らしい格好をしているのでした。黒髪同士の天藍とかのんにはこういう姿がよく似合います。
(かのんの出発が1日遅れた……本当は一緒に行ってすぐ両親達に紹介できればと思っていたのに)
天藍は実家についてから、両親や家族たちにかのんとのこと、彼女が挨拶に来るはずでしたが一日遅れる事を伝えました。
「貴方も1日遅く一緒に来れば良かったじゃない」
そういう母の言葉に頭をかいてしまいます。
かのんの方から、天藍がほとんど実家に帰っていないのなら、先に帰ってご両親とゆっくり過ごしてくださいと言われていたのです。それもあって先行していたのですが、かのんも母も双方、お互いに気を遣い合っている様子。
そんな一幕の後、かのんが駅に着きました。
駅に着くと、天藍の姿が見えます。迎えに来てくれたのです。その姿にかのんはほっとします。
(……この状況で緊張しない方が変です)
自分でもそう思います。
かのんは天藍に連れられて、彼の家の前の玄関に着きました。そこで一つ大きな深呼吸をします。
その途端に、内側から勢いよくドアが開きました。
天藍の両親と祖父母の「いらっしゃい、よく来たね」の声。
数人の弟たちのクラッカーの音。
待ち構えていた歓待。
かのんは驚いて目を丸くしましたが、それで緊張も吹き飛んでしまいました。
「賑やか通り越して喧しいんだ家は」
天藍はそう説明します。呆れられなければいいがと、内心冷や汗なのでした。
「はじめまして、お招き頂いてありがとうございました」
ですがかのんはにっこり笑って歓待に答える様子です。天藍は安心しました。
そこで改めて天藍はかのんを全員に紹介しました。皆、かのんを歓迎している様子です。そこで玄関から家の中に入り、居間で仲良く話す事にしました。
かのんは天藍から話を聞きました。
先に来た分、かのんの事、婚約した事。ウェディングハルモニア地下の遺跡でウィンクルムとして結婚の儀を行った事。模様替えが済んだらかのんの自宅で新しい生活を始めるつもりな事。様々な事を天藍が先に話しておいてくれたのです。
(私の事褒めすぎで少し恥ずかしい……)
ですが、半ば嬉しい気もするのでした。
帰路、天藍の家族は二人を駅まで見送ってくれました。
かのんは何度も振り返り、彼らに手を振りました。
(これからの私達もご実家みたいに温かな家にできたら……)
そんな夢を見ながら、天藍とかのんは二人で、二人の暮らしに戻って行きます。希望に満ちた未来が訪れますように。
●スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)編
今年、スティレッタ・オンブラと精霊のバルダー・アーテルは離ればなれの夏休みを迎える事になっていました。
(養父の妹さんに会いに行ったみたいね。「結婚相手紹介されるだろうが断る」って言ってたけど、彼が養子とはいえ上流階級の出だってこと忘れてたわ)
酒場で店を開く準備をしながらスティレッタはそんな事を考えています。
(軍に復帰したら自信もついてやさぐれも治ると思うのよ。その人と結婚してコネで軍人になった方が……。わ、私は愛人になるのなんて慣れっこだから、それでも、いいと……) スティレッタは自分の過去の事を考えながら、複雑な気持ちでいます。
「クロスケ……」
思わず赤い口紅の唇からこぼれでる精霊の名前。
スティレッタはバルダーの事をクロスケと呼んでいるのです。
(駄目。私クロスケの所に行く。何処に行ったか知ってるもの!)
スティレッタは酒場の看板に定休日の札を掲げると、大急ぎで準備をして、バルダーの後を追いかけました。
一方、バルダーは後悔のまっただ中にいました。
(叔母上に会うって言うんじゃなかった……。い、いや不義理じゃない。しかし……俺、契約するまで自分が精霊だって知らなかったしな。叔母上も俺が精霊って知らん訳だし……)
叔母である養父の妹は、バルダーの事を精霊だと知らずに呼び出したのです。
(って叔母上が紹介した女、何だあれ。知的な人って、あながち間違っちゃいないが、自分の知識を鼻に掛けてるぞあの女は!)
バルダーはそこで、叔母の紹介してくれた女性に対して腹を立て始めました。
(しかもあの女俺がウィンクルムの精霊だって知ってるし、スティレッタの事まで調べてるし……は? スティレッタは奔放? だから自分の方が相応しい?)
一体どうやって、叔母にも知らせていないような事を調べ上げたのか。そこからして不気味で腹が立ちます。バルダーは今、叔母が用意してくれた自分の部屋で一人、イライラと爪先で床を蹴っています。
(……違う。あいつはアンタみたいな温室育ちには耐えられない逆境を生きてきただけだ! 我慢ならん。俺は帰る!)
やがて、一人で結論を出して、バルダーは荷物をまとめて自室を飛び出ました。当然、叔母が追いかけてきます。うるさいことを言うのを無視しながら、玄関まで行くと、ちょうどスティレッタがこちらに向かってきたところでした。
「って、スティレッタ? 丁度いい! 頼む! 叔母上を誤魔化すの手伝ってくれ!」
突然の神人の登場に驚いたバルダーでしたが渡りに船とばかりに頼みました。
「叔母様に追われてる? 誤魔化すって夫婦のフリでいいの? …分かった」
スティレッタはそう言うと、叔母の前でバルダーの首に抱きつき、とびっきりの特別なキスを行いました。バルダーは目を見開きます。
大きく目を見開いていたバルダーですが、そのまま膝から崩れ落ち、玄関の床に倒れてしまいました。そうしてスティレッタは艶然と叔母達に微笑みかけて、妻のように振る舞います。叔母達は目を丸くした後、屋敷の奥に引っ込んでしまいました。
「クロスケには刺激が強かったかしら。クロスケー伸びてないで起きなさいよー」
スティレッタはバルダーの頭をつつきながら訊ねます。バルダーは死体のように動きません。
(……介抱して、あと何日一緒に休みを過ごせるかしら?)
ちょっと残念に思いながら、スティレッタはバルダーの頭を撫でながら、彼が起きるのを待ちます。叔母の事も気にせず、彼との休日の事ばかり頭を占めています。その情熱は確かに奔放な女性と言えるのかもしれません。それがとても魅力的なのがスティレッタの持ち味なのでしょう。
●シャルティ(グルナ・カリエンテ)編
今年、シャルティは精霊のグルナ・カリエンテを置いて実家に里帰りすることになりました。
占い師である父親がぎっくり腰をやらかしたのです。
「ぎっくり腰なんてなにやってるのよもう」
実家はタブロスからだと電車を乗り継がなくてはならないほどの遠さです。シャルティはちょっぴり面倒くさいと思っています。ですが、娘なのですから仕方ありません。
シャルティはさっさと家を出て駅から電車で実家に帰りました。
一方、グルナは。
(ぎっくり腰ねぇ。占い師って、座りっぱなしだろ。どうやったらなるんだよぎっくり腰
……。あの人がぎっくり腰……追いかけてみるか)
彼はシャルティを追いかけて彼女の実家に帰る事にしました。
グルナはシャルティの父である占い師に何度かお世話になった事があるのです。彼も荷物をまとめて大急ぎでシャルティの実家に向かいました。
「……大丈夫かしら。グルナ」
その頃、電車の中でシャルティは一人呟いていました。
それから慌てて否定します。
「って、なんで私があいつの心配なんか」
四人がけのボックス席に一人座っている状態で、また呟いてしまうシャルティ。
普段は、話しかければいつも返事をしてくれるグルナと一緒なので、今は違和感があります。それで独り言を言ってしまうようなのです。
今日のシャルティはメルヘン街道ワンピースに【パーカー】海桜、ノーブル・ミーティアをあわせています。パーカーとアームカバーは夏物です。それから帽子にウサウサフィーバーをかぶり、赤の長いソックスとショートブーツを履いたとても女の子っぽい格好です。田舎に里帰りするのに相応しい事でしょう。
(五日くらい空けたって死にはしないわよ。……なのに、なんで気になるのかしら)
口を開かないように意識しつつ、シャルティはふと、携帯に目を向けます。
実家の近くは携帯の電波が入りづらいので、グルナに連絡を取るなら今のうちなのでした。
「よう」
そこで通路側から男性の声がかかりました。
「…は? えっ…!? ちょっと待って。なんでいるのよあんたが」
グルナです。びっくりして慌てるシャルティ。
「言っただろ。お前の家族と知り合いだって。暫く見てねぇけど気になったんだよ」
シャルティは夢想花の咲き乱れる花園でグルナが話してくれた事を思い出しました。グルナはシャルティの母の事を知っていたらしいのです。
そういいながら、グルナはシャルティの前の席に座りました。
グルナの方はホワイトヴァイツにウエスタンジーンズ、幸福のコート「調和のプリス」を合わせています。黒っぽい精悍な出で立ちは、シャルティの女の子っぽさを引き立てます。
「ふぅん、そう」
母親との思い出を刺激されても、シャルティはそっけない調子なのでした。本当は母との事を知りたい気持ちやグルナの登場を喜ぶ気持ちがあっても、シャルティは常にこうなのです。
「寂しかったか?」
にやりと笑って訊ねるグルナ。
「バカ。なわけないでしょ」
シャルティはちょっと眉をつり上げてそう答えました。
「そーかそーか」
グルナはまだにやにや笑っています。
照れている事を悟られたくなくてシャルティはそっぽを向きました。グルナはさらに話しかけてからかうような事を言ってきます。それに対してシャルティはそっぽを向いていましたが、やがてサディスト発言を……。
何はともあれ、これで旅の話し相手が現れました。シャルティはもう独り言を言う必要がありません。実家までは何度も電車を乗り継ぎますが、その間も、グルナと一緒です。楽しい里帰りになることでしょう。
●桜倉 歌菜(月成 羽純)編
今年の夏休み、桜倉歌菜の精霊の月成羽純は、母方の叔父の家に滞在することになりました。叔父が怪我をして、彼の経営する喫茶店が大変な事になっているようなのです。
羽純も母に頼まれては断る事が出来ません。
歌菜も羽純が手伝いに行くという話を聞いた時、寂しいけれど我慢しなきゃと思いました。事情が事情なのですから、ワガママを言ってはいけないでしょう。
しかし、彼女の祖父母が経営する弁当屋も、夏期休暇で暇になり、手持ちぶさたになると羽純の事ばかり考えてしまいます。何しろ婚約者なんですから。
それで歌菜は彼の叔父の喫茶店へ、羽純をこっそり見に行く事にしました。
一方、羽純が着いてみると、喫茶店は、近くに海水浴場などがあるせいか、とにかく忙しい状態でした。
次々に来店するお客様。注文の多いお客様。
羽純も必死に働きますが、ふと我に返ると何故こんなことになっているのか、虚しくなってきます。
(歌菜は……今頃何しているだろうか)
羽純もどうしても歌菜の事を考えてしまいます。
もしも、叔父の手伝いという事がなかったら、今頃、何をしていたでしょうか。婚約したばかりの歌菜と、夏休みにどこかに出かけたり出来ていたのではないでしょうか。今更言っても仕方ない事なのですが……。
その頃、歌菜は、つば広の帽子に日傘を差して、避暑に来たお嬢様風の服装に変装し、
電車に乗って羽純のいる喫茶店の前についていました。
まずは窓から覗いて様子をうかがいます。
(……うわあ、凄いお客さんの数。羽純くん、忙しそう……)
次から次へと来るお客様を裁きながら、羽純は少し疲れているようにも見えました。羽純は我に返って、歌菜の事を考えているところだったのです。その寂しそうな表情を見ていると歌菜も切なくなってきます。
(うう、もう見ているだけじゃいられない……!)
羽純が忙しく立ち働くのを見ているうちに、歌菜はこらえきれなくなりました。
店内に入って、手伝いを申し出ます。歌菜は何しろ弁当屋の看板娘。お客様相手の仕事なら慣れているのです。てんてこまいだった喫茶店の方は、歌菜が羽純の友達だと聞いて、二つ返事で歌菜の手伝いを受け入れたのでした。
「……歌菜?」
歌菜の事を考えていた途端に、目の前に歌菜が現れたのですから、当然、羽純は驚きます。
歌菜は羽純を見るとにこっと笑って次々とお客様を裁いていきます。テキパキと手伝ってくれる歌菜のなんと頼もしい事でしょうか。
歌菜の顔を見て力が湧いてきた羽純は、自分も負けずにくるくると働き続け、喫茶店は大盛況となりました。そういえば、羽純と歌菜が二人で同じ場所で働いた事はあったでしょうか。ウィンクルムの仕事は別にしても。
歌菜は羽純の力になれたこと、羽純と同じ職場で働けたことを、密かに嬉しく思っています。
喫茶店の営業時間が終わった後、歌菜は羽純に謝りました。
「ごめんね、勝手な事して……どうしても羽純くんに会いたくて来ちゃった。羽純くんに会えて、お手伝い出来てよかった」
歌菜に謝られて、羽純は再び驚きます。
「どうして謝る必要があるんだ? 嬉しかった、会いに来てくれて……手伝ってくれて有難う」
そう言って羽純は歌菜の頭を撫でました。
「すっかり遅くなったし、今日はこっちに泊まっていくといい。部屋は何とかするから、安心しろ。疲れただろ、何か美味しい物を食べよう」
羽純に撫でられて歌菜は嬉しそうに笑います。
その後、閉店後の喫茶店で、甘党の羽純にあわせて残りのケーキを食べながら、二人は一日働いた疲れを癒やしました。一生懸命働いて、好きな人の顔を見ながら、甘い好物を食べるひととき。夏休みのように遊んで甘える事は出来ないけれど、これはこれで特別なひとときに違いありません。残りの休日も、二人で働きながら、愛を深める事は、確実なのでしょう。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:かのん 呼び名:かのん |
名前:天藍 呼び名:天藍 |
エピソード情報 |
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マスター | 森静流 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月11日 |
出発日 | 08月18日 00:00 |
予定納品日 | 08月28日 |