プロローグ
「ウェルカム! ワンダーランドへようこそ、ウィンクルムの皆様!」
パークの常駐スタッフが陽気に一行を出迎える。
タブロス近郊に設置された特設テーマパーク『不思議の国の眠り姫』。
新しく出来たテーマパークとだけあって、オープン前から既に評判は上々だ。
そして、ここへ数名のウィンクルム達が招待された。
「いつも世界を守っていただいている皆様ですから、プレオープンにて特別なご招待です! どうぞ楽しんでいってくださいね!」
「へえ、本格的だなぁ」
「閉鎖予定の建物一つ貸しきってるんだってさ」
大きなビル型の建物にそれぞれゲームやアトラクションが設置されている。
一行はそれを解き明かしながら、最上階にあるゴールを目指す、という趣旨のもの。
館内は御伽の国の様に華やかで、メルヘンテイストの装飾や壁紙に彩られている。
しかしスタート地点である最初の階層で、彼らは突然のアクシデントに見舞われた。
ブシューーーーーーーッ!!
「な……なんだ!?」
突然襲い掛かる煙幕――いや、これはガスだ!
ある者は咄嗟に口と鼻を塞ぎ難を逃れるが、催眠性を備えたそれに一行はバタバタと倒れていく。
戦闘力を削がれた彼らの元へ、扉から姿を現したトランプ兵達が襲い掛かりメンバーの半数を連れ去ってしまった。
そこへすかさず館内放送が流れる。
『ハァイ! ウィンクルムの皆様! これからが本番ですよ!』
「ッ! なんだ、これはただのゲームじゃ……!?」
『ゲームですよ? 貴方達の愛の力で、このダンジョンをクリアしてもらうためのね!』
「なんだって……!?」
ヴゥン、と音を立てて、天井から下げられたモニターへ、ウサギの仮面を付けた主催の男が姿を現した。
「はじめまして。マントゥール教団の、シーアと申します。以後お見知りおきを」
「何の真似だ、彼らを返せ!」
「言ったでしょう? このパークを全てクリアすれば無事返して差し上げますよ。……もっとも、最後までクリアできればの話ですが――」
モニターへ再び、今や人質となった数名のウィンクルム――パートナー達の姿が映し出された。
牢に捉えられ、今は眠っている。
「私どもの仲間の一人に、催眠の得意な男がおりましてね。ご安心を、彼らを殺すような真似はいたしません。私の目的は、あくまであなたがたの戦力――心の力を殺ぐことにある」
「何が言いたい……!」
「ふふ、それは後のお楽しみです。最上階でお待ちしていますよ。……さてそれでは、楽しいゲームになることを」
「待て!」
ヴゥン、と音を立てて、再びモニターの電源は切れてしまった。
「……とりあえず、最上階を目指せばいいんだな」
一行は再び、目下にあるゲームのクリアを急いだ。
解説
▼目的
それぞれの階層でゲームや課題をクリアし、最上階に囚われているパートナーを救出すること。
なお、最上階で戦うボスは人質となり、催眠術で操られているパートナーとなります(※PL情報)
・1階層…脱出ゲーム。全員で計算やなぞなぞなど簡単な問題をクリアし扉を開いていく
・2階層…デミ・オーガの殲滅。ただし戦闘に挑めるのは2人まで(神人・精霊問わず)
・3階層…デミ・オーガの殲滅。ただし戦闘に挑めるのは3人まで(上気に同じ・二階層と被っても可)
・4階層…疑心の迷路。ゴール地点でひとつ質問に答えてもらいます。内容は後述に。
・最上階…それぞれ個室でボス戦(各パートナー)
▼プランにいるもの
①人質となるのはどちらか(見える者が全て敵、のような催眠状態であるため、全力で相方に襲い掛かります。倒せば目を覚ましますが、眠り姫の目を覚ます王子様の定番行動は何か、見当つく方は戦闘中に試してみてください。人質側のプランには相方との戦闘時の動きもあれば)
②1階層でシナリオ中に解きたいクイズやなぞなぞがあれば回答とあわせてどうぞ。
③2階層(対デミ・ワイルドドッグ三体)及び3階層(対デミ・ボア二体)で戦う人選
④4階層での質問【あなたとパートナー、どちらかの命しか取れない選択を迫られた時、あなたはどうするか】の回答
⑤対パートナー時の戦い方
⑥事後のやりとりなど何かあれば
最上階まではそれぞれ相方が捕われてのゲームになるため、ボス戦以外は交流メインの動きになるかと思います。
文字数がかなり限られると思いますので、プラン記入は難しければ一部、ざっくりした箇条書きとかでも構いません。
すべての人質が元に戻れば成功となります。シーアの倒し方は考えなくても構いません。
操られている側が相方に襲い掛かった記憶に関しては、元に戻った時も保持されているものとします。
ゲームマスターより
お世話になります、梅都です。
アドリブが大量に入りそうな構成なのでEXです。2階層と3階層の敵レベルも低く設定しております。
大丈夫だよ! という方はどうぞお気軽にご参加ください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハティ(ブリンド)
眠り姫… 話の中に情報がないか思い出そうとする 分断されないよう連携意識した距離感、行動は戦闘中に限らず 手分けする場合も?と思ったら声掛け共有を 2F3F対応 必要なら広い場所へ誘導 フリーを作らないよう対峙し数が減ったら挟撃へ 敵の攻撃の直撃は避ける あれば遮蔽物やロープ、立入禁止のポール等 移動や武器に使えそうな物は頼り過ぎない範囲で利用 支援に動けるよう積極攻勢 見ているなら聞くまでもないと思うが 彼の命を取る 反撃して攻撃を誘い彼が近付く機を待つ 思い出してもらいたいもんだな …悪いな 血を使って視野を奪い知りたいか?と顔を寄せ 構わず口を塞ぐ 先に謝っただろう 汚した眼鏡を外してやりトランス アンタには仕事がある 逃がすな |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
1救出側 2皆に任せた!(無意識で考えて回答。勘で判断) 3対デミ・ボア戦 一太さんへチューニングシンフォニア使用。 高防御を活かし盾役。 味方へ攻撃が行かないよう敵の気を引く。 敵攻撃は受け流し死角を突いて攻撃。 4「両方だ!」 どんな時も最後まで諦めない。 全力を尽くせば活路は開ける。 5先の質問からこれは予想してた。 どちらも諦めない、を証明するぜ。 正気失っているならキスしてラキアの本心に揺さぶりをかけるのが得策だろ。 心の力を削ぐのが敵の目的なら、その逆が打破方法だ。 とオレの勘が告げている! ラキアが近づいてきたらチャンス。隙をつきキスするぜ。 正気に戻ったらそのままトランス。 他の人と敵を追い詰め、捕まえる。 |
李月(ゼノアス・グールン)
人質 相棒戦 武器にはスタン効果 勝機はある 相棒が来てくれるまで倒れてたまるか 手加減されてる? 立ち回りに見覚えが ゼノ…? 迷いで隙 気絶時に死を覚悟 ゼノ…無事で… 目を覚ませば相棒の顔…え? 事態に焦り顔跳ね除け何しようとした!? 顛末聞き謝罪 何でもないみたいにされいつもの相棒で感謝 トランス 大怪我してたらサクリファイス 場所確認 警戒しながら仲間との合流目指す シーアと話せれば こっそり携帯電話で録音 心の力を殺ぐって、データでも取ってるのか?何かの実験? 隙見て奴の顔写真撮りたい 戦闘になればスタンさせ 紐調達し拘束したい ここは閉鎖予定の建物…爆破破壊なんてまさかね 脱出後 本部にデータ提出と覚えている事報告する 記憶1 |
アオイ(一太)
人質 ●戦闘 一太が僕を呼んでいるようですが、催眠状態ならば気付かないでしょう。 武器を使用するなら、それで斬りかかります。 基礎能力は今の所大差ないので、彼を追い詰めることができるかもしれない。 「なんで武器を捨てるんですか? 僕のこと、甘く見てます?」 ●事後 どうしてこんなことに……。 一太、大丈夫ですか? 怪我は? すみません、本当にすみません。迷惑をかけましたね。 あなたを殺してしまうようなことにならなくてよかった。 もう一人にはなりたくないです。 シーアを憎いと思うよりは、自分が情けないです。 でも、仲間が彼を捕まえたい・戦うというのであれば、協力します。 逃げるのであれば、一太が追っても、僕は追いかけません。 |
●上を目指して
『では、ゲーム開始といきましょう。一階は簡単なクイズに答えてもらう脱出ゲームとなっております! 間違えた場合はお手つきにつき一回休みとなりますので、どうぞご留意ください』
一階層の大きなホールへと案内された一行の前に、大きなモニターが表示される。
一問目! という文字の後、紙面に散らばった緑色の字がパッと表示された。曰く文字の並べ替えクイズ、だそうだ。
「やき……たこ? これで正解じゃないのか。こういうのは得意じゃないんだ」
精霊の一太が目を凝らしてうーん、と唸る。
回答が早かったのは隣で見上げる精霊ゼノアス・グールンだ。
「たこやき、だろっ?」
『正解です!』
ピンポン、とチープな効果音が鳴り画面が切り替わる。
考えてみれば子供向けの、至極簡単な答えのはずなのだが、画面の色合いや配色から巧妙に解き辛く工夫されているタイプのものだ。
「ゼノアスさん、早かったですね」
「へへ、こう見えて、たこやき大使様だからな!」
「たこ……?」
首を傾げる一太へゼノアスが得意げに笑うと、二問目! と次のクイズが表示された。
『花屋さんがトラックの積荷に、菊、薔薇、梅の花を積んで走っています。急な曲がり角へ差し掛かったとき、最初に落としたのは何でしょう?』
「花……か。言葉遊びか何かだろうか」
考え込むような仕草で、問題を反芻する神人のハティ。
「スピード!」
『正解です!』
答えたのは神人、セイリュー・グラシアだ。
考えるのは苦手なんだ、と言っていた割にすぐ放たれた答えは、規律正しく、と育てられた彼の性格を現しているとも言える。
「すごいな、驚いた」
「最初に落とした、で気付いたんだ。交通ルールは守らないとな」
その後も難なく問題を解いていき、お手つきは数度あったものの、十数分と経たない内に一階はクリアとなり、二階へ続く扉が開いた。
階段を上がりながら一太は慎重に考える。
「こんなにあっけないなんて……何か裏でもあるのか?」
「……確かに」
一太の言葉に、ハティは頷く。
人質を取っておきながら、あまりにも安っぽいゲーム感覚のミッション。
そもそもこのテーマパークだって何の為に建設されたのか分からない。
わざわざこんな事の為だけに作られたのか、最初からあったものを乗っとったのか――いずれにせよ、今はとにかく相方を取り戻すのが先決だ。
『ここ二階と三階では、皆さんにある生き物と戦ってもらいます。被っても構いませんが人数制限がありますので、順序と人選にはご注意を』
「なんでもいい、さっさと出しやがれ!」
ゼノアスが『サウンドオンリー』と表示されたモニターに向かって吼える。
アナウンスは最初に聞いたシーアのものではない。おそらく数人、パークのスタッフが配置されて、グループで役割を分担しつつゲームを勧めているのだろう。
大切なパートナーを人質に取られた事は何より、そうやって上から見下す様に一行を弄ぶ姿勢が気に入らなかった。
『二階で戦って頂くのはデミ・ワイルドドッグ三体、更に上の三階で戦って頂くのは、デミ・ボア二体。いずれもたっぷりとおなかを空かせています。ご健闘を!』
「デミ・オーガまで……邪眼のオーブも絡んでいるのか?」
それらを使役するという事はどこかにオーブがあるか、何らかの方法で捕縛したものを放つ心算なんだろうか、とハティは分析する。
教団がどの程度の力を持つのかは未知数だが、普通の人間が太刀打ち出来ないような生き物を使役しているのだから、前者である可能性は高い。
倒した後も、オーブの場所は捜索しておいた方が懸命かもしれない。
「頼んだぜ、ふたりとも!」
二階層で一行が選出したのは神人であるハティと、シンクロサモナーのゼノアスだ。
三階層での敵構成を考えて、記憶しているデータとも照らし合わせ、皆に任せた方が得策だ、とセイリューは判断し外野に立った。
防御が低く攻撃特化型のステータスを持つ一太も、デミ・ボア戦に体力を温存し、ここは任せて皆の戦い方を学ばせてもらおう、と殊勝な姿勢だ。
「来た……!」
天井が開き、ゴウン……と重々しく鉄の檻が降りてくる。
窮屈に閉じ込められた凶暴な野犬達が一斉に吼え出した。
(……移動や武器に使えそうなものは)
ゼノアスの隣に並び立ち、戦闘開始までに部屋を一巡見回しながら、ハティは考える。
大きく開けたコンクリート張りの壁に配線が剥きだしの天井。
隅にはもう使われなくなったであろうパイプ椅子やロープ、立ち入り禁止の札が貼られたポールなどが、乱雑に凭れ掛けられている。
『それでは、ゲームスタート!』
合図と共に檻の扉が開かれる。
統制も取らずバラバラに飛び出してきた野犬達の一体がすかさずゼノアスに飛び掛かった。
「でりゃあッ!!」
ゼノアスの武器――テーマパークに行くならこういうメルヘンなやつだろ! と装備されたベアザハンマーが、迎え撃った野犬に重い一撃を与える。
殴り飛ばされた野犬にはスタン効果が決まり、狙い通り気絶してくれた。
持ち主――ゼノアスの感情に呼応し、怒りの形相を浮かべたクマのオーラに当てられて、後ろから迫り来る二体も気圧された様に勢いを無くし、じりじりと後ずさった。
「こんなモン、早いとこ突破して、オレはリツキのとこに行かなきゃなんねぇんだよ……!」
獣の様に瞳孔が開き敵に標準を据え、ハティと背中を預ける形になるよう陣形を組む。
気絶した一体を除き、二人の目前には一体ずつ野犬が牙を剝いている。
「ガアァウッ!!」
ハティの目前に構えていたドッグが不意に飛び掛かった。
攻撃を受ける寸前で己も前へと飛び出し、受け流す動きでレイピアを振りぬく。
ギャン! と悲鳴を上げて地に伏せるが流石に一撃掠っただけでは倒れない。
興奮して再度向かってきた野犬の動きを鋭く見抜き、額にレイピアを突き立てた。
「ギャアアアッ」
鋭く急所を射抜かれもんどりうって、間もなく野犬は動きを停止させた。
それを見届け、まず一匹、と呟いて息を整える。その様子に、ゼノアスの正面へと対峙する野犬も慎重になっているようで、グルルル……と低く唸り二の足を踏んでいる。
「こねぇなら……こっちからっ!」
強面のクマを振り上げ殴り掛かるが、やはり警戒しているこちらは容易く避けられた。ちょこまかと……! ひとつ舌打ちして追撃するが、野生に生きる俊敏なハンターの足を捉えるのはことのほか難しい。
「ゼノアスさん、これを!」
「! 助かる!」
道具の中から掻っ攫ったロープを、ハティがゼノアスへと手渡す。
持ち前の狩猟技術で間髪入れずロープを放ち、野犬の足を絡め取った。
「ギャアウッ」
「ハティ、頼むぜ!」
「ああ!」
追撃にかかったハティのレイピアで二度三度と突きを繰り出せば、こちらの野犬もほどなくして力尽きた。
その間に気絶していたもう一匹が目を覚まし立ち上がるが、動き出す前にゼノアスのハンマーが叩き潰した。
今度こそ完全に沈黙した三体を確認して、二人と、見守っていたセイリューや一太もようやっと安堵に息を吐き出す。
「……トランス無しってのは、中々やっぱり厄介だぜ」
攻撃は通るがスキルまで完全に封じられるのは精霊にとって手痛い。
「それでも善戦したと思う。強い人だ」
「ハティこそ。オレのスキル見抜いてたんだろ? よく周り見てんだな」
リツキみてぇだ、と呟けば愛しいパートナーの顔が頭に浮かぶ。早く助けてやらないと、と気だけが焦る。
ハティもひとつ頷いて、仲間らと共に開かれた扉をくぐり三階層へと進んだ。
『二階層クリア、おめでとうございます皆様! 三階層は先に申し上げた通り――』
ゴゥン、と鉄の檻に閉じ込められた猪が二体、面々の前へと下ろされる。
興奮状態にあるデミ・ボアは檻へと突進を繰り返し、鉄格子が派手に音を立て揺れていた。
戦いにと選んだのはセイリュー、一太、ハティの三人だ。
「ハティさんは連戦になっちまって悪い。よろしくな」
「立候補したのは俺の方だ、構わない。極力支援に動こう」
ハティの言葉に頷いたセイリューは、檻が開くより前に、武器の恩恵であるチューニングシンフォニアを一太の大剣へと掛ける。
すかさず飛び出してきた猪と一太の間へ入り、突進攻撃を受け止めた。
ガアンッ!! 派手に衝突音が響く。セイリューの体へ衝撃が伝わるが、踵を踏みしめダメージは決して仲間まで通さない。
反動でぐらり、とよろめいた猪へと、一太の大剣が振り下ろされる。
「たあっ!!」
ドスン!
圧し斬る様な重い一撃に、勝負は一瞬で決まった。
よたよたとよろめいてどすりと地に横たわり、そのまま猪は動かなくなる。
二人の連携が決まった間にも、広い場所へと誘導されていたもう一体がハティに向け突進を繰り出していた。
連戦で神経を研ぎ澄まし続け、野犬と猪の攻撃を避け続ける精神力は生半可でなく、流石に息は切れるがなんとか直撃だけは免れていた。
ズガン!! コンクリートの壁に突き刺さった角が深く嵌り、抜け出せずもがいていた猪の元へと一太が駆ける。ギャリリ、と切っ先で火花を散らしながら地を削り、猪の身を目掛け下から斜め上へと大剣を振り抜いた。
「ギャアッ!」
「もう、一発!」
脚を斬られもがいた猪の脳天へ、重力で加速した大剣が壁ごと斬り裂いて、ドガン!! と重い音を立て叩きつけられた。
「ギャ……ッ!!」
壁に嵌ったまま力尽き、猪は動きを停止した。
二体が完全に沈黙したのを見届けて、三人は肩の力を抜く。
猪突猛進の言葉通り、動きは読みやすいが火力と高さが特徴の二体を上手く仲間内で分断し、こちらも高火力の大剣でそれぞれ仕留めたと言う形になった。
間で盾になってくれたセイリューへ一太が駆け寄り大丈夫だったか? と見上げれば、未だ痺れる手をひらひら振りつつへーきへーき、と返る。
「こっちも硬いのが取り柄だからな。猪は流石に効いたけど……一発で仕留めてくれたし」
「敵の脚を止めてくれたおかげだ。ハティさんも――」
武器を収め二人の元へ歩み寄ったハティの腕にはほんの僅か血が滲んでいた。突進攻撃を受け流した際、角が掠ったらしい。
応急処置にと一旦は布を巻いて止血したが、この腕での戦闘は難しいだろう。
二戦目で良かったとも思うが、最上階で何が待ち受けているのかわからない以上気は抜けない。
開かれた扉をくぐり、一行は四階層へと進んだ。
『三階層クリアおめでとうございます! さてここ四階層はテーマパークおなじみ、疑心の迷路。頑張ってクリアを目指してください』
スタート、の合図が響き、三階層で休んだ分もあってか先を急ぎたくて仕方の無いゼノアスが我先にと駆け出した。
「待ってろよオレのリツキ! うおおおお! って早速行き止まりかよオイ!」
ゴールはこちら、と書かれた方向へ走ったにも関わらず、全力で壁に突っ込みぶつけた鼻先を抑えつつゼノアスは喚いた。
あちゃー、とひとつ苦笑したセイリューはぐるりと一巡、壁を見回す。
「草や蔓で上手く偽装されてるけど、分岐が分かり難いな。一見ゼノアスさんの進んだ方向しか行先がないように見えるけど――」
のれんのように絡まる蔓をくぐり抜けると、別の細い通路に出た。
長く続く通路の先にまたゴールはこちら、の札が見える。
「なるほど、疑心の迷路か。案内に従っちゃダメなんだな」
「チッ、めんどくせえ仕様だぜ。悪趣味なモン考えやがって」
一太の納得ぶりに、鼻先を擦りつつゼノアスが続ける。
「迷路の定番に、右側に手を付きながら進めばいい、と言う物もあるが……あれはどうなんだ?」
蔦を避けながらハティが問うと、前を歩く一太が「万能ではないんだ」と答える。
「平面なら可能だが、二階に出口があったりした場合は入り口に戻るだけだったりする。何より時間を食うから、急いでる時には向かない」
「詳しいんだな」
「仮にも遊園地勤務だからな。クマだが」
「クマ……?」
それなりに急ぎつつも、進むにつれ難解になる分岐のカモフラージュはハティとセイリューを中心にその都度見抜いてゆき、一行は無事ゴール地点、と書かれたポイントへと辿り着いた。
しかしその先へ更に、今度はわかりやすく四つに別たれた通路が用意されている。
例のアナウンスがまた鳴り響いた。
『ゴールおめでとうございます! と、言いたい所ですが――この先にある質問に答えてもらい、それぞれ個別に扉を潜っていただくことで、この迷路は完全クリアとなります』
「あんだよ、またクイズか何かか? 人をコケにすんのも大概にしやがれ!」
『まあそう仰らず。ここが終われば今度こそ、あなたがたの大切なパートナーに会わせて差し上げますよ』
ご健闘を、と告げてアナウンスは切れ、辺りはまた静寂に沈んだ。
「……どうする?」
「行くしかねえだろ」
「ああ。他に道も無さそうだ」
「みんな、気を付けて!」
一斉に四つの扉へと駆け出し、バン! と扉を開く。
そこには短く、上へと続く階段があり、五階――最上階へと続く入り口が小さく見えた。
アナウンスの言葉を鵜呑みには出来ないが、シーアも最上階で待つ、と言っていた。
急く足取りに任せ最初に扉へたどり着いたのはゼノアスだ。
ドアノブに手を掛ける――と、ピンポン! と機械音が鳴り響き、頭上から質問が振ってきた。
――あなたは、パートナーと自分、どちらかの命しか取れない選択を突きつけられた時、どちらをとりますか――?
ゼノアスはギリ、と奥歯を噛み締め、スピーカーへ向け人差し指を突きつけた。
「そのふざけた選択を、迫ったヤツをぶちのめす! シーアだったか、覚悟しとけ!」
また同じように回答を求められた三人も。
「アオイを生かすと言いたいが、あいつはたぶんそれを望まない。ふたりで生きられるようあがいて、それでもダメならアオイの判断に従おう」
凛とした瞳で静かに回答したのは一太。
「見ているなら聞くまでもないと思うが、彼の命を取る」
当然の事のように答えたのはハティ。
「両方だ!」
一歩踏み出し不敵に笑んだのはセイリュー。
「どんな時も最後まで諦めない。全力を尽せば、活路は開ける!」
頼もしい神人の答えを合図に、四つの扉がギィ……と音を立て、開いた。
●敵との戦い
「……リツキ!」
ゼノアスが辿り着いた扉の先で、待っていたのは相棒――神人である李月だった。
特に目立った外傷もなくほっと安堵して、焦がれた姿に名を呼び駆け寄ろうとするが、背後の扉が大きな音を立てバタン! と閉じ、鍵のかかる音が聞こえて不意に我に返る。
(様子がおかしい……?)
ようやっと待ちわびた愛おしい精霊が助けに駆けつけたと言うのに――いや、そりゃ多少は自分の驕りもあるかもしれないがともかく――少なくとも自分と同じようにこちらを心配していたであろう彼が、呼びかけても言葉ひとつ返さない。
先程の迷路の事もある。本物だろうか……? 躊躇して二の足を踏んでいると、不意に神人の手が動いた。
「ッ! やべっあいつの武器――」
大きく振り翳されたポップな柄のハンマーがゼノアスに向け振り下ろされる。
ドガン! 見た目に反し硬質な重量を持つそれは、反射的に後ろへ飛んだゼノアスが居た場所へ深々と突き刺さり、コンクリートの床を容易く破壊した。
「リツキ! おいっ、一体どうして――」
視線が交わる。瞳に、色がない。
こちらを見ている筈なのにそのアイスブルーは酷く空虚だ。
は、と彼が攫われた後に現れたシーアの言葉をゼノアスは思い出す。
「催眠が得意な……そういう事か!」
心まで操られた李月は、ぐっと武器を持つ手に力を込め、ゼノアスに向けて再びハンマーを振り翳した。
「くだらない罠に引っかかるな! 人が……好過ぎるだろッ!!」
刀身で攻撃を受け止め一太は叫ぶ。
既に短剣による軽傷を左腕に負っており、思うように力が篭らない。
アオイ! と間近で呼びかけるが、込められた力は微塵も揺るがず。
武器のリーチ差はあれど、アオイと一太には今の所、基礎能力としてはそれほど大差がない。
何より操られていると分かっていて、大振りな大剣を迂闊に彼へ向ける訳にはいかず、一太は限りなく防戦一方だった。
『ここは眠り姫のお城。果敢に駆けつけた王子様、さぁどうやって御姫様を起こしましょうか?』
悪戯なアナウンスが前触れもなく響いた。
見当は着く。仮にもテーマパークでクマを被っている身だ。が、しかし。
「……できるか、そんなもの!」
カッ! と頬を茹で上がらせて、一太はその誘導を一蹴する。
同時に前方へと力を込めて、アオイの短剣を弾き返した。
「……? 何を……」
アオイが数歩後ずさり、崩された態勢を整えたところで、不意に一太は一つ大きく息を吐き出し、武器を手放した。
眉を顰めるアオイの目前で、ゴトン、と重い音を立てて大剣が地に転がった。
「……なんで急いでたか、忘れちまったな」
ここまでしといてなんだが、と無機質に告げるブリンド。
蹴りでぶっ飛んだ先には、ごほ、と一つ咳払いしたハティがゆるゆると体を起こしている。
応急手当にと結んだ腕の布が激しい動きに負けて解けていた。
「さっさと終わらせて、迎えに行かなきゃならねぇはずだったんだが」
「誰をだ」
「言っただろ。忘れちまった」
「……思い出してもらいたいもんだな」
「ああ。てめえを片付けてから……考えるさ!」
腕を抑えてハティが立ち上がると、再度ブリンドが駆け出した。
弱点は無意識に見抜いているようで、負傷した箇所を狙って蹴りを繰り出してくる。
ガンナーとしての彼を長く見てきたハティには、肉弾戦で彼の動きを捉えるのは難しい。
防戦主体の動きに加えての止まない出血はじわりじわりと彼の体力を奪っていく。
「っ!」
ハイキックが切り傷に直撃して――否、自らさせたというべきか。
開いた傷口から散った鮮血がブリンドの眼鏡を汚した。
「チッ……!」
鋭く舌打ちした瞬間、狭められた視界に敵――ハティが迫る。
仕掛けてくるかと構え、飛んできた拳を難なく避けて足払いを決めた。
がっ、と首を掴みコンクリートへ引き倒す。背中を強くぶつけたハティがぐぅと呻いた瞬刻、間髪いれずマウントポジションを決める。
「……あっけなかったな」
馬乗りのままギリ、と首を締める手に、強く力が篭った。
「どちらも諦めない、を証明するぜ。……ラキア!」
力強く名を呼び、宣言する。
精霊、ラキア・ジェイドバインと相対したセイリューの瞳は全く動じていなかった。
先程の質問から、最上階で待ち受けている敵の正体に薄々勘づいてはいたのだ。
だからこその回答でもあった。こんな事で諦めてしまうなんて、何よりも彼の性に合わない。
た、とラキアが武器である本を構え駆け出す。
対するセイリューは難なくその攻撃を交わす。彼の行動パターンを知り尽くしているかのような動きで。
(……? 彼は、一体……?)
回避の高さに、何か変だ、とラキアは考えた。
自分もこの動きを、よく知っているような……。
「心の力を削ぐのが目的なら、その逆こそが打破方法。そう、オレの勘は告げている!」
手にした武器を構えもせず、ただ不敵に笑んで、セイリューは自信に満ちた物言いをする。
確かに目の前に居るのは敵のはずなのに、どうにも胸の違和感が拭えず、ラキアは動揺に足を竦ませる。
彼は武器をふるっていい人間じゃない――、心の奥底で自分自身の声が告げている。
「……何をわけの分からないことを!」
再びラキアが攻撃に転じてもセイリューは避けない。
振り翳された腕に殆ど攻撃力は無く容易に掴まれ、その勢いのまま体同士がぶつかる距離まで思い切り抱き寄せられた。
「な……っ!?」
突然の事に対応し損じたラキアの顎を掴んで、セイリューは強引に口付ける。
驚愕に精霊が目を見開くと、一度離れたそれが駄目押しみたいに角度を変えてもう一回。
抵抗がないのをいいことに、まだ戻らない? なんて悪戯にぼやいたセイリューの手が腰に回れば、流石に今度こそ全力で突き飛ばされた。
「は、はぁっ、びっ……くり、した……!」
唇をふさがれていた間の酸欠と驚愕に、顔を目一杯のぼせ上がらせて、切れ切れに言葉を紡ぐ。
動揺による体の震えがまだ止まらず、ラキアはへたりと座り込んで、肩で息を整えた。
一方のセイリューはといえばけろっとした顔で「あと少しだったのに」なんて言ってのける。
「何があとちょっとだったの」
「いや別に。惜しかったなーって」
「もう、だからっ……はあ。なんか一気に、力が抜けちゃった」
いつもの相方の調子を受けて、ようやっとラキアは苦笑する。
完全にラキアが戻ったと理解し、セイリューも明るく笑いかけた。
「正気を失ってるなら、ラキアの本心に揺さぶりかけるのが得策だ、って思ってさ」
びっくりしただろ? と手を伸ばして相方を引き上げる。
「……セイリューの想像以上に、こっちは揺さぶられたよ」
未だ落ち着かない頬を片手で抑えつつ、照れたように笑んだ。
「――リツキ、目を覚ませよ! リツキ!」
ぐぐ、と武器の柄で受け止めた重い一撃にゼノアスは耐える。
呼びかけても無駄なのかもしれないが、それでも呼ばずにはいられない。
(出来れば傷付けずなんとかしたかったが……仕方ねぇ!)
がら空きの腹部に加減して足を放つ。
蹴飛ばされた形の李月が数歩後ずさって態勢を崩した。
そして、目前で武器を構える敵の立ち回りに違和感を感じ、隙が出来る。
(この動き……どこかで……?)
その一瞬をゼノアスはやはり見逃さず瞬時に距離を詰め、ハンマーで一撃――勿論これも力を最低限に抑えた攻撃――を、彼の胸板にトン、と食らわせる。
武器の効果により李月の意識がぐらりと揺らいだ。
「ゼノ……っ、どうか、無事で……」
「! リツキ!」
小さく漏れ出た言葉を聞き逃さず、倒れかけた相棒の体をすかさずゼノアスは支えた。
こんな時まで自分の心配をしていてくれた彼の体を、膝を付き、ぎゅうぅと抱き締める。
「くそ。頼む、戻ってくれよ、オレのリツキ……!」
飼い犬がするみたいに額を摺り寄せる。
こんな目に合わせた敵には我慢ならないが、今は何より彼の声が聞きたい。
リツキ……と、掌に頭を乗せて大好きなパートナーの顔を見下ろす。
愛おしい、という気持ちに任せて口付けようと、ん~~と唇を突き出せば、カッ! と空気を読んだ様に李月の目が開かれた。
「……ッッ!? ちょ、やめろバカッッ!!」
「ぎえっ」
バチンッッ! ゼノアスの端正な顔へ決まったのは見事な掌打。
衝撃で舌を噛んだらしく、反射的に飛び退いた李月を余所にゼノアスは口を抑えてうずくまる。
「いってぇ、もう、なんだよ!」
「こっちの台詞だ! 今何しようとした!?」
「なにってキスを」
「何考えてるんだこんな時に! あ、いや……え?」
自分で放った言葉に、ここまでの記憶を思い返して、やがてこのおかしな状況に合点がいく。
「……戻ったのか? 本当に?」
涙目のゼノアスが問いかければ「……そうみたいだ」と返り、よかったあぁ、と漏らしてまた李月を抱き締めた。
顛末を説明して、仕方なかったとはいえ気絶させてしまった事も謝罪すれば「俺の方こそ」と申し訳なさそうに李月も頭を下げた。
「知らずに酷い事をして悪かった」
「じゃあお詫びにもう一回……」
「それは別の話、だッ!」
再度キスしようと顔を寄せた相方の顔にはもう一発掌底を食らわせておいた。
「なんで武器を捨てるんですか? 僕のこと、甘く見てます?」
大剣を手放した一太にアオイは問いかける。
「そうだな。くだらない罠には引っかかるし、いつ騙されるかハラハラしてるし、熱中症で倒れてる見ず知らずの人間を助ける程度には、甘ちゃんだと思ってる」
「……知っているかのような物言いをするんですね」
「ああ、知ってる。だから……取り返すッ!」
一太は武器を持たないまま駆け出した。
自分と神人に能力的な大差はない。だがリーチが長く大振りな一太の大剣では、うっかり彼に怪我をさせかねない。
だから――彼と本気で戦うには、身一つである方が懸命だと判断したのだ。
「……ッ!」
立ち振る舞いにふと既視感を覚えてアオイは刹那怯んだ。
右手から繰り出されたパンチを左掌で受け止める。武器は何故だか向けられなかった。
すかさず細い脚がわき腹目掛け蹴りを繰り出してくるが一歩身を退いて避ける。
気付けば防戦主体となっている。どうして、攻勢に出られないのだろう……?
「目を覚ませ、この――お人よしッッ!!」
「くっ……!」
――ガキンッ!
身を返した流れからの回し蹴りに対応し切れず短剣を高く跳ね飛ばされる。
は、と瞬間、衝撃に瞑ってしまった目を開けたその刹那。ぱちん! と平手が飛んできた。
全く力の篭っていないビンタは、けれど彼の目を覚まさせるには充分だったようで――。
「……あ」
「目が覚めたか」
「一、太……?」
戦闘時の記憶がさっと蘇って、アオイは青褪めた。
同時にふ、とようやく一太の表情が和らぐ。緊張が解けると斬られた腕の事を思い出して、僅かに顔を顰めた。
「一太! ああっ、僕は、なんてことを……!」
大丈夫ですか、怪我を見せて、ああこんなに血が出て――たかだか掠り傷に慌てふためくアオイを見て、大袈裟だな、と思うものの、せきを切ったように溢れる言葉達が今はとても心地いい。
「すみません、本当にすみません。迷惑を、かけましたね」
「構わない。目が覚めたならそれで――」
ぎゅう、と抱き締められて言葉を切った。
保護者のような広い背中が泣いているような気がして、やんわり、ぽんぽんと叩いてやる。
「……あなたを殺してしまうような事にならなくて良かった」
もう、一人にはなりたくないです。
切なげに告げられた言葉に一太は頷く。
「大丈夫だ。……アオイのことは、俺がずっと守るんだから」
組み敷かれた重さの下で、不意にハティがぽつりと呟いた。
「――……悪いな」
「……そりゃあ何のつもりだ?」
思わず笑みが漏れる。
今にも殺されようとしているのに、なんだその顔は。
お前になら殺されてもいいとでも言いたげな――いや、逆だ。
死にたがりを前にしてもなお見過ごせない様な、不器用で無機質な仮面の下にあるブリンドの穏やかな顔を、ハティはよく知っている。
知りたいか? と、問うて、怪訝に眉を顰められるのも構わずぐいと引き寄せる。
「そんなに死にてえなら、お望みどおりに――」
苛立つ衝動に任せ締める力をぐ、と込めた瞬間、拒みきれない力で引き寄せられた唇が重なった。
驚愕に見開かれた瞳の端に、見知った顔が映る。
ハティ、と発せられた自分の声で急速に意識が戻り始める――同時に、これまでの記憶も全て。
「……てめえ」
解放されるや否や、不機嫌そうにブリンドは顔を歪めた。
掛けた手を下ろし体を起こす。一気に記憶が逆流して、感情が綯い交ぜで沸騰しそうな頭を「先に謝っただろう」と言うハティの言葉が冷ましていく。
「そんなもんはどうでもいい。ろくな反撃もしねえで、どういうつもりだった」
一歩タイミングが遅ければ、殺されていたかもしれないのに。
「アンタにはまだ仕事がある」
もっともらしい答えが返り、それ以上の問答を封じられる。深く溜息をひとつ吐き出し、ブリンドは気持ちを切り替えた。
仕事だというならお前だって一緒だろう、という言葉は、悪化させてしまった傷口に免じて飲み込んだ。
怪我人を酷使する様な無体を、この死にたがりに働くつもりは毛頭ない。
「逃がすなよ」
朱に汚れた眼鏡をハティの手が外し、そのままトランスさせる。
送り出すような言葉と共に、今は仲間との合流を急いだ。
「こっちだよ、みんな!」
部屋を出た所で合流したラキアの記憶を頼りに、最上階から繋がる奥の部屋を目指す。
全員トランスの上、怪我人の負傷はラキアと李月のスキルで癒し、万全の状態で臨んだ。
「あの糞野郎殴り飛ばしてぇ。絶対に見つけ出してやる!」
先頭を駆けるゼノアスが怒りを声に乗せる。
「シーアはきっと快楽犯。俺たちの戦いを絶対どこかで見てたはず」
冷静に分析するラキアの声音に、セイリューはちらりと温厚な精霊を見遣る。
「……ラキア、なんか機嫌悪いな?」
「そんなことないよ」
「……」
そう言いつつも、いつもと変わらず見える落ち着いた表情に憤怒が滲み出ているのが如実に分かる。
怒らせると怖いんだよなぁ、と、なんとなく怒りの理由に察しはついていたけれど言及せず、今は先を急いだ。
バン! と大きな扉が開く。
そこはこれまでのメルヘンテイストな通路や入り口と全く違い、全面むき出しのコンクリート壁に囲まれた、廃墟の様なホールだった。
左右と背面に一つずつ、自分達の入ってきたものを除けば二つの扉が設置されている。シーアの目前には、大きな窓が一面に設置された形だ。眼下には市街が悠然と広がっている。
「皆様、ゲームクリア、誠におめでとうございます」
ぱちぱち、と。真ん中に立っていた一人の男が一行を祝福し、振り返る。
声も、そのふざけたウサギの仮面も。
最初にモニター越しで見たシーアのものだった。
「……似合うと思ってんのかそれ」
挑発する様に告げてみせたブリンドに、ふむ、と兎の耳を揺らし、シーアは考えこむ様な仕草を取る。
「ゲームの趣向に合わせてみたのですが、この見た目が不快にさせたのならば、これは申し訳ない」
「不快もクソもあるか! 人様を弄んでおいて――企みは成功したのか? あぁん?」
ゼノアスが一歩進み出る。パークスタッフのものだろうか、数人ほど、扉の向こうにも人の気配を感じる。
オーガは居ないようだった。存在すれば気配を消しきれるものではない。
ラキアやブリンドも辺りを警戒し、李月はそっと手持ちの携帯電話で、シーアとの会話を録音していた。
「成功したか、と問われれば……失敗なのでしょうな。こんなに手を掛けても、貴方がたの心の力を削ぐには至らなかった」
シーアが肩を竦める。
後衛に控えていたアオイが、一太に寄り添いながらも口を開いた。
「……何が、目的だったんですか? 教団だからこちらの戦闘力を削ぐ事かと思いましたが、それにしては……」
「ああ、ゲーム感覚だな。……おふざけが過ぎる」
同調する様に一太は付け加える。
「私は……そうですね、知りたかった。貴方がたウィンクルムの根源たる、心の力――愛というものが、どこまで通じるものなのか。相手が存在しなければ生まれ出でない、その力の源が。困難に差し掛かっても尚、折れないものなのか――」
後ろでに手を組んで、ぽつりぽつりとシーアは答える。
「……教団の実験か何かの為に、データでも取っているのか?」
李月の答えにシーアは首を横に振った。
「これだけは本当の事を言いましょう。今回のゲームは、あくまで私個人の思いによるものです。オーブの力は、確かに利用させてもらいましたが――」
懐から出した水晶玉をふたつ、シーアは一行の前に放り投げた。
鋭利な音を立ててヒビ割れる。他のそれに比べ力も弱かったのか、呆気なくオーブは壊れた。
「教団の目論見とは何ら関係ございません。ありがとうございました、お付き合い頂いたウィンクルム達。いやしかし、何分歳でしてね。そろそろ私は、お暇いたしましょう」
「! 逃がすかッ!」
シーアの脚が一歩引いたのを見て、ゼノアスがついに駆け出した。
窓から逃げ遂せるつもりかもしれない――李月も調達していた捕縛縄を構えた。
――ガッ!!
「ぐあ……!!」
耐えかねたゼノアスの拳は、しかし難なく直撃する。仮面越しにシーアの頬へと――。
「顔を見せろ!」
倒れこんだ所をすかさず捉え、がっ、と掴んでへしゃげた仮面を引き剥がす。
現れた男は、けれど先程までの物言いとは一致し得ない、若い青年だった。
「い、いってぇ……あれ? ここは……」
きょろ、と辺りを見回す。目の前に物凄い剣幕のゼノアスを認めてひえっと怯えた声を上げた。
「な、なんですか貴方達!? た、確かゲームのメンバーにあった顔の……」
「とぼけんなシーア! ボッコボコにしてや――」
「待ってくれゼノ! ……様子がおかしい」
李月に制止され、ゼノアスも振り上げた拳を止める。
仮面をひっくり返した所、中にもスピーカーが取り付けられていた。
それと共に、小さなメモをセイリューが見つける。
「……催眠が得意な男がいる、って言ってたな。もしかしたら、掛けられていたのはラキア達だけじゃなくて――」
「ぼ、ぼくたちはテーマパークを主催していただけなんです! 突然知らない男たちがやってきて、それで……っ」
慌てた様子の男を宥める様に、ラキアが目線を合わせて問い質した。
「……気が付いたら、ここに居た。って事で、いいんですよね?」
「は、はい。その通りです……僕にも今、なにがどうなっているのか」
「突然やってきたという、その男たちの顔は覚えていますか?」
「ええと……よく、覚えてはいないんですが。物腰の柔らかそうな、初老の男性だったような……」
「――……そうですか」
納得したようにすく、とラキアは立ち上がる。
「……俺達のキスシーンを見た記憶、速攻で消してやりたかったのに」
耐えかねた様にボソリと吐き出された陰鬱な一言に、セイリューはう、うん、そうだな。と、頷いてやるほかなかった。
メモにはただ一言『彼らは教団に一切関与しておりませんので、どうぞお手柔らかに』と書かれていた。
●片眼鏡の男
その後あたりの部屋を調べた結果、やはりこちらも一部は洗脳されていたらしいパークスタッフが数人、状況を判断しかねた表情のまま姿を現した。
途中アナウンスを挟んでいた女性など、中には催眠のかけられていない者も居た様だったが、デミ・オーガなどの多少危ういゲームも全て最初から組まれていたプログラムだと信じて疑わなかったようだ。
ウィンクルムは皆強いので大丈夫ですよ、などと言いくるめられて。
「催眠……かけられていたのかもしれませんが、その時の事は良く、覚えていないんです。顔はわかりません……ただ、男性であったということしか――」
念の為くまなく施設を見て回ったが、既に教団と思しき男たちは姿を消していた。
地下にあった声を送るためのモニターやカメラ、マイクなどにあわせ、李月やブリンドによる記録は全て本部に押収された。
シーアと言う男を知る者は、当然、最後まで誰一人居なかった。
「……満足されたのですか?」
街中のカフェにあるテラス。優雅に茶を傾けるスーツの男が問う先で、白髪の男が答える。
「ええ。良い物を見せていただきました。……彼らとは、またいつか」
初老の男はモノクルをちゃり、と揺らしてそれだけ答えた後、賑わう市街へと再び目を向けた。
依頼結果:成功
MVP:
名前:セイリュー・グラシア 呼び名:セイリュー |
名前:ラキア・ジェイドバイン 呼び名:ラキア |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | EX |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,500ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 07月07日 |
出発日 | 07月14日 00:00 |
予定納品日 | 07月24日 |
参加者
- ハティ(ブリンド)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 李月(ゼノアス・グールン)
- アオイ(一太)
会議室
-
2016/07/13-23:49
プラン書けたぜ。
色々と文字数厳しかった。
後は天の采配(アドリブ)に全てを委ねよう!
上手くいきますように。
相談その他色々とお疲れさまでした。
ドキドキしつつ結果を待とう。
-
2016/07/13-23:48
お疲れさま。俺も先ほどプランを提出してきた。
②については眠り姫の話は聞いた事が…あったと思うので、アトラクションに関係することがないか思い出そうとしている…
こういう状況でなければ考えること自体は嫌いじゃないんだが…焦らず考えてみよう。
何か気付いたことがあれば声を掛けさせてもらうな。
文字数があれば俺も動きたいんだが、シーアの対応はブリンドに託させてもらった。俺達も⑤の後は念のためトランスしている。 -
2016/07/13-22:18
一太:
プランを修正し、提出したが、文字数がかなり厳しいので、ほとんど箇条書き状態だ。
GMの裁量に任せる部分が多くなるかもしれない。すまない。
この後は来られるかわからないので、先にここで、成功するようにと祈っておく。
みなさん、ありがとう。うまくいくといいな。 -
2016/07/13-22:07
一太:
プランは提出した…と言おうと思ったが、なるほど…。
セイリューさんの言葉を聞いて、戦いのところを修正することにした。
俺は防御が低いので、攻撃特化にするのがいいな。
攻撃回数+1というのは、セイリューさんの武器、シンフォニアの特殊効果のことであっているだろうか。
経験が浅くてすまない。ワールドガイドと友達になれそうだ。
そんな貴重なものを使っていただけるとは、感謝する。 -
2016/07/13-21:10
顔出しできなくてゴメンよ。
相談色々と進んでいるな。
相談の方向に合わせるぜ。
ハティさんは連戦ごめんヨ。
デミ・ワイルドドッグは頑張って避けてくれ。
オレはデミ・ボア戦担当だな。
デミ・ボアはデミ化した猪なので
突進攻撃がけっこう痛かった気がする。
オレは防御とHP活かして敵を引きつけるので
オレを盾にして攻撃してもらってOKだ。
一太さんに攻撃回数+1効果を使おうと思っている。
攻撃力高い人に使った方が良いし
命中率を攻撃回数でカバーできないかと思ってさ。
シーアも出来れば捕まえたいところだ。
と、文字数が色々と厳しそうだし
頭使うの苦手なので②の対応は皆に任せた。 -
2016/07/13-14:22
俺は②について思い浮かばないという事もあって③⑤の戦闘が中心のプランになりそうでな。連戦、引き受けたいと思う。やりたいことや試したいことがあればそちらを優先してもらえればと。
二階を攻略後の三階なのか、二階三階の同時攻略が可能なのか。後者なら俺は後から合流する形になるな。
脱出ゲームと迷路の他はどういった作りになっているのかわからないが、これだけ凝っていると戦闘以外ゲーム性のない二階層、三階層についても丸裸のスペースということは恐らくないと思うので、必要あればデミ達を広めの場所へ誘導し戦いやすいように
二人なら背中合わせ、三人でも分断されない立ち位置で動けるようプランを考えてみる。
・シーア
首謀者が表に出てくるなら、道中ロープの一本でもあれば頂戴させてもらって拘束に使えないかと考えている。
殴りついでに仮面を剥ぎたいところだな。 -
2016/07/13-11:38
一太:
では、戦闘は、
二階のデミ・ワイルドドック三体は、ゼノアスさんとハティさん。
三階のデミ・ボア二体が、セイリューさんとハティさんと、俺だな。
デミ・ボアはタフなのか…。まあタフだろうと何だろうと、斬るか殴るか蹴飛ばすしかないな。 -
2016/07/13-01:17
ゼノアス:
出発まで1日切ったか
>デミ戦
ハティが2戦で考えてるならそれでオレはいいぜ
2階層はオレとハティになるな
オレの武器はちょっと性能上げたんでスタンは2Rになった
>武器外し
オレも試した
笑うしかねー数字になったぜ -
2016/07/12-21:54
一太:
ハティさん、こちらこそどうぞよろしく。
この人数だと、2階と3階で、ひとりは連戦する形になるのか。
俺は体力的に厳しいから、立候補してくれているゼノアスさんやハティさんにお願いしたいところだ。
武器を持っていない可能性を考えて外してみたんだが……これは戦えるのか?という状態になったので、一応武器は持っているふうにしてほしいと願って、プランはそのつもりで書こうと思う。
使えなかったら……申し訳ないという能力値なので、すまない…としか言えないが……。
デミ戦はあいたところに入らせてもらおう。
あと、トランスは、やっぱりできていないだろうなと想像はしている。
1階のクイズは、そういうのがあまり得意ではないので、こちらからは提示しないつもりだ。
教団だから、狙いはやっぱりウィンクルムの力をそぐことにあるんじゃないかと思うが、それにしてはゲーム感覚だな。
-
2016/07/12-09:49
ゼノアス:
よう!
人増えたか、ハティはよろしくな
オレの場合 トランス無 装備有
これでいくつもりだ
解説にトランスと装備についての制限記述はねぇから
連れ去られる前にトランスしたとかプランにいれても通る気はしてる
遊びに来て武装してんのはどうよ、とは思うがそこは考えねぇ事にした
1階層のクイズだが「並べ替えクイズ」にした
バラバラの文字正しく並べるって奴だな
デミ戦だが
2階層立候補してるが3階層兼任でも大丈夫だぜ
背中カバーし合えば何とかなんだろと思ってる
相棒が正気後は一応トランスしておくぜ
奴ら出て来ねぇ気もするが対応は入れておくぜ、殴りてぇ
相棒が奴らとの会話を携帯で録音して
脱出後、本部に提出する予定だ
元々遊びに来てんだから携帯の持込は有りだと思ってるが
敵に没収されてるかもしれんから不発に終わるかもな
と、こんなとこだ
奴らの本当の狙いは何だ? -
2016/07/12-00:40
ハティだ。ブリンドは…奴の口振りだと最上階か。一太さんとゼノアスさんとは仕事で同行するのは初めてだな。急遽仕事になったわけだが、セイリューさんもよろしく頼む。
トランスなし、ついでに言うと装備も持ち込めていないのではないかという気もしているな。殴りに行く用意をしておこうと思う。
体力だけはあるので人数次第で二戦も考えているが、揃った場合は手分けするのがわかりやすそうだろうか。
ワイルドドッグは3対2なのが気になるところだが、敵にも個体差はあるだろうしそこまで困難な状況にはならないのではと思っている。
シーアの目的とやらは最上階に辿り着かせてからが本番だろうしな。
ボアはパワー系というか、よりタフな印象がある。 -
2016/07/10-19:12
一太:
ゼノアスさん、はじめまして。よろしくな。
そしてセイリューさん、丁寧にありがとう。
トランスの件、了解した。
うちは神人のアオイが連れて行かれた。
まあアオイで良かった…っていったらあれだが。残っても戦闘能力的にな。
2階層・3階層の戦いは、集まるメンバーも関係してくるだろう。
俺はまだ保留にしておく。
文字数は…足りないだろうな。
だが、前半の戦いはそんなに文字数をさかなくても、なんとかなるのではないかという気はするが。
-
2016/07/10-18:23
ゼノアス:
シンサモのゼノアスだ
連れてかれたのは神人の李月だ
一太は初めてだな、セイリューは久し振りに会ったな
よろしく頼むぜ
「トランスは出来ない」で了解してる、んな暇どう見てもねーし
2階層は2人か、2名の内の1人に立候補しとくぜ
オレの武器は1Rスタン効果付だ
連携もできそうだぜ
首謀者シーアの倒し方考えなくていいとか解説で言ってるが
オレとしちゃボコボコにしてやらねぇと気が治まらねぇよ
殴りにかかるくらいは行動に入れて問題ねぇだろと思ってる
文字数足りんのかな、これ -
2016/07/10-11:14
セイリュー・グラシアとLBのラキアだ。
2組だけだと色々と厳しいけど、まだ人数増えるかもだし。
頑張ろうぜ。ヨロシク。
状況的に『トランスしていない状態で相方が攫われた』というのが自然だよな。
だからオレはトランスしていない前提で行動を考えるつもりだ。
デミ相手なら確かに「トランスしていなくても倒す事は可能」。
ただし注意すべき点がある。
以前に問い合わせた回答によると
『▼デミ・ワイルドドックはデミ・オーガの中では強い部類ではありませんが、
それでもいてもトランス状態ではない精霊が一人で打ち勝つのは困難な相手となります。』
(出:運営問い合わせスレッド[11])
となっているので、戦闘は厳しいものになるかも。
別依頼の報告書を見ると
デミ・ワイルドドッグは(トランスした)ウィンクルムLv3相当らしい。
デミ・ボアはそれより強いだろうし。
それに、トランスしないとスキルは使えないので
ジョブによっては攻撃手段が全くないことになる。
だから攻略中回復スキルは使えないよな。回復なしで頑張ろう。
バトル時は純粋に武器攻撃力が頼りだな。
というコトで。
オレ達の場合は攫われるのはラキアの方だ。
スキルが使えないLBだと攻略厳しいからな。
所持武器はほぼ物理攻撃ゼロ、通常攻撃はバリアだし。
それにオレは助けられるより助ける方が性に合うからさ。 -
2016/07/10-09:37
一太:
アオイとハードブレイカーの一太だ。
俺のアイコンがないので、紛らわしくてすまないが、よろしく頼む。
今ふと気づいたんだが、俺たちはテーマパークにいたんだよな?
いきなり襲われ、今相棒が囚われているということは、最上階まではトランスができないということだろうか。
たしかデミ・オーガは、トランスしなくても戦うことができると聞いていた気はするが…。