プロローグ
●どうしても??
「ねぇ、どうしてもダメ?」
あなたはパートナーに詰め寄っていた。
しかしパートナーは頭を横に振り。
「今回はダメだ」
外出先から一緒に帰ってきてからずっとこのやり取りをし続けて長い時間が過ぎていた。
「お願い!」
自分の顔の前で手のひらを合わせて軽く頭を下げてお願いしてみるが、反応は変わらない。
「しつこいな!」
長い時間このやり取りを続けてしまったせいだろう……パートナーは立ち上がると自室へと行ってしまった。
明らかに肩を落とすあなた。
こうなったのには訳がある。
パートナーと共に買い物へと出掛けたあなたは壁に貼ってあったイベントのポスターを見掛けたのだ。
あなたはとても興味をそそられたが、パートナーはというとどう見ても嫌な顔。
「ねー、行ってみようよ!」
「あ?」
更に嫌そうな顔をあなたに向ける。
「……」
「……」
少しの沈黙。
「ダメ?」
「……だめ」
一言そう返ってきたのだ。
いつもなら「いいよ」なんて即答してくれていたはずなのに、なぜか今回は頑なに拒否をしてくる。
「……どうしても?」
「絶対ヤダ」
ポスターの前で暫しの押し問答を繰り広げたが、良い返事は返ってこなかった。
そして現在に至る。
今あなたはどうしたらパートナーから良い返事をもらえるか考え出した。
向こうも譲りそうにないが、こちらとて譲る気はないから。
「よし!」
なんだかあなたは気合を込めた声を出すと、拳を天井へと振り上げた。
解説
【目的】
・行きたいイベントにどうやってパートナーと行くか、というお話です。
【プラン必要事項】
・神人、精霊どちらが説得側、説得され側かお書きください。
・なんのイベントに行きたいのか、そして拒否している側の拒否している理由。
・どうやって説得するか、折れるか否か。
以上は必ずお書きください。
【その他】
・折れる理由や、折れなかった場合の逆説得もありです。
・ケンカしているわけではないですが、プランによって始まりの状態は変わります。
・説得軍資金として300jrいただきます。
【注意】
・イベントの描写はしませんのでご了承ください。
描写する場合は『行った』『行かなかった』ぐらいになります。
・アドリブが入る場合がございますのでご了承くださいませ。
ゲームマスターより
ご閲覧誠にありがとうございます!草壁 楓です。
普段イベント事が多いと思い、もしお互いの意見が合わなかったら?
なんて考えて思い付きました。
日常的なお2人を見てみたい気持ちもありますので、どのようなやり取りが繰り広げられるのか楽しみです。
それでは、皆さんのご参加お待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
明石・灯代(前花・瑞樹)
▼誘われ ごごごごめんなさい前花さんっ! か、課題が、課題ががががががが ほ、本当にごめんなさい…… 明日の講義までにこの課題曲をマスターしないと でも此処で急に入ってくるプレストが難しくて うう、言われると思い当たる節がある…… 済みません、私の家なのに逆にお茶を出させてしまって (因みに今日、親は出かけてます) 頂きます そ、そうですね……煮詰まってるのかも 息抜き……した方が良いのかな わかりました 私で良かったらご一緒させてください 折角のお誘いだし それにやっぱり行きたいです (鑑賞後) ……ああ、やっぱり思った通り 生で見るのは臨場感もあって最高だった! 今、もう一度挑戦したら捗る気がする! 前花さんに感謝しないとなあ |
ドミティラ(レオカディオ・クルス)
説得 レオカさん、どうしても? どうしてもダメなの? …なんでよ? 一人で行くならレオカさんと行きたいの お願い バイオリニストの演奏会が開かれるので、どうしてもパートナーである精霊と行きたい 今月の仕事はあらかた片付いたって言ってたわよね…? だって、せっかく契約したんだからパートナーと行きたいでしょ 確かに私はハープ専門でバイオリン要素一切ないけど、専門外の演奏を聴くのも大切なのよ 前は一人で行ってたけど え? ええ。まあタブロスに来てからはまだ一回も行ってないけど そのタブロスでの記念すべき一回目は契約した精霊とって思ってたの お願い! 今回だけで良いから |
ミミ(ルシード)
する側 デザートがとっても美味しいお店があるんです 今度カップル限定メニューという事で新作が出るらしくて それで、あの、…一緒に行ってもらえない? お願い!ルシードさんくらしか頼める人いないんですっ! 予想はしていたけど案の定お断りの姿勢… 実際はどうかは置いといて、それっぽく見えればそれで大丈夫だと思けど やっぱりルシードさんて真面目な人 ううん、諦めるか、もうちょっと粘るか… 食べたいという気持ちはやっぱりあるけど… 精霊の顔を見上げ 我侭ばかり言っちゃってごめんなさい うん、いいの このままルシードさんと微妙な状態が続くほうが、いやかなって… …え?本当にいいの? 本当に?ありがとう! 急に了承され戸惑いつつも感謝する |
スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
ねーえクロスケ、新作水着の発表会行きましょうよー クロスケが選んでくれた水着着て海とかプールとか行きたいもの 何なのよー… ねーあの髭面のクロスケったら、私のお願い聞いてくれないのよー… 私の味方はぬいぐるみの貴方だけって切ないわ… ぬいぐるみ相手に愚痴らせたくなかったら連れてってよ …って何その「だーめーだ」って 何、ちょっともう一回言って。可愛い 貴方意外と可愛い所あるのよね…撫でたらもっと可愛くなるかしら …えっあなた十分坊やじゃない? ファーストキスもこの間済ませたばっかりだし それはともかくとして、連れてってくれないならせめて撫でさせてよ って、へ?連れてってくれるの? やった!ありがとクロスケー! |
鬼灯・千翡露(スマラグド)
【する側】 ねー、ラグくーん だって当時美術界に変革を起こした巨匠の展覧会だよ! 私が美術の道を志すきっかけになった人なんだよ 興味ないのはわかってるけどさー 語る相手が欲しいんだよ! ……あー、でもそっか 好きな子がいるんだったら私と一緒に歩くのはまずいかな? (※前回のEP2の所為で勘違い継続中) ……………… (縋ってくる身体を抱き締めて、肩が濡れるのも気にしないで ぽんぽんとその背を軽く撫でる) 大丈夫、大丈夫だよ ラグ君はまだ若いんだから、また素敵な出会いがあるよ もしまた悩んだら、私に相談して だって私達、相棒だよ 私はいつだって、君の力になるからね ……えっ、一緒に行ってくれる? わあ、有難う! (輝くような笑顔) |
●芽吹き
「ねー、ラグくーん」
鬼灯・千翡露はスマラグドの部屋で彼に迫っていた。
色仕掛けな迫るではもちろんない。
「だって当時美術界に変革を起こした巨匠の展覧会だよ!」
どうでもいいというような態度のスマラグドに、何度も彼の周囲をくるくると回る千翡露。
「私が美術の道を志すきっかけになった人なんだよ」
幾度かスマラグドは断ったようだが、彼女には受け入れてもらえていないようだ。
「あーー絵とか興味ないし!」
スマラグドの鬱陶しいといった声が部屋に響く。
「興味ないのはわかってるけどさー……語る相手が欲しいんだよ!」
少し唇を尖らせる千翡露がスマラグドの顔を覗き込む。
しかしスマラグドは興味が無いというだけの理由でこの誘いを断っているのではない。
先日、スマラグドは熱中症で倒れた折、『リュロ』と口走った。
その際千翡露は想い人だと察知し、気を遣って距離置き何かと遠慮しがちなのがスマラグドは気に喰わないでいたのだ。
「……あー、でもそっか」
覗き込んでいた顔を離すと手を口元に当て、視線を天井へと移し千翡露は考え至ったように口を開く。
「好きな子がいるんだったら私と一緒に歩くのはまずいかな?」
苦笑を浮かべてスマラグドに視線を戻す。
言葉の後に少しの間が生まれる。
「好きな……?」
千翡露の表情で先日のことを思い出し少し目を見開き考えるスマラグド。
「! だから、『リュロ』はっ……」
自分が先日口走ったことを思い出し驚愕し千翡露を見上げる。
(知らないのも当然だ、だってあの時は僕が突き放した――)
それ以上詮索するなとスマラグド自身が素っ気無く突き放した。
千翡露はそれ以上の詮索はせず、スマラグドから距離を置く形となってしまっていた。
「ああ、好きだったよ、確かに好きだったさ」
座っていた椅子から立ち上がり、少し離れた位置にいた千翡露に少しずつ近付いていく。
「でも、あの人はウィンクルムになって……」
スマラグドの心に堪っていた靄のかかったものが少しずつ解き放たれていく。
「隣にいたそいつは、ただの相棒じゃなくて」
悲しみと悔しさが交じり合ったスマラグドの表情を静かに見つめる千翡露。
「………………」
千翡露はただ黙ってその言葉を聞く。
「どんな形でも、もう手の届かない人なんだ……!!」
スマラグドは自分より少し背の高い千翡露に、縋りついてその悲しみを爆発させると泣き出していた。
縋ってくる身体を千翡露はそっと抱き締め、自分の肩が濡れるのも気にせずに背中を数回ポンポンと叩く。
「大丈夫、大丈夫だよ」
その声音はとても優しく、慈愛に満ちている。
「ラグ君はまだ若いんだから、また素敵な出会いがあるよ」
瞳を軽く閉じ言い聞かせるように背中を優しい手が撫ぜる。
「もしまた悩んだら、私に相談して……だって私達、相棒だよ。私はいつだって、君の力になるからね」
弟や子供をあやすようなその行動は、信頼する精霊への心からの優しさだった。
スマラグドの涙が止まるまで千翡露はそっと彼を抱き締めていた。
「………………」
それからしばらくスマラグドは泣いていたが、千翡露の優しさが伝わったように涙は止まっていた。
千翡露の体から自分の体を離すと少し照れたように横を向き、
「行ってあげるよ、そのマ……マなんとか展?」
唇を尖らせると彼女にそう告げる。
「……えっ、一緒に行ってくれる?」
千翡露の顔は驚きと喜びの表情へと変わる。一瞬それを見たスマラグドはまたそっぽを向く。
「借りは作らない主義だから」
そんなスマラグドの言葉を聞いても千翡露は微笑みを絶やさない。
「わあ、有難う!」
そっぽを向いてはいるが、チラチラと彼女を横目で見ていた。
そこには輝くような彼女の笑顔が彼の前にある。
(ちひろの『満面の』笑顔って初めて見た)
眩い彼女の笑顔を見た瞬間彼の胸が少しトキっと音を立てる。
(……どうしてか、眩しい)
その眩しい正体を知るのはまだ先の遠いのか遠くはないのかの未来の話。
彼の心に新たな芽吹きが始まるのかもしれない。
●オペラを共に
明石・灯代は自宅にいいた。彼女の精霊の前花・瑞樹も共に。
瑞樹は灯代をオペラへと誘いに来ていたのだ。
「おや、珍しい事もあるものだな」
灯代は誘いに「ごめんなさい」と答えるばかり……いつもなら「行きます!」と返事が返ってくるのだがと瑞樹は首を傾げていた。
「前から行きたいと言っていただろう、この歌劇団のオペラは」
懐からチケットを出すと灯代の前へと差し出す。
「ごごごごめんなさい前花さんっ!」
そこには灯代が行きたがっていた歌劇団のシンボルが描かれているチケットが2枚。
「今日に限って何か外せない用事でもあったりするのか?」
その当日券と書かれたチケットをヒラヒラと灯代の前で泳がせる。
「か、課題が、課題ががががががが」
彼女が何を言っているのかなんとか理解できるレベルだと瑞樹は頭を抱える。
「ほ、本当にごめんなさい……明日の講義までにこの課題曲をマスターしないと」
うん、確かに冷静ではない。
「……わかったから少し落ち着きなさい」
「でも此処で急に入ってくるプレストが難しくて」
はわわ!と楽譜を見せながら灯代は瑞樹へと訴えかける。
「君は熱中しすぎると空回りする傾向にあるようだな」
しかし、楽譜は逆さま……瑞樹も呆れながら彼女に目を合わせつつ半笑い状態である。
「うう、言われると思い当たる節がある……」
その言葉に一瞬にして我に返り楽譜を見る。
「キッチンを借りるぞ、アイスティーでも淹れよう」
今日、灯代の両親は外出をしていたこと、そして灯代がはわわなことからお茶も出ていない状態である。
「済みません、私の家なのに逆にお茶を出させてしまって」
暫くすると瑞樹がキッチンから戻り、お盆に2つのアイスティーを並べて持ってきた。
そっとソファーに腰掛けていた灯代の前に差し出す。
「それを飲んだら、もう一度やってみると良い」
「頂きます」
澄んだ琥珀色のアイスティーをコクンと一口飲むと落ち着いたのか、深い息を吐く。
「折角チケットを取ったんだ……夜の公演には付き合ってくれるだろう、お嬢さん」
落ち着いた灯代を見るとチケットを前に爽やかな笑顔を彼女に向ける。
「そ、そうですね……」
その笑顔とチケットを交互に見るとアイスティーの入ったグラスをテーブルの上へと置く。
(煮詰まってるのかも、息抜き……した方が良いのかな)
自分の今の状況を客観的に見る余裕が出てくる。
「わかりました……私で良かったらご一緒させてください」
「ふふ、良い返事だ」
満面の笑みでそう答えた灯代に瑞樹は満足そうに微笑む。
少し強引かもしれないとも思ったが、今の彼女には必要なことだった。
「折角のお誘いだし、それにやっぱり行きたいです!」
素直なその笑顔に瑞樹は微笑み、
「君が以前楽しそうに話していたのを覚えていた甲斐があったな」
灯代が以前話していたことを覚えていたことが役に立ったとさらに満足そうに微笑んだ。
2人はオペラを鑑賞し会場を後にしていた。
「どうだ、少しは気分が晴れたかな」
(……ああ、やっぱり思った通り)
心の声がそのまま口に出る灯代の顔に瑞樹は安堵の息を漏らす。
「生で見るのは臨場感もあって最高だった」
「良い気分転換になったなら何よりだ……明日は上手くいくと良いな」
灯代の肩から力が抜けいつもの彼女の表情へと戻っていた。
「はい!ありがとうございます!!」
素直にお礼を述べる灯代に「そうか」と微笑み返す。
(今、もう一度挑戦したら捗る気がする!)
今の自分なら課題を片付けることが出来ると意気込み、それが行動に出たのか軽く拳を握る灯代。
その行動から瑞樹は安堵し左手をあげると――
「それじゃあ、また大学で」
と爽やかな風とともに帰路へと歩んでいく。
「前花さんに感謝しないとなあ」と彼を見送ったのだった。
●決めていたこと
「レオカさん、どうしても? どうしてもダメなの?」
ドミティラとレオカディオ・クルスはタブロス郊外のとあるカフェへと来ていた。
ドミティラはレオカディオに前のめり気味に顔を近付けながら迫っている。
「ああ。ダメだな」
彼女の精霊はつれない表情をして首を横に振っている。
一口コーヒーを飲み目線を合わせれば頑なに拒む目をしている。
「……なんでよ?」
頬を少し膨らませ薄っすらと眉間に皺を寄せつつドミティラはアイスティーをストローから音を立てて飲んだ。
「……」
レオカディオは一瞬沈黙する。
なんで?――と言われても……。
「ダメだ」
やはり即答の答えしか返ってこない。
「一人で行くならレオカさんと行きたいの」
彼女の目はとても真剣で、直視するのが辛くなってきているレオカディオは窓の外へと目線をずらす。
「お願い」
その懇願に一瞬だけドミティラを見るが、もう一度窓の外へと目線を戻す。
ドミティラはバイオリニストの演奏会が開催されると聞き、パートナーのレオカディオと行きたいと心弾ませていたのだ。
「近い内に終わらせないといけない仕事がある」
そんな尤もらしい言葉を放ち、
「また今度、だな」
と完全に断る。
完全に断られた言葉を聞き、ドミティラの頭には疑問符が浮ぶ。
「今月の仕事はあらかた片付いたって言ってたわよね……?」
先日レオカディオは「これで少しゆっくりできる」と言いながら一息付いていた。
「急にやることができたんだ」
取り繕っている彼をドミティラは凝視する。
レオカディオが断っている本当の理由。
それは……音楽は眠くなってしまう気がするから遠慮したいという単純なもの。
「はあ……」
一つ息を吐き、ドミティラに向き直る。アイスティーの氷がカランと音を立てた。
「とりあえず聞くが、なぜ俺を誘うんだ。俺じゃなくても良いんじゃないのか」
持っていたコーヒーカップをソーサーの上へと置く。
「だって、せっかく契約したんだからパートナーと行きたいでしょ」
ストローを口に含むと一口のみ、彼女は微笑みながらそう答えた。
「それにあんたはハーピストだろう」
今回はバイオリンの演奏会、彼女はハーピスト。
まだハープの演奏会ならわかるのだが、と一度思考する。
と彼女はそのまま微笑みを絶やさずに話す。
「確かに私はハープ専門でバイオリン要素一切ないけど、専門外の演奏を聴くのも大切なのよ」
(このハーピスト、実は研究熱心なのか……?)
ドミティラの素直な言葉に感心しつつも、普段おっとりとした彼女からは見られない真剣な眼差し。
「前は一人で行ってたけど」
「ん? 前は一人で行ってたのか?」
伏し目がちに付け加える。
「え? ええ。まあタブロスに来てからはまだ一回も行ってないけど」
今まで誰とも演奏会には行かず一人で楽しんでいたと彼女は笑う。
「そのタブロスでの記念すべき一回目は契約した精霊とって思ってたの」
せっかくなのだ、レオカディオと契約した際彼女はいつか彼と一緒に演奏会を楽しもうと心に決めていた。
しかし、レオカディオはずっとNOというばかり。
「契約した精霊か……」
その言葉にレオカディオは窓の外を見る。
今日は快晴、雲一つもない。
「お願い! 今回だけで良いから」
その快晴にも似た彼女の裏のない懇願だった。
(こいつはどこか抜けているようでこちらが考えもしなかったことを考えているからたちが悪い。尊敬すべき点ではあるが)
レオカディオは彼女に目線を送るとその場を立ち上がる。
「気が向いたらな」
「本当?」
彼の言葉に少し俯いていた顔を上げて見上げると今までで一番の笑顔をレオカディオに見せた。
「気が向いたら、行ってやっても構わない」
そのままレオカディオは伝票を取るとレジへと向かう。
追うようにドミティラは「いいの?」と言いながら彼に何度も確認を取っていた。
後日2人はバイオリンの演奏会に出向いたようだ。
レオカディオが眠ってしまったのか2人のみぞ知る。
●その心に応えたい
「デザートがとっても美味しいお店があるんです
今度カップル限定メニューという事で新作が出るらしくて」
ミミとルシードはA.R.O.A.本部に用があり立ち寄った後に共に帰路を歩いていた。
突如ミミがそんなことを話し出す。
「それで、あの、……一緒に行ってもらえない?」
ミミの誘いに一瞬立ち止まり、彼女に視線を合わせて暫し考えるルシード。
「お願い!ルシードさんくらしか頼める人いないんですっ!」
ルシードは目を少し伏せるとミミの申し出に答えだす。
「まず、俺は甘いものがあまり得意ではない。そうなると残してしまう……作ってくれた人に大変失礼だ」
ミミは予想はしていたけど案の定お断りの姿勢なルシードを眉を下げつつ黙って聞く。
「それに、ミミと俺はカップルではない、カップルではないのに限定のメニューを頼むのは如何なものだろうか」
(実際はどうかは置いといて、それっぽく見えればそれで大丈夫だと思けど)
「ダメ?」
「断る……」
(やっぱりルシードさんて真面目な人)
ルシードの意思は固かった。それは岩石の如く。
ううん、諦めるか、もうちょっと粘るか……とミミは考えつつも暫く「ダメ?」「断る」というやり取りが続く。
(食べたいという気持ちはやっぱりあるけど……)
このまま押し問答を続けていてもとミミは少し黙る。
ルシードも実のところミミの願いを聞き届けたい気持ちがあるが、如何せん気になることが多すぎるのだ。
はぁ~と息をミミは吐くとルシードの顔を見上げる。
じっとミミに見上げられ少し動揺したルシードは彼女には分からない程度に目を泳がせる。
そんな少し潤んだような目で見つめられてもルシードは誘いを受けるつもりはないと気を引き締めた時だった。
「我侭ばかり言っちゃってごめんなさい」
彼女はルシードに無理強いを続けてもしょうがないと彼を見上げつつ笑顔でそう謝罪した。
そんな彼女の行動にルシードは驚きを隠せないでいた。
「いいのか?」
「うん、いいの」
素直にまた笑顔で彼女はそう答えた。
なんだか自分が悪人になったような、居た堪れない気分になったルシードはこれで本当によかったのかと自問自答を心の中で繰り広げ始める。
「このままルシードさんと微妙な状態が続くほうが、いやかなって……」
彼女はこのまま押し問答を続け、少し縮まった距離がまた離れていってはと考えた末に出した結論。
ミミの素直な気持ちに、今の状況をもう一度整理するようにルシードは考え出す。
彼女はカップル限定のデザートを本気で食べたがっていた。
しかし……自分との関係が大事であると素直に話してくれた。
そんな彼女の誠意にルシードは答えたいと心から思う。
メリットとデメリット……頭の中でその両方を天秤にかけてみる。
諦めたミミはそのまま帰路を歩き出す。
しかしルシードは歩みを止めたまま。
「ミミ……」
名前を呼ばれミミは立ち止まると振り返る。
「行く……か?」
「……え?本当にいいの?」
自分のことを考えてくれたミミの気持ちにルシードは応えることに結論が付いたのだ。
「あぁ」
「本当に?ありがとう!」
ルシードへと駆け寄るとミミは破顔する程の笑顔を浮かべ少しの戸惑いを心に宿しながら感謝した。
そしてルシードは甘いものとの戦闘に立ち向かうことを心に決める。
後日ルシードはなんとか甘いものとの格闘に勝利する。
傍から見たらミミとルシードはカップルに見えていたのかそうではないのか本人達以外が知るところである。
●撫で撫で効果
「ねーえクロスケ、新作水着の発表会行きましょうよー」
「……だから水着の発表会は嫌だと言っているだろう」
バルダー・アーテルは眉間に皺を寄せながら神人のスティレッタ・オンブラの申し出に困り顔。
「女しかいない場所だろう?」
そりゃ女ばかりでしょうね、なんて軽く微笑を浮かべている唇が肯定する。
「俺が居づらい雰囲気になるだろうが……」
頭をぐしゃぐしゃと掻くとスティレッタからバルダーは瞳を逸らした。
女性ばかりの会場に自分1人の想像をしてみる……会場的にも己的にもカオスである。
「第一俺だって仕事あるんだし、そう暇が取れるとも限らん」
そんな尤もらしいことを彼女に告げるとそっぽを向く。
「クロスケが選んでくれた水着着て海とかプールとか行きたいもの」
いつもの優美な彼女とは違い子供のように唇を尖らせる。
「海に行けるかどうかだって……」
「何なのよー……」
つれない態度のバルダーにスティレッタは膨れつつ近くにあった継ぎはぎだらけの黒猫のぬいぐるみを抱き寄せ、
「ねーあの髭面のクロスケったら、私のお願い聞いてくれないのよー……」
と話だす。
黒猫のぬいぐるみは彼女の宝物。名前は「くろすけ」、スティレッタがバルダーを呼ぶ時と同じ名だ。
「私の味方はぬいぐるみの貴方だけって切ないわ……」
なんて悲しい声でショボンとぬいぐるみのくろすけに話す。
「…って、ぬいぐるみのくろすけに話しかけても俺は折れんぞ?」
そっぽを向いたまま少し大きめな声を上げる。
スティレッタは更に剥れたような声をバルダーに向ける。
「ぬいぐるみ相手に愚痴らせたくなかったら連れてってよ」
ぬいぐるみくろすけを強い力で抱き締めながら訴えるが、色よい返事は返ってこない。
「だからだーめーだ」
何度も訴えてくるスティレッタにバルダーももちろん折れはしない。
「……って何その「だーめーだ」って」
バルダーの言葉にハッとするスティレッタ。
先ほどの剥れた顔とはまた違う表情へと移り変わる。
「何、ちょっともう一回言って。可愛い」
微笑みを浮かべてバルダーへと歩み寄る。
「……は?可愛い?」
その「可愛い」という言葉に驚き振り返るとスティレッタが近寄ってくるのが目に入る。
「だ、大の大人の男に可愛いって言うか普通!?」
驚愕と少しの照れを隠しながら大声でバルダーは叫んだ。
「貴方意外と可愛い所あるのよね……撫でたらもっと可愛くなるかしら」
バルダーの前まで行くと、スティレッタは右手をバルダーの頭に乗せて優しく撫でだした。
現状が把握できていないとバルダーはしばし硬直した。
「やめ、ちょ、ナデナデナデナデしつこく頭を撫でるな!」
数分後我に返り頭を撫でられないように頭を動かしてみるが、スティレッタの右手は彼の頭を離そうとはしない。
「俺は坊やじゃない!」
手を振り払おうかとも考えたがなぜかそれは彼女には出来なかった。
バルダーの言葉を聞きスティレッタは口角を上げてクスクスと笑う。
「……えっあなた十分坊やじゃない?」
流し目で彼にそう言う。
「ファーストキスもこの間済ませたばっかりだし」
唇を前に突き出すと、軽くウィンクする。
「ってうるさい!!『経験無し』の意味の坊やじゃない!!」
スティレッタに大声で叫ぶが彼女は聞き耳持たず状態。
「それはともかくとして、連れてってくれないならせめて撫でさせてよ」
いいでしょ?――と彼女は妖艶な微笑みを浮かべる。
申し出に狼狽えるバルダーだが、問答無用に撫で撫で再開である。
「な、撫でるのに耐えろだと……?」
目を見開きつつ黙って彼女を見ると、なんだかご満悦な笑みを浮かべている。
(う、ぐ……恥ずか……し)
バルダーの両腕がプルプルと震えだす。
「だー!!分かった!!」
突如彼女の右腕を制止するように掴み取ると彼女へと顔を近付ける。
「行けばいいんだろ!?一緒に行ってやる!!」
「って、へ?連れてってくれるの?」
彼女は驚きつつも笑顔を見せると近付いてきている顔を更に近付ける。
「男に二言はない!!」
目を合わせ真剣そのものではあるが、どこか目が泳いでいるようにも見えなくは無いよ……バルダー。
「やった!ありがとクロスケー!」
そのままバルダーへと抱き付く。
勢い良く飛びついてきたスティレッタの行動に少しよろけつつ、なんとか受け止める。
「って、嬉しいからって案の定俺に抱き着くんだなお前……」
バルダーは降参したように肩を少しだけ落とした。
後日、勇気を振り絞り水着の新作発表会へと赴いたバルダー……。
ご満悦なスティレッタ、とは反対に挙動不審になっているバルダーがいたようだ。
依頼結果:成功
MVP:
名前:ミミ 呼び名:ミミ |
名前:ルシード 呼び名:ルシードさん |
名前:スティレッタ・オンブラ 呼び名:スティレッタ、お前 |
名前:バルダー・アーテル 呼び名:バルダー、貴方 |
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 草壁楓 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月27日 |
出発日 | 08月02日 00:00 |
予定納品日 | 08月12日 |