時計の針が止まったら(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 率直に言ってしまおう。これは夢だ!
 ここはフィヨルネイジャ。女神ジェンマの庭園にして、清浄な空気の満ちた天空島。素敵だけど、たまにちょっと不思議な夢を見ちゃったりする場所。
 これはそんなフィヨルネイジャで見る夢。だからこんな風に、自分以外のすべての時間が止まってしまう、なんていうファンタジーだって起こってしまうのだ!
 目の前には微動だにしない相方。
 そして手元には様々な悪戯グッズ。
 さぁ、さぁ! 日頃鬱憤は溜まってないかい? もしくは純粋に悪戯心が疼かないかい? 勿論普段は恥ずかしくて出来ないあれやこれやだって俺の目が許す限りは好きにやるがいいよ!
 ほら、ほら! こんなチャンスは滅多にない、時計の針が動くまではあと少し、今やらなきゃいつやるってんだ!
「うるさいな! お前誰だよ?!」
 ご都合主義の天の声だよ!

 ともあれ貴方は動かない相手に何かをした。それは悪戯だったり勇気を振り絞った行為だったり、普段だったら絶対できない内容。
 だって止まっているのだ。何をやったってばれるわけがない。その気持ちが貴方を大胆にさせた。
 ある程度やったところで、謎の天の声が「終ー了ー!」と言い、それを聞いて目が覚めた。
「変な夢見たよ。なんかオレ以外時間が止まっちゃってさぁ」
「そうか、俺も変な夢を見たぞ。俺が動けなくなってるっていうのに、お前が嬉々として俺の顔に落書きしてる夢だ」
「…………ん?」
 目の前には怒りのオーラを纏いつつ微笑む相方。
 はじけたように笑う謎の天の声が聞こえた気がした。

解説

止まってしまった相手に何かをし、夢から覚めてご対面してください

●何かをする方
神人でも精霊でもどちらでも構いません。
神人ならアクションプランに、精霊ならウィッシュプランの頭に『動』の字を入れてください。
何をしても構いません。何もしないというのもアリです。

●何かをされる方
神人でも精霊でもどちらでも構いません。
神人ならアクションプランに、精霊ならウィッシュプランの頭に『静』の字を入れてください。
一切動けないし喋ることも出来ませんが、見えるし聞こえるし感じるし思考は自由です。

●目覚めた後
どうやら同じ夢を見ていたようです。
同じ夢を見ていたと確認してから夢の内容について語り合うのもよし、喧嘩するのもよし、一歩踏み出すのもよし。
勿論、夢の内容を一切語らずに過ごすのもよし。

●マジかよ、さっき財布ちゃんと閉じてなかった、中身ちょっと落としてた!
300Jrいただきました


ゲームマスターより

ジャンルはコメディになってますが、コメディにするのもシリアスにするのもイヤンバカン一歩手前にするのもご自由に。
不思議な夢を楽しんで下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  『動』

転寝から目覚める
静かだ
時計の音…?止まってる…
眼下、道行く人々も
スズメも、飛行機雲も…

何があったのかと部屋を飛び出る
ランスまでも…
頼みの綱が切れたような感覚に
名前を呼んでゆすってみるが…

落着け…落着け俺…
いつもの異変だとしたら数時間で終わると言い聞かせる

数時間…
まてよ
現実での数時間はここだとどれくらいなんだ!?

秒針は進んでいるか
ランスが目を閉じかけてたら瞬きか
それとも全く時が流れていないのか
俺は既に狂っているのか

ランスが動いたような気がした
椅子を持ってきて前に座る

永劫の孤独
俺は耐えられない
もう一人では生きて行けないのに

★醒めたら
真っ先にランスの寝室へ駆ける
安心したくて
けどそれは言わずに…


柳 大樹(クラウディオ)
 

「反応の無い相手で遊んでもなあ」
期待した反応をこいつがしたことなんてないけど。

右手で、クラウの左目の下をなぞる。
羨ましさはまだある。きっとこの先もずっと。(溜息を吐き、眼帯に軽く触れる
けど、自分以外の目が欲しいとは思えなかった。

手をフードの中に突っ込んで髪を触る。
「柔い」結構触り心地いいな。
フードと口布を下ろし、正面から見て思う。「やっぱイケメンだわ」

目についた歯車の耳に触る。冷たくはないっぽい。

覚醒後:
思ったより短かった。(時間が
「俺以外動かない夢見たけど、クロちゃんはなんか見た?」
「もしかして同じ夢の見てたの?」

同じって知ってたら、むしろ悪戯したのに。(後の反応見たさ
あー、失敗したなあ。


胡白眼(ジェフリー・ブラックモア)
 

マナーの悪いゴリラが散歩してたんでしょうね…
と手を伸べたら静止
好きにしろって…ええー…?

しかしこの状況どこかで覚えが
ああエロ漫画で読んだ奴だ
(何がいいのか俺にはわからなかったけどなぁ
やっぱり気持がないと
同性の知人相手じゃ愛もナニもないか)フフッ

(この状況じゃなきゃできない事
そうだ、ひとつだけ)

(精霊の手を両手で包み)
ずっと、気にかかっていました
気丈に微笑う貴方を却って傷つけそうで、言えなかった

ご家族の幻に銃を向けたあの時、つらくは、ありませんでしたか
切迫した状況だったとはいえ焚きつけたのは俺です
苦しかったでしょう
ごめんなさい

変な夢だったなー…
ジェフリーさんも寝てる
やさしい夢を見てるといいな


信城いつき(ミカ)
 
時間止まった…何やっても大丈夫かな
よーし、何か弱点がないか探ってみよう!

ポケットに手帳見つけた
弱点発見のチャンス!…でも勝手に見るのはミカに悪いよね

うーもったいないけどやめたっ(見ずに戻そうとする)

チェーンとか指輪とかアクセサリー着けてるな…
今日はネクタイもしてる(服装に興味津々)
そういえば俺ネクタイしたことないや。どうやって結ぶんだろ

あれ?変な風になった。一度戻して……ほどけてきた、どうしよう

目覚め後
夢見たよ、まわりの時間が止まって…え?な何もしてないよ
(ネクタイの結び方見てたとは恥ずかしくて言えない)
襲っ…襲ってなんかないよ!

待ってー!ごめんなさいネクタイの結び方見てたらほどけました!


■あなたはわたしの、わたしはあなたの
『アキ・セイジ』は瞬きした。
(静かだ)
 そこは完全なる静寂の世界だった。
(時計の音は……?)
 常ならば規則的な音を刻む金時計を見る。
(止まってる……)
 壊れた、という可能性もあった。だが、そうではない予感がした。
 辺りを見回しても何も動いていない。
「何があった……?」
 いや勝手に無視してんじゃねぇよ! ここはフィヨルネイジャで夢だって言ってんだろ! お前以外の全ての時間が止まってるんだよチャンスだよホラホラ精霊にあれやこれやしちまえよイェア!
「?!」
 途端、ゲラゲラ笑いながら響く声が聞こえた。
 そうだ、この声を聞いたのだ。けれどあまりにも信じがたく、一瞬脳が拒否していたのだ。
「落ち着け……」
 頭を押さえながら呟けば、不思議なことに辺りの景色がさっきまでいたフィヨルネイジャから自宅のそれに変わる。夢の中ゆえにセイジが強く望んだからこそ変化したのだろう。
 そしてセイジは改めて目の前にいた『ヴェルトール・ランス』を見る。
 謎の天の声が言ったように、ランスの時は完全に止まっていた。
「ランス」
 名前を呼び揺すってみるが、当然何の反応もない。わかっていた事だが、頼みの綱が切れたような感覚に襲われる。
(落着け……落着け俺……)
 フィヨルネイジャでの夢は何度か見てきた。今までと同じならば数時間で終わる筈だ。それにさっきの声を信じるならば、酷い悪夢に変わるわけでもないだろう。
 だから、大丈夫だ。
 セイジは自分に言い聞かせる。

 一方、時が止まった筈のランスだが、その意識はしっかりと時を刻んでいて、セイジがフィヨルネイジャの夢だと認識してくれた事にほっとしていた。
(取り乱しぶりが可愛そうで辛かったぜ)
 揺すっても動かないランスを目の当たりにした時の顔。
 あんな顔はさせない、させたくないと思っているのに。
 能天気な謎の天の声を思い出して腹立たしくなる。
(ていうか! これってコメディっぽい展開になるんじゃないのかよ!)
 何処かからこの夢を見てるPでLの人に届くようなツッコミを心で叫ぶランス。ドンマイ! 負けるな! 文句があるなら三次元へいらっしゃい!

 落ち着きを取り戻したセイジだが、ふと、ある事に気づく。
(数時間……)
 自分で自分に言い聞かせた、数時間で終わる筈だと。
(まてよ)
 だが、一つの事実に気付いて一気に血の気が引く。
(現実での数時間はここだとどれくらいなんだ!?)
 そう、夢の中の数時間がそのまま現実の数時間とは限らない。
 この夢がいつ終わるのか分からない。
 謎の天の声はもう響かない。ただ何かがニヤニヤと笑っているような気がした。
 再度金時計を見るが、相変わらず秒針は進んでいない。
 全く時が流れていない。自分以外は。
 耳が痛くなる。気が狂いそうだ。それとも俺は既に狂っているのか。
 縋るようにランスを見れば、微かに動いたような気がした。
 それは気のせいあったが、セイジにとっては希望の光だった。
 今となってはここは勝手知ったる我が家。椅子を持ってきてランスの前に座る。
 こんなにも慣れ親しんだ場所で、こんなにもランスが傍にいるのに、こんなにも一人ぼっち。
 ―――永劫の孤独。
 ふと、そんな言葉が頭に浮かぶ。
「俺は耐えられない」
 セイジは動かないランスの手を握る。
「もう一人では生きて行けないのに」

 動けなくとも、ランスには意識があったし、触覚もあった。
 だからこそ、辛い。
 手から伝わるのは、ぬくもりと震え。
(今すぐ抱きしめたい)
 泣きそうな姿のセイジに、ランスはただ胸を痛めた。
 何時間もセイジは見つめ続ける。手を握り続ける。
 見つめられて恥ずかしい、などという気持ちは無い。セイジの精神の糸が切れずに済むなら、いつまで見つめられても構わない。それでもいい。
 やがてセイジは疲れ果て座ったまま眠りにつく。
 ランスはそれを見守っていた。
(俺だって一人では生きて行けない)
 見守る事しか出来なかった。
(俺達もう、互いが互いのきっと一部なんだぜ……)


「ランス!」
 目覚めた場所は自宅ではなくフィヨルネイジャ。
 セイジはようやく夢が終わったことを覚り、すぐに同じように起きたランスの腕を掴んで引っ張る。
 するとランスは優しい笑みでセイジを抱きしめた。
「どうした? 悪い夢でも見たか?」
 ぽんぽんと頭を撫でてランスは優しく慰める。
「それは夢だよ。俺が忘れさせてやるから」
 何度も何度も慰め、強く強く抱きしめる。夢の中で出来なかった分を取り返すように。
 そのぬくもりと強さは、セイジを安心させるものだった。


■美しい結び目
「時間止まった……」
 謎の天の声を呆然と聞いていた『信城いつき』は、改めて動かない『ミカ』をマジマジと見る。
(何やっても大丈夫かな)
 目の前で手を振ってみても、腕をつんつんと突いてみても、何も反応が無い。
 完全に止まっている。それならば。
(よーし、何か弱点がないか探ってみよう!)
 いつきはわくわくする気持ちを止められず、とびきりの笑顔で改めてミカに向き合った。

(これはチビの本音が見られそうで楽しみだな)
 動けなくなったミカだったが、ばっちりしっかり意識はあった。
 なので、先程からのいつきの表情の変化や行動もばっちりしっかり見ていた。
(俺の服やポケット探ってるな)
 視線も動かせないから、ごそごそと動く手の感触で予測する。
 流れ的にポケットの中ではなく服の中を探られる心配をするところだが、相手はいつきである。そんな色気のある展開は心配するだけ無駄だ。
「あ」
 ミカのポケットを探っていたいつきは、中に入っていたある物を見つけて声を出す。
 それは手帳だった。
「やった! 弱点発見のチャンス!」
 流れ的に手帳の中の情報を見られたりプライバシーの侵害を心配するところだが。
(見られて困るような事も書いてないしなー)
 焦ることは特に無い。むしろいつきが見るかどうか葛藤する姿を観察して楽しんでいた。余裕を持って楽しんでいた。
 そう、いつきは葛藤していたのだ。
 天の声がオッケー出してもいつき本人の良心がストップをかける。
(……でも勝手に見るのはミカに悪いよね)
 そんな事を心の中で呟きながら、んー、と声に出して考え続ける。
 見るべきか、見ざるべきか、それこそが問題だ。
「うー、もったいないけどやめたっ」
 答え、やはり勝手に見るのはやめときましょう。
 実にいつきらしい解答に、意識だけのミカは笑いたくなる気持ちになった。
 手帳を見ずに戻したいつきは、今度はミカの服装をまじまじと観察し始めた。
(チェーンとか指輪とかアクセサリー着けてるな……)
 流石はジュエリーデザイナーの卵と言ったところか。ミカはセンスよく洒落た服装を着こなしていた。
(今日はネクタイもしてる)
 時間が動いている時にはその一点だけを見る事はないが、こうしてじっくりと見れるとその構造が気になってきた。いつきはまだネクタイをした事が無いのだ。それゆえに、どうやって結ばれているのか分からない。
 いつきはネクタイをつまんで、結び目部分を見ては引っ張ったり緩めようとしたり色々と弄ってみる。
 あわあわしているいつきにミカは意識だけで苦笑いとなる。
(せっかくのチャンスにネクタイの結び方か。つくづくお子様だな)
「あれ?」
 ネクタイがさっきまでの形を違ってきて思わず声が出る。
 変な風になった。一度戻そうとしても何故かほどけてきた。
(……ほどけてきた、どうしよう)
 若干焦り試行錯誤するがどんどん崩れていく。何故だ。どうなってる。ネクタイ怖い!
 そんないつきを更に追い込むように、笑い含みの謎の天の声が「終ー了ー!」と響いた。


 ぱちり、目を覚ましたいつきは、伸びをしながら隣にいるミカに「寝ちゃった」と笑う。
「夢見たよ、まわりの時間が止まって……」
 たった今見た夢の内容を語ろうとすると、ミカも夢の内容を語りだした。
「俺も時間止まってたな……あれー? 同じ夢かなー? チビちゃん俺に何かしなかったか?」
 にやりと笑うミカに、いつきはぎくりと心臓を跳ねさせる。
「え? な、何もしてないよ?」
 そうだ、結局手帳だって見てないし、ネクタイだって……いやほどけかけたけど! でも! 完全にほどけてないし!
 そもそも悪戯できるチャンスにしていた事が『ネクタイの結び方見てた』だなんて、なんだか子供っぽくて恥ずかしくて言えない。
 語らないいつきに、ミカはにやにやしながら更に続ける。
「ふーん、俺の方はチビに襲われかけたぞ」
「襲っ……襲ってなんかないよ!」
「えー? でも服触られてネクタイまでほどかれて。普通、人のを触ったりしないよな」
「ううッ」
 やった事は事実だから何も言い返せない。でも! 別に! 襲う為に触ったんじゃなくて!
「ほらほら、本当の事言わないと、チビに押し倒されたって周囲にいいふらずぞ」
「待ってー! ごめんなさいネクタイの結び方見てたらほどけました!」
 慌てて真相を告げるいつきに、ミカはケラケラ笑いながらいつきの頭を撫でた。
「やっと正直に言ったな。ほら」
 ミカはネクタイを外していつきの首にかける。
「え? え?」
 何をされるのかわからないいつきは戸惑うが、ミカの「よく見てろ」の言葉にネクタイを、ミカの手元をじっと見る。
 ゆっくりと結ばれていくネクタイ。何処をどう通すか解説をはさみながら。
 綺麗に結ばれたネクタイを見て、いつきはキラキラした目でミカを見る。
「ネクタイの結び方ぐらい素直に聞け、ばーか」
 からかうような、けれど温かい言葉に、いつきも笑顔で「ありがとう!」と言った。



■初めての、
 謎の天の声を聞いた『柳 大樹』は、けれど特にワクワクしたりやる気を出したりはしなかった。何故ならば。
「反応の無い相手で遊んでもなあ」
 そう、悪戯などは相手の反応まで含めて楽しむものだ。だからこんな状況ではときめかない。
 とはいえ、普段の『クラウディオ』の反応を思い出してみるが。
(まぁ、期待した反応をこいつがしたことなんてないけど)
 数々の斜め上の反応や斜め下の反応を思い出して、大樹は諦めたように一度目を閉じた。
 そんな大樹を、クラウディオは動けない体でじっと見ていた。
(どこからか聞こえた声は悪戯を求めているが、大樹は行う気は無いらしい)
 別段安堵する事も無く冷静に大樹の様子を分析したクラウディオは、出来ることもない現状に、ただ大樹を見つめ続けた。
 大樹の右手が伸びてくる。クラウディオはその手を、手の指をただ眺めていた。
 クラウディオの左目の下、そこをなぞる。
 左目は、大樹が奪われてしまったものだ。
 揃っている目への羨ましさはまだある。きっとこの先もずっとあるのだろう。どうしたって「何故自分が」という思いが出てくる。
 もう取り戻せない。だからこそ奪った存在が許せないし、持っている者が羨ましい。
 大樹は溜息を吐き、眼帯に軽く触れる。
 羨ましい、と思う。けれどそこから「寄越せ」という気持ちにはならない。
 自分以外の目が欲しいとは、どうしても思えなかった。
(大樹は疲れているようだ)
 クラウディオは大樹の表情に僅かな疲労が見えた。休ませるべきなのだろう。そう思ったが、現状では動きようがない。
 夢から覚めたら提言しよう。そう心に刻んで、クラウディオは大樹を見続ける。

 大樹は一度天を仰いで意識を切り替える。
 悪戯をするつもりはないが、普段見ない触らないものを見たり触ったりする事位はやってみたい。
 そう思って、その両手をクラウディオのフードの中に突っ込んで髪に触れる。
「柔い」
 予想よりも柔らかい髪は触り心地がよく、大樹は何度も頭を撫でる。
 その行為は実は、クラウディオには初めての体験だった。
(頭を撫でられたらしい)
 初めての感触をクラウディオは記憶する。その手の感触を、温もりを。
 これが、頭を撫でられるという事。
 クラウディオが記憶している間に、大樹は今度はフードと口布をおろした。
「やっぱイケメンだわ」
 正面から見て素直に出てくる感想。思わず声に出した大樹の声を、クラウディオは(『イケメン』とは見目の良い男に使う言葉だった筈。そもそも大樹も『イケメン』の部類ではないのだろうか)などと、喜ぶでも照れるでもなく、他人事のように聞いていた。
 そんなことを思われているとは知らない大樹は、気の向くままにクラウディオへとまた手を伸ばす。
 その伸びる先が自分の耳だと気付き、クラウディオは無意識に避けようとし、改めて動けないと言う事実を噛み締めた。
 歯車のような耳に大樹が触れる。その見た目に反して冷たくはない。
(へぇ……)
 先程クラウディオが頭を撫でられた感触を記憶したように、大樹もまたその感触を記憶した。


 大樹が目を覚まして最初に思った事は、思ったより時間が短かった、であった。
 もうちょっと色々見たり触ったりしたかったと思いながら、同じように起きたクラウディオに話しかける。
「俺以外動かない夢見たけど、クロちゃんはなんか見た?」
「体が動かず、大樹が私のフードと口布を取り、耳を触っていた」
 答えに大樹はきょとんとする。
「もしかして同じ夢の見てたの?」
 おそらくはそうなのだろう。クラウディオはこくりと頷いて返事とした。
 その返事に大樹は勿体無い気持ちになる。
「同じって知ってたら、むしろ悪戯したのに」
 だって同じ夢なら起きた後の反応が見れた。それならば喜んで色々と弄ったのに。
「あー、失敗したなあ」
 そう呟く大樹は、実は今まさにクラウディオが悪戯された反応をしていることに気付かない。
 クラウディオはただでさえ隠れている耳を更に隠すように、いつもより深くフードを被っている。
(耳を触られるとは考えていなかった)
 耳を見て耳に触れている時の大樹は、別に鉄錆色に顔を顰めたりはしなかった。だが、その鉄錆色に劣等感を抱いているクラウディオには、充分すぎる驚きであった。
 その驚きを振り払うように、クラウディオは初めて味わった感触を反芻する。
 誰かに頭を撫でられるという、子供の頃に体験していてもおかしくない、ありきたりな感触を。


■夢なら、夢のままで
「うわ!」
 叫んで『ジェフリー・ブラックモア』は転んで尻餅をついた。
「イテテ……なんでバナナの皮が道端に」
「マナーの悪いゴリラが散歩してたんでしょうね……」
 そんな予想を口にして『胡白眼』が手をさし伸べる。
「なるほどゴリラか……ああ、助かるよ」
 苦笑しながらその手をつかもうとのばした、ら。
 静止。
(ッな、にこれ。体が……!)
 動けなくなったジェフリーが驚いていると、謎の天の声が楽しげに解説を始める。
「好きにしろって……ええー……?」
 途方に暮れた白眼の声が、時の止まった空間に響いた。

 さてどうすればいいのか、と白眼が考え出すと、頭のどこかが既視感を訴える。
(しかしこの状況どこかで覚えが)
 暫く悩み、そしてふと思い出す。
「ああエロ漫画で読んだ奴だ」
(エロ……!?)
 戦慄したのは動けなくなっても意識はしっかりあるジェフリーである。
 だってエロ漫画って事は、やっぱりアハンウフンイヤンバカンな展開というわけで、今この状況だとアーレーヤメテーという状況になるのは自分なわけで。
(何がいいのか俺にはわからなかったけどなぁ。やっぱり気持がないと。まぁ同性の知人相手じゃ愛もナニもないか)
 動揺しているジェフリーなど当然知らない白眼は、そんな事を考えながら「フフッ」と笑った。
(ヒッ。いま笑った)
 平和な思考をしている白眼など当然知らないジェフリーは、エロ漫画の発言をした後に笑った白眼に戦慄した。
(この状況じゃなきゃできない事……そうだ、ひとつだけ)
 白眼は一つ、やりたい事を思い出してジェフリーへと手を伸ばす。
 ジェフリーはその伸びてきた手に怯える。この手があれやこれやをして『見せられないよ!』な展開を引き起こすのではないかと考えて。
(やだ……やだよ。また熱くておかしくなることをされるの?)
 そんなジェフリーの思考に、何それ詳しく、という別の天の声が聞こえてきた気がするが割愛。
 ジェフリーは自分に言い聞かせる。
(落ちつけ。これも目論見の内だったろう)
 力が欲しい。オーガを殺して殺して殺しつくす力が。その為にはウィンクルムとして神人との愛が必要だというから、だから優しい顔をして煽るような事をしてきた。
 だからこれはある意味望んだ結果だ。
(予想より進展が早まったってだけ。耐えられる)
 男と、なんて心底嫌だが、それで力が手に入るのなら。そう覚悟したジェフリーの手が、白眼の両手で包まれる。
「ずっと、気にかかっていました。気丈に微笑う貴方を却って傷つけそうで、言えなかった」
 だが、白眼がした事は、白眼が口にした事は、予想に反したものだった。
「ご家族の幻に銃を向けたあの時、つらくは、ありませんでしたか。切迫した状況だったとはいえ焚きつけたのは俺です。苦しかったでしょう」
 ごめんなさい、と丁寧に謝罪する白眼に、ジェフリーは呆気に取られ、そして次第にぐちゃぐちゃとした感情が滲み出てくる。
(……へえぇ。ヒーロー気取りで独白か。神人ってのはどいつもそうだ。自分が特別だからって憐れんだ顔でこっちを見下して)
 自分でも説明しきれない感情に押されて、ジェフリーは心中で罵る。その両手を振り払えない現状が嫌だ。
 手は握られ続ける。白眼の気遣う温もりを伝え続ける。
(……ねぇもう満足だろう)
 限界を迎えたのはジェフリーの方だった。
(手を放せよ。君の間抜け面なら十分堪能したさ。放してくれ、お願いだから)
 せめてこれが、本当にヒーロー気取りの安っぽい正義感からくるものだったら。
 そうしたらもっと馬鹿にして、嫌悪して、嘲笑う事が出来たのに。
 けれどジェフリーはもう知っている。白眼が本当に心底から自分を気遣ってくれていることを。
(そんな真直ぐな眼で――……)


「変な夢だったなー……」
 白眼は寝起きのぼんやりとした頭でボソリと呟く。
 隣を見ればジェフリーも寝ている。少し身じろぎしたからもうすぐ起きるのかもしれない。
(やさしい夢を見てるといいな)
 せめて夢の中では穏やかな気持ちでいられるよう。
 白眼はジェフリーの寝顔を見て微笑みながらそう祈った。
(ただの夢だ)
 実は既に起きていたジェフリーは、見た夢の内容に、隣の神人の存在に、居た堪れずに寝たふりをしていた。
 フィヨルネイジャの影響と察していた、きっと共通の夢だったと察していた、それでも全てただの夢だと己に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせていた。
(にしてもゴリラって……)
 夢の冒頭を思い出し、ふ、と苦笑して目を覚ますことにした。
 ゴリラの夢を見た、ゴリラと戯れる夢だった、とでも言えば、きっと笑い話になるだろう。
 そうすればこの胸の鬱屈も誤魔化せるだろう。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 06月19日
出発日 06月25日 00:00
予定納品日 07月05日

参加者

会議室

  • [6]胡白眼

    2016/06/24-22:03 

    プランを見直しつつよく考えたら
    バナナの皮の落とし主は感謝するに値しなかったです!
    でもバナナおいしいです!プランはだしました!ゴリラかっこいいです!
    (明朗快活な寝言)

  • [5]胡白眼

    2016/06/24-21:36 

    胡白眼(ふぅ・ぱいいぇん)と申します!
    精霊のジェフリーさんがバナナの皮ですってんころりしたまま動きません!
    この機にずっとしたかったけど出来なかったことをしようと思います!
    バナナの皮の落とし主と天の声さん、ありがとう!すやすや!
    (はきはきとした寝言)

  • [4]アキ・セイジ

    2016/06/24-21:05 

    >コメディにするのもシリアスにするのもイヤンバカン一歩手前にするのもご自由に
    とあったので、ドシリアスになった。
    ぐるぐる回る思考とか心情を入れるのに文字数が絶対的に足りない。

    ともあれプランは提出済みだ。
    皆の結果も楽しみだ。

  • [3]柳 大樹

    2016/06/23-22:46 

    柳大樹でーす。よろしくー。

    俺以外止まってるのか。
    まさに、やれと言わんばかりになんか手に持ってたけど。どうしようかねえ。

  • [2]信城いつき

    2016/06/22-22:32 

    ミカ:
    (?なぜか身体が動かないな。
    困ったなー、チビにあれやこれされたらどうしようー(棒)
    さて、チビがどう動くのかが楽しみなとこだな。

    みんなも大変な状況かもしれないが、どうぞよろしく)

  • [1]アキ・セイジ

    2016/06/22-00:20 


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