プロローグ
きらきらと輝く太陽。その光に照らされ同じように煌めく熱い砂浜。
穏やかな波も光を反射し拡散して。
常夏のビーチ。
ここはパシオン・シー。とある高級ホテル所有のプライベートビーチ。
この場所を堪能しているのは、あなたと精霊、2人きり。
こんな贅沢が味わえるのも……この水着のおかげ。
あなたは自分が着用中のビキニの水着を見下ろす。
ちょっとセクシーすぎるような気もするけれど……ホテルオーナーと懇意にしているデザイナーの最新作である。
この水着のモニターを務めることを条件に、格安でこのプライベートビーチを使用できる、というミラクル・トラベル・カンパニー一押しの日帰り旅行にあなたたち2人は申し込んだのであった。
モニターというからには、様々な条件下での使用感を報告しなければならない。
泳いでみたときにはどうなるのだろう。
「少し泳いでみるね」
木陰で休む精霊にそう言ってあなたは沖に向かって歩き出す。ある程度水深が深くなったところですいっと泳ぎはじめる。
温い海水が気持ちいい。
時折温度の低い海流が身体を撫でていく。
解放感があるのは、水着の布面積が少ないせいだろうか?
それにしても、何も着けていないような気がするほどの……。
あなたは泳ぐのをやめ、足をつく。そして身体を見下ろす。
ぎゃあ、と叫びそうになった。
トップスが、ない!
いつの間にか紐が解けてしまったようだ。
あなたは慌ててきょろきょろとあたりを見回す。
10メートルほど沖側の岩礁に、それはうまく引っ掛かってくれていた。
それでも、そのうち波に流されてしまうかもしれない。
すぐにとりに行かなければ。でも、ここから先は水深が深く、少し危険かもしれない。
精霊に助けを求めようか?
え?でもこの状態で?そりゃあいくらなんでも恥ずかしい。
では、自力で取りに行く?でも……。
さて、どうしよう???
解説
大変だ!ビキニのトップスが流されたよ!
自分で取りに行くか、精霊にお願いするか……。どちらにしても、ひと波乱ありそう?
プライベートビーチ使用料として一律500ジェールいただきます。
タオル、パーカー、男性用水着はホテルで貸し出してくれます。
ビーチを堪能した後は、一組200ジェールでホテルの一室で一休みもできます。その場合、バニラアイスが提供されます。宿泊はできません。
ゲームマスターより
春のぱんつに続いて夏のブラです。どうしてこうなった。
水着は紐ブラビキニですが、その他のデザイン等、希望があればプランに記載願います。
ビギナーモードではありませんが、ビギナー様の参加もお待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
月野 輝(アルベルト)
ちょっとセクシー系で布面積が少ない水着だったから少し心配だったんだけど まさかこんなに簡単に外れるなんてっ(慌てて腕で胸を隠す これはメーカーに文句を言わないとだわ でもその前に アルに気付かれる前に水着を取ってこないと 大丈夫、泳げないわけじゃないんだから何とか 焦って泳ぐせいか先に進まず 妙な力が入ったのか足が攣って ま、まずいわ、これ… 水の中に沈みそうになる寸前、引き上げられる感触 目を開けたら間近に心配そうなアルの顔 ありがと、助かったわ そう言ったのに返事がなくて、アルの顔が赤い? 視線で見られたと理解 恥ずかしい…でも、アルになら…って思う自分もいて 浜に戻ってきたアルに、一緒に暮らすまで待ってね、と一言だけ |
かのん(天藍)
状況に気付き思わず腕で胸を隠す 流される前に取りに行かなくてはと思った所で、背後から声が聞こえ 岩場へ泳ぐ天藍の姿 何も言わなくても困った事に気付いてくれて助けてくれる事が嬉しいものの 彼が水着回収した所を見て気恥ずかしさが上書き …どうやって受け取ったら良いんでしょう? 受け取った後も 紐が流れて水中では着にくいです… アイス食べつつ 今日の水着、結ぶ紐の先にビーズあしらったタッセルついていて可愛いのですけれど… 天藍の感想に、普通の浜辺でビーチバレーしている時や、プールのウォータースライダーだったりしたらと思うと …外れない事って大事ですよね 冷房が少し効きすぎているような気がしてソファの隣に座る天藍の傍に寄る |
リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
(手ブラしつつ) 流れてしまったものは仕方がない、取りに行くか どう考えても私の方が確率高いし(スキル的にも)、銀雪は止血してなさい 慈悲の精神で言うが、鼻血流れてるから プライベートビーチで銀雪以外いないし、泳ぐ時は隠さず普通に泳ぐ リゾートだからこうした水着でいいと思うが、泳ぐのは不向きと伝えておこう 泳いで水着まで到着したら着けて 振り返って様子見 途中まで見てたんだろうな… ま、銀雪も年頃な上私を好いているのだから仕方あるまい サービスということにしておこう いつか来る未来で失血死しない為のな?(くくく 今はまだあの反応が可愛くて面白いので、黙っておくけどな 後でアイス食べる時に話題蒸し返して反応楽しんでおこう |
オンディーヌ・ブルースノウ(エヴァンジェリスタ・ウォルフ)
あら…困りましたわね、借り物ですのに 困った風でもなく堂々と浜へ エヴァン トップスが流されてしまいましたの、取ってきてくださらない? …急がないと見失ってしまいますわよ 崩れた前髪をかき上げる精霊に胸が騒ぐ ああいう無意識下に滲む男の色気って…性質が悪いですわ 受け取り さすがはエヴァン、助かりました 借り物ですから無くしては事ですものね 涼しい顔で あら、大丈夫ですわよ、だってプライベートビーチですもの 見ているとすれば、貴方か太陽くらいのものですわ えぇ、分かっております それに、仮に不埒な輩がいたとしても、すぐに排除してくださるでしょう? 頼りにしておりますわ、エヴァン 立ち、頼もしい背に感謝のキス 着替えて参りますわ |
スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
あら取れちゃった クロスケ、泳ぎに自信あるならちょっと取って 別に気にする程?わざと見せてるのは認めるけど 布があるか無いかの差じゃない 第一何で女は胸隠して男は隠さないのよ って男女不公平は冗談よ …何かイラついてない? さっき見てドキッとしたからイラついたの? 男として正常な反応よ 貴方の肌も傷だらけで素敵よ …もう我慢できないのよ 第一、待つのは私の性に合わないわ ねぇ。バルダー いいでしょ?胸見たついでよ 初めてよね?私に任せて 恋人?なら私がなってあげるわ ガッカリなんてする筈無いわよ 大好きな貴方と過ごすんだもの さあ、いらっしゃい あーあ もうちょっとだったのに クロスケ、嫌がってなかったわよね ふふっ 今度は逃がさないわ |
●
オンディーヌ・ブルースノウは岩礁に引っ掛かっている水着を見つけ軽く肩を竦めた。
「あら……困りましたわね、借り物ですのに」
だが表情は全く困ったようには見えない。
隠すでもなく波をかきわけ歩いて砂浜に辿り着く。
彼女の視線の先には、木陰のデッキチェアでくつろいでいるテイルスの大男、エヴァンジェリスタ・ウォルフ。
「エヴァン」
眩しい陽光に瞳を閉じていたエヴァンジェリスタは、澄んだ声に名を呼ばれ目を開ける。
「!!」
オンディーヌのあられもない姿に気付き、エヴァンジェリスタは音速で顔を背けた。
「ッ、ディーナ!なぜそのような……!」
動揺を隠しきれないエヴァンジェリスタと対照的に、落ち着いた声のオンディーヌ。
「トップスが流されてしまいましたの、取ってきてくださらない?」
「そうでありましたか。では自分の上着を……あ、いや、ないな……あぁバスタオルが……」
オンディーヌの方を見ないように起き上がり、チェア周辺をあたふたと探るエヴァンジェリスタ。
「……急がないと見失ってしまいますわよ」
その一言にぴしりと背筋を伸ばし立ち上がる。
「そうでありますな!」
「岩場に引っ掛かっていますので、お願しますわね」
「では、行ってくるであります!」
振り返らずに砂地を駆け海に飛び込んでいくエヴァンジェリスタの背中を見つめ、オンディーヌは唇に妖艶な微笑みを浮かべると、つい先ほどまで彼がくつろいでいたデッキチェアに身を横たえた。
エヴァンジェリスタにとって、沖の岩場まで泳ぐことは造作もないことだった。
オンディーヌの柔肌を覆っていたであろう水着をその手に掴むことに多少躊躇いが生じたが、邪念を振り払うように頭を振るとそれを手にとり、砂浜に戻る。
その様子をオンディーヌはデッキチェアから眺めていた。
海から上がったエヴァンジェリスタが濡れて崩れた前髪を無造作に搔き上げる。
図らずも、オンディーヌの胸がどきりと高鳴った。
(ああいう無意識下に滲む男の色気って……性質が悪いですわ)
性質が悪いが嫌いではない。オンディーヌの唇が弧を描く。
所在なさげに水着を手に戻ってきたエヴァンジェリスタは、豊かな身体を隠そうともせずデッキチェアに横臥するオンディーヌの姿にぎょっとする。
見ないように、と視線を泳がせオンディーヌに水着を手渡すと、くるりと彼女に背を向けた。
「さすがはエヴァン、助かりました。借り物ですから無くしては事ですものね」
オンディーヌは一向に水着を身に着ける気配がない。
焦れたエヴァンジェリスタは視線は背けたまま一瞬だけ振り返り、チェアの脇に置いていたバスタオルをオンディーヌの身体に投げるように掛け、またすぐに背を向ける。
「そのように大胆に肌を晒すなど……恥じらいは何処へ置き忘れたのでありますか。誰が見ているかもわからんのですぞ」
そう諌められてもオンディーヌは涼しい顔。
「あら、大丈夫ですわよ、だってプライベートビーチですもの。見ているとすれば、貴方か太陽くらいのものですわ」
「じっ、自分は見たりなど!」
焦るエヴァンジェリスタにオンディーヌは優雅に笑う。
「えぇ、分かっております」
そう言われてほっとする反面、信頼は嬉しいが男として聊か複雑な心境に陥る。
オンディーヌは「それに」と言葉を続けた。
「仮に不埒な輩がいたとしても、すぐに排除してくださるでしょう?」
「それは、もちろんでありますが」
エヴァンジェリスタの背後でオンディーヌが立ち上がる気配がした。
ぱさり、とバスタオルが砂地に落ちる音。
「頼りにしておりますわ、エヴァン」
エヴァンジェリスタの逞しい背に、温かく柔らかな感触。
オンディーヌからの感謝のキスであることに気付いたエヴァンジェリスタが身を固くする。
「着替えて参りますわ」
みるみる顔を赤らめるエヴァンジェリスタをその場に置いて、オンディーヌはビーチを後にしホテルに戻る。
「まったく……戯れが過ぎますぞ」
エヴァンジェリスタは赤い顔のまま頭を抱えた。
●
ちょっと泳いでみますね、と海に入っていったかのんを、天藍は浜辺から見守っていた。
波も穏やか、水深もさほど深くない。心配はいらないだろう、と思っていたが。
なんだか、かのんの様子がおかしい。
急に立ち止まりきょろきょろと辺りを見回している。
(何があった?)
天藍は自分も海に入り彼女に近づく。
困ったように眉尻を下げ、両手を胸の前で交差し肩を抱くようにするかのん。その視線の先には、岩場に引っ掛かった水着……。
天藍は事態を察した。
水着は今にも波にさらわれていきそうで。
意を決したかのんがその方向へ足を踏みだした時。
「かのん!」
天藍の声が彼女を止めた。
かのんが振り返ると同時に、
「俺が行くから、かのんは足のつく所で待ってろ」
と、天藍はかのんを追い抜き泳ぎ始める。
比較的安全な海だとわかっているが、水着が無い事を気にしながら泳ぐのは気が逸れる分危ない。かのんに行かせるわけにはいかなかった。
かのんも不安はあったのだろう、天藍の姿に安堵する。
天藍は何も言わなくても困った事に気付いてくれて助けてくれる。そのことに嬉しさがこみあげる。
しかし。
(こんな格好でいるところを見られるなんて……!)
と、頬が熱くなるのであった。
そして、天藍がかのんの水着を回収したところで、さらに赤面する。
水着とはいえ、借り物とはいえ、身に着けていたブラを手にされるなんて……恥ずかしくて堪らなかった。
「ほら、とってきたぞ」
無事戻ってきた天藍だが、かのんの腕の隙間から覗く谷間が視界に入ってきてしまい、内心慌てた。
流石に凝視は拙い。ふいと視線を逸らし、水着を差し出す。
しかし、かのんももじもじしている。
なぜなら、水着を受け取るには胸をガードしている腕を片方離さなければならないから。
天藍は視線だけではなく自分の身体も横に向け、なるべくかのんが視界に入らないようにしてくれた。
かのんも少し背を向け気味にして、やっと水着を受け取る。
背中合わせになって、かのんは水着を身に着けようと試みる。
が、うまくいかないようで、「紐が流れて水中では着にくいです……」というかのんの小声が聞こえる。
とはいえ手伝うわけにもいかず。天藍は見ないふり、気付かぬふりをするしかなかった。
そして、他の人の目が無くて良かった、と心底思うのであった。
「もう大丈夫ですよ」
と声をかけられ、天藍は安心して振り返る。
「また外れて無くしたりしたら困るだろう。そろそろ終了で良いんじゃないか」
なにより、目のやり場に困るから。
着替えを終えてホテルの一室で一休み。
2人並んでソファに腰かけバニラアイスを口に運びながら、かのんは水着モニターとして感想を述べる。
「今日の水着、結ぶ紐の先にビーズあしらったタッセルついていて可愛いのですけれど……」
かのんは先ほど水着が外れてしまったことを思い出す。
見た目は良くとも実用性に乏しい。
「多少動いても外れない物にしてくれって事だけは伝えておくか」
天藍もしみじみと言う。こんなハプニングが頻繁に起こっては、一緒にいる方も参ってしまう。
かのんは、普通の浜辺でビーチバレーしている時や、プールのウォータースライダーだったりしたら、と想像した。
「……外れない事って大事ですよね」
もう一口バニラアイスを口に含むと、室内の冷房が効きすぎているせいか、かのんは肌寒さを感じた。
暖まりたくて、かのんは控えめに天藍に身を寄せる。
「どうした?」
「少し、冷えてしまったみたいで……」
控えめなかのんが可愛くて。
「そんなんじゃ暖まらないだろ」
天藍はぐいっとかのんの肩を抱き寄せた。
●
白い水着に身を包み滑らかに泳ぐリーヴェ・アレクシアを、眩しそうに目を細めうっとりと見つめる銀雪・レクアイア。
リーヴェは銀雪を波打ち際に残し、沖の方へと進んでゆく。
ざばり、と立ち上がったリーヴェの濡れた肌は太陽の光を反射して美しかった。
見惚れている銀雪だったが、リーヴェがおもむろに両手で胸部を押さえ、周囲を見渡す姿に異変を感じた。
波をかき分け、リーヴェの元に走り寄る。
「リーヴェ、水着取れたの……?」
まさか、と思って訊ねてみると、当たりだったようだ。
「流れてしまったものは仕方がない、取りに行くか」
「大変……!」
(こういう時に俺が取りに行っていい所見せないと)
銀雪は颯爽と海に飛び込み、波を掻き沖へと進む。
岩礁に引っ掛かっているリーヴェの白い水着を手に取ると彼女の元へ急ぎ戻る。
上半身が顕わになっているせいか、顔を赤らめ恥じらう彼女に「目を閉じてるし背中向けてるから早く着けて」と告げ手早く水着を手渡す。
背後からはリーヴェが水着を身に着ける気配。
その姿を想像しちょっとドキドキするけれど、紳士たる銀雪は彼女に背を向けた姿勢を崩さない。
暫くして、リーヴェが恥じらいながら「着けたぞ」と言い、銀雪の背中を後ろから躊躇いつつもハグ。
(素肌でなくて残念か、なんて……!)
「銀雪?」
「はっ」
呼ばれて現実に返る。お察しの通り、銀雪が海に飛び込んだところからハグまで、銀雪の妄想である。
「銀雪は止血してなさい」
「しけつ?」
疑問顔の銀雪に、リーヴェは慈悲深い聖母の如き笑顔で告げる。
「鼻血流れてるから」
はっとして鼻の下を拭う銀雪をその場に置いて、リーヴェは流された水着に向かって泳ぎ出す。
どのみち、水泳を趣味としその才もあるリーヴェが行く方が、無事に水着を取れる確率が高い。
プライベートビーチで銀雪以外いないし、隠さず普通に泳ぐことができるので、何ら問題はない。
(リゾートだからこうした水着でいいと思うが、泳ぐのは不向きと伝えておこう)
美しいフォームで波間を進みながら、リーヴェはそう考えた。
(普通にクロールで泳いで取りに行くリーヴェ、かっこいい……)
銀雪は鼻血を拭くのも忘れ、程よい背筋がありながらも女性らしいラインを保っているリーヴェの美しい背中に魅入っていた。
(背中だけだけど水着つけてない上半身拝んでおこう)
ぽちゃん、と音を立てて海面に鼻血が落ち、銀雪は我に返る。
(いけない、リーヴェが気づく前に止血に入らないと)
慌てて鼻を押さえる銀雪。
無事水着を手にし身に着けたリーヴェが振り返ると、鼻血を止めようと四苦八苦している銀雪が目に入った。
(途中まで見てたんだろうな……)
すぐに察することができる。
(ま、銀雪も年頃な上私を好いているのだから仕方あるまい)
咎めるのも可哀相である。
リーヴェは再びすいっと泳ぎ、銀雪の元へと戻った。
「あ、リーヴェ、お帰り」
ギリギリで鼻血が止まった銀雪は、何事も無かったかのように振る舞う。
リーヴェはおかしそうに、くくっと喉を震わせ笑った。
(今回はサービスということにしておこう。いつか来る未来で失血死しない為のな?)
「?」
リーヴェの楽しげな様子を、銀雪は不思議そうに見つめた。
海を堪能した後は、ホテルの部屋でバニラアイスを楽しみつつ休憩だ。
「美味し~いっ」
幸せそうな顔の銀雪。
「また鼻血を出さないようにな」
言われて、銀雪はごほごほ咽る。
でも、そんな意地悪を言うリーヴェもかっこいい……なんて考えてしまった銀雪の鼻腔からは、またもやたらり、と鼻血が……。
あわあわと鼻を拭う銀雪に、リーヴェは肩を震わせて笑った。
●
婚約者のアルベルトしかこの場にいないとはいえ、普段よりぐっと大人っぽい水着に身を包んだ月野 輝は、ちょっと居心地の悪さを感じていた。
しかし、このおかげでプライベートビーチをアルベルトと共に楽しむことができるのだから、モニターとしての役割をきちんと果たさねばなるまい。
「泳いでみたらどんな感じなのか、確かめてくるわね」
と、輝は沖へと泳いでいく。
(こんな水着じゃ、泳ぐのは少し心配かも……)
なんて思っていたら案の定。
ひと泳ぎして足をつき、立ち上がった瞬間、胸元に直接海風を感じる。
「!!」
輝は慌てて腕で胸を隠した。
(まさかこんなに簡単に外れるなんてっ)
これはメーカーに文句を言わないと……でもその前に。
あたりを見回すと、水着は少し離れた岩に引っ掛かっている。
視線をアルベルトに向けると、彼は浜辺に落ちている珍しい貝殻などに興味を奪われているらしく、こちらには気づいていない。
気付かれる前になんとか水着を取ってきたい。
輝は水着に視線を戻す。
(大丈夫、泳げないわけじゃないんだから何とか)
輝は水着に向かって泳ぎだす。
何とかなる。その安易な考えが海難事故のもと。
胸元を気にしつつ焦って泳ぐせいか、なかなか前に進めない。
アルベルトに気付かれる前に、早く、早くと思うと妙な力が入ってしまったのか。
(足が……!)
ふくらはぎに痛みが走る。どうやら攣ってしまったようだ。
(ま、まずいわ、これ……)
輝は必死にもがいた。が、海面がバシャバシャと派手な音を立てるのみで、体勢を整えられない。
しかし、その水音を、アルベルトの耳は捉えた。
(あれは、まさか溺れてる!?)
アルベルトは慌ててパーカーを脱ぎ捨て海へ。
(輝は泳ぎが達者だと思って……油断した!!)
自分に腹を立て、忌々し気に舌打ちする。
アルベルトの目の前で、輝の姿は徐々に海の中へと消えていき……
アルベルトは必死で手を伸ばし、輝の身体が完全に海に沈む直前に彼女の胴に腕を回し引き上げた。
輝の足がつく場所まで移動すると咽せる輝を抱き寄せ、背中を摩る。
ひとしきり咽せた輝が顔を上げると、すぐそばに心配そうにこちらを見つめるアルベルト。
「ありがと、助かったわ」
輝がそう言うとアルベルトはほっと安堵の息をつき、彼女を抱き締めていた腕の力を緩める。
そして、気づいてしまった。
「!?」
(何故、胸が露わになって……)
アルベルトは絶句する。
もともと面積の少ない布一枚だったが、あるとなしでは大違いだ。
輝は、感謝を述べてもその返事がないことに不思議そうな顔をする。
(アルの顔が赤い?)
動揺が顔に出るなんて珍しい。
精神は大分鍛えているつもりのアルベルトだったが、さすがにこの状況では動悸がして体温が上昇してしまう。
何よりも、視線をそこから外すことが出来ない。
「……っ」
アルベルトの視線の先がどこに向かっているのかを察した輝は、身を捩って離れようとする。咄嗟にアルベルトは輝を再び抱きしめる。
「大丈夫だ、そんなに見てないから」
(「そんなに」って……!)
輝は頬を赤らめる。
「まずは、浜に戻ろう」
まだ朱の残る顔で言うアルベルトに、輝も頷いた。
輝は腕で身を隠し、アルベルトはそんな彼女を支え、浜辺に戻る。
「ここで待っていろ」
と、海に戻っていくアルベルトの後ろ姿を、輝は見送る。
輝の頬からはまだ熱が引かない。
(恥ずかしかった……)
その反面、心のどこがで(でも、アルになら……)と考えている自分もいる。
戻ってきたアルベルトからは、すでに動揺の色は消えていた。平常心を取り戻す早さは鍛錬の賜物か。
「流されてしまわなくて良かったよ」
と、輝に水着を手渡してくれる。
輝は片手で身体を押さえたまま、水着を受け取った。
「あ、あのね……」
輝は思い切って、気持ちを口にする。
「一緒に暮らすまで待ってね」
言ってしまってから真っ赤になる輝に、アルベルトは一瞬だけ目を見開くが、すぐに微笑み頷いた。
「ここまで待ったのだし、その時を楽しみにしている」
囁くと、輝は真っ赤な顔のまま俯くのであった。
●
スティレッタ・オンブラは解放感に包まれ腕を天に伸ばす。露出の多い水着でも堂々たる身のこなし。
対して、バルダー・アーテルはしっかりとパーカーを着込んでいる。
(肌を見せるのは嫌なんだよ……)
バルダーが消極的なのには、理由があった。
スティレッタが躊躇せず沖へ泳ぎに行っても、バルダーは浜に残る。
(腹の傷でアイツに俺の正体がばれたらまずいしな……)
などと考えこんでいたものだから、スティレッタが沖の方で
「あら取れちゃった」
なんて平然として言ってのけたことに気付かなかった。
「ねーえ、クロスケー」
沖からスティレッタに名を呼ばれる。
「水着のトップスが取れちゃったの」
と、岩場に引っかかった水着を指差すスティレッタ。
「は!?トップスが!?」
バルダーは顔をしかめる。
「クロスケ、泳ぎに自信あるならちょっと取って」
言いながら、スティレッタは浜に戻ってくる。
「……分かった、取って来る」
泳ぎに自信というほどでもないが、軍での訓練程度の基本的なことならできる。
「って中身を隠せ!堂々とするな!」
水深が浅くなるにつれ露わになるスティレッタの上半身に、バルダーは顔を逸らした。
「別に気にする程?わざと見せてるのは認めるけど」
笑みを浮かべるスティレッタに、やっぱりわざとか……と、バルダーは苦い顔。
「布があるか無いかの差じゃない」
「布一枚の有無は大違いだろ!」
「第一何で女は胸隠して男は隠さないのよ」
「妙な男女平等論を唱えるな!」
言い合いながらもスティレッタはぐいぐいとバルダーに近づき、バルダーは首が痛くなるほど顔を背ける。
「って男女不公平は冗談よ。……何かイラついてない?」
スティレッタは腰に手をあて、首を傾げる。
「い、イラついているもんか!」
バルダーはパーカーを砂地に投げ捨て水着を取りにいく。
スティレッタは楽しそうにくすくす笑った。
水着を取って戻ってきたバルダーは、すかさず投げ捨てたパーカーを拾い何気なく腹部の傷を隠しながら、スティレッタに水着を手渡す。
「……もう疲れた。ホテルで休むぞ」
身体的疲労ではなく、精神的疲労であった。
空調の効いた部屋で、着替え終わったバルダーはベッドに身を横たえ身体を休めていた。
そこへ、同じく着替えを終えたスティレッタがやってきてバルダーの枕元に腰掛けたので、バルダーも上体を起こす。
スティレッタはバルダーに意味深な笑みを向けると、
「さっき見てドキッとしたからイラついたの?」
などとバルダーをからかい始める。
「また胸の話か……」
「男として正常な反応よ」
「うぐ。ど、動揺なんか……」
していない、と言えば嘘になる。
「貴方の肌も傷だらけで素敵よ」
スティレッタはバルダーの肩をついと突いた。
「……もう我慢できないのよ。第一、待つのは私の性に合わないわ」
スティレッタがバルダーの胸に頬を寄せる。
「ちょっ、お前……!?」
そのままベッドに倒れこみそうになり、バルダーは焦る。
「いいでしょ?胸見たついでよ」
「つ、ついで?」
そんなに軽いものでいいのだろうか?
「初めてよね?私に任せて」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。
「……俺達は恋人でもないんだぞ」
「恋人?なら私がなってあげるわ」
「ガッカリしても知らんぞ?」
「ガッカリなんてする筈無いわよ。大好きな貴方と過ごすんだもの」
「だ、大好きって……」
バルダーの心の壁に僅かな亀裂が入る。
「本当に……俺で、いいのか?」
亀裂はみるみる広がって、ぐらりぐらりと防壁は揺れる。
崩れるのは、時間の問題………
「お待たせしました!ルームサービスのアイスクリームです」
ノックの音と共に明るい声が響き、間一髪、バルダーの防壁は崩落を免れた。
「…はっ!?あ、アイスのサービス?」
「あーあ。もうちょっとだったのに」
口ぶりほど残念がってはいない様子でスティレッタは立ち上がり、かるく身だしなみを整え扉を開ける。
(あと少しで一線超え…って奴は魔性の女だぞ!?邪魔が入ってよかったんだよな…?)
思考を巡らせる悩むバルダー。
テーブルに2人分のバニラアイスが並ぶ。
従業員が去ってから、スティレッタがふふっと笑う。
「クロスケ、嫌がってなかったわよね」
今度は逃がさないから、と囁かれ、バルダーはアイスを味わうどころではなかった。
この日の出来事は、その後もしばらくバルダーを悩ませることとなる。
(血迷うな俺!あ、あいつとだぞ!?もろに想像したら恥ずかしくて死ぬ!!うおお……っ……!)
スティレッタの目的は、むしろこうして彼を翻弄し悶絶させることだったのかもしれない。
真相は彼女のみが知る。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:スティレッタ・オンブラ 呼び名:スティレッタ、お前 |
名前:バルダー・アーテル 呼び名:バルダー、貴方 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月06日 |
出発日 | 08月12日 00:00 |
予定納品日 | 08月22日 |
参加者
- 月野 輝(アルベルト)
- かのん(天藍)
- リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
- オンディーヌ・ブルースノウ(エヴァンジェリスタ・ウォルフ)
- スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
会議室
-
2016/08/11-22:23
リーヴェだ。
パートナーは銀雪。
よろしくな。
プランは私も提出済みだ。
流れてしまったものは仕方ない。
速やかに回収して着用しなおすとしよう。
とりあえず、銀雪は鼻血を止血しろ。 -
2016/08/11-21:51
こんばんは、オンディーヌと申します
パートナーはエヴァンジェリスタ
どうぞよろしくお願いいたします
プランは既に提出しておりますわ
ここはプライベートビーチですもの
あまり深刻にならず、ゆったり堪能すればよいのではなくて
ねぇ、エヴァン? -
2016/08/11-00:40
こんばんは。スティレッタとバルダーよ。
……まあ紐のビキニなんて外れるのが宿命よねー。
私は別に気にしないんだけど……問題はあっちの精霊なのよね……。どうにかして黙らせられないかしら?
まあとにかくよろしくね? -
2016/08/10-23:06
こんばんは、月野輝とアルベルトです……この事態って……
ええと、これはどうにか自力で流された水着を取りに行くしか、ないかしら。
いくら何でもこんな状態で見られるのは、ちょっと遠慮したいものね……
ともあれ、皆さんがんばりましょう、色々と; -
2016/08/10-21:23
こんにちは、かのんとパートナーの天藍です、よろしくお願いします
水着のモニターでプライベートビーチで海水浴のはずが困った事態になりましたね
……どうしましょう