オトナなコドモ(梅都鈴里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「……目が覚めると、体が小さくなっていたぁ?」

 ある朝目にしたパートナーの姿に思わず素の声が出てしまうとある精霊。
 当然だ。今日はお仕事できなさそう、と連絡してきた相方の元へ何があったのかと急ぎ駆けつければ、そんな意味の分からない言葉を告げられたのだから。

「さっぱり意味がわからないんだが……」
「うん。俺も……」
「心当たりはないのか? 変なもの食べたとか、依頼で何かされたとか」
「……そういえば」

 気温が上がり日の高くなるこの季節には、夏の到来を喜ぶ小さなお祭りや露店があちこちで出始める。
 変わり果てた姿の相方は、昨日の夕刻、用事の帰り道である物を買って食べたと言った。

「……りんご飴?」
「うん。祭りの代名詞だろ。店主のじーさんが陽気に手招きしてきてさ。何か胡散臭いなーとは思ったんだけど……」
「胡散臭いなら買うなよ」
「いや……だって、こんな事になるとは思わないじゃん」

 まさしく、後の祭りである。今更何を言っても始まらない。
 解決法――と言っても、開催地へ問い合わせたら今日はもう祭りは終わっているよ、と返ってくる始末。
 電話を切り途方に暮れつつ、小さくなった相方を見下ろすと、だぼだぼの服を着たままうーん、と一つ唸ったあと、パートナーの背中――には手が届かないので、腰のあたりをぽんぽんと励ますように叩いた。

「まぁ、そのうちなんとかなるだろ。明日になっても戻ってなかったら、その時考えよう」

解説

なんかよくわからない祭りで買ったりんご飴を食べたらなんかよくわからないけど子供になっちゃった、なんていうご都合エピです。冒頭は一例。
おまつりで色々買った翌日なので300jr。
冒頭だけだとわかりにくいのですが、単純にミニマム化するのではなく、頭の中はそのまま体だけ『子供』に戻ってる状態です。翌朝起きたらまた元に戻ってます。
小さくなっちゃう方は神人さんでも精霊さんでもどちらでも。

▼プランにいるもの

・小さくなる方はどちらか(冒頭に『小』の文字を入れてください)
・一日の過ごし方

以上です。どう過ごしてもいいですがこんな状況なので、ウィンクルムのお仕事はお休みさせてもらっている前提とします。
子供化する方の外見年齢ですがあまり厳しく設定してないので(とはいえ言葉が通じなくても困るので)10歳~12歳くらいまで。
普段見れない姿だとか視点とか、子供の体では出来ない事に対するパートナーからのサポートをなんかを楽しんでいただけたらなーと思います。だっことか。かたぐるまとか。一緒におかいものとか。


ゲームマスターより

お世話になります、梅都です。
ぶっちゃけショタ化っていう出涸らしてそうなカテゴリなんですが、よければお気軽に。
参考過去EPなどあれば番号までお願いできるとありがたいです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  小さくはなったが他に異常は無さそうだ
なけなしの出掛け支度をするためマントを引っ張り出し
取り返そうと伸び上がりながら訴える
店に行きたい
店とはリンが仕事を手引きしてくれた鍛冶屋
…の裏の雑貨屋の事で、鍛冶屋夫妻の主に奥さんの趣味で成り立っている
店番に立つ事もあるがリン曰く雑用とあまりいい顔はされない
近くある祭りに合わせ模様替えすると聞いている

リンが話し込んでいる間に着替えて顔出し
ハティ…の友人という体で手伝い

宿題を貰ってしまった
飾りつけた木だが、あれで完成じゃなくて願いを書いて飾るそうだ
リンの分もある
…気になるならもっと顔を出せばいいのに
心配の種は取れただろう?
それだと当分先かもしれん…まだ一つも



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  『小』

ベッド布団の中でえーっ
そんな効果がある食べ物だったなんて><

時間は刻々と迫り大学に行かねばならないのに…
今日は学食ですませてくれ
出来たら講義ノートも頼む(大講堂だが流石に入れない
仕事のことも考えないとだし(溜息
ああ…先へ先へと考えてしまうのはいかんな

行ってらっしゃい(心細い
手を伸ばして上着裾を反射的に掴む
べ、別に用事はない、けど…
悔しかったり嬉しかったり恥かしかったり
それを誤魔化すために首後ろに両手を回してぎゅっ

道具箱を足場にして頑張って料理(カレー)を作っておくよ
明日には治ってると信じて乾杯!
…ってあれれ(くらあ
あ、そっか、体が小さいからお酒の回りが…ふわあ…
すりっとして、また、ぎゅっ


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
 

■電話で連絡。部屋の2階の窓を開け招き
こんな事になるなら
林檎飴ほしがってたタイガに譲ればよかった

…遊びに行きたい

■童心に返って(初)思いっきり遊ぶ。きょとん、びっくり、おずおず、にこ
動物ふれあい、ゴーカート(安全運転
カラフルな子供向けジェットコースター(縮こまってるけど笑顔
猫のカチューシャや風船を横目に
テラスでお子様ランチ

頼んでみたかったんだ。旗に星にプリンにハンバーグ、さくらんぼ可愛いね
■ガラスに映る顔をみて決意
今朝の続き
この頃の僕って、閉じ篭りきりでタイガにもみせるつもりなかったんだ
だから子供の頃を取り戻せた感じだ。次は何乗ろうかお兄ちゃん

疲れて寝落ち(僕あまえっぱなしだね…)ありがとう


鳥飼(鴉)
  小:11歳

すみません、僕の不注意で。(眉を下げる
お父さんもおじいちゃんも、今日は用事があっていなくて。
来てくれて嬉しいです。
いらっしゃいませ、鴉さん。(にっこり

ここが僕の部屋です。
鴉さんは、座って待っていてくださいね。(ミニテーブルを設置
飲み物を持ってきますから。(お茶菓子も持ってくるつもり

お待たせしました。(ミニテーブルに置く
香水瓶もリボンも綺麗で、取って置いてるんです。鴉さんとの思い出の品ですし。
あ、そのぬいぐるみ。いただきものですごく触り心地いいんですよ。
持ってみますか?(近づいて、カラスのぬいぐるみを抱えて渡す
(隼のぬいぐるみを抱える
わ、とと。(ぎゅっと、抱えてバランスを崩して座り込む


胡白眼(ジェフリー・ブラックモア)
  体調不良だと聞いて訪ねてみれば
どうして黙ってたんですか!
…屁理屈を。上がりますよ!

食事はとりましたか
(無言で台所に立つ
パンとスープ、オムレツにケチャップで猫を)
体がおかしいのは事実でしょう?

食べながら寝ない!
(手を一瞬止めるも、乱暴に抱上げ寝室へ)

(彼に余裕がない事くらいわかってる
俺だって同じ目に遭えば気が動転する

体の不自由さ
戻れなかったらという恐怖
他に何か起きない保証もない

それだけに不安を殺そうとする彼が
頼りにされない自分が、歯痒い)

初めての訪問がこんな形になるとは思いませんでした
夜泣きでもされたら近所迷惑です
泊まらせてもらいますよ

(頭を撫で
ためらいがちに右目の縁に触れ)
子供なのは俺の方だな



「体調不良だと聞いて訪ねてみれば……」
 神人、胡白眼は、盛大に深い溜息をわざとらしく付いて見せる。
「どうして黙ってたんですか!」
 そして、目の前で縮こまっている精霊、ジェフリー・ブラックモアに、怒りの一言を吐き出した。
 A.R.O.A.経由で今日は休むと、神人にもちゃんと連絡はしておいたのだ。
 詮索されたくなくて「理由はぼかして」と暗に告げたのが裏目に出たのかもしれない。
(気分が落ちつくまでこいつの顔は見たくなかった)
「体がおかしいのは事実だよ」と答えるが、普段温厚な白眼の眉間に寄った皺は変わらずで。
「……屁理屈を。上がりますよ!」
 半ば強引に自宅へ邪魔されて、ジェフリーは小さく溜息を付いた。

「食事はとりましたか」
「アー……胃も小さくなってるみたいで」
 バツが悪そうに目を逸らす。全く食べてないとはとても言えない。
 そのまま無言で白眼は台所に立ち、持ち込んだ食材でパンとスープ、オムレツを作り食卓へ揃える。
「……俺、子供じゃないよ」
 言われるままに着席し、オムレツに描かれたネコの絵を指差すが「体がおかしいのは事実でしょう?」と自分の言い分そのまま皮肉のように返った。
 何を言っても無駄そうだ、とまたひとつ溜息をつき匙を取る。
 正直食欲なんて湧かなかったのだけれど、ひとくち口に運んだふわふわの卵は暖かくて。
 腹を満たしていく満腹感につい、うつらうつらと瞼が落ちかける。
「食べながら寝ない!」
 子供に言い聞かせるように、白眼の手がさっと上がる。
 突然かざされた大きな掌に身を竦ませて、ジェフリーは小さくヒッ、と悲鳴を上げた。
 その様子に白眼はハッと我に返る。らしくない、自分でもわかっている。
 異常事態だというのに、直接連絡ひとつ寄越さなかった精霊に腹が立っていた自覚は充分ある。
 硬直してしまった子供を乱暴に抱き上げ寝室へ運んだ。
 その間もジェフリーは腕の中で大人しく――否、怯えている、という方が正しかっただろうか。
 逃げ出すようなそぶりは見せなかった。

(……彼に余裕がない事くらいわかってる)
 自分だって同じ目に遭えば気が動転する、と白眼は思う。
 体の不自由さ、戻れなかったらという恐怖。他に何か起きない保証もない。
 それだけに、一人で抱えて不安を押し殺そうとする彼が――頼りにされない自分が歯痒い。
「初めての訪問がこんな形になるとは思いませんでした」
 布団へ寝かせた子供へ呆れた様に告げると「……悪かったよ」と今度は素直に返って来た。
「何かあったらちゃんと連絡するから、帰ってもいいよ」
「夜泣きでもされたら近所迷惑です。泊まらせてもらいますよ」
「……今日のフーくんは意地悪だなぁ」
 ぼやくように言ってジェフリーは苦笑した。
(だから嫌だったんだ。うんざりするほど纏わりつかれるのが目に見えていたから)
 閉じた瞼の奥で考える。
 縋りたくなる――不安に負けて、甘えてしまいそうになる。
 今は左右同じように青い右目の事を、聞かないのは優しさだろうか。
 いつもにこにこと細められている双眸に映っていないだけだろうか?
 どちらにしても、多くを詮索しない白眼に、安堵している自分が居た。
(ね、むい……おおきな掌。あったかい、な)
 小さな獣耳を撫でる様にして、細い髪を梳いていく大人の手の平に、穏やかな眠りへと誘われる。
 そのまま、ジェフリーは意識を手放した。

「……子供なのは俺の方だな」
 彼が眠り込んだころ、窓から差し込む夕闇に照らされた右目の縁に、そっと白眼の指先が触れる。
 気付いてないわけでも、見えてないわけでもなかった。
 何があったんですか? なんて、こんな子供に聞けるはずもない。それでも気にならない訳じゃない。
 ――いつか、聞かせてくださいね。
 声には出さず、自嘲気味にひとつ笑って、おやすみなさいと告げて、そっと寝室を後にした。


「すみません、僕の不注意で」
 神人である鳥飼は眉をハの字に曲げ、ほとほと困り果てた様に精霊――鴉を見上げた。
 年の頃はおおよそ11といったところだろうか。
 半信半疑で訪れたパートナーの家――その玄関先で、出迎えた少女……否、小さな少年を見下ろし、鴉は不思議そうな顔をする。
「これはまた」
 どう見ても少女ですね、と言う台詞は飲み込んだ。
 けれど誰が見てもそう言ったと思う。大人の時分ですら、鳥飼は綺麗な顔をしているから。
「A.R.O.A.に連絡を入れておきましょう。この状態で戦力の当てにされても困りますからね」
 その場で本部へと連絡を取り、幾つか話して通信を切る。
 手際の良いパートナーの行動に感謝して、小さな鳥飼はぺこりと頭を下げた。
「来てくれて嬉しいです。お父さんもおじいちゃんも、今日は用事があって居なくて……」
 こんな姿では何をするにも限度があるし、何より心細い。
 家族の不在時に精霊が尋ねてくれた事はとても頼もしかった。
「いらっしゃいませ、鴉さん」
 安堵したように微笑む鳥飼に、お邪魔しますよ、と鴉も笑んだ。

(……以前より誘われてはいましたが)
 彼の部屋を見回して、こんな事でもなければ来る事は無かったでしょうね、と思い耽る。
 鳥飼に案内された後、一先ずミニテーブルを設置した彼は、飲み物を持って来ますから、と一旦部屋を出ていった。
 綺麗に整理整頓された部屋、座るのに選んだパステルカラーのクッション。
 棚の上には見覚えのある雑貨達が行儀良く鎮座している。
 ふと、隅の方で存在を主張しているぬいぐるみの存在に気付いて腰を上げようとした時、お待たせしました、と主が帰って来た。
「これはどうも、ご丁寧に」
 茶菓子と一緒に卓上へ並べられた紅茶を、礼を告げて一口啜る。
 ソーサーにカップを静かに置いて、また周囲へ視線を向けると、つられた様に鳥飼もそちらを向いた。
「香水瓶もリボンも綺麗で、取って置いてるんです。鴉さんとの、思い出の品ですし」
 星の綺麗な冬に手にしたリボン、不思議なバザーで二人肩を並べて作った香水瓶。
 見る度にあの時を思い返せる事が鳥飼は嬉しい。
 それは鴉も同じことだが――先程から気になっていたのは、やはりあの大きなぬいぐるみ。
 大人の手でも抱えるほどに大きく、デフォルメされたそれの存在感はあれど、二つ並んだそれは、とある二人を模しているようで。
「あ、そのぬいぐるみ。いただきもので、すごくさわり心地いいんですよ」
 持ってみますか? と、カラスの方のぬいぐるみを両手で抱えて、とてとてと持ってきたあと、鴉――こちらは精霊、に、手渡す。
「貰い物、ですか」
 警戒心の強い鴉はさりげなく、受け取ったそれに盗聴器や隠しカメラの類を確認してしまう。
 特別見当たらない事に安心して、ふと鳥飼を見遣れば、彼はもう一つのぬいぐるみ――隼のそれを両手いっぱい抱えていた。
 何せほぼ鳥飼自身と同じくらいの大きさなので、いつもと違う感触が心地いいのか、ご機嫌に顎を乗せてにこにこと微笑んでいる。ぬいぐるみの愛らしさと相まって花でも舞っていそうな構図だ。
 しかし、なんというのか……やっぱり面白くない。
「? 鴉さん?」
 無言で、鳥飼の手から隼のぬいぐるみをそっと奪い脇に置いやってしまうと、代わりにカラスのぎゅむっ、と手渡す。
「わ、とと」
 抱えたぬいぐるみの大きさについバランスを崩して、ぺたりと尻餅をついて座り込んだ。
 少女のように愛くるしい神人が、カラスのぬいぐるみを抱えて目をぱちくりさせている。
 その絵面に、鴉は双眸を細めくすりと笑って「子供の体には大き過ぎますね」と満足げに告げてみせた。


「えーッ!?」
 朝も早々に、ベッドの中で盛大な悲鳴を上げたのは神人アキ・セイジ。
 いつもと視点の高さが違うような……と、己の姿を見返して、それから隣で寝ている相方を見て、ようやっとこの異常事態に気が付いた。
 ふと、昨晩そういえば屋台で「綺麗なお兄ちゃんだからサービスしとくよ!」なんて調子のいい親父からもらった林檎飴を思い出し、まさかそんな効果があるなんて……と項垂れる。
「んん、どうかしたか、セイジ……?」
 相方の声に、やがて隣で寝ていた精霊、ヴェルトール・ランスも目を覚ます
 かくかくしかじか、と自分でも全く的を得ない説明をかいつまんで話せば、マジで? とやはり信じられない様子でセイジの体をまじまじと見回した。
 首筋に赤い虫刺されみたいな跡を見つけて「あ、ホントだ」と確信を得れば、その意味に気付いたのか小さな恋人はかっと頬を茹で上げた。
「どこ見て気付いてるんだよ、バカッ」
「あいたた。いや痛くないな。いかんいかん、顔がにやける」
「もーっ! しんけんになやんでるんだぞ、こっちは!」
 ぽかぽかと叩いてくる小さな生き物は可愛いばかりでどうしようもないが、どうしようもなく途方に暮れているのはセイジの方だ。
 時間は刻々と迫るものの大学なんて出ている場合じゃない。
「今日は学食で済ませてくれ。出来たら講義ノートも頼む。仕事の事も考えないとだし……ああ、先へ先へと考えてしまうのはいかんな」
 はああ、と深い溜息を吐き出して、後の不安ばかりを思うセイジの頭をランスはぽんぽんと叩く。
「いつまでも治らないと決まった訳じゃないだろ? 大学の方には上手く伝えておくからさ」
 小さいセイジも可愛いし、と付け足してにっと白い歯を見せ笑うものだから、なんだか気が抜けてしまって「助かるよ」と苦笑した。

 とはいえ、いざ彼が家を出てしまうとなると――だ。
 くいっ。
「……?」
 玄関先で、不意に裾を引かれてランスは振り返る。
「どうかした?」
「い、いや、別に」
 用事はない、けど……。
 段々と小さくなる語尾。見上げてくる大きな瞳には心細い、といった感情が滲み出ている。
 用事はないと言いつつ、小さな指先で握った服の裾は離さない。
(……その、捨てられた子犬のような目は。あかんやろ、これは完全に犯罪やろ……!)
 つい心中で景気のいいツッコミをしてしまったが、どちらかと言うとそんな事を思っている側の方が犯罪に近い。
 堪らなくなって抱き締める。可愛い大好き、とついには言葉に出てしまい、丸い額に軽く口付けを落として「いってくるな」と安心させる様に微笑めば、気恥ずかしさを隠す様に子供の小さな腕も首に回った。
 やめてくれ本当に食っちゃいそうだから。

 そんな葛藤にもどうにか打ち勝ち大学へ出て、約束どおりノートも取って、しっかり土産も用意して帰路へ着いた。
 終始思い出してはニヤニヤしていた為、同じ学部の友人に変態かよと罵られたりもしたが、幸せ絶頂オーラの本人の耳には当然届いていなかった。それはそれとして。
「ただいまー。お、良い匂いだな」
 帰宅しキッチンを覗くと、道具箱を足場にして台所へ立つセイジの姿を見つけた。
 カレーを作ると聞いていたので、手土産のチキンを添えて、皿の盛り付けは手伝って、ワイングラスを片手に卓を囲む。
 翌日には治っていると信じて、と乾杯を交わした。
「……セイジ、大丈夫か?」
「んー……? 何が?」
 暫く他愛ない話をしていたが、ほどなくしてセイジの頭がふらふらと揺れ始めた。
 子供の体だというのに何時もと同じペースで飲んでしまったから、早々に酔いが回ったらしい。
 立ち上がった拍子にあれれ、とふらついた体を支えてランスは苦笑する。
「そろそろ寝るか。運んでやるよ」
「うー……すまん」
 抱っこして寝室に運ぶ間にも、全く持って自覚などなく小さな体はすりすりしてくるしぎゅっと抱き付いてくるしで正直俺の理性は限界。
「こんなちっこい体じゃ、そうそうキスマークもつけられないな」
 早く治らないと萌え死んじまいそうだ、と心底翌朝には元に戻っている事を願い、本日何度目かになるキスをまどろむ子供のほっぺたにそっと落とした。


「こんな事になるなら、林檎飴ほしがってたタイガに譲ればよかった」
 自らの体を見返しつつため息混じりに呟いて、コンコン、と鳴った窓ガラスのノックを合図に、神人セラフィム・ロイスは窓枠へ手をかける。
 飴を欲しがっていた当の本人は他の屋台に夢中で渡しそびれてしまい、結局自分で全部食べてしまっていたのだ。
 いつもは開きなれている窓も今日はやたら大きく感じて、高い位置の取っ手に手をかけるのすらまごついていたら、外からの来訪者が開いてくれた。
「……ほんとに小さいセラだ」
 連絡を受け駆けつけたのは精霊、火山タイガ。
 いざ目の前にした彼の姿は、少し前の旧市街地で見たセラフィムを思い起こさせる。
(……傷だらけのセラじゃなくてよかった)
 不安が消え安堵して「セラ、あの時の姿ってさ」と言い掛けるが「……遊びに行きたい」と割り込まれて言葉尻を詰めた。
「お、おう? 何処行こうか」
 無神経だったかな、と頭を一つ掻いて行き先を促す。
 彼は遊園地に行きたい、と言った。

「次はアレがいい」
 童心に返りはしゃぐセラフィムの姿にタイガは感動しつつ、兄の事を思い出し手を繋いでリードする。
 繋いだ手と逆のそれにはポップコーンを常備して、遊び尽くす準備は万全である。
 動物ふれあいコーナーの後は、競争だぜ! と張り切る精霊を余所目に専ら安全運転のゴーカート。
 カラフルな子供向けジェットコースターでは縮こまっていたけれど周りの歓声につられて終始笑顔で。
 ネコ耳のカチューシャを付けて、タイガとおそろいだね、なんて。
 右手首に括りつけられた黄色い風船は、彼がチケットを買ってくれている間「お兄さんとおそろいの色ね」と、パークのスタッフがくれたものだ。
 アトラクションを一通り満喫して、昼食にと選んだレストラン。
 タイガは大盛りのミートソースにオレンジジュースを、セラフィムは一も二もなくお子様ランチを注文した。
「旗に、星に、プリンにハンバーグ……さくらんぼかわいいね」
 運ばれてきた船形のプレートにセラフィムは目を輝かせる。
「こっちもイケるぜ。セラ、本当にそれだけで良かったのか?」
「うん。……頼んでみたかったんだ」
 感慨深げにプレートを見詰める神人に、そっか、とタイガも多くは聞かず微笑んだ。

「……この頃の僕って、部屋に閉じ篭りきりで、タイガにも見せるつもりはなかったんだ」
 鏡に映る自分の姿を見ながら、決意した様にぽつりと彼は切り出した。
「歳の近い友達とか、兄弟と一緒に遊ぶって機会もなくて……だから、子供の事を取り戻せた感じだ」
「セラ……」
 ありがとう、とはにかむ笑顔もどこか寂しそうで。
 タイガには父も母も沢山の兄弟も居て遊び相手には不自由しなかったから、到底彼の様な境遇は想像がつかなかったけれど、そんなヤツもいるんだよな、と思い耽る。
 同時に今日の思い出がセラフィムの初めてになるのなら、なんだかそれは嬉しい、とも。
「次は何乗ろうかお兄ちゃん」
「お、おおおにいちゃん!?」
 突然の二人称にぼっ! とタイガの顔が赤くなる。
 おにいちゃん、なんて。ただでも大好きな神人の、可愛らしい顔で言われてはたまらないし、いつもは下に見られるばかりだったから「お兄ちゃん」呼びされることが単純に新鮮で嬉しいのもある。
(おおお、初おにいちゃん体験……! って違うって!)
 あわあわと一人慌てるタイガが振り返った時にはセラフィムは既に別のアトラクションへ向かっており、マイペースなのは変わらずなんだ……と拍子抜けする。
「……ま、セラが楽しんでるならいいか」
 虎の着ぐるみ抱き付いて嬉しそうな少年を見遣って、タイガも少しだけ大人びた笑顔を浮かべた。

「……ん」
 ふと目覚めると、いつ意識が落ちたのかわからないが、気付けばタイガの背中におぶられていた。
「疲れたんだろ。観覧車で寝落ちてたぜ、今日はおぶって帰るから」
「そっか……」
 右手にくくりつけられた風船を横目で満足そうに見遣る。
(僕、あまえっぱなしだね……)
 不規則に揺れる暖かな背中に瞼が重くなっていく。
 ありがとう、と小さく呟いた声がタイガに届いている事を願って、セラフィムは静かに瞳を閉じた。


「小さくはなったが、他に異常はなさそうだ」
 存外冷静に状況を判断し、なけなしの出掛け支度をするためずるずるとマントを引きずり出しているのは神人ハティだ。
 引っ張り出されたそれをひょいと容易に取り上げたブリンドは、折角のオフなんだから、ともう一つ連絡先へ電話を入れる事を思案する。
「かえしてくれ」
「取れるだろ。高い高ーい」
「ぐぬっ……! み、店に」
 店に行きたい、とハティは伸び上がりながら訴える。
「そのナリで行っても役に立つとは思えねぇが……」
 店と言うのは、ブリンドがハティにと手引きしてくれた鍛冶屋――の裏で営まれている雑貨屋の事だ。
 取り扱う品物の多くは、主に夫人の趣味で成り立っている。
 店番に立つ事もあるが、ブリンド曰く雑用じゃねえか、とあまりいい顔はしてもらえない。
 そういえば近くある祭りの為、模様替えをすると聞いていた。
「……ま、着る物もねえよりマシか」

 店頭に夫妻と積荷を見つけてなんだそれ、と覗き込めば、夫人はまあまあリンちゃん! と朗らかに笑ったので僅かブリンドの額に青筋が走る。
 親しみを込めた呼び名なのは理解しているのだが、どうにもその愛称は慣れない。
 いつも一緒のハティが隣にいないので、どうかしたの? と聞かれ言葉を濁した。
「あー、ハティは……体調不良で」
「あら大変! 大丈夫なの? 夏風邪? 着いててあげた方が良いんじゃない? あっ、そうね何か後で持たせようかしら」
「や、あの。大丈夫なんで――」
 矢継ぎ早の質問責めに困り果てていたら、助け舟の様にひょこりと現れた子供――ハティなのだが夫妻には気付かれていない――が、夫人のスカートをくいと引っ張った。
「あらっ? まぁどこの子かしら。迷子になったの?」
「いや、ええと……ハティ、の、友達で。おみせ、手伝うように言われて」
「そう……良かったのにあの子ったら」
 じゃあこれを店頭に飾ってね、と笹の木を手渡し、夫人は一旦店の奥へ戻る。
 再度ハティを見れば、店頭に置いてあった小さなサイズの服はピッタリで、そのお人形みたいな見てくれに反し子供に戻っていても表情は相変わらずでつい笑ってしまう。
「似合ってんじゃねーか。勧めてくれたのじーさんか?」
「ああ。合うものを、と言ったらこれを」
 話す間も手は止めない。真面目な子供をブリンドも隣で手伝っていたら、奥から主人を連れた夫人が戻って来た。
「おお。久しぶりだなあ。連れの子がおらんのが残念だ。この前あの子が作った銀細工がまた仕上がったんじゃが、ほれ」
「……こりゃあまた」
 良く出来てるな、と素直にブリンドが感嘆すれば、主人の「ハティが作った銀細工自慢」がこんこんと始まる。
 その間もハティは手を止めなかったが、嬉しそうな夫妻や自分の作品に感想を漏らすブリンドの声はしっかり聞き届けていた。

「宿題を貰ってしまった」
 長方形の薄い紙を二枚、手元で泳がせながらハティが呟く。
 飾り付けた笹の木はあれで完成ではなくて、願い事を書いて括りつけるのだという。
「商売繁盛、でいいんじゃね」
 店員を雇えるようによ、と続けるブリンドにハティは苦笑する。
 あれでもうそこそこいい歳の老夫妻だ。気になるならもっと顔を出せばいいのに、とも思ったが詮無いやり取りになりそうだったので、口には出さなかった。
「つっても、二人ともまだまだ元気そうだが」
「心配の種は取れただろう?」
「……お前、その為に俺を連れて来たんじゃねーだろうな」
「どうだろうな」
 やんわりはぐらかすハティに一つ溜息を吐いて、まあ、と続ける。
「お前の作ったもんが売れるようになったら、また行ってもいいけど」
「それだと当分先かもしれん……」
 ハティが作った銀細工はまだ一つも売れていない。
 彼はそれを自分の技術不足ゆえだと思っているのだが、実は一つ大事な事に気付いていない。
「……売れないのはお前のせいじゃねーから、これから先も好きに作りな」
 ハティの作った自慢の銀細工を、あの暖かな夫妻が売りに出すつもりは毛頭ないのだ。
 首を傾げるハティを見て『非売品』と書かれた貼紙を思い出し、ブリンドは一つ嬉しそうに笑った。



依頼結果:成功
MVP
名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月27日
出発日 07月05日 00:00
予定納品日 07月15日

参加者

会議室

  • [6]アキ・セイジ

    2016/07/04-22:11 

    セイジがちみっこくなっちまったんで、俺の理性がかなりヤバい。
    慌てて外出するのはセイジの頼みでもあるんだが俺の理性との戦いのためにもラッキーだった。
    早く治ってくれないと色々レッドゾーンでアウトーってなorz

    そんなこんなでプランは提出できたぞ。
    皆のところもどうなってんかな?むっちゃ楽しみだぜ!

  • [5]アキ・セイジ

    2016/07/04-22:08 

  • [4]ハティ

    2016/07/01-23:20 

  • [3]胡白眼

    2016/07/01-08:04 

  • [2]セラフィム・ロイス

    2016/06/30-23:10 

  • [1]鳥飼

    2016/06/30-21:50 


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