【ギルティの復活】絶望的希望論(久部 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●絶望的害意感
 絶望とは、自己の腐敗である。
 けれど、『それ』には自己らしき自意識は存在しなかった。
 ただただ、ひたすらに溢れ絶望する憎悪。
 ただただ、ひたすらに暴れ蹂躙する害意。
 そこに幸福など在りはしない。
 このオーガに自己と呼べるほどの意識は存在しない。
 周囲に振りまくのは、唯一の憎悪という衝動。
 喉を掻きむしりたくなるほどの、強い衝動。
 自分自身が何者なのか。目の前にいるのが何者なのか。
 そもそもココはどこなのか。
 何か強い意志がこの先にいる。
 その意志は、自らよりもはるかに強く冒涜的な害意を持っている。
 ――行かなければならない。
 この狂おしい衝動が嘘にならない内に。この愛おしい害意が嘘にならない内に。
 この臓腑を焼く憎悪が自身を殺さない内に。
 『それ』はか細い身体をもって、村へと君臨した。

●希望的幸福論
「ウィンクルムの皆さん、至急の依頼です」
 A.R.O.A.の事務員が真剣な顔つきで現れる。
 顔色はどこか青ざめており、真剣なその表情もどこか無理して自分を律しているように見えた。
 彼は脅威について語る。
 温泉郷にほど近い村の付近に、一体のオーガが確認された。
 鳥類と酷似した頭部とやせ細った身体。
 それはヤグアートと呼ばれる種類であり、テンペストダンサーに似た攻撃を仕掛けてくると説明する。
 万が一そのオーガが村に入ってしまえば、暴力的な災害となる。
 腐敗した憎悪によって人々は無残な姿と成り果てることだろう。
 荒れ狂う害意によって村の大部分が破壊されるだろう。
 そのような事態を、見過ごすことは出来ない。
「今のところ、まだ被害は出ていませんが、至急村へ向かって下さい」
 安寧に生きる村の人々を危険にさらすわけにはいかない。
 ウィンクルムたちは一斉に席を立った。

解説

■成功条件
 ヤグアートを討伐すること

■ヤグアート
 鳥のような頭部を持ち、やせぎすの身体を持つオーガです。
 聴覚に優れ、素早い動きで相手を翻弄します。

■村
 ウィンクルムとオーガが同時に村に到着したところからスタートします。
 村への被害は成功条件に含まれませんが、後味に響くかもしれません。

ゲームマスターより

ご閲覧ありがとうございます、久部(キューブ)です。
今回は強力な敵、オーガの討伐です。
シンプルな依頼ですが、相手をよく見極めての行動をお勧めいたします。
村への被害も一考いただくと、より良いかもしれません。

それでは、最適な健闘を。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  噂で精霊が負の感情に支配され呪われることによってオーガに変質するって聞いたけど、もしかしてこの敵は・・・
敵の背後に何か大きな存在がいる気がしてならないよ、気を引き締めて挑まなきゃ!

村に到着次第トランス
精霊達が敵を引きつけている間に私は神人の皆やヒュリアスさんと協力して村人の避難誘導するよ
取り残された人がいないか念入りに確認しなきゃ

避難誘導完了後引きつけ組に合流
皆で敵の四方を囲む陣形をとるよ(前方に精霊、後方に神人)
神人の皆と一斉に爆竹で敵の動きを妨害するね
狙うのは敵の足!

依頼を受けた時からエミリオさん苛立ってる気がする、心配だよ
エミリオさん、自分を見失わないで
貴方は1人じゃないよ

☆持ち物
爆竹



篠宮潤(ヒュリアス)
  ●避難誘導
トランスは躊躇わず。

まだオーガは此方に来てないよっ
慌てないで、ゆっくり!森や林が近くにあるなら、そこへ隠れてて…
(オーガの意識が来ないようなるべく小声で。
 怯える子供へはミサさん達へバトンタッチ
 ↑説得や宥め等が得意で無い為)

●戦闘
(皆に合わせて爆竹投げる。直前)
ヒューリ!耳塞いでっ …大丈夫?ちゃんと聞こえるかいっ?
(四方囲む精霊たちの後ろで警戒中)
鍵爪がっ皆避けて…っ
少しでも注意力削って、精霊たちが攻撃当てやすいようにする…よ!
(時々オーガ頭部へ石投げたり)

●後
ヒューリ!皆っ、怪我は?!
村人たちは…良かった、無事みたい、だ。
家の破損は無さそう…?片づけくらいなら、僕も手伝うよっ


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  ■心境
怖い、けど。今の状況じゃ、一つでも依頼を片付けないと……。
音に反応しそうだから、静かに行動したいけど。避難しきれてない村人がいたら、大人しくしてくれるかな?

■行動
羞恥心を押し殺して、トランス状態になってから行動を開始。
他の皆と行動しつつ、近くの村人の避難誘導。
誘導が終わり次第、オーガの注意を引かないように、エミリオが提案した陣形のオーガ後方の位置に移動する。
合図で一斉に爆竹を使う際、少しでも近くに落としてオーガを怯ませる。無理はしない。
オーガが向かって来るなら、ホイッスルをめいっぱい吹いて、怯んだ隙に避ける。
避けれそうにないなら、オーガの太腿に剣を突き刺す。

■持ち物
爆竹、ホイッスル


ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  皆の立てた作戦通りに、爆竹を何個か持って現場に向かう。
まずは村人の避難誘導を行い、完了後にオーガと交戦中の精霊たちのもとに引き返す。彼らの動きを邪魔しないように気をつけつつ、他の神人たちと打ち合わせて、オーガの周囲に散り、四方から一斉に爆竹を投げつける。

以上が基本作戦で、それらが失敗した場合は状況に応じて行動するが、とにかく村人の避難、安全確保を最優先に。オーガが自分に向かってきた場合は、爆竹を使用し、逃亡する。



●或る絶望の物語
 ひりつくような絶望は飢えをもたらした。
 いかなる肉を喰んでも癒やされない。
 いかなる水を飲んでも癒やされない。
『それ』の苦渋は唸り声から発せられ、やがて空を切り裂く響きとなった。
 聞いた者のを射殺すような絶叫。
 嗚呼、そうだ。あれを壊そう。
 飢えた獣は視認した村を目掛けて、瞬時に痩躯を走らせていた。

●或る害意の物語
 ウィンクルムが到着した村は、簡素で素朴な場所だった。
 広さはさほど大きくなく、ひとつの集落に見えた。
 数件先には小さな畑や厩舎が見える。野菜を栽培しているようだ。
 鶏の鳴き声が聞こえてきた。牧歌的な印象が強いその村の南側から、ウィンクルムたちは村へと入った。
「みなさん! 早く避難してください!」
 ミサ・フルールが大きな声を張り上げる。
 この素朴な村に相応しくない、大きな声。
 けれどそれ以上に大きな害悪が、この場に現れている。
 そう、彼女の目には確かに写っていたのだ。
 村の北口に――倒すべき害意が近付いてきていることを。
「なんだなんだ?」
「どうしたの?」
「おい、あれはなんだ!?」
 ミサの声に気付き、村人たちは騒然とし始める。
「ここは危険です! 早くこちらに!」
 篠宮潤が、同様に避難を援護する。
 オーガの姿を見た村人たちは悲鳴をあげ、蜘蛛の子を散らすようにパニックになった。
 ある者は絹を裂くような悲鳴を上げ、ある者は逆に家にこもってしまった。
 しかし神人の丁寧な誘導によって、少しずつではあるが村人たちの混乱が収まっていた。
 子供は親に抱かせ、必ず離さないようにと言い聞かせた。
 老人は若者と必ず共にいることを注意した。
 そして、何があっても村の中へ出てこないこと。
 自分たちは大丈夫だから、必ず約束を護ること。
 それを言い含めて、村人たちを南の森へと避難させた。
 同時に、オーガがこちらに向かってきている。
「絆を繋ぎ、想いを紡ごう」
 ミサが、エミリオ・シュトルツに告げる。
「バイス・エル」
 潤が、ヒュリアスに囁く。
「カルミナ・ブラーナ」
 ガートルード・フレイムが、レオン・フラガラッハに言葉を灯す。
「誓いをここに」
 ひろのが、ルシエロ=ザガンに誓いを捧げる。
 4組のウィンクルムが同時にインスパイアスペルを唱える。
 羞恥に顔を覆いたくなる者、瞬時に気持ちを切り替えられる者。
 多種多様な反応を見せながらも、精霊たちに力を与える。
 すると精霊たちは一斉に飛び出し、オーガを取囲むべく地を蹴った。
 現状が理解しきれていないであろうオーガは、ひずむような、軋むような声をあげた。
 耳障りの悪いその音で精霊たちが一瞬怯む。
 その隙を逃さずに、オーガはレオンに向かって鉤爪を伸ばした。
 だが、一拍遅れて耳が回復したヒュリアスによって、攻撃は阻止される。
 ヒュリアスがそのまま鉤爪を狙わんと獲物を振るった。
 しかし、先ほどの不快音によって若干平衡感覚を失っていたらしい。
 攻撃は虚しく空を切り、また最初の陣形に戻ってしまう。
 村の北側の入口。
 四方を囲む形を取られ、それをまた補い囲むように神人たちが立っている。
 元より敵意などなかった。だから関係無かった。
 襲い掛かってくるなら殺す。
 襲いかかってこないなら殺す。
 そう、ただ、絶望しているだけだった。
「お前は何に絶望している? 何がお前をそうさせた!?」
 エミリオが叫ぶ。
 このオーガに、もしも言葉を認識出来るだけの頭脳や知識があるとすれば、
 彼はこう答えるだろう。
 ――生まれ堕ちたその瞬間、自身は自身に絶望した。
 他人など無関係に。他者からの干渉など無関係に。
 世界からの愛情など無関係に。
 ただ、絶望した。
 それだけだった。
「少なくとも、倒すべき相手ということに変わりはないだろう?」
 ガートルードが爆竹を手にする。
 それを見て、四方を囲む神人たちも同様に爆竹を準備した。
「ヒューリ! 耳塞いでっ!」
 潤の声に従い、ヒューリが耳をふさぐ。
 他の精霊たちもそれに気付いたが、反応できなかった。
 爆竹が投擲される。
 4つもの爆竹が四方から投げ入れられたことで、辺りは音の嵐となった。
「……大丈夫? ちゃんと聞こえるかいっ?」
「ああ、任せろ!」
 潤の言葉にヒュリアスが先手を取る。
 今の爆竹で敵の聴覚にダメージを与えることができたはず。
 少なくとも、数秒の麻痺は否めないだろう。
 それを狙っての作戦だった。
 しかし、その爆竹の音が激しく作用するのは、精霊自身にも言えること。
 それが振りかかることを案じていなかっため、他のものは一拍分の遅れを要した。
 数秒の遅れを取り精霊たちが立て続けに攻撃を仕掛けていく。
 ヒュリアスの後に続いたのは、エミリオだった。
 ダガーの切っ先がオーガへと掠る。
 この絶望しきったオーガに、並行世界の自分を見たから。
 もしも今のパートナーと出会えなかったら、狂っていたかもしれない。
 しかし、それも過去の闇。
 今は希望の象徴とも言える彼女に従い、歩いていけている。
 それの分かれ道が、彼に軽い親近感を与えていた。
「きゃああ! 何の音!?」
「何だ、今の音は!?」
 悲鳴が聞こえた。
 避難した村人たちがいる方向から、大きな悲鳴と怒号が聞こえた。
 先ほどの爆竹の大きな音によって、張り詰めていた緊張感がパニックを起こしたようだ。
「大丈夫! 今のはこちらの爆竹の音だから!」
 叫んでみたところで、村人の混乱は収まらない。
 ひろのが他の皆と目を併せて、頷くとすぐさま走りだして村人の援護に向かう。
 ミサもまたそれに続いた。
「それじゃ、ガーティーに続いて俺も行くぜ……!」
 レオンが追撃に入ろうと獲物を振り上げる。
 それは鉤爪によって防御されてしまったものの、押し切るべく両手に力を込めた。
 ギリ、と歯軋りに似た重い音がした後、振り切られてしまった。
 逆にカウンターとして返されてしまったものの、傷はまだ浅い。
 オーガと距離を取り、再び構えを戻した。
 そして、オーガのその聴覚をふるりと震わせるものがあった。
 ――たくさんの命が、そこに在る。
 命は、総じて刈り取らねばならない。
 絶望したオーガが向かおうとした先は、村人たちが避難した南の森だった。
「くそっ、逃がすか!」
 レオンがすぐに後を追おうとするが、素早い動きでなかなか狙いが定まらない。
 村人側にいるミサとひろのが、ふとそれに気付いた。
「きゃあ! オーガよ!」
「こっちに向かってきてる!」
「もう終わりだ!」
 村人たちが騒然とし始める。
 気付いたミサとひろのが村人を庇うように立ち塞がる。
 そして、ひろのが思い切りホイッスルを吹いた。
 一瞬の聴覚麻痺。
 それにより、刹那の間、平衡感覚を失った。
「ヒロノ、ナイスだ!」
 その一瞬で何とか追いついたルシエロが笑いながら言う。
 そして狙いをこちらに戻すべく、腿を狙って突き刺した。
「――――――ッ!」
 再びオーガがルシエロたち精霊の方に向かう。
 まずこの4つの命を殺さなければ。
 もしかすると、この4つの邪魔者を消すことで、絶望が緩和されるかもしれない。
 それはなんと素晴らしいことだろう。
 この喉を掻きむしり喘ぐ、腐った憎悪を減らすことが出来るだなんて。
 オーガの矛先は、完全に精霊たちへと向かっていった。

●或る憎悪の物語
 ミサとひろのが村人のケアに当たっている間、陣形は多少崩れていた。
 当初予定していた四方と八方の陣ではなくなったものの、問題はない。
「いくよ!」
 ガートルードが声をあげる。
 その瞬間、皆が一斉に爆竹をオーガに向かって投げつけた。
 最初の1回目にならい、ウィンクルムたちは耳をふさいだ。
 そしてその音は村の南側まで響いた。
「大丈夫だからね」
「怖くないよ、大丈夫」
 村人たちのケアも、ミサとひろのが行っているらしく、騒ぎ始める事態は無かった。
 だが、自己足り得ぬオーガにはその行動を行うことはできなかった。
 また同様に聴覚にダメージを帯びてしまう。
 その隙を縫うようにして、レオンが飛び出す。
 金髪をなびかせて一気に懐へ飛び込むと、剣がオーガの胸元を切り裂いた。
 赤が溢れ、地を濡らす。
 アイスブルーの美しい瞳に映り込む赤は、やはり鮮烈な血の色だった。
 しかし、それでも持ち前の素早さにより、反射的に自ら避けたのか傷は浅い。
 デミ・オーガのレベルをはるかに超越していることがわかる。
 そして返し際に、ルシエロがそれに続く。
 対するは痩せぎすのオーガ。その素早さを削ぐべくしてオーガの脚を狙った。
 精確かつ鋭利な一撃。
 太ももに一線、二線と亀裂を生じさせることに成功。
 オーガも痛みに足掻きカウンターを入れようと爪を大きく振る。
 だが、オーガが狙ったそこに、もう彼の姿は無かった。
 元よりヒット・アンド・アウェイを作戦に練り込んでいたルシエロに、その一撃は届かない。
 ルシエロは深い芳醇な真紅の瞳でそれを見やる。
「オレの顔に傷の一つでもつけたら、罪は重いぜ?」
 この状況において軽口を叩いてみせる。
 オーガに正確に伝わったのかはわからない。
 けれどそれによって、精霊たちの緊張は良い方向に緩和した。
「――――ッ!」
 続けざまに攻撃を受け、強力なオーガの身といえども疲労が蓄積されてくる。
 同時に、絶望に寄る飢餓が襲う。
 誰でもいい。誰でもいいから、殺さなければ。
 殺さなければ、恐らく自分は飢えて死ぬのだ。そうだ、そうに違いない。
 恐ろしい強迫観念に突き動かされ、オーガは無我夢中で両の鉤爪を振り回した。
「おっと、コチラだよ」
 ヒュリアスが爆竹を投げつける。
 ただ火のついていないそれは、相手の意識をこちらに向けるためのもの。
 イメージどおり、オーガは彼の方へと振り向いた。
 ここにも命がある。
 希望に溢れる命がある。
 自分はこんなにも絶望しているのに、なんて。ああ、なんて。
「盾役は任せていただこう」
 鉤爪ががむしゃらに攻撃を繰り返す中で、それらをヒュリアスがいなしていく。
 だが全ての攻撃をいなすことは、デミ・オーガならばともかく、オーガ相手には難しい。
 一度だけ大きく振るわれた爪の一撃がヒュリアスの胴を抉るように掠った。
 衝撃とともに跳ね上がり、地面を削りながら態勢を立て直す。
 しかし、自らを盾とした功績は大きかった。
 予め伝わせていた蔓がカウンターとなり、敵の血を贄とし薔薇の大輪を咲かせる。
 その美しい薔薇を見て、血の筋を口元から垂らしながら彼は笑んだ。
 こんな無様は姿は、ウルには見せられないな。
 そう感じて、クス、と笑った。
「みんな、耳を塞いで!」
 途端、また爆竹が投げつけられる。
 奇形の悲鳴をあげて、オーガが暴れ出す。
 何処に何が、何が何処に、誰が何処にいるのかさえ判別出来ずに狂いだす。
 特化したはずの聴覚を立て続けに封じられることに、強いプレッシャーとストレスを感じていた。 
 そこにエミリオが滑り込む。
 聴覚からの混乱が生じているオーガに対して、エミリオの短剣は容易にその身を傷つけた。
 狙いを定めたのは足の腱。回転の遠心力にて加速する一閃、二閃、そして三閃。
 ばつん、とゴムを割るような音が辺りに響いた。
 ……エミリオは生まれた時から、その存在を拒絶された過去を思い出す。
 夢も希望も、全てをないがしろに、置き去りにされたその過去。
 思い出せば心の古い傷がじくじくと痛む。
 だが、自分には、光を与えてくれる相手がいる。
 絶望のあまり暴走するオーガの姿を見て、それは余りにも滑稽な平行だった。
「これで、終わりだ」
 オーガの胸に、最後の剣を突き立てた。


●或る希望の物語
「エミリオさん、大丈夫?」
 オーガを倒し村人の最終的なケアをしている最中。
 ミサは村の隅にいたエミリオに話しかけた。
「……嗚呼」
 彼は目を合わせることもなく、それだけを話した。
 ミサがそっと顔を覗き込む。
 エミリオがそれに気づくと、ふい、と違う方向を見られてしまった。
「何だか、依頼を受けてからずっと、苛立ってるみたいだったから」
 視線を合わせることを諦めたミサは、同じ壁の隣に背を預けてそう語る。
 エミリオは何も言わない。
 隣にいることに、共にあることに、何も言わない。
「貴方は1人じゃないよ」
 ミサが言葉を発したとき、エミリオの瞳がゆらりと揺れた。
 その感情が何だったのかは、わからない。
 けれど、そこにいる1人の少女と1人の青年は、1人ではない。
 2人でならば、どんな困難も越えていけるだろう。

「ヒューリ、お疲れさま」
 潤がヒュリアスに紙コップを渡す。
 村人たちがせめてものお礼にと、小さなパーティーを開いてくれていた。
 ジュースやアルコール、持ち寄ったお菓子がメインの、ささやかなティーパーティーだ。
「今回の依頼は耳が痛いな、文字通り」
 潤からコップを受け取りながら、ヒュリアスは苦笑した。
 元より獣人である彼は聴覚が人よりも若干優れている。
 今回の作戦はその聴覚を奪う目的で設定されていたため、彼にとっては正に耳の痛いものだった。
「でも、あの状況で盾になるなんて、危ないよっ」
「そうかね。与えられた役割を全うしただけだが」
 ヒュリアスは本来の意味で『耳が痛い』とばかりに、わざとらしく耳をふさぐ。
「君たちを信じていた。だからこそ出来た所業だよ」
 そこにはかすかな、しかし確かな信頼が生まれていた。

「あ、君カワイイねぇ。どう、俺と一緒にアルコールでも……」
「レオン。今回くらい少しは控えろ」
「えっ、いや、あ……っ。あーもう逃げられちゃったじゃないか、ガーティー」
「当たり前だ」
 村の厚意で催されている宴会。
 そこでもナンパを欠かさない相棒を見て、ガートルードは溜息を吐く。
 彼女の鋭くも思える深い赤の瞳に射抜かれれば、ナンパされていた女性も身を引くというもの。
 むしろその知的で冷静な雰囲気が、女性を射抜かんばかりの鋭さだ。
 そんな彼女を見て、レオンはにやにやと笑う。
「何だ、ニヤニヤと」
「えー? 嫉妬したんじゃないの?」
「馬鹿か!」
 ガートルードは自分自身の相棒を、思い切り叩いていた。

「ヒロノ、大丈夫か?」
「え? 何が?」
 手元のオレンジジュースが半分になった頃、ひろのにルシエロが話しかけてきた。
 ルシエロは少し言いづらそうに、どこか恥ずかしそうにも見える態度だ。
 あー、だの、うー、だの形成されない言葉を繰り返している。
「何が大丈夫なの?」
「だから……っ」
 彼は自分が持っていたジュースを一気に飲み干すと、勢いづけて告げた。
「オマエ、大きい音とか苦手だろうが」
「えっ」
 確かに、ひろのは大きな音や高い音を聞くと萎縮してしまう。
 それを、今回は作戦のために強行したのだ。
 たった1人の我慢。
 それがこの戦いを勝利へと導いた。
 そのことを知っているのは自分だけだと思っていた。
 そして、それを表に出す気もなかった。
 だが、彼はそれを良しとせずこうして気を使ってくれている。
「ありがと、大丈夫だよ」

 こうして、ひとつの事件が終わりを告げた。
 ウィンクルムたちの協力により、村への被害は全く無かった。
 村人たちへの適切な配慮と、音に過敏な相手を逆手に取った策。
 神人と精霊の信頼関係と陣取りもまた、大きく成功に貢献した。
 今後もまだ事件は絶えないだろう。
 それでも、ウィンクルムがいる限り。
 世界は、まだまだ終わらない。



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 皆瀬七々海  )


エピソード情報

マスター 久部
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 通常
リリース日 05月06日
出発日 05月12日 00:00
予定納品日 05月22日

参加者

会議室

  • >潤さん
    ぇ、そのレベルでもそういうものなのか?<言うこと聞かない
    ウィンクルム道とは実に険しいものなのだな…(衝撃を受けた様子だ)

    >ひろのさん、ミサさん
    了解。では、レオンにも爆竹を持ってもらうよ。

    >ひろのさん
    ホイッスルはいいアイデアだと思う。神人に危機が迫っていることが離れた精霊にもわかるものな。
    トランスはしてないとオーガに対抗できない、のだよな…?(マニュアル棒読み)
    だったら最初にしておかないと…(こっちも相方を見た。なんか妙にキラキラした目と目が合った。思わず視線をそらした)

    と、現時点の流れでプラン提出しておいたが、また変更があれば手直しするよ。

  • [23]ひろの

    2014/05/10-22:12 

    >大きな音

    (首を小さく振る)
    苦手なだけで、我慢できるから。大丈夫です。

    あの。
    トランスは、最初にしてから。
    オーガに向かって貰った方が、いいですか……?(そろりと、ルシエロを見上げる)

  • [22]ミサ・フルール

    2014/05/10-21:31 

    エミリオ:
    っ!?ゴホッ、ゴホッ(飲んでいた紅茶でむせる)
    作戦参謀だなんてとんでもない。
    俺なんてまだまだだよ、詰めの甘いところがあるし。
    でも作戦、特に陣形や仲間との連携を考えるのが好きだから、そう言ってくれて嬉しく思う。
    有り難う、潤。

    >爆竹

    ミサ:
    うん、私もエミリオさんに爆竹持ってもらうつもりだよ。
    精霊一斉攻撃の時までにスキル温存しなきゃだから、
    敵を引きつける時に使ってもらおうと思って。

    耳がいい人や大きな音が苦手な人は耳栓を用意するのもいいかもね。
    そういえばひろのちゃん、大きい音が苦手なんだね(プロフィール用紙を見つつ)気づくの遅くてごめんね。

    敵の注意点も了解だよ

  • [21]ひろの

    2014/05/10-16:01 

    連投失礼します。

    今、思いついたんですけど。
    ホイッスルでも、持っていこうかと思います……。

    思いっきり吹いてみようかと。
    私、回避も防御も低いので。
    オーガが向かってきたときに、ですね。少しでも対策したくて。

    耳がいい人は、……心構えだけでもしていてください。

  • [20]ひろの

    2014/05/10-15:52 

    精霊にも爆竹を持って貰った方が、たぶんいいと思います。
    オーガが、大技使いそうになったときとか、何かしそうになったときとか。
    爆竹で怯ませることができれば、時間を稼いだり、行動を止めれます。

    あくまで、念のためってことで。
    持たせた方がいいかと……。

  • [19]篠宮潤

    2014/05/10-14:53 

    ミサさん、エミリオさんが他の任務でも思ったけど
    作戦参謀みたいだよね…(笑)本当に組立が上手だ。

    ガートルード、さん…僕の精霊も僕の言うことなんて
    ろくに聞かないから、大丈夫だよ…。もう、戦ってくれさえすれば文句はない、よ…
    (全く大丈夫で無いことを遠い目で)

    ひろのさん、了解だ。
    かなり速い攻撃のようだし、ね…僕たちも油断せず、精霊の援護に回ろう。

  • さすが先輩方、作戦考案も組み立ても早い…!
    包囲作戦、了解。と、なると、この作戦なら精霊には爆竹はいらないかな?
    それとも、念のため精霊にも爆竹を持たせようか。

    先輩方と違ってレオンがちゃんと言うこと聞いてくれるか不安なんだが(ジト目で連れを見た)
    まあ、「人の命のかかる場面」だから大丈夫、かな…。
    「アプローチ」が使えれば役に立ちそうな場面だが、未習得だしな(とほほ)。

    手数が多そうなのも了解。
    連れは職業柄生傷には慣れているはずなので大丈夫だと思う。(気安く請け負った)

  • [17]ひろの

    2014/05/10-00:09 

    連投失礼します。

    近接主体っていうのは、味方側の方です。
    オーガはテンペストダンサーに似た攻撃ってことなので、手数が多そうです。
    最初に牽制するときは、えと、注意してください。

  • [15]ひろの

    2014/05/10-00:01 

    うん、大体わかって来ました。
    まずは、避難誘導。ですね。

    後。
    動きが素早いことと、鳥の頭部ってことから。
    敵の攻撃に「突く」と、「蹴り」があると思います。
    他にどんな攻撃をしてくるかわからないけど。
    基本的に近接主体のようなので、太ももを攻撃した直後は上からの「突く」に注意した方がよさそうです。

  • [14]ミサ・フルール

    2014/05/09-23:50 

    うん、そんな感じ!
    潤さん、まとめてくれて どうもありがとう。

  • [13]篠宮潤

    2014/05/09-23:31 

    連投失礼するよ…っ
    そうしたら、今のところ

    村人の避難誘導:神人全員+ヒュリアス
    オーガ引き付け:エミリオ、ルシエロ、レオン

    避難誘導完了次第、エミリオさんの陣形で、オーガ包囲。
    四方後方から神人による爆竹後、一斉攻撃、
    狙うは、足(ももの辺り)。で、動きがだいぶ鈍くなったところを一気に。

    という感じ……の解釈で合ってる…かな…

  • [12]篠宮潤

    2014/05/09-23:26 

    潤:
     わ、ぁ…っ エミリオさん、とても分かりやすい図をありがとう…!
     僕はこの陣形、良いと思うよっ

    ヒュリアス:
     ふむ。村人が避難するまで、俺は村人と神人たちの護衛というわけだろうかね。
     構わんよ。村人たちがパニックにならんよう、上手い言い回しで逃がすのは神人たちに任せるがね。
     (↑優しい物言いが出来ない為)

     気遣い感謝する、ミサ嬢。
     不意打ちで突如鳴らされん限りは、構えていれば大丈夫だとは思うが。
     何分、未知なのでな…まぁ、何とかしよう。

  • [11]ミサ・フルール

    2014/05/09-23:11 

    エミリオ:
    下の陣形や戦法は皆の意見を元に俺なりに考えてみた。

    他の意見や不明な点、ツッコミどころがあったら遠慮せず言ってほしい。
    長々と失礼したね、すまない(軽く頭を下げる)

  • [10]ミサ・フルール

    2014/05/09-22:42 

    エミリオ:
    横から失礼するよ。

    俺が考えた陣形を図で表すとこんな感じ。
    見る端末によって記号がずれてないといいけど・・・。

    『陣形案』

    ●:敵 ☆:精霊 ★:神人

    ★ ☆ ★
     ☆●☆
      ☆
    ★   ★

    四方を固める陣形を考えた。

    1:神人が一斉に爆竹を投げる
    2:敵が怯んだ隙に精霊が総攻撃

    せっかくこれだけ接近戦タイプが揃ったんだ。
    敵がどこかに行こうなんてスキを与えず一気に叩ければと思って。温存していた『アルペジオⅡ』もここで全力で叩き込みたいと思ってるよ。

  • [9]ミサ・フルール

    2014/05/09-22:16 

    エミリオさん、ヤグアートに強い敵対心を抱いているみたいで全力で引きつけてくれると思うけど、ガートルードさんが言った通り、万が一ってこともあるもんね。精霊と神人両方が爆竹を持つのも賛成!

    ヒュリアスさん、もしよかったら私達神人の避難誘導に同行してくれませんか?
    前の任務のように、もしもの時はスキルで援護していただきたいんです。

    あと『爆竹』ついてなんですけど、ヒュリアスさん、爆竹の音、大丈夫ですか?
    ヒュリアスさんは狼のテイルスだから聴覚がいいと思って心配になって・・・。

    避難誘導が完了して仲間全員が合流した時に、エミリオさんが何か陣形と戦法を考えたみたい。
    エミリオさんに交代するね。

    (続きます)

  • (連投済まない)
    1.については、基本的には一斉にかかるほうがいいとは思うが、
    万一精霊たちが敵を引きつけるのに失敗して、村人のほうに向かっていった場合、神人だけで守り切れるだろうかという不安もある。
    4人というのがむつかしい。(苦笑)もっと大人数なら分散→挟み撃ちを推したいところだが。

    2.については、投擲が向いていそうな精霊が行うか、避難誘導を終えた神人が背後から行うか。
    神人も精霊も爆竹を持って行って、状況に応じて使うのがいいとは思うが…
    敵が素直に精霊と戦ってくれているなら、背後から神人が爆竹。
    それ以外の動き、たとえば敵が村人のほうに行きそうなら、逆に背後から精霊が投げつける隙ができるかな。

  • ご挨拶が遅くなって済まない。ガートルード・フレイムと、連れはロイヤルナイトのレオンだ。
    ウィンクルムとしては初陣なので、どの程度役に立つかわからないのだが…ひろのさんミサさん潤さん、どうかよろしく(ぺこり)。

    すると今のところ、作戦としては、
    ・精霊が敵を引き付け、神人が村人を避難誘導させる
    ・爆竹を投げて敵の動きを鈍くさせる

    で、いいのかな。

    それで、問題点としては、
    1.引きつけ役は精霊全員か、それとも分散して避難誘導役にも精霊を入れるか
    2.爆竹を投げる役とタイミング

  • [6]ひろの

    2014/05/09-10:21 

    連投すみません。

    一斉に爆竹。それもありですよね。
    篠宮さんの言うように、最初は精霊に村の外まで誘導して貰うのがいいかな。
    上手く後ろから爆竹を投げれたら、精霊さん達が攻撃する隙ができます。

  • [5]ひろの

    2014/05/09-10:16 

    あ、紹介が遅れました。
    パートナーはテンペストダンサーのルシエロ=ザガンです。
    Lvが低いから、支給された防具がまだ装備できなくて防御力がちょっと……。

    爆竹……。
    ならなるべく敵の近くで破裂させたいです。
    投擲か、足の速い人に破裂させて貰いましょう。
    エミリオさんが、足も速いし命中も高いので最初、お願いしたいです。

    爆竹はいくつか持っていって、隙を見て近くで破裂、鈍ったところで攻撃ですね。
    動き回られると厄介なので、脚……特に太ももあたりを最初は集中して狙いたいです。
    痩せてるってことは、防御力は比較的低いかと。
    太ももならまだ当て易いし、防御が低いなら早々に動きを鈍らせることができます。

  • [4]篠宮潤

    2014/05/09-10:08 

    連投ごめん、言ってから気づいたよ…;;

    精霊全員で引き付けてもらって、神人全員で避難誘導、がいいの……かなっ。
    あまり少人数でばらけない方が…いい、よね…

    避難誘導を終えたら、精霊たちに注意を引き付けてもらって
    オーガの背後から僕たち皆で一斉に爆竹を投げる、とかかな……?

  • [3]篠宮潤

    2014/05/09-08:08 

    篠宮 潤というよ。シンクロサモナーのヒュリアスと一緒に任務参戦させてもらうよ。
    どうぞよろしくだ。
    あ、ミサさんにエミリオさん(嬉しそうに)
    心強いよ、また宜しく。

    そうしたら……囮で引き付け役は、僕たち、かな……
    エミリオさんの強力そうなジョブスキルは、オーガにトドメを刺す時までに
    とっておいてもらいたい気も、する、し…

    もう一人くらい、防御力のありそうな精霊さんにも
    手伝ってもらえたらなとも思う、けど、無理はしない方向で。
    僕の精霊、MPが残念、なので……長くは持たないかも、なので…(ぼそ)

  • [2]ミサ・フルール

    2014/05/09-07:32 

    ミサ・フルールです(ぺこり)
    相方のエミリオさんはテンペストダンサーです。
    初めましての方は初めまして!
    潤さんは今回もよろしくお願いします~(微笑み)

    戦闘は村の外でしたいな。
    精霊が敵を引きつけている間に私は村人の避難誘導しようと思ってるよ。

    敵は聴覚がいいみたいだから『爆竹』で動きを妨害できないかなと考えたんだけど、どうかな?

  • [1]ひろの

    2014/05/09-07:24 

    ひろのです。よろしくお願いします。

    村に着くのが同時なら、村人がまだ避難できていないかも知れません。
    敵の耳がいいなら、なにかの拍子に村人が近くにいれば襲われるかも知れません。

    動きも速いようですが。
    牽制できるなら、最初は牽制して。
    誰かが抑えてる間に、近くにいる村人を避難させたいです。
    このとき、オーガを村から少しでも遠ざけることができれば、更にいいと思います。

    オーガの機動力をまず、殺ぎたいところです。
    動きが鈍くなれば、攻撃も当てやすくなります。
    敵の耳がいいのを利用して、音波攻撃できるような道具があれば使いたいです。
    一時的に動きが鈍くなるかも知れません。


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