手加減なしです(梅都鈴里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「レクリエーションだ」
 とある一日のA.R.O.A.本部、一室。
 職員の男性が一言告げ、手元の用紙に記された概要を読み上げた。
「我々は基本、オーガを対象とした任務を請け負うのが仕事だ。だが、オーガの中には我々で言うところの精霊の様な、特殊なスキルないし魔術を行使する者、または人に化けて潜伏している様な例もある。また事案に立ち会った際、必ずしもパートナーが傍にいるとは限らない」
 依頼として舞い込むもの以外にも、突然ばったり街中で事件に巻き込まれる様な例は後を絶たない。
 特に、オーガから狙われやすい神人や、身体能力の秀でた精霊等は一般人よりもその特異性が顕著なのだ。
 デミオーガやネイチャーの対策も勿論大事なものだがな、と職員は続ける。
「レクリエーションと言ったが、訓練の様なものだと捉えてもらって構わない。参加は自由だ。腕に自信があるというなら、ぜひとも試してもらいたい」
 そこまで前提とした上で、と概要の記された用紙を卓上へ差し出した。 
「精霊と神人、一対一で戦って貰う。模擬戦闘の様なものだが、万が一がないよう医療班は待機させておこう。無論、続行不可能だと判断すればこちらからストップを掛ける」
 それぞれの種族に準じた身体能力の高い精霊に一見、分がある様に見える。
 だが相手は精霊をよく知る神人。それこそ護るべき神人が弱点のようなものだ。更に付け加えて、装備は最低限、魔法やスキルの使用は禁止という模擬戦ルール。
 逆手にとるなり不得手を突くなり、やりようはいくらでもある。
「……ああ、ただの演習ではおそらくモチベーションが上がらんだろうからな。折角のウィンクルムだ、勝者には『敗者に一つ何でもいうことを聞いてもらう券』なんてものを贈呈する」
 好きに使ってくれ、と一言告げて、職員の男性はにやりと笑った。

解説

解説

身体能力を見る演習兼レクリエーションみたいなものです。

▼参加費300jr.

▼場所
A.R.O.A.本部のとある特設演習場。
体育館程度ある広さのホールです。

▼勝利条件
神人と精霊がお互い、頭のてっぺん、胸の真ん中、お尻に一つずつ付けたカラーボールを、2つ先に割った方が勝ち。
斬ったり叩いたりの衝撃で割れます。固くはありませんがそれなりに直撃しないと割れません。ゴムボールみたいな。

▼反則など
基本なんでもありですが、気絶させたり脅したりやりすぎたりすると止められます。

▼装備
武器:剣、斧、本、杖、フライパンなど、使いたいものを一つプランに書いて下さい。普段と違う物でも構いません。
防具:怪我を防ぐための最低限は用意してもらえますが、二刀流など両手が塞がる装備だと盾は持てません。武器とあわせてざっくり書いて頂けると助かります。足りない部分はアドリブで補います。
※ハピネスの為、装備の効果及び魔法やスキルなどの効果は参照出来ません。威力に限らず命中すればボールは割れるので、叩いたり斬ったり弾き飛ばしたりと、最低限の装備でお互い挑んでください。

▼スケジュール
午前:レクリエーション(演習)
午後:券を使って好きな様に過ごしてください。

▼プランに必要なもの
・装備の希望
・模擬戦での動き
・どちらが勝ったか
・券の使い道

ゲームマスターより

お世話になります、梅都鈴里です。
パートナーとガチバトル、みたいなのもたまにはいいかと思うのですが、ガチでやりすぎると大変そうなのでちょっとした模擬戦と称してシナリオを作らせて頂きました。
ビギナーに設定しておりますがどなたでも。よければお気軽にどうぞ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アリシエンテ(エスト)

  短剣(片手)
前腕部と脛部分に軽いガード

武器を取りながら思考を切り替えて
戦う事が決まっている以上、既に戦闘は始まっている

(……エストは自分が強いなんて自惚れた事は考えない。だからこのジョブについた。最初から銃火器という優先権を握る為に。だから)
振り向いてエストの手にある銃に小さく頷く
(今更、武器を変えたり等しない)

開始後、
全力で相手へ向かい駆ける
即座に撃ち抜かれたのは頭上

次の照準が胸に向けられるのと
自分が胸のボールを手で庇うのは同時
出来た隙に、一気に相手の胸元まで間合いを詰めて

その頭上を短剣で薙ぎ、同時に胸のボールを拳で叩き潰す

勝利 チケット
「エスト、このチケットで確約なさい
次は容赦無く狙う、と」


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  ・装備の希望:拳銃(銃を持って戦う場合も出てきたので)
・模擬戦での動き:両手で発砲の反動を抑え、常に移動をしながらカラーボールを狙っていきます。
前のトレーニングでディエゴさんは、攻撃は必ず相手の間合いからずれてから行う事、と教えてもらったのでそれを実践しながら。
サイドやバックを積極的にとり、とれたらすぐに発砲。

途中でリロードにもたついてリズムが狂ってしまったので
銃戦法は諦め拳で戦うべく一気に詰め寄りました
…が、体術の師もディエゴさんだったということをすっかり忘れてしまっていました。
胸のボールを割ったのは良いものの、肉薄してからすぐに私のボールを2つ割られました…。

ディエゴさん…頑張ります!


クロス(オルクス)
  ☆心情
「へぇオルクと模擬戦、かぁ…
今日こそは絶対勝つ!」

☆装備武器
・自前の打刀:青龍桜紅月

☆模擬戦
・構えた状態で相手の動きを様子見
・神経を研ぎ澄ませ一気に間合いを詰め攻撃
・相手に攻撃をさせない様次々攻撃と力で押し込む
・体術も使用
・相手の攻撃は武器で相殺したり身軽な動きで交わす
・最後は刀を飛ばされる
「はぁ…(溜息
又負けか…(落込
ホントか!?
よぉしもっと精進するぜ!」

☆負

☆午後
巨大パフェを前に子供みたいな精霊にキュン
モンブランの所のみ食べる
精霊の頬に付いてるクリームを舐め取る
「てかこの為にマジで本気出したろ
まぁ良いけどな、手ぇ抜かれるよか
今日だけだかんな、大量摂取は!
(ペロ
うん甘いな…(妖笑」


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
予期せぬ対人戦という前提で、装備は日常的なものにしましょう。


共通防具
ゴーグルとヘルメット
Tシャツとスパッツ


武器
黒傘


模擬戦
まずは隙を作らなくては。
牽制で傘をレイピアのように扱い、精霊を近づけない。

突きと見せかけ、傘を一気に開くボタンを押す。驚かせるのが目的。

武器のリーチ差をそういう手で、いえ脚で補う作戦ですか。
蹴りをガードするが、防ぎきれずによろめく。

お互いにあと一つボールを壊せば、それで勝敗が決します。
負けません。
ピリピリとした空気。

え?
わ、私の負けですか?
ずるいですね!

精霊の言い分を認める。
敗者



どんなお願いなんでしょう!?
まさかのパシリ……。
ラダさんの幸せな顔が見れるなら良しとします。



「へぇ。オルクと模擬線、かぁ……」
 ボーイッシュな出で立ちの神人クロスは、装備にと選んだ自前の打刀――『青龍桜紅月』を構え、にっと白い歯を見せて自信を見せた。
「今日こそは、絶対勝つ!」
 相対する精霊オルクスもまた、師の形見である太刀『鬼桜龍月銀』をすらりと閃かせ神人へと向き直り不敵に微笑んだ。
「今の所、オレが全勝だしな。……どれほど成長したか楽しみだ」
 お互いこうした形で刃を交えるのは何も初めてではないが、今日は少し事情が違う。なんといっても勝者はお願い事を聞いてもらえる。
「オルク、なんだかやる気に満ち溢れてるな?」
「そうか? 気にするなよ、楽しもうじゃないか」
 クロスとしては、願い事は別にあれど、単純に今日こそ精霊に勝ちたい! という想いが強く滲み出ていたものだが、ことオルクスの意気込みに関しては、余裕に見えて何処か覇気が違っていた。
 その理由は後々明らかになるのだが、ともかく今は目前の相手へと、気持ちをお互い切り替えた。
「神人クロス、対、精霊オルクス。演習を許可します!」
 開始を告げるブザーが鳴り響く。
 しかし互いに、すぐには動きを見せない。
 特に、クロスは。構えたまま慎重に、相手の出方を伺っている。
 双方ともが選んだのは刀。相手がひとたび間合いに入れば一気に形勢を奪える利点がある――だからこそ、出方には慎重を期さねばならない。
 そんな神人の様子を、こちらも余裕の構えで伺うオルクス。
「どうした? 腰が引けてるんじゃあないのか」
「オルクこそ。先に切りかかってきてもいいんだぜ?」
「はは、言うじゃないか。オレが全勝してるんだ、ハンデくらい与えないと」
 挑発するかの様に笑みさえ浮かべて見せる。
 クロスは冷静に様子を見ていたが、精霊が肩を竦めて見せた一瞬に神経を研ぎ澄ませ、強く踵を踏みしめた。
「やあっ!」
 細い刀身が強く閃く――キンッ! 振り切る勢いで縦凪いだ刀はやはりオルクスのそれに容易く受け止められる。
「こんなものか?」
「まだまだっ!」
 止められる事は想定内だ。すかさず振り抜き、間合いはそのまま目にも留めさせないほどの速さで再び攻撃を繰り出す。
「腕を上げてきたな。だけどこんなもんじゃ――……ッ!?」
 身軽に攻撃を交わし続けていたオルクスだったが、隙を突いて攻撃に転じようとした瞬間、視界から刀身が消えた。
「――持ち手をっ?」
 獲物の行方にオルクスが気を取られた、その僅かな一瞬に、クロスはにやりと笑い、下方から強烈なハイキックを繰り出した。
 寸でのところで頭のボールへの命中を避け一歩バックステップを踏み、再び彼女から間合いを取った。
「やるな……体術か。ならばッ!」
「っ!」
 体術には体術で――火がついた様に応戦してくる精霊に刹那気圧されたが、回し蹴りからの裏拳を受け止めようと、利き手を胸の前に構えた瞬間、拳の衝撃で武器を飛ばされた。
「――っしま……!」
 刀身が高く飛び上がり、くるくると空で回って下へ着地するのと、オルクスの刀がクロスの喉元へ突きつけられるのとは、ほぼ同タイミングであった。
「……オレの勝ち、だな」
 僅かに息を切らしながらも、にやりと笑って告げる精霊に、ぺたりと地に座り込んだクロスは大きく溜息を付いた。
「はあ、又負けか……結構頑張ったと思ったんだけどな」
「ああ。危ない場面もあったが、ちゃんと強くなっているぞ」
「ホントかっ!?」
 オルクスの言葉にぱあっと瞳を輝かせたクロスを見て、気が和らいだ様に精霊も笑う。
 そのまま手を貸して、相方を引き上げた。
「オレに勝てる日も近いかもな?」
 ニッ、と歯を見せて笑ったオルクスに、もっと精進するぜ! とはにかむクロスだった。

 ――そうして精霊がチケットを手にした午後。
「ほわぁ~~~~~!」
 山盛りの甘ったるいクリーム、間に挟まれた色とりどりのフルーツ。
 先程までの引き締まった表情はどこへやら――巨大パフェを目の前に、キラキラと子供のように瞳を輝かせるのは、まごうこと無き精霊のオルクスだ。
「オルクさぁ……この為にマジで本気出したろ」
「オレはいつでも本気だ」
「そ、そう……まぁいいけどな、手ぇ抜かれるよか」
 半ば呆れ顔で突っ込んだクロスに、ここぞとばかりにキリリと表情を引き締めるが、パフェに目線を戻した途端砂城のごとく崩れ去るため、全く威厳が感じられない。
 それでも、大好物を前に浮き足立つ精霊を見ては、胸をときめかせざるを得ない。
「今日だけだからな、大量摂取は!」
「おう、わかってらぁ!」
 頼もしく返事しつつも視線をパフェから動かさないオルクスに苦笑して、モンブランの一部分を口に含む。
「んー、美味っ……!」
 隣で満足げに、なおも生クリームを頬張るオルクスをしばらく頬杖を付いて見ていたものの、ふとほっぺたのクリームに気付くと、小さな舌先でぺろりと舐め取ってやった。
「っ!」
 突然の事で流石に言葉を詰まらせ、精霊はぼっと頬を茹で上げる。
 戦いでは全く隙を見せない癖に、こういう所は隙だらけでかわいいんだよなぁ、と。
「うん。甘いな……」
 精霊の狼狽顔を見詰めたまま、妖艶に笑ってみせたのだった。


 数ある武器の中からシンプルな柄の短剣を手に取る。
 模擬戦とは言え戦闘であることに変わりはない。試合はここから既に始まっている。
 神人、アリシエンテは刃に映る自身の瞳を見詰めて、思考を一つ切り替えた。
(エストは自分が強いなんて、自惚れた事は絶対に考えない。だからプレストガンナー……銃火器と言う優先権を、最初から握る事の出来るこのジョブについた)
 剣に比べ銃は圧倒的にリーチが長い。懐に飛び込まれさえしなければ、間合いさえ計り間違えなければ、不利な状況に持ち込まれる可能性は極めて低い。
 決して表立ちはせず背後に控えて、けれど確実に神人たるアリシエンテを守る精霊、エストらしいジョブとも言えた。
(――……だから)
 今更武器を変えたりしないだろう、と。
 振り返り対峙した精霊エストは、アリシエンテの予想通り、使い慣れた銃を手にいつもと変わらぬ出で立ちでそこに居た。
 慣れない武器では彼女に怪我を与えるかもしれない――そう判断しての、威力は最低限に抑えられたゴム銃だ。
「神人アリシエンテ対、精霊エスト。演習を許可します!」
 開始のブザーが鳴り響くと同時に、アリシエンテの足がダンッ! と強く地を蹴った。
「……接近される前にっ!」
 彼女が短剣を選んだ時点で、エストにとってその行動は予想済みだ。
 熟練されたガンナーの勘は無意識に神人の頭上のボールを狙わせる。
 パンッ! 派手な音を立て一つ目が撃ち抜かれた。
(次は胸の、……ッ!?)
 速度を決して緩めないまま、頭上のボールを撃ち落されたのと同タイミングで、アリシエンテは胸のボールの前で腕を素早くクロスさせた。
「……くっ!」
 標準は的確だ。足りなかったのは刹那の決意。
 エストが射撃を躊躇った、その一瞬がまさに命取りだった。
 ―――パン、パンッ!
 懐に飛び込んだアリシエンテの短剣が、エストの頭上のボールを薙ぎ、振り下ろした拳が胸のボールを叩き割った。
「そこまで! 勝者、神人アリシエンテ!」
 終了のブザーが鳴り響く。試合が終わっても、エストの緊張は解けなかった。
「……やはり、撃てなかった」
 手元の銃を見遣って呆然と呟く。
 ゴム弾とは言え、万が一にも彼女の白い手に傷を付けるかもしれない――エストが引き金を引けなかった理由は、たったそれだけのこと。
それでもその判断は、彼にとっては何よりも重いもので。
「……偽者だったらどうしていたの」
「っ!」
 冷ややかな声が掛かる。
 振り返ると、チケットを手にしたアリシエンテが厳しい表情を浮かべ立っていた。
「それは……」
 何も答えられない。
 もしも偽者の彼女と相対したとしても、そうと頭では分かっていても、姿形が大切な彼女だというのなら、きっとまた自分は引き金を引けないのだろう。
 そう、今の戦いで証明されてしまった。
 明るみになったのは、己の最大の弱点。
「手を撃てば少なくとも負けなかった。先に胸を撃っていれば、飛び込まれても頭上は狙えた……違って?」
「……仰るとおりです」
 アリシエンテを第一に考える余り、最善の策が取れなかった、その自覚は充分過ぎるほどにある。
「エスト。このチケットで確約なさい。次は容赦なく狙うと」
 細い指先で紙切れを宙に泳がせ、彼女は酷な約束を守護者たる精霊に突き付ける。
 エストは淀みなく頷いた。
「それが……貴女の願いならば」
 たとえ本人であろうと、次は躊躇いなく撃つ。
 チケットと――守るべき神人であり、パートナーである彼女の言葉に、真摯に誓った。


「予期せぬ対人戦……という前提で、武器は……こちらを」
 数ある武器の中から黒色の傘を選んだのは、神人であるエリー・アッシェン。
 装備は日常的なものを、と。精霊とも共通させて、服装もTシャツにスパッツ、防具にはゴーグルにヘルメットという、身近で手に取りやすい最低限のものを選んだ。
「神人エリー・アッシェン、対、精霊ラダ・ブッチャー。演習を許可します!」
 開始のブザーが鳴る。
 対峙した精霊はといえば、手にしているのは何の変哲もないボールペンだ。
 ボールを割るならこれでも構わないよねぇ? と、本当にそれでいいのかと怪訝な顔をする職員に許可を取り、手持ちの物を持ち込んでいた。
 リーチは極端に短い――ともすれば。
(近付けさせないようにしつつ……まずは隙を作らなくては)
 じりじりと距離を詰めてくるラダを、手にした傘をレイピアのように扱い牽制するエリー。
「ウヒャッ! 危ないねぇ」
 胸のボールへ突き出された石突きを一歩飛び下がり避ける。
 しかし彼女が繰り出す突きの幾つかはフェイクだ。
 威嚇ばかりで、決め手となる攻撃を仕掛けてこないエリーにほんのひととき、ラダが気を抜いた瞬間、不意にエリーの手から突き出された傘がバッ! と音を立てて派手に開いた。
「わぁっ!?」
 ――どしん!
 突如目の前を覆った黒に驚いて後退するも、足をもつれさせてラダは尻餅をつく形で転倒する。
 その拍子に尻のボールがパン! と派手な音を立てて割れた。
「あちゃー、割れちゃった。エリー、これを狙ってたの?」
「うふふ。驚かせて隙を作るつもりだったのですが……結果オーライですね」
「やるねぇ。……でもこれで、後ろを気にせず戦えるってこと、じゃんっ!」
 立ち上がる動きそのままに、流れるような後ろ蹴りをラダが繰り出した。
「きゃっ……!」
 咄嗟にガードするも打撃の衝撃によろめき、体勢を崩した所をすかさずラダのボールペンが狙い打つ。
 パン! 胸のボールのど真ん中、見事にペン先が命中し叩き割られてしまった。
「武器のリーチ差を、そういう手で……いえ、脚で補う作戦ですか」
 態勢を立て直しつつ、割れて散ったボールの屑をぱんぱんと払い落とす。
「これでお互い、後一つボールを壊せば勝敗が決まるねぇ?」
「ええ……負けませんよ」
 ラダの言葉に応えるエリー。
 ほんの束の間、ぴりぴりとした空気が場を包む。
 そんな最中不意に、ラダがわざとらしく肩をすくめて見せた。
「エリー、防具がずれちゃってるよぅ?」
「えっ?」
 は、と我が身を見下ろし思わず装備を確認するエリー。
「夢中になりすぎると周りが見えなくなって危ないよぅ。直してあげるねぇ」
「あ……ありがとうございます……?」
 前触れなく和んでしまった空気の中、にこにこと陽気に微笑みながら歩み寄ってくるラダに、試合を継続しようという気持ちは全く見えず、エリーはつい、接近を許してしまった。
 目の前まで距離を縮めたラダがヘルメットに手をかける――その瞬間。
 パンッ!
「っ!」
 突然頭上でボールが割れて、えっ、とエリーは目を見開く。
 ほどなくして、試合終了のブザーが鳴り響いた。
「え!? わ、私の負けですかっ?」
 審判に確認するも、ルールですから、と返され、次には、視線を泳がせ口笛など吹き散らしているラダを見遣ってようやっと、ヘルメットを直すフリをしてボールを割られたのだ、と彼女は状況を悟った。
「ラダさん、ずるいですね!」
 思わず口をついた文句にも、ラダはにこにこと笑って告げた。
「対人戦なら、卑怯な手段も警戒しなくっちゃねぇ」
 飄々と手を振ってみせたラダに、敗北を認めざるを得ず「はぁ……完敗です」と、ひとつエリーは苦笑した。

 ――そうして精霊がチケットを手にした午後。
(どんなお願いなんでしょう……!?)
 どきどきしつつ待ち構えるエリーに、ラダは開口一番、
「ボク、クッキー食べたぁい。買って来て!」
 と、ねだる。
 まさかのパシリ……と拍子抜けしつつ『チョコチップクッキー食べさせて券』と成り果てたチケットに従い、近くのコンビニまでひとっ走り。
 精霊の好みのものをきちんと選んで帰還し、手渡した。
「ヒャッハー! うまそう! 大事に食べるねぇ、ありがと!」
 折角のチケットなのに、本当にこんな事で……? と最初こそ訝しんでいたけれども、ラダの心底嬉しそうな顔を前に。
「……ラダさんの幸せな顔が見れるなら、良しとします」
 思わずつられたように微笑んでしまうエリーなのであった。


「装備は、こちらを」
 神人、ハロルドが手にした武器を確認し、普段使っておられる物とは違うようですが、大丈夫でしょうか? と、職員は一応の確認を取る。
「ええ。銃を持って戦う可能性も、出てきましたから」
 力強く頷き、彼女はパートナーへと向き直る。
 その様子を精霊ディエゴ・ルナ・クィンテロは神妙な目で見ていた。
 銃の経験は精霊が上だ。身体能力以上のハンディキャップがある。
 それは彼女も熟知しているはずで。
 模擬線と言う事ではあるが、神人にとって良い経験になればと――戦いながら学んで欲しい、と。彼は内心考えていた。
 審判が開始の合図を送り、ブザーが鳴り響いた。
「……行きますっ!」
 グリップを握り締める。発砲に至るまでトリガーに指は掛けない。
 攻撃は必ず相手の間合いからずれてから行う事、という教えは、以前のトレーニングでディエゴから享受したものである。
 サイドに移動して、まず一発。両手で握っているのは反動を抑えるためだ。
「いい動きだ。だが、標準がまだ甘いな」
 不慣れな彼女の打ち込む弾道は容易に読める。
 次々と放たれる攻撃を一切の無駄がない動きで全て避け、適度にアドバイスを挟む。
「視線からも弾道は読まれる。相手を見るのではなく、観てから撃て。そして弾丸数を意識しながら動くんだ」
「は……はい!」
 残弾を意識していなかった事に気付き慌てるが、既にトリガーは虚しく空撃ちを繰り返していた。
 リロードを急ぐももたついてしまい、銃での戦いは早々に諦め、行儀良く足元に武器を置く。
 どうするつもりなのか、とディエゴが首を傾げたその時、ハロルドは再び強く地を踏みしめた。
「――やあっ!」
「ッ!」
 一気に距離を詰め拳を繰り出す。
 予想していなかった動きに驚くが、胸のボールを打ち割られる寸での所で、掌一つで拳を受け止めた。
「……このタイミングで接近戦に持ち込むか。驚いた」
「ええ。模擬戦とはいえ……戦いですから!」
「いい判断だ。銃は間合いを詰められると対応に困るからな」
 ぐぐ、と強く拳を押し込むがこうなっては精霊の体はびくりとも動かない。
 ならばと本格的に体術へ戦法を切り替えて、身を引く勢いのままハイキック、回転ざまにパンチ、と攻撃の手を緩めないハロルド。
 接近戦法が功を奏し、再度繰り出した拳によりディエゴの胸のボールを見事壊すに至る。
 一つ目を割った事で僅か優位に立ち、肉薄した所でしかし、不意にディエゴがほんの一歩身を引いた。
「――だが、お前に体術を教えたのは俺だって事を……忘れてる、なっ!」
「っ! きゃ……!」
 素早い動きに頭のボールを手刀で弾き割られる。
 音に驚いて目を瞑る間も無く、胸のボールも叩き割られてしまった。
 気を抜いたのは一瞬。それだけで、ディエゴには充分だった。
「それまで! 勝者、ディエゴ・ルナ・クィンテロ!」
 終了のブザーが鳴り響き、張り詰めていた緊張を大きく吐き出す。
「体術の師もディエゴさんだということ、すっかり忘れてしまっていました……」
 ため息混じりに嘆くハロルドを、チケットを手にしたディエゴが「いい動きだったぞ」と労わる。
「リーチを考えなかったのは失策だな。詰め寄った所で、少し距離を取ればお前のボールをまとめて割るのはわけない事だ」
「はい……」
「そうだな……勝者の権利だが。お前はこれから、俺に一から銃の使い方を学んでもらう、でどうだ」
「!」
 ハロルドの表情がぱっと華やぐ。
 銃に関して、精霊の腕前には全幅の信頼を置いている。
 その彼が直々に指導してくれるというのだから、これ以上のことはない。
 そしてそんな学びに熱心なハロルドをよく知っているからこそ、ディエゴもチケットの使い道をこういう用途に選んだのだ。
「ディエゴさん。私、頑張ります!」
「ああ。だがやるからには厳しくいくぞ、ついてこい」
「はいっ!」
 模擬戦に、と与えられた会場で、この後も暫く借りた銃をそのまま使用し、二人は訓練に明け暮れていた。
 楽しそうだな、あのウィンクルムたち。と、職員が漏らしたのはまた別の話。



依頼結果:成功
MVP
名前:エリー・アッシェン
呼び名:エリー
  名前:ラダ・ブッチャー
呼び名:ラダさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月20日
出発日 06月25日 00:00
予定納品日 07月05日

参加者

会議室


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