何でもない時間(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「インタビューに答えてもらいたいんです」
 A.R.O.A.職員は両手を合わせて拝むようにお願いしてきた。
 話は簡単である。
 とある雑誌で『ウィンクルム特集』という企画が持ち上がった。
 最近活発になってきているオーガの恐怖を打ち消す為に、ウィンクルムの事を改めて紹介しその活躍を確認しよう、というものである。

 趣旨を理解した貴方達はその要請に応じた。
 インタビューは進む。
 ウィンクルムの紹介、そして活躍について沢山答えた後、待ち構えていたのはまるでアイドル雑誌のインタビューのような可愛らしいもの。
「趣味はありますか? 何ですか?」
「やってみたい事はありますか?」
「今後、どんなウィンクルムになりたいですか?」
 貴方達は苦笑しながら、もしくは微笑ましく思いながら、または事務的に答えていく。
 そうしてこの質問に辿り着いた。

「休日はどんな風に過ごしてますか?」

 その質問に、何気なく貴方達は顔を見合わせた。
 そして記憶を手繰る。
 この前の休日はどんな風に過ごしただろう。ウィンクルムになりたての頃はどんな風に過ごしただろう。一人だっただろうか、二人だっただろうか、それとも仲間達といただろうか。
 貴方は思い出しながら、口を開いた。

解説

普通の休日をどんな風に過ごしたか教えてください

●休日の条件
記念日ではない、ごく日常的な休日に限ります。
ちょっとした贅沢やサプライズ(ずっと食べたかった特上品を買って食べる、自分の嫌いな展示を見てしまう等)ならば構いません。
誕生日、記念日、その他人生を左右しかねない出来事(告白、プロポーズ、別れる、誰かとの死別等)はNGです。

●プランについて
神人と精霊が一緒に過ごしてもバラバラに過ごしていてもいいです。
また、仲間で一緒に過ごしていてもいいです。
インタビューに答える形でも、休日を思い出している形でも、休日そのものの形でも構いません。
プランに合わせたリザルトの形となります。
ただし、仲間で一緒の休日の場合は、同じ形式にして下さい。

●インタビュー終わった後にちょっとお茶した
300Jrいただきます


ゲームマスターより

自由度の高い内容となっております。また、EXエピの為アドリブが多々入るかと思います。
その点だけご了承下さい。
ジャンルはハートフルになってますが、シリアスにするのもコメディにするのもスリルショックサスペンスにするのもご自由に。

貴方の休日を是非教えてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  毎日休日みたいなものだからなぁ…
んー、そうだね、子供向けの玩具だけは充実してるから、だいたいいつも一人で遊んでてね
ふとした瞬間に見上げると空が見えるのがなんとなく楽しいんだよね
夜になると精霊が来てくれるから、その日のことをお話したりするんだ
外に?ふふ、桐華さんとはよくお出かけするよね
ウィンクルムとしてって形じゃないなら、お買い物くらいだけど

最近行った潮干狩りのお話して、記者さんとはばいばい
お茶をしながらのんびりお喋り
あはは、なんのことやら
言ったことがあるでしょう?
かまくらみたいな、狭いところ
ひとりきりで引きこもる時間が長かったって

俺の日常は、今も昔もあんまり変わらないよ
君がいるから、華やいでる


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  インタビュー?
休日に何をしているかって?
オレは筋トレとか、武器の鍛錬とかして体を鍛えているぜ。
トレーニングは毎日やらないと体が鈍っちまうからさ。
軽く5キロ走ってきたり、あと懸垂とか腹筋とか腕立てとスクワット、ランジとかの基本的なヤツをしているぜ。
だってさ、毎日やらないと気持ち悪いっていうか。習慣になっちゃっているトコもあるし。
武器を巧く扱うにはそもそも自分の体を巧く操れるようにならなきゃ話にならないしさ。
体をイメージ通り動かせたら、とっさの時でも対処出来るじゃん。
部屋で腹筋していると飼ってる猫達が面白がってオレに昇ってくるんだぜ。
ラキアの作ってくれるご飯はとてもウマい!
感謝してるし毎日幸せさ。




カイエル・シェナー(エルディス・シュア)
  大きい美術館の特別展示に
世界規模のダイヤモンドをはじめとした輝石の展示会をやると聞いた

チケットを2枚用意して
受け取ってもらえなければ自分が2回行くだけだが…良かった

大きいもので400カラットのカットダイヤ、20カラットでも最高級品のルビーの指輪等
目に焼き付けるようにじっと見て回って

帰りの喫茶店のテラス席にて
今日も空が透き通って美しいと思いつつ
相方の言葉に、少し小首をかしげ不可思議そうに考えてから
「美しいものを身に着けて、それに何の意味がある?
手の届かない程に美しいからこそ、愛おしむ価値がある。そうだろう?」

飲み物の入った薄いカップを置き
「今日は、来てくれて有難う
お陰で…安心して見る事が出来た」


■休日、だけでなく、きっと
「インタビュー?」
 頼み込んできたA.R.O.A.職員がコクコクと頷く。そんな職員を見て『セイリュー・グラシア』と『ラキア・ジェイドバイン』は今日の予定を思い出す。この後は特に何も無い筈だ。それならば。
「いいぜ!」
「俺達でよければ」
 セイリューとラキアは快諾する。
「よかったぁ! 助かりました! ではどうぞ、こちらへ、実はもうインタビュアーの方はいらっしゃってるんです」
 ほっとしたA.R.O.A.職員に案内され、インタビュアーに引き合わされインタビューが始まった。
 色々な質問にセイリューは元気よく答え、ラキアも答えながら時にセイリューのフォローだったりツッコミだったりをいれる。
 そうして進んでいったインタビューは、一つの質問は辿り着いた。
「休日はどんな風に過ごしてますか?」

「休日に何をしているかって? オレは筋トレとか、武器の鍛錬とかして体を鍛えているぜ」
 今までと同じように元気よくはきはきと答えるセイリューに、こちらもまた今までと同じように笑いながら「セイリュー、君は平日休日の区別なく毎日トレーニングに励んでいるじゃない」とラキアが付け加える。
 そうだった、と言って笑うセイリューに、インタビュアーもクスクスと笑う。
「トレーニングは毎日やらないと体が鈍っちまうからさ」
「毎日ですか! すごいですね、トレーニング内容を教えてもらっても構いませんか?」
 興味を持ったインタビュアーが更に尋ねると、セイリューは普段のトレーニングの流れを思い出しながら答える。
「軽く5キロ走ってきたり、あと懸垂とか腹筋とか腕立てとスクワット、ランジとかの基本的なヤツをしているぜ」
「そんなに! スポーツ選手みたいじゃないですか、疲れませんか?」
「逆、逆。だってさ、毎日やらないと気持ち悪いっていうか。習慣になっちゃっているトコもあるし」
「はー、そういうものなんですか」
 私は運動はからきしなんで、と苦笑するインタビュアーに、セイリューは「まぁ人それぞれだよな」と笑う。
「でもやっぱり武器を巧く扱うにはそもそも自分の体を巧く操れるようにならなきゃ話にならないしさ。体をイメージ通り動かせたら、とっさの時でも対処出来るじゃん」
 続けられた言葉に、インタビュアーはハッとなり改めて背筋を伸ばす。
 朗らかな人柄に、優しい雰囲気に、つい気安く接してしまったけれど、このインタビューはウィンクルムへのインタビューで、この二人はウィンクルムなのだ。そしてウィンクルムは、時に命を危険に晒しても戦うのだ。
 実際、セイリューとラキアは幾度と無く戦ってきて、守ってきて、怪我もして、それでもオーガを倒してここまで来た。きっとインタビューでの余裕のある受け答えは、本人達の気質だけでなく、ウィンクルムとして積み重ねて来た経験ゆえでもあるのだろう。
 インタビュアーが真面目な顔で「いつもありがとうございます」と感謝を述べると、セイリューが困ったような照れたような顔になったのに気付き、ラキアが「そういえば」と空気を変えた。
「セイリューが部屋でトレーニングすると、たまに面白い光景が見れるんですよ」
「あー! 見れる見れる!」
 笑うセイリューに、インタビュアーは「どんな光景ですか?」と興味を持った。
「部屋で腹筋していると飼ってる猫達が面白がってオレにのぼってくるんだぜ」
 黒猫のクロウリーと茶虎のトラヴァース、それに白手袋黒タキシードの猫バロン。三匹がにゃーにゃーにゃーにゃー言いながらセイリューにのぼっては、セイリューが「くすぐったいー!」と耐えながら叫ぶのだ。
 そんな話を教えてもらったインタビュアーも笑う。
「それ、今度是非撮らせてください! このインタビューと一緒に載せたいです!」
「おう、いいぜ!」
 ちなみにセイリューの叫びが聞こえる度に、ラキアが駆けつけて猫達をおろしていくのだが、猫達はおろしたそばからまたのぼり始める。ラキアがおろす。猫達がのぼる。ラキアがおろす。猫達がのぼる。ラキアが、猫達が……。というやり取りが延々と続き、なかなかおろし切るまでが大変だったりする。しかもその間セイリューは動けなくなるからこちらも大変なのだ。
「何度も『駄目だよ』って教えてるんだけど、何でかこれだけは覚えようとしないんだよね」
「この件に関してだけは、絶対あいつらにからかわれてる気がしてしょうがない!」
「それはあるかもねぇ」
 そんなオマケ話まで教えてもらったインタビュアーはクスクスと笑い続ける。
「猫三匹も飼ってらっしゃるんですね、可愛いでしょう」
「可愛いけど、飼ってるっていうより家族だな。子供みたいな? あ、あとレカーロも一匹いるぜ」
「え、凄いですね! 猫と喧嘩したりしません?」
「全然! 仲がいいんだぜ」
 そのまま笑顔で家族の様子を語りだすセイリューを、ラキアは微笑ましく思いながら見守る。
「ラキアさんは、どんな風に過ごしてますか?」
 そんなラキアを見て、インタビュアーは逃がすものかと話を振った。

 話を振られたラキアはセイリューを見ながら答える。
「彼がこんな調子だから、彼の食事とかにはいつも気を配っているよ。普通の人より消費カロリー多いし、放っとくとお肉ばかり食べたがるからね」
「ラキアの作ってくれるご飯はとてもウマい!」
 合いの手の様に入るセイリューは、そのままラキアが作ってきた料理を幾つもあげる。味の感想も付け加えてあげていく。特に自分が好きなものに関しては「ホント! 肉汁じゅわっと出てくるんだけど、食べ終わると後味はさっぱりでさ! 何個でも食べれるんだぜ!」と、言葉による飯テロを開始させる。
 そんな飯テロを味わったインタビュアーは「いいなぁ、食べてみたいです」と涎を垂らさないように気をつけながら言った。
「あとはそうだな、セイリューがトレーニング過多にならない様に記録付けて調整もしてあげているよ……あ」
 言いながら何かに気付いた様子のラキアにインタビュアーが首を捻る。
「どうされました?」
「いや、よく考えたら俺がいつの間にか君のトレーナー状態になっているじゃないか」
 いつからこんな事になってたんだろう、と苦笑するラキアに、インタビュアーはクスリと笑い、セイリューは心底嬉しそうな満面の笑みを浮かべる。
「感謝してるし毎日幸せさ」
 さらり、そう告げれば、聞かされたラキアもインタビュアーも思わず顔を赤くする。
「さ、さすがウィンクルム、愛ですね……!」
「あー、えーと、休日だよね、休日! それ以外は庭で育てている植物の世話をしてるよ」
 ほぅ、と羨ましそうな吐息をもらすインタビュアーに、ラキアは無理矢理別の話に持っていく。
「植物ですか。もしかしてハーブとかも育ててたり? それを料理に使ったり?」
 愛ですね! とまだ引っ張るインタビュアーに苦笑しながらも頷く。
「ハーブティーなんかは自分で作ってるね。でも何より、植物の世話をしていると四季の移り変わりが細やかに感じられて、自然の営みの素晴らしさを実感できるんだ」
 例えば今この季節。梅雨の時期ならば紫陽花に花菖蒲に睡蓮。そして夏には夏の花が。凌霄花はもう咲き始め、クレマチスも薔薇も色と香りを誇らしげに広げる続ける中、向日葵が咲き誇るのだろう。
 春の花、夏の花、秋の花、冬の花。色々な花が揃えられている庭は、だからほぼ一年中花で溢れている。季節ごとに様々な顔を見せる。
「気温・湿度の変化が肌だけじゃなくて花達の様子から目でも感じられて。そしてとても癒されるよ」
 微笑むラキアを見て、インタビュアーは花が溢れる庭を想像し、その中にいる二人を想像して目を輝かせた。

「今日は本当にありがとうございました!」
 インタビュアーはニコニコと笑いながら感謝する。ちゃっかりと「近いうちにトレーニング中の写真撮らせてくださいね!」という約束をこぎつけて。
 セイリューとラキアは笑顔で席を立った。
 そして二人は家へと帰る。
 二人が住む、二人だけではなく猫のクロウリー、トラヴァース、バロン、レカーロのユキシロが待っている家へと。家族が待ってる家へと。
「ラキア、今日のご飯は?」
「どうしようかな……ああ、そうだった、ちょうど食材が切れてたんだった。お店に寄ろう」
「いいぜ! 荷物なら持つから、肉を……」
「野菜もだよ」
「ちぇー! 肉ー!」
「はいはい、肉料理もちゃんと作るから」
「やった!」
 素直に喜び笑顔になるセイリューを見て、ラキアもまた笑顔になる。
 笑いあいながら二人は帰る。家族が待っている家へ。
 二人きりで、少し寄り道をしてから。
 それが二人にとっての日常で、幸せな休日だった。


■不意打ちの煌めき
 インタビュアーの「休日はどんな風に過ごしてますか?」という質問に、二人は自然とこの前の休日を思い出していた。

『カイエル・シェナー』の手元には二枚のチケットがあった。
 有名な大きい美術館の特別展示で、世界規模のダイヤモンドをはじめとした輝石の展示会が行われる。そのチケットだった。
「だから……何で、にーとな俺より仕事しているお前の方が浮世離れしてるかな……!」
『エルディス・シュア』の目の前には二枚のチケットを持ったカイエルがいた。
 別段ワクワクした様子も目を輝かせているでもなく、いつも通りに凛とした空気を纏っている。そんなパートナーが。
「浮世離れ?」
 意味がわからないと眉根を寄せる相手に、エルディスは軽く息を吐いて天を仰ぐ。
 いや、もうわかっているのだ。
 過去に、パートナーであるカイエルがどんな人物か知る為に、A.R.O.A.から情報を貰った事がある。プライベートな事は教えられませんが、という前置きをされて知ったのは、履歴書にでも載りそうな通り一遍等な経歴内容。それに、所属している軍部隊の公表情報。かなり規律の厳しいところだと知ったのはその時だ。
 そんなところにいるのだ、別に金持ちボケしている訳じゃないんだろうと最近思い始めた。
 だからつまり、この調子を狂わせる『浮世離れ』っぷりは、恐らくは本人の性質なのだ。わかっている。調子を狂わされて、今となっては気になって。
「カイエルの息抜きになるならついていこう」
 エルディス自身は輝石の展示会に興味などないが、チケットをピッと引き抜きながら言った。
 カイエルは一枚残ったチケットをじっと見る。
(受け取ってもらえなければ自分が2回行くだけだが……良かった)
 口の端を微かにあげると、既に数歩歩き出したエルディスが「どうした?」と促す。「何でもない」と返した時には、もうその微かな笑みに似た表情は消えていた。だから、エルディスはその表情を見ていない。
 二人はチケットを手に歩き出す。目指すは美術館。
 こうして二人は休日を輝石に囲まれて過ごす事を決めた。

 静かな館内に二人は足を踏み入れる。
 美術館はその大きさに見合った沢山の展示をゆったりと見られるように配置していた。
 まず一番に目に入ってきたのは、とある王家から借り入れたという王冠、その中央に輝くレッドスピネル。
 部屋の中央に置いてあるそれに、多くの客が見入っている。
「アレが目玉の一つかな!」
「そうみたいだな」
 客の入りは上々だったが、だからといって混んでいるというほどでもなく、周りに気をつけながらだったら一つ一つをじっくり見られるくらいの余裕はあった。
 さらに進めば、大きいもので400カラットのカットダイヤ、20カラットでも最高級品のルビーの指輪等、庶民の日常生活ではお目にかかれないものの数々が、それぞれを美しく見える形で展示されていた。
「へぇ、結構細かいこと書いてあるな」
 興味などなくついてきたエルディスだったが、それでも実際見れば綺麗だと思う。また、美術館らしく一つ一つに丁寧な解説がついていて、頭を捻る必要もなく、ただある物をそのまま受け入れればよかったので楽だった。
 ダイヤは傷には強いが衝撃には弱いです、ルビーとサファイアは実は同じものです、大きな原石のように見えても宝石として取り出されるときはこんなに小さいです。
 既に知っている事だったり、意外と忘れていたり、知らなかったり。そんな知識を並べている解説を読んでみるが、それでもやはりエルディスの意識は興味あって訪れた他の来場者と比べれば輝石へと注がれない。
 ちらりと横を見れば、そこにいるのはまさに興味あって訪れた来場者、カイエルがいる。
 一つ一つをじっと、目に焼き付けるように見て、見つめて、ゆっくりと回っている。
「ああ、すみません」
 エルディスはカイエルと他の来場者がぶつかりそうになったところを、間に入って止め軽く謝罪する。カイエルはすぐ横でそんな小さなやり取りがあったなど気づいていないようで、今は自分の体ほどあるスモーキークォーツの群晶を見つめていた。
(案の定、だ)
 展示品に魅入って周囲の見えていないカイエルに、エルディスは付いてきて良かったとホッと息を吐く。
(神人だから危ないだろうが)
 自分の頭の中で呟いて、そして何となく、本当に何となく、その言葉にほんの僅かな違和感を感じた。
 神人だから、なのか、それとも――……。
 エルディスはふるりと頭を振って思考を閉じた。
「あ、またぶつかりそう……!」
 そしてまたカイエルと周囲との調整を始める。
 そんなエルディスにはやっぱり気付いた様子も無く、少しくすんだ光を放つ水晶群を、輝くような金の髪と鮮やかな青い目を持つカイエルがじっと見つめている。
 それは存在自体が対照的で、実に絵になる光景だった。

 時間にして数時間。ただ回るだけなら十数分で歩き終わる展示会場を、カイエルはたっぷりと見て回って堪能しつくした。
 満足げに展示会場を後にしたカイエルと、若干疲れたようなエルディスは、美術館に併設された落ち着いた雰囲気の喫茶店へと向かう。少し休憩しようという流れになったのだ。
 二人はテラス席に着く。まだ日は高い。カイエルはそよりと吹く風を感じながら、空を見上げて今日見た輝石とは違う空の美しさに目を細めた。
(透き通って美しいな)
 空の欠片が落ちてきたら、きっと今日の展示会に並んだ展示物にも負けない輝石となるだろう。そんなことを思いながら。
 そんな風に世界の美しさを楽しんでいるカイエルに苦笑しながら、エルディスはメニューを広げ見て尋ねる。
 ひとつ気になっていた事があったのだ。
 この喫茶店に来る途中、同じように併設された土産物屋があった。そこには展示物の写真やポストカード、それに展示物と同じとは言わなくとも普通の宝石店では売ってないような輝石が売られていた。
 けれど、カイエルはその土産物屋に立ち寄る事無く素通りしたのだ。
「買い付けたり、身に着けようとは思わないのか?」
 エルディスの言葉に、カイエルは少し小首をかしげ不可思議そうに考える。
「美しいものを身に着けて、それに何の意味がある?」
 言われたエルディスは目をぱちくりと瞬かせてカイエルを見た。
 そこには朝と同じく凜とした、真っ直ぐな目をしたカイエルがいた。
「手の届かない程に美しいからこそ、愛おしむ価値がある。そうだろう?」
 言い切るカイエルの背後には、決して手の届かない透き通った空が広がっている。
 カイエルらしいな、と思ったエルディスは「なるほど」と呟いて笑いながら店員を呼び注文をする。
 店員オススメのお茶で喉を潤しながら、二人は今日の展示物の感想など、実に他愛無い平和な会話をする。
 そろそろお茶が無くなりそうになった時、カイエルが薄いカップを置いてエルディスの目を見て口を開いた。
「今日は、来てくれて有難う」
「ああ、別に……」
 エルディスが大した事はないと言うよりも前に、カイエルは更に続けた。
「お陰で……安心して見る事が出来た」
 そして、微笑んだ。輝石のように輝かしく。
「――ッ」
 その微笑みが不意打ちの様にエルディスの胸を打つ。
(まったくこいつは……!)
 エルディスは片手で顔を軽く押さえて沈黙してしまう。
 もしかしてカイエルが周りとぶつからないようにしていたのも、実は気付いていたのだろうか。分からない。それを聞こうにも今自分が聞ける状態じゃない。
「どうした?」
 動かなくなったエルディスを不思議そうにカイエルは見る。それに対してエルディスは顔を軽く押さえたまま「何でもない! ドウイタシマシテ!」と片手だけひらひらと振って返した。
 そのまま店員にお茶のおかわりも頼む。「まだ飲むのか?」というカイエルの問いに「こっちにも」と店員に頼んで無理矢理おかわりをさせる。
 顔は、まだ軽く押さえたままだ。
 照れて赤くなった頬を、むずむずとにやける口元を、綺麗に元通りにするまでにはもう少し時間が必要なようだ。
 だから二人はもう少し会話を続ける。
 美しい世界で、他愛の無い、けれど楽しい会話を。


■その休日は
「休日はどんな風に過ごしてますか?」というインタビュアーの問いに、『叶』はすぐに答えられず、小首を傾げながらうーんと唸った。
 何故すぐに答えられなかったのかと言えば。
「毎日休日みたいなものだからなぁ……」
 というのが理由だ。
 どう答えようか考えている叶に対して、隣にいる『桐華』は特に助け舟を出さない。はじめからインタビューは全て叶に任せていたし、今も早く終わらないかとぼんやり考えていたのだ。
「毎日休日みたいでしたら、毎日どう過ごしてるのか教えてくれればそれで大丈夫ですよ」
 なかなか答えが出ない叶に、助け舟を出すようにインタビュアーが言う。それを聞いたからというわけではないが、叶はようやく言う事が決まったようだった。
「……んー、そうだね」
 ぎしり、座っていた椅子を軋ませ、叶が前のめりになって答え始めた。
 前のめりになったせいで、隣に座っている桐華からははっきりとその顔が見えない。けれど斜め後ろから見える表情は笑顔だった。
 さっきまでと変わらない笑顔だったように見えた。
 だから桐華は特に気にしていなかった。相変わらず早く終わらないかと考えていて、けれどそれは叶の次の発言で終わる思考だった。
「子供向けの玩具だけは充実してるから、だいたいいつも一人で遊んでてね」
(……あの部屋の話……?)
 桐華は聞こえた内容に、今までの興味のなさを放り出して耳を集中させた。
 確かに子供向けの玩具ばかり揃っている部屋はある。叶がその部屋に篭っていた事もある。けれどその部屋の扉は、クリスマスに他ならぬ桐華が壊したのだ。
 叶をその部屋から連れ出したのだ。
(扉は直したし、前より頻度は減ったけど、まだたまに一人でいることもあるか)
 桐華は腑に落ちないながらも、自分を納得させて叶の声を聞く。叶の休日の過ごし方を。
「ふとした瞬間に見上げると空が見えるのがなんとなく楽しいんだよね」
 聞いて、桐華は腑に落ちなかったものが違和感となって訴えるのを感じた。
 ――見上げると、空? 窓ではなく?
 あの部屋はそんな作りをしていない。言い間違えか? いや、訂正する様子も無い。
「夜になると精霊が来てくれるから、その日のことをお話したりするんだ」
 そして続く言葉で、桐華の違和感が明確に形を作る。
(……違う。叶がしてるは、あの部屋の話じゃない)
 桐華の顔から表情が消える。けれどインタビュアーはそれに気付かず、桐華の方を見て「流石ウィンクルム、仲がいいですね」と楽しげに笑う。それに対して何も返せない。ただ、こちらを見ない叶を見続ける。
「外出はしないんですか? それともお二人ともインドア派で?」
「外に? ふふ、『桐華さんとは』よくお出かけするよね」
 そこで叶が桐華の方を振り返る。笑顔で振り返る。
「ウィンクルムとしてって形じゃないなら、お買い物くらいだけど」
 その発言で、笑顔で、桐華は全て悟る。確信する。叶が何を答えていたのかを。
(あの部屋の話でもない。今の話でもない。叶が話していたのは……)
 叶はまた前を向いてインタビューに答えていく。桐華はどうしても前を向けなかった。
「あ、最近はねー、潮干狩りもしたよ、とれたあさりで美味しいあさりの炊き込みご飯も作って食べました! ねー、桐華さん」
 あーんしてあげたもんね、と言えば、インタビュアーが顔を赤くして「仲がよくて羨ましい……ッ」と握りこぶしを作って呟いた。
 それに対して桐華は「ああ、美味かったな」と照れもせずさらりと言うだけで、叶は笑顔のまま微かに首を傾げ、インタビュアーは「余裕ですねぇ」とさらに羨ましそうな目で二人を見た。
 インタビューはそうして終わった。

 インタビュアーは笑顔で「ありがとうございました!」と言い、叶は笑顔で「どういたしましてー」とひらひらと手を振る。結局桐華は最後まで深く関わる事はせず。
「……少しお茶でも飲むか」
 桐華が動き出したのは、インタビューが終わってからだった。
「うん、いいよ」
 伸びをしながら二つ返事で了承すると、二人は静かなカフェへ行く。
 座った場所は完全な個室ではないけれど、仕切りがある為によほど大きな声でなければ他の客には聞こえないような、そんな場所だった。
 運ばれてきたアイスティーを飲みながら叶が口を開く。
「雑誌はいつ頃発売なんだろ?」
「そういえば聞くの忘れてたな。まぁ流石にA.R.O.A.が教えてくれるだろ」
「あ、もしかして貰えちゃったりするのかな」
「どうだろうな」
 桐華はつらつらと当たり障りの無い会話をしながら、切り出すタイミングを計っている。
 そしてそのタイミングがやってくる。
「それにしてもインタビュー面白かったねぇ、って、桐華さんは何も答えてないけどさ」
「お前は楽しかったか?」
「まぁねー」
「じゃあインタビューの続きでもするか」
 カラン、と音を立てて桐華のアイスティーの氷が崩れる。
 それを合図にしたように、桐華が真面目な顔になって叶を見つめる。
「村にいた頃は『子供向けの玩具が充実している』『見上げれば空が見えるような場所で』
『夜だけ契約精霊が訪ねてきてた』って、ことか……?」
 射抜くような桐華の視線を、叶は笑顔で受け止める。カラカラ、叶はストローをまわして氷を鳴らす。
「あはは、なんのことやら」
「叶」
 桐華が名前を呼べば、叶はストローを回すのをやめ、一口アイスティーを飲む。
 そして湿らせた喉で、渋みの残る喉で、声を紡ぐ。
「言ったことがあるでしょう? かまくらみたいな、狭いところ。ひとりきりで引きこもる時間が長かったって」
 確かに、それは聞いたことがある。実際にかまくらの中で二人寄り添って聞いた。あの時に飲んだチョコの甘さが、今無性に恋しい気がする。
「……なんだそれ」
 苦い声で桐華が搾り出す。
「なんだ、それ」
 叶は笑っている。感情を読み取らせないような、綺麗に作った笑顔でいる。
「お前のそれは、幽閉と何が違う?」
 ゆうへい、と叶は小さく呟いて、一度桐華から視線を外してどこか遠くを見る。
「俺の日常は、今も昔もあんまり変わらないよ」
 その言葉がどちらの意味なのか。
 昔が暗いもので、今も暗いままなのか。昔が暗いものではなくて、今も暗くないままなのか。
 どちらの意味だとしても、桐華は素直にそのまま受け入れることが出来ない。
 叶は改めてそんな桐華の方を向き、自然に、嬉しいという感情が表れている笑顔を零す。
「ただ、君がいるから、華やいでる」
 その笑顔と続いた言葉を見聞きした桐華は、諦めたように大きく息を吐き出してから全て受け入れる。
「……お前が、それを悲しむ気がないのなら、いい」
 傍から見れば哀れむべき、悲しむべき、怒るべき、恨むべき状況だとしても、叶自身にその気が無いのなら、桐華は全て飲み込んで口を噤む。
「今が華やいでると思うなら、それでもいい。言いたくないならもう言わなくてもいい。ただ、俺はお前を一人になんてしないから」
 そして桐華は左手で叶の左手を掴む。左手の薬指にあるその指輪を包み込む様に、離さない様に、強く。
「何があっても、最期まで一緒にいるから」
 叶は掴まれた左手を見つめる。桐華の左手の薬指、そこに輝く呪いと祝福の指輪が、まさに華やかに輝いたような気がして、眩しげに目を細めて俯いた。そして俯いたまま、桐華にその表情を見せないまま「うん」と頷いた。
 その短く響いた声が潤んでいたように聞こえた気がした。
「……桐華さん、もう一杯飲んでもいい?」
「まだ残ってるだろ」
「チョコ飲みたい」
「……ココアしかないみたいだぞ」
「もー! 桐華さんの馬鹿!」
 言いながら顔を上げた叶は、むぅっと口を尖らせて怒っていた。けれど桐華が困ったように「俺のせいじゃないだろ……」と言えば、弾けた様にけらけら笑った。
 カラン、ともう一度桐華のアイスティーの氷が崩れて音を鳴らす。その音がさっき響いた音よりも優しく甘い気がした。
 二人は結局追加注文をして、もう少しカフェで過ごす。
 チョコ代わりのココアを飲む間も、二人の手は離れない。桐華は叶の手を掴んだまま、叶は桐華に掴まれたまま。
 笑顔で色々な事を楽しげに語る叶に、相槌を打ちながらたまにからかわれる桐華。
 いつも通りの光景は、いつも通り華やいでいた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 3
報酬 なし
リリース日 06月20日
出発日 06月26日 00:00
予定納品日 07月06日

参加者

会議室

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    インタビューかぁ。

    プランは提出できているぜ。

    皆の休日もどんな感じか、楽しみにしているぜ。

  • [1]カイエル・シェナー

    2016/06/24-22:57 

    カイエル・シェナーに精霊のエルディスだ。宜しく頼む。
    こちらは現状、美術館展示に、喫茶店で茶をしようかと思っている。

    皆の日々が、素敵なものになる事を願って。


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