プロローグ
「ストレスが溜まっているわね」
A.R.O.A.本部のとある一室。
不定期に任意の部署で行われる健康診断で、唐突にそんなことを言われてしまった。
「いや、でも別に自覚は……」
「無自覚なのが一番危ないのよ!」
ビシッ! と人差し指を突き付けてきたのは、部署内でもちょっとばかり名の知れた癖のある女性職員だ。
一応カウンセラー等の肩書きは持ち合わせているらしいのだが、発言内容にはどこか胡散臭さが否めない。
今回もそんな悪い癖の一幕だった。
「休養……いえ、癒しが必要ね」
「癒し」
「例えば、パートナーから与えられる溢れんばかりの愛情とか」
「愛情」
「ウィンクルムは愛の力を以てオーガを打ち倒す戦士達なのよ。ごく自然な回復法だわ」
「……」
つまり何が言いたいのだ、と半眼でもって訴えかければ、ふふんと一つ彼女は鼻を鳴らした。
「診断結果という名目の元、療養のための休暇を与えます。ただし条件があるの」
ひとつ、パートナーと必ず二人で過ごすこと。
ふたつ、必ず双方の了承があること。
みっつ、ストレス軽減のため必ず『甘やかしてもらうこと』
よっつ、『最大24時間以内で、ストレスの蓄積を認められた側が満足するまでは止めないこと』
指折り数えて説明し終えると、カチャリと眼鏡の縁を押し上げて笑った。
「休暇を取るかどうかは自由よ。これを機に、パートナーとの関係を見つめ直してみるのも、悪くないのではないかしら?」
解説
■休暇中のなんだかんだ買い物で300jr.
■概要
ストレス軽減療法という名目のもと、パートナーに全力で甘えてください、というシナリオです。
ただイチャイチャするのではなく、必要に迫られて甘やかさないといけない、と言うピンポイントな建前付き。
■プランに必要なもの
・甘やかす側と甘やかされる側(ストレス診断された方)の明記。神人と精霊どちらがどちらでも構いません。
・休暇の過ごし方。どこかへ出掛けても良いし、同棲しているなら家でゴロゴロ過ごしても良いし、別々に住んでいるならどちらかの家へ遊びに行っても。して欲しい事や、逆にしてあげたい事などの明記もお願いします。
出掛け先一例:遊園地、観光地にある川や花畑、公園などのデートスポット。
・描写内容が著しく過激過ぎなければ内容はなんでもOKです。
ゲームマスターより
お世話になります、梅都です。
別にそうでもないはずなんだけど、質疑応答系の診断でストレスとか体調不良だと診断されてしまう事ってありますよね。もしかしたら本当に疲れているのかも知れません。そんなお疲れのパートナーを、改まって労わる機会なんてのもそうそうないかなぁと。
良ければお気軽に療養していってください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
※甘やかす側 自宅で珊瑚を見つめ呟く。 「なぜ、お前が(ストレス)診断されるんだ……」 それに甘えたいのは寧ろーー。 そこから恥ずかしい事を言いそうな気がして、続きは飲み込んだ。 代わりに珊瑚に何をして過ごしたいか尋ねる。 その結果、ラジカセを持ってハト公園へ行き着き、 やおらスタジアムジャンパーを脱いで準備体操をする。 やる気がみなぎった珊瑚に笑みをこぼす。 広い空の下、ラジカセの音楽と共に珊瑚と向き合い、 時にハイタッチをしながら、ストリートダンスをする。 ダンスの後、ベンチに座り、右肩に重みが走る。 「……今日だけだからな」 甘やかすのも楽じゃねぇべさ。 だども、珊瑚は今までおれに付き合ってくれた。 「……わかった」 |
ティート(梟)
俺、ストレス溜まってるんだって 少し前のあの桜吹雪の時から頭の中がもやもやする 抱いた枕に顔を埋め呟く ……分からないんだ ウィンクルムって愛の力で戦うんだろ なぁおっさん。愛ってなんだ? でも、あんたは…… 自分に向けられる懐かしむような目を思い出して苦しくなる 確かに大切にしてくれてる。けど、あんたは俺を見てないじゃないか そう言いたいのに言葉が出ない この気持ちはなんなんだ こんなに苦しいなら、こんな優しさも温もりも知りたくなかった 知らなければきっと何も考えずにいられたのに あんたが一緒にいるのはウィンクルムだからなのか? 俺はあんたの相棒の代わりなのか? 聞きたいことは沢山あるけど 今はこの暖かさに甘えたくて |
レオ・スタッド(ルードヴィッヒ)
自宅 調子悪いと思ってたけど…甘やかされろって(煙草吹かし …家で寝てたい(今更甘えるとか恥ずいし… うわ、ちょ…下ろせ! ななな何する気?! …(これって… テ、メェ…こんな、子供あやすみたいにっ!(やばいやばい香木の匂いとか体温とか色々…!(パニック …?(音が少し、早い? あれは…悪かったわね(顏逸らし (嫌われたいから、って言ったら笑うだろ ルードはなんで怒らないの? それどころか世話ばっか焼いて、相手してて疲れるでしょ …私に、興味あるの?バカじゃないの? ふぁあ…(ヤバ、瞼が… …あんたが優しいなんて、こんなの夢だわ…絶対(うとうと (…胸が熱くて苦しい…こんな感情、抱いたらダメなのに―― …すぅ ※地の文はレオで |
カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
甘やかす側 休暇なら、出かけるか ※恋人繋ぎで歩く 住宅展示場へ行く 俺達とティエンで暮らすには今の所でもいいんだがな 子供の話出たし※E49 納期前徹夜もあるから仕事部屋別に確保してぇし そろそろ一緒に寝てぇからダブルベッド入る部屋が欲しい…って考えたら、な 「…俺の顔は遺伝だ」 隙を見て角等にキスしたりして見て回ってたらイェルから墓参りの申し出 「当たり前だろ」 (俺はそう言うのを待ってた。月命日に行く俺と違い、1度も彼女に会いに行ってないのは知ってた。彼女も寂しいだろうと思ってたし) 本音は言わず、イェルの頭を抱き寄せて撫でる 嬉しそうな顔と尻尾見りゃ甘えてるのが解る 俺以外にはイケメンだが、俺には最高に可愛い嫁だ |
信城いつき(ミカ)
違うこと……はっ、まさか女装とか?(少し警戒) ミカ、実は女装好きなの? 女装じゃないんだね、一安心。じゃあどこ行くの ……ええっ!? (大人用のお子様ランチを出すお店へ) なんだ大人が食べるのか……びっくりした 色々おかずあるね。旗も立ってる、ウインナーもタコだ。 おもちゃまで付いてる! お子様ランチ楽しいね。 ……うん、小さい時はご飯も満足に食べられなかったから 一度でいいから食べてみたかったんだ。 公園も遊んだ事ないなぁ。そんな事してたら仕事さぼってるって怒られるし ミカも付き合ってくれるの!?シーソーでもいい!? ブランコこぎ方これでいいの? うわっミカ待って押しすぎ!ぎゃー (悲鳴を上げつつ歓声ももあげてる) |
●
「調子悪いと思ってたけど……甘やかされろって」
気だるそうにぼやいてメンソールを吹かすのは神人、レオ・スタッド。
よくわからない診断に、相方同意のもと自分の家へ帰宅したはいいが、その先をどうするべきか思案していたのは精霊、ルードヴィッヒも同じだったようで。
「甘やかす……か」
一つ呟いてレオを見遣るが、ただでさえこと自分に対しては壁を作ってたばからない彼が、素直に応じるとは思えなかった。
「お前はどうしたい?」
「……家で寝てたい」
率直に問うてみるが目も合わせず自室へ踵を返そうとする。
表情が伺えない以上、感情を見る事は出来ないのだが、実の所レオは気恥ずかしいのだ。
そういうキャラで相手をする様な男でないし、相手もその心積もりでいると知っているからこそ、どうしたらいいのかなんてわからない。
返答も聞かず歩き出した所で後ろから「そうか、では」と聞こえて、えっ、と振り返ったら。
「――うわ!? ちょっ……!」
猫耳が目前に迫ったかと思うと途端視界が反転し、気付けば姫抱きにされていた。
「ふざけな……っおいこら! 下ろせよッ!」
「暴れるな、落とすぞ」
うっかり素で悪態付くが身長も自分とさして変わらぬはずの体躯はびくりともしない。
そのまま自室に連れ込まれベッドへ放られる。
「ななな何する気?!」
「要望に応えてやる気だが」
背広を脱ぎ椅子の背もたれに放るなり襟元を一つ緩めたルードヴィッヒを見て、つい女性のような所作で我が身をガードし目の前に迫ったワイシャツにぎゅっと目をつむれば、隣に横たわった相方が頭に腕を回してきた。
(……これ、って)
胸板へ引き寄せられた頭を骨ばった掌が撫でていく。
それ以上は何もしてこない。いや、決して期待して居る訳ではなく。
一瞬呆けて言葉を失ったが、鼻をついた香木の薫りにはっと我に返って目を回した。
「テ、っメェ……! こんな、子供あやすみたいにっ!」
体温が近い。いいにおいがする。
引き寄せている腕の力は存外強くて多少身じろいでも離れてはくれない。
「声が震えているぞ、少し静かにしろ」
特に感情の含みも無く告げて、指先でくせっ毛を梳き背中を撫でる。
抱き寄せているルードヴィッヒにも、微かに香水の甘い香りが鼻をついた。
自分磨きに余念の無い相方の事だ、安物を使っているはずはないだろうし、自分のそれとは違うが、決して嫌な匂いじゃない。
「解るか?」
「……?」
「俺にも血肉や体温、感情はある」
密着する事で心音を五感で感じ取れる。それは自分の鼓動よりも、幾分早く感じた。
鼓動を聞かせることで落ち着かせてくれているのだ、とここに来てようやくレオは理解したようだった。
「……あの塩マフィンも流石に堪えた」
苦笑いを浮かべてぽつりと呟かれたルードヴィッヒの台詞に、先日の贈り物を思い起こし顔を逸らす。
「あれは……悪かったわね」
嫌われたいから、なんて言ったら笑うだろう。
結局、嫌がらせだったという事も全て見透かされていて、至極釈然としない結末を迎えた訳だが。
反省しているならいい、と静かに返され、顔をそらしたままちらりと横目で顔色を伺う。
「……ルードはなんで怒らないの? それどころか世話ばっか焼いて、相手してて疲れるでしょ」
「無関心な相手に時間は使わんと言ったろう、介抱も看病も今も同じ理由だ」
信じられないか? と掌が頬を撫でていく。
「……私に、興味あるの? バカじゃないの?」
だからといって素直になどなれるはずもなく、悪態付いていたらとろりとろりと睡魔が誘い始めた。
「あんたが優しいなんて、こんなの夢だわ……絶対」
頬に感じる体温に、胸がじんわりと熱くなる。こんな気持ち、きっと抱いていいものではないのに。
夢かもな、と意識が落ちる直線に、精霊の声が聞こえた気がしたけれど、その方が都合がいいだろう? という想いまでは、聞き届けられる事は無く。
「……強がりばかり言って、可愛らしい奴だ」
苦笑して、寝息を立てる神人の髪にそっと口付ける。
だからこそ構いたくなる、なんて言ったらきっとまたいつもの強がりが返って来るだろうから、今はこのままでいい、と思う事にした。
●
「いつも甘やかして貰ってます。これ以上とか……私が恥ずかしくて死にます」
職員の診断に蒼白なほどの真顔で告げるのは精霊、イェルク・グリューン。
でもね、診断は診断だから。にこりと笑って告げられた答えを受け取り、止むを得ず神人に提出するに至ったが、俺の嫁だと可愛がってはばからない彼の口から当然ノーと言う言葉が出るはずはなかった。
「ストレス……店にあの彼女以外にも、私目当ての客が増えた事か」
ぽつりと一人呟く。彼がティーブレンダーとして勤める専門店で、誰しもが認める美男子のイェルクは男女問わず人気だった。
普通以上に接してくる客の相手も、仕事だからと割り切ってはいるものの、無自覚に心が疲れているのかもしれない。
(私はカインの……よ、嫁です、のに)
真顔のまま心の中で呟いて、途端に茹で上がった頬を冷ますのに暫く必至になっていた。
「休暇なら、出かけるか」
そう言って神人、カイン・モーントズィッヒェルの申し出に連れてこられたのは在宅展示場。
ごく自然に繋がれた恋人繋ぎが少し気恥ずかしい。
「俺達とティエンで暮らすには今の所でもいいんだがな……」
一言ぼやいて、進められるまま足を踏み入れたモデルルームの一部屋を見て回る。
納期前には徹夜もある為、仕事部屋を確保したいというのが建前だが、そろそろ一緒に寝る為のダブルベッドを置きたい、なんてのも、カインにとっては大切な理由の一つだ。
「子供の話もしたしな」
寝室におかれた大きなベッドをぽんぽんと叩いてみる。
含みを決して入れなかった訳ではないが、ふと隣の精霊を見遣れば「……あけすけすぎです」と頬を赤らめていた。
「あなたチンピラみたいな外見ですけど、堅実ですよね」
モデルハウスを出た所で唐突に告げられて、一瞬の間のあと「……俺の顔は遺伝だ」と答える。
「なんだ今更。堅実でも顔がチンピラじゃ、都合でも悪いのか」
「いえ……将来の事もこうして考えてくれて、私を連れてここへ来てくれた事が」
愛されているとわかって、なんだか嬉しいです。
端正な顔立ちが静かに綻ぶものだから、人目が無い事はちゃっかり確認しつつ、角に口付けを落とした。
「俺が堅実なのは、お前が相手だからだ」
「……もう、せめて外では忍んでください」
「ウチでは幾らやっても構わねえんだな?」
「やっ……!?」
「はは、冗談だ。イェルが可愛いからつい、な」
その後も隙を見ては角や頬にキスを繰り返すカインに、ふと思い出した様にイェルクが告げた。
「今度、一緒に会いに行きませんか」
亡き恋人のお墓に。
ずっと行けていなかった。一人ではまだ面と迎えないかもしれない。
けれど今を共にする大切な存在が傍らに居れば、勇気を出せるかもしれない。
これも甘えの一環だと思えば、蟠っていた言葉を不思議と口に出来た。
「……当たり前だろ」
精霊の頭を抱き寄せながら一も二もなく告げる。
彼の方から言い出してくれるのを、その実カインはずっと待っていた。
月命日には足を運ぶ自分と違い、彼が一度も彼女に会いに行っていない事は知っていた。
だからこそ、彼女も寂しがっているだろう、とも。
「リタさんと、エマさんにも……入籍前に会いに行きたい」
「ああ。きっと喜ぶ、会ってやってくれ。俺もお前をちゃんと、紹介しておかなくちゃな」
「……ありがとうございます」
頭を撫でる手のひらがひたすらに優しくて、零れそうになった感情をぐっと堪え、イェルクは一言礼を告げる。
尻尾はぱたぱたと揺れているし、はにかんだ顔色には嬉しさが滲み出してしまうから、普段控えめな精霊に甘えられていると分かって、カインはとても嬉しかった。
「俺以外にはイケメンだが、俺にとっては最高の嫁だな、本当に」
「……なんですかいきなり」
「かわいいってことだよ」
何処に居ようがキスも愛の言葉も、心への労わりも尽くして止まない神人の言葉に、やっぱり恥ずかしくて死んでしまいそうだ、なんて思って、また一つ頬を茹で上げてしまった。
●
「俺、ストレス溜まってるんだって」
診断結果を受け、精霊である梟の家で腰を据えていた神人、ティートがぽつりと呟く。
家でゆっくり過ごそう、と言ったのは精霊の方だ。
ここの所……特に、あの桜吹雪の日以降、特に。
ティートは何か言いたげな顔をするのに、落ち着いて話せる機会も無かったから。
「……分からないんだ」
枕をぎゅうと抱いて顔を埋め、また一つ小さく零す。
中々進まない話を、梟は傍についてじっと辛抱強く待っていた。
「ウィンクルムって愛の力で戦うんだろ。なあおっさん。愛ってなんだ?」
問いかけられて、ふむ、と一度思案し「愛、か……」とぼやいて。
「相手を大切に想う気持ちだよ」
「……相手」
無意識に緩んだ梟の口元を、ティートは枕を抱いた視界の隙間から見ていた。
「だがその答えは人から教えてもらうものじゃないな。坊やは経験が足りない、だから判断が出来ない。いずれ、坊や自身で答えを出せるさ」
子供を諭す様に優しく告げる。
向けられる瞳は鷹揚で暖かい。大切に想っていてくれるのだろうと分かる。
「でも、あんたは……」
大事に想う、その、対象。自分に重ねて別の『誰か』を見ている金色は。
――あんたは俺を見てないじゃないか――。
その一言が出なくてティートは唇を噛む。
(この気持ちはなんなんだ)
あの桜吹雪の日から、自分はどこかおかしい。
梟に対し素直に話せないのは元より、伝えたいのに、伝えられない。
ことさら、彼が自分とは違う『誰か』を見て居る時には。
酷くもどかしい、胸の奥を締め付ける様な感情。
何か言いかけたまま、切なげに黙りこんでしまったティートに、そういえば甘やかしてやらないといけないんだった、と妙な形で梟は我に返る。
(……振り払われるだろうか)
素直じゃない坊やの事だから。
そう思いつつ、ぎごちなく慈愛を込めて抱き締めた神人の体は、強張っていたけれど、拒絶されたりはしなかった。
(こんなに苦しいなら、こんな優しさも温もりも知りたくなかった)
染み付いた歳の香が僅かに薫る腕の中で、ティートはぼうっと考える。
知らなければ何も考えずいられたのに。
(あんたが一緒にいるのはウィンクルムだからなのか? 俺はあんたの……相棒の、代わりなのか?)
聞きたい事も、言いたい事も沢山あるけれど。
「坊やが何を考えてるのか俺には分からないが、何かつらい事、言いたい事があるなら教えてくれ」
俺たちはウィンクルムなんだから、と尤もらしく告げた梟の体はお日様みたいに暖かかったから、今はこの優しさに甘えていたい。
そんな風に思って、ぼんやり惚けていたせいだ。
離れかけた服の裾を思わず掴んでしまったのは。
「あ……」
「……」
立ち上がりその場を離れようとした梟も、伏せていた顔をひょっこり出してきた子供の唖然とした顔に目を丸くする。
ちょっと、飲み物だとかを取ってこうとしただけなのだけれど。
きっとそうなのだろうと、ティートにだって考えれば分かる筈なのだけれど。
「お……」
置いていかないで。
いつぞや言葉に出来なかった言葉がつい口を付く。
「……不器用な坊やだなあ」
つい口元が綻んで、頭をくしゃくしゃと撫で回した。
確かにこの時、梟がかわいい子供だ、などと思ってしまったのは、昔の相棒などではなく「ティート」自身だった。
●
「なぜ、お前がストレスだと診断されるんだ……」
自宅で相方を見詰め呟いたのは神人、瑪瑙 瑠璃。
自分の精霊がよりによって何故、と思う気持ちもあれど、むしろ甘えたいのは……と、そこから先は恥ずかしい事を言いそうになって口をつぐんだ。
代わりに、何かしたい事はないかと問いかければ、ストリートダンスがしたい、と精霊である瑪瑙 珊瑚から返ってきた。
「だって考えてみろよ! A.R.O.A.からの討伐依頼でねぇ限り、オレ、テンペストダンサーのテの字も踊ってねぇんだぞ!」
だ~か~ら~お願い~、オレ踊りたい~と、オペラ歌手よろしく身振り手振りも交えて陽気に歌い始めたものだから、一つ溜息を吐いて。
ジョブとして、ダンスのスキルも身につけているにも関わらずなかなか活かす場の無いそれに、もっともだ、と頷いてやるほかなかった。
二人してラジカセを手にハト公園へ行き着き、スタジアムジャンパーを脱いで準備体操をする。
「体動かすの、いいあんべーやー!」
気持ち良さそうに背伸びをする珊瑚に一つ頷いて、瑠璃はラジカセを手に取り適当に曲を流し始める。
色々踊ってみるが中々ぴんと来るものがない。
曲をいじっている内にふと、和風なイントロからダンスミュージックへと変調するメロディラインに、珊瑚の顔色が変わる。
「よし! この曲やさ!」
やる気を漲らせた珊瑚につい瑠璃も笑みがこぼれる。
運よくこの日は快晴だ。南国を思わせる様なまばゆい日差しと、心地良い風。
どこまでも青く広く広がった空の下、ラジカセから流れる音楽と共にお互い向き合い、時にハイタッチなど交わしながらストリートダンスを踊った。
「ママ、見てみて! おにいちゃんたち踊ってる!」
「楽しそうだねー、パフォーマーさんかな?」
次第に、公園の人々が集まり始めて、ますます気を良くした珊瑚はテンションを上げる。
瑠璃も最初こそ戸惑っていたものの、珊瑚がとても楽しそうで、体を動かしている内に気分も高揚してしまったのだろう。
観客達の手拍子に合わせて、体力が尽きるまで二人は踊り続けたのだった。
ひとしきり踊り疲れて、ベンチに腰掛けて瑠璃が休んでいると右肩にずしりと重みを感じて、もたれかかってきた珊瑚を見遣る。
ダメか? と眼差しでもって訴えかけてくるから「……今日だけだからな」と返せば上機嫌に笑った。
「甘やかすのも楽じゃねぇべさ」
「ふふん、にふぇーど」
方言混じりに礼を述べて、調子に乗ってそのまま抱きついてみる。
体勢を崩して倒れ込みベンチの狭いスペースで二人して寝そべった形になるが、瑠璃は「……重たい」と一言ぼやいたのみで嫌がったりしなかったから、ご機嫌に笑って珊瑚は目を閉じる。
「寝たら、起こしてくれよ?」
調子に乗りやがって、とは思えど今まで自分にずっと付き合ってくれた珊瑚を思い返し、一瞬の間の後「わかった」と素直に了承すれば、程無くしてすやすやと寝息が聞こえてきた。
無邪気な寝顔には、いつぞやアロマポッドで見た彼の過去なんて想像もつかない。
珊瑚自身もしかしたら、無自覚に。そういった事も相まってストレスになっている、と診断されてしまったのかもしれない。
不可抗力とはいえ興味本位で見てしまった罪悪感が、著しく瑠璃の心をささくれ立たせていた。
診断は良い建前だったのかもしれない。傷つけてしまった珊瑚を、同じ手で癒してやるための。
「……今度またいつか」
なんのてらいも無く、お前と一緒に踊れますように。
希望を込めて、自分と同じ空色の髪をひとつ撫でた。
●
「ストレス……ねぇ」
神人である信城いつきの診断結果を受け、口元に手を当て思案するのは精霊の一人であるミカだ。
「日常を忘れて少し違うことしてみるか」
思い立って提案すれば、僅かに警戒したいつきが一歩じり、と後ずさる。
「はっ……まさか女装とか? ミカ、実は女装好きなのっ?」
「ちっがう」
いつぞやの仮装パーティを思い出し、真顔で畳み掛けてきた神人の頭を軽く小突いて否定する。
「俺は女装が好みなんじゃない。チビの困った顔が楽しいだけだ、安心しろ」
きっぱりと告げられた何気に酷い言葉に、それもどうなんだろう……と思うも、ミカなりの可愛がりだと知っているからそれ以上つっこんだりはせず、いつきはほっと息を吐く。
「女装じゃないんだね、一安心。じゃあどこ行くの」
胸を撫で下ろした所で問いかける。
兄貴分のような精霊の提案を待ちわびていると、ミカはいたずらっぽくにやりと笑った。
「お子様ランチ」
――そうして手を引かれるまま連れて来られたのは、ちょっとばかり名の知れたレストランだった。
ファミレスほど敷居が低い訳でもなく、店内はセンスに富んだ内装で、見た事もない置物や上品な小物に、いつきは目を輝かせる。
メニューとこの店の売りを見て、ミカの言葉に納得した。
「大人が食べるお子様ランチかあ……びっくりした。本当に子供扱いされるのかと思った」
「まあ、チビでも通りそうだけど」
「もー! こんなお店知ってるミカはすごいなって、思ってたとこなのにっ!」
戯れあいつつテーブルに着き、注文をミカに任せていると、ほどなくして店員が料理を運んでくる。
「ご注文の品でございます」
コトリ、と卓上に置かれたセットはまごうことなきお子様ランチ。
けれど品数といいボリュームといい明らかに子供が食べるそれではないし「こちら、子供さん用となっておりますが……」なんて聞かれる事も無かった。
決してサイズ小さめのいつきが小学生の様に扱われた訳ではなく。
「色々おかずあるね。あっ、旗も立ってる。ウィンナーもタコだ」
おもちゃまでついてる! と、ギフト用に個包装された雑貨を手に取り無邪気に大喜びするいつきに、ミカの表情も綻ぶ。
てっきり子供時代を懐かしがるかと思っていた。
けれどいつきの表情は、目新しい光景に感動するばかりの、本当に子供の様なそれで。
不意にいつぞや見た夢の光景をミカも思い出し、実際はいつきに子供時代なんて……と、口を噤む。
「お子様ランチ楽しいね。小さい時は、ご飯も満足に食べられなかったから……」
幼い頃に両親を亡くし、村人達に冷遇され、たった一匹の白い大型犬だけが家族だった時代。
お子様ランチなんて、それこそ大きくなって精霊達と知り合ってから、レストラン等に飾られているディスプレイでしか見た事がなかった。
「一度でいいから、食べてみたかったんだ」
ありがとう、ミカ! と、しんみりした空気を一変させはにかんだいつきに、ミカも珍しく「どういたしまして」等と素直な答えを返した。
「――公園、遊んだ事あるか?」
店からの帰り道でふと通りかかった、子供達で溢れる広場を見て隣の神人に問いかければ「遊んだことないなぁ」と返る。
「そんな事してたら、仕事さぼってるって怒られるし」
「……行ってみるか?」
「ミカも付き合ってくれるのっ? シーソーでもいい!?」
途端にいつきの表情がぱあっと華やぐ。
沈んだかと思えばすぐ笑ったり、ころころと忙しいヤツだと微笑ましく思うが、流石にプライドが許さず「シーソーはやめろ」と答える。
「ブランコなら付き合ってやる」
「わぁい! ありがとう、ミカ!」
空いているブランコへ駆け寄り座ってみるが、初めて乗るそれの勝手が分からず、いつきがぎごちなく足をばたつかせていると、隣のブランコに座ったミカがこぎ方を教えてくれた。
「こうやるんだ。加速つける時は腰に力入れて、足伸ばして。戻る時は膝を折る」
「ええっと……こ、こう?」
「そうそう、上手」
飲み込みも良くすぐにいつきはやり方を覚えて、加速をつけるほど高くこぎ上がるブランコに嬉しそうな声を上げ始める。
隣のミカが降りてもしばらく一人で遊んでいた。
「ブランコすっごく楽しいね、ミカ!」
「……本当に子供みたいだな。まあ、いいか」
今まで、子供らしく過ごす事も出来なかったんだし。
何より今日は甘やかしてやる日なのだ。
少し悪戯心が湧いてこっそりいつきの背後へ回り込み、戻って来た所で背中を思いっきり押してやる。
「うわあっ!? ミカ待って押し過ぎ!」
「ほらほらちゃんと持ち手掴んで、飛んで行くなよーチビ!」
「ちょ、高い高い! きゃーっ!」
悲鳴だか歓声だか分からない声を上げながら、いつきははじめてのブランコをしこたま堪能したのだった。
降りた後も周りの遊具を見ながら「シーソー……」とミカをちらちら見ていたが「それだけは勘弁してくれ」とやはり彼が渋ったので、また今度の機会にとっておこう、と決めたのだった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:信城いつき 呼び名:チビ、いつき |
名前:ミカ 呼び名:ミカ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 05月10日 |
出発日 | 05月18日 00:00 |
予定納品日 | 05月28日 |
参加者
- 瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
- ティート(梟)
- レオ・スタッド(ルードヴィッヒ)
- カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
- 信城いつき(ミカ)
会議室
-
2016/05/17-22:19
珊瑚:
ストレス診断されるのは、瑠璃と思った?
テンペストダンサーの瑪瑙珊瑚やさ!ゆたしくー!
……任務と大学とバイトに追われていたら、体をまともに動かしていねぇ事に気づいたみたいでさ。
体調悪いとかそんなんじゃねぇけど、折角の休み、でーじ嬉しいな!
だって、あいつときたら、星が観てぇだの、あれが食いてぇだの、就活がどうだのって、かしましい(うるさい)しさ。
星と食いもんの事しか……アガー!!(※瑠璃に卍固めで黙らせられるの図)
-
2016/05/16-00:56
ミカ:精霊のミカと神人の信城いつきだ。よろしくな。
はぁ?ストレス?
うちのもう一人の精霊にそうとう甘やかされてるだろ、チビのやつは。
とはいえ先日も熱出したし……仕方ない、チビちゃーん
甘やかしてやるからついてこい。しっかり可愛がってやるから(にやり)
いつき:
(だ、大丈夫だよね……逆にストレスになったりしないよね?) -
2016/05/15-16:18
俺は梟、パートナーはティートだ。よろしくな
坊や……ティートが、ストレス溜まってたなんてなぁ。気付けてやれなかった。
大人しく甘えてくれるとも思えんし、さてどうしたものかな。
じゃ、良い休暇を -
2016/05/14-00:29
テイルスのルードヴィッヒだ、神人はレオ・スタッドだ。よろしく頼む
どうもここ最近スタッドが体調を崩しやすいと思ったら、どうやらストレスが溜まっているらしい
…あいつは勝手に溜めこんでいた節があると思うんだがな、全く…
あの跳ねっ返りが素直に甘えると思えんので、なにか手段を講じる必要があるな…手のかかる男だ
皆も良い休暇になるといいな -
2016/05/13-23:15
-
2016/05/13-19:17