
耳元を掠めるのは、波の音。風の音。街の喧騒――。
頭上を見上げて、この世界の広さを知り、目に映るすべてに手を伸ばした。
掬い上げたものが、はらはらと掌から零れていくさまが、狂おしいほど愛しくて。
砂が零れ、水が流れ、人の想いが泡沫に消えていく。
世界は無限に広がる灰の闇で、君だけが僕の世界のすべてだった。
与えられるもののどれもがこの記憶を作り上げて、思い出となって、懐かしさへと変わる。
あの日、拾い上げた欠片たちは、どんな色を残し、どんな思いを僕に残すのだろう。
消えてしまう蜃気楼の君に、夢中で手を伸ばして捕まえて。
それが幻だったと知るのは足元を濡らす冷たさと、潮騒。
立ち尽くし、もう一度見上げた夜空が、流れ星を零す。
海へ落ちていくようで、手を伸ばして。触れて。
掌に残った、君の欠片。
温もりが蘇る。
声が。指先が。触れた体温が、鮮明に感覚を奪っていく。
当たり前すぎて忘れていたこと。
過ぎた時間に褪せて行った思い出。
今、鮮やかな色を伴って、君がくれた世界。
君がくれたもの。
君がくれた奇跡。
もう一度伝えられるなら、惜しまず言葉を重ねて。
もう一度巡り合えるなら、その奇跡に名前を付けて。
ねえ――。
もう一度声を聞かせてよ。
大切な人と再会してください。
一人で海辺へやってきました。
その理由は、パートナーと致命的なほどの大喧嘩をしたからかもしれません。
思い出に耽りたかったからかもしれません。
理由はなんでも大丈夫です。
再会する相手は、パートナー、もしくは『幻』となります。
たとえば幻の場合ですと……
オーガに殺された友人が懐かしくなって海まで来たら、友人の『幻』と再会して――。
パートナーの場合ですと……
喧嘩をして、飛び出してきたけれど、パートナーが迎えに来てくれて――。
みたいな感じです。
幻とは普通に会話ができますので、お話をしても大丈夫です。独り言でももちろんOKです。
ただ、幻には触れません。
場所は一応、海辺としますが、山頂でもビルの屋上でも、だだっ広い公園でも基本的には大丈夫です。
再会相手が幻でも、必ずパートナーが迎えに来てください。
仲良く帰ってもいいですし、もやもやしながら帰っても大丈夫です。
※幻は迎えに来た瞬間に消えてしまいます。
時間は夕暮れ~夜くらいを想定していますが、朝でも、昼でも構いません。
どちらが、誰と再会するのかを分かるようにして頂けますと助かります。
※どうしてか、お金を投げ入れたくなったので、300Jrなくなりました。
また会いたい。
そう思えることってどれだけあるかなぁと考えていたら、シャンプーの回数がいつもの1.5倍でした。頭皮が少しきれいになりました。
ハートフルなジャンルですが、コメディ、シリアス、ダークまで、ばばーんとお待ちしていますね。
よろしくお願いいたします!
◆アクション・プラン
七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
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(どこへ行ったのですか……?) 朝、目を覚ますと、翡翠さんがいませんでした。 予定の時間になっても、家に戻らなかったので、 手紙を握りしめ、タブロス街を、ハト公園を探し回りました。 気がつけば、夕方から夜に変わろうとしていました。 お昼ご飯を食べる事も忘れていたので、彼が帰宅するのを待ちましょう。 踵を返そうとした瞬間、ある場所を思い出して歩き出す。 雀荘を見つめ、再会した翡翠さんの話を聞く。 「私とは正反対な方ですね……」 でも、なぜでしょう。 その一言とは裏腹に、色々な感情が沸き上がるのを感じました。 結局お互い、解決策も結論も出せず、諦めたように雀荘を出る。 帰り道、深呼吸して、夕飯に何を食べようか尋ねながら。 |
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リヴィエラの父親の幻: くっくっく…久しいじゃないか。 私の命を奪った、この誘拐犯の殺人鬼が。 どうせ貴様など、我が同胞…マントゥール教団に 捕まる運命だが… そうだ、ロージェックよ。 良いだろう、貴様を呪ってやろう。 貴様が夜になる度悪夢にうなされ、我が娘共々オーガの生贄に なるようにな! リヴィエラ: (ロジェの元へ走って追いつき) ロジェーっ! はぁ、はぁ、もう、ひどいです! 先に行ってしまうなんて… ロジェ? どうかなさいましたか? 『何でもない』なんて嘘です。 だってロジェ、手のひらに血が滲んでらっしゃるもの… (ハンカチで血を拭う) ふえっ!? は、はい、勿論です! (どうしよう、ドキドキしちゃいます…) |
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ディオスを迎えに行く ☆心情 「こんな夜に散歩なんて… まぁ過去の事で色々悩んでた様子だったし仕方が無いけど俺だってディオの過去は知っているつもりなのにな 少しは頼ってくれても良いのにさ…」 ☆海辺 「なんとなく、だけど此処にディオがいるような… あ、やっぱりいた(微笑 …ディオ、どうした!? 大丈夫か…?(優しく抱き締める ほら話してみ? (幻で亡くなった実母と異母兄、異母弟と逢った事 話をして3人共にディオスの幸せを願っている事 曖昧な記憶について思い出しもう一人の自分と向き合って欲しい事等聞く そっか… でもそのお陰かディオ、憑物が落ちた顔で安心したよ(微笑 (もう一人の、って事はもしかして俺が操られた任務の時か…?」 |
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来月は両親の命日。 お墓参りに行かなきゃなと1人海辺で佇んでいると、そこに両親の幻が。 ・・・っ、お父さん、お母さん・・・! 思わず抱きつこうとするけれど、身体をすり抜けてしまい、2人が幻だということを実感させられます。 嘘みたい、またもう一度会えるなんて(泣く) ううん、2人は私を沢山愛してくれたよ、これからもずっと見守っててくれる? えへへ、私神人になったんだよ。 エミリオとエリオスさんっていってね・・・あっ(恋人が両親を殺した事実を思い出し) あ、あのね。 お父さん達からしてみれば酷い裏切りかもしれない。 でもね、私は彼を深く愛して・・・え? エリオスさん? あの親子から今すぐ離れろって、そんな・・・どうして? |
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夕日が沈む海、間もなく夜の帳が下りる 戻ろうと歩き出してふと あの人はどうしているだろうか 呼ばれた気がして振り返る …カルヴァドス、さん? あれほどお礼が言いたかったのに咄嗟に言葉が出ない 胸に迫る万感の思い 伝えたい言葉を絞りだし あなたに命を救われて、私はここにいます そのおかげで、大切なパートナーにも巡り合えたんです ありがとうございます、あなたに出会えてよかった… 今、カルヴァドスさんに会ったんです 会いたい気持ちが作り出した幻だったんですけど、でも 「もうすぐ会えますよ」って… 彼の言葉を信じて待とうと思います 思い込みだろうが、精霊に顔も声も似ている気がする 精霊が彼であったらと 都合のいい願いを胸に秘めて |
●
(お墓参り、行かなきゃ……)
来月は、両親の命日だ。
ミサ・フルールは海辺に一人佇み、会えるのならば会いたい、その人たちに想いを馳せる。
潮騒に耳を傾けながら、そろそろ戻ろうと立ち上がる。
『――……サ……』
ふと、名前を呼ばれた気がした。
気のせいかと振り返ろうとして、もう一度。
『ミサ……』
咄嗟に振り返る。
そこにいたのは、ミサのよく知る人。両親の姿。
「……っ、お父さん、お母さん……!」
思いがけない出来事に、ミサは抱き着こうと腕を伸ばす。
『大きくなったわね』
母が抱きしめ返そうとミサの身体を包み込む。けれど――お互いの腕は無情にも空を抱く。
悲しそうに微笑む母に、ミサは二人が幻であると思い知らされる。
それでも。たとえ、幻であっても。
「嘘みたい、またもう一度会えるなんて」
ミサの目から大粒の涙が零れる。
二度と会えないと思っていた。だから、幻でも、触れることが叶わなくても、こんなにも胸を温かくする。
『俺たちが早く死んでしまったためにお前にはたくさん苦労をかけてしまったな』
父が苦しげに、切なげに、言葉を紡ぐ。
「ううん、二人は私をたくさん愛してくれたよ。これからもずっと見守っててくれる?」
『もちろんだ』
父が大きく頷く。
『今は何をしているの?』
母らしい、ミサを案じる問いに、
「えへへ、私、神人になったんだよ」
そう伝える。
『そう、神人になったのね。名誉なことよ、頑張りなさい。でも、無理はしないで』
励まし、気遣い、労わってくれる母は、あの頃と何も変わらない。ミサの知っている二人だ。
『それで、ミサのパートナーはどんな人なの?』
「エミリオとエリオスさんっていってね……」
その名前を口にすると、二人は明らかな動揺を見せた。
「あっ……」
ミサも、その理由を察した。
恋人が両親を殺した――その事実を思い出し、ミサは口元を覆った。
「あ、あのね。お父さんたちからしてみればひどい裏切りかもしれない。でもね、わたしは彼を深く愛して……」
『エリオス――?』
「え?」
『ミサのパートナーは、エリオス、なの?』
エミリオ、ではなく、エリオス・シュトルツの名前に驚いている様子の二人に、ミサは動揺を隠せない。
二人がなぜ、そこまで驚くのかが、理解できない。
『よく聞きなさい。今すぐあの親子から距離を置くんだ。罰を受けるのは俺たちだけでいい』
「どういう……」
ミサの問いに、二人は答えることなく消えてしまう。
捕まえようと手を伸ばすが、指の間を幻がすり抜けていく。
(どういうこと……)
動けず、立ち尽くすミサの後ろから、ふわりと温もりが包む。
「探したぞ」
「――エリオスさん……?」
エリオスがミサを抱き締める。耳元にそっと落とされる声。
「……誰と話していた?」
「……ううん。ちょっと、思い出してただけ。何でもないよ」
エリオスは、それ以上何も聞かなかった。
なにを、とも。
誰を、とも。
「早く帰るぞ、俺たちの家へ」
「……うん」
離れて、先を歩くエリオスを見つめて。
(あの親子から今すぐ離れろって、そんな……どうして?)
ミサの心が、ざわめくように波を打つ。
●
ここに来た理由を問われても、おそらくは明確な答えはない。ただ、あいつが呼んでいる気がした。
波が押し寄せる足下に一度視線を落とす。
『くっくっく……久しいじゃないか』
「……やはり貴様か」
ちらりと視線だけをあげて、そこにいる男を見遣る。
「俺は別に会いたいとは思ってないんだがな」
顔を見るだけで反吐が出る。
『私の命を奪った、この誘拐犯の殺人鬼が』
「殺人鬼? 貴様のどの口がそれを言うんだ?」
どの口が――っ!
「リヴィエラを監禁し、生贄として殺す心算だったクセに……ッ!」
俺のリヴィエラをオーガへ差し出そうとした、忌々しい男――リヴィエラの父親。
『どうせ貴様など、我が同胞……マントゥール教団に捕まる運命だが……』
「俺は捕まらない。リヴィエラも返さない。俺が貴様の汚らわしい手から守っていく……!」
『ほう……そうだ、ロージェックよ。そこまで言うならいいだろう、貴様を呪ってやろう』
さも名案だと言わんばかりの男の顔に苛立ちが募る。この男はいつも、俺の神経のすべてを逆撫でしていく。
『貴様が夜になるたび悪夢にうなされるように――』
――その程度か。
吐き捨てるような言葉の代わりに、嘲笑うような視線を向ける。けれど、男はにたりと下卑た笑みを浮かべ、言葉を継いだ。
『我が娘共々、オーガの生贄になるようにな!』
「クッ……この、下衆が! リヴィエラには関係ないだろう!」
『貴様にはこれ以上ない苦しみとなるだろう。貴様の薄汚れた手が、なにも守れないと思い知るがいい!』
拳を強く握りしめる。食い込む爪が手のひらを傷つける。
それでも。
吹き出しそうな怒りが止まらない。
「俺は――」
ぎりぎりと奥歯を噛み締める。抑圧された怒りが行き場を失くし身体の中に黒く渦巻いていく。
「貴様の思い通りにはさせない」
男が嗤ってふっと姿を消した。
殺してやる――!
どこまでも。地獄の果てでも追いかけて。魂の残滓すら残らないほど、無残に、すべて。
「ロジェーっ!」
声にはっとして目を向ける。
身体中を包み込むようなどす黒い感情は、そのたった一つの声であっけないほど容易く掻き消えた。
「もう、ひどいです! 先に行ってしまうなんて……」
肩で大きく息をしながらリヴィエラが追い付いてきた。
顔を上げたリヴィエラを掻き抱く。
「っ……、ロジェ? どうかなさいましたか?」
「……いや、なんでもない。……なんでもないんだ」
この存在だけが、俺を正常にしてくれる。君がいなければ俺はただ――。
「大丈夫、君は俺が守る」
リヴィエラが手を取って、ずっと握り締めていた手を開かせる。血の滲む手のひらをハンカチで拭って。
穏やかな目で君は笑う。
「なんでもない、なんて嘘です。でも……」
「……っ、ごめん……」
もう一度リヴィエラを抱きしめる。
嘘だ。
なんでもないなんて。
君を失う瞬間を見ることに耐えられるはずがない。君を失いたくない。
悪夢に立ち向かう力を、俺に与えてくれ――。
「今日は……」
身体を離してリヴィエラを見つめる。
「同じベッドで寝かせて……くれないか」
「ふえっ!? は、はい、勿論です!」
顔が火を噴きそうだ。が、リヴィエラもそれは同じだろう、わたわたとする仕草に、思わず微笑む。
●
「幸せ、か……」
ディオスがぽつりと漏らした。
「ははっ、こんな血に濡れた死神が本当に幸せになっていいのだろうか……」
夜の海辺で、その声に答えるものはない。
ただ、静かな波音だけが辺りを包む。
『ディオ、ディオス……』
声に目を向け、探るように凝らす。
「……か、ぁさ……? 兄さんとシヴァ……?」
そこにあったのは、母と、兄、弟の姿だった。
『ディオ、大きくなったわね』
微笑む母がディオスに触れようと手を伸ばした。
けれどその手は、ディオスに触れることはなかった。
『貴方に触れたいけど、無理みたいね……』
『久しぶりディオス』
『兄ちゃん!』
兄と、弟の声が続いた。
呆然と三人を見つめるディオスは、訳が分からない様子のまま、口から言葉が漏れ落ちる。
「な、んで……」
『ふふっ、ディオが心配でね』
『ディオス、君は俺たちにとって光であり希望だ』
そう言われ、少し照れくさくなる。
『もちろん、もう一人の君だって家族さ。だからあの時を思い出せ』
「――もう一人の、俺……?」
『そうだよ……ってそろそろ時間、かな……』
「待っ……」
言いかけた言葉が波音にかき消される。
『ディオス、私の可愛い愛しい坊や。私達はいつでも貴方のことを想ってる』
ゆらりと消えていく幻。
『ディオ』
『ディオス』
『兄ちゃん』
三人の声が重なる。
『私たちの分まで幸せに……』
『俺たちの分まで幸せに……』
『僕たちの分まで幸せに……』
それぞれの同じ想いが混ざり、ひとつの音のような錯覚を起こす。
「母さん! 兄さん! シヴァ! あぁぁぁぁぁああああ!!」
静寂の海辺で、闇を裂くような声が響く。
「なんとなく、だけどここにディオがいるような……」
こんな夜に散歩に出てしまったディオスを探して、クロスが海辺を見渡す。
もう少し頼ってくれてもよさそうなものだが。
「あ、やっぱりいた」
ディオスの元へ近づき、微笑む。
「……ディオ、どうかした!?」
「クロ……」
異変を察して駆け寄り、ディオスを抱きしめる。
「大丈夫か……? ほら、話してみ?」
「三人の……幻が見えたんだ。母さんと、兄さんと、シヴァの」
「ああ……」
「三人とも俺の幸せを願ってくれて……曖昧な記憶を思い出して、もう一人の俺と向き合えと……そう言った」
「そっか……」
ディオスを抱き締めながら頷く。
「でもそのお陰かディオ、憑き物が落ちた顔で安心したよ」
「そんなにひどい顔だったか?」
ディオスが困ったように笑う。
「そういうわけじゃないけどさ。悩んでたみたいだったから心配してたんだよ」
「そうか……」
ディオスがそっとクロスを抱き返す。
(もう一人の、ってことは、もしかして俺が操られた任務の時か……?)
少なからず、クロスにはディオスの言葉に心当たりがあったが、今はその言葉を胸に秘めておくだけにした。
「帰ろう、ディオ」
「ああ、そうだな」
●
民俗資料館で修復の打ち合わせをするジュニール カステルブランチを待つ間、秋野 空は庭園を歩いていた。
庭の端の海で、沈む夕日を眺める。夜の帳は間もなく下されるだろう。
そろそろ戻ろうかと思って、ふと懐かしい人の顔が脳裏をかすめた。
あの人はどうしているだろうか――。
彼のことを話したから思い出したのか。それとも必然だったのか。
踵を返す。
『空さん……』
ふと、名前を呼ばれた気がして振り返る。
誰もいるはずはないと思い、もう一度目を向ける。
『空さん』
逆光の中、黒づくめの男性と思しき人が見えた。
もしかしたら、気付かなかったかもしれないが、空はその人を知っている気がした。
「……カルヴァドス、さん?」
『会いたかったです、空さん』
ずっと、会いたかった人がそこにいる。
お礼を言いたくて、会った時に伝えるべき言葉も考えていたのに、いざ会ってみれば咄嗟にその言葉は出てこない。
ただ、万感の思いだけが胸に迫る。
「カルヴァドスさん……あなたに命を救われて、私はここにいます」
伝えたいことを、絞り出す。彼に、伝えるべきこと。
「そのおかげで、大切なパートナーにも巡り合えたんです」
彼がいなければ、空はジュニールと出会うこともなかった。
「ありがとうございます、あなたに出会えてよかった……」
声を詰める空に、彼は静かに笑って首を横に振る。
『お礼なんて必要ありません。俺も、あなたに出会えてよかったと、そう思っていますから』
「カルヴァドスさん、ありがとう……ございます」
彼の前で泣くつもりなどなかったのに、涙が溢れてくる。出会えてよかったと言ってくれることが、こんなにも嬉しい。
『心配しないでください』
「え……?」
『もうすぐ……会えますよ、俺たち』
微笑む彼の言葉が上手く飲み込めない。
「会える……? カルヴァドスさん……っ、それは……」
どういう意味ですか――?
「ソラ」
声に、空が振り返る。
「ジューン……」
「どうしたんですか?」
「今、カルヴァドスさんに会ったんです」
先程彼がいた場所を振り返り、姿がないことに気付くも、空は頭を振る。
「会いたい気持ちが作り出した幻だったんですけど」
幻であることは、初めから分かっていた。
だから、それに気落ちするようなことはなかったけれど。
「でも、『もうすぐ会えますよ』って……」
彼の残した言葉に、微塵の期待もないとは言えなかった。
ジュニールは僅かに眉をひそめ、言葉を継げずにいた。
――そろそろ、潮時かもしれない。
最後まで隠すことはできないと知りながら、もう少し、を繰り返してきた。
ジュニールは柔らかく微笑む。
「彼がそう言ったのなら、きっともうすぐ会えますよ」
「はい。……彼の言葉を信じて待とうと思います」
ふと見せるその表情。仕草。声――。
時々起こす錯覚。
彼は、ひどくジュニールに似ていて、けれどそれは、空が思い描くただの幻想なのでは、とずっと否定し続けていた。
ジュニールが、彼であったなら。
そんな都合のいい願いを胸に秘め、差し出されたジュニールの手をそっと取る。
●
(どこへ行ったのですか……?)
七草・シエテ・イルゴが目覚めたとき、翡翠・フェイツィの姿はなかった。
手紙は残されていたものの、予定の時間になっても戻ってくる気配がない。
時計の針は進む一方で、たまらず手紙を握りしめ、翡翠を探しに出た。
タブロス街、ハト公園、思いつく限り、全て。
けれど、そのどこにも翡翠の姿はなく、太陽はすでに西に傾いていた。
(翡翠さんが帰ってくるのを待ちましょう……)
これだけ探して見つからないのだ。もう、探す当てすらない。
思って、踵を返しかけ、ふと、もう一か所。探していない場所があったことを思い出す。
シエテは最後にそこを探すために歩を進めた。
*
――昔は朝から晩まで麻雀に明け暮れていた。
無人の雀卓でそんなことに考えを巡らせ、翡翠は物思いに耽る。
『何してんの?』
思考をさらに向けようとしていた、ちょうどその人物が声をかけてきた。
「ユイか」
懐かしくて彼女にはつい、色々なことを話してしまう。
特に、シエテには絶対に言わないような、戦士としての愚痴を、彼女を前にすると自然と口を突いて出てしまうのだ。
燻らせた紫煙を眺め、翡翠が煙草を口から離す。
『アタシの精霊だったらサァ』
翡翠の顔にぐっと顔を近づけ、至近距離でユイが問う。
『アンタの株、アゲられるよ?』
視線を合わせ、翡翠はふっと視線を外した。
答えられないでいる翡翠から離れると、ユイは窓へと近づく。
「ユイ?」
窓に足をかけ、ユイが飛び降りようとする。
「ユイ!」
慌ててその肩を掴もうと手を伸ばす。
だが、その手は肩をすり抜けて、彼女の姿も消えていた。
代わりに、翡翠の肩を後ろから誰が掴んだ。
「翡翠さん」
「……シエ……」
心臓が早鐘を打っているような気がする。
ユイが、翡翠を慌てさせるために取った行動だったとしても。
掴めなかった手を見つめる。
――幻……か。
頭では理解していたのか。
それとも、本当に彼女だと思っていたのか。
それは分からなかったけれど。
「誰と話していたんですか?」
シエテの問いかけに、窓を離れ雀卓に戻り、煙草を消した。
「……親友、だ」
ぽつりと翡翠が呟く。
「親友、ですか」
「好戦的で蓮っ葉、長身で大柄……良くも悪くも男女関係なく張り合う、手段を選ばない女だよ」
「私とは正反対な方ですね……」
翡翠はそっけなくその親友についてを語ったが、それとは裏腹に、様々な感情が湧き上がるのを、シエテは感じていた。
ただ、その感情が何かは分からない。
押し黙った翡翠に、シエテも口を噤み、それぞれが答えを求めた。
しばらくしても結局、翡翠の感情、シエテの気持ちに解決策も結論はなく、答えを諦めたように雀荘を出た。
シエテは深呼吸を一つして、翡翠に声を掛ける。
「夕飯はなにがいいですか?」
「鶏肉飯と青椒肉絲、デザートは豆花でいい?」
「分かりました」
「俺も手伝うよ」
そう言った翡翠に、シエテは首を傾げる。
「今日は……心配させたから」
その言葉に、シエテは微笑む。
エピソード情報 |
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マスター | 真崎 華凪 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月19日 |
出発日 | 07月26日 00:00 |
予定納品日 | 08月05日 |
2016/07/25-23:51
2016/07/25-23:33
2016/07/23-00:20
2016/07/22-21:12
2016/07/22-20:04
2016/07/22-20:04
2016/07/22-14:24
2016/07/22-11:15