雨色紫陽花(如月修羅 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ


 とにかくそこは、一年中、雨か霧か曇りか……といった風情の場所だった。
 いや、もちろん晴れの日もあるのだけれど、うんざりするほど天気があまりよろしくないらしい。
 そんな場所で、ちょっと変わったツアーがあるのだという。
「ウィンクルムの皆様には、日頃の感謝をこめて安価で体験できるそうですよ」
 内容は特に変わりはないらしいので存分に楽しんでほしいとのことである。
「昼は紫陽花園で紫陽花を楽しんだ後、夜は紫陽花亭という宿に泊まっていただくのですけれど……ちょっと変わった約束がございまして」
 ふふっと楽しげに笑った職員が、その「約束」が書かれた紙を見せる。
「雨音を楽しんでいただくために、ツアーの参加中は「会話」厳禁なんだそうです。
あ、もちろん……紙に書いて話すとかは大丈夫ですよ」
 おしゃべりが禁止なだけなため、それ以外の会話方法であれば特に禁止されているというわけではない。
 まぁ、もちろんおしゃべりをしてもいいだろうが、あまり推奨はされないだろう。
「ペットも参加可能だそうですが、ちょっと料金は割増ですね。
ちゃんとペットのごはんやトイレのあれそれ、あとはリードやバックやかごなんかご用意くださいね」
 あとの詳しいことはパンフレットを見てくださいと職員はいう。


 貴方がたが向かうその日も、案の定の雨。
 お気に入りの雨具を手に、一体どんな時間を過ごそうか……?

解説

 どちらも描写可能ですが、がっつりとどっちかだけ。とかも可能です。
 プレイングによりますが、午前と午後半々ぐらいで描写予定です。
 また、他のウィンクルムたちと同じ時間で過ごしていますので、交流しても楽しいかもしれません。

●午前
 1000株を超える紫陽花が植えられている紫陽花園。
 多種多様な色と、多種多様な品種が育てられています。
 中には水琴窟がある休憩所(屋根と椅子とテーブルがあります)もあります。
 飲食は売店があるので、そこで買ってもいいでしょう。

●午後
 和室のみ。
(平均的な和室です)
 窓からは中庭に植えられた沢山の色彩の紫陽花を楽しむことができます。
 食事は山菜が豊富な和食です。
 天ぷらや川魚もおいしいです。
 未成年のお酒は禁止ですが、二十歳以上であればお酒を楽しむこともできます。
(売店があるので、そこで買うのもいいかもしれません)

●天気
 昼は小雨。
 夜は少々強い雨。

●jr
 お一人様 ツアー代として 350jr
 ペット1匹につき、+50jr

ゲームマスターより

此方もとうとう梅雨入りしました!
雨を楽しんでみてはいかがでしょうか?

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  ●昼
紫陽花を観にいこうとはどちらが言ったのだったかな

大き目の傘を差し出して一緒に入れと手招き
髪と肩の水滴を払ってやる

水琴窟で休憩
花の囁きが聞こえるようだ
雫の音が気持ち良いな
そう書くと茶化してくるので、メッw

鞄から温かいコーヒーを出す
じんわり流れる時間を味わいたい

●夜
体が冷えなかったかとタオルを出すと、ランスのそれとぶつかる(爆
タオルを交換して着替えようか

美味しい食事には上等の酒だ
杯を交わして紫陽花に捧げる
花言葉は移り気…最近では「家族団欒」という意味も出来たそうだよ
俺?白い紫陽花が一番好きだな
金色は出来たら凄いと思うよ(ふふ

強くなる雨音に少し不安になるけれど、ランスが力づけてくれるから、俺は…


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  (丁度いい。喋りたい気分じゃなくて人恋しかったから)
タイガ。気分転換にツアーどう?泊りで
会話厳禁の面白いルールがあってね。紙で会話も極力なしにしよう

■午後メイン
午前は紫陽花を見
食事とお酒を煽り始終タイガにくっついてる
視線は雨の紫陽花へ

トキワに突き放されて堪えたのか(トキワ依頼11
幼い頃『捨てられた』と思った時、世界からいらないって告げられたみたいで泣けた
両親は何事も無く帰って、あれは思い違いだったけど

今は違う
僕が悪いかったから甘えて側にいたから

驚)『タイガのせいじゃない。別で少しね。今だけこうさせて』メモで伝え暖かい気持ち

今は何も考えたくない
タイガにここにいてほしい(抱きしめ
繰り返さないから


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  午前
フィンと花園を散歩
会話禁止…意外とこれを守るのが難しい
珍しい色の紫陽花をフィンに教えようとして、迷った挙句袖を引っ張り目線で訴え
…通じて嬉しくなる

午後メイン
フィンの為に売店でお酒を用意する
驚いた様子のフィンにお酌して、飲むよう目で訴える
大きな戦い(フェスイベ)があって、フィンもかなり消耗したと思うから…今日は癒されて欲しいと思ったんだ
会話、出来なくて良かったかもしれない
言葉で言えないからこそ、堂々と態度で示す事が出来る

食事を終えたら、フィンの手を引き窓の外の紫陽花を見る
雨音、強くなった…名前を呼ぶ変わりに手をぎゅっと握る
それから、フィンの掌に指先でメッセージを書く

伝わらないと思ってたのに…


鳥飼(鴉)
  午前:
鴉さんと並んで散歩。ふふ、なんだか嬉しいです。

ここからここまでは同じ種類で、色だけ違うんでしょうか。
ここから先は、花の形が違いますし。
紫陽花も色々と種類があるんですね。(少し屈む
あ。(振り返り、つい声をかけようとする
そうでした。『会話』はしない、ですね。(はにかむ
鴉さんが柔らかく笑うと、ちょっとどきどきします。(少し笑みを深めて返す
滅多に見ないからなんでしょうか。

(紫陽花の葉っぱの上を指差し
『かたつむり』と、鴉さんを見てゆっくり口を動かして伝えます。

休憩所に寄って、少し休みます。
傘に雨が当たる音もいいですけど。
水琴窟、でしたっけ。(目を瞑り、耳を澄ませる
綺麗な音。
楽器みたいです。(微笑む


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  ※ティエン同伴

会話なしか…ティエンにはよく言って聞かせておく
イェルには午前中は基本行動と表情で示し、どうしてもの場合はサイレンスのスマホでメール
新婚旅行だし甘やかしたい

夜、役所に出す婚姻届書こうかと
イェルの誕生日に出せるよう
…書くのは互いにとって最後であるよう
書き終わったら、汚したり破いたり濡らしたりしないよう保管
あと、互いに手紙書くか
こういうのはメールじゃねぇ方がいいし
買っておいた便箋に『イェルだから、俺は救われたと思っているよ。ありがとう。末永くよろしくな』と書き、封筒に入れて渡す
手紙の想いに頬緩め、嬉しそうに寄り添うイェルを抱きしめてティエンへ可愛いだろとチラ見は基本

あ、寝る時は川の字な


 しとしとと。
 しとしとと。
 雨にけぶるその場所は今日もまた、静かな時間が流れる。
 そんな場所へやってきたウィンクルム達は、それぞれの時間を過ごしていく……。


 紫陽花に伝い落ちる雨粒。
 それに視線を落とした後、鴉は内心首をかしげる。
(雨音を、ですか。何の意味があるのか)
 しとしとと降り注ぐ雨音は、別段楽しいところはないのだけれど。
 それでも隣を歩く主殿……鳥飼は花を見比べては来た道を時折振り返っている。
 彼らが歩いたその両脇には紫陽花が雨に濡れて咲き誇っていた。
 一度みたはずなのに再び目に入る紫陽花に、笑みを浮かべる様子はすごく楽しげで、でも、自分にとってはこの時期に咲く花の一つという認識。
 とはいえ、グラデーションを作るかのようにそして品種も違うともなれば多少、目新しくもあるかもしれない。
 そんな種類の違う紫陽花に視線を落とす鳥飼を見る方が楽しい気もするのだけれど。
(鴉さんと並んで散歩。ふふ、なんだか嬉しいです)
 見られているのは紫陽花ではなく自分だということには気が付かず、鳥飼は小首を傾げた。
 先程と、何かが違って見えたのだ。
(ここからここまでは同じ種類で、色だけ違うんでしょうか。ここから先は、花の形が違いますし)
 どうやら土の栄養素が違うのか、同じ種類でも色が違う場合と、そして品種事態が違うために色もまた違うものがあるようだ。
 赤から紫、そして青へとどんどんと色を変えて行く紫陽花たち。
 ちょうどその境目になったようで、よく見てみようと少し屈みこむ。
(紫陽花も色々と種類があるんですね)
 紫陽花にも華美なものから貞淑なものまで多種多様だ。
 瞳を細め見つめる姿を鴉がじっと見つめる。
(主殿にはどのように見えているのでしょうね)
 その視線に気が付いた、というわけではないだろうけれど鳥飼が振り向きざまに唇を開く。
「あ、……」
 声を出そうとする鳥飼に、ゆっくり右手の人差し指を自分の口の前に置けば、鳥飼は唇を閉じて口元を軽く緩める。
『静かに』
 口パクでも伝えられるその言葉。
(そうでした。『会話』はしない、ですね)
 はにかむ姿に知らず浮かんだ鴉の柔らかな笑みに、鳥飼の視線が釘付けになった。
 瞬きするのも忘れて滅多に見れないその姿に、見惚れてしまう。
 それは、胸が高鳴りでも分かった。
(鴉さんが柔らかく笑うと、ちょっとどきどきします)
 笑みが少し深くなり、見詰め返せば交わる視線にほんの僅か、鴉の視線が揺れる。
 離れがたい、と思ったのだ。
 それは自然と浮かんだ衝動。
(さて、どうしたものか)
 どこか他人事のように呟く彼の心中なぞ知らず、立ち上がった鳥飼の視線の先にはカタツムリ。
『かたつむり』
 青色の紫陽花をつける葉っぱの上を指差して口パクで伝えれば、鴉の唇から溜息が出た。
(童心を忘れないと言えばいいのか)
 仕方の無い人だ……と思いながらも、そこを動くことはなかった。
 離れがたい、と思った衝動。
 それにも逆らうことなく今はただ、楽しそうにカタツムリへと視線を落とす彼を見守ることにするのだった。
 
 それから暫し紫陽花を楽しんで、鴉は鳥飼を見るのを楽しんでやってきた場所。
 少し休憩しようとやってきた休憩所で傘をたたみながら思う。
 傘に当たる雨音もいいけれど……休憩所に響き渡るどこか籠ったように反響する音色。
(水琴窟、でしたっけ)
 瞳を瞑り、耳をすませる鳥飼の様子を見守る鴉は、まるで陶器人形のようだと瞳を細めた。
(綺麗な音。楽器みたいです)
 音色を楽しむ鳥飼の口元に浮かぶ笑み。
 しかし、と鴉は視線をそんな鳥飼の口元へ。
 浮かぶ微笑みの暖かさが、生を感じさせてくれる。
 鴉の瞳はどこか優しい光を浮かべながら鳥飼を見詰めている。
 それを鳥飼が知ることはないのだけれど。
(雨音の良さは解りませんが、こうした時間も悪くありませんね)
 雨音の音色を聴きながら、彼らは静寂という時間を共に過ごすのだった。




 ぽたぽたぽた。
 紫陽花から滴り落ちる水滴と雨音を聴きながら、セラフィム・ロイスは少し前のことを思い出していた。
 嫌な季節だと呟く火山 タイガに話を持ってきたのはセラフィムだ。
『タイガ。気分転換にツアーどう? 泊りで』
『おう! 一緒に憂鬱な気分吹っ飛ばすか』
 セラフィムからのお誘いに自然と尻尾が揺れる。
(セラと泊りだと密着できるしお楽しみが)
 さらにそんなお楽しみもあるとなれば、ぱぁっと笑顔になるタイガに会話厳禁の面白いルールがあることを伝え、そして。
『紙で会話も極力なしにしよう』
 セラフィムのその提案に首を傾げながらも、否というつもりはまったくない。
『? 変わった趣向だな』
 そんなやりとりをしてやってきたこのツアー。
 楽しそうに色鮮やかな紫陽花をみて尻尾を揺らすタイガを見つつ、どこか愁いを帯びた視線を紫陽花に落とすのだった。


 雨と紫陽花を楽しんだお昼も過ぎて、夜。
 本格的に降ってきた雨の中、料理が続々と運び込まれる。
 さくっと揚がった天ぷらに、おひたしや小さな鍋に彩綺麗な食べ物の数々。
 それら全てに美味しい山菜が入っていて、タイガのお腹も心も満足させてくれたようだ。
(食ったー! 天ぷらセラの分まで貰っちまった)
 ゆらりと満足げに揺れる尻尾にその気持ちがたっぷりこもっている。
 いや、自分に引っ付いてさっきからお酒を飲んでいるセラフィムの温もりもまた、心地よいのではあるのだけれど。
 普段とは違って積極的にひっついてくれるセラフィムに幸せな気持ちになるけれど、とはいえ、とタイガはセラフィムにと向ける。
(少食は元からだけど……元気ねぇな……)
 そんな視線に気が付かず、セラフィムは紫陽花に視線を向けながらつらつらと物思いにふけっていた。
(丁度いい。喋りたい気分じゃなくて人恋しかったから)
 タイガの温もりを感じながら、小さいころのことを思い出す。
 小さいころに「捨てられた」と思った時、世界からいらないと告げられたみたいで泣いた記憶。
 それは両親が何事もなく帰ってきてために、思い違いだったけれど。
(今は違う)
 ちょっと前に、トキワに突き放された。
 それは自分の所為だと思うのだ。
(僕が悪かったから甘えて側にいたから)
 ずんっとのしかかる重石のようなこの気持ち。
 そんなセラフィムに伸ばされたのは、タイガの指先だった。
 タイガは物思いにふけるセラフィムに、胸が騒ぐのを感じていたのだ。
 一体、何があったのだろう。
 肩に触れられたその温もりに、はっとセラフィムがタイガと視線を交じり合わせる。
(何かあった? 結婚の儀の時は元気だったしあの後か、大学か、別か?)
 喋れないのが不便だと思いながら、交じり合う視線に思いをのせるタイガ。
 苦笑を浮かべ、紫陽花へと視線を移動するセラフィムの姿に肩を揺さぶってしまう。
(!! 俺、悲しませることしたか!?)
 タイガ自身を指すそのジェスチャーに驚いたように瞳を瞬かせたセラフィムが、安心させるように微笑んだ。
『タイガのせいじゃない。別で少しね。今だけこうさせて』
 書かれたメモを見て、ちがうのか。よかったと安心したタイガに伸ばされる指先。
 その指先を受け入れ、タイガはじっとセラフィムの銀色の瞳を見つめる。
 今は、何も考えたくないのだと。
(タイガにここにいてほしい)
 そう、思いを込めて抱きつく。
 そんなセラフィムにタイガの耳がぴくりと動いた。
 セラフィムの泣いている声が聞こえたような、いや、泣きそうな雰囲気に心が波打つ。
(俺の温もりがセラの元気になるなら……こんな悲しませる奴いるならムカつくけど……!)
 自然と尻尾が怒りに揺れつつも、ただ一つ、確かな気持ちを込めて寄り添う。
(世界が敵でも俺が許す。側にいるから)
 その気持ちはきっとセラフィムに伝わるだろう。
 抱きしめた腕に少し力がこもり、セラフィムが心の内で囁く。
(繰り返さないから)
 だから、今は。
 タイガはただ静かに受け入れ、雨音に耳を澄ますのだった。




 紫陽花を見に行こうといったのは、さてどちらだったか?
 ぱたた、ぱたた。
 葉っぱに水滴が跳ね返り、緑を揺らしながら落ちていくのを目にとめた後、視線を楽しげに雨の中を歩く己の精霊に。
 アキ・セイジは、大き目の傘をヴェルトール・ランスへと差し出す。
 傘を伝い落ち、ぽたんと水滴が水たまりへと落ちていく。
 ささやかながらも聞こえる音に耳がぴくりと動きながら、ヴェルトールは思う。
(小雨だし濡れて行くのも楽しいかなと思ったんだけど)
 アキが差し出す傘の中へとはいはいと、入って行く。
 そんな彼に伸ばされた白い指先が、髪を辿りそして肩へと滑らせる。
 ゆるりと視線を指先が辿るままに動かした後、口元に浮かんだのは笑みだった。
『大丈夫。風邪なんてひかねぇよ』
 水滴を払ってくれるアキへとそうメモで伝えれば、目の前にメモを差し出される。
『バカはひかないとか油断してたらダメ』
 じっと自分を見つめる視線を受け止めつつ、さらさらと此方も返信を。
『バカじゃないから引くぞ』
 前と矛盾したその一言に、その返答は傘が被せられることで貰って。
 尚更ダメじゃないか、とそんな声が聴こえそうだった。
 肩をすくめつつ共に歩くその両脇には美しい色合いの紫陽花たち。
 2人で同じ紫陽花を見て、微笑みを交わして。
 そんな風に歩きながら目に入ったのは休憩所だった。
 連れ立ち中に入った休憩所では水琴窟が、籠った音色が耳を楽しませてくれる。
『花の囁きが聞こえるようだ』
 伝い落ちる雫の音に耳を澄ませながらアキがそう書けば、ヴェルトールの口元に優しい笑みが浮かぶ。
(ふふ……セイジったら)
 茶化した書きいいのメモを見せられ、くすくす笑いながら小突きあう。
 この時間をもっと楽しもうと鞄から暖かい珈琲を取り出し差し出せば、ヴェルトールが書いていた手を止めて受け取る。
 感謝の気持ちを込めて微笑んだ後、書きあがったのを渡せばアキからくすくす笑いが毀れた。
『よし、笑ったな。俺の勝ち』
 いつの間に勝負になったんだ、というのに細かいことは気にするな! とじゃれあう2人を、「気持ちいいぜー」と声をあげる紫陽花が見守っていた。


 穏やかな時間を過ごした2人は、宿へと戻って来ていた。
 寒くなかったかと差し出されたタオルは2枚。
 お互いの差し出したタオルがぶつかり合い笑い合いながら交換して着替えて。
 そんな時間を過ごしていれば、やってきた山菜料理はとても美味しそうだった。
 鍋に天ぷらに、そして、お供に極上のお酒。
 それは今回のために選び抜かれたお酒だ。
 杯を交わして紫陽花に捧げた後、話しは紫陽花のこと。
『花言葉は移り気……最近では「家族団欒」という意味も出来たそうだよ』
 そう言いながら酒をちみちみと飲むアキへなるほど、と視線を動かした後、ヴェルトールが窓の外へと視線を移動した。
『俺は金色紫陽花とか見てみてぇかな。名付けて「金狼」ってのはどうだ』
 で、アキは? と伸ばした指先でアキの頬をゆっくりと辿った後に指先を窓へとやれば、アキが瞳を瞬く。
『俺? 白い紫陽花が一番好きだな。金色は出来たら凄いと思うよ』
 ふふっと笑みを浮かべた所で、雨音が強くなったようだ。
 ほんのわずか、不安で眉を寄せたのに気がついたヴェルトールが、微笑みを浮かべる。
 首を傾げたアキに伸ばされるのはヴェルトールの力強い腕だ。
(大丈夫だ。俺がちゃんといるから)
 ぎゅっと肩を抱き寄せられ、その身を委ねる。
 伝わる温もりに、ほっと力が抜けた。
 外の雨は止むことを知らず、屋根や紫陽花を強く叩いていく。
 それでも、と思う。
(ランスが力づけてくれるから、俺は……)
 この温もりがあるから怖くはないのだと瞳をそっと閉じるのだった。



 カイン・モーントズィッヒェルとイェルク・グリューンは、ティエンを連れて紫陽花を楽しんでいた。
(結婚の儀も終えたし、これは新婚旅行……)
 いや、一般的な挙式は……と、尻尾を揺らしながら頬を僅かに染めつつ思うイェルクに、隣を歩くカインが視線を寄こす。
 新婚旅行である2人は、一本の傘に寄り添いながら共に薄紅色の紫陽花をみていた。
 まるでイェルクの頬みたいだ、と思いながら雨合羽を着たティエンがそんな紫陽花の脇を通るのを目にとめて。
 カインはちゃんと言った通り鳴き声を上げないティエンに微笑みを浮かべた。
 交し合う視線だけでも、十二分にお互いの気持ちが伝わってくる。
(こういうのもたまにはいい)
 イェルクはそう思いティエンを追いかけて行こうか、と一歩踏み出す足を止めたのはカインからのキスのため。
 ぱっと赤くなる頬を指先で撫で上げた後、さぁ行こうとカインはイェルクと手を繋ぎ歩きだす。
 尻尾をふりふり紫陽花のにおいを楽しそうもうとするティエンは、そんなお父さんとお母さんの様子を背後に感じてこっそりと瞳を嬉しそうに細めるのだった。
 

 夜になり、しとしとからざぁざぁに雨の音が変わった頃。
 静かに『婚姻届』を書く2人の姿があった。
 イェルクの誕生日に出せるよう、そして、これがお互いの最後でありますよう。
 カインは書類を埋めていきながら思う。
 そしてそれはイェルクも同じ気持ちだ。
(『2回目』のカインが『3回目』など書かないよう私はあなたの傍で生き抜く)
 決意を込めてサインを終えれば、2人の思いの証が目の前に。
 家族になるための儀式をまた一つ終えて、視線が絡み合う。
 あまやかに微笑むイェルクに口付けを落とせば、そんな2人の気配を感じてティエンはぴくんと耳を動かしたものの、大人しく雨音を聴いているようで。
 ひょっとしたら昼の楽しい思い出を思い出してるのかもな、と書類を濡れないように大切にしまいこみながら思うのだった。
 それから2人は、買っておいた手紙を取り出す。
(こういうのはメールじゃない方がいい)
 互いの思いを書くのは手紙で。
 さらさらと書く文字は、お互いへの情が籠っていた。
『イェルだから、俺は救われたと思っているよ。ありがとう。末永くよろしくな』
 封筒にいれた手紙を交換し、開いてみればその中から情愛が溢れてくる。
 読み上げるその瞳が幸せで笑みの形に細められていく。
『私の時を動かすあなたの全てを愛しています。今後もよろしくお願いします』
 イェルクからの手紙の内容を目で追い、カインが口元に笑みを浮かべた。
 そんな彼に、暖かな温もりがよりかかる……勿論、イェルクだ。
 彼の腰に手を回し引き寄せれば、より密着して。
 ちらりとみたカインの視線の先ではお父さんとお母さんは今日もらぶらぶだぁ! と尻尾をふりふりするティエンは、すごく幸せそうに瞳を細めている。
(……あなたに愛されて幸せだ)
 きらきら、そわそわ。
 愛情いっぱいの2人をみながら、ティエンが口を開いた。
 わふん。
 声なき声で鳴けば、そろそろ眠たいの合図だろうか。
 カインは微笑み、一緒に眠ろうと声を掛ける。
(幸せな新婚旅行だな)
 一緒に眠るのは川の字で。
 勿論、ティエンを真ん中にしてだ。
 家族で川の字になって眠れば、きっと幸せな夢を見れるだろうから。
 一体どんな夢をみたのか……それは後のお楽しみに違いない。



 蒼崎 海十とフィン・ブラーシュは逸れたら大変だというフィンから伸ばした指先を絡めあい、紫陽花園を歩いていた。
 それは、会話が出来ないからというだけでなく。
(……会話出来ても手は繋いだと思うけど……ね)
 フィンはそう心の中で呟きながら、紫陽花というよりは、海十越しの紫陽花に視線をやる。
 海十といえば、その瞳に紫陽花を映しだしながらゆっくりと紫陽花を楽しんでいた。
 ぎゅっと強く絡まる指先に視線を落としつつ、会話をしないというのを守るのは難しいなと海十は思う。
 そんな絡まる指先越しに見えたのは、黒色の紫陽花。
 紫色が濃くなったものだろうか?
 小さく他の紫陽花に紛れ、どうやら1株だけのそれに気が付いたのは自分が視線を下に向けていたからだろう。
 別の場所を見るフィンにそれを教えようとして、一体どうすればいいのか悩んで、悩んで、悩んで……。
 袖をくいっと引っ張れば、気が付いたフィンがどうしたの? と視線で訴えかけてくる。
 絡み合った視線に、珍しい紫陽花がある。と思いを込めて視線を合わせ続ければ、じっと見つめていたフィンが視線を先ほどまで海十が見ていた方へと動かした。
(珍しい色……綺麗だね)
 そんな気持ちを込めて視線を海十へと戻し微笑めば、海十も視線を和ませ微笑んだ。
 通じ合った気持ちに、2人の胸に暖かな気持ちが沸き起こる。
 何を言いたいかは目を見ていればわかる……。
 それは、お互いを常に思いあっているからだろう。
 そんな心から信頼し愛し合える人と共に紫陽花を見て歩くのだった。


 宿について暫し後、食事のお供に取り出したのはお酒だった。
 驚いたように海十を見るフィンに微笑みを浮かべ、お酌をして……視線を絡ませ合えば伝わったようだ。
 フィンも微笑みを浮かべ一口。
 味わうように瞳を細める姿を見ながら、海十は思う。
 大きな戦いがあってフィンも疲れているだろう、だからこそ、今日は癒されて欲しいと思うのだ。
 彼のために選んだそのお酒を味わう姿を見詰めつつ、今日は会話出来なくてよかったかもしれないと思った。
 言葉で言えないからこそ、堂々と態度で示すことが出来るのだから。
(海十がお酌してくれるお酒は、世界で一番美味しいと思うんだ……お世辞じゃなくて)
 有り難く自分のために用意してくれたそのお酒を海十の気持ちと共に味わいながらフィンは、心の中で呟く。
 時折、絡みあう視線が無理ないペースでフィンのためにお酌をしてくれる。
 あぁ、それにしても、とフィンは思う。
(困ったな……感想や思いを笑顔だけで伝えるのって困難だ……全然伝わらない気がする)
 そんなフィンの手を引いたのは海十だった。
 終わった食事をその場に残し、彼が向かった場所は窓の方。
 ざぁざぁと聴こえる雨音は、昼に聞いたのよりもより強い。
 窓の外に咲く紫陽花たちも強い雨に少々揺れ動いていた。
 名前を呼ぶかわりにぎゅっと握った手。
 海十は視線を紫陽花に落としながらも何か言いたそうなフィンの掌をとり、指先で文字を書く。
『アイシテル』
 ぴくりと指先が震える。
 もどかしい思いをしていたフィンは、掌に書かれた言葉に不意を打たれた。
 気持ちが伝わっていたのだろうか。
 同じ文字を書けば、海十の指先も震える。
(伝わらないと思ってたのに……)
 視線をあげた海十の頬に手を伸ばしそっと温もりを味わうように撫でた後。
 引き寄せそっと合わせた唇に、全ての思いをのせて。
 唇を離し、ぎゅっと抱きしめれば海十の確かな温もりが伝わってくる。
(俺達の鼓動と雨音が重なって心地良いね)
 そうだね、というようにそっと海十の手が背中に回して。
 2人は互いの温もりを感じながら雨音に耳をすますのだった。


 夜の帳は降りて行く。
 雨音だけが響く夜を過ごしたウィンクルム達。
 彼らが帰路につくころ……ぱっと晴れた空に大きな虹が掛かるのをウィンクルム達は見ることになるだろう。
 また、いつか。
 そんな声が聴こえた気がした。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 如月修羅
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月15日
出発日 06月22日 00:00
予定納品日 07月02日

参加者

会議室

  • [10]蒼崎 海十

    2016/06/21-00:26 

  • [9]蒼崎 海十

    2016/06/20-00:34 

  • [8]蒼崎 海十

    2016/06/20-00:34 

    『俺達も、午後メインで和室に籠ってるかと思います。
    山菜が豊富な和食、美味しそうですよね…!

    良い一時となりますように』
    (さらさらっと紙に書いた)

  • (紙に書き書き)
    俺達諸事情で無理そう。
    夜、手紙書くのがメインなんで。

    皆いい時間になるといいよな。
    ちなみに、俺達はレカーロのティエン同伴なんで、わふわふしてるかもしれねぇ。

  • [6]アキ・セイジ

    2016/06/18-19:56 

  • [5]鳥飼

    2016/06/18-19:27 

    (ぽんと両手を合わせ、頷いてから紙に書きつける
    『僕達は午前メインの予定です。もしかすると午前だけになるかも?
     もしお会いした時はよろしくお願いしますね』

  • [4]セラフィム・ロイス

    2016/06/18-13:28 

    :タイガ
    (紙にマジックをきゅっきゅっと走らせ見せる。満面の笑み)
    『タイガとセラだ!楽しんでこうぜ!』

    『PS.交流可能らしいが諸事情でできるか怪しいな。挨拶してー気持ちもあるけど・・・ちなみに午後メインで部屋に篭ってる(窓は開け
    もし会ったらよろしくな!皆のも楽しみにしてる』

  • [1]鳥飼

    2016/06/18-10:35 


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