護衛任務はらぶらぶでーと!?(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●リビングドールの歯車は巡る
「以前、オートマタが神人を攫うという事件があった」
 A.R.O.A.職員の男は、ウィンクルム達へと厳しい顔でそう漏らした。
「事件自体は無事解決を迎えたんだが……そのオートマタの修復が、終わったらしい」
 意思を持ち自在に動く特別なオートマタに、A.R.O.A.は興味を持った。破壊されたオートマタ――美しい青年の姿をしていて、名は綺羅という――の修復は、その作りの緻密さ故に困難を極めたが、遂に、人形は在りし日の姿を取り戻した。
「ああ……直ったと言っても、日常生活に支障がない程度に、だが」
 また精霊と戦闘で渡り合えるレベルまで元通りにされては事だと、男は渋い顔を作る。そして、と、男はいかにも気乗りがしないといった様子ながらも、今回の任務の核について話し始めた。
「……そのオートマタに、生きる喜びを教えてやりたいと、長い修復の中でオートマタに情の湧いた一部の研究者が言っている」
 意思があって、言葉を話せて、自由に動けて。けれど自分達は命を持たないと平然として言う人形に、この世界には楽しいこともあるのだと伝えたい、伝えてほしい。それが、ウィンクルム達に回ってきた此度の任務。
「オートマタのデータが欲しい、という上の意図もある。データ収集・及び万一の時の為の護衛任務ということになるが……何、難しく考える必要はない。お前達が楽しんでいる姿を、オートマタに見せてやる、それだけでいいそうだ」
 相変わらず苦いような顔のまま、職員の男はそう話を締め括った。

解説

●目的
後述のオートマタ・綺羅を護衛しつつデータ収集に協力を!
……という建前の元、綺羅に楽しいことを教えてあげること。
……というのもまた口実で、好きな場所で好きなことを楽しむ、お好みのデートを満喫してくださいませ!
本エピソードは、自由度が高くなっております。
『どこで』『何をする』のかを、必ずプランにご記入くださいませ。
但し、『一般人が立ち入れない場所』でのデートはご遠慮いただけますようお願いいたします。
余程の場合でなければ、基本的に消費ジェールは経費で落ちます。
また、護衛やデータ収集については一切プランで触れていただかなくとも大丈夫です!
なお、リザルトはウィンクルム毎の個別描写となります。

●綺羅について
美しい青年の姿をしたオートマタで、柔和な厭世家。詳細はプロローグ参照。
デート……もとい任務に必ず同行します。
基本的にはでしゃばりませんが、プランの内容次第ではお喋りになる場合もございます。
放置でデートを楽しむもよし、当て馬にするもよし、興味があれば絡んでくださっても。
2人の仲をひやかす・聞きにくいことを尋ねる等の役に使っていただくこともできます。
台詞の細かな指定等はできませんが、『こんな内容のことを言ってほしい・してほしい』といったご要望には可能な限りお応えいたします。
但し、程度によっては採用いたしかねる場合もございますのでご注意くださいませ。
なお、綺羅については『リビングドールの歯車は軋む』というエピソードに詳しいです。
ご参照いただかなくとも支障はございませんが、目を通していただくと彼の人となりが何となくわかるかもしれません。
皆さんが楽しんでいる姿を見せるだけで彼の心に変化を生むことができますので、是非お好みのシチュエーションでデートをどうぞ!

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

アドエピ! 誰が何と言おうとアドエピです! 護衛&データ収集のお仕事ですから!
戦闘は苦手だけどアドエピ参加したい! という方も、好きな場所で自由にデートしてみたい! という方もお気軽にご参加いただけますと幸いです。
2人きりにはなれませんが、プランに記載がない限り極力お邪魔はいたしません。
逆に、第三者を交えたシチュエーションに、綺羅を積極的に使っていただいてもOKです。
誰かにひやかされたり、他の相手と話すパートナーに嫉妬されたりも美味しいですよね!
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  こんにちは お久しぶりです、かしら
今日はよろしくお願いします
笑顔でぺこりと挨拶
返事が返ってくれば更に明るい笑顔に

夏の花が咲く公園
咲き誇る向日葵やユリ カサブランカに目を輝えかせて
夏の花は豪華に見えるわ
お日様のパワーをもらっているのかしら
振り向いた先 男性陣の表情が楽しむにはほど遠く見えて頬を膨らませる
そんな顔していたらお花に失礼でしょう
折角綺麗に咲いているのに
有無を言わせず ふたりの手を取って歩き始める

小さな小川を見つけ 目を輝かせ裸足になって入っていく
彼がため息をつくのに唇を尖らせるも 悪戯っぽく笑って水をかける
水の掛け合い びしょぬれになって鮮やかに笑う
ふたりとも そうやって笑っている顔のがいいわ 


夢路 希望(スノー・ラビット)
  せっかくですし皆で楽しめそうな場所に…遊園地、は…どうでしょう?

スノーくんの気遣いに照れつつ手を取り
私も綺羅さんへと手を差し出してみる
はぐれると大変ですから…よかったら

・メリーゴーランド
思わず足を止めて見入る
…あの、少し、付き合っていただけませんか?
二人乗りの木馬は…気になるけどまた今度
馬車なら三人で乗れるかな、と思えば抱き上げられてびっくり
す、スノーくん…!
…う、嬉しいです、けど…恥ずかしいです…
・お化け屋敷
な、何事も挑戦です
…と意気込んだものの、驚いてはスノーくんに縋り、綺羅さんの手はがっちり掴んで離さず
脱出後平謝り
・お土産屋
思い出にと綺羅さんへ遊園地のマスコットキャラの小さなぬいぐるみ


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  んーせっかく綺羅さんも一緒なんですし
三人で何か遊びますか…
つかぬことをお聴きしますが綺羅さん水って大丈夫ですか?
っというわけではいはーい提案です
駄菓子屋さんで水風船調達して公園でぶつけあい勝負しませんか
暑いですし涼を取るのに良いと思うんですよ。

水風船作ってくるのでお二人は待っててくださいね
…これは作戦、ディエゴさんはきっと綺羅さんと話をする
ディエゴさんの背後から忍び寄って背中に水風船入れて割っちゃいますよ、ファーストアタックとしては上出来じゃあないでしょうか…フフフ。

水風船全部使い切るころには私達はびしょぬれで、これはどうやって勝敗を付けるのかわからなくなりました。
ラムネでも飲みますか。



ひろの(ルシエロ=ザガン)
  人がいっぱいいる場所は苦手だし。
森林公園なら、いても密集はしてないと思うから。
森林公園に散歩に行く。

また会えた。「私はひろの」
「綺羅って、呼んでいい?」
他の人形さんたちも元気かな。(綺羅の手を握る
やっぱり冷たい。(人と違う温度に安心する
?(ルシェを見上げ、手を見る
ルシェは、あったかい。(口元が綻ぶ

人形さんは命はあたたかいって言ってた。
あったかいって思えるなら、たぶん大丈夫。
綺羅も、そうだといい。
AROAのお手伝いできるようになったら、また会えるかな。

「君とね。また会えて、話せて。嬉しい」(ベンチで休憩
!(綺羅の手は離さず、ルシェを見上げる
え、と。(そっと凭れる
これじゃ、ダメかな。(少し顔が赤い


かのん(朽葉)
  お天気が良いので自宅の花の咲く庭

朽葉おじ様が諸国を渡り歩いてた頃のお話を
そうですね、おじ様がサーカスの団長していたお話が聞きたいです

顕現してウィンクルムとして各所に出かけるようになる以前は市内とごく近隣の街しか知らなかったので、おじ様のお話は面白いです

急に飛び出てきた布の花を手に
…本当にいつもどこに仕込んでいるのですか?

おじ様、それは綺羅さんに失礼ですよ

命がある、ないは人それぞれの
綺羅さんは綺羅さんの、おじ様はおじ様の意見で良いと思うのですけれど

折角動けるようになったのですから、何かしたいとか、何処かに行きたいとかありませんか?
何もないのなら、何か心が動くものをこれから探すのも楽しそうですよね


●花咲く庭と昔のお話
「綺羅さんは、自分の知らない世界の話はお好きですか?」
 とりどりの花に溢れた彼女の庭で、かのんは綺羅にそう問いを零した。お天気が良いので、とかのんが選んだ場所。そこを満たす緑を見遣っていた綺羅が、こくと頷く。
「良かった。朽葉おじ様は色んなお話をご存じなんですよ」
 ふわりと微笑して、かのんは眼差しを朽葉へと移した。そっと促すようなかのんの目に、朽葉は山羊髭を撫でながら、
「人混みは暑苦しいでの。ここなら、昔話にも丁度いいじゃろうよ」
 なんて、飄々と応じてみせる。かのんが、嬉しげに目を細めた。
「なら、おじ様が諸国を渡り歩いてた頃のお話を」
「ふむ。どんな話をご所望かの?」
「そうですね、おじ様がサーカスの団長をしていたお話が聞きたいです」
 紫の瞳を煌めかせながらそう請われて、朽葉は昔語りを披露する。その口から先ずとび出したのは、タブロスでのそれとは色の違う、異国での生活の話。流れるような語り口に、かのんも綺羅も息を飲むようにして聞き入った。
「――さて、サーカスを率いていた頃の話じゃったの。色んな仲間がおったよ」
 例えばそれは、ひょろりとした寡黙な軽業師。他にも、個性的な仲間の話が次々とび出す。
「それから……うっかりやのピエロのことも、話しておかねばの」
 言うや、ぽんっ! と朽葉の手の中に現れるはピエロのぬいぐるみ。不意打ちに、綺羅が瞳を瞬かせた。その様子にかのんが気を取られた一瞬の隙を突いて、
「かのんには、こっちがいいかの?」
 なんて、再び魔法のようにとび出したのは一輪の布の花だ。受け取ったそれを手に穏やかな苦笑を漏らして、かのんが言う。
「……本当に、いつもどこに仕込んでいるのですか?」
「内緒じゃ。手品師たるもの、驚かせてなんぼじゃしの」
 問いに、朽葉は楽しそうに、にやりとしてそう応じた。笑みに笑みを返す、かのん。
「それにしても、やっぱりおじ様のお話は面白いですね」
「ほう、そうかの」
「顕現してウィンクルムとして各所に出かけるようになる以前は、市内とごく近隣の街しか知らなかったので」
 しっとりと紡がれたかのんの言葉に惹かれるようにして、綺羅が顔を上げる。何かしら感じるところがあったのだろうかとかのんが胸の内に小首を傾ける中、朽葉がぽつり。
「そういえば、とある街では人が使う物も百年の時を経れば魂が宿り人をたぶらかすという話もあったの」
 人形が動き意思を持つとは其方もそのクチか、と続けられた言葉に、綺羅が首を横に振る。
「僕は、こういうふうに作られたんだ。……そう、世界には、そんな話もあるんだね」
 2人の会話はごく静かなものだったが、かのんは堪らず口を挟んだ。
「おじ様、それは綺羅さんに失礼ですよ」
「ほう、気を悪くしたかの?」
 ふるふると、綺羅は今度も首を横に振って応じる。かのんがほっと優しい安堵の息を吐くその傍らで、朽葉はまた口を開いた。
「まあ、血が流れるから命があるというものでもないじゃろうよ」
 綺羅の作り物の目が、朽葉に向けられる。
「自らが考え選び動けるのなら、生きているといって良いと思うがの」
「……僕が教わった話とは違う。だけど……彼女の言う通り、あなたの話は『面白い』ね」
 綺羅の言葉に朽葉は密か口の端を上げ、かのんもまた、真っ直ぐに音を紡いだ。
「命がある、ないは人それぞれの――綺羅さんは綺羅さんの、おじ様はおじ様の意見で良いと思うんです」
 けれど、とかのんは花綻ぶように微笑する。
「折角動けるようになったのですから、何かしたいとか、何処かに行きたいとかありませんか?」
「……僕、は……」
「――もし、何もないのなら。何か心が動くものをこれから探すのも、楽しそうですよね」
 真剣に考え込む綺羅へとかのんは明るい声でそう告げて、朽葉は彼女の柔らかくも凛とした姿に、もう一度顎髭をゆったりとして撫でつけた。

●遊園地と君の温もり
「せっかくですし皆で楽しめそうな場所に……遊園地、は……どうでしょう?」
 おずおずとして、夢路 希望はそう提案した。鮮やかな赤の双眸をふわりと和らげ、スノー・ラビットは綺羅に声を掛ける。
「綺羅さん、どうかな? 僕はどこでも」
 ノゾミさんと、大切な人と一緒なら、それだけで楽しいから。付け足された言葉に希望が俯き頬を朱に染める中、綺羅が静かに頷いた。
「良かった。それじゃあ、行こうか」
 人の多い街中だ。はぐれないようにと、スノーは希望へと手を差し出す。スノーの気遣いに益々頬を熟させながらも、希望はそっとその手を取った。そして。
「はぐれると大変ですから……よかったら」
 希望の空いている方の手は、綺羅に向かって差し伸べられる。ぎこちなく2人の手が繋がれるのを見れば、スノーの胸の底に溜まるは重いもの。
(事件のことで少し心配もあるけど、何かいいきっかけを作れたらいいなと思ってる)
 だけど希望を渡すことはしないと、スノーは己の指を希望の指にしかと絡めて手を握り直した。そして、3人は遊園地へ。
「わあ……」
 希望が思わず足を止めたのは、メリーゴーランドの前だった。焦げ茶めいた瞳を輝かせてメルヘンチックな空間に見入っていた希望は、じきにハッと我に返って、スノーと綺羅に声を向ける。
「……あの、少し、付き合っていただけませんか?」
 控えめな誘いに、返る頷きは二つ。ほっと息を吐いて、希望は木馬と馬車を見比べる。
(二人乗りの木馬は……気になるけどまた今度。馬車なら三人で乗れるかな)
 なんて考えていたら、ふわりと宙に浮いた希望の身体。攫うようにしてスノーに抱き上げられた希望は、そのまま白馬の上へとエスコートされた。
「す、スノーくん……!」
「……僕とじゃ、嫌?」
 驚く希望の耳元に、スノーは甘く囁き零す。希望は、ぷるぷると首を横に振った。
「……う、嬉しいです、けど……恥ずかしいです……」
 返る反応の愛らしさに、胸のもやもやを少し晴らすスノー。束の間の夢の時間を楽しんで、2人は綺羅の元へと戻った。一部始終を見られていたことに気恥ずかしさを感じながらも、
「え、えっと次は3人で……あっ、あのお化け屋敷なんてどうでしょう?」
 と、希望はそんな提案をする。スノーが、仄か表情を曇らせた。
「ノゾミさん、大丈夫?」
「な、何事も挑戦です」
 ぐっと拳を握って意気込む希望。そして3人は、お化け屋敷の中へと入ったのだが――、
「ひゃ……!」
 仕掛けやお化けがとび出す毎に、希望は小さく悲鳴を上げてスノーに縋りついた。綺羅の手も、がっちりと掴んで離せない希望である。震えている希望のことを案じながらも、
(何だか、頼られてるみたいで嬉しいな)
 なんて、スノーは口元を幾らか和らげた。抱きつかれている感触についドキドキもしてしまって、驚く暇もないと思いつつ。
「……大丈夫だよ」
 安心してほしいと願いを込めて音を零せば、ぴたりと出会う2人の眼差し。何だかんだと、3人は再び夏の日差しの元に無事に戻った。
「ご、ごめんなさい……!」
 暑さのせいではなしに真っ赤になってぺこぺこと頭を下げる希望へと、
「……僕は、楽しかったな。ノゾミさんがいっぱいぎゅーってしてくれて」
 スノーは、素直な想いを告げてにっこりと笑む。益々あわあわとなりながら、希望は面映ゆさに震える指でお土産を扱う店を示してみせた。
「あのっ、少しあそこに寄っていきたいです……!」
 店に入れば、興味深げに視線を巡らす綺羅から少し離れて、希望はスノーへと囁き一つ。
「あの、綺羅さんに思い出の品をと……」
「いいね。それじゃあ、2人で選ぼう?」
 スノーの言葉に、希望のかんばせに柔らかな微笑が咲く。2人であれこれと店中を見て回り、やがて選び取るは遊園地のマスコットキャラを模した小さなぬいぐるみ。
「プレゼント、気に入ってもらえるでしょうか……」
 2人からの贈り物に綺羅が表情を和らげるのは、もう間もなくの話だ。

●冷えたラムネと水風船
「んー、せっかく綺羅さんも一緒なんですし、三人で何か遊びますか……」
 さて何をするかという段で、ハロルドは指を顎に当ててそんなことを言った。ディエゴ・ルナ・クィンテロの方も、三人で何かするという案に異存はない。
「つかぬことをお聴きしますが、綺羅さん水って大丈夫ですか?」
「うん。濡れても行動に支障がないように作られてるから」
 返る言葉に、ハロルドの青と金の瞳がきらりと煌めいた。
「っというわけで、はいはーい、提案です」
「……ハル。一応聞くが、何だ?」
「駄菓子屋さんで水風船調達して、公園でぶつけあい勝負しませんか」
「……なんだそれ、夏休みか」
 一応ツッコミを入れるも、ハロルドがそれで止まらないだろうことは織り込み済みのディエゴである。実際ハロルドは、
「暑いですし涼を取るのに良いと思うんですよ」
 なんて自論を展開し、ディエゴの方も、
「まあ、良いけどな」
 と、何だかんだまんざらではない顔で軽く肩を竦めた。
「となれば、先ずは駄菓子屋ですね」
 というわけで、3人はそのまま駄菓子屋へ。どうせだから飲み物と菓子も買っておくかと品定めをする手を止めて、ディエゴは綺羅へと蜂蜜色の眼差しを向けた。
「綺羅は……食べられるのか?」
「そういう機能はないけど――ここは、変わった物が沢山あって興味深いよ」
 店内を見回す綺羅の楽しげな様子に安堵して、
「ラムネと……なんだろうな、この菓子の豊富さは」
「……ディエゴさん、わかってると思いますが」
「ああ。経費で落ちるだろうから、気になったものは片っ端から籠に入れろ」
 という具合に、ディエゴはハロルドと2人、カゴに駄菓子の山を作るのだった。そして、場所は変わって夏色の公園。
「あ、水風船作ってくるのでお二人は待っててくださいね」
 ハロルドはこれもまた大量に購入した水風船を腕に抱えて、いそいそと手洗い場に向かう。その背を見送って、ディエゴは綺羅へと声を掛けた。
「体に異変が起きそうならすぐに俺に言えよ、無茶すんな」
「ありがとう。だけど、平気だと思う」
「そうか。あと……悪いな、情報収集に役に立たなそうなデートで」
 申し訳なさげに首の後ろを掻きながら、けれどディエゴは、仄か目元を和らげる。
「だけどな……俺こういうことやった経験あまりなくて、ちょっと」
 楽しみなんだ、という台詞が、最後まで紡がれることは叶わなかった。背後から忍び寄ったハロルドが、ディエゴの背に水風船を放り込んだのだ。歴戦の彼がそれに対応するよりも早くに、水風船を容赦なく割るハロルド。
「!? 冷てェーッ!」
 不意打ちかよ! と背中をぐっしょりと濡らしたディエゴが訴えるが、ハロルドはけろりとした顔。というかむしろ楽しそう。
「これは作戦です。ディエゴさんはきっと綺羅さんと話をすると思ったので」
 くす、と綺羅が笑った。ハロルドの接近に気付いていたが、アイコンタクトを受けて何食わぬ顔をしていた綺羅である。
「あ、綺羅さん、ご協力ありがとうございました」
「ふふ、見応えのあるショーだったよ」
「それは重畳。ともかく、ファーストアタックとしては上出来じゃあないでしょうか」
 フフフ、と、ハロルドは生き生きとして笑みを漏らすが、ディエゴの方はそれでは気が収まらない。
「くそっ、やられたらやりかえす!」
 というわけで、改めて戦いの火蓋が落とされた。水風船が全てなくなる頃にはもう日暮れが近づいていて、更に3人共が漏れなくびしょ濡れになっている始末。
「これって、どうやって勝敗を付けるんでしょう」
 ハロルドの疑問に答えられるものはいなかった。いなかった、ので。
「……ラムネでも飲みますか」
「一日中駆けずり回ったんだから、ここで駄菓子全部消化しようぜ」
 なし崩し的に、ベンチに腰掛けての駄菓子パーティーが始まった。
「ふーん……結構美味い」
 棒状のスナック菓子を口にしたディエゴが小さく漏らす。山のような駄菓子がずんずんと減っていくのを眺める綺羅の目は、柔らかく笑んでいた。

●夏の花に水しぶき
「こんにちは。お久しぶりです、かしら」
 軽く小首を傾けて、リチェルカーレは綺羅へとふわり微笑を向けた。
「今日はよろしくお願いします」
「――うん、よろしく」
 ぺこりと頭を下げれば、静かな声音が返る。得た言葉の嬉しさにぱっ! と顔を上げて、リチェルカーレは益々そのかんばせを華やがせた。夏の花が明るく咲き誇る公園で、けれどシリウスは、目前のやり取りに仄か眉を寄せる。
(……彼が何をしたのか覚えている)
 綺羅は、かつてリチェルカーレを攫った張本人だ。
(リチェは、仲良くできると笑っていたが……)
 事前に聞いた言葉のままに、リチェルカーレは花綻ぶように笑んでいる。しかし、彼女のように警戒を解くというのは、シリウスには酷く難しいことだった。思わず、細いため息が口をつく。と、その時。
「それじゃあ、ご挨拶も済んだし、行きましょうか」
 ぽんっ! と、叩かれた手と弾ける声が、シリウスの巡る思考を優しく遮った。3人揃って歩き出せば、軽やかに弾む少女の足取り。
「わ、向日葵が元気ね。ユリも綺麗に咲いて……あっ、こっちにはカサブランカ」
 銀青色の髪を揺らして、2色の瞳をきらきらと輝かせて。リチェルカーレは、スカートの裾を翻して公園に舞う。
「夏の花は豪華に見えるわ。お日様のパワーをもらっているのかしら?」
 少し前を行く少女の屈託のない笑顔と楽しそうな様子に、気付けばシリウスは、そっと表情を和らげていた。けれど。
(……俺達を、見ている?)
 すぐにそのかんばせと、纏う気配が引き締まる。綺羅が、2人をじぃと見つめていた。シリウス、無言で綺羅へと眼差しを寄越し、それに気付いた綺羅もまた、シリウスへと視線を流す。
「もうっ、2人とも」
 険悪と言って差し支えのない尖った空気、それを裂いたのはリチェルカーレの声。シリウスと綺羅の注意が、彼女へと向く。シリウス達の方を振り返ったリチェルカーレは、ぷくと頬を膨らませていた。
「そんな顔していたらお花に失礼でしょう」
 折角綺麗に咲いているのに、と、『楽しい』という感情とは程遠い表情の2人の元に、つかと歩み寄るリチェルカーレ。
「……俺は元からこんな顔だ」
 ぽそりと零した呟きは、呆気なく無視された。代わりにリチェルカーレは、有無を言わさず2人の手をぎゅっと握る。不意に掴まれた手の温もりに、シリウスは静かに目を見開いた。
「皆で行きましょう。ほら、あの花はね……」
 そんなことを言って再び歩き始めたリチェルカーレは、小鳥が囀るようにして、公園に咲く夏の花々について説明を始める。時折彼女らしい感想が生き生きと混ざるその声を耳に密か苦笑を漏らして、シリウスは繋いだ手に力を込めた。やがて3人が辿り着いたのは、小さな小川。リチェルカーレの双眸が、また煌めく。
「わあ、気持ち良さそう」
 裸足になって、スカートの裾はたくし上げて。小川へと入るリチェルカーレの姿に、
「……転んでもしらないからな」
 なんて、シリウスはため息一つ。その様子に唇を尖らせ――リチェルカーレは、思いつきに顔を晴らした。悪戯っぽい笑顔で、冷たい水をシリウスへとぱしゃり。寸の間固まり瞳を瞬かせたシリウスが、ふと、口の端を吊り上げる。
「……そっちがその気なら……!」
 そして、始まるのは水の掛け合い。あっという間に3人共がびしょ濡れだ。額に張り付く髪をかき上げながら、シリウスはこちらもびしょびしょになって仄か笑んでいる綺羅へと、「気の毒だったな」と言う代わりに翡翠の視線と微笑を向けた。リチェルカーレが、夏の花よりも鮮やかに笑う。
「ふたりとも、そうやって笑っている顔のがいいわ」
 その言葉にシリウスは目を見開いて、じきに苦笑を漏らした。綺羅が、口を開く。
「……花のよう、って言うのだっけ」
 その眼差しはリチェルカーレに、言葉はシリウスに向けられたもの。
「君がいるから咲いているんだね、きっと」
 遠回しな冷やかしに、シリウスは僅か熱を帯びた目元を隠すようにして拭った。

●木陰のベンチと貴方の温度
「本当に、修理されたのか」
 目前の光景に、ルシエロ=ザガンはタンジャリンオレンジの双眸を僅か眇めた。苦いような感情に押されて、既に事実として認識していたことが、端正な唇から音になって零れ落ちる。そんなルシエロとは対照的に、
(また会えた)
 なんてどこかそわそわとしながら、ひろのは綺羅に声を掛けていた。
「私はひろの」
「――ひろ、の」
「うん、そう。綺羅って、呼んでいい?」
 こくと人形が頷けば、綺羅、とひろのは口の中に呟いて。
「ルシエロ=ザガンだ」
 と、自身もとりあえずの挨拶を済ませながら、傍らのひろのの様子にルシエロは思う。
(随分と浮かれているな。この仕事の話を聞いた時から、ずっとだ)
 表情には殆ど表れずともルシエロにはそんなことお見通しで、だからこそ、
(――全く、面白くもない話だ)
 なんて、苛立ちを胸中に滲ませずにはいられない。人がいっぱいいる場所は苦手だし、とひろのが選んだのは森林公園。果たして彼女の読み通り辺りに人通りはあまりなく、散歩をするにも話をするにもうってつけの環境だ。
「他の人形さんたちも元気かな」
「うん。僕だけ外に出てしまったから、暫くは皆不機嫌だろうけど」
 応じる声をやはりどこか嬉しげに聞きながら、ひろのはきゅっと綺羅の手を握った。
(やっぱり冷たい)
 と、人とは違うその温度に安堵するひろのの姿に、ルシエロの胸はざわめくばかり。
(何故こうも機嫌よく話す? 物怖じせず、呼び捨てに溜口。あまつさえ自ら手を繋ぐだと?)
 オレの手は未だに自分から握らないのにか、と、悋気がルシエロの胸の内を燻らせる。炎のように胸の底を焦がす感情が背を押すままに、
「ヒロノ」
 ルシエロは彼女の名を呼んで、そのまま空いている方の手を握り込んだ。ひろのはというと、クエスチョンマークを頭に浮かべたまま名を呼んだ相手の顔をゆるりと見上げて、次いで繋がれた手を見遣って、
(……ルシェは、あったかい)
 と、口元をふわりと綻ばせた。小さな笑みと和らぐ雰囲気に、ルシエロはふっと息を吐く。その口の端が、つと上がった。
(オレが、一番近い)
 幾らか機嫌を直し、「あの花は……」なんて訥々と植物の解説をするひろのの声に耳を傾け相槌を挟むも、ルシエロは綺羅への警戒を怠らない。ひろのから誰かに近づくことなんて、滅多にないのだ。ひろのが、ふと緑の話を止めて綺羅の顔を見た。
「人形さんは命はあたたかいって言ってた。綺羅も、そう思う?」
「そうだね。僕らは皆、そう思ってる」
「だったら。あったかいって思えるなら、たぶん大丈夫」
 そんな言葉を交わしているうちに、3人は木陰のベンチへと辿り着く。休憩するのに丁度いいと腰を下ろして、ひろのは自分に倣うように隣に座った綺羅の手、自分のそれと繋がれた冷たい手に視線を落とした。
「君とね。また会えて、話せて。嬉しい」
 呟くような言葉に、綺羅が何かを返す――よりも早くに、反対側に腰掛けたルシエロが、ひろのの身体を己の方へと抱き寄せる。
「!」
「そいつばかりでなく、オレも構え」
 焦げ茶の目をくるりと丸くして自分を見上げるひろのへと、ルシエロが不機嫌じみた声でそう言えば、
「……え、と」
 ひろのはルシエロへとそっと凭れ掛かり、その身を預けた。
「これじゃ、ダメかな」
 なんて、尋ねるひろのの顔は、仄か朱に染まっている。ルシエロ、上向く気分のままに、整ったかんばせに笑みを乗せて曰く。
「人形。いや、綺羅。コイツはやらんからな」
 ひろのと繋がれたままの綺羅の手を、ルシエロは無理に解くことはしなかった。けれどその代わりのように、ルシエロの手はひろのをしっかりと抱く。綺羅が、少し笑った。
「だろうね。今は、少し判るよ。君から彼女は奪えないって」
 2人の会話を耳に聞いていたひろのが、ぽつと口を開く。
「ねえ。A.R.O.A.のお手伝いできるようになったら、また会えるかな」
 問い掛けめいた言葉に、綺羅は応える代わりに微笑を返した。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 灰ノ  )


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 07月18日
出発日 07月24日 00:00
予定納品日 08月03日

参加者

会議室


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