五月雨に濡れた翠の森(文月うさぎ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●森の囁きを聴きに
五月雨の上がった森を渡る風は、瑞々しさを帯びていた。
翠色が鮮やかな新緑の葉には雫。揺れる木漏れ日を受けて露光る下生えの野の草に塗れた地面から薫るのは森の匂いだ。
密やかに囀られる小鳥の声を聴きながら、昼下がりの森を歩く一人の影。
小道の脇を流れる清水を辿り、緑のトンネルを抜け、行き着いた先は小さな泉。水音がさらさらと心地いい。
ふと目を遣ると、誂えた様に腰を下ろすにはぴったりな切り株。然程奥まった場所ではない為、人の手は加わっているものの、自然と調和したそこで一休み。

「あぁ……ここ、丁度良さそうだねぇ」

これまた丁度、頭上は開けている。水辺には、控えめに開いた小さな花々。
陽だまりの中、まったりとした空気を帯びた呟きが落とされた。


●森林浴へいこう
とある、春の日。A.R.O.A.職員の女性は気さくに、こう話す。

「ねぇねぇ、穴場のデートスポット見つけちゃったんだけど。今度どうかな?」

小柄なその受付の女性は、少女とも見えるようなにっこりと人懐っこい笑顔を浮かべている。
散歩が日課の彼女。先日少し足を伸ばして近所の森へと森林浴に行ったのだが、昼下がりの森の空気をいたく気に入ったのだと。

「妖精が居そうなくらいに、とっても素敵な場所だったんだよ。気になる子、いるかな?案内はまかせて!お弁当やお茶を用意してのんびりするのも良いんじゃないかな。名付けて、森林浴ツアー!」

楽しげに声を弾ませながら、受付の女性は張り切っている。簡単な日時と集合時間を告げて緩やかに手を振る。

「それじゃあ待ってるよ、素敵な時間になるといいね」

解説

森林浴のお誘いに参りました。今の頃の森の中は、風も心地よく、過ごしやすいと思います。
野辺の花を愛でるもよし、野鳥を眺めるもよし、泉に足を浸すもよし。
パートナーとお弁当を広げるのも素敵だと思います。
野生の小動物や、もしかすると妖精の姿も見られるかもしれません。

●描写範囲
森の小道~泉内。泉に到着しましたら自由時間です。精霊との絆を深めて頂ければ幸いです。

●注意
泉より奥へと進まれる、道から外れる、等のプレイングは反映出来ませんのであしからずご了承頂けたらと。

ゲームマスターより

ご閲覧ありがとうございます。お世話になっております、文月うさぎです。
この時期の山は、上は藤の花に下は野生のさつきやつつじが目に留まるかもしれません。
少し相談期間が短めになっておりますので、お気を付け下さい。

心癒されるような、皆様にとって素敵なお時間になりますように。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)

  雨上がりは心地良いですわねっ

何だか妖精さんが出てきそうな素敵な場所ですわ
サフラン、サフラン
もしも妖精さんを見つけたら教えて下さいね!

緑のトンネルを歩いているとウキウキしますわ
両手を広げてダンスみたいにスキップ、ターン
うふふっこんなところに住んでみたいですわね

トンネルを抜けたら
鳥の囀りを聞きながら眺めながら
花や緑を眺めながら歩きます

泉のほとりでお昼ご飯を食べますわ
ピクニックにはサンドイッチでしょう?
トマトにスモークチキン、ジャムに卵
たくさんありますからお好きな物を食べて下さいな

食べ終わったら両手を広げて
ごろんと寝転んで空を見上げます
サフランも誘ってみます
こうすると空を飛んでいる気持ちになりますの


音無淺稀(フェルド・レーゲン)
  今日はフェルドさんもお誘いして森林浴ツアーですし
腕によりをかけてお弁当を作らなきゃですね

お弁当の内容は、ハンバーグとフライドポテト、牛蒡の金平にから揚げ。後はオムライス…旗もきちんとつけて
おにぎりは猫、犬の形で…猫の方には鮭とおかか、犬の方に肉みそとシーチキンマヨネーズにして

ふふ、森林浴できれば二人で歩いて…手を繋いで
私は余り、外に出る方ではありませんから

たまには外の空気を吸って
こうやって二人で出掛けられたら素敵だなぁって思ってたんです

聞いた話だと、花も一杯咲いてるみたいですし
そんな中で一緒にお昼寝できたら素敵だと思いませんか?

木によりかかって景色を眺めながらお昼寝
あ、手は離しちゃだめですよ?




ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  気持ちのいい休日
ディエゴさんは変わらずに朝食を取りながら新聞を見てる
…多分、尋ね人(私を探している人がいないか)の欄を見てるんだと思う。
真剣に新聞を読むディエゴさんの目にはうっすらと隈ができていて
それを見てたら受付の女の人が言っていた森林浴ツアーに行こうって思ったの、私のために色々してくれるのはすごく嬉しいけど
ディエゴさんが元気じゃなければ私も心が苦しいもの。

今日はディエゴさんはゆっくり休む日に決定!
しっかり休みを取るのもウィンクルムの仕事だぞ、ってディエゴさん言ってたじゃない。
作ってきたサンドイッチを食べて、シートを敷いて
お昼寝!それで今日は終わり。



メーティス・セラフィーニ(ブラウリオ・オルティス)
  集合場所に着いたら周りの方に軽く挨拶
こんにちは、風が気持ち良いですね

これはデートじゃないです。違います。もう!ニヤニヤしないでください!
話したいことが、あるんです
泉…綺麗ですね
少し歩きませんか?

私…戦うのが怖いんです
そんなこと言ってる場合じゃないのは分かっています
でも、私には他の神人のように戦う覚悟がない、できないんです
私や、他の人…オルティスさんだって、傷付いて…目の前で死んでしまうかもしれない
…怖いんです。戦いたく、ないんです…っ
こんな契約者でごめんなさい

私に出来る、戦い…
あるでしょうか?私でも、戦えるのでしょうか

胸のうちでつぶやく
ありがとう、ブラウリオさん
声に出す勇気はまだない


Elly Schwarz(Curt)
  【心情】
なんだかんだクルトさんには
最近お世話になりっぱなしだと感じるんです。
それなのに僕は、よく考えればいつも邪険にしてます。
この機会に歩み寄るのも大切……ですかね。

【行動】
他の方には及ばないながらも
感謝の気持ちを込めてお弁当を用意しましょう。
クルトさんは辛党なので、エビチリ等を入れれば良いのでしょうか。
この間お弁当の中身を聞いた時に、ちょっとだけ伝わってきたんです。
あとは卵焼きとか、ハンバーグも良いですよね。

取り敢えず話題は何を聞きましょう?
ウィンクルムとして知れるような事を聞いても
違うような気がしますし……難しいです。
小道を散歩しつつ考えましょう。

【所持品】
水筒(緑茶)
手作り弁当(味は並)



●翠の森へようこそ
真上にあった太陽が少し傾いた、昼下がりの森の小道。
夜明け前にあがった恵みの雨だったが、森は未だ瑞々しい薫りに包まれていた。
初夏とはいえ、照る日差しを受けてアスファルトで舗装されていた地面は陽炎が立ち昇り、暑くすら感じられる程だったのに。
一歩、森の中を歩けばひんやりとした心地のいい空気。渡る風にさやさやと音を奏でて揺れる新緑の葉が翠に煌く。
そんな自然豊かな森の入口に不釣り合いな大きな声が響く。

「ではではみなさーん!案内しますー!離れないようについてきてくださいね!」

一通りの挨拶を済まして女性職員が先頭に立った。小さな体で随分と張り切った様子で進んでいくのであった。
人の出入りのある森だ。森に入る人々が歩いて出来た道が真っ直ぐに続いて、まるで緑のトンネルを潜るよう。
下生えの野の草の覆う腐葉土を踏みしめる、足から伝わる感覚も日頃は中々感じることの無いものだ。自然と歩も弾む。

「雨上がりは心地良いですわねっ」

足元には小さな野草がつけたとりどりの花々。雫こそ無いが、水気を含む普段はあまり馴染みのない不思議な薫りを胸いっぱいに吸い込んで。
風が揺れる度に足元を彩る光と影の万華鏡。そんな揺れる梢と木漏れ日と共に踊るのは金の髪が眩いマリーゴールド=エンデだ。

「サフラン、サフラン!もしも妖精さんを見つけたら教えて下さいね!」

「妖精ねぇ。ハイハイ、りょーかい」

華やかな容姿の彼女が楽しげにくるりと舞えば、舞台が森の中であっても目に映える。
サフラン=アンファングは、パートナーのそんな姿から目が離せなくなった。
滑って転びそうだ。と、思った彼だったが、一瞬見蕩れてしまったのは飄々とした表情の下に隠してしまって。

「うふふっ。こんなところに住んでみたいですわね……きゃっ!」

「ヤダ、オヤクソクスギー」

耳に届く鈴を転がすような笑い声に続いてバランスを崩しかけたマリーゴールドに、何時ものようにからかいの言葉を投げるのであった。


ふと視線を流した先、蔦の絡む木が目に留まる。見上げると、薄紫の花房がお辞儀をしていた。
藤の花々を風が撫でる。黒檀の長い髪がふんわりと流れ、音無 淺稀は乱れないようにそっと手を添える。
隣を歩くパートナーであるマキナの少年、フェルド・レーゲンの癖の強い金糸も同じように揺れて遊ばれる。
誘われるまま、森に入った彼だったが戦闘の危険が無いとはいえ、隙無く周りに目を配っていたが。
内心では、パートナー手作りのお弁当を用意されていると聞かされ、それを楽しみにしていたり。
無意識だろうか。ポーカーフェイスの彼のほんの些細な変化。普段よりも表情が柔らかく見えた。
傍にいるからこそ、そんな空気を感じた淺稀は言葉を選びながら。

「たまには外の空気を吸って……こうやって二人で出掛けられたら素敵だなぁって思ってたんです」

お互いの視線が重なる。ほんの少し、勇気を出して……そっとフェルドの手を淺稀が握る。

(オトナシが来て欲しそうだったから……)

握り返した手は温かく。来てみようと思ったのは、そんな理由だった。


●妖精の泉
(なんだかんだクルトさんには最近お世話になりっぱなしです。この機会に歩み寄るのも大切……ですかね)

無理矢理に契約を交わされた経緯からだろうか。お世辞にも、普段の相手への態度はあまり良くないだろうと、とつとつと考えながらElly Schwarz(エリー・シュバルツ)は小道を進む。
けれど、いざパートナーであるCurt(クルト)とどんな会話を交わせばいいのか。
そんな様子を一瞥して口元に弧を描いたクルトだった。

ほどなくして辿りついた森の中の泉には、賑わう鳥の囀りが響いていた。
街中では見ることの難しい野鳥だろうか。近くの古木を跳ねるように戯れる二羽のつがい。
雨上がりではあるが下草は刈られている為、レジャーシートを敷いてくつろぐ事もできそうだ。

「ではでは、ここから自由行動になります!日が暮れる前には森を出発したいので、まあ……小一時間か二時間くらいですかね。
 日は長くなったとはいえ、まだまだぐっと冷えますからね!また声をかけさせてもらいますねー!」

ぐるりと一行を見渡して、にこにこと陽気な笑顔を浮かべた女性職員はそれだけ言うと何やら腕まくりをして袋を取り出している。
森の恵み集めをするつもりだろう。どうやら珍しい物もあるらしい。
医術に心得のあるディエゴや薬草に興味のあるエリーは、道すがら野草に混じり、薬草の類が生えていることに気づいただろう。
その他にも、詳しい者がいれば食べごろの山菜等も見つかっただろうか。けれど、それはまた別の話。

さて、考えあぐねていたエリーはというと。
辛党のパートナーにと用意したお弁当を渡そうとして固まった。
目前には黒い笑みを浮かべたクルト。嫌な予感しかしない。

「あの時の約束忘れてないよな?良い子ちゃん?」

――あの時、とは。以前参加した依頼で『ちゃんと協力してくれれば言うことを聞く』との約束を交わした件だった。
それ以前にもひと悶着あったからこその約束ではあったが。いや、ダメだ。思い出してはいけない。

「そうだな、例えば……エリーの膝枕で森林浴も悪くない。あとは弁当、アーンって奴でもやってもらおうか。それくらい別に良いだろ?」

フリーズしたままのエリーを置いて要求は続けられる。さも、『言うことをきくのは一つだけの約束だったか?』と、言わんばかり。
ひょいっと開けられたお弁当の中身を見て、クルトの視線がエビチリに留まった。

「……もしかして、エビチリ好きなんですか。クルトさん」

「……」

珍しくだんまりなのを不審に思ったエリーが意図を読み取ったのか。エビチリをひとつ、クルトの口元に運んだ。
……恥ずかしくはありますけどね!

「良く出来ました」

ぺろり。と、唇をひと舐め。表情こそ不遜ではあるがとても満足そうな顔でクルトは笑った。


一方、ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロの二人は、泉から少し離れた木陰でハロルドの用意したサンドイッチを広げていた。
根を詰めた顔色のディエゴを配慮して、昼下がりの眩い日差しを避けてのことだ。
何も無い所から確かな信頼関係を築いてきた二人。親鳥と雛鳥のような、そんな二人。
気持ちのいい休日。朝食の何気ない風景の、ほんのちょっとの違和感。拙い感情ではあるものの、それがハロルドがディエゴを森林浴に誘ったきっかけだった。

「サンドイッチどうかな?美味しい?」

「とても上手に出来ている。上手くなったな」

覚えたての料理だ。不揃いではあるが、作った人の心の篭ったもの。胸がほんのり温かくなる。
微かに漏れる笑み。些細な表情の変化だが、ハロルドはとても嬉しそうだ。
寄り添うように座る彼女はオッドアイ――泉のような青く澄んだ瞳と月の光を浮かべた金の瞳でそっと見上げた。
ディエゴの鋭く、涼しげな金の瞳の下にはうっすらと隈ができている。そう、感じた違和感はそれだった。
新聞を毎朝欠かさず見ることも、自分の為なのだと気付いていたから。
だから、ハロルドは決めていた。『今日はディエゴさんのゆっくり休む日』なのだと。

ぽんぽん、と。自分の膝を叩くハロルドに、ディエゴは不思議そうにして。

(ここで寝ろ……ということなのだろうか)

逡巡しているのを見兼ねてハロルドが続ける。

「しっかり休みを取るのもウィンクルムの仕事だぞ、ってディエゴさん言ってたじゃない。ここで寝るのが不安ならかわりばんこに寝ようよ、今はディエゴさんの番」

持参した医学書でも読もうと思っていたが、どうやら譲らないらしい。
未だディエゴの中では、ハロルドは雛鳥のようなもの。いつの間にか、彼女の成長に驚くことも多くなった。

(思い出すな……まだ私がディエゴさんと出会って間もない頃)

ハロルドが思い浮かべたのは、物心ついた頃の過去の出来事。
翡翠の木陰の下、パートナーの膝に頭を預けたディエゴの見た夢は、出会って間もない頃のハロルドとの思い出かもしれない。


他のパートナー達も各々シートを敷いてお昼ご飯を食べる姿が。
澄んだ泉の水に反射した光がきらきらと水際の花々を彩る。
泉のほとりに腰を下ろしたのはマリーゴールドとサフランだ。

「よーし昼飯ーああ、腹減ったー」

パートナーのサフランの言葉を聞いて、マリーゴールドは手製のサンドイッチを差し出した。

「ピクニックにはサンドイッチでしょう?たくさんありますからお好きな物を食べて下さいな」

並ぶのはトマトにスモークチキン、ジャムに卵。どれもとても美味しそうで。
トマトのサンドイッチを手に取り、ぱくり。美味しい。

(……あー、マリーゴールドさん?もしかしてこいつは手作りという奴ですかね)

言葉には出さないが喜色が浮かぶ。綺麗にすべてを完食して、ごちそうさまの一言を。


フェルドにとってはお楽しみの時間。家事が得意な淺稀の腕によりをかけて作られたお弁当は豪華だった。
ハンバーグとフライドポテト、牛蒡の金平にから揚げ。後は旗のついたオムライス。
それを見ただけで、無表情なフェルトの瞳が輝いた。
可愛らしい猫と犬の形のおにぎり――このおにぎりも凝っていて、中身は猫の方には鮭とおかか、犬の方に肉みそとシーチキンマヨネーズが入っている。を、持ちながら淺稀は柔らかい笑みを浮かべた。

(お昼寝するのも、きっと素敵ですよね。手を繋いで眠れば、もっと貴方のことわかるでしょうか……)


●花言葉を教えて
少し離れた場所で言葉を交わす二人の姿が。
メーティス・セラフィーニとそのパートナーであるブラウリオ・オルティスだ。
所謂、隠れたデートスポットとの呼び声だ。ブラウリオは口元を緩めながら軽い口調で告げる。

「メーティスからデートに誘ってくれるだなんて嬉しいなぁ」

「もう!これはデートじゃないです。違います。ニヤニヤしないでください!……話したいことが、あるんです」

その軽口も、彼の態度も。どこか緊張した面持ちのメーティスへの配慮があることを、彼女は気づかぬまま。
二人の関係は、少し普通のパートナーたちとは違っていた。
歩きませんか?と、促すメーティスの言葉にブラウリオが添えたのは気遣いの言葉だった。

暫し無言で歩を進める。幸い、森は自然の音以外はとても静かだから。
小川と泉の合流地点、清水の麓まで来るとさやかに流れる水音が心地よい。
元気の無かったパートナーの姿を、内心では気にかけていたから。

「私……戦うのが怖いんです」

口を開いたメーティスの言葉を、ブラウリオは黙って聞いていた。

「そんなこと言ってる場合じゃないのは分かっています。でも、私には他の神人のように戦う覚悟がない、できないんです。
 私や、他の人……オルティスさんだって、傷付いて……目の前で死んでしまうかもしれない……怖いんです。戦いたく、ないんです……っ」

堰を切ったように、想いが、言葉が溢れる。
翡翠色の瞳から堪えきれずに雫が落ちた。頬を濡らす涙が幾筋も流れる。

「……怖いんです。戦いたく、ないんです……っ。こんな契約者でごめんなさい」

彼女は過去に囚われたまま、どうしても癒えない傷を抱えて生きている。
この恋は一生。告げてあるとはいえ、もう誰かを亡くしたりしたくない。
それが身近な人であればあるほど。そんな、痛いくらい切実な訴えだった。

「話してくれてありがとうメーティス」

不意に頭に触れる、大きく暖かな掌。ブラウリオは優しくメーティスの頭を撫でた。
撫でる手と同じ優しい声音で続ける。

「戦わなくていい、俺の後ろにいてくれ。何でロイヤルナイトになったと思う?泣き虫なお姫様を守るためだよ
 それとね俺は思うんだよ、敵を倒すだけが『戦い』じゃないって。メーティスに出来る『戦い』がきっとあるはず」

「私に出来る、戦い……あるでしょうか?私でも、戦えるのでしょうか」

自分に出来る戦いがある。そう、諭され反芻する。
心に灯る、暖かな光。目の前には、支えてくれるパートナーがいる。

(ありがとう……ブラウリオさん)

貴方の名前も、口にする勇気はまだないけれど。
未だ涙の止まらない様子のメーティスの翡翠の髪に、ブラウリオは密かな誓いを胸に白いつつじの花を挿し入れた。


●森と泉の祝福
お昼寝ムードの泉のほとり。まどろみに包まれた空気はとても穏やかなものだった。
濡れてはいないが、横になった背にはシート越しに乾いた地面よりも柔らかな感覚。
両手を広げて寝転んでいるマリーゴールドに誘われたサフランが軽口も交えて横になった頃。

陽だまりの中、祝福するように淡い光が幾つも昇る。萌える森の木々を背景に陽光に同化する白い光。
泉の水を跳ねるように渡っていくその光を瞳に映したのは誰だったか。

「……ああ!?」

逆さまの視界で、不思議な光をサングラス越しに見付けたサフランが声を上げた。
妖精に焦がれていた当のパートナーはというと、澄み渡った雲ひとつない青空を仰ぎ見ていて。
空を飛んでいるように見えるのだと語るマリーゴールドの言葉を遮り、泉の上の光の輪舞を指差した。

膝に凭れる重さと温もりが眠りの世界に誘って。うつらうつらと重い瞳のハロルドは、夢見心地で其れを見た。
手を繋いだまま、別の木陰でお昼寝をしていた淺稀も上がった声に薄らと開いた紅玉にその姿を映す。
渋々膝枕をさせられていたエリーも驚いた様子で小さな口を開いて。
そっと控えめに二人並んだメーティスにもその光の祝福が届いた。

「ひゃあ……まさか本当にいるなんて……!」

そう、思わず口から溢れた言葉。同行していた女性職員も目をぱちくりさせながらつぶやく。
――いるかもしれないと告げたのは自分だっただけれど……目の前に広がる光景に、ウィンクルムの皆と同じく魅入ったようだった。

翠の森の泉の上で、ふわふわ踊る妖精たちの祝福の輪舞が終わりを告げたのは、渡る風にほんのりと夕暮れの気配を連れた空気が流れる頃だった。
今までのひんやりした空気ではなく、底冷えする冷気だ。
ゆっくりと傾き始めた太陽に混じるように、儚さを感じさせるように、光の余韻を残して溶けるように消えたのだった。

「とても綺麗でしたわね……」

ぽつり。と、マリーゴールドが嘆息交じりでつぶやきを零す。
名残惜しいと言葉にせずとも、皆どこかで同じ気持ちを胸に抱いて。
それを合図に、各々身支度を始めて。ゆっくりと日常へと戻る為、来た道へと再び歩を向ける。
影の長くなった季節だ。茜色は滲まずとも、森を抜けた頃には時刻はそろそろ夕刻に差し掛かるだろう。
夕涼みには少し早いが、爽やかな空気は未だ健在だ。帰路も十分、森林浴として楽しめるだろう。

振り向いた泉は、来た時と同じように静かに清水をたたえていた。

のんびりと、ゆっくりと流れた二人だけの時間。
どうか、大切な思い出になりますように。と、皆で見た光はそう告げていたような気がして。
暮れゆく森の小道を歩きながら、二人の心の距離も縮まったのか行きよりも会話の弾む一行に女性職員はこっそりと嬉しそうだ。

萌える翠の木立の間を、つがいの小鳥たちが遊ぶように空へと飛び立ったのだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 鬼騎  )


エピソード情報

マスター 文月うさぎ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月05日
出発日 05月11日 00:00
予定納品日 05月21日

参加者

会議室

  • ごきげんよう、マリーゴールド=エンデと申します。
    皆様、どうぞよろしくお願いしますっ

    森林浴、楽しみですわねぇ。妖精さんにも出会えるかしら?わくわくしますわっ
    楽しい時間が過ごせますようにっ

  • 初めましての方は初めまして、メーティス・セラフィーニと申します。
    そうでない方も依頼で一緒になるのは初めてですね、よろしくお願いします!

    野鳥や花も楽しみですが、今回は精霊とお話がしたくて参加しました。
    良い一日になりますように!

  • [3]音無淺稀

    2014/05/08-00:53 

    初めましてとこんばんわ、でしょうか。
    音無淺稀と申します♪

    森林浴…素敵ですねぇ♪
    精霊さんと素敵な散策ができるよう、皆でがんばりましょー!
    宜しくお願いします!

  • [2]ハロルド

    2014/05/08-00:28 

    はじめましての方ははじめまして
    そうでない方はこんばんは&お世話になります、ハロルドと申します

    みんなで楽しみましょうー

  • こちらでは初めましてな方が多いようですね。
    僕はElly Schwarz、エリーと言います。精霊はディアボロのCurt、クルトさんです。

    こう言った行事は各自かと思いますが
    あちらでお会いした際はよろしくお願いします。


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