夏祭り(梅都鈴里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「いらっしゃい、いらっしゃい!  おいしいイカ焼きだよー!」

「ポテトやアイスもありますよ、さあさ、よっといで!」

あちらこちら、商売上手な売り子たちから、人でひしめく路上に声が飛び交う。
タブロス市街の郊外に位置する神社では、毎年恒例の夏祭りが開催されていた。

「ちょいとそこのお兄さん! 腕に自信があるなら、射的やってかないかい?」

「手先に自信があるなら、金魚すくいなんてどうかな!」

屋台の定番から、流行りのB級グルメに舌鼓を打つ家族連れ。
金魚すくいや射的にはしゃぐカップル。
神社の境内で友達同士肩を並べて、恋バナや学校生活の会話に花を咲かせる子供たち、などなど。
過ごし方は多種多様だが、そこには笑顔が溢れている。

「この後夜の八時からは、特設ステージにてカラオケ大会を行います!  飛び入り参加も可能ですので、どうぞ喉に自信のあるみなさま、奮ってご参加くださいませ!」

「なおその後の九時からは、夜空を彩る花火大会を予定しております。市街でも珍しい、BGMを取り込んだ音楽花火が、祭りのクライマックスを彩ります!」

会場に響くアナウンスに、より一層祭は沸き立つ。
プログラムによれば、名産品の売り出しや地元の有志によるバンド演奏会など、その他様々なイベントが催される予定となっている。
闇夜に輝く夏の宴は、夜遅くまで続いた。

解説

▼個別描写となります。遊びの準備に何かと物入りで300jr.

▼お値段表と主なプログラム

アイスクリーム、ポテト、やきそば、わたがし、りんごあめ、いかやき、たこやき、かき氷、やきとうもろこし、チョコバナナ、フランクフルト…一律100jr.

射的、お面、型抜き、金魚すくい、ヨーヨー釣り…一律200jr.

カラオケ大会は無料で参加OK。参加賞に駄菓子の詰め合わせがもらえます。

クライマックスには夜空を彩る花火大会。

▼プランにいるもの
買いたいものやお祭りの過ごし方
プランに入ったものだけ金額はこちらでマイナスします。上記にないものでも構いません。
食い倒れるのも良し、神社の境内でナイショの話も良し、カラオケで良い所見せるのも良し。賑わいに乗じて茂みに相方引きずり込んでも構いませんが、適度にいちゃいちゃしていってね。
どうぞお気軽に楽しんでください。


ゲームマスターより

お世話になります。梅都です。
着物着よう着物!男性の着物姿って独特の華があって好きです。昔ながらの白タンクトップに短パンみたいな少年スタイルを大人がしてるのもかわいいです。りんごあめは食べても小さくならないので安心してください。ビギナーに設定はしておりますがどなたでも。ご参加お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  黒地の浴衣、千鳥模様

制覇したい
ふふー、そうこなくっちゃ
持ち帰れそうな奴は明日にとっとこうかな

うん?勝負?楽しそうだねぇ、いいよいいよ
ふふっ、なぁに、なんか賭けるの?
……うん?
え、ちょ、そういうのは…
うわ、狡い…狡い!

まさかの全敗…加減しろよぅ…
境内の裏側に座り込んでぶすー
わたあめ受け取ってもぐもぐ。ぶっすー

桐華さんはさぁ、僕にちゅーして欲しかったの?
…なんだよ、言えよ馬鹿
ほら、隣おいで
とってもいい雰囲気でキスしかけて寸止め
…勿体無いからお家帰ってからにしよっか
あは、そんな物欲しげな顔しなーいの
焦らす分割増でしてあげるから

全敗させた相手に聞くぅ?
分かってるくせに。君と過ごす時間は、全部楽しいよ


瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  紺の浴衣と下駄を履き、珊瑚と二人歩く。 

その中でも射的が気になり、1度やってみたども当たらず。
対して珊瑚は、次から次へと当てる度におだつすけ、却下と返した。
おれの家さ玩具屋じゃねぇべ。

だども、いくら失敗しても諦めきれねぇ珊瑚を放っておけなかった。
肩にそっと手を置いた後、珊瑚の両手を包んで一緒に構えた。
お前に任せてたら、いくらジェールがあっても足りない。
……打つべ。 

ラムネ瓶片手に、打ち上がる花火を見上げながら、焼きそばを食べる。
時々、興奮して叫ぶ珊瑚を、かしましいと言いながら。

だから、ジェールが。

違う、本当は。
この先、お前となら、どこへでも行けて、
どんな困難も成し遂げられる……そう思った、だから。


柳 大樹(クラウディオ)
  祭りならかき氷は食べないと。
イチゴ味で。次はわたあめ。「クロちゃんも食べる?」
んでチョコバナナー、と。(齧る
「祭りだからいーの」(社会人になって溜まったストレス解消

フランクフルトに、「たこ焼きはクロちゃんも食べていいよ」
「お、射的。おっさん、俺やる」(食べ物をクラウに預ける
飴と菓子でも狙うかなあ。
当たんね。
「何。気になるならやりなよ。おっさん、こいつの分も」

「そりゃ、玩具だし」
俺より上手い。「やるじゃん」
ふーん? 「てか、俺に渡されても」(趣味じゃない
「妹に渡すかな」

かき氷のオレンジ買って境内に行く。
静かに花火見れそうだし。
「おう。あんたも楽しめれば更にいいと思うよ」
俺だけ楽しんでるってのもな。


胡白眼(ジェフリー・ブラックモア)
  (凝視)…あ。いえ!とってもかっこいいですよ!
勘弁してください…(赤面)

◎金魚掬い
赤い琉金を何度も狙うも駄目で
彼が捕まえてくれて少し残念
隣の猫がたまに部屋に入ってくるから、と押しつける
殺風景な彼の部屋に彩りを添えたかったんだ

◎境内
祭の間中彼の格好が気になっていたが
違和感の正体がわかり、手を引いて茂みへ

ちょっと万歳してください
ああこの帯マジックテープ式なんだ(バリバリーッ
詳しくは知らないんですが縁起がよくないらしいですよと左前の襟を直す

これでよし、と顔を上げると、耳を寝かせ震える彼
すすすみません俺いきなり脱がしっうわ、うわああ…!

いや覚悟なんて……覚悟?
よくはわからないが、嫌われなかった事に安堵


セラフィム・ロイス(トキワ)
  夏祭り
断片的にしか思い出せないけれどキラキラしてた

電話で「付き添って
(暗がりなら意識せず楽しんでもらえるよね。僕も行きたいし)

ごめんね来たくて。久々だ
夏祭りに、だよ

これ下さい
■和風の狐のお面を買う。セラが白地に赤。トキワが黒字に赤
目深にかぶり)…狐の親子みたい
じゃあ黒と白どっちがお嫁さんだろ

たこやきとカキ氷はほしいな(きょろきょろ
だから勝手に■依頼履歴1
そうだった…?

!?行きたい所はあるよ
お願い!■苦手だけど興味があり


本当ありがとう(金魚に目を輝かせ

(あった)玩具売りに黄色の透き通った夜店の指輪を発見
(子供っぽいかな。でも中々似たものないし…)


■小指に、前にもらった指輪と今日のをはめ仰ぐ



「――制覇したい」
 祭り会場の入口に立ち、黒地に千鳥模様の浴衣を身に着け一言ぽつりと呟いたのは神人、叶。
「……言うと思った」
 精霊、桐華はその様子に一つ息を吐く。
「ふふー、そう来なくっちゃ」
「食い物は半分こな。食べきれなくなる前に――」
 やめとけよ、と桐華が忠告するそばから、既に叶は屋台を物色している。
 やれやれと苦笑して、前を歩く相方を見失わないよう歩き始めた。

「なぁ、叶。勝負しねぇ?」
 唐突な相方の申し出に、一度きょとん、と目を丸くするも、すぐさま勝気に笑う。
「うん? 楽しそうだねぇ、いいよ、負ける気しないし」
「言ったな? じゃあ、ひと勝負毎に――」
 ふと一度言葉を止めて、周囲に配慮するよう口を寄せ「……負けた方が勝った方にキス一回な」と耳元で囁く。
 途端、叶の顔色がさっと変わった。
「えっいや、ちょ、そういうのは」
「別にここでじゃなくていいけど、数えとくし。さーて何から始めようか」
「うわっ、ずるいずるい!」
 とはいえ一度勝負を受けた以上撤回のしようもなく、慌てる叶に桐華は「制覇、するよな?」と、口角を吊り上げて見せた。

 勝負は獲得景品のサイズだったり速さだったり、金魚の数だったり――判定基準は様々だったのだが。
「お前結構こういうの下手くそだよな」
「……うるさい」
 境内の裏側へ身を潜める様に二人座って、ぶすりと頬を膨らませる叶。
 まさか俺が全勝するまでとは思わなかったけど、と呟いた桐華の言葉が勝敗の結果を物語っていた。
「加減しろよぅ……」
「したらしたで怒るんだろう」
「そうだけど」
「ほら、これでも食って機嫌直せって」
 手渡されたわたあめを渋々受け取り一口頬張れば、体を満たしていく糖分に、僅かささくれていた心境も徐々に落ち着いた。
 指に粘ついた砂糖を舐め取っていたところで、ふ、と叶は思い至る。
「桐華さんはさぁ。僕にちゅーして欲しかったの?」
 足をぷらぷらと投げ出しながら、背後に控える精霊を背中越しに見上げて問いかければ「してほしいけど?」と惜しげもなく返る。
「出来れば自主的に。トランスとかじゃなくて」
「……なんだよ、言えよ馬鹿」
 隣おいで、とスペースを一人分開けて着座を促す。
 素直に腰を降ろすと、叶の細い指先が白い頬に触れた。
「……何回だっけ、数えててくれたんでしょ?」
「覚えてないな。俺がいいって言うまで」
「ふふっ、本当に桐華さんはずるい人だなぁ。――目、瞑って?」
 吐息が触れそうな程の至近距離で、夜闇に影っても美しさを失わない叶の顔。
 見えないのが惜しいな、と思うも素直に瞳を閉じ待ち構えるがいつまで経っても期待したぬくもりは降りてこなくて、ふ、と目を開いた先にある叶が、ゼロ距離でにこりとイタズラに笑った。
「勿体無いから、おうち帰ってからにしよっか」
「…………かな」
「あは、そんな物欲しげな顔しなぁいの」
 あからさまに不満げな精霊にも、叶はおかしそうにくすくすと笑って「焦らす分、割増でしてあげるから」と言ったので、渋りつつも「後で覚悟しておけよ」と妥協した。

「……叶。祭り、楽しいか?」
「全敗させた相手に聞くぅ?」
 境内から見える夜空に華が咲く。花火と共に流れるBGMが、遠巻きに聞こえる。
 叶は一度桐華を見て、それからまた、満点の夜空に視線を戻して答えた。
「分かってるくせに。君と過ごす時間は、どんなものだって全部楽しいよ」
「……ならいい」
 後悔なんて、残さないように――物思いげに、誰にともなく一人桐華は考える。
 瞳をひとつ瞬かせ、見遣った先にある神人の整った表情に、夜空の華がきらきらと映えて、その日はとてもとても奇麗な夜だった。


「祭りならカキ氷は食べないと」
 ひとつめの屋台にふらふらと吸い寄せられていった神人、柳 大樹に着いて歩く精霊、クラウディオは、今日の大樹は機嫌が良いようだ、とぼんやり考えた。
(これが浮かれている、という状態だろうか)
 物思うそばから紅色の氷を頬張る。
 そんなに一度に含んでは頭が痛くなりそうだ、と思う間に平らげて、次はわたあめ、とぼやき早々に屋台へ向かう。
 手にした大きなふわふわをクラウディオに差し出し「クロちゃんも食べる?」と問われるも、首を横に振り断った。
「おいしいのに、もったいない」
「大樹。糖分を摂りすぎだ」
「祭りだからいーの。社会人なって溜まったストレス、たまにはこうして解消しないと」
 話終わる前に、あ、チョコバナナ見っけ、とまた駆け出す。
 社会人になった事と祭りの関係性がクラウディオにはいまいち見い出せず首を傾げていたが、クロちゃん置いてくよ、と言う声に我に返り、小走りに神人の後を追った。

「たこ焼き、クロちゃんも食べていいよ」
 手渡されたプラスチックのトレイを落とさないよう受けとりつつ、クラウディオは周囲を軽く警戒する。
 有事の際、いつでも動けるよう移動経路を確保しておく構えだ。
 こんな時でも護衛としての責務を怠らない彼とは対照的に、射的コーナーを見つけた大樹は暢気に店頭へ駆け寄った。
「おっさん、俺やる」
 手にしていたフランクフルトを精霊に手渡し、ジェールを払って弾と玩具のライフルを受け取る。
 飴と菓子でも狙うかなあ、とぼやきトリガーを引く。
 一発目は掠ったが二発目は大いに外して「当たんね」と、大して悔しげでもなく告げる。
(大樹が狙っているのは、食べ物か)
 並べられた物に与える遊びらしい、とそこで漸くこの屋台での遊び方に気付いてちらちらと彼の手元を見ていたら、視線に気付いた大樹が見上げた。
「何。気になるならやりなよ」
「あ……いや、私は」
「おっさん、こいつの分も」
 断る前にまいど、と射的銃を手渡されてしまい、とはいえ突き返すほどの心情もなく。
 無言で射程距離内に立つと、スコープをぶれないよう覗き込み構えた。
 ライフル自体は、契約以前に一度実物の射撃経験を持っていたが、そのイメージと余りに違う重みについ口が出る。
「随分と軽い」
「そりゃ、玩具だし――」
 言いつつも、こんな風に賑わう屋台の安っぽい景品にも、真剣に狙いを定める寡黙な精霊の表情ななんだか酷く場違いで。
 心中で少しだけ笑った矢先、ぱこん、と音を立てて見事一発で落ちた景品に「やるじゃん」と素直な賛辞を口にする。
「私には向いていない」
「……俺に渡されても」
 銃と一緒に手渡された、景品のクマのストラップを受け取りつつ眉を顰める。
 なんでこれ取ったんだ、と思うも聞くまでは至らず「妹に渡すかな」とポケットにしまいこんだ。

「楽しんでいるようだな」
 ここなら静かに花火が見れそうだし、と言って、オレンジ味のカキ氷を手に境内へ腰を降ろした大樹がいつまでも上機嫌なので、ついぽろりとそんな言葉が精霊の口をつく。
「おう。あんたも楽しめれば、更にいいと思うよ」
 俺だけ楽しんでるってのもな、と何でもなく告げる大樹に、手渡されたメロン味のカキ氷を見つめて「そうか」とだけ返す。
 楽しいとはどういう状態だろうか……と思うも、やはり口には出さなかったが――祭りや花火に対して、何をどう思う事はないとしても。
 上機嫌な大樹を見ているのは、決して。
(悪くは、ない気分だ)
 遠く聞こえる祭囃子と、次々に打ち上がる花火に照らされた大樹の顔は静かに笑っていて、それを見遣った精霊もまた一つアイスブルーの瞳を穏やかに瞬かせた。


「瑠璃! あれ全部当てて買い占めっぞ!」
 またとんでもない事を言い出した、と神人である瑪瑙 瑠璃は盛大に顔を顰める。
 が、射的はずっと気になっていたので、駆け出した相方――精霊、瑪瑙 珊瑚に続き歩く。
 下駄と合わせた色調の浴衣。深い海のような淡い紺は、瑠璃の髪色に良く映えていた。
 屋台主にジェールを払いライフルを受け取る。見るより存外難しく、一度だけ挑戦したものの当たらず早々に瑠璃は諦めた。
「よっしゃー当たった! 次さ!」
 対する相方は次から次に景品を撃ち落していく。周囲の観客も「おにいちゃんやるねぇ」と感心していた程だ。
「オレ、ガンナーやれっかも」
「珊瑚、おだつ過ぎだ。俺の家さ玩具屋じゃねぇべ」
 当てる側から落とした戦利品は瑠璃の手に預けてくるので手元も小さな鞄も一杯になってしまい、いくつかは却下だと言って店に返した。
 そうしている内、流石に景品が減ってくると失敗も増える。
 全部買い占める、と啖呵を切った手前、珊瑚はムキになって「まだだ! まだ俺はやれっぞ!」と湯水の如くジェールをつぎ込んでいく。
 屋台主がもうそこらへんで……と言った時点でようやっと我に返り頭を抱えた。
(あぎじゃ、使いすぎたあああ!)
 結局景品を全制覇する事は叶わなかったが、肩を落とす相方を見かねた瑠璃が不意に珊瑚の肩を抱き、ライフルを持つ手に自分の両手を重ねた。
「なっ、る、瑠璃っ?」
「お前に任せてたら、いくらジェールがあっても足りない」
 なんでもない事の様に言うが流石に気恥ずかしく、珊瑚はきょろきょろとあたりを見渡す。
「――打つべ」
 標準を定めた瑠璃が珊瑚の耳元で一つ囁く。
 手を包み込む暖かさに、恥ずかしいような、けれど心強いような――複雑な心境に駆られながら。
「……おう!」
 何が何でもこれが最後――落ち着いて、呼吸を合わせ、トリガーを引いた。

「ちゃー転んだが、気ぃ取り直してこ!」
 花火大会にはけろっと元気になった珊瑚に瑠璃は苦笑する。
 瑠璃の手にはラムネとやきそば。珊瑚は空色のコーラ。
 あーん、と強請って、瑠璃の手からやきそばを口いっぱいに頬張った。
「たーまやー!!」
「珊瑚……かしましいぞ」
「折角の祭りやさ、大目に見てくれよ」
 にしし、と上機嫌に笑う。
 そうして不意に表情を変えて、
「……なあ瑠璃」
 なんでさっきは、あんな事を?
 真剣な声で問われ、瑠璃はすかさず答える。
「だから、ジェールが、」
 言いかけて、けれども咄嗟に語尾を詰めた。
 ――違う、本当は。
「……この先、お前となら。どこへでもいけて、どんな困難も成し遂げられるって……そう、思ったから」
 景品全制覇なんて、前の自分ならばかげたことだ、と一蹴していたように思う。
 けれど不思議だ。珊瑚と一緒なら、不可能なんてない、そんな気持ちにさせられる。
「わんだって! 瑠璃となら、どこへでも行く! なんだってやる! だって――」
 瑠璃の側にいるのは――オレだから。
 打ち上がる花火の音を聴きながら、お互いの言葉を噛み締めた。
 しゅわしゅわと立ち上がる炭酸に、夏の華が一つ透けて大きく瞬いたあと、静かに余韻を残して消えた。


「なかなか、様になってるじゃないか」
 神人、胡白眼の浴衣姿を見遣って素直に賛辞を述べたのは精霊、ジェフリー・ブラックモア。
 しかし当の彼はと言うと、ジェフリーの姿を上から下までまじまじと凝視して、なかなか答えを返さない。
「フーくん?」
「……あっ」
「俺はどうかな。ユカタって、初めてでさ……」
 変?と問われ慌てて「と、とってもかっこいいですよ!」と告げるが、変な間があったせいでなんともおかしな空気になってしまう。
「御猫様って呼んでもいいよ?」
 不意に先日の薄い本騒動を思い起こして、茶化す様に笑ったジェフリーに「勘弁してください……」と、白眼は赤い顔を手で覆い、俯かせた。

「こんなの獲っても、後が面倒だろうに」
 速攻で金魚すくいへと向かった神人に、ジェフリーは嘆息する。
 ヨーヨーにしたら? と言うも、あの赤い琉金が欲しいんです、と白眼は頑なに譲らない。
 比較的大きな個体であるそれは容易く紙の膜を破ってしまい、哀れに思った屋台の主が「おまけだよ」とポイを多めに譲ってくれた。
「ジェフリーさんもやりません?」
「……仕方ないな」
 渋りつつも狭い足場で始めた金魚すくいに、ジェフリーは存外熱中してしまい、気付けば随分な数が小さな碗の中を窮屈そうに泳いでいた。
 その中のいくつかを――勿論例の赤い琉金も含め持ち帰り白眼に差し出すが「ジェフリーさんに差し上げます」と返される。
「なんだいそれぇ。人がせっかく……」
 フーくんが欲しがるから取ったのに、という言葉は何となく出てこなかったのだけれど。
 察した様に彼は頭を掻いた。
「あはは。すみません、うち、隣の猫がたまに入ってくるので……取られてしまっても可哀想ですし」
 屋台へ返す事も出来たのだけれど、折角の戦利品を手放すのも癪で、結局ジェフリーは指先に袋の紐を括りつけ、持ち帰る姿勢をとった。
「お詫びに何か奢ってよ」
「いいですよ。林檎飴なんてどうですか?」
「……却下」
 ついでにイカ焼きもね、とげんなりした顔で告げたジェフリーの手先に下げられた金魚袋を見て、白眼は楽しそうに笑う。
 殺風景な彼の部屋に咲く、ほんの少しの彩りになればいいと思った。

「……こういうのも悪くないねぇ」
 祭囃子と舞う金魚にほんのり心が躍る。
 珍しく機嫌の良いジェフリーに自然と釣られそちらを見遣った白眼が、ふと何かに気付いた。
「ジェフリーさん、ちょっとこちらへ」
「ンン?」
 なんだい、と警戒心皆無で、男に手を引かれるまま茂みへと連れ込まれる。
「ちょっと万歳してください」
「こう?」
「そうそう」
 ――ビリイイイイイイッ!
 白眼が突然、ジェフリーの身を縛る帯紐を思いっきり引き剥がした。
 止め具がマジックテープになっており容易に剥がす事の出来るそれを、何を思ったのか白眼はてきぱきと手際よく脱がしていく。
「ずっと違和感あって気になってたんですよ。よく知らないんですが、襟が左右逆だと縁起が悪いらしくて――これでよし、っと」
 襟を直して帯紐も元に戻し、とんと胸を叩いてジェフリーを見上げれば、万歳のまま彼は真っ青な顔でガチガチに固まっていた。
 いつもは強気な猫耳がぺたりと寝かせられている。
「い、いきなり、脱がすから、何かと」
「あっ」
「怖かった」
「すすすみませんジェフリーさん! 俺何も考えてなくって、うわっ、うわあああ……!」
 冷静に考えて自分の所業に慌てふためく。
 突然大の男に茂みへと連れ込まれ脱がされては怯えもするだろう。
 そういうつもりは、とかなんとか、弁明を重ねる白眼の肩を掴んで「謝らなくていいから、深呼吸して、ね!?」とジェフリーは宥める。
 ショックを受けたのは自分の方なのに、と苦笑いを浮かべた。
「……俺も覚悟しておくべきだったよ」
 何れ、こういう日が来るんだから――小さく吐き捨てられた言葉は白眼には届かない。
「いや、覚悟なんて……覚悟?」
 何のですか、と問う前に「こっちの話」と遮られて、結局この話はそこで終わった。
「花火、始まったみたいだね。見に行こっか」
 にこ、と穏やかに笑いなんでもない事のように彼が言うから、ひとまずは嫌われなかった事に白眼は安堵して、相方に肩を並べ、歩幅を合わせた。


「お祭りがあるんだ。付き添って」
 神人であるセラフィム・ロイスから、電話口で一言簡素に告げられたのはつい先日の事だ。
 別にいいが、と答えて待ち合わせ時間と場所を聞き、電話を切り苦笑する。
 仲直りも兼ねて丁度いい、なんて精霊トキワが思った事を、セラフィムはきっと知る由もない。

「どうした急に」
「ごめんね、どうしても来たくて。久々だ」
 前回セラフィムと会った日を思い出し「まだ何年も経ってないぞ?」と聞けば「夏祭りに、だよ」と訂正された。
「……ああ、前は学校入る前だったか。ちびっ子だったな、そういや」
 今だって『セラ坊』なんて呼んで、子ども扱いは変わらない癖に、とセラフィムは思うが、彼なりの接し方だと分かっているので何も言わない。
「……夏祭りなんて。ちょっとしか思い出せないけれど、キラキラしてた」
 昔に思いを馳せる神人の顔をトキワは一瞥し、並んで歩き出した。
「これ下さい」
「あいよ、まいど! そっちのお兄さんは何がいい?」
 屋台にて、和風の面を購入したセラフィムの隣で屋台主から促され、うーん、とトキワは一つ考えると「俺はこれ」と、色違いの面を手に取った。
 セラフィムの物が白地に赤、トキワの物が黒地に赤。揃いの狐のお面だ。
「……狐の親子みたい」
「普通カップルだろ。昔の身長差ならそうだが――」
 意識なく口を滑らせた、と不意にトキワは自覚して語尾を詰めたが、セラフィムは何も気にしていないかのように「じゃあ、黒と白、どっちがお嫁さんだろ」なんて、口元に指先を当てて考える。
 それから、新緑色に斜め掛けされたトキワの面を見て呟いた。
「トキワも買ってくれるなんて思わなかった。そういうの、興味なさそうなのに」
「折角だ。資料に丁度いいかと思ってな」
 そこだけは本心の様で、セラ坊のそれも良い色合いしてるな、なんて彼の面を見詰めてぼやく。
 そうしてまた屋台に目を遣り、きょろ、とあたりを見回した。
「何食う? 奢ってやる」
「えーと……たこやきと、カキ氷は欲しい」
 言っているそばからトキワはカキ氷屋台へ向かい、勝手知ったる段取りで商品を選ぶとセラフィムの元へ戻った。
 ん、と差し出されたイチゴ味のカキ氷に、む、と僅かセラフィムは唇を尖らせる。
「……だから勝手に」
「昔っから悩んで、最終的にコレに収まるだろうが」
「そ、そうだった……?」
 そうだよ、と、自分はメロン味のカキ氷を頬張りつつ答える。
 言われてみればそうだった気がするし、実際イチゴ味が食べたい、と思っていたのは本当なので、ぐぅの音も返せず冷たい夏の涼を甘んじて堪能した。

「行きたい所でもあるのか」
 先程からちらちらと、特定の屋台を見遣っては足を止めているセラフィムの様子に気付きトキワは声を掛ける。
「! あっ、あるよ!」
 気持ちほど嬉しそうに声が跳ねて、あれとあれ、と控え目に店頭を指差す。
「僕はああいうの、苦手なんだけど……興味あって」
「金魚すくいと、射的か……アテにはならんが、手伝ってやらん事もない」
 答えて二人、店へ向かう。
 アテにするなと言う割には手先が器用だからなのか、金魚すくいも射的も人並みにやってのけるトキワを見て、セラフィムは瞳を輝かせていた。
「本当にありがとう、トキワ」
 手渡された金魚袋を見て素直に礼を述べれば「大事にしろよ」と頭を一つくしゃりと撫でられた。

「花火も見たし、お開きにするか」
 すっかり日の落ち人のはけ始めた帰り道、時計を見てぼやいたトキワの隣で、夜店の玩具売り場を不意に見つけたセラフィムが、ふらふらとそちらへ向かった。
 物色し散々悩んだ末に、これください、と手に取ったのは黄色く透き通った色の指輪だった。
 その指輪に見覚えを感じて、トキワは一つ苦笑する。
「……お前は、また似た様なモンを欲しがるな」
 トキワの家でセラフィムが見つけたあの指輪と、そっくりの。
「これと比べると全然、子供っぽいし、玩具なんだけど……」
 小指に、あの日貰った指輪と先程購入したそれを、並べ嵌めて。
 まんまるの月に透かせて、空を仰いだ。
「どうしても欲しかったんだ。今日はありがとう、楽しかった」
 夜闇に花が咲くよう微笑む。
 随分と、明るくなったように思う。昔の――引きこもってばかりで、梃子でも動こうとはしなかった彼を思い出し、自然とトキワの表情にも笑みが浮かんだ。
 その要因の一つに、自分とは違う精霊の存在がある事も理解しているけれども。
「……そりゃあ良かった。また、機会があったら」
 付き合ってやるよ、と。
 上機嫌なセラフィムが隣に居るこの空気が決して嫌いではないから、一言柔らかく告げて。
 二人並び、共に帰路へと着いた。



依頼結果:成功
MVP
名前:
呼び名:叶
  名前:桐華
呼び名:桐華、桐華さん

 

名前:柳 大樹
呼び名:大樹
  名前:クラウディオ
呼び名:クラウ、クロちゃん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月24日
出発日 07月31日 00:00
予定納品日 08月10日

参加者

会議室

  • [4]セラフィム・ロイス

    2016/07/30-23:56 

  • [3]瑪瑙 瑠璃

    2016/07/30-23:43 

    遅ればせながら、瑪瑙瑠璃です。
    自分達も射的をする事になりました。
    後は、花火を見るくらいです。

    どんな催し物に行っても、お互い良い思い出になると、いいですね。
    明日は楽しんでいきましょう。

  • [2]胡白眼

    2016/07/30-19:10 

  • [1]柳 大樹

    2016/07/28-22:45 

    柳大樹でーす。よろしくー。

    折角の祭りだし、適度に楽しむ予定だよ。
    ああ、射的はやっとこうかなあ。
    わたあめとかき氷と。アイスはどうすっかな。


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