零す、流れる(錘里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 雨降り岬は今日も雨。
 岬の足元に佇む湖は、幾つもの波紋が押し合いへし合い。
 浮いた木の葉があちらへこちらへ、揺れて揺れて揺れて、とぷん、と。
 それを眺めていた一人の青年が、隣で難しい顔をしていた青年に、小さく零す。
「あのさぁ」
 どんな顔をしたものかと迷うような、曖昧な微笑。
 だけれどそれは、とても穏やかに見えた。
「よく考えたら俺も似たようなもんだったな。悪かった」
 そんな言葉に、青年は驚いたように目を丸くした後、気まずげに背け、俯いた視線の下で、ところなさ気に遊ばせていた指をかすかに握った。
「ん、俺も、言い過ぎた。ごめん」
 素直な謝罪を思い出した二人は、顔を見合わせて笑いあった。

「雨は冷たくて気も滅入るかもしれませんが、雨降り岬の止まない雨は、何もかもを濯ぎ落としてくれるようですよ」
 ふんわりと、A.R.O.A.の受付が笑みを称える。
 雨降り岬とは、かつて思い叶わず身投げをした娘の無念が止まない雨を降らせているという言い伝えのある岬。
 イベリン地方のそんな不思議スポットには、雨に打たれに来る者も少なくはないらしい。
 喧嘩をした後に、失恋した後に、失敗した後に、そんな嫌な思い出を洗い流そうとするかのように。
「頭が冷えて、冷静な解決ができるのかもしれませんね」
 ふふ、と微笑ましげな声を漏らした受付は、そこで、と人差し指を立てた。
「皆さん、パートナーにいやーな思いをしていることって、ありませんか?」
 例えば悪辣な物言いだとか、いつまで経っても他人行儀な態度。些細なものから大きなものまでありそうな悪癖なんてものも。
「それでも貴方達は適合したパートナーなんです。それは無意味ではないことですので、きっと、受け入れられると思うんです」
 相手への文句ばかりでなく、我が身を省みて、直そうと思うのもまた一つの切欠。
「一度、雨に流してみませんか?」
 風邪を引かない程度に、雨の冷たさを味わって。
 二人の間に溝がないか、確かめてみては、どうだろう。

解説

相手への文句や、自分への反省、普段言えないことでも構いません
何か一つ以上、雨に流してしまいましょう

★雨降り岬について
常に雨のやまない不思議な場所です
岬のいろんな場所に小さな花が咲いています。花には名前がありません。摘みとり厳禁
岬の下は湖です。飛び込む事が不可能ではない高さですが、そこそこ深いので泳げない方はご注意を
湖の方に降りる事も出来ます。岸壁沿いの石階段を通る事になります
全体的に足元注意です

★プランについて
相手・自分問わず、不満に思うことを一つ以上明記してください
この際不満を全部ぶちまけてしまおうというスタイルでも構いません
一応流して頂くことが目的ですが、喧嘩して仲直りしなくてもエピ自体は失敗にはなりません
ただし親密度0くらいは覚悟しておいてください

★その他
今回は傘の貸し出しはしません
タオルは貸してもらえますし、帰る前に温かいお風呂も入れます(描写はしません)
着替えは濡れない場所で預かってもらえたりランドリーで洗濯乾燥という手段も取れます
ベンチが岬のいたるところに設置されていますが、基本的に屋根はありません。濡れてます
別行動でも問題ありません

交通費等で500jr頂戴いたします

ゲームマスターより

拳で語り合ったりしていただいても構いませんよ
基本的に規制に抵触しなければ好き好きにというスタンスです

6月に出番のなかった雨降り岬をもう一度出せたので満足している錘里です
雨はいいぞ

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アオイ(一太)

  一太と一緒に、岬をぶらぶら歩きましょう。
雨が止まないなんて、変わっていますね。
ああ、可愛い花が咲いていますよ。
話しかけても、一太が答えてくれません。

立ち止まり、一太の顔を覗きこみます。
濡れた額を拭い、
なにを怒ってるんですか?

笑って流すのは……性分ということで許してくれませんか。
だって、怒るより受け入れるほうが疲れないでしょう?
戦いは……本気が敵わないのが、悔しかったからです。
それに、あの時(エピ12)も言いましたけど、一太が動く方が、絶対に皆の役に立てたから。
目的のためには、手段なんて構っていられないでしょう?

僕も一太のこと大事だし、信頼してます。
でも、過去の全部を言えるわけでもないんですよ。


レオ・スタッド(ルードヴィッヒ)
  三度目の誘いも雨
猫耳雨男は変わらず仏頂面
鬱憤が爆発した

何考えてんのか全っ然わかんねぇんだよ!
スカしたツラしやがって…あームカつく!!

脇目も振らず歩いて 階段を降りて
気づくと一人

普段は自衛の為とか言ってつき纏うクセに…!
(イライラする…

湖に映る自分を見つめ
(あいつは変だ
正論でねじ伏せる癖に 嫌がらせは咎めず
何かあれば小言一つで世話を焼き始め
無理難題も涼しい顔でこなし
見透かすように見つめてくる
(なんなんだよ…

足音の主を見て 気まずい
あんたバカ?ずぶ濡れじゃん

(一流…
くだらないと吐き捨てたのに
今 カッコいい と思えた

知るかよ
…でも、理屈は解る
(オレがダセェってこともな…

ふ、風呂のがいいに決まってんだろバカ!!


蔡 盟羅(蔡 華健)
  愛する許嫁だった楼蘭の生命維持装置スイッチを、華健が切ったことについて
仁王立ちで華健を睨み据えて糾弾する

何故楼蘭を殺した(恨めしげに静かに)
目覚めなくとも、楼蘭は確かに生きてた!生きとったのに!(激高)
そんな!…(反論できず項垂れる。僕とK9以外の周囲の人々が、脳死状態の楼蘭を邪魔がっていたのは知っている。そして僕も楼蘭が二度と回復しないのは分かっていたが目をそらしてた)

あんた…ホンマに楼蘭の兄か?妹殺してなんとも思ってないのんか?

殺してやる
…殺してやる!(衝動的に華健の首を絞めるが、殺人する勇気も度胸もないし、元来優しい性分なので力が入らない)

出来るかクソ
(これが雨で流せる感情なワケがない)


●ひたひた、浸る
 降る雨を見上げて、レオ・スタッドはぼんやりとした思案を繰り返す。
 今までに二度、己の精霊は出かける誘いを持ちかけてきた。
 そのいずれもが雨降り話。そして今日もまた、雨。
 猫の耳を備えた雨男は、自分から誘っておきながら相変わらずの仏頂面だったものだから。
『何考えてんのか全っ然わかんねぇんだよ! スカしたツラしやがって……あームカつく!!』
 爆発した鬱憤を、精霊ルードヴィッヒへとありったけ叩きつけて、レオは一人で雨の中を歩いた。
 そうして、今に至る。気づけば一人、岬の脇に出来た階段を降りて、湖を前に佇んでいたのである。
(普段は自衛の為とか言ってつき纏うクセに……!)
 しとしとと振り続ける雨は、苛々を洗い流してはくれない。
 張り付く髪が鬱陶しくて掻きあげるようにしながら、レオは小さく、舌打ちした。

 一方で、ルードヴィッヒは特に慌てた様子もなく、岬の上から湖を見下ろしていた。
(スタッドが癇癪を起すのは二度目か。一度目も雨の中だったな)
 手を繋ぐのが恥ずかしくて、なんて。乙女のような理由で声を荒げた神人の姿を思い起こす。
 今回だって、何を考えているのがわからないだなんて、それはまるで、まるで――。
 ちらり、湖の傍らに佇むレオを見やる。
 レオ自身は明確には自覚していないようだが、ルードヴィッヒをかなり意識しているようだ。
 思惑通りだ。そうやって気持ちを向けてくるように整えたのだ。
 しかし。
(なぜ比例して俺を頑なに拒む?)
 嫌よ嫌よも好きの内、だなんて悠長な捉え方はしない。ルードヴィッヒは確かに自分が拒まれていることを自覚している。
 その理由を考えれば、先の癇癪に行き着いた。
 何を考えているかがわからない。それが、レオの苛々を助長させていた。
 昂ぶりのままに吐き出された言葉は本音そのものだろう。ならばこれは核心そのもので。
 ――何を考えているか解らないから。
 怖い、のか。
(確かに理解し難いものほど不気味だ)
 納得する。理解する。頷きとともに揺れたのはルードヴィッヒの猫の尻尾だけれど。
 レオもまた、臆病な犬猫のようだと思った。
 理解し難いものを恐れ、威嚇し声を荒げるそのさまが、そう思わせる。
(……感受性豊かだな、だからこそ俺に必要だ)
 微笑ましさらしいものを覚えている気はするのに、にこりとも出来ない、自分に。

 しとしと、しとしと。
 雨が降っては降っては水面に幾つもの波紋を広げる。
 見つめながら、レオはなおも思案する。
(あいつは変だ)
 いつだって正論しか吐かない。それでねじ伏せてくる。
 しかし嫌がらせを咎めることはしない。
 何かあれば小言一つで世話を焼き始め、無理難題も涼しい顔でこなしてしまう。
 そうして、見透かすように見つめてくる。
(なんなんだよ……)
 理解されている。許容されている。
 そういう風に見えるのに、こちらからはルードヴィッヒの内側は何一つ見えてこない。
 助長されるのは苛立ちばかりではないことを、薄っすらと、認識したところで。
 ぱしゃん、水を叩く足音が耳に届いた。
 ちらりと見て、一度は気まずさに視線をそむけたが、それでは負けたような気がして、もう一度視線を向ける。
「……あんたバカ? ずぶ濡れじゃん」
「お互い様だ」
 規則的な足音はレオの隣までたどり着くと、真っ直ぐに見つめてきた。
「俺を知りたいなら教えてやる」
 涼しい声が耳朶をついて、雨音が急に息を潜めたように静かになったような気がした。
「俺は一流の精神を重んじる。己を恥じることなく、己を誇れるように」
 いつだって、ルードヴィッヒにあるのはそれだけで、それが全てだ。
(一流……)
 その言葉が、レオの中で何度も繰り返される。
 一度はくだらないと吐き捨てたルードヴィッヒの理念だというのに。
 今、カッコいいと、思えた。
 焦がれるような目でルードヴィッヒを見たレオを見つめ返して、一歩分だけ、距離を詰めてみる。
「お前にもそうあって欲しいが……今の自分に誇りはあるか?」
「……知るかよ。……でも、理屈は解る」
 今度こそ視線をそむけて、レオは再び湖を見つめた。
 ぱたぱたと水面を打つ雨の音が、少し、喧しい。
 ぐるりと胸中を疼いたのは、ほんのささやかな自己嫌悪。
 比べてしまうと、理解できてしまうのだ。
(オレがダセェってこともな……)
 微かに眉を寄せたレオの横顔を見て、ルードヴィッヒはレオの視線に映るのと同じものを見る。
「ああ、それで十分だ」
 そう言ってから、暫しの沈黙。
 しかし、もう充分だ。わだかまりは、充分に流れたことだろう。
「さて……服を乾かすついでに風呂に入るか。……それとも俺が温めてやろうか」
 踵を返しながらの一言に、レオは今の今まで流れていた穏やかな雰囲気を掻き消すように、また、声を荒げる。
「ふ、風呂のがいいに決まってんだろバカ!!」
 それが羞恥であり、拒絶ではないことは、深く考えずとも、理解できることであった。

●淀んで、淀んで
 蔡 華健は雨の降る岬の足元、手頃な岩の上に腰を下ろして待っていた。
 湖を眺めながら、広がる波紋を眺めながら、自らが投じた波紋に晒されたパートナーが、訪れるのを。
 やがて静かな、それでいて明確な怒気を孕んだ蔡 盟羅がずかずかと華健の元へやってきた。
 仁王立ちで睨み据えると、一つ、呼吸。
 それは気持ちを落ち着かせるためのものではなく、一層昂ぶらせるものとなる。
「どうした」
 それを理解していながら、ニヤニヤと笑って華健は盟羅を煽る。
「何故桜蘭を殺した」
 声は、静かに響く。その静かさとは相反するような、強い恨みを含んで。
 そう、華健はヒトを『殺した』のだ。
 それは盟羅の許嫁であり、華健の妹である……あった、女性だった。
 しかしその人はそもそも『生きて』いるとは言えなかった。
 オーガによって襲撃され、生命だけは維持された状態で、決して目を開けることのなくなってしまったヒト。
 それを、華健は『殺した』のだ。
 生命維持装置のスイッチを、切ることによって。
「目覚めなくとも、楼蘭は確かに生きてた! 生きとったのに!」
「あれはもう死んだも同然だった」
 盟羅の糾弾を受けながら、しかし平然とした顔で、華健は盟羅を見据える。
「お前も分かっていたろう、あの女は二度と目覚めぬし、二度とお前に笑いかけることも喋ることもしないのだ」
 淡々とした声は、激昂する盟羅のそれよりも遥かに小さな声だというのに、つきつけられる事実の大きさは盟羅の声を上回る。
「ただただ無為に金と時間と場所をくうだけ……だったら、潔く死んだほうが蔡家のためにもいい」
「そんな!」
 さも当然のように、華健は告げる。
 それに対し、反論しようと声を上げた盟羅だったが、喉まで出かかっていた言葉は、堰き止められたように上手く出てこない。
 平坦な声が、盟羅の言葉を奪うのだ。
(僕かて、判ってた……)
 ずっとずっと理解していながら目を背けてきていたことを、真っ直ぐに見つめさせて。
(僕とK9以外の周囲の人々が、脳死状態の桜蘭を邪魔がっていたのは)
 そして、もう二度と桜蘭が目覚めぬことも。
(けど、けど……!)
 認識することと、理解することと、納得することとは、イコールでは繋がらない。
 心の何処かで分かっていながらも、淡い淡い希望に、盟羅は縋っていたかった。
 いたかったのに、その希望は絶たれた。
 だからこそ、この感情は荒ぶって、華健がただただ憎いのだ。
 そんな盟羅に対し、感慨一つ見られない華健の顔は無機質に見える。しかし張り付いた笑みは蝕むように盟羅の胸中に入り込む。
「皆、邪魔げに思っているのに手をこまねいていた。俺が引導を渡してほっとしているだろうよ」
 入り込んで、揺さぶって、掻き乱す。
「あんた……ホンマに楼蘭の兄か? 妹殺してなんとも思ってないのんか?」
 震える声と唇は、愕然とした盟羅の感情をよくよく表している。
 大きすぎる嘆きと怒りが、握りしめた拳をも震わせた。
 そんな盟羅のさまは、華健にはどこか滑稽に映る。
 既に死んだ女のために心を割き、彼女の死に関わる全てを恨み憎みながらも、表向きは飄々として見せて。
 感情の抑制が上手いのかと思えば、些細な刺激で容易く崩れる。
「ああ、兄だとも。親ができんのならスイッチを切る同意書を書けるのは兄たる俺しかおらんのだぞ」
 ――ほら、また。
 ただただ解りやすく、判りきった事実を告げただけだというのに、盟羅は激昂し、華健に躍りかかった。
 ばしゃん、と大きな音がして、足元の水が跳ね上がる。
 跨るようにして華健の首に手をかけた盟羅は、血走った目でしきりに繰り返す。
「殺してやる……殺してやる!」
 けれど、言葉とは裏腹に、震えた指は華健の首に力を込めることが出来ない。
 盟羅には、そんな勇気も度胸もないのだ。そしてそれ以上に、彼はどこまでも優しい性分だった。
 衝動に任せてすらそのざまだと、たまりかねたように華健は笑った。
「ハハハ、またそんな出来もしないことを。本気で殺す気なら、もっと力を込めるんだな」
 平然としながら、己の首に絡む盟羅の指に手を添え、力を貸してやる。
 その行為にびくりと震えたのを、喉を鳴らして笑った。
「どうせ出来ぬのなら、いつまでも拘っていても仕方あるまい」
 お誂え向きではないかと、仰向けに倒れたまま、華健は降り注ぐ雨を迎え入れるように両手を掲げた。
「ここで雨に流せと言われていたろう。そおら、流せよ」
 歪に笑う華健に、わなわなと唇を震わせて。盟羅は最後に悔しげに唇を噛んだ。
「出来るかクソ」
 流れるものか。この程度の雨で。
 しとしとと降る雨はあまりに弱々しくて、盟羅の胸中の憤りを冷ますことさえ出来ないというのに。

●底の見えない
 降る雨は、待てど暮らせど収まらず、強まらず、ただ一定の音を刻み続ける。
 しとしと、しとしと。
 冷たい雫が注がれ続ける雨降り岬を、アオイは一太と二人でぶらぶらと歩いていた。
「雨が止まないなんて、変わっていますね」
 のほほん、と。アオイは隣の一太に話しかけた。
 けれど、返事がなくて。ただの独り言になってしまった。
「ああ、可愛い花が咲いていますよ」
 ねえ、ほら、一太。
 ちゃんと伝わるようにと話しかけたのに、返事をしてくれない。
 それどころか、そっぽを向いたまま、目も向けてこない。
 じっ、と一太の表情の見えない頭を見つめて、それから、アオイは不意に立ち止まって一太の顔を覗き込んだ。
 雨を浴びた額が濡れている。拭っても、また髪の先から雫を落としてくる。
 けれどその前に、瞳と瞳はかち合った。
 視線があったのを確かめてから、アオイはホンの少しだけ首を傾げてみせた。
「なにを怒ってるんですか?」
 ぴく、と、一太の片眉が跳ね上がる。
 その顔が持つ感情は、とてもわかりやすい。アオイが指摘した通り、怒りだった。
「怒ってるか、じゃねえよ、今更!」
 声を荒げて、一太はきつくアオイを睨み付ける。
 アオイという男はいつだって何を考えているのかわからない。
 雨がやまないことを面白がっているようだったけれど、傍らの一太が不機嫌になっていることなんて最初から分かっていたはずだ。
 花なんてどうでも良かった。一太は不機嫌を主張するように、ただ無言を貫いていた。
 そこへ掛けられたのが、この一言である。
 聞く気でいたならもっと早く聞けばいいだろう、そもそも何が気に入らないかなんて、とうにわかっているだろう!
 怒鳴りつけたい気持ちをなんとか抑えこんで、ふぅ、と大きく息を吐いた一太は、一度唇を噛んだ。
「お前のことなんて前から謎だけど、最近もっとわかんねえし」
 アオイという男はいつだって何を考えているのかわからない。
 大抵のことは笑って流す、良く言えばおおらかな面を持っていると認識していたはずなのに、先日デミ・ギルティとの戦闘の折に、アオイは珍しく怒っていた。
 他のウィンクルムを愚弄するかのような敵の所業に、憤ったのだ。
 正義感だろうと、一太は思っていた。
 だからこそ応え、共に戦いたいと思っていた。
 だが、あの時、アオイは何をした。
「しかも俺を庇うし」
 一太の機嫌を最も損ねたのは、これだった。
 俯いて、やや項垂れた兎の耳に、雨音が喧しく響く。
 あの時は炎の矢が雨のように降り注いだのを、アオイが一太を庇って受けたのだ。
 何故、なんてことを。そう詰め寄りたかったのを、アオイは『構うな』と言って突っぱねた。
 『貴方の方がきっと役に立つ』からと、ただ敵を『倒したい』のだと、切々と訴えられたのを、一太はまだ忘れていない。
 先日の一連のやり取りを、あの肌の泡立つような一瞬の出来事を、アオイはゆっくりと思い起こして、それから、困ったように笑った。
「笑って流すのは……性分ということで許してくれませんか」
 だって、と、アオイは肩を竦めた。
「怒るより受け入れるほうが疲れないでしょう?」
 怒ったところで何が解決するわけでもない。それよりは受け入れてしまったほうが余程早くて、余程楽ではないか。
 その主張は、一太にとっては感情として納得できるものではなかったわけだけれど。
 むすっと眉を寄せるばかりの一太にもう一度肩を竦めて、アオイは違う意味で眉を寄せた。
「戦いは……本気が敵わないのが、悔しかったからです」
 誰も彼も必死だった。それでも敵わぬ敵は、そんな必死さを嘲るような真似をした。
 それが、悔しかった。
 ――けれどその敵も、倒すことが出来たのだから、もう無闇に憤ることではない。
 小さく息を吐いて、アオイは一太の最後の蟠りをゆっくりと解しにかかる。
「あの時も言いましたけど、一太が動く方が、絶対皆の役に立てたから」
「確かに言ってたな。だから俺も、怪我したお前に構わなかった」
「そう、だからもうそれでいいじゃないですか。目的のためには、手段なんて構っていられないでしょう?」
 結果として、あの判断は正しかったではないか。
 一太だってあの瞬間、納得してくれたじゃないか。
 小首を傾げて、それでいいと言ってはくれまいかと願うような顔をしているアオイを、一太は睨む。
 睨んで、けれどすぐにどこか悔しげな顔になった。
「別に俺はどう使われてもいいけどさ、なんかもう、ほんとよくわからない」
 アオイの言葉を、行動を、信じて動いていたいのに。
 理解できないままでは、自分を切り捨てるアオイを取りこぼしてしまいそうな気がした。
 だが、全て突っぱねて勝手にしろと切り離すことが出来ない程度には、心が彼に寄っているのだ。
「俺はやっぱりアオイが大事なんだ。もっとお前のこと、知りたいんだ」
 真っ直ぐな瞳が、アオイを見上げる。
 見上げて、見据えて、見つめてくる。
 雨がしとしとと降って、一太の顔を濡らしていて。なんだか、泣いているように見えた。
「僕も一太のこと大事だし、信頼してます」
 でも。
 そう言って、アオイは曖昧に笑った。
「過去の全部を言えるわけでもないんですよ」
 ふうわりと笑って見せたその顔は、幼い子供を宥めすかそうとするかのような優しさを持っている気がするのに。
 一太は、何故だか拒絶されたような心地になっていた。
 雨が、煩い。
 煩くて、冷たい。
 胸の奥が底冷えするような感覚は、きっと、この雨のせい――。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月14日
出発日 07月21日 00:00
予定納品日 07月31日

参加者

会議室

  • [3]アオイ

    2016/07/20-13:42 

    挨拶が遅くなりましてすみません。アオイです。
    なんか一太にすごく睨まれている気がするんですが、僕はなにをしたんでしょう。
    別行動になるでしょうが、皆さんが仲直りできますように。

  • [2]レオ・スタッド

    2016/07/20-00:45 

    ……レオよ、よろしく

    あのさ、クソ猫耳に出かけるって言われて行く先々がことごとく雨なんだけどなんなの!?
    雨男じゃないとか言ってるけど、これで三度目よ、三度目!
    もうあいつってばホント(ぐちぐちぐち)

  • [1]蔡 盟羅

    2016/07/18-17:11 

    はい、どーも
    盟羅です、よろしゅーに

    雨のなか、水に流せってか
    …できるわけないやろ…(ぼそり


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