肝試しへ行こう ~結びの社~(夕季 麗野 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ――とある小さな田舎町での出来事です。
この町では、毎年夏になると肝試しが行われることになっています。
パートナーとあなたは、偶然この町に通りかかり、ひょんな事から胆試しに参加してみることになりました。

実は、この肝試しには、ともに参加したカップルに、恋の幸いが訪れるというジンクスもあるのです。

肝試しの内容は、町の外れの林を進み、最新部にあるお社に、お供えの鈴を置いて帰ってくるというものですが、社の名は【結びの社】といい、願いごとをすれば、あらゆる恋の望みを叶えてくれるとされています。
また、林から社までの途中には、小さな泉が湧いているところと、キキョウの花が咲いている花畑もありますので、敢えて寄り道してみたり、休憩してみるのも良いかもしれません。

なお、スタートは一斉ではなく、各々のカップル(ウィンクルムたち)ごとになりますので、途中で鉢合わせするなどと言った事はございません。

精霊が怖がる神人をリードしたり、またはその逆もあったり……。
あるいは暗くて人目がないのを良いことにイチャイチャしたり、内緒の会話をしたりなど、思い思いの肝試しを楽しんで見て下さい。

せっかくの夏の夜。
肝試しはちょっと怖いかもしれませんが、パートナーとの距離を縮める、絶好のチャンスかもしれません。
ドキドキの一夜を、体験してみませんか?

解説

参加費として300ジェールいただきます。
肝試しは、暗い林の中で行われますので、転んだりしないよう足下に注意して下さいね。
脅かし役の村人がお化けの格好で所々に潜んでいるほか、蝙蝠がいたり、虫がいたりとちょっと怖い要素が色々有ります。

また、移動中の会話などは自由にご記入してください。
お社についたら、お願いをすることが出来ます。
恋のお願いならなんでも可能です。


ゲームマスターより

夏真っ盛りという事で、夏の定番【肝試しシリーズ】をお送りいたします。
どうぞ、スリルとラブに溢れた一夜をお過ごし下さい(^^)
ご参加、お待ちしておりますm(__)m

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リヴィエラ(ロジェ)

  ※お化けも蝙蝠も虫も怖い

リヴィエラ:

きゃぁっ!? ろ、ロジェ…今物音がしませんでしたか?
いやぁぁっ、きゃぁぁっ!(思わずロジェの腕に縋り付く)

あ、あわわわ…私ったら何て事を…し、失礼しました!
えっ…は、はい…(真っ赤になって頷く)

あの、ロジェ…私、最近とても幸せなのです。
貴方の婚約者になれて、貴方と学校に通う事ができて、
私の目の前の全ての事が、きらきら輝いていて…
…私、もっと頑張りますね。貴方に相応しい女の子になれるように
頑張ってお勉強します。

まぁっ! 結びの社だなんて素敵ですね。
私の願いは…ロジェとずっと一緒にいられますように…
ロジェは何てお願いをしたのですか?
むぅ、秘密ですか?


シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  隣で歩けば良いのに、なんで後ろにいるのよ
…言ってないでしょ。そんなこと
あ…幽霊よ。あそこ
あら。あんた、怖いの?
…言ってなかったかしら。私、霊感あるの
嘘じゃないわよ
まあ。大丈夫じゃない? 危害さえ加えなければ
先行きましょ

怖かったのね…可哀想に…(なでなで
お供えの鈴、これを供えるんだったわね
「想いが実りますように」と願う。誰へのとは言わない
あ、言い忘れてた
霊感あるのは本当だけど、幽霊がいるって言ったのは嘘よ

…はあ? 嘘って言ってるじゃない
ああ、そういうこと
別に見えたって何ら不思議じゃないわ
…まあ、最初はね
…あ
グルナの背後に視線を向ける
ぷぷっ…なにビビってるのよ。止めてよ、面白いから


紫月 彩夢(神崎 深珠)
  先に言っておくけど、あたし怖いのは平気なの
でも、びっくりはするし、暗がりの道はちょっと不安あるから…
手、繋いで貰っても、いい?
怖がって欲しかった?ふふ、深珠さんと手繋いでたら余計に怖くないよ

脅かしに驚きつつも、さくさく進む
あたし、深珠さんのこと急がせてるって自覚くらいはあるよ
でも、ごめん、止められそうにない
あたしは深珠さんの好みとは違うもん
それなのにゆっくり待ってて目移りされたら困るって、思ってる

恋のお願いかぁ…
深珠さんが好きになってくれますように?
ずっと傍に居られますように?
…なんか違う
…深珠さんが、あたしとの時間を幸せに感じてくれますように
貴方が幸せじゃないと、意味が無い

願い事?んー…内緒


時杜 一花(ヒンメル・リカード)
  肝試しは…正直いうと苦手、ね
お化けも暗いのも苦手なの
でも、人の手が入っている所だし大丈夫、よね?
断言してもらえず既に若干涙目

暗くてびくびく
精霊の少し後方で身を竦ませながら付いてく
お社、まだかしら…

物音に反応して驚いて思わず精霊の服を掴む
あ、ごめんなさい…
ぱっと手を離した勢いで足元ふらつき

…いいの?
ごめんなさいね、今はお言葉に甘えさせて貰うわ
だって、怖いんだもの…!
恥ずかしいなとは、思うけどなりふり構ってられないわ

手を引いて貰いながら先に進む
以外と暖かくてなんだか心強い

…そういえば、恋だったわね
肝試しに気を取られてそちらをすっかり忘れていたわ…
特にない、けど…でも
帰りも手を繋いでもらってもいい?


伊吹 円香(ジェイ)
  雰囲気、出てますね
ううん。ジェイは私の隣で大丈夫ですよ

っ!? おば、け…?
じゃ、ないんですね…びっくりしました
急に飛び出す蝙蝠に驚く
…すみません。ジェイ、手を繋いでくれますか?
ありがとう
え? …ああ、久しぶりですよね。そういえば
うーん…懐かしい…

やっぱり家で開く肝試しとは違いますね
うちはなぜか騒がしいので
大袈裟なだけだと思いますよ?
お化け役の村人に遭遇しつつもお社に到着
お供えの鈴、これを置けばいいんでしたよね
願うことは「素敵な人と巡り会えますように」
…もちろん。秘密です


●伊吹 円香とジェイの場合――繋いだ手と手――

 ――夜も更け、空には星明りが瞬き始めた。
どこか遠くで、梟が鳴く声も聴こえてくる。
肝試しに参加するウィンクルムたちは、一組ずつ林の中に入っていく事になっていた。
トップバッターは、円香とジェイの二人組だ。
「雰囲気、でてますね」
いつも通りに振舞う円香だが、うっそうと茂る木々の様子や、風に揺れる葉ずれの音には、背筋に冷たいものを感じていた。
「私が先行致しましょう。お嬢は後に……」
ジェイには、そんな円香の様子はお見通しである。
彼女を気遣い、自然と前に出ようとしたのだが、
「……ううん。ジェイは、私の隣で大丈夫ですよ」
それをやわらかく制したのは、円香だった。
普段から良き主従のような関係の二人なので、ジェイはいつでも、円香の事を考えて行動するのが当たり前だった。
だが、円香の今の望みは、ジェイに守ってもらうことではなく、共に肝試しを楽しむ事なのだ。
「一緒に歩きましょう、ジェイ」
「そう、ですね。お隣、失礼致します」
微笑む円香を見たジェイは、固かった表情をほんの少し緩めて、頷いた。 

***

「お嬢、足元に気をつけて下さい」
深い林の中は僅かな星明りも差し込まないため、見通しが悪かった。
円香の隣を歩くジェイは、神経を尖らせて、彼女が躓いたりしないように見守っている。
「きゃっ!?」
「お嬢?」
すると、ふいに円香が小さく悲鳴を上げて、その場に屈みこんだ。
すかさずジェイが辺りを見回すと、二人の頭上を、蝙蝠が飛び去っていくところだった。
「お嬢、蝙蝠です。問題ございません」
「……おば、け……じゃないんですね? びっくりしました……」
円香は、ほっと安堵しながら、ゆっくりと立ち上がった。
「あの……ジェイ、手を繋いでくれますか?」
「手、でございますか? ……勿論。どうぞ、お嬢」
「ありがとう」
ジェイが手を差し出すと、円香も彼の手のひらに、自分の手を重ね合わせた。
触れ合った温もりのおかげだろうか。円香の恐怖心は、次第に落ち着いていった。
「いつぶりでしょう。お嬢と手を繋ぐのは」
「え? ああ、久しぶりですよね。……懐かしい……」
手を繋ぎあった二人は、順調に林の奥へと進んでいく。
こうしていると、自然と昔の様々な思い出の映像が、二人の脳裏によぎっていった。
「やっぱり、家で開く肝試しとはちがいますね」
「そうですね。お父上が開かれる肝試ししか経験した事がございませんので……、あれが普通なのだと思っておりました」
円香の父親が催す肝試しは、どちらかと言うと賑やかな印象が強く、恐怖よりも騒がしさのほうが勝っていたものだ。
青い瞳を細め、懐かしそうに語るジェイには、その時の光景が昨日の事のように浮かんでいた。
「ふふ……。うちはなぜだか、騒がしいので……。大げさなだけだと思いますよ?」
円香も、当時を思い出して頬を緩ませていた。

***

 途中のお化け役の人たちは上手くかわしながら、二人は無事にお社の前にたどり着くことができた。
「お嬢、どうやらここが社のようですよ」
「お供えの鈴、これを置けばいいんでしたよね」
円香は、社の手前の台の上に、銀色に光る小さな鈴をそっと置いた。
この『結びの社』は、供物の『鈴』を供えると、恋のお願い事を叶えてくれる言い伝えがあるのだ。
社の前で手を合わせて、円香は固く瞼を閉じる。
(素敵な人と、巡り会えますように……)
その真剣な姿に釣られるように、ジェイも手を合わせて願掛けをした。
(お嬢が誰かに恋をするなら、それが実りますように)

――社にお供えが終わったので、あとは町の広場まで戻れば、肝試しは終了となる。
「お嬢、なにを願ったのですか? すごく真剣な顔をしていましたね」
「それは……」
帰り道、円香の手を引いてエスコートしながら、ジェイが問いかけた。帰りも手を繋いで欲しいと、円香が望んでいたからだ。
「もちろん。秘密です」
ジェイに悪戯に微笑む円香は、どこか嬉しそうな様子に見える。
握り合った手のぬくもりを感じながら、ジェイはふと思った。
(お嬢は普段なら、夜道でも手を繋いでとは仰らない。……余程、怖かったのでしょうか)
――それでも、こうしてお嬢が微笑んでいるのなら、良かった。
ジェイは、この肝試しが恐怖だけではなく、円香にとっての楽しい思い出になったなら、それが一番嬉しかった。
行きの暗い雰囲気とは違って、寄り添い歩く夜の帰り道は、穏やかな空気に包まれている。

 帰路の途中、二人で見上げた星空はとても美しく、いつか、懐かしい気持ちで今日を振り返る日が来ますようにと、ジェイは祈っていた――。

●リヴィエラとロジェの場合――貴方といる幸せ――

 夜も更け込んでくれば、ただでさえ視界が悪くなるものだ。
一度林の中に足を踏み入れれば、いくら戦闘慣れしたウィンクルムたちであろうとも、足元を滑らせたり、躓いたりしかねない。
ロジェは周囲を警戒しながら、リヴィエラの様子を見つめていた。
「きゃぁっ!? ろ、ロジェ……今、物音がしませんでしたか……!?」
リヴィエラは、自身が茂みを掻き分ける物音や、小さな虫が鳴く音にすら、敏感に反応する。
恐怖のあまり、隣のロジェの腕にぎゅっと縋りついてしまった。
「大丈夫だ、リヴィエラ。何も怖がらなくて良い」
「あ……あわわわ……私ったら、何て事を……し、失礼しました……!」
(うぅ……は、恥ずかしいです)
羞恥から頬を赤らめ、ロジェから離れようとしたリヴィエラだったが、
「離れるな」
「えっ……」
ロジェは、そんな彼女の手首をそっと取ると、優しく自分の腕へとあてがったのだ。
「俺の事だけ考えていれば、怖くないだろう?」
――少しでも、リヴィエラの不安を拭ってやりたい。
ロジェにとっては、どんな時も愛しい婚約者が最優先なのだ。
「は、はい……。ありがとう、ロジェ」
恥ずかしくてロジェの顔を見られないリヴィエラだが、その胸中は、幸福でいっぱいだった。
「あの、ロジェ……私、最近とても幸せなのです。貴方の婚約者になれて、貴方と同じ学校に通う事ができて……」
恥じらうリヴィエラに、ロジェは優しい眼差しを向けている。
すると、不意に茂みが揺れて――。
「うらやましーー!」
お化け役の町人が、二人の目の前に飛び出してきた!
「いやぁぁっ!?」
「落ち着け、リヴィー。白い布を被った普通の人だ」
ロジェは、怯えきったリヴィエラを腕の中へと引き寄せて、宥めるように抱きしめる。
「やれやれ……、本当に羨ましい。お幸せにな!」
二人の熱々ムードに中てられた脅かし役の青年は、照れ笑いを浮かべながら、その場を立ち去っていった。

***

「私、もっと頑張りますね。貴方に相応しい女の子になれるように……。頑張って、お勉強します」
 道中、ロジェは彼女が懸命に語る言葉に、静かに耳を傾けていた。
――リヴィエラは、健気な女性だ。
ロジェにとって、どんなに些細な事でも「嬉しい」と微笑み、「幸せ」だと伝えてくれるリヴィエラは、愛おしくてたまらないのだ。
「俺のほうこそ、幸せだ。君を誰にも渡さないと、宣言したんだからな」
「ロジェ……」
互いへの想いを打ち明けあった二人は、夜の闇の深さにも惑わされることは無く、目的地の社の前までたどり着く事ができた。
「結びの社なんて、素敵ですよね」
早速、リヴィエラがお社の前に立つと、「鈴」を台へと並べ、手を合わせる。
「私の願いは……、ロジェとずっと一緒にいられますように――」
リヴィエラの真摯な言葉を胸にしまい込みながら、ロジェもまた、只一つの願いを社に託す。
(リヴィエラが、幸せになれるように)
口には出さないけれど、ロジェにとって『リヴィエラの幸せ』こそが、一番の望みなのだ。
(どうか、彼女が誰よりも、幸福でいてくれますよう。そしてその笑顔を、ずっと俺だけに――……)
「ロジェは、何てお願いをしたのですか?」
「秘密だ」
「むぅ。秘密ですか?」
ロジェがちょっと意地悪く微笑んでみせると、リヴィエラは分かりやすくむくれてしまった。
(そんな顔も、可愛いけどな)
すぐ真っ赤に染まる頬も、煌く瞳も、怯える仕草も、彼女の存在そのものが、ロジェの宝物だ。
結局、帰り道にお化けが出ることは無かったが、二人の「恋のお願い」は、すぐに成就することになるだろう。

一緒に居る事こそが、未来への幸せにつながっているのだから――。

●紫月 彩夢と神崎 深珠の場合――恋の熱は胸に秘め――

 肝試しに参加するウィンクルムも、彩夢と深珠で三組目となった。
時刻はもうじき、午後十時半。
夜の闇は一層深まり、林に足を踏み入れたなら、足元にも頭上にも十分な注意が必要になるだろう。
「先に言っておくけど、あたし怖いのは平気なの」
そんな状態に置かれても、表情を変えない彩夢の姿は、彼女らしいと言えばらしいところだ。
パートナーの深珠でさえ、彼女が怯えている様子を想像できない位なのだから。
「でも、びっくりはするし、暗がりの道はちょっと不安だから……手、繋いでもらっても、いい?」
「それぐらいなら、お安い御用だ」
深珠は当然、彩夢のささやかなお願いに快く応じた。
「怖がって欲しかった?」
「そういう訳でもないが、ギャップがあってくれても良かったとは思っているな」
「ふふ、深珠さんと手繋いでたら、余計に怖くないよ」
 繋ぎあった手と手の温もりが、彩夢の心を柔らかく包んでいく。深珠と並んで歩くだけで、甘酸っぱい幸せに胸が満たされるのだ。恐怖など、たちまち何処かへかき消されてしまう。
そこへ――。
「うらめしやーー!」
 突然、背後から脅かし役の町人が一人、飛び出してきた。
「……っ?」
彩夢は、小さな悲鳴と共に後ろへ仰け反ったものの、大きく取り乱す様子は無かった。
だが、転んでしまってはいけない。
深珠がすかさず彩夢の背中に腕を伸ばして、支えてやった。
「……ありがと」
彩夢は、背中に深珠の手の温度を感じながら、逸る鼓動を抑えるのに集中するのだった。

***

「あたし、深珠さんのこと急がせてるって自覚くらいあるよ。でも、ごめん。止められそうにない……。だって、あたしは深珠さんの好みとは、違うもん」
 彩夢にとって深珠は、ずっと求め続けていた、特別な存在だった。
だからこそ、些細な事でも気に病んだり、焦る気持ちを抑えられなくなるのだ。
「なんだ。自覚はあるのか」
「……」
「確かに、流されている部分がないこともないだろうが……。良く分からない距離を置かれるよりは、いい」
「え?」
深珠は、彩夢の素直な告白を、真摯に受け止めた。
そして、握りしめる手に僅かに力を込め、社まで彩夢をエスコートして行く。
「……深珠さん」
 鈴を供えるとき、二人の手と手はそっと離れた。
それを少し残念に思いながら、彩夢は社の前へ立つ。
(深珠さんが、あたしとの時間を、幸せに感じてくれますように……)
両手を合わせ、熱心に願う彩夢の横顔を見つめながら、深珠もまた、内に秘めた願いを唱える。
(彩夢の願いを、叶えられますように)
願い事を終えた二人は、同時に瞼を開いて、お互いの顔を見合わせた。
「何を願ったんだ?」
「んー……内緒」
「そうか。――じゃあ、俺も内緒だな」
 お互いへの想いを『結びの社』に託し、二人はこの夜のひとときを、もう暫く満喫する事にした。
「彩夢。帰りは、少し寄り道しよう」
ここを引き返し、道を右手に曲がったところに、桔梗の花畑があるらしい。
彩夢が楽しんでくれるなら……と、深珠が事前に、町人から花畑の場所を訊いていたのだった。
(社の神よ。悪いが、彼女の願いは恋人である俺のものだ。――俺が叶えてやりたい) 
――他の誰の力にも頼らず、俺のこの手で……。

 二人は、胸に秘めた本当の願いを、打ち明ける事はなかった。
けれど、この肝試しの一夜は、二人の心がいつも寄り添いあっている事実を証明してくれたに違いない。
「ほら、行くぞ」
「うん」
再び繋ぎあった手のひらは、ほんのりと暖かかった。

●時杜 一花とヒンメル・リカードの場合――恋の足音――

 一花の顔色は、肝試しが始まってからというもの、余り優れない様子だ。
「大丈夫?」
それに気づいたヒンメルが、そっと一花の横顔を覗き込んでいる。
 二人の肝試しの順番は、後ろから二番目。
夜空に浮かぶ月は頂点に達し、漆黒の闇に沈み込んだ林は、物々しい雰囲気を醸し出していた。
「肝試しは、正直言うと苦手、ね……。お化けも暗いのも、苦手なの」
「そうなんだ。僕は特に、平気かな」
だが、怯える一花とは対照的に、ヒンメルは平静そのもの。
それどころか、顔にはっきり「怖いです!!」
——と書かれている一花の様子が面白いようで、ちょっと意地悪く微笑んでいた。
「ねえ、ヒンメルさん……。人の手が入ってる所だし大丈夫、よね?」
「さあ? 行ってみないとわからないかな?」
「ええっ……そ、そんな」
僅かな期待を込めてパートナーに縋りついた一花だが、ヒンメルは、それを爽やかな笑顔で否定した。
これには、一花も瞳を潤ませ、意気消沈してしまう。
「うぅ……」
だが、ここまで来てしまった以上は引き返せない。
ヒンメルが早足で前を歩き始めると、一花も慌てて、その背中を追いかけるのだった。

***

「ひゃっ!?」
「一花さん、本当に大丈夫? まだ先は長そうだよ」
林に足を踏み入れたのは良いものの、ヒンメルは、一花のたどたどしい足取りが心配でならなかった。
なにせ、草が風で揺れる音や虫たちがさざめく声にさえ、一花が大きく驚いて、転びそうになるのだ。
「きゃあっ」
「一花さん?」
急に服の裾をつかまれたヒンメルが振り返ると、一花が前のめりに転びそうになっていた。
ヒンメルは、慌てて彼女の腕を取り、上体を支えてやる。
「あっ……、ごめんなさい……!」
急接近したヒンメルとの距離に、一花の頬には一気に熱が宿った。
慌てて逃げようとしたのだが、その腕を、再びヒンメルにつかまれてしまう。
「はい、お手をどうぞ」
「……いいの?」
「何にもつかまらないよりは、安心できると思うよ」
「それじゃあ……、今はお言葉に甘えさせて貰うわ」
「うん」
 恥ずかしそうに微笑む一花を、ヒンメルが優しい眼差しで見つめている。
必死に自分にしがみ付く彼女がちょっと可哀想で……。いじらしく見えたのである。
一方の一花も、ヒンメルのあたたかい掌に触れて、心が落ち着くのを感じていた。

「着いたよ」
 こうして、二人で手を繋ぎ合ってからは大きなトラブルもなく、社まであっという間にたどり着くことができた。
「よ、良かった……」
「帰りもあるけどね」
安堵したのもつかの間、ヒンメルの軽口に、一花は顔を紅潮させる。
ヒンメルは苦笑しつつ、手にしていた鈴を社に供えてから、彼女を振り返った。
「それより、何をお願いする? 恋に関わる事らしいけど」
「そう言えば、そうだったわね」
肝試しに集中していた一花は、肝心のお願いのほうをすっかり失念していたようだ。
「特にないけど、でも。……帰りも、手を繋いでもらってもいい……?」
「それが、一花さんの願いごと?」
「ええ……」
一花が頬を恥じらいで染め、掠れ声でお願いを言う様子を見たヒンメルは、今度はからかう素振りを見せなかった。
「勿論だよ。手を繋いで帰ろう」
「あ、ありがとう。ヒンメルさん」
 それは、ささやかで可愛らしい彼女のお願いを、「社の神様に代わって叶えてあげたい」と、素直に思ったから……。
「なんて……ね」
 ヒンメルは、独り言のように口の中で呟くと、一花の手を力強く握りしめて、ゆっくりと歩き出すのだった――。

●シャルティとグルナ・カリエンテの場合――小悪魔の微笑――

 時刻は午前零時過ぎ。
全ウィンクルム中、最後の肝試しに挑むことになったのは、シャルティとグルナだ。
耳が痛い程の静寂と、薄雲に覆われた空。
林の入り口は、大きな黒い獣の姿のように、禍々しく見える。
 そんな闇の中を、シャルティは毅然とした足取りで突き進んで行った。
その後ろから、グルナが距離を空けて付いて来ている。
「隣で歩けば良いのに、なんで後ろにいるのよ」
「あ? 怖いとか、別にそんなんじゃねぇよ」
「……言ってないでしょ、そんなこと」
グルナは、いつになくソワソワした様子で周囲を睨みつけていたが――、
「あ、グルナ。そこの草のとこ」
不意にシャルティが、茂みの奥を指差したのである。
「うらめしや~~!」
「ひぃいーっ!?」
 シャルティが指を差した方向には、脅かし役の町人が潜んでいたのだった。
飛び出してきた人影に驚いて、グルナは大絶叫の末、その場に尻餅をついてしまう。
「くそ……あいつら、マジで脅かしてきやがる……!」
慄くグルナを前にしても、シャルティは余裕の笑みを崩さない。
彼女は、生まれつき鋭い感覚を備えているのだ。隠れている人間を見つけるくらいは、朝飯前である。
「あ」
「な、なんだよ……」
漸くグルナが立ち上がった時。
今度はシャルティが足を止めて、木々の合間を凝視していた。
「あそこ、幽霊よ」
「ウワァー!?」
どうやら、ハイスペックな霊感体質のシャルティは、人だけでなく幽霊も感知できるらしい。
「言ってなかったかしら。私、霊感あるの」
「嘘、だろ……?」
「嘘じゃないわよ」
グルナは、驚愕の眼差しで、シャルティを見つめていた。
彼の青い瞳には、ほんの僅か涙が滲んでいるようにも見える。
「怖かったのね……可哀想に……」
怯えるグルナにちょっと同情したシャルティは、彼に近づいて、あやす様に頭を撫でてやった。
「だ、だから、怖くねぇっつの! 撫でんなッ!」
グルナは、シャルティの手から逃れると、真っ赤になって怒った。――だが、それは、照れ臭さを紛らわせる為でもあったようだ。
「まあ、大丈夫じゃない? 危害さえ加えなければ。先行きましょ」
「……ッ」
一人で怯えている上、女性であるシャルティにリードされている状態は、ちょっと悔しい。
グルナは、颯爽と歩くシャルティの背中を追いかけて、足を速めるのだった。

***

 『結びの社』の前にたどり着いた二人は、持参した供物の「鈴」をお供えした。
(……想いが実りますように……)
シャルティは、瞼を閉じて社に手を合わせると、真摯に祈りを捧げている。
(恋愛関係の願い事か……)
ちらりと横目でシャルティを盗み見たグルナだったが、彼女は集中しているようで、その視線に気付いていない。
(なに願ってんのかしらねぇけど)
迷った末に、グルナも両手を合わせて、祈った。
(シャルティの願いが、叶いますように)

***

 無事に社にお供えも終わり、後は林を抜けて町に戻るのみだ。
しかし、その帰り道で、シャルティが爆弾発言を口にした。
「言い忘れてたわ。霊感あるのは本当だけど、幽霊がいるって言ったのは、嘘よ」
「嘘……!? いや、けど、見えるんだろ!?」
グルナが目を丸くしていると、シャルティは「何を言ってるの?」とばかりに呆れ顔になる。
「『嘘』って言ってるじゃない」
「そっちじゃねぇよ! 幽霊が見える体質なんだろって。……怖くねぇのか」
「ああ……そういうこと」
 グルナには幽霊が見えない。だから、存在を感じる事はできないし、シャルティの恐怖を本当の意味で理解する事は出来ないのだ。
グルナが気にしていたのは、そんな「幽霊が見えてしまう、シャルティの気持ち」――。
「まあ、最初はね」
シャルティは、グルナが自分を思いやってくれた事は嬉しかったのだが、それを素直に表に出す事は出来ない性分だ。
最後には、こんな悪戯を忘れなかった。
「……あ」
グルナの背後に、いかにもと言う視線を送り――。
「っ、な、なんだよ!?」
「ぷぷっ……なにビビってるのよ」
狙い通りにグルナが取り乱す様を見て、してやったりの笑みを浮かべている。
「う、うっせーなッ! と、とっとと帰るぞ! くそ……」
「……その言い方……ふふっ……。止めてよ、面白いから」

――結局、小悪魔なシャルティの手の上で踊らされたグルナだったが、二人にとっては恐怖だけでなく、楽しい思い出の肝試しとなったのだった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 夕季 麗野
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月15日
出発日 07月20日 00:00
予定納品日 07月30日

参加者

会議室

  • [5]時杜 一花

    2016/07/19-23:25 

    時杜一花と、パートナーのヒンメルさんです。
    よろしくお願いします。
    肝試し…。ちょっと怖いけど、一人じゃないしなんとかなります、よね。
    ぶ、無事に終わりますように…。

  • [4]シャルティ

    2016/07/18-23:26 

    こんばんは、シャルティとグルナよ。
    肝試し。良いわね、嫌いじゃないわこういうの

    そういうわけでわくわくしてるわ、よろしく。

  • [3]紫月 彩夢

    2016/07/18-21:42 

    紫月彩夢と、深珠おにーさん。
    肝試しっていうけど、多分あたしも深珠さんも怖がりではないと思うから、
    のんびり雰囲気を楽しみに行こうかと思うわ。
    お互い、楽しい時間を過ごせますよう。どうぞよろしくね

  • [2]伊吹 円香

    2016/07/18-18:11 

    初めまして。
    私は伊吹円香(いぶき まどか)で、契約したばかりのジェイとお邪魔しております。
    よろしくお願い致しますね。
    肝試し楽しみです。怖くありません、問題ありません(にこり

  • [1]リヴィエラ

    2016/07/18-16:27 


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