星を掬う(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

祭りの喧騒から少しずつ離れていく。
そろそろ露店も終わりかけた道の端に、人気のない、寂れた露店がひとつ。
薄ぼんやりと光る灯りに誘われるように足を向けた。

「珍しいね、こんなところまで」

店番をしていたのは陽気な笑顔を向ける老人。
彼が守っているのは透明な水槽だ。
興味本位から、中を覗いてみる。
きらきらと、光る何かが水槽の下を流れていく様が見て取れた。

「星だよ」

訝ったことに気付いたのか、老人は笑ってそう言った。

「星?」
「みんなの願い事の欠片、かなぁ。夢とか、希望とかのね」

水槽の中身は、水が漂うと言うよりも、川を映し込んで流れているように見えた。
まるで、水槽の下に川が流れているような、そんな錯覚を覚える。

「お星さまに願い事はしたことがあるかい?」

流れ星に願いを掛けたり。
夜と共にやってくる淡い光に話しかけたり。
覚えがないわけではなかった。

「ひょっとしたら、君らの願い事も流れてるかもしれないねぇ」
「まさか……」

老人は、じゃあ、と笑って手を水槽へと差し入れた。
掬い上げたのはひとつの星――の形をしたもの。
紙ではない。
プラスティックでもない。
金属とも違うけれど、それらに近い『何か』だ。
そこには、文字がさらりと浮かび上がっている。

『背が伸びますように』

まるで、七夕の短冊のようだ。

「これは七夕の短冊かなぁ。時々こういうのもあるけどねぇ」

老人は再び星を水槽へと戻した。

「試してみるかい?」
「他人の願い事を掬っても大丈夫なの?」
「また戻してあげれば大丈夫だし、願い事は叶えるためにあるからねぇ」

けれど、他人の願いを叶えてどうするのだろうか。
老人は笑顔のまま、それに、と続ける。

「君らの場合はたぶん、お互いのを掬うんじゃないかなぁ。それに、これは泡沫の夢、だからねぇ」

夢――。
これが、一時が見せる幻なら、願い事に大きな意味はなくて。
ならば。

「試してみようかな」

なにが現れるか、試すくらいなら。
そっと手を水槽に差し入れて、ひとつ。
星を、掬う。

解説

【解説】
星に書かれた願い事を叶えてあげましょう。

1.神人さんの願い事が書かれた星を掬う
2.精霊さんの願い事が書かれた星を掬う
3.全く知らない人の星を掬う

いずれかとなります。
お好きなものを掬って頂き、願い事もご自由に設定してください(ですがご利用は計画的に)
プロローグのような願い事の場合は、実際には無理ですので、そこは、物理的、知恵と工夫で何とか……!

掬うのは、神人さん、精霊さんいずれかでもいいですし、両方でも構いません。
掬い上げるものも、別々に選んで頂いて大丈夫です。

例えば、
神人さんが自分の願い事を掬ったけど、恥ずかしくてすぐに戻してしまった。
だけど、精霊さんが神人さんの願い事を掬って叶えてあげる。

とかも全然大丈夫です。

願い事のない星を掬ってしまう場合も、あるかもしれません。
そんな時は、その場で書いてみるのもいいかな、と思います。

掬った星は願い事が叶うと光の礫のようになって霧散して消えますので、ご了承ください。

また、願い事は特にないけど、という場合がございましたら、
■背が伸びますように
□美味しいものが毎日食べられますように
◇安眠枕が欲しい

この辺りを叶えてください(笑)
3番の願い事はこの辺りで大丈夫です。他、困ったときにもご利用ください。
(願い事は番号指定、記号指定OKです。文字数はプランに使ってください。例:3■)

一般的に見かける露店と、見晴らしのいい高台もありますので、ご自由にお使いください。

どう考えてもちょっと難しいようなことは、物理的、知恵と工夫、そして屁理屈で乗り切ってください。
(オーガが全滅しますように、は無理なので、射的場まで戻って景品を総取りする、とか)


※星を掬うため、300Jrを支払いました。

ゲームマスターより

流れ星って、流れたあとどこへ行くんだろう。
あ、もしかして流れ星の集まる川とかあるんじゃ?(NOT天の川)

という、思考回路です。

できることは限られますが、夏のお祭り感覚で楽しんでください。
ジャンルにとらわれず、本気のものからコミカルなものまでお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ひろの(ルシエロ=ザガン)

  結構、掬うの簡単。
私の、だ。『ルシェとずっと一緒がいい』
いつ星に願ったんだろう。(無意識で覚えてない
消えてないってことは、叶ってないのかな。

あ。(目で追う
(首を振って否定
「誓ってくれたから」ルシェが、ルシェの名前で誓ってくれたから。
だから、「たぶん。消えないのは、私が」(徐々に視線が下がる
自分を信じれない、だけで。
「人の気持ちって、変わるから。私も変わるかもって」
考えたら。

「すごい、自信だね」(目を瞬き、知らず嬉しそうに小さく笑う
あ。(星が消える様子を注視
「叶った……?」(呟く
(心を見られたようで恥ずかしく、顔を赤くして俯く
一緒にいたいから、一緒にいる。それで、いいのかも。
「ん」(手を握り返す


メイアリーナ・ベルティス(フィオン・バルツァー)
  どんな願い事が流れているのでしょうね
掬った星を横から覗き込み

「屋台の食べ物を制覇したい」
簡単そうに見えてなかなか難しそうですね
えっ、違いますよ?
だ、だから私のお願い事じゃないですってばー!

楽しかったし美味しかったですが…
このまま誤解を受け続けられるのは少し困ります…今後のためにも
だからまたお爺さんの所にいって
私の願い事を掬えますように…と祈り掬ってみます

世界が平和になりますように
これです、私の願い事はこれです!
そうですね、いつの日にか、きっと

でも本当は、フィオンさんの願い事を掬ってみたかったです
何というか、単純そうに見えて謎が多い方ですし…
パートナーですし、もっとフィオンさんの事を知りたいです


時杜 一花(ヒンメル・リカード)
 

私のじゃありませんように…
どきどきしながら願い事に目を通し衝動的に手で星を覆って隠す
(私の願い事よね…。これは見せるの恥ずかしいわ…)
書いてあったのは
「もふもふしていそうなあの兎耳に触ってみたい」

えっと、その…(目が泳ぐ
その、叶えるのが難しそうなお願いだったの
だから戻した方がいいかと思って

言葉に押されてしまいそろそろと手をずらして文字を見せる
誰のお願い事なのかしらね…となんとか誤魔化そうとし
な、なんでわかるの?

じゃあ、失礼して…
兎耳触り、無言でもふもふ
…はっ。ご、ごめんなさい

え、ずるい…
私もすぐ水槽に戻してしまえばよかったわね

でも…
耳に触った感触思い出し、素敵なもふもふだったと少しうっとり


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
 
願:ソラの笑顔がもっと見たいです

掬い上げた星に書かれた言葉に一瞬動きを止める
押し付ける様に抱きしめ
ダメですよ、このお願いは私が叶えるんですから
そっと手を開き、もう一度星を見て願い事を呟く

照れながら精霊を見上げる
これは私にしか叶えられないお願い事、ですよね

…代わりに、私のお願いも叶えていただけますか?
ソラ、と、呼んでください

はい…ジューンにそう呼ばれると、恥ずかしいけれど嬉しくて、少しくすぐったくて…幸せな気持ちになるんです
照れながらも、微笑みそう続ける

名を呼ばれ、幸せそうに微笑みを返す
…はい

ふたりでいると、きっとずっとお互いの願いを叶え続けられますね

腕の中でふふっと笑って
そうかもしれません


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  へー天の川…じゃなくて願い事の小川なんだね、これ

試しに一回掬ってみようかな


またあの子と会えますように

これは…
再会の願い事なら…


…よし
それじゃお祭り、楽しんでね

別れ
なるべく遠くへと歩く
輪投げ
ヨーヨー釣り
林檎飴二つ

そろそろかなと探す


…見つからない
角とか髪色とか目立つからすぐ見つかると思ってたのに…

どうしよう…
ふと心細くなる
そういえば小さい頃
縁日の日にはよく迷子になってたっけ…

大丈夫?
子供の声がした気がした
振り返っても声の主はいない

けど…
盲亀の浮木、優曇華の花
…大丈夫、また会える


高台
ここにもいな…あ
よかった…!


はい、林檎飴
うん

これ…
いいの?

ありがとう
とっても嬉しい

あの願いの人も再会できるといいね



「へー……天の川……じゃなくて願い事の小川なんだね、これ」
 アラノアが流れる星を覗き込む。
「試しに一回掬ってみようかな」
 そう言って、星をひとつ掬い上げた。
「これは……」
 願い事は、『またあの子と会えますように』と書かれていた。
 ガルヴァン・ヴァールンガルドがアラノアの手元に視線を落とした。
「再会の願いか……?」
「そうみたい。どうやって叶えようか?」
 思案して、それぞれに提案を出し合い、話し合った後。
「……よし。それじゃあお祭り、楽しんでね」
「ああ」
 アラノアとガルヴァンは別行動を取ることにした。

 *

 二人が出した答えは、暫く別行動をして祭りを楽しむこと。
 約10分後に捜索開始。
 大声で叫んだり、人に尋ねたりしてはいけない、と言ったものだった。
 これならば、願い事も叶うはずだ。
 アラノアと別れたガルヴァンは、辺りを見回した。
「……さて、どうしたものか」
 こういった場所では必ずアラノアが隣にいた。だからか、一人でいることに違和感があった。
 とはいえ、突っ立っているわけにもいかず、ふらりと足を進める。
 並ぶ店を通り過ぎながら歩いていると、射的の露店で立ち止まった。
 景品に目を向けると、箱の中に止まっている赤い蝶に惹きつけられた。
 ――蝶の髪飾り、か……?
 赤い蝶に、アラノアの姿がふいに重なる。
 ――よく映えそうだ。
 ガルヴァンは露店の主に声をかけ、射的銃で赤い蝶の髪飾りを狙った。
 けれど、思いのほか難しく、なかなか取れない。
 思わず意地になって何度も挑戦をしてしまった。
 その意地が功を奏して髪飾りを手に入れることはできたけれど。
 ――ここまで意地になったのはいつ振りだろうな……。
 今しがた手にしたばかりの髪飾りを手に、そろそろ時間かと、アラノアを探しに人混みへと足を向けた。

 *

 アラノアはできるだけ遠くを目指して歩き、輪投げに夢中になって、ヨーヨー釣りを楽しんでいた。
 ヨーヨーを掌で打ちながら、林檎飴を二つ買うと、ガルヴァンを探し始める。
 ガルヴァンはこの人混みでも目立つはずだ。すぐに見付けられる。
 そう、思っていたけれど。
(……見つからない)
 どこを向いても彼らしい姿はなく、焦りから、途端に不安になった。
(そういえば……)
 小さい頃にも縁日には度々出かけていた。
(その度によく迷子になってたっけ……)
 幼い頃を思い出し。
『――大丈夫?』
 子供の声が聞こえた気がした。
 振り返ってみても、声の主はどこにもいない。けれど。
「盲亀の浮木、優曇華の花――……大丈夫、また会える」
 呟いて、何ともなく高台を目指した。
 けれどそこにもガルヴァンの姿はなかった。
「ここにもいな……あ」
 気落ちしかけていたが、ほどなくして見知った姿を見付け、胸を撫で下ろす。
「……見つけた」
「よかった……!」
「再会できたな」
 先程買った林檎飴を一つガルヴァンに差し出す。
「はい、林檎飴」
「いいのか?」
「うん」
「そうか。……では、俺からはこれを」
 ガルヴァンは射的で取った赤い髪飾りをアラノアに差し出した。
「これ……」
「射的で取った」
「いいの?」
「……女物だからな」
 アラノアが脳裏をよぎったから、と言うことは敢えて伏せたガルヴァンにアラノアは、はにかんだ。
「ありがとう、とっても嬉しい」
 鼓動がひとつ、高鳴って。
 胸が甘く締めつけられるような、そんな感覚にガルヴァンは扇で煽いだ。
「なんだか暑い気がする」
 知らず、上気する顔を扇ぐガルヴァンに、
「あの願いの人も再会できるといいね」
 アラノアは優しい笑みを零した。


 星を掬った秋野 空の動きが一瞬止まった。
「ソラ?」
 ジュニール カステルブランチが空の手元を覗き込むと、はっとしたように空が胸元に星を抱きしめた。
「ダメですよ、このお願いは私が叶えるんですから」
「俺にも見せてください」
 なにげなく取り返そうと手を伸ばして、今度はジュニールの動きが止まった。
 胸元でしっかりと抱き締められている星を、まさか掴み行くわけにもいかない。
 固まっているジュニールの隣で、空が小さく呟いた。
「『ソラの笑顔がもっと見たいです』」
「……っ!?」
 ジュニールの願い事だ。自分の願い事を読み上げられると、何とも言えない恥ずかしさに見舞われる。
 空が少し恥ずかしそうに、照れたように微笑んでジュニールを見上げた。
「これは、私にしか叶えられないお願い事、ですよね」
 その通りなのだが、そうです、とは何となく言い辛い。かと言って、違うわけでもない。
 ただ、ここのところ空から笑顔が消えていた。
 少しずつ取り戻してくれてはいても、どこか無理をしているようで、見ていることが苦しくてたまらなかった。
 ようやく、空が晴れやかに笑ってくれるようになって、願いの一部は叶えられてはいたけれど。
 ――ソラにもっと笑ってほしい、というのは、最高の我儘なんでしょうね。
 分かっているからこそ、その心を大切に守りたいと思う。
「……代わりに、私のお願いを叶えていただけますか?」
「空のお願い事、ですか?」
 鼓動が高鳴った。
 空の言葉の意味を、後から追いつくように理解して。
「もちろんですとも!」
 空がこんなことを言うのはかなり珍しい。
「俺に叶えられる願いなら、どんなことだって叶えてみせます」
 空の願いなら、何でも。
「――ソラ、と、呼んでください」
「えっ、そんなことでいいんですか?」
「はい……」
 少し、意外だった。もう少し難しいものかと構えていただけに。
「ジューンにそう呼ばれると、恥ずかしいけれど嬉しくて、少しくすぐったくて……幸せな気持ちになるんです」
 照れたように微笑む空に感化され、ジュニールは左手で自分の口元を覆った。
 空にとって、そんな風に聞こえていたのなら嬉しく、かなり照れくさい。
「……えぇ、ではその……」
 普段から呼んでいる名前。先ほども呼んだ名前。
 なのに、改めて呼ぶとなると、どうやって呼んでいたかを忘れそうになる。
 すぅっと深呼吸を一つ。空の瞳を見つめ返して、ゆっくりと愛しい名前を奏でる。
「――……ソラ」
「……はい」
 微笑み、返事をされただけで溢れるほどの幸せが胸の内に満ちていく。
 互いに叶え合う願い事が、これほどまでに幸福なことだとは思わなかった。
「ふたりでいると、きっとずっとお互いの願いを叶え続けられますね」
 そんなことを呟いた空が、あまりに愛おしくて、堪らず抱き寄せた。
「俺たち、幸せの永久機関、ですね」
「ふふっ、そうかもしれません」
 小さく笑って、見上げてくる空と目が合った。
 遠くで花火がひとつ、打ちあがる。
 吸い込まれるように引き寄せられ、そっと唇を重ねる。
 空がジュニールを抱き返すと、ジュニールは我に返るようにはっとした。
「ソラ、すみません、こんな……」
 空の指先がジュニールの頬に触れる。
「……大好きです、ジューン」
 甘く囁かれる言葉に、左手で口元を押さえ、ジュニールは今日一番で照れていた。


「星への願いを掬うのか。洒落ているな」
 ルシエロ=ザガンの言葉を聞きながら、ひろのが星を掬い上げた。
「結構、掬うの簡単」
 流れていく星のひとつがひろのの手に残り、視線を落とす。
(私の、だ)
 ほぼ、間違いなく。
 なぜなら、願い事は『ルシェとずっと一緒がいい』だったから。
(いつの間に願ったんだろう)
 思い出せないくらい昔、というわけではなく、無意識で覚えていないと言った方が正しい。
 けれど、この願い事が消えずに水面を揺蕩っていると言うことは。
(消えてないってことは、叶ってないのかな)
 叶っていないと言うことは――。
 考えて、気持ちが沈んでいく。
 そんなひろのの様子に、ルシエロはひろのの手から星をするりと取り上げた。
「あ」
 ひとつ、言葉を漏らしてひろのはルシエロの手の中へと渡った星を目で追う。
「――この呼び方は、ヒロノの願いか」
 願い事を見て、ひろのへと目を向ける。
「どんな願いを掬ったのかと思えば。オレがどこかに行くとでも思っているのか?」
 今ここに存在している理由を、ルシエロも察して尋ねた。
 けれど、ひろのは首を横に振る。
「誓ってくれたから」
 ぽつりと呟く。
「ルシェが、ルシェの名前で誓ってくれたから」
 ルシエロを信じていないわけではない。その名に誓いを立てた彼を信じていないわけではなくて。
「たぶん。消えないのは、私が」
 ずっとひろのだけの精霊でいると誓ったルシエロ。
 ならば、ひろのの願いは――少なくともこの願いは叶えられているはず。
 それでも、その願いは今手元にあって。その理由に何となく心当たりがあって。
 だから、ひろのの視線は徐々に下へと落ちていく。
「自分を信じれない、だけで」
 信じられないのは。
 不安なのはひろの自身の心だ。
「人の気持ちって、変わるから。私も変わるかもって」
 そう考えてしまうから、星は空へと還れないままになってしまっているのかもしれない。
 途切れがちなひろのの言葉が全て終わるのを待って、ルシエロはようやく口を開いた。
「そこで自らへの不信に繋がるのか」
 ――オレの共にあるという想いは通じてはいたようだが。
 むしろ、だからこそなのだろうと思う。
 ひろのがルシエロの想いを正しく受け止めているからこそ、自分の気持ちが怖くなるのだろう、と。
「オマエの意識が他へ向こうと、必ずオレに向けさせる」
 そんなことは、ルシエロの前ではさほど意味のないこと。
 ひろのの気持ちがルシエロに向かないのなら、向けさせればいいだけのこと。
「すごい、自信だね」
 目を瞬かせ、ひろのがどこか嬉しそうに、小さく笑う。
「当たり前だ」
 少し前に、ひろのの気持ちをルシエロへと向かせたばかりなのだから。
 ルシエロの手の中で、星が光を放って礫のように弾ける。
「あ」
 視線を向けるひろのの前で、星は微かな名残だけを残して消えて行った。
「叶った……?」
 星に託された願いは、まるで心の中を見られたようで、ひろのは恥ずかしそうに顔を赤くして俯く。
 そして、ぽつりと呟いた。
「一緒にいたいから、一緒にいる。それで、いいのかも」
「そうだな」
 答えはとても簡単で。
 けれど安易に導き出せないこと。
「さて、露店を見て回るぞ」
 ルシエロはひろのの手を取って笑いかけた。
「ん」
 その手をヒロノはそっと握り返す。
 ――願うほど求められている事実が、これほどに嬉しいとは。
 ひろのの願いは、ルシエロの心を幸福で満たしていた。


 フィオン・バルツァーはどれどれ、とゆっくりと星の流れる水槽に手を差し入れた。
「星に願い事、面白いね」
「どんな願い事が流れているのでしょうね」
 メイアリーナ・ベルティスも、フィオンの掬った願い事に興味津々だ。
 覗き込んでみると、『屋台の食べ物を制覇したい』と書かれている。
「簡単そうに見えてなかなか難しそうですね」
 屋台の食べ物と一口に言っても、その数は想像するよりはるかに多い。
 しかも、意外と満腹感を得られるものだったりする。
「なるほど、やっぱりウィンクルムだし引かれ合うものがあるのかもしれないね」
「えっ?」
 フィオンの言葉にメイアリーナが尋ね返す。
「これ、メイちゃんの願い事でしょ?」
「違いますよ?」
 二人の間に沈黙が一瞬流れた後。
「そうと決まれば早速行こうか」
「だ、だから私のお願いじゃないですってばー!」
 メイアリーナの反論は照れ隠しだと思い込み、勘違いをしつつ、フィオンはメイアリーナを屋台まで引っ張り出した。
 やれイカ焼きだの、やれ焼きそばだの。
 あんず飴は外せないと言いながらかき氷を追加して、文字通りの食べ歩きを盛大に繰り広げる。
「メイちゃん、ソースせんべいも食べよう」
「まだ食べるんですか……っ?」
 メイアリーナのお腹はそろそろ限界を迎えていた。
 本当に屋台の食べ物を制覇し終えると、フィオンは満足そうに息を一つ吐いた。
「いやあ、食べた食べた」
「楽しかったし、美味しかったですが……」
「まだ食べる?」
「食べませんってば」
 ちょっと食べ過ぎてしまった気がする。
 そのうえ、このまま誤解をされ続けられるのは、メイアリーナにとって不都合この上ない。
(このままだと、少し困ります……今後の為にも)
 全制覇したい、と言う誰かの願いをメイアリーナの願いだと思われないためにも、自分の願いを掬い上げておきたい。
「フィオンさん、もう一度おじいさんのところへ行きましょう」
「え?」
「お願い事を掬いに……!」
 正しくは、「私の願い事を掬えるように」なのだけれど。
 フィオンはひとつ、頷いて。
「そっかそっか、願い事はひとつと限らないもんね」
 そう言って再び星を掬いに戻ってきた。メイアリーナは、今度こそ、と祈りながら星を一つ掬ってみた。
『世界が平和になりますように』
 そう書かれた星に、メイアリーナは嬉しくなった。
「これです、私の願い事はこれです!」
 フィオンに星を渡すと、やや難しい顔をする。
「世界平和……定義が結構広いけど、現状だとそれに対する障害はオーガとかそこらかな」
 オーガの殲滅は多くの人間が願って、平和のための障害と認識するだろう。
「じゃあ、頑張ってどうにかしようか。僕らはそれに対抗する力があることだし」
 軽い口調でフィオンはそう言ったが、メイアリーナの目を真っ直ぐ見つめている。その思いは、嘘偽りのない気持ち。
「そうですね、いつの日にか、きっと」
「じゃあ、その日が来るまで、もうちょっと待っててね」
 願い事が叶うのはもう少し先になりそうだけれど、きっと大丈夫。そう、思えた。
 フィオンが星を川に戻す姿を見つめながら。
(――本当は、フィオンさんの願い事を掬ってみたかったです……)
 フィオンがどんな願いを空に託したのか。思考はとても単純そうなのに、不思議な部分が多い。
 パートナーなのだから、もっとフィオンのことを知りたいと思う。
 この流れる星の中に、彼の願いが流れているのかな、と興味津々にメイアリーナは見つめていた。


(私のじゃありませんように……)
 どきどきしながら、時杜 一花は星を掬った。
 恐る恐る星に書かれた願い事に目を向け、思わず手で星を覆って隠した。ほとんど、衝動的だった。
「何が書いてあったの?」
 ヒンメル・リカードが覗き込もうとして、さらに隠されたのでヒンメルは不満そうに唇を少しとがらせる。
(私の願い事よね……これは見せるの恥ずかしいわ……)
 空を仰ぎ見て、今すぐこの星が夜空に還ってくれないだろうかと考えてしまう。
 叶わないことには、消えてはくれないのだけれど。
「どうかしたの? 僕にも見せて欲しいな」
 小首をかしげて、ヒンメルは一花におねだりをするように訴えた。
「えーっと、それは……その……」
 明らかに一花の目が泳いでいる。
「誰のものかなんて分からないし、叶えてあげようよ」
「その、叶えるのが難しそうなお願いだったの。だから戻したほうがいいかと思って」
「せっかく一花さんが掬って、叶えられるかもしれないお願いなんだから」
 狼狽してしまっている一花は、ヒンメルの言葉を上手く切り返してかわすことはできなかった。
 おずおずと星を見せる。
『もふもふしていそうなあの兎耳に触ってみたい』と書かれていた。
「兎耳を、触る」
 ヒンメルが逡巡しかけて、自分の耳をすぐさま連想した。さらに、一花はこの願い事を隠そうとしていた。
「誰のお願い事なのかしらね……」
 そしてこの、露骨な狼狽。
 ――もしかして。
「これ、一花さんのお願い?」
 一花はまさに、ぎょっとしていた。
「な、なんでわかるの?」
「そりゃあ、分かるよ」
 すぐに自白してしまうあたりに、一花は嘘が吐けないのだと思うと、ヒンメルは思わず小さな笑みを零した。
「いいよ、触ってみる?」
「え、い、いいの?」
「どうぞどうぞ。触られて減るものじゃないし」
 兎耳を触れるようにヒンメルは頭を突きだす。
「じゃあ、失礼して……」
 壊れ物に触れるように一花はそっと、優しくヒンメルの兎耳に触れる。
 ふわりとしていて、温かくて、不思議な感触だ。
 つい夢中で、言葉もなくもふもふと触り続けた。いつまででも触っていられる。
 どれほどした頃か。ヒンメルが一花をちらりと見遣った。
「まだ触る?」
「……はっ、ご、ごめんなさい」
「大丈夫。ちょっとくすぐったかったけど」
 本当はもう少し触っていたかったけれど。兎耳が遠くなっていくのは名残惜しい。
 一花の掬い上げた星が光の礫となって霧散すると、ヒンメルは川を覗き込む。
「せっかくだし僕も掬ってみようかな」
 言いながら、掬い上げた星に目を向けて。
「どんなお願い事?」
「ん……?」
 すぐさまその星を水槽に戻した。
「戻すの?」
「僕のも叶えるのが難しそうなやつだったから」
「え、ずるい……」
 もしかしたら、掬ったのはヒンメル自身の願い事だったのかもしれない。
「私もすぐに水槽に戻してしまえばよかったわね」
 隠さずに戻してしまえば分からなかったのだと思い至った。
 けれど。
(素敵なもふもふだったわ……)
 手に残った感触を思い出し、一花はうっとりとしていた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 風藤なずな  )


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月03日
出発日 07月10日 00:00
予定納品日 07月20日

参加者

会議室

  • [7]時杜 一花

    2016/07/09-22:42 

    挨拶が遅れてしまってごめんなさい。
    時杜一花とペートナーのヒンメルさんです。
    よろしくお願いしますね。

  • [6]秋野 空

    2016/07/09-21:52 

  • [5]秋野 空

    2016/07/09-21:52 

    プランの提出が完了いたしました

    祭り、浴衣、花火…
    夏の夜は何だか特別な感じですね
    今日もジューンと出掛けられて嬉しいです

  • [4]アラノア

    2016/07/09-21:14 

    アラノアとパートナーのガルヴァン・ヴァールンガルドです。
    よろしくお願いいたします。

  • メイアリーナです。
    どうぞよろしくお願いします。

  • [2]ひろの

    2016/07/07-07:21 

  • [1]秋野 空

    2016/07/06-00:45 


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