プロローグ
ウィンクルムは、人類がオーガに対抗するためにとても重要な存在である。
そんなウィンクルムではあるが、全員が戦いに慣れているわけではない。
顕現したばかりで戦闘経験が皆無だったり、性格的に争いを苦手としていたり、過酷な依頼で肉体や精神が弱っている者もいるだろう。
A.R.O.A.のロビー。
強化トレーニングの参加者を募集している張り紙があった。
山間にあるスポーツ施設を貸し切る形で、ウィンクルムの戦力強化訓練をおこなうらしい。
屋内のジムには、筋肉トレーニングに使う器具が揃っている。
体術用のサンドバッグあり。
野外グラウンド。ランニングに適したコースがある。
グラウンドの片隅には、遠距離攻撃用の的が設置されている。
敷地内には山林も含まれており、ここでも訓練をすることができる。
実際の依頼で自然の中で踏み入った時に、ここでの経験を活かすことができるだろう。
なお、オーガやデミ・オーガなどと遭遇する心配はない。
山林の一角には、巻藁が置かれている。
廃屋を利用した擬似市街地。視界を遮るように、人工物が規則的に並んでいる。
マントゥール教団相手など、対人戦を想定した訓練がしやすいエリアだ。
廃屋の内外には、デミ・ラットやデミ・ワイルドドッグを模したボロ布製のぬいぐるみがいたるところに隠されている。このぬいぐるみは戦闘訓練のために用意されたもので、破壊しても構わない。
必要ならば、殺傷能力のない練習用の武器も使うことができるようだ。
解説
A.R.O.A.資料
・訓練について
他のウィンクルムと合同で訓練するか、個別で訓練するかは自由。
訓練エリアは4つある。
ジムで筋肉トレーニングをした後、グラウンドで走りこみ、など複数の場所を使っても良い。
運動設備が充実した屋内ジム
整備された広い野外グラウンド
山林地帯
擬似市街地
・武器について
実際にバトルコーデで装備している武器とは別に、希望すれば殺傷能力のない模擬戦用の武器も利用可能。
・報酬について
トレーニング参加者には少額のジェールが報奨金として支払われる。
・目的
トレーニングによる戦力向上
ゲームマスターより
山内ヤトです!
アドベンチャーですが、今回はオーガや悪人は出てきません。
戦いに備えて訓練をするのが目的です。
プランには、主にトレーニング内容や訓練中の言動を書いてください。
休憩中の描写がトレーニングのシーンより多くなることはありません。
ウィンクルム同士で模擬戦をすることもできますが、相手への礼節や配慮を忘れないようお願いいたします。
また、模擬戦での勝敗がこのエピソードのMVP獲得に直結することはありません。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
ストレッチした後 野外グラウンドで体を温める為のジョギングをします 前に一人でトレーニングをしていた事がばれて ディエゴさんから共同で鍛えた方が良いと言われたので今度から二人でトレーニングすることにしました。 体が温まってきたらジムに戻ってスパーリングです 本気でやりますよ! 走っている時にもディエゴさんとの差を感じます 背丈の問題もありますが… 少しずつ彼が前に行くんです、ほんの少しの時間で彼はすぐに気づいてスピードを下げてくれるんですが なんだか悔しいような…。 スパーリング、頑張らなきゃ 私が戦闘でできることは、前線に出てディエゴさんの射撃を支援することだと思うから。 絶対に勝つ! |
シルキア・スー(クラウス)
野外グラウンド 入念準備運動 ペアストレッチ 背中伸ばしあっこ 背中押され屈伸あいたたー 指導されるがままにしてるけどなんか恥ずかしい格好… でも彼が真剣そのものなので考えない様に、うん 鍛えたいのは瞬発力かな 回避もそうだけど 挑発してアローに誘い込む戦法に役立つでしょ? ダッシュ 反復横跳び等 休憩促されたけど彼に付き合ってランニング 彼が涼しい顔でこなしてて精霊の身体能力に改めて感心 休憩に彼の特製スポドリ飲んで あー、準備全部任せちゃって…ありがと 提案に乗りイメトレ 人質や対人戦はホント気を使うよね 思いついた案を手当たり次第 …あ、もう頭働かない え、ホント?プリン食べたい 思ってたんだけどトレーニングウェア似合ってるね |
小鳥遊 光月(甲・アーダルブレヒト)
私はそもそも体力が無い。小さい頃から大人しく本を読んでいる子供だったし。 このままじゃ足手まといになっちゃうけれど、まず何をすればいいかな。 と思っていたら、甲さんにまず体力をつけろ、お前走れるのか? と聞かれたのでランニングコースを走り込む事にする。 目標は10周! 張り切って走り始めたけれど、1周しただけで息が上がって脇腹が痛い。やめたかったけれど少し離れたところで甲さんが遠隔攻撃の練習している。彼も真面目にやっているんだと思うと、私も簡単に投げ出せない。 時折、よろめきながら10周見事に走りきる。走り終わった途端に倒れそうになったら甲さんが冷たいポカリ持ってきてくれた。ありがとう。 |
メイアリーナ・ベルティス(フィオン・バルツァー)
実際に戦闘は、まだ怖かったので… 訓練から入れるのは助かります でも訓練といっても…何からすればいいのでしょう? フィオンさんなら戦闘中の役割が明白ですが… 神人は、私は何をすればいいのでしょうか? 答え出ないまま連れられ野外グラウンド 体力があって損はない、ですよね 走りこみ、頑張ります! では目標を決めて頑張ってみますね 準備運動をしっかりして走り込み 一緒に走るもすぐにペースに差 いえ、大丈夫ですっ 私は私のペースで頑張るので、お気になさらずに ふらふらになりながらもなんとか目標数終了 フィオンさんは…(きょろ 真剣な様子に声を掛けず見守る 私も、頑張らなきゃ…と拳をぎゅっと握り えっ いえ、それは…、いらないのでは…(引 |
ライリア・イリュシオン(エンデュミオン・オレスティス)
クリアレインを手に入れたので、効果と取り扱いを精霊から学び、実際に射る が、何度やっても当たらない 動かないものにすらあたらないのに、実戦であてることなんかできるでしょうか… 諭され、確かにそうだと頷く もう一度スタンスに入るところで後ろに精霊の気配 耳元の低い声がいつもの気だるげなものとは別人のように聞こえる 凛としたそれを聞くと、不思議と落ち着き、気持ちが引き締まる (的に集中、目はとじない 言われた通りに放つと矢は吸い込まれるように目標へ 振り仰ぎ あたりました…! 精霊に褒められることが嬉しい 自分でも役に立てるかもしれない 今度は自分ひとりでやってみます! 数度射たところで精霊の声 えっ、あの、エンディさん? |
●激闘スパーリング
専門知識に基づいたストレッチ方法で『ハロルド』は入念に体をほぐす。
「ふう、ストレッチ完了。次は、体を温める為のジョギングです。二人で、トレーニングしましょうね」
二人で、という部分を少し強調しながら『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』に声をかける。
以前ハロルドが一人でトレーニングしていた事がばれて、ディエゴから共同で鍛えた方が良いと言われたのだ。
さっそく野外グラウンドで走る。
(……ディエゴさんとの差を感じます)
一流スポーツ選手レベルの運動神経を持つハロルドには、この程度のジョギングは余裕だった。
それでも、自分とディエゴの間に力の差があるように思える。
(背丈の問題もありますが……少しずつ彼が前に行くんです)
しかしディエゴはすぐに気づいて走るスピードを下げてくれる。ディエゴの紳士的な気遣いなのだろう。
(なんだか悔しいような……)
少しだけ、ハロルドの心がもやりとする。
ストレッチもジョギングも準備運動だ。ジムでのスパーリングこそが、二人にとっての訓練のハイライトだ。
「本気でやりますよ!」
ハロルドの強い意気込みに、ディエゴも真剣に頷く。
「ああ。俺も本気でいく」
トレーニング施設から、グローブとヘッドギアを借りてきた。
それぞれの手のサイズに合うグローブをキュッと腕にはめた。
「では、いきます!」
スパーリング開始だ。
ハロルドは小刻みにステップを踏みながら、タイミングを見計らいジャブを放つ。
「ウィンクルムになった時に初歩的な護身術を教えたが、よくここまで上達したもんだ」
ハロルドの力の成長を打撃の手応えから感じ取り、褒め言葉をかけてくれるディエゴ。
(スパーリング、頑張らなきゃ……)
ディエゴから褒められても、今のハロルドは真剣そのものでスパーリングに打ち込む。
(私が戦闘でできることは、前線に出てディエゴさんの射撃を支援することだと思うから)
ディエゴのジョブは遠距離攻撃に特化したプレストガンナー。各種の上位トランスを修得したハロルドには、前線で戦うという選択肢が増えた。こうして体術を磨いておいて損はない。
「今日は動きが鈍く見えるな。考えすぎるな、考えるのは一瞬で良い。後は直感で動け」
アドバイスを飲み込み、力強く拳を振るう。
「はあっ!」
「なんだそのパンチは、止まって見えるぞ。オーガはお前を待ってはくれない」
厳しい言葉は、ウィンクルムとしての愛情の裏返しだ。
それまでガード主体で動いていたディエゴの目つきが鋭くなる。
「俺もいくぞ!」
ディエゴの気迫に怯むことなく、ハロルドはしっかりと構えながら気丈に言い放つ。
「絶対に勝つ!」
ハロルドがラッシュを仕掛ける。拳がぶつかる熱い音がする。
「直感で動けとは言ったが我武者羅に打つのは違う!」
ディエゴから反撃。グローブやヘッドギアがあるおかげで、本気の指導ができる。
「基本はサイドやバックをとって攻撃しろ。必ず相手の反撃可能範囲からずれてからだ」
(サイドやバックを……)
間合いを考慮し、有利な位置を見極める。
「それを考えずに行動に移せ!」
最初はどうしても考えながら動いてしまうのだが、ディエゴとのスパーリングを続けるうちに頭の理論ではなく体の感覚として動きが身についてきた。
「今日のトレーニング内容を省みよう」
ハードなメニューをこなしたので、二人共爽やかな汗をかいていた。
「気負いすぎてるな。向上心があるのは良いが焦りは禁物だ」
ディエゴは冷静にそう評価した後に、ハロルドにスポーツタオルと優しい言葉をかけてくれる。
「……お前が相棒で心強いよ。だから無理はしすぎないでほしい」
●諦めずにやり遂げる
『小鳥遊 光月』は、そもそも体力に自信がなかった。小さい頃から本が好きで、大人しい子供だった。
しかし神人に顕現した以上、襲ってくるオーガへの自衛手段として戦う力を身につけなければ危険である。
(このままじゃ足手まといになっちゃうけれど、まず何をすればいいかな……?)
「光月」
精霊の『甲・アーダルブレヒト』から名前を呼ばれて、振り返った。
「まず体力をつけろ、お前走れるのか?」
走る訓練は大事だ。走ることで基礎体力がつく。速く長く走れるようになれば、依頼でターゲットを追いかけたり、逆に危険から逃げるのに役立つだろう。
「あたし、ランニングコースの走り込みをするよ。目標は10周!」
走る前から張り切っている光月だった。
甲のジョブはシノビだ。シノビのジョブスキルは、手裏剣を装備した時に最も効果を発揮するものが多い。ジョブスキルを修得するにつれて、手裏剣を扱う機会がきっと多くなるだろう。
グランドの片隅に設置された遠距離攻撃用の的に向かって、甲の放った手裏剣が飛んでいく。
「……」
結果を確認して苦々しい顔になる。甲の紫色の眼光が、軽い苛立ちで鋭さを深めた。
的に当たった手裏剣は少ない。命中率はあまり芳しくない。
不調の原因に気づき、フーッと息をつく。
(この盾を装備しながらだと、どうも動きの精度が悪くなるな。防御の面では頼もしいんだが)
タワーシールド「ガーティアン」をコツコツと指で叩く。
ふと見れば、グラウンドのランニングコースでずっと走っている光月の姿が視界に映った。
(どうやら、俺に走れるのか? ……と聞かれた事を気にしているらしい)
見るからに疲れきった様子なのに、光月はその足を止めようとはしない。すぐにダウンするかと思っていたが、意外に粘ってのろのろとだが走り続けている。
(頑張れ、光月。俺も、一生懸命な光月に負けていられないな)
甲はそっと光月の姿を見守った後に、凛とした眼差しで的と手裏剣に意識を戻した。
まずは一番投げやすい方法で、納得がいくまで命中精度を上げていく。基礎が身についたところで、投げ方のバリエーションを増やしてまた練習。
手裏剣の技全てをマスターするのは一朝一夕にはいきそうにないが、コツコツ練習していけば、自ずとシノビの武器の投射にも長けてくるだろう。
「はあ、はあ……!」
張り切って走りはじめたものの、1周を終えた時点でもうすでに光月の息は上がっている。
「う……っ」
追い打ちをかけるように、脇腹に不快な鈍痛。
(……苦しい。痛い。疲れた……)
10周という目標はまだ遠い。リタイアしようかという誘惑が頭の中をちらつく。
(あ、きのえさん)
その時、遠距離攻撃練習のエリアで黙々と鍛錬に励む甲の姿が見えた。
へとへとだった光月の体に、不思議と力がわいてくる。
(彼も真面目にやっているんだ……。あたしも簡単に投げ出せない!)
何度もよろめいた。
疲労のあまり、足がもつれた。
思っていたよりもずっと時間がかかった。
それでも、光月は目標である10周を走り切った。
今の光月は体力を使い果たして、よれよれのへとへとでふらふらだ。
だが、やり遂げたのだ。
自分でたてた目標を見事に完遂した光月は、立派だ。
「10周。最後まで走り切ったな」
くたびれて倒れそうになったところを甲がスッと支える。
「ほら」
そして手渡されたのは冷たいスポーツドリンク。
「ありがとう」
笑いながら甲へお礼を言う。
「……!」
甲は、笑った光月の顔をしばらくの間見つめていたが、やがてふいっと視線をそらした。
まるで、照れ隠しのように。
●素朴な疑問
「実際に戦闘は、まだ怖かったので……訓練から入れるのは助かります」
『メイアリーナ・ベルティス』はホッとした表情を浮かべている。少々臆病な面もあるが、ウィンクルムの活動に対しては意欲的だ。
教会育ちの彼女は、ある日オーガと戦う自分のビジョンが見えて顕現した。彼女はこれを天啓であると受け止めている。
「そうだね、訓練頑張っていこうか」
パートナーの『フィオン・バルツァー』も張り切って訓練に臨む。
「でも訓練といっても……何からすればいいのでしょう?」
トレーニング施設をキョロキョロと見回し、途方に暮れたようにメイアリーナがつぶやく。
「フィオンさんなら戦闘中の役割が明白ですが……神人は、私は何をすればいいのでしょうか?」
フィオンのジョブはエンドウィザード。魔法の発動までには時間がかかるが、後衛から強力な攻撃を叩き込める。戦いにおけるポジションは非常にはっきりしている。
今メイアリーナが悩んでいるように、神人の動きは敵や依頼の内容によってまちまちだ。
「僕も実戦経験はないからわからないな。前で戦う……のは危ない気がするし、何だろう」
メイアリーナと一緒になって、フィオンも首を傾げて考える。
しばらく考えた後にフィオンがこう提案する。
「まあ、いっか。体力があって困ることはないし一緒に走り込みでもしようか」
「はい。体力があって損はない、ですよね。走りこみ、頑張ります!」
二人は野外グラウンドへと移動する。
柔軟運動をしていたフィオンが、つらそうな声を出した。
「あいたたっ!」
「……フィオンさん、ずいぶん体が硬いみたいですね」
準備体操を終えて、いよいよランニング。メイアリーナは目標を決めて走ることにした。
フィオンはさほど体力がある方ではないが、一般的に精霊の身体能力は普通の人間よりも優れている。メイアリーナよりも体力はあった。
二人一緒にスタートしたが、ペースの差があり離れてしまう。
走る速度を落としてフィオンがメイアリーナに並走する。
「どうするメイちゃん? 僕がペースを合わせた方が良いかな?」
「いえ、大丈夫ですっ。私は私のペースで頑張るので、お気になさらずに」
「わかった。それじゃお互い頑張ろうね」
それぞれのペースで、個人個人で走ることに。
先に目標を達成したのはフィオンだった。
久々に走ったせいで体のあちこちが痛くなったが、無事完走。
(ちょっと休憩……ん?)
グランドの片隅で座り込み休んでいると、遠距離攻撃用の的が目に入った。
チラッとメイアリーナの様子を見ると、走り終わるまでまだかかりそうだ。
マジックスタッフ「ダークブルー」を持ってきて、フィオンは魔法攻撃の練習をはじめる。
(魔法といえば……)
ふと思案事が頭に浮かぶ。
メイアリーナはふらふらになりながらも、自分で決めた目標をクリアした。
「フィオンさんは……?」
先に走り終えているはずのフィオンの姿を探す。
グラウンドの端にある遠距離攻撃の練習エリアで、彼を見つけた。気軽に声をかけれないほど、その横顔は真剣で……。
(私も、頑張らなきゃ……!)
拳をぎゅっと握り、メイアリーナはフィオンの練習を見守る。
「あ、お疲れ様」
メイアリーナの存在に気づいて、フィオンがこんな質問を投げかけてきた。
「詠唱したり魔法発動する時って決め台詞いるよね? 魔法だし」
「えっ」
フィオンはいたって真剣。
「どうしよう、いいのが思い浮かばないんだ」
「いえ、それは……、いらないのでは……」
天然マイペースにちょっとだけ引く。
と、フィオンはあることに気づいたようだ。
「そうえいば、僕達のインスパイアスペルも決めておかないとね」
●的確な指導
『ライリア・イリュシオン』は、鉱弓「クリアレイン」を使いこなせるようになりたいと思っていた。
「ほう。嬢ちゃん、なかなか良い武器を手に入れたな。そいつはルミノックスの鉱石があしらわれた特別な弓だ。敵の視界を一時的にくらませる閃光効果があるそうだ」
少々面倒くさそうな声だったが『エンデュミオン・オレスティス』は、「クリアレイン」の効果や特徴をライリアに教えてくれる。
「なるほど。実際に使ってみましょう」
グラウンドの一角に設けられた遠距離攻撃の練習場へ向かい、的を狙って矢を射る。
「……っ、また外してしまいました」
何度も挑戦したが、なかなか的に当てることができない。
「動かないものにすらあたらないのに、実戦であてることなんかできるでしょうか……」
落胆するライリアをエンデュミオンが諭す。
「何でも最初から完璧にできる奴はいない、上手く扱えなくて当然だ。だからこその訓練だ」
シビアな実戦と違い、トレーニング施設では安全に何度も失敗ができる。華麗な一発成功よりも、地道な失敗を重ねた末の成長こそが、訓練の成果と言える。
「今は焦らず、できることをひとつずつ増やしていけばいいさ。まずは当てること、だな」
エンデュミオンの言葉に、ライリアが頷く。
「確かにエンディさんの言う通りですね。私、もう少し練習を続けてみます」
ライリアが再び弓の構えに入るところで、後ろにエンデュミオンの気配を感じた。
「何にでもコツはあるもんだ」
エンデュミオンはライリアの背に周って、少し屈んで手を取った。
「背筋を伸ばせ……体は真っ直ぐだ」
耳元で聞こえる低い声は、普段のエンデュミオンの気怠げなものとは違っている。まるで別人のようだと感じた。
「ストリングを引く方にばかり気持ちが行ってる、弓を持つ左手もしっかり前に出してホールディングしろ」
凛とした声での助言を聞いていると、不思議とライリアの心は落ち着き、気持ちがキリッと引き締まる。
「よく的を見て、放つときに目を閉じないように……」
指摘されたポイントを意識して、ライリアは頭の中で復習する。
(的に集中、目はとじない)
エンデュミオンのアドバイスを受けてからも、ライリアは多少苦戦した。
けれども先程と比べて、弓の技術が向上しているという手応えはあった。エンデュミオンもライリアを見放したりせずに、辛抱強く練習に付き添う。
何度目かの挑戦で、ついにライリアの放った矢が吸い込まれるように目標に命中した。
小気味良い音を立てて、「クリアレイン」の矢が的に綺麗に突き刺さる。
ライリアの表情がパッと輝く。
「あたりました……!」
ずっと後ろで見守っていたエンデュミオンを振り仰ぐ。
「やったな、今の感じを忘れるなよ」
わしわし、とエンデュミオンに頭を撫でられる。
エンデュミオンに褒められたことが嬉しくて、ライリアははにかんだ照れ笑いを浮かべる。自分でも役に立てるかもしれないと思うと、俄然やる気が湧いてきた。
「今度は自分ひとりでやってみます!」
エンデュミオンは、ライリアの姿勢や体格をじっと見る。
(……んー、しかし背筋が弱いな、いや全身の筋力が足らんのか、これじゃスタミナも……どうしたもんか)
ライリアの体は鶏ガラのように細く、弱々しく未発達な印象だ。
(……飯、だな、まずは太らせるとこからだ)
エンデュミオンはそう結論を出す。肉体作りには、健康的な食事が必須だ。
「嬢ちゃん、飯行くぞー」
「えっ、あの、エンディさん?」
まだ練習を続けたそうなライリアの手からひょいと弓を取り上げて食事休憩に誘う。
軽く笑って、エンデュミオンはこう言った。
「腹が減っては何とやらだ」
●充実特訓メニュー
野外グラウンドで『シルキア・スー』と『クラウス』は準備運動中だ。
ペアストレッチの教本をトレーニング施設から借りてきて、クラウスは熱心に熟読する。
「準備運動は怪我を防ぐ上でも大切だ」
「はーい! う、屈伸あいたたー……」
背中を伸ばしあったりすると二人の体が密着する。
(指導されるがままにしてるけどなんか恥ずかしい格好……)
ちょっとどぎまぎしてしまうシルキアだが、あくまでもクラウスは真面目だ。不純な念などは一切抱いてなさそうだ。
(クラウスは真剣そのもの……。考えない様に、うん)
そんなシルキアの態度を見て、クラウスは彼女が準備運動の重要性を理解して集中したのだと解釈。爽やかな微笑みが浮かぶ。
準備運動を終えて、シルキアがトレーニングメニューを考える。
「鍛えたいのは瞬発力かな。回避もそうだけど、挑発してアローに誘い込む戦法に役立つでしょ?」
ライフビショップのシャイニングアローはカウンター技だ。敵の攻撃を受けることが、効果発動のトリガーとなる。
「挑発か……危険な事はして欲しくないものだが……」
クラウスは少し心配そうに腕組みをするが、最終的にはシルキアに同意した。
「ダッシュと反復横跳びで特訓するよ!」
「俺も同じメニューを」
力強く頷くシルキアに、クラウスも笑みがこぼれる。
(俺が動ければ問題は無い)
瞬発力トレーニングに二人で打ちこむ。
トレーニングが一区切りしたところで、クラウスがシルキアに休憩を促す。
「あれ? クラウスはまだ休まないの?」
「ああ。持久力もつけたい。俺は続けてランニングをするつもりだが……」
座って休んでいたシルキアが、勢い良く立ち上がる。
「それなら私も!」
二人でランニング開始。
(うー……けっこうキツイ!)
乱れる息を整えて、シルキアは一生懸命足を動かす。
クラウスはというと、涼しい顔でこなしている。精霊の身体能力の賜物だろう。
(改めて感心しちゃうな)
「シルキア。疲労の色が出ている、度が過ぎれば体を壊す。体調に気をつけろ。……そろそろ休憩をはさむか」
走るペースを徐々に下げながら、クラウスが休憩を打診する。
「気にするな、俺がしたいのだ」
優しい彼の、シルキアへの気遣いだった。
「あー、準備全部任せちゃって……ありがと」
休憩中のシルキアが飲んでいるのは、クラウスが用意した特製のスポーツドリンク。
適度に休息した後、クラウスがこんな提案をした。
「山林地帯や擬似市街地でのイメージトレーニングをしてみてはどうだろう?」
「それって良いアイディアだね。実際の依頼では何があるかわからないし、イメトレって大事かも。人質や対人戦はホント気を使うよね」
「ああ。様々な状況を想定しておくことで、いざという時の心構えができるはずだ」
山林エリアや市街地エリアをゆっくり歩きながら、クラウスが仮想の敵の位置や戦況を説明する。
そうして提示された仮想の状況を踏まえて、どうすれば良いか二人で作戦を語り合う。
とにかく思いついた案を手当たり次第に口に出していくシルキア。
「……あ、もう頭働かない」
ついにアイディアが尽きたシルキアを見て、クラウスがくすりと笑う。
「シルキアの発想は興味深い」
多彩なトレーニングメニューをこなした二人。
「後ほど、甘味屋へ寄り糖分を取るとしよう」
「え、ホント? プリン食べたい」
無邪気なシルキアの様子に、クラウスの口元にふっと笑みが浮かぶ。
「承知だ」
シルキアがまじまじとクラウスを見つめる。
「思ってたんだけどトレーニングウェア似合ってるね」
「え?」
ふいにかけられた褒め言葉に、ただ無防備に狼狽えるクラウスだった。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:ライリア・イリュシオン 呼び名:嬢ちゃん/ライル |
名前:エンデュミオン・オレスティス 呼び名:エンディさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 日常 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | ほんの少し |
リリース日 | 05月31日 |
出発日 | 06月07日 00:00 |
予定納品日 | 06月17日 |
参加者
- ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
- シルキア・スー(クラウス)
- 小鳥遊 光月(甲・アーダルブレヒト)
- メイアリーナ・ベルティス(フィオン・バルツァー)
- ライリア・イリュシオン(エンデュミオン・オレスティス)
会議室
-
2016/06/04-23:19
メイアリーナと申します。パートナーはフィオンさん。
どうぞよろしくお願いします。 -
2016/06/03-22:41
あー…エンデュミオンとライリアだ
俺たちはまだまだ駆け出しウィンクルムなんでな
ライリアにせめて身を守る術を覚えて欲しくて参加することにした
まあなんだ、よろしく頼むわ -
2016/06/03-20:39
-
2016/06/03-10:37
どうぞよろしくお願いします。
-
2016/06/03-00:18
こんばんは。低レベルの小鳥遊光月と精霊の甲・アーダルブレヒトです。
よろしくお願いします。
一緒にトレーニングとか初めてですけど……。がんばります。