プロローグ
早朝。あなたはパートナーの精霊と一緒に浜辺を歩いています。
まだ朝早いからでしょうか、浜辺にはあなたたち二人以外に人はおらず、あなたたちは他愛のないことを話しながらゆっくりと散歩をしています。
寄せては返す波の音。ざわざわと風に揺れる椰子の葉の音。
沖の方に魚がいるのでしょうか? カモメが鳴きながら飛んでいるのが見えます。
「たまには、こうしてゆっくりするのもいいね」
あなたは、精霊を見上げ微笑みながら言いました。それに応えるよう、彼はつないだ手にきゅっと力を込めあなたに微笑みかけます。
暖かい砂浜にうずもれる素足。髪を揺らしながら通り過ぎていく微風。
幸せとは、こういうものを言うのかもしれません。
そのときでした。
「あら? あれは何かしら?」
あなたは波打ち際にキラリと光るものを見つけました。どうやら瓶のようです。
あなたは服が海水に濡れないよう気をつけながら、瓶に手を伸ばしました。
「手紙が入っている……」
あなたは瓶を開け手紙を取り出しました。
そこに書かれていたのは狂おしいほどの後悔と謝罪。
あのとき、自分があんなことを言わなければ。
あのとき、あんなことをしなければ。
そうすれば、もっと違う未来があったはずなのに!
恐らく、手紙を受け取るはずだった相手はもう亡くなってしまっているのでしょう。手紙の主は、やり場のない気持ちを手紙にしたため海に流したようです。
ですが手紙に書かれていたのは、謝罪と後悔だけではありませんでした。
明日からは、前を向いて進んでいきます。
そう締めくくられた手紙を読んでいると、ふいにあなたの心に過去の思い出がよみがえってきました。
解説
普段は忘れているけれど、何かにつけ思い出す後悔は何ですか?
初任務で失敗したこと?
パートナーと喧嘩したときに、ついよけいな一言を言ってしまったこと?
パートナーと初めて会ったとき、緊張しすぎて変な第一印象を与えてしまったこと?
それとも、パートナーの誕生日を忘れていたことでしょうか?
シリアスでもギャグでも何でもかまいません。
この機会に、あなたの秘めた後悔を思い切って精霊にぶつけてみましょう。
そうすれば、きっと今まで以上に二人の仲が深まるはずです。
ゲームマスターより
後悔していること告げるのは、神人でも精霊でもかまいません。
※海への交通費として300ジェールいただきます。
※アドリブNGの方は「アドNG」とお知らせください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
後悔していることですか なんか今更、という感じですね 後悔しないことなんか、無いじゃないですか それってその事にたいして大事に向き合っていたからこそ湧いてくる感情だと思いますよ。 (ディエゴさんの話を聞きます、黙って) そうですね… 確かに、記憶が戻ったときは本当に辛かったです あなたに私の汚い部分を知られてしまったショックとか、本当にあなたを信じて良いのかわからなくて…。 冷たく当たってしまったこともありましたね でも、それでもディエゴさんは私を見捨てずに寄り添ってくれた。 それだけで、今はそのことは良いんだって思えるようになりました。 あなたがいなかったらきっと、私はうちひしがれたままだったんですよ! |
リヴィエラ(ロジェ)
リヴィエラ: (瓶を見つけたロジェに駆け寄り) まぁっ、これは…瓶? 中に手紙が入っていますね。 (ロジェの話を聞き) ロジェは、私と婚約した事を後悔していますか? (にこりと微笑み)はい、私も貴方を愛しています。 ですから、何もかも一人で後悔する事はないのですよ。 後悔する時は、二人でしましょう? 嬉しい事は二人で喜んで、悲しい事は二人で半分にしましょう? 大丈夫です、一人では難しい事も、二人ならできると私は信じています。 (ロジェの手を握り、にこりと微笑む) マントゥールにも二人で立ち向かいましょう? 私は貴方がいてくだされば、何も怖くありませんから… |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
前提 EP5→12 手紙を見て思い出すのは… ガルヴァンさん 少し気になる事が… 年末の時… 私はガルヴァンさんに オーガと意識が入れ替わって、そのオーガとして殺された事を伝えたよね …今思うと、別に伝えなくてもいい事実だったと思う わざわざ伝えて、ガルヴァンさんの心に重りを付けるような事を… え…?! ば、馬鹿って言われた小突かれた…?! 初めてされる事ばかりで混乱 そ、そう言う事じゃなくて…! ただ、私が話さず秘密にしてても問題なくて、ガルヴァンさんもそのまま心穏やかでいられたんじゃないかって…! そんな… ガルヴァンさん… ありがとう 私…この手紙みたいに前を向いて進めるようになれるかな うん…頑張る 胸張って隣に立てるように |
マユリ(ザシャ)
…びっくり、しました。今起きたそうですって職員さんに言われましたから どんな人だろうって考えてましたけどさすがに昼夜逆転は想像を越えていた、と言いますか え? 怒る、ですか…? いえ、全然 突然どうしたんですか…? あんな対面…? 寝坊したのを気にしてるのかと思ったがどうやらそうではないようで、彼の話に耳を傾ける …そうだったんですか… 謝らないで下さい…僕は気にしてませんから …大丈夫、ですよ 明日に進めるように僕もできる限り努力します ウィンクルムとして。なによりザシャくんのパートナーとして頑張りますっ たくましいですよ! これからよろしくお願いします。ザシャくん |
○マユリとザシャの場合
エメラルド色の海が広がっていた。
空はどこまでも青く澄み渡り、綿菓子のような雲が水平線を縁取っている。
ザシャはフードに隠した顔を上げ、隣を歩くマユリを盗み見た。いくつかの依頼を共にこなし、距離が縮まったと思っていたのに。自分達の間には、依然一人分の距離がある。ザシャは恨めしげにそれを見ると、マユリに気づかれぬようそっとため息をこぼし、再び髪に顔を隠した。
マユリは、隣を歩くザシャをこっそりと盗み見た。何故か妙に隣を意識してしまう。彼と隣り合った左腕が少し熱い。ともすれば早足になる足を必死に押しとどめ、マユリはぎくしゃくと海に目を向けた。
「ザシャくん、あれ!」
メッセージボトルだ!
二人は顔を見合わせ、それを拾い上げた。中に手紙が入っている。深い後悔の綴られた古い手紙が!
それを読み終えた瞬間、ザシャの脳裏に、マユリと契約した日のことが蘇った。
しつこいほど鳴らされる電話についに根負けし、渋々やってきたA.R.O.A.本部――
葛藤を振り切るように乱暴に開けたドアの向こう――そこに彼女はいた。午後の柔らかな光を浴び、一人ぽつんとソファーに座り、待ちぼうけをくらい、不安いっぱいな表情で。
ザシャは顔を歪め爪をかんだ。
「ザシャくん? どうしたんですか?」
「いや……」
何でもない。そう言いかけ、ザシャがマユリを見た。
「……契約した日のことを覚えているか? ……あの日、A.R.O.A.の本部に来るの、一時間遅れただろ?」
怒っているか?
恐る恐る告げられた言葉に、マユリは目を瞬いた。
「え? 怒る、ですか……? いえ、全然。突然どうしたんですか……?」
「反省してる、っていうか……後悔してるっていうか……」
ザシャの声がだんだんと小さくなる。
マユリは目を丸くすると、小さな声を聞き漏らすまいとザシャに顔を近づけた。
「あんな対面は、さすがにないんじゃないかって」
『初対面』とは意地でも言いたくなかった。
マユリは、その言葉に含まれた意図には気づかず、きょとんとして言った。
「びっくりはしました。今起きたそうですって職員さんに言われましたから。どんな人だろうって考えてましたけど、さすがに昼夜逆転は想像を越えていた、と言いますか」
でも、怒ってないですよ。
もう一度、はっきりとザシャに告げる。
ザシャは顔を上げ、挑むような目でマユリを見た。
「契約すんのは嫌だったから、すっぽかすつもりでいた」
ザシャは寝坊したのを気にしているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
マユリは注意深くザシャの言葉に耳を傾けた。何かがわかりそうな気がする。彼を悩ませている何かが。
ザシャは続けた。
「けど……職員から連絡が来て、とっさに寝坊したことにして仕方なく行ったんだ」
そう言うと、ザシャは懺悔を待つ罪人のように顔を伏せ唇をかみ締めた。
マユリはそっとザシャの手を取った。ビクリ、ザシャの肩が震える。その目に浮かぶのは、不安と諦観。そして――期待?
何が彼を苦しめるのかはわからない。でも、今自分がすべきことはわかる。
マユリは彼を見つめ、はっきりと言った。
「謝らないでください。僕は気にしてませんから」
正義感にあふれた優しい目。
その目に当時の彼女の面影を見つけ、ザシャはふっと肩の力を抜いた。
(ああ、この目だ。幼い頃から自分を守り導いてきてくれたのは)
「わる、かったな……。すっぽかそうとして」
あのとき――
本部で再会した彼女は、緊張に頬を染め、「初めまして」と言った。
覚悟はしていたが……。
(やっとオマエに会えたのに、忘れられてるのは堪えた……)
でも……。
ザシャは晴れやかな顔でマユリを見た。
「オレはこの手紙の主みたいに、明日から前を向いて進んでいきます、なんて書けないと思う……。そこまで強くないし」
けど。
「明日にオマエがいれば、今は良いって思う」
しっかりと自分を見つめ告げられた言葉に、マユリは頬を染め破顔した。
「大丈夫ですよ! 明日に進めるように僕もできるだけ努力します。ウィンクルムとして。何よりもザシャくんのパートナーとして!」
いつの間にか、二人の間に横たわっていた距離はなくなっていた。
「たくましいな」
照れ隠しで言ったザシャの言葉に、
「たくましいですよ!」
マユリが胸を張る。
「これからもよろしくお願いします。ザシャくん!」
ザシャはふっと笑うと、甘い声で告げた。
「ザシャでいい」
○アラノアとガルヴァン・ヴァールンガルドの場合
瓶の中に入っていた手紙を読んだ瞬間、アラノアの脳裏に鮮烈な戦いの記憶が蘇った。
(あれは……)
アラノアはぼんやりと思い返した。
(発展途上の小さな素朴な町だった)
そう、常ならば。だが今、町は混乱に包まれ、人々が口々に悲鳴を上げながら逃げ惑っている!
アラノアは初めての本格的な戦闘を前に、手にかいた汗を服でぬぐうと、緊張した面持ちで辺りを見回した。
(よし……大丈夫……為せば成る……)
深呼吸をして頭を切り替える。そして、インスパイア・スペルを口にした次の瞬間――!
何かがぶつかり、自分はこともあろうか、オーガと魂が入れ替わっていたのだ!
そして、自分はガルヴァンに『殺された』!
「どうした。アラノア?」
ガルヴァンの気遣うような声に、アラノアはハッと我に返った。
「ガルヴァンさん。少し気になることが……」
「なんだ?」
様子のおかしいアラノアに、ガルヴァンが愁眉を寄せ、彼女の顔を覗き込む。
アラノアはためらうように視線を彷徨わせていたが、ややあって、きゅっと服の裾を握りしめ口を開いた。
「年末の時……私はガルヴァンさんにオーガと意識が入れ替わって、そのオーガとして殺されたことを伝えたよね。今思うと、別に伝えなくてもいい事実だったと思う。わざわざ伝えて、ガルヴァンさんの心に重りをつけるようなことを……」
アラノアは『最期』を思いだし、自らの体を両腕で抱きしめぶるりと体を震わせた。
ガルヴァンはアラノアの懺悔を聞き、ハッと息を呑んだ。オーガに止めを刺した時の違和感と感覚がはっきりと蘇る。
ガルヴァンは一度きつく目を閉じ、つめていた息をゆっくりと吐き出した。冷悧な瞳の奥に、動揺と苦悩を隠し――目を開ける。
「馬鹿か」
ガルヴァンがアラノアの額を小突いた。
「え……!?」
(ば、馬鹿って言われた。小突かれた……!?)
アラノアは混乱して額を押さえたままガルヴァンを見た。
「確かに俺はあの時、己がしでかしたことに深く後悔した。何故あの時入れ替わっていることに気づけなかったのかと。だが、その事実を知ったことで、俺はもう二度と同じ過ちを繰り返さないと誓えた。お前は、あのとき誓った言葉を無かったことにしたいのか?」
「そ、そう言うことじゃなくて……! ただ、私が話さず秘密にしてても問題なくて、ガルヴァンさんもそのまま心穏やかにいられたんじゃないかって……!」
「……俺の予想だが、そういった秘密はいつかどこかで露呈する。その時、俺はお前にこう問うだろう。何故言わなかったのかと。それだけではない。お前の中身がオーガのままではないかという疑いの気持ちも生まれ、俺達の仲はどこか拗れたものになっていただろうな」
「そんな……」
思わずと言った様子でガルヴァンの腕にしがみつくアラノアに、彼はふっと目元を和らげ、一つ頷いて見せた。
「だから、お前は正しい選択をした。お前が話してくれたから、俺は信じることができた」
その言葉には真摯な響きがこもっていた。
「ガルヴァンさん……」
やっとアラノアの細い肩から力が抜ける。
「ありがとう」
アラノアはつき物が落ちたような明るい声で言った。
「私……この手紙みたいに前を向いて進めるようになれるかな?」
「お前の努力次第だな」
「うん……」
アラノアが両の拳を握り締める。
「うん、頑張る!」
彼にふさわしい、パートナーになれるように。胸を張って彼の隣に立てるように。
風に乗り、ふわり、彼の香水の香りがアラノアを抱きしめるようにして通り過ぎていった。
○リヴィエラとロジェの場合
椰子の葉が音を立てて揺れていた。
リヴィエラは潮風に乱される長い髪を手で押さえ、まぶしそうに目をすがめ辺りを見回した。
クゥー、クゥー――
堤防に並んだカモメ達が、海を見つめながらしきりと鳴いている。
白波に洗われる桜貝、波打ち際まで続くロジェの大きな足跡。
リヴィエラはくすりと微笑むと、ロジェの足跡を追って歩いた。
「リヴィエラ!」
何を見つけたのだろう。ロジェが何かを拾い上げ、生き生きとした声でリヴィエラを呼ぶ。彼の手にあるのは、コルクで蓋をされた青い瓶――?
リヴィエラはパッと顔を輝かせ、ロジェに駆け寄った。
「まぁっ、これは……瓶? 中に手紙が入っていますね」
「羊皮紙か……年代もののようだな」
「読んでみましょう!」
待ちきれないと言うように、身を乗り出して瓶を見つめるリヴィエラに、
「そうだな」
ロジェはふっと笑って手紙を開いた。
中に書かれていたのは、宝の地図でもなく、ましてや異国語で書かれた友達募集でもなく――後悔と謝罪。
その手紙を読み進めるにつれ、どんどんとロジェの顔が憂いを帯びていく。
(後悔、か……)
ロジェが、手紙を読むリヴィエラを見下ろし、唇をかむ。
(これは俺が愚かだったせいで招いた後悔だ)
「ロジェ?」
急に黙り込んだロジェに気づき、リヴィエラが声をかける。
「リヴィエラ……」
「はい」
「……俺は君の父親を殺した」
「……はい」
「俺は君の父親を葬った時、怒りに任せて奴がマントゥールの一味だと言うことをすっかりと忘れていた」
ロジェは当時のことを思い出し、きつく拳を握った。
ロジェに剣を突きつけられてなお、口から血を流し血走った目で彼をあざ笑う――リヴィエラの父親。
分厚いカーテンの引かれた部屋に、一人ポツンと座っていたリヴィエラ。
ロジェは痛々しい物を見るような目をして、リヴィエラを見た。オーガの生贄にするために実の父親に監禁されていた少女を!
「リヴィエラ……」
愛しい、かけがいのない。
絞り出したロジェの声は後悔に震えていた。
「マントゥールは、組織だ。その一味を叩いたとなれば、必ず報復は来るはず。結局、俺はハチの巣をつついただけになってしまった」
ロジェは憂いに満ちた紫色の瞳に狂おしいほどの後悔を宿して言った。
「俺がもっと上手くやれていたら……すべてのマントゥールを殲滅する覚悟でいたならっ! 君まで危険にさらすことはなかった!」
言い終わるやいなや、ロジェが頭を振る。パッと銀糸の髪が乱れ、ロジェの血の気の引いた青白い顔を隠す。ロジェはきつく唇をかみしめ黙り込んだ。
リヴィエラはロジェをひたと見つめたまま、口を開かなかった。
一分、それとも五分もたっただろうか?
彼女は静かに口を開くと、ロジェに問いかけた。
「ロジェは、私と婚約したことを後悔していますか」
ロジェが勢いよく顔を上げる。
「後悔なんてする筈ないだろ! 俺は君を愛してる。君は俺のものだと言っただろ!」
「はい」
リヴィエラがくすぐったそうに笑った。
「私もあなたを愛しています。ですから、何もかも一人で後悔することはないのですよ。後悔するときは二人でしましょう? 嬉しい事は二人で喜んで、悲しい事は二人で半分にしましょう? 大丈夫です。一人では難しいことも、二人ならできると私は信じています」
リヴィエラのほっそりとした手が、ロジェの無骨な手を取る。甘くほころぶ淡い桃色の唇。きらきらと輝くリヴィエラの優しい瞳。
ロジェはすがるような目でリヴィエラを見た。ロジェの暗い胸に一条の光が差し込む。
リヴィエラは慈母のような笑みを浮かべると、彼の手を握る手にそっと力を込めた。
「マントゥールにも二人で立ち向かいましょう? 私は貴方がいてくだされば、何も怖くありませんから……」
ロジェが雷に撃たれたような顔で、リヴィエラを見つめた。
「……そうか……そうだな」
かみしめるように言った瞬間、ロジェの胸に喜びと愛しさがこみ上がった。
「ありがとう、リヴィー」
ロジェはリヴィエラの柔らかな体を抱きしめ、そっとその髪をなでた。
風が吹き、揃いでつけた香水の香りがふわり、ただよってくる。
愛しさがこみ上げ、ロジェはこっそりと鼻をすすると、宝物を抱くように彼女を抱きしめ、蒼の髪に顔を埋めた。
○ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロの場合
ザザー……ザンっ……
南の国特有の鮮やかなブルーの波が高く盛り上がり、白いレースのような泡をふちどらせながら、砂浜に乗りあげる。
ハロルドは風に長い髪を遊ばせながら、ディエゴと手を繋ぎ歩いていた。
白い犬が二匹、遠くの方で波にじゃれるようにしながら追いかけっこをしている。
ハロルドは口元に笑みを浮かべ、目をすがめて入道雲を見た。
ザザー……ザンっ……
潮風が心地よい。何も言葉はなくても、ディエゴといるだけで不思議と心が満ち足りていた。
恋人つなぎをするのはキャラではないが、彼と手をつないでいたくて、ハロルドはディエゴの中指だけをきゅっと握り締めている。元軍人だからだろう。節の太いディエゴの指。自分のものよりも大きな、固い手。
互いの体温が交じり合うほどに寄り添い、二人はゆったりと砂浜を散歩していた。
その時だった。
「あら? あれは何でしょうか?」
何かを見つけ、ハロルドがディエゴの手を放し、波打ち際に向かって駆け出す。
するりと逃げ出した、白い手に苦笑し、
「転ぶなよ」
ディエゴがハロルドに声をかけた。
「転びません!」
ハロルドが、若々しい声を上げディエゴを振り返る。
「ディエゴさん、ほら!」
「メッセージボトルか……」
「中に手紙が入っています」
二人は瓶をあけ手紙を読んだ。
ところどころインクが滲んでいるのは、手紙を書いた人物が涙を落としたからだろうか?
深い後悔の綴られる手紙を読み終えたディエゴは、物思いに沈むように、腕を組んでしばし項垂れていた。
ややあって、
「エクレール」
「はい」
「…お前は後悔していることがあるか?」
「後悔していることですか? なんか今更、という感じですね」
ハロルドがケロリとした顔で言う。
「後悔しないことなんか、ないじゃないですか。それってその事に対して大事に向き合っていたからこそ沸いてくる感情なんですから」
ハロルドが澄んだ目でディエゴを見上げた。
「ディエゴさんは後悔していることがあるんですか?」
「そうだな……」
努めてなんでもない風を装い、ディエゴが言う。
「沢山あるが、今考えるとお前の記憶喪失が治った時の事、だな……」
ハロルドがハッとする。ディエゴは、それを目を細め観察していた。
ハロルドは何も言わない。ディエゴは続けた。
「いつかは思い出す時が来るにしても、お前の心の痛みを思うとな……守ってやれなかった」
表情だけは取り繕っていたが、苦しげに響いた自分の声に、ディエゴが内心舌打ちをする。
ハロルドが顔を上げた。金銀妖瞳がディエゴを映し出す。
ディエゴは隠しきれない後悔を隠すように、ハロルドから目をそらし、深い息をはいた。
「記憶喪失が治った代償に、記憶が無くなってから俺と出会って過ごした時間の記憶を無くしてしまったろう」
「そうですね……確かに、記憶が戻ったときは本当に辛かったです。あなたに私の汚い部分を知られてしまったショックとか、本当にあなたを信じて良いのかわからなくて……」
「俺もお前もあの時が1番辛かったと思う。お前の事をちゃんと見ているつもりで実は自分の事しか頭になかったのも情けない。だが……だからこそ今があるんだろうけどな」
「冷たく当たってしまったこともありましたね」
ハロルドが当時を思い出し、苦く笑った。ふと顔を見合わせた二人の唇がほころぶ。苦しい事だけじゃなかったのを思い出したからだ。
「でも、それでもディエゴさんは私を見捨てずに寄り添ってくれた。それだけで、今はその事は良いんだって思えるようになりました。あなたがいなかったらきっと、私はうちひしがれたままだったんですよ! 」
ハロルドが背伸びをしてディエゴの顔を覗き込む。
ディエゴはふっと笑み、ハロルドの頬を撫でた。
ハロルドがくすぐったそうに目を細め、ディエゴの手をつかむ。
「俺達の過去は明るくはないが、そればかりに気をとられ前に進まないのはそれこそ死んでいるのと変わりはない。俺達は生きているんだからこれからの事を考えよう……お前が俺に言ってくれた事だけどな」
それ以上の言葉は必要なかった。
二人は寄り添うようにして砂浜に腰を下ろし、潮騒に耳を傾けた。
後悔することはこれからもたくさんあるだろう。だが二人いればきっとどんなことも思い出に変えて乗り越えていけるような気がする。
二人の手はいつしか、しっかりと指を絡めつながれていた。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:リヴィエラ 呼び名:リヴィエラ、リヴィー |
名前:ロジェ 呼び名:ロジェ、ロジェ様 |
エピソード情報 |
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マスター | 椿 爽鳥 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月26日 |
出発日 | 07月01日 00:00 |
予定納品日 | 07月11日 |