降参宣言(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 任務終わり。
 カフェのテラスで休憩をしていたウィンクルムに、どう見ても胡散臭い、帽子を被った男が近づいてきた。
 男は、研究員だと名乗ったあと、くたびれた名刺を差し出す。

『アロア(っぽい)研究所』

 と、ものすごく小さな文字でうやむやにされた部分があり、疑う余地しかない。
 A.R.O.A.を騙るなら、もう少し精巧な名刺でも作っておくべきだろうに、メモのような名刺とは。
 疑いながらも、男の言葉に耳を傾けてみる。

「僕は独自にオーガに対抗できる力を研究中です。ぜひあなた方にぜひ協力をお願いしたいのです」

 この男は、二人がウィンクルムだと気づいていないのか、あるいは気づいた上で言っているのか分からない。
 何より、A.R.O.A.以外がオーガに対抗する正しい力を探せるとは、現状ではとても思えない。
 思えないのだが。

「オーガに対抗する力? 俺たちなら協力できるの?」

 パートナーの乗り気加減にぎょっとした。

「はい、むしろあなた方でなければ無理です」

 やはり。
 この男、ウィンクルムと知って声をかけてきているのだろうか。

「ちょうど二人ですし」

 根拠は二人が一緒にいることだけのようだ。
 やはりこの男、気付いていないのかもしれない。

「いいよ、何を手伝えばいい?」

 精霊はものすごい乗り気だ。

「では、早速ですが研究所へご案内いたします」

 言われるがまま、呆然と見つめると、精霊がそっと目配せをする。
 なるほど、根城を突き止めて、対処しようと言うことらしい。
 テラスからしばらく歩き、男は研究所らしき場所まで案内をすると、その中の一室へとウィンクルムを通した。
 ガラス張りの部屋だ。
 躊躇いはしたが、一応中に入ってみる。
 すると、外側から鍵を掛けられた。
 扉に駆け寄ってみるも、内側からは開きそうにない。
 そんなウィンクルムを眺めて、胡散臭い研究員は言った。

「提示する条件をクリアしていただければ鍵が開きますので、ぜひ頑張ってください」
「そんな研究ある!?」
「ええ、まあ、研究の一環ですので、とりあえず」

 とりあえず。
 この研究員、ただの胡散臭いだけの男かもしれない。

「で、なにをすればいい?」
「簡単なことです――」

解説

『パートナーに白旗をあげさせてください』


ただし、部屋に白旗があるわけではなく、いわゆる「降参」をさせてください、というものです。
その手段は物理的、精神的、一切を問いません。
どちらが降参しても問題ありません。プランに分かるように明記だけしていただけますと助かります。

アドエピですので、本当に勝負していただいても大丈夫です。
ガラスが割れることはありませんので、トランスの有無もご随意に。

アドエピですが、砂を吐くくらい甘くても大丈夫です。


使って頂けるものとしては、任務帰りですので、武器は持ち込んでいただいて大丈夫です。
それ以外ですと、ポケットに入る程度の日常的な小物であればご自由にご使用ください。
メモ帳、ペン、キャンディやガム、携帯電話など、普通に持ってそうなものです。
ポケットから醤油、とかはちょっとごめんなさい。


なお、この研究員はいつの間にか姿を消してしまいますので、捕まえることはできません。
また、声は聞こえますが、研究員は答えませんので、会話もできません。

描写はウィンクルム毎に行います。ハピエピ気分で、お気軽にご参加ください。
戦闘はありません。プランでご希望の方のみ、神人VS精霊での戦闘となります。

ちなみにですが、失敗した場合は後ほど、本物のA.R.O.A.から救援が来ますので、
閉じ込められっぱなしにはなりません。ご安心ください。

ゲームマスターより

アドエピだからって甘くてもいいじゃない。
戦わなくても精神バトルは毎日繰り広げられてるのが乙女よ!
みたいな、こんな感じのノリですちょっとよくわからないです。

どのようなプランも大丈夫です。
最終的に「参りました」の図になればオールオッケーです。

ジャンルは気にせず楽しんでいただければと思います。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  白旗

…よくわかりませんけれど
武装した状態で声をかけられましたし少し手合わせします?

それなら、今後しばらくお出かけは朽葉おじ様にお願いしようかしら

天藍の了承後ハンデにと装備のくまさんつついて起こし、歌って貰えないかお願いしてみる
天藍の戦い方は相手の攻撃を避けながら複数回の攻撃で削っていくタイプです
どうしたら確実に当てられるでしょう?
日頃の戦闘の記憶から天藍の癖を思い出し、移動先を先読みして攻撃を仕掛ける

…やっぱり敵いませんね

なんとなくこうなるような気はしていた

精霊と神人とでは身体能力に差があるし神人としては十分動けているという天藍に
それでも天藍の背後を預かる以上、今よりも強くなれたらと思うんです


アンダンテ(サフィール)
  白旗…つまり勝負しろって事ね?
これとかどう?と占い道具からトランプ取り出し

定番でババ抜きとかかしら?
2人なのでさくさく減り、手元にはジョーカーともう1枚
さて、どっちだと思う?と微笑むも表情は素直
なんでわかるの?サフィールさん強いわね

1本勝負とは言ってないわ
次はポーカーとかどう?
私ね、こういうの結構強いのよと自信ありげにカード切り
手札見つつぼんやり

そうね、ある事をすれば強いのよ(イカサマ)
でもそこまでして勝ちたいかっていうと微妙な気持ちになってね
嘘ばっかりの人生だったけど、また躊躇いなく嘘を重ねていいのかしらって
結局私は変われないのかしら

いつも欲しい言葉をくれるのよね
やっぱり敵わないわ
私の負けよ


ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
  任務帰り、夕飯の買い物をしていたら怪しい男の人に話しかけられちゃった・・・不安だよ。
エリオスさんがそう言うなら・・・私も協力します。

わわ、エリオスさんとの模擬戦・・・!
緊張するけど、頑張らなくちゃ。
はい!よろしくお願いします。

足の速さには自信があるもの、何とか魔法弾を避けながら接近して・・・っ!?
精霊の予想外の行動に判断が遅れます。
負け、ちゃった・・・降参です。
精霊の助言を素直に受け止めます。
有り難うございました、もっと精進します!

え、スキルを使わなかったのは、私達のデータをとらせない為でもあったんですか!?
エリオスさんってやっぱり凄いな
4年のブランクがあるなんて信じられないよ(尊敬の眼差し)


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  周りを警戒しつつ、部屋の中央に寄り添うようにして座る

そうですね…
問いに少し考え込み
負けを認めたり、謝ったり、などでしょうか?

…さすがにそれは、認められないと思いますよ
苦笑し

暫くお互いに勝つ方法を黙考


…それにしても、この部屋、あまり空調が効いていませんね
扇子を取り出し、扇ぐ

降参…降参…
呟きながら足を崩し、座り直す
…少し暑い、ですね
ボタンを外して襟元を緩め、パタパタと胸元に風を送る

…どこを見てるんですか?
強く咎める声

赤くなりつつ笑って
私の勝ち、ですね

…良かったです、ジューンが引っ掛かってくれて
引っ掛からないということは、魅力不足ということですから、正直ホッとしました


ロゼ・ミシリエ(リュディガー)
  A.R.O.A.の職員さんってあんな雰囲気だったっけ
どう思う? リュディガーさん
…いい加減だなぁ…良いけど、別に

なに、いきなり?
彼の口から息をするかのように出てくる誉め言葉に驚く
ああ…耳が痛い耳が痛い
あ、赤くなんかなってない! リュディガーさんの見間違いだよ!
というか、あたしを誉めてなんの意味が…
まあそうだけど…
可愛くないって言われた方がましだって思えてくるのはなんでなんだろう…
う、うるさいよもうっ蹴るよリュディガーさん!
あ…ごめん。…ペンの先、当たらなかった?
蹴るどころか依頼でメモをとるのに使っていたペンを振るっていた

なんか分かんないけど白旗上げられ、た?



 部屋に閉じ込められたかのんと天藍は、辺りを見回して思案する。
「……よくわかりませんけれど、武装した状態で声を掛けられましたし、少し手合わせをします?」
 白旗をどちらかが上げなければ出られないのだから、手っ取り早く勝負するのが簡単だ。
 だが、天藍はあまり乗り気ではない様子を見せる。
「あまり危険なことはさせたくないんだが」
 そう言えば、
「……それなら、今後しばらく、お出かけは朽葉おじ様にお願いしようかしら」
 と、天藍が考えていなかった方向へと話が向いた。
 少し考えて、天藍が頷く。
「分かった。その代り、条件を付けよう」
 天藍とまともにやり合ったのでは、かのんに勝ち目はないと言ってもいい。
「剣は鞘に入れたまま。トランスはしない。どちらかの武器が相手の身体に触れたらそこで終了だ」
「わかりました」
 かのんは頷いた後、スリーピィテディを起こした。
「くまさん。歌って頂けないでしょうか」
 そうお願いすると、スリーピィテディはご機嫌に歌う。
(天藍の戦い方は相手の攻撃を避けながら、複数回の攻撃で削っていくタイプです……)
 素早い動きを得意とする天藍に、まともにやり合って当てられるとは思えない。
(どうしたら確実に当てられるでしょう?)
 かのんが妖刀・恋慕を構えた。
 天藍もそれに合わせてファントムペインを構える。
 かのんに今でこそ背中を任せて戦っているが、かのんは元々武器を持って戦うようなこととは無縁の生活をしてきている。
 ウィンクルムとして、必要に迫られて戦い方を教えただけで、天藍はかのんが戦うことを望んでいるわけではない。
 ――かのんの癖も、考え方も良く知っている。
 天藍が動く。
 かのんが踏み込んでくるだけの隙を見せると、かのんが距離を詰めた。
「はあっ!」
 妖刀・恋慕が空を切る。
 天藍が紙一重でかわすと、双剣で切り返す。
 だが、天藍がかのんの戦いを傍で見ているのと同じように、かのんもまた、天藍の戦いを最も近い場所で見ている。
 戦闘時の天藍を思い出し、どう動き、どう対処してくるかの、ある程度の予測はしている。
 天藍の双剣の切り返しを読み、妖刀・恋慕でかのんと双剣の接触を避ける。
「まだです!」
「さすがだな」
 だが、天藍の一手目を持ちこたえに過ぎず、油断はできない。
 二手、三手、と連撃を繰り出す天藍に、かのんは辛うじてついて行き、それらを薙ぎ払った。
 天藍が体勢を整え、防御に備える。すかさずかのんは妖刀・恋慕を繰り出す。
「っ――!」
 が、待ち構えたかのように片方の剣がかのんの攻撃を防ぐ。
 そのまま、もう片方の剣がかのんの身体に軽く当たった。
「……やっぱり敵いませんね」
 呼吸を整えながら言うかのんに、天藍は首を横に振る。
「精霊と神人とでは身体能力に差があるし、神人としては、かのんは十分に動けている」
「それでも、天藍の背後を預かる以上、今よりも強くなれたらと思うんです」
「かのん」
 天藍はかのんに近づくと、その額にそっとキスをした。
「俺がかのんに背中を預けるのは、勿論かのんにそれだけの実力があるからだ。でもそれ以上に――」
 一度言葉区切って、天藍は真っ直ぐかのんを見つめる。
「かのんなら、俺を必ず守ってくれる。そう信じているから安心して前だけを向いていられる」
「天藍……ありがとうございます」
 少し、気恥ずかしい。
 けれど、そんな言葉をくれる天藍だからこそ、かのんはもっと強くなりたいと願ってやまないのだ。


 任務帰り、夕飯の買い物をしていたミサ・フルールとエリオス・シュトルツに怪しげな男が声をかけてきた。
 露骨な怪しさに、ミサは不安を隠せない。
 話を聞いたエリオスが、ひとつ頷く。
「分かった、その研究、協力しよう」
「えっ……エリオスさん……っ」
 焦るミサに、エリオスはそっと囁く。
「何心配ないさ……俺に任せておけ」
「エリオスさんがそう言うなら……私も協力します」
 ミサも頷いて、連れて来られたのは研究所の一室。
「相手を降参させればいいと言う話でしたが……」
「模擬戦でいいだろう」
 さらりと言ってのけたエリオスに、ミサは驚きを隠せない。
「模擬戦、ですか」
「ハンデとして俺はスキルは使用しない、通常攻撃のみ使用する」
 エリオスが続ける。
「先程お前が買った薔薇を二輪ほど使うぞ。勝敗は胸元のポケットに刺した薔薇の花弁を散らしたほうが勝ちだ。いいな?」
「はい! よろしくお願いします!」
 とは言ったものの。
(わわ、エリオスさんとの模擬戦……! 緊張するけど頑張らなくちゃ)
 ブランクがあるとはいえ、エリオスの方が圧倒的経験値がある。
 ミサが緊張なく戦うには難しい相手だろう。
「では……始めるぞ」
 模擬戦の開始がエリオスによって告げられる。
(エリオスさんはエンドウィザード……)
 攻撃は魔法弾が主体になるはずだ。
(足の速さには自信があるもの、何とか魔法弾を避けながら接近して……)
 エリオスが詠唱に入るより先にミサが仕掛けた。
 距離を詰め、魔法弾が繰り出される前に武器を薔薇に当てれば勝てるはず。
 そう見込んで駆け出した。
「術者が詠唱する前に叩く、戦いの基本はできているようだが」
 エリオスがミサのスピードのさらに上を行く速さで瞬く間にミサへと接近する。
「……っ!?」
「甘い!」
 エリオスの杖が、ミサの胸元の薔薇を掠めて散らす。
 ミサがエリオスの姿を捕らえた時には、すでに決着がついてしまっていた。
 対処しようにもあの速さで距離を詰められ、想定外の行動だったこともあり、何もできなかった。
「負け、ちゃった……降参です」
「術者の通常攻撃が魔法弾だけだ、と、接近して攻撃してくることはないと思い込んでいたのが敗因だな」
 エリオスの助言は的確で正しい。
「戦場で生き残りたいのであればもっと物事を柔軟に考えろ」
「はい。ありがとうございました、もっと精進します!」
 深々と頭を下げて、助言、指南をしてくれたエリオスに礼を述べる。
(まだまだ……もっと頑張らなくちゃ……)
 部屋の扉が開くと、エリオスが踵を返す。
 ミサがその後を追う。
「やっぱりスキルを使われていたら、近寄らせてももらえなかったかもしれない」
「あれは、データを取らせないための措置でもある」
「えっ!?」
「なんだ?」
 エリオスが足を止める。
 彼の考えの深さや正確さは知っていたつもりではあったけれど。
「エリオスさんってやっぱり凄いな。4年のブランクがあるなんて信じられないよ」
 改めて尊敬する。
 それがエリオスを見る視線に出たのか、エリオスが複雑な表情をする。
「……そんな目で俺を見るな」
 再びエリオスが足を進める。
「お前は俺の義理の娘なのだから無駄死には許さない」
 ぽつりと言ったその言葉に、ミサは笑顔で彼の後を追った。


 ロゼ・ミシリエは、声をかけてきた男を訝った。
「A.R.O.A.の職員さんってあんな雰囲気だったっけ。……どう思う? リュディガーさん」
 尋ねてみるが、リュディガーは気に留めた様子すらない。
「オレはまあ、やることさえやってくれりゃあなんだって良いさ。胡散臭かろうがなんだろうが」
「……いい加減だなぁ……いいけど、別に」
 鍵のかかった部屋で、どうやって出ようかと思案するロゼをよそに、リュディガーが口を開く。
「……出会ったばかりだが、ロゼの頑張りには一目置いてるんだ」
「え、なに、いきなり?」
 リュディガーは構わず続ける。
「小さいながらもやり遂げるところは好感が持てる」
 いきなり、リュディガーがロゼを褒め始めたように見えるが、リュディガーは息をするのと同じレベルで口説くし、褒める。
 ロゼにとって唐突でも、彼にとってこれは、呼吸と同じ。無意識で、当たり前で、不可欠なものだ。
(ああ……耳が痛い耳が痛い)
 やめて、と懇願してみたところで、それは無駄なのだろうとも思う。
 耳が痛いどころか、顔も熱い。
「……と、赤くなって可愛いな」
「えっ」
 リュディガーがロゼを見て、微笑む。
「あ、赤くなんかなってない! リュディガーさんの見間違いだよ!」
「そうかな。可愛いけど」
 息をするように、可愛いと言うものだから、さらには頭まで痛くなってくる。
「というか、あたしを誉めて何の意味が……」
 思わずその理由を尋ねてしまう。
「なんのって、特に意味はないけど。単に誉めてるだけだろ?」
「まあそうだけど……」
 その通りだ。
 リュディガーが誉めることに特に意味はない――はずだ。
 だとすれば。
(可愛くないって言われた方がましだって思えてくるのはなんでなんだろう……)
 可愛いと言われることにも意味がないから――?
 そういうわけでは、ないのだろうけれど。
 答えの出ない自問自答を繰り返す。
「やっぱり、ロゼは可愛いな」
「う、うるさいよもうっ。蹴るよリュディーガさん!」
 改めて言われると何とも言えない気持ちになる。
 嬉しいのか、嬉しくないのかさえ分からない。
 混乱してきて、メモを取ろうとしていた手をぶんぶんと振る。
「って! 危ないだろ、ロゼ」
 リュディガーが慌ててロゼの腕を掴んだ。
 近い距離でリュディーガを見つめて我に返ると、ロゼははっとした。
「あ……ごめん」
 自分の手を見上げて。
 握っているペンに目を向ける。
「ペンの先、当たらなかった?」
「……は?」
「蹴るどころか、メモを取ろうとしてたペンを振るなんて……」
「……当たってないな」
「そっか、良かった」
 ロゼが安堵したように笑うと、リュディガーが僅かに身を固くした――気がした。
 その後、ロゼの腕を離すと、頭を抱え込む。
「……ロゼには敵わないな」
「え?」
「オレの負けだ、降参」
 突然の降参宣言に、ロゼはきょとんとする。
(なんか分かんないけど、白旗上げられ、た?)
 ふいとそっぽを向いて蹲るリュディガーに、そんなに悔しかったのかな、とロゼは首を傾げた。


 秋野 空とジュニール カステルブランチは周りを警戒しつつ、部屋の中央に寄り添うように座った。
「……まずは『白旗・降参』の定義を決めましょうか」
 漠然と降参だ白旗だと言われても困る。
「ソラは、どのようなことが『降参』に当たると思いますか?」
「そうですね……」
 ジュニールの問いかけに、空が思考を巡らせる。
「負けを認めたり、謝ったり、などでしょうか?」
「なるほど。相手に負けを認めさせたり、謝らせれば勝ちというわけですね」
 ジュニールが頷く。
「だったら、今ここで俺が土下座したら、負けになりませんか」
「……さすがにそれは、認められないと思いますよ」
 空が苦笑いを浮かべる。
 それでどうにかなるなら、ジュニールは土下座くらい空に向かってならいくらでもするのだが。
 お互い色々と勝つ方法を思案するが、なかなか妙案は浮かばない。
 しばらくの沈黙が流れた後。
「……それにしても、この部屋、あまり空調が効いていませんね」
「ああ、そうですね」
 空が扇子を取り出して扇ぐ。確かに、少し暑いかもしれない。
「降参……降参……」
 呟きながら空は足を崩して座り直す。
「……少し暑い、ですね」
 ボタンを少し外して襟元を緩め、空は胸元に風を送る。
 思考の中、ジュニールの視界の端で空がもぞもぞと動く。
 思わず目を向けて、
「っ!!?」
 咄嗟に口元を押さえた。うっかり変な声が出そうになってしまう。
 ――なんと無防備な……!
 短いスカートから覗く脚。緩められた襟元から覗く谷間。
 一度視線を外して、再び思考を巡らせる。
 けれど、扇子で空が風を送るたびにふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。
 ――ああ、いけない。破廉恥な……!
 と思いながらも再び、無防備な空に視線が向いてしまうのは、もうほとんどどうしようもない性だ。
 幸い、空は気づいていない。
 ――だからと言って見ていい理由には……!
 ならない。
 ならないが、肌が柔らかそうだとか、いい匂いがするだとか、あまつさえ一瞬でも触れてみたいだとか、思ってしまう。
 ――俺は何を考えて……
「……どこを見てるんですか?」
「ッ?!」
 空の強く咎める声にびくりとジュニールの肩が震える。
「すっ、すみませんっ!!」
 真っ赤になって顔を逸らした。もう、これはジュニールの完敗だ。
「ふふっ……私の勝ち、ですね」
 そう言った空に視線を向けると、頬を染めて笑っている。
「……良かったです、ジューンが引っかかってくれて」
「どういう……」
「引っかからないと言うことは、魅力不足ということですから、正直ホッとしました」
 全て、空の計算づくだったのだろう。
 ――魅力不足?
 まさか。
 ボタンを掛け直す空に目を向け、そっと近づく。
「俺を試すなんて、ひどいですよ、ソラ」
「それは、その……」
 空の手を取り、自分の胸元へと導く。
「こんなにドキドキしているのに、魅力不足だなんて言わないでください」
 早鐘を打つジュニールの鼓動が空にも伝わったのか、先ほどより一層、顔を赤くした。
 空の染まった頬にキスを一つ。
 そのまま唇を重ねて、離れる。
「あれだけ見せつけられて、何もしないでいられるほど紳士的ではないので」
 笑顔を向けて空から離れる。
 が、その後、背を向けたジュニールは、思い切り左手で口元を覆っていた。
 やはり、どうやっても完敗のようだ。


「白旗……つまり勝負しろってことね?」
 そういうと、アンダンテは占い道具からトランプを取り出す。
「これとかどう?」
「ああ、それなら手っ取り早そうですね」
 同意したサフィールだが、正直なところは自分が負けでいいので早く帰りたいから、勝負は何でも構わなかった。
「なにで勝負しますか?」
「定番でババ抜きとかかしら」
 トランプを切りながら、アンダンテはカードを配りながら二つの山を作る。
 手札を眺め、予め揃っているカードは捨てる。それでも結構な量の手札が残った。
「じゃ、始めましょ」
 交互にカードを取り、揃っては捨てる。
 二人なので、思っている以上に早くゲームが進んでいく。
 数度繰り返した後、手元に2枚残ったアンダンテのカードをサフィールが引く順番だ。
 サフィールの手元には数字札が一枚。
「さて、どっちだと思う?」
 アンダンテは余裕を見せて微笑む。
 サフィールの手が右へ、左へ動くと、表情が露骨に変わっているのを、アンダンテは気づいているのだろうか。
 ――これは負ける方が難しいですね……。
 長引かせる意味もないのでサフィールは、アンダンテが微妙な表情をするカードを取った。
「あっ」
 裏返すと、案の定数字札で、サフィールが先に上がった。
「なんでわかるの? サフィールさん強いわね」
「アンダンテが特別弱いだけのような気がしますが」
 あれだけ表情が素直に出れば、アンダンテが勝てるはずがない。
「一本勝負とは言ってないわ。次はポーカーとかどう?」
 アンダンテは勝ちたくて仕方がないのか、ポーカーを挑む。
 負けて降参するつもりが、負けてすらいないのでそれもできず、サフィールはポーカーを受けた。
「私ね、こういうの結構強いのよ」
 アンダンテは自信満々だ。
 これなら、勝負も早く着くだろうとサフィールは安堵していたのだが。
「……、……」
 カードを切って、アンダンテが手札に目を向けたあと、ぼんやりとあらぬ方向を見つめている。
 カードを変えてみても、アンダンテの視線は戻ってこないどころか、さらに違う方向へ向いている。
「ツーペアです」
「……ワンペア……」
 何度手札が流れても、ずっとこんな調子だ。
 手札があまりに微妙過ぎて、勝負もどちらが勝っているか分からない。
「結構強いとのことでしたが……?」
「そうね、『ある事』をすれば強いのよ」
「イカサマですか? ノーペアです」
「うっ」
 アンダンテもノーペアだ。
「でも、そこまでして勝ちたいかっていうと、微妙な気持ちになってね」
 だから、イカサマをせず、視線だけがどこかへ飛んで行ってしまっている。
「嘘ばっかりの人生だったけど、また躊躇いなく嘘を重ねていいのかしらって」
 カードを取りながら、アンダンテが言う。
「結局私は変われないのかしら」
「――どう変わりたいのかはわかりませんが、変わりたいと考えている時点で前には進めていると思います」
 サフィールがカードに視線を落としながら、言葉を続けた。
「まあ、変わろうと今のままだろうと俺はアンダンテの味方ですから」
 アンダンテを一度見て。
「それだけは覚えておいてください」
「……いつも……」
「ワンペアです。……アンダンテ?」
「欲しい言葉をくれるのよね。やっぱり敵わないわ」
 アンダンテが揃わないカードを捨てる。
「私の負けよ」



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 07月13日
出発日 07月20日 00:00
予定納品日 07月30日

参加者

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