雨の日の特別(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 傘から水滴を振り落として、やっと玄関の中に入る。
 朝からA.R.O.A.に呼び出されて、一仕事してきたのだ。この間の調査依頼に関する質疑応答と事務処理だけだったけれど。
 それでも、雨の降る中、支部まで行って帰ってくるのは疲労を感じた。
 あなたはため息をつきながら自分の部屋まで突っ切っていくと、鞄をソファの上に放り出す。
 それからポットの前に置きっぱなしのマグカップを手に取り、インスタントコーヒーを入れかけて、やめた。
 戸棚の方まで行って、とっておきのフレーバーティを取り出す。ティーポットを使って丁寧にお茶を入れ始めた。
 お茶を蒸らしている間に、アロマディフューザーにとびきり高いローズのエッセンシャルオイルを入れる。たちまちただよってくる優雅な匂い。
 その匂いに浸りつつ、カーテンを開けると、五月雨の降りしきる町の風景が見えた。雨に霞む古い町並みは、なんだか絵画の中に迷い込んだよう。
 あなたはオーディオに向かうと、ラジオのチャンネルをいじる。すると一昔前の定番のラブソングが流れ始め、なんだか苦笑してしまった。そのラブソングが流行っていた頃の若くはじけていた自分の事を思い出す。
 そろそろいい具合になったフレーバーティを片手に、ラジオを聞きながら、古い町並みの方をぼんやりと見つめる。ローズの何とも言えないいい香りに包まれながら。
(そうだ、あいつはどうしているかな……)
 あなたはスマホを取り出して、相方へのメールを打ち込んでみた。2~3分して、返信があった。
 他愛ない今日の出来事を書き付けた後、相方は最後に一言。
--会える?
(どうしようかな……)
 あなたは会いたいとも会いたくないともつかないような、梅雨の空のようにはっきりしない返事をしてしまう。勿論、本音は会いたいんだけれど。
 それから、あなたはまた戸棚に向かって、とっておきのケーキを取り出してきた。向かいの手作りケーキ屋の抜群においしい味。
 今日のようなぱっとしない雨の日を特別に楽しいものにする演出。
 雨の日だけ使っていいフレーバーティ、アロマ、素敵なケーキ。あなたはそういう”雨の日の特別”の自分ルールで気持ちを盛り上げるように工夫しているのだ。
 スマホが鳴った。相方が会いたがっているメールを寄越したらしい……。
 さあ、今日は、相方とも、何か特別な事が起こるのかな?

解説

●雨の日の特別
 梅雨に入りました。うっとうしい雨が降る日、あなたと相方はどんなふうに過ごしているでしょうか?
 雨の日の特別なルールはあってもいいですし、なくてもOKです。
 雨の日にあえてお出かけするウィンクルム、あるいは雨の日はどっちかの自宅でまったりしているウィンクルム、雨の日についていないトラブルに出会ったウィンクルム……。
 皆様の様々なプランを読ませてください!
●とっておきのケーキを買ったので300Jr消費しました。ケーキはプランの中に書いても書かなくてもOKです!


ゲームマスターより

じめじめした梅雨にも負けない素敵なウィンクルムが見たいです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  ディエゴさんと買い物に行く予定でリビングで待っていたんですが
何かとても…具合悪いです
どこがとうというわけでもないですが、強いて言うなら頭が痛みます

素直に頭が痛いと言って、今日の予定はキャンセルしましょう
多分疲れが溜まっているだけでしょうから
心配はしなくても寝ていれば大丈夫ですよ…というわけで休みますね。
(言っている途中で目眩もしていたので声が掠れていたかもしれません)

あんなの逆にディエゴさんに心配かける言い方だったかも…でも理由もわからないのに煩わせる訳にもいかないですし…
考えると更に頭が痛くなってきました
少し寝ましょう。

少し時間がたつと、ふわっと何かが香って来て
目を開けると…


八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
  そーちゃんの家で受験勉強させてもらいに来た
語学・数学は大丈夫だと思うんだけど、他の教科はもっとしっかりやらないと
…とは思うけど、教えてもらう時体が密着して…嫌じゃないけど集中できないよ…
大学はそーちゃんの通っているところを受けるつもり
学部は違うけど、受かったらそーちゃんは先輩だね
先輩、よろしくお願いします
…え?何か言った?

休憩でケーキを食べる
頭を使うと糖分が欲しくなる
ありがとう、とても美味しい
閉じ込めるって、この部屋に?
そーちゃんはそんなことしないって、信じてるから
だって来年は一緒の大学に通うんだから、ずっと閉じこもってはいられないでしょ

食べ終わったら勉強再開
同じ所に通えるように頑張らなきゃ


メイアリーナ・ベルティス(フィオン・バルツァー)
  雨ですが…散歩に誘われました
雨の日はあまり外にでませんし
こうしてじっくりと雨の中を歩くのは初めてかもしれません

それは確かに……って、重要な事、とは…?
な、なるほど?確かに素敵な傘ですが…

まさかそれだけのために?とは失礼ながらも思ってしまったりしましたが
あんなに朗らかに笑われると私もその通りですねって気持ちになってきました
ちょっと?変わっている方ですが、素敵な感性をお持ちですよね
一緒に歩く相手に私を選んでくれた事、素直に嬉しいです

あ、雨ですから足元にもお気をつけて…
なんというか、惜しい方だなぁと…

雨の日のお出かけも楽しいですね
私も新しい傘、欲しくなってきました
白い傘…、いいですね。素敵です。


ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
  ※彼等は宿屋を拠点とし別々の部屋をとって暮らしています

エリオスさん!?
貴方が私の部屋を訪ねてくるなんて珍しいなって。
前から気になってたんですけど義理の娘って…!
え!?それは、その…いつかできたらいいなって思いますけど(赤面)
じゃあ私紅茶を淹れますね。

今まで考えたことありませんでした。
私はいつだって目の前のことに精一杯で…。
でもエミリオとの出会いは私の運命だったんだって思うんです。
憎しみが全部消えたわけじゃありません。
彼は理由もなく罪を犯すような人ではないから、私は真実を知りたいんです。
憎しみも愛しさも全部含めて彼を愛したい。
そして貴方の事も…もっと知りたい。
だって私の、『お父さん』ですから。


エリー・アッシェン(モル・グルーミー)
  住宅事情
ゴシック風の洋館に一人暮
鬱蒼とした庭あり

行動
自宅の玄関からベルの音が。
モルさんが、やたら饒舌に家に来るよう勧めてきます。
これは嫌な予感!
でも断るともっとヘソを曲げそうですね。

自分用の傘とケーキを持って、精霊の住処へ。
そういえばモルさん傘は?
びしょ濡れのようですが?

家の惨状を見せられ。
あー、そういうことでしたか。
いつも以上に嫌味ったらしいモルの態度が腑に落ちる。

かなり重度の雨漏りなので素人が直すのは大変そうです。
後で大工さんに見てもらいましょう。まずは修理費の見積もりですね。
今すぐ来てもらうのは無理なので、ケーキを食べてやり過ごしましょう。

何か?
モルさんが私を招待したのではありませんか。


●八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)編

 今日、八神伊万里は精霊の蒼龍・シンフェーアの家で受験勉強です。
 雨がしとしとと降る暗い天気ですが、伊万里が部屋にいるおかげで、蒼龍はすっかり上機嫌です。
「分からないところがあったら何でも教えるよ!」
 なんと言っても高校生の伊万里に対して蒼龍は大学生なのです。
 伊万里は頼もしそうに蒼龍を見上げます。
(語学・数学は大丈夫だと思うんだけど、他の教科はもっとしっかりやらないと。……とは思うけど、教えてもらう時体が密着して……嫌じゃないけど集中できないよ……)
 彼の部屋で伊万里はちょっと困ってしまいます。
 蒼龍は、最初は伊万里の向かい側に座って頬杖をつき、彼女が勉強するのを見つめていました。目が合うと満面の笑みを浮かべます。
 そして伊万里が質問する度に、彼女の後ろに回って背中から抱き締めるようにしながら、ノートを指差して教えてくれるのでした。背中から覆い被さるような感じにもなりますから安定は悪いのですが、伊万里は嫌がっていません。ですが、勉強するには密着しすぎの姿勢です。
「ところで志望大学とか決まってるの?」
  仲良く一緒に勉強しながら、ふと、蒼龍が聞きました。
「大学はそーちゃんの通っているところを受けるつもり」
 一生懸命、シャーペンを動かして問題を解きながら伊万里は答えます。
「僕が通ってる所?それじゃ来年からは一緒にキャンパスライフだね」
 とても嬉しそうに蒼龍は喜びました。
「学部は違うけど、受かったらそーちゃんは先輩だね。先輩、よろしくお願いします」
 喜色満面の蒼龍の気配に、伊万里も顔を綻ばせます。
「大学で悪い虫がつかないようにしなくちゃ」
 背後でぼそっと蒼龍は呟きました。
「……え? 何か言った?」
 伊万里にはよく聞こえていなかったようです。
「ううん、何でもないよ。そうだ! とっておきのケーキがあるんだ。ちょっと休憩して食べようよ」
 蒼龍は巧みに話題を転換しました。
 蒼龍は伊万里が訪問すると分かっていたので、あらかじめとっておきのケーキを買っておいたのです。
 伊万里は蒼龍と一緒に休憩でケーキを食べ始めました。頭を使うと糖分が欲しくなるものです。
「ありがとう、とても美味しい」
 伊万里は満足そうです。
「雨の日って空が見えないから好きじゃなかったけど、キミをこうして独り占めできるなら悪くないね。ねえ、このままここに閉じ込めたいって言ったらどうする?」
 本気か冗談か分からない調子で蒼龍がそう言いました。
「閉じ込めるって、この部屋に?」
 きょとんと目を瞬く伊万里に蒼龍は無言で頷きます。
「そーちゃんはそんなことしないって、信じてるから。だって来年は一緒の大学に通うんだから、ずっと閉じこもってはいられないでしょ」
 ごく普通の調子で伊万里はそう言って、ケーキのフォークをお皿に置きました。蒼龍はちょっと困ったような苦笑で、伊万里を見ています。
 ケーキを食べ終わった伊万里は勉強再開です。
「同じ所に通えるように頑張らなきゃ」
 真剣に勉強を続ける伊万里に対して、蒼龍は先程の困惑の苦笑で黙っています。確かに伊万里と一緒のキャンパスライフを送る事はとても幸せな事でしょう。でも、その反面、蒼龍は時々、本気で伊万里を独り占めしたくなるのです。伊万里がそれを望まない事は分かっているのに。
 伊万里をとびきり幸せにしてあげたい気持ちと、伊万里を自分だけのものにしたい気持ち。その狭間で蒼龍は迷います。
 結局、本当に見たいのは、てらいのない伊万里の笑顔なのですけどね。

●ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)編

 ある6月の雨の日、ミサ・フルールの部屋に精霊のエリオス・シュトルツが訪れました。
二人は宿屋を拠点として、別々の部屋を取って行動をしていたのです。ミサは、今日、エリオスが訪問するとは予想していませんでした。
「エリオスさん!?」
 ミサはびっくりしています。
「そんなに驚いてどうした?」
 ノーブルギャザリングから雨露を払い落としながら、エリオスは微笑みました。
「貴方が私の部屋を訪ねてくるなんて珍しいなって」
 はにかみながら彼を見上げるミサ。
「義理の娘の様子を気にかけるのは義父の務めだ」
 あっさりとそう答えるエリオス。
「前から気になってたんですけど義理の娘って……!」
「なら言わせてもらうが俺の息子と結婚する気はないと?」
「え!? それは、その……いつかできたらいいなって思いますけど」
 みるみるうちに真っ赤になってミサは狼狽えます。
「そんなに顔を赤くして、本当に……愛らしい」
 そう言った後、エリオスは、聞こえるか聞こえないかの声で(憎らしい)と口の中で呟きました。
「雨の日は部屋の中にいるに限る。今日はお前と話したい気分なんだ、俺に付き合え」
 エリオスはやや傲岸な口調でそう言いました。でも、口元は笑っています。
「じゃあ私紅茶を淹れますね」
 ミサは腹を立てる様子もなく、マカロンバレリーナの裾を翻してキッチンへと向かいました。その拍子にアスピラスィオンの香りが梅雨のこもった空気の中に広がり、エリオスはミサが若い娘である事を、強く印象に持ちました。
 やがてミサはテーブルに紅茶を用意しました。しばらくの間、二人は窓の外の梅雨の空を見ていました。
「ミサ、お前は今のA.R.O.Aの在り方についてどう思う? オーガはウィンクルムにしか倒せない。その為に奴等は神人と精霊を引き合わせ、愛を育めなどと言う。それに疑問を持ったことはないのか?」
 緩やかな調子でエリオスは語り始めました。
 ウィンクルムの愛でなければ、オーガは倒せないから。だから、A.R.O.A.は神人と精霊の愛を育てようとします。でもそれは、考えようによっては不純な動機であるのだし、何よりもミサとエミリオのような悲しいケースだってあるのです。
 ミサはぬるくなった紅茶を一口飲んでから、落ち着いて、ゆっくりと話しました。
「今まで考えたことありませんでした。私はいつだって目の前のことに精一杯で……。でもエミリオとの出会いは私の運命だったんだって思うんです」
 それはきっと、神様の決めた事なのだから、恨んでも憎んでも仕方ないのだと。
「ふん……随分と皮肉な運命だな。両親を殺した息子を憎いとは思わないのか?」
「憎しみが全部消えたわけじゃありません。彼は理由もなく罪を犯すような人ではないから、私は真実を知りたいんです。憎しみも愛しさも全部含めて彼を愛したい」
 愛したい。
 その決意が彼女の優しい顔に表れています。
 はっきりと言うミサに対して、エリオスは意外そうに目を見開きます。
「……傷つき裏切られても尚、愛するというのか。本当に忌々しいな……忌々しい」
 言葉とは裏腹に、エリオスの表情はとても悲しげでした。
「そして貴方の事も……もっと知りたい。だって私の、『お父さん』ですから」
 ミサは、憎しみを乗り越えようとしています。両親の死について、何かを隠しているエリオスとエミリオ。彼らの事を本当に知りたいのです。それは、憎しみだけではなくて、愛しているから。愛だから、知りたいのです。
 ほの暗い空にいくらかの明るさが差し込んで、さらさらと雨が地上に降りかかります。その淑やかな音の上に、エリオスの真実の言葉が放たれる事を、ミサは今は、そっと待ち続けるのでした。
 全ては憎しみを越えて、愛だけのために。

● ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)編

 6月のある雨の日の事です。
 ハロルドと精霊のディエゴ・ルナ・クィンテロは、その日、二人で買い物に出かける予定でした。
 ハロルドもそのつもりで、リビングで待っていたのですが。
(何かとても……具合悪いです)
 ハロルドは仕方なくソファに横になりました。出かけるつもりでいましたから、インナーウェアは振袖「花吹雪」でしたし、脚は馬の馬乗り袴。頭にはティアラ「スターダスト」と装っていたため、体を締め付けていたかもしれません。
 どこがとうというわけでもないですが、強いて言うなら頭が痛みます。
「すまん、支度に遅れた」
 そこに、ディエゴが部屋から出てきました。ディエゴの方は、神衣「タラサアミール」に飛翔・朱雀演舞。頭はホワイトストーン・ロゼッタです。
 すぐに、ハロルドの様子に気がつきます。体調がとても悪そうなのです。
 ハロルドは素直に頭が痛いと言って、今日の予定はキャンセルにする事にしました。ディエゴも無理を言うつもりはありません。
「多分疲れが溜まっているだけでしょうから、心配はしなくても寝ていれば大丈夫ですよ……というわけで休みますね」
 そう告げて、ハロルドは自分の部屋に向かおうとしました。言っている最中にも、目眩がして、声がかすれてしまいます。
「待て、本当になんでもないのか? 診てやるぞ」
 ディエゴが優しくそう言いましたが、ハロルドは自分の部屋に入ってしまいました。
(声は掠れていたが熱がある風でもなかった……天気のせいか?)
 天気が悪いと気圧や湿度の関係で具合が悪くなる人間がいます。ハロルドもそうなのかもしれません。
 ディエゴは思案する間、ハロルドは自分の部屋のベッドに横たわりました。
(あんなの逆にディエゴさんに心配かける言い方だったかも……でも理由もわからないのに煩わせる訳にもいかないですし……考えると更に頭が痛くなってきました。少し寝ましょう)
 一方、ディエゴは勿論ハロルドの事が心配です。
(大丈夫って言われて、はいそうですかと納得できるわけないだろ。……雑炊と氷枕でも作って持っていくか)
 ディエゴは色々とハロルドを看病する準備を始めました。
 ハロルドがベッドに潜り込んで少し経つと、ふわっと香りが広がってきました。ハロルドが薄く目を開けると、そこには心配そうに眉根を寄せたディエゴの顔がありました。
 ディエゴがいつもよりも静かな声で言います。
「まずはこれを食べて、痛み止めを飲め。そのままじゃ横になっても辛いだけだろう? 後でコーヒーも淹れてやるよ」
 ディエゴが温かい雑炊の鍋を差し出します。それに鎮痛剤も用意しています。
「これでよくなるのでしょうか……原因が分からなくて……」
 ディエゴの準備してくれた雑炊を食べながら、ハロルドはやや不安そうな事を言うのでした。
 それでもディエゴの好意は無駄にせず、ちゃんと食べましたし、鎮痛剤も水で飲み下しました。
「……そうか、具合悪い理由がわからないんだな。低気圧による頭痛だ、だからじっとしてるのは正解だ。寝付くまでそばにいるから安心しろ」
 薬を飲んで再びベッドに横たわったハロルドの額に手をやって、ディエゴはそっと目を閉じさせます。
 その愛情深い優しい手つきに、ハロルドは深い安堵を覚え、安心して眠りに落ちていきました。薬の効果もあってすんなりと眠る事が出来ます。
 しとしとと雨が屋根を濡らす音が聞こえる六月。窓から心地よく薄暗い光が差し込んで来ていて、空気はしっとりと柔らかく、二人を優しく包んでいます。その二人からも、優しい、心を許しあった空気が放たれていて、部屋の中はとても暖かな幸せを感じさせるのでした。

●エリー・アッシェン(モル・グルーミー)編

 ある六月の雨の日、エリー・アッシェンは、一人暮らしのゴシック風の洋館で寛いでいました。鬱蒼とした庭がしとしとと雨に濡らされているのを眺めるのも時にはいいものです。
 そのとき、玄関の呼び鈴が鳴ったので出てみると、そこには精霊のモル・グルーミーが一人立っています。
「御機嫌よう? 神人。このような雨の日は、特別に我の住まいに招いてやろうと思ってな」
 ちなみにモルの住宅事情は、エリーの洋館の庭敷地内にあるボロ小屋を借りて一人暮らしです。
 行動の理由は……。
(小屋の雨漏りがひどい。家中の盥や瓶で雨を受けても、まだ足りぬ。我一人で雨漏り小屋にいるのは嫌だ。母屋にいる神人にも、同じ苦痛を味わってもらう!)
 そういうことなのでした。
 エリーはやたらに饒舌に家に来るように勧めるモルに不信感を抱きます。
(これは嫌な予感! でも断るともっとヘソを曲げそうですね)
 そういう訳で、エリーはケーキと傘を持ってモルの家を訪問することにしたのでした。
「そういえばモルさん傘は? びしょ濡れのようですが?」
「…………」
 家の中で既に濡れているモルは、外に出ても傘を差そうと思っていないようです。
 そして二人はすぐに敷地内のモルの小屋へつきました。
「よくきてくれた。この雨の情緒に溢れる素晴らしい光景をぜひ神人にもご覧いただきたかったのだ」
 そう言い放ち、モルは雨漏りだらけの室内を見せつけました。
 ピチョーン……ピチョーン……
 タッタッタッタッタッ……
 ボロ小屋中、所狭しと食器やバケツが置かれ、その上に天井から滴る雨露が色々なリズムで落ちてきています。中には、食器も足りずに部屋の隅や玄関口の方は雨露したたり放題でしっかり床が濡れているのでした。モルはなにやら勝ち誇った笑みでエリーを見つめながらボロ小屋の中を見せつけるのです。
(あー、そういうことでしたか)
 エリーはその惨状を見せつけられて、いつも以上に嫌みったらしいモルの行動が腑に落ちます。
 エリーの方はゴシック風の洋館で優雅に暮らしていましたが、モルの方はこんな小屋の中で寝起きしていた訳ですから……。
 しかし、エリーはこれぐらいの事で衝撃を受ける女ではありませんでした。
「かなり重度の雨漏りなので素人が直すのは大変そうです。後で大工さんに見てもらいましょう。まずは修理費の見積もりですね」
 外見はネガティブでも中身はポジティブなエリーは即座にそう答えました。
(動じることなく現実的な解決方法を出されてしまった……)
 モルはこの反応は予想していなかったため、肩すかしを受けます。
「だ、大工の手配などは神人に任せても良いか?」
 ちょっとはエリーを困らせてやりたかったのかもしれません。
「今すぐ来てもらうのは無理なので、ケーキを食べてやり過ごしましょう」
 勿論、エリーはめげません。
 あっさりそう言って、エリーは雨の滴る室内に入ってテーブルの上にケーキの箱を置き、蓋を開けました。
「ケーキ? ここで食べる気か?」
 びっくりしたのはモルの方。
「何か? モルさんが私を招待したのではありませんか」
 実に全く動じない女、エリー・アッシェン。
 モルは反論できない苛立ちを感じながら、渋々紅茶や食器を用意したのでした。
 雨漏りで濡れて滴るボロ小屋の中、優雅にティーカップを傾けて、エリーはお気に入りのケーキでティータイムです。一緒にケーキを食べるモルの方は、背中を丸めて猫背になりながら、あまりおいしくなさそうに食べていますが……しっかり全部食べきった辺り、実はおいしかったのかもしれません。
 エリーとモルのわずかな友情は、結構長続きしそうです。

●メイアリーナ・ベルティス(フィオン・バルツァー)

 六月のある雨の日。
 メイアリーナ・ベルティスは、精霊のフィオン・バルツァーに散歩に誘い出されました。
 世間話をしつつ、公園などを、目的もなくふらふら歩き回ります。
(雨の日はあまり外にでませんし、こうしてじっくりと雨の中を歩くのは初めてかもしれません)
 メイアリーナは親密度が上がり始めた精霊に対して、まだ少し緊張した気持ちのまま、傘を差して隣で歩いています。
 二人きりで歩くのだと思って、メイアリーナは和装のフィオンに合わせて、インナーそよ風のブルームの上に紅月ノ浴衣を着ています。髪飾りは星空のヴェール、イヤリングは蒼天のダイヤモンド、指輪はフラワーリング、小物はプレゼント・ブーケとラッキー・ラヴマリッジと、季節感に合わせて一生懸命頑張った出で立ちです。
 それに、ガーリーな優しい色合いの傘を差して、フィオンと並んで歩いているのでした。
「雨の日の散歩もいいものだよ。どこも人がいなくて独り占めしている気分になれるし
雨の音やにおいも好きなんだ。心が落ち着くというか癒されるというか」
 フィオンはなかなか納得出来る事を言いながらメイアリーナを振り返ります。
「あとは一番は重要な事なんだけど」
「それは確かに……って、重要な事、とは……?」
「新しい傘を買ったんだ」
 フィオンはにこにこと笑いながら、和傘を少し傾けて見せました。
「な、なるほど? 確かに素敵な傘ですが……」
 メイアリーナは面食らってしまいます。
「綺麗な傘だろう? こんな傘をさして外を歩いたらきっと幸せになれるなと思って丁度都合よく雨が降ってきたからメイちゃんもぜひ幸せのおすそ分けを、と思ってね」
(まさかそれだけのために?)
 失礼ながらもそう思ってしまいます。傘を使うためだけにメイアリーナを雨の日の散歩に連れ出したのでしょうか。頑張って着飾ったメイアリーナは、色々と別の期待をしていたんですけれど。
 ですが、フィオンの方は混じりけのない笑顔そのもの。そんなに朗らかに笑われてしまうと、メイアリーナの方も
(その通りですね……)
 そんな気持ちになってきます。
(ちょっと? ……変わっている方ですが、素敵な感性をお持ちですよね。一緒に歩く相手に私を選んでくれた事、素直に嬉しいです)
 話しながら歩いていると、フィオンは水たまりに足を引っかけてバシャンと跳ねさせてしまいました。
「やっちゃった」
 口ではそう言いますが、楽しそうです。雨の日に無邪気にはしゃいでいる様子です。
「あ、雨ですから足元にもお気をつけて……」
 メイアリーナがすかさず声をかけます。フィオンは楽しんでいるけれど、服に泥水がかかった事は別にいいことではないのですから。
(なんというか、惜しい方だなぁ……)
 茶色の髪に青い瞳のフィオンは言葉遣いが丁寧で立ち居振る舞いもとても上品なのです。
 それに、顔も頭も悪くないのに、色々なところがちょっとずつズレているような気がします。
 でも、メイアリーナはそんな彼が嫌いではありません。
 だって二人はウィンクルム。神人と精霊なのですから。
「雨の日のお出かけも楽しいですね。私も新しい傘、欲しくなってきました」
「メイちゃんなら白い傘が似合いそう。うん、きっと似合う。その時にはまた散歩しよう」
「白い傘……、いいですね。素敵です」
 二人は他愛ない事を話しながら雨の中の散歩を続けます。
 雨の降る中、誰もいない公園。紫陽花の咲き乱れる、かたつむりの這う公園を、今だけは二人で独り占めです。世間話ではあるけれど、二人だけで気兼ねなく色々な話をし続けました。フィオンはメイアリーナの話も丁寧に聞いてくれました。
 独特の価値観を持つフィオンの事を、メイアリーナは少しずつ分かってきたのでした。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月12日
出発日 06月18日 00:00
予定納品日 06月28日

参加者

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