君は僕のもの(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

冗談もほどほどにしてほしいものだ。
任務中に立ち寄った町で、少しの間パートナーと離れただけだというのに。

「一緒にお茶しない?」

――お茶。

まさかこんな分かりやすい手法で来るとは思わなかった。
もう少し捻ってくれれば、昨今の口説き技術も進歩したものだと思うものを。

「あ、良かったら連絡先も教えて欲しいな」

相手に悪意は――悪意はないのだろうが、下心が見えすぎている。
ウィンクルムだと分かれば、すんなりと引き下がってくれるのかもしれないが。

――いや、引き下がる気配はなさそうかな……。

いっそA.R.O.A本部の連絡先でも教えようか。

「ショッピングに行く? それとも遊びに行く?」

返事をせずにいると、相手はどうやらこちらが承諾をしていると思っているらしい。
断られると露程も思っていない様子だ。
手を握って、完全に食い気味どころか、そのうち食われそうだ。――色んな意味で。
断り方を思案していると、用事を済ませたパートナーと目が合った。

「ね、早く行こう?」

早く行くもなにも、一度たりとも頷いていない。
パートナーは感情の読めない目でこちらを見据えている。

「ちょ、いや、あの……!」

恐るべき強引さと前向きさで腕を引かれる。
思わず、パートナーに視線を送る。

解説

任務中、一瞬の隙をついてパートナーがナンパされました。
上手くナンパ師から逃れてください。

ナンパされるのは神人さん、精霊さんどちらでも可。
仕掛けてくる相手は異性を想定しています。

自力で撃退してもよし。
パートナーが助けに入るもよし。
和気藹々と三人でお茶しに行っても良しです。

このナンパ師ですが、軽くあしらう程度では食い下がってきますので、完膚なきまでに叩きのめしてください。

任務中の交通費300Jrが必要です。

ゲームマスターより

ナンパしてごめんなさい。でも美男美女がいたらお近づきになりたいです……!
嫉妬、かわいい!
困った顔、かわいい!

ナンパ師撃退後の展開もワクワクしてお待ちしていますね!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  手を握られ 困惑顔で相手を見る
…話をきいてもらえない…
彼の姿を見てほっとするも 手荒な動きに慌てて止める
再度 強く男に腕を引かれ痛みに小さく悲鳴
思わず見上げた翡翠の双眸に 見たことのない感情の色を見つけ息を飲む
…っ!?
突然の彼の行動に仰天 体格差もあって逃げられず
解放された時には真っ赤 口元を片手で覆って

ぺたりとベンチに座って息を整える
あ、あなただって赤、く…?
不自然な呼吸と手の熱さに気づき 慌てて額に手を
シリウス すごい熱よ!?
帰ろうと腕を引く
小さな謝罪の声に目を丸く
嫌だなんて思ってないわ 
びっくりはしたけど 嫌じゃない
本心からの言葉を彼に

大きな手も強い力も
見たことのない熱を孕んだ翡翠の瞳も 
あなたなら…怖くない


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  喉が渇いたから飲み物でも…と一瞬離れた間に
凄く綺麗な女の人が羽純くんに…

気付けば考えるより先に行動に出てた

ま、待って下さい!
か、彼は私の連れで…その、連れて行かれたら困ります!

羽純くんと女の人の間に入って、ぎゅっと羽純くんの服を掴みます。絶対離れないように

どういう関係って…こ、恋人です!

譲れません…絶対に
私って、子供っぽくて…まだ羽純くんに釣り合うとは思えないけど…でも、彼を好きな気持ちだけは誰にも負けない
貴方にも絶対の絶対に負けません!

羽純くんは、わ、わた、私のものですからっ(噛んだ

相手が去ると、安堵と羞恥の余りへなへなに…

私必死で…恥ずかしい事を叫んじゃったような?
嬉し過ぎて心臓がばくばく


八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
  困惑しまずはやんわりと断る
しつこいですね…もっと毅然とした態度で切り捨てるべきでしょうか…
でも任務で来ているのだし、ウィンクルムの評判を落としたくないし…

迷っていたら助けてもらったけど、精霊の過激な態度に思わず制止に入る
そーちゃんストップ!もう反省してるみたいだし穏便に、ね?

う、うん…ありがとうそーちゃん
でもさっきの人大丈夫かな…ウィンクルムに悪印象を持たないといいんだけど
えっ…そ、蒼龍さん…?どうして怒ってるの?
あ、あの、ごめんなさい
もっとちゃんと気を付けるから意地悪しないで…

さっきのそーちゃん、怖かったはずなのにあの独占欲?を嬉しいとも感じた
今は何となく顔を見られない…
私、先に行ってるね


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  マントゥール教団について聞き取り調査
合流場所近くで最後に声を掛けた男性
人に物を尋ねるなら名乗らなきゃと言われ、謝罪し名乗るが、結局情報はない
礼を述べて立ち去ろうとすると急に馴れ馴れしく名を呼ばれ
警戒、戸惑い、不安
合流する時間なので…と断りかけたところで
少しくらいと肩を抱かれ、恐怖と嫌悪感
触られたくないのに動けない
以前なら毅然と冷静に対応できたはずなのに…

ありがとうございます、ジューン
安堵からそっと胸元に頬を寄せる、伝わる体温に安心感
…怖かった、です
そういえば精霊になら触れられても嫌じゃない
改めて「好き」を実感
私…ジューンにしか、触れられたくないです…

エピ26以来、異性としての視線に恐怖と嫌悪感


オンディーヌ・ブルースノウ(エヴァンジェリスタ・ウォルフ)
  精霊との待合せ場所へ
途中声を掛けられる
失礼、人を待たせておりますの
微笑んで
尚も食い下がる相手に足を止め
困りましたわね…これからわたくし、エヴァンジェリスタと待ち合わせていますのよ
あえて性別を告げない方が面白いと判断
嫣然と微笑み
一緒に来てくださるのでしたら、構いませんわ、エスコートしてくださいます?

腕を組み、待ち合わせ場所へ
あちらですわ
視線の先
可愛らしい女性と精霊


あまりにもしつこいから辟易してしまって…
それに、少々お灸をすえる必要があると思いましたの、ああいう輩を放置すると他の女性にも被害が出ますもの

精霊にだけ見せる、信頼の眼差しで微笑んで
流石わたくしのエヴァンですわ、ありがとうございます



 馴れ馴れしく声をかけてくる男の誘いに、八神 伊万里は困惑を隠せなかった。
 任務で来ている手前、ウィンクルムの評判を落とすような言動は慎むべきだ。
 だから、今、目の前で「えー、いいじゃん」などと戯けている男にも、一度はやんわりと断った。
「ねぇ、ちょっと付き合ってくれるだけでいいからさ」
 男は伊万里の肩を抱いて、強引に付き合わせるつもりのようだ。
(しつこいですね……もっと毅然とした態度で切り捨てるべきでしょうか……)
 伊万里が思案していると、蒼龍・シンフェーアと目が合った。と、思うのも束の間。蒼龍はどんどん伊万里に近づいたかと思うと、肩を抱いている男の襟首を掴んだ。
「僕のパートナーに気安く触らないでくれないかなあ」
 にこりと笑顔を見せているが、目がまるで笑っていない。
 言葉も柔らかいが、その柔らかさの内側には鋭利な刃物すら感じ取れる。
「なんだよ、邪魔する……」
「ねえ、お兄さん」
 男が蒼龍を追い払おうとすると、蒼龍が笑顔を崩さず、柔らかく、冷え切った声で呟いた。
「僕さ、人体に興味があるんだけど」
「……はぁ?」
 顔を顰めた男に、蒼龍はゆっくりと首元に手を当て、さらに続ける。
「首ってどこまで曲がるのか知ってる?」
「ちょ、待っ……」
 ぐ、と力を込めて、ゆっくりと捩じられていく。そろそろ限界かな、と言うところで一旦止め、
「キミで実験しよっか?」
 そう囁くと、みしみしと首が軋む音が蒼龍の手に伝わった。
「わっ、悪かっ……」
 男はほとんど涙目になって、蒼龍の手を引き剥がそうとしているが、びくともしない。
「やめてくれ……!」
「そーちゃん、ストップ!」
 伊万里が慌てて蒼龍の腕を掴んで制止に入った。
「もう反省してるみたいだし穏便に、ね?」
 その言葉に、蒼龍は力を緩める。
 一度落ち着きを取り戻すと、乱暴に手を離し、冷たく男を睨みつけた。
「二度と近づくな」
 吐き捨てるように言い放つと、男は小さな悲鳴を上げ、這う這うの体で逃げて行った。
 蒼龍は溜息を一つ吐いて、伊万里を覗き込む。
「ふう……イマちゃん、大丈夫?」
「う、うん……ありがとう、そーちゃん」
 蒼龍に礼を述べて、伊万里は男が立ち去った方へ目を向ける。
「でもさっきの人、大丈夫かな……ウィンクルムに悪印象を持たないといいんだけど」
 伊万里は単純に、ウィンクルムへの好感度を心配したのだが。
「……助けてあげたのに、あいつの方を心配するんだ、……へーえ?」
 蒼龍にはそうは聞こえなかったらしく、静かに怒りを見せている。
「えっ、そ、蒼龍さん……? どうして怒ってるの?」
 なにが蒼龍の逆鱗に触れたのか分からず、伊万里は困惑するばかりだ。
 そんな伊万里の両腕を掴み、引き寄せる。
「あ、あの……」
「自分が誰のものか、しっかり教えてあげなきゃね」
 囁かれるように低められた声と、蒼龍の視線から逃れるように伊万里は顔を背ける。
「もっとちゃんと気を付けるから、意地悪しないで……」
 怯えた様子の伊万里に、蒼龍はふっと空気を変えて笑顔を見せる。
「怖がらせてごめんね、でもそれだけ心配だったんだよ」
 手を離して伊万里の頬にそっと触れる。
「ごめんなさい」
「……分かればよろしい。じゃあ行こっか」
 顔が熱い。
(さっきそーちゃん、怖かったはずなのに……)
 独占欲のような、そんな蒼龍の感情を嬉しいと感じていた。
 それがなぜか気恥ずかしくて、蒼龍の顔を見られそうになかった。
「私、先に行ってるね」
 だから、逃げるように蒼龍の脇をすり抜けた。
 そんな伊万里の背中を視線で追いながら、蒼龍はにこりと微笑む。

 ――もう我慢しないよ。キミは僕のもの、だからね。


「あ、あの……」
 リチェルカーレの手をしっかりと握って、男は笑顔を見せる。
「大丈夫、ちょっと遊ぼうってだけだからさ!」
 つい先ほど、断ったばかりなのだがこの調子だ。
(……話を聞いてもらえない……)
 都合の悪いことは聞かないらしく、足をぴたりと止めているリチェルカーレを無理やり誘っている。
 困惑した表情のまま、リチェルカーレが目を向けた先に、シリウスの姿を見付け、ほっと安堵する。
 そんな彼女の表情に反して、シリウスは無表情だった。腹の底では不快だと感じているが、それを顔に出すことがない。
 リチェルカーレに近づき、男の腕を捻り上げる。
「いっ……!」
 男が声にならない声を上げる。一切の躊躇なく捻り上げているのだから、声など出るはずがない。
「シリウス、やめて」
 けれど、リチェルカーレにその荒っぽい行動を制され、そっと手を離した。
 シリウスが男に向けた瞳は凍えるほど冷たい。
「邪魔すんなよ。ね、お姉さん?」
 解放された男は再びリチェルカーレの肩を、今度は強く引き寄せた。
「きゃっ……」
 力を込められたせいで、リチェルカーレが小さく悲鳴を上げる。
 思わず見上げたシリウスの目に、息を詰めた。
 翡翠の瞳は冷たいなどを通り越えて、リチェルカーレが見たこともないような表情を灯していた。

 ――……喧嘩を、売られているのだろうか。

 無意識に手を握りしめる。
 男がリチェルカーレに掛ける言葉が、意識のずっと向こう側で反響しては、掻き消えて行く。
 ぷっつりと、何かが切れる音を、シリウスは聞いた。
 乱暴に男の手からリチェルカーレを引き寄せると、そのまま口の端ぎりぎりに口付ける。
 驚いて、反射的にシリウスを押し戻そうとしたリチェルカーレを抑え込み、さらに逃げられないように頭を支える。
 男の位置からなら、あるいは深く口付けているように見せられるかもしれない。
 それでも、確証があったわけではない。ゆっくりと視線を上げ、男の様子を盗み見て成功を悟る。
 リチェルカーレをぎゅっと抱き寄せ、男を一瞥して吐き捨てる。
「……こいつに触るな」
 完全に見せつけられた男は、舌打ちを一つして、悔しそうに立ち去って行く。
 腕から解放されたリチェルカーレは、顔を真っ赤に染めて口元を覆った。
 その様子に、シリウスはリチェルカーレの手を引いて、近くのベンチに座り込む。
 僅かに弾ませた呼吸を整えながら、シリウスがぼそりと言う。
「――顔、赤いぞ」
「あ、あなただって赤、く……?」
 確かに、肩で息をするくらいには呼吸を奪われた。
 リチェルカーレはそれを整えようとしていたし、シリウスが息を荒げているのもそのせいだと思っていた。
 けれど。
「シリウス……?」
 不自然に繰り返される呼吸。掴まれた腕の熱さ。
 先程抱き寄せられたときは感じる余裕などなかったが、今ならわかる。
 慌てて額に手を当てた。
「すごい熱いよ!?」
 帰ろう、とリチェルカーレが腕を引く。
 だが、立ち上がろうにも視界が揺れた。
 くらりと、力を失くして項垂れるシリウスを抱いて、髪を撫でる。
「……悪い」
「え?」
「嫌な思い、させた」
 抱きしめることを躊躇っているのか、ふわりと羽を抱くような軽さでシリウスの腕が背に回される。
「嫌だなんて思ってないわ。びっくりはしたけど、嫌じゃない」
 少し汗ばんだシリウスの額に唇を寄せる。
 リチェルカーレの瞳を見つめて瞬きをすると、力なく笑って、
「そうか」
 と、安堵したように呟いた。

(大きな手も強い力も――見たことのない熱を孕んだ翡翠の瞳も、あなたなら……怖くない)


 喉が渇いたから、と桜倉 歌菜が月成 羽純の傍を離れたのとほぼ同時だった。
 まるで、計ったかのように、見知らぬ女が羽純に声をかけてきた。
「ねえ、お兄さん、私と遊ばない?」
「悪いが、俺には連れがいる。他を当たってくれ」
 ふっと視線を外し、これなら離れるだろうと思っていた。
 だが、女は羽純の腕を取って絡ませ、ぴったりと寄り添ってくる。
「おい……」
 振り解こうと身を捩りながら、視界に映った歌菜の唖然とした表情に、羽純は完全に自分の失態を認めた。
 これは違う――。
 そう言おうと口を開いた瞬間。
「ま、待ってください!」
 歌菜が自分と女の間に割って入った。真っ直ぐに女を見据える歌菜の横顔に、思わず羽純は言葉を飲み込んだ。
「か、彼は私の連れで……その、連れて行かれたら困ります!」
 ぎゅっと羽純の服を掴んで、きっぱりと言い放った歌菜に、頬が緩む。
「あなたと彼、どういう関係なの? ただの連れなら邪魔しないでもらいたいんだけど」
「どういう関係って……」
 女は高圧的に歌菜を見下ろしている。
 はっきり言うと、この女はどう足掻いても羽純の好みではない。
「こ、恋人です!」
 羽純の好みは、例えば離さないようにと服を掴んで控えめに主張したり、普段なら飲み込んでしまう言葉を、こんな場面でならはっきりと言えてしまうような人――歌菜そのものだ。
「歌菜」
 ふわりと歌菜の身体を抱き寄せ、ゆっくりと口付ける。
 こんなに可愛いことをされて、平然と女を黙らせるだけでは足りない。見せつけて、歌菜が自分のものだと示さなければ気が収まらない。
 口付けて離れたあと。
 女は表情を歪ませていたが、それでも引き下がらない根性は見上げたものだと思った。
「一日くらい譲ってくれてもいいんじゃない?」
 とんでもない言い分だ。
 苛立ちながら言葉を探したが、羽純より先に、やはり歌菜が声を発した。
「譲れません……絶対に」
 歌菜が女を真っ直ぐ、迷いなく見つめる。
「私って、子供っぽくて……また羽純くんに釣り合うとは思えないけど……」
「だったらいいじゃない」
「っ……、でも……っ」

 ――俺はお前だけを愛してる。

 そっと腰を抱いて、心が折れそうになっている歌菜を鼓舞する。言ってほしい。伝えて欲しい。知りたい――。
 その気持ちを聞かせてくれ。
「彼を好きな気持ちだけは誰にも負けない。貴方にも、絶対に負けません!」
 強く言い放つ歌菜をぐっと抱き寄せる。
「羽純くんは、わ、わた、私のものですからっ」
 噛んでしまうあたりに、歌菜の精神力の限界を感じながらも、この愛しい胸の高鳴りを押さえきることもできず。
 再び口付けて、今度は深く――想いを絡ませるように重ねる。
「――分からないのか? お前は邪魔だ。とっとと失せろ」
 冷たく見据えて、興味はないと知らしめる。
 ここまでされれば、さすがに引かざるを得なかったのか、女はぷいとそっぽを向いて立ち去って行った。
 それを確認すると、腕の中で歌菜がへにゃりとくずおれた。慌てて抱き寄せて。
「歌菜、ありがとう」
 すると、歌菜はきょとんととした目を向けてくる。
「俺を助けてくれたろ?」
「私必死で……恥ずかしいことを……」
「嬉しかった」
 耳元にぽつりと一つ。
 歌菜の目を見て、もう一度呟く。
「……とても嬉しかった。歌菜の言った通り、俺はお前のものだよ」
 伝えれば、歌菜は分かりやすいほど驚いていた。
「いちいち驚くな」
「心臓が、ばくばく言って……」
 あわあわとする歌菜の頭をぽんと撫でて。
「そういうところが可愛いんだけどな」
 歌菜から、ボン、と何かが爆発するような音が聞こえた気がした。


 合流時間まであと少し。そろそろ切り上げなければならない。
 マントゥール教団について聞き取り調査を続けていたが、ジュニール カステルブランチとの合流時間が迫っている。
 最後の一人と決めて、男に声をかけた。
「マントゥール教団について何かご存じではありませんか?」
「……お嬢さん。人にものを尋ねるなら名乗らなきゃ失礼じゃない?」
「あ、すみません。秋野 空と言います。マントゥール教団の聞き込み調査をしているのですが」
 男は、空を見つめる。嫌な視線だ。
「……知らないなあ。ごめんね?」
「いえ、ご協力、ありがとうございました」
 丁寧に礼を述べて、立ち去ろうと踵を返す。
「ねえ、空ちゃん。今一人でしょ? もうちょっとここにいてよ」
 びくりと身を震わせ、近づいてくる男を見上げる。
「待ち合わせをしているので……」
「いいじゃん、少しくらい」
「もう、合流する、時間なので……」
 男が空の肩を抱く。触れられて、嫌悪感しかないのに、それでも動くことができない。
 兄の姿が、男にゆっくりと重なっていく。視界に、ジュニールの姿が映っているが、その姿をはっきりと認識することもできない。
 あの瓶を覗くまでは、もっと毅然と対応できたはずだ。それなのに。
「俺のソラに何か御用ですか?」
 呪縛を解くように、聞き慣れた声が空の耳に届いた。
 笑顔で近づいてきたジュニールは、空の肩に回された男の腕を丁寧に、けれど力ずくに無理やり引き剥がすと空を庇うように後ろに隠した。
「なんだよ、調査してるっていうから協力しただけじゃねーか」
「そうでしたか。ご協力頂き、ありがとうございます」
 ジュニールは、清々しいほどの笑顔を向けて男に礼を言う。
「けれど、ソラに触れていいのは俺だけですから」
 その笑顔が徐々に徐々に消え、無表情を取り繕ったかと思うと、その表情に身の凍えるような暗い影を灯す。
「お引き取りください」
 空に表情が見えないからこその、怒りをむき出しにした表情で、ジュニールは男に圧力をかけた。
 さらにジュニールは言葉を重ねる。
「もしもお聞き届けいただけないのなら……力ずく、となりますが」
 剣の柄に右手を、鞘に左手を掛ける。
「俺はそれでも構いませんよ」
 本気で構わないと思っているのだろうジュニールが、冗談とはお世辞にも言えない目で男を見る。
 竦み上がって動けなくなった男が、ふらつきながらジュニールの前から走り去っていく。
「ソラ、大丈夫ですか?」
 空に近づく男に、暗い感情が沸いたが、空の少しの変化を見逃すはずもない。怯えて動けなくなっている空を、今は抱き締めないほうがいい。
 そう思って、衝動を抑えながら、ジュニールは空に身体を向けるだけに留めた。
「ありがとうございます、ジューン」
 上擦った、少し震えた声。やはり判断は正しかった。そう思った刹那。
 空がジュニールの胸元に頬を寄せた。
 これに驚いたのは、当然ジュニールで、鼓動が高く打ったことが悟られたのでは、とか、抱きしめてもいいものか、と一瞬であらゆることを逡巡した。
「……怖かった、です」
 抱き締めるな、と言う方が無理だ。ジュニールは、躊躇いがちに空の肩に触れる。
「ソラ、抱きしめていいですか?」
「……はい」
 背に腕を回して、返事と共に空がジュニールを抱きしめる。触発されるようにジュニールが空を抱きしめた。

「私……ジューンにしか、触れられたくないです」

 抱きしめたまま、ジュニールは動けなくなった。
 この言葉を、どう解釈すればいいのだろうか。
 ジュニールは一人で狼狽え、浮かぶ負の言葉を否定して、前向き過ぎる暴走に似た感情も振り払いながら、冷静に。
 冷静に照れていた。


 エヴァンジェリスタ・ウォルフとの待ち合わせの場所へ向かっている途中、オンディーヌ・ブルースノウは見知らぬ男に声を掛けられた。
「失礼、人を待たせておりますの」
 目もくれずかわすつもりだったが、男は思いのほかしつこく食い下がってくる。
「そう仰らず、憐れと思って一時のお時間をいただけませんか」
「困りましたわね……」
 足を止めて、男を見つめる。
「これからわたくし、エヴァンジェリスタと待ち合わせていますのよ」
「おお、なんと愛らしいお名前! ぜひとも美女に囲まれる幸福を、この私目に――」
 仰々しいほどの言葉を口にしているが、その中身は実に安っぽい。
 オンディーヌは、面白そうだと口元に笑みを刻む。
「一緒に来てくださるのでしたら、構いませんわ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。エヴァンジェリスタもきっと喜ぶと思いますの」
 男はオンディーヌの思いがけない好意的な対応に、嬉々としている。
「エスコートしてくださいます?」
「喜んで」
 紳士気取りで差し出した男の腕を取り、エヴァンジェリスタとの待ち合わせ場所へと向かう。
 そこには、何とも愛らしい女性と、何とも大きな男がいた。
「あちらですわ」
 オンディーヌが視線を促す。
 男はオンディーヌをエスコートしつつ、二人に近づくや否や、女性に声をかけた。
「エヴァンジェリスタさんですね。どうもはじめまし……」
「そちらではなくってよ」
 オンディーヌの一言に、空気が凍った。
 エヴァンジェリスタは眉間に皺を寄せたまま、オンディーヌを見ていた。
「は?」
 男が不思議そうな顔をしていると、オンディーヌは二人いたうちの、男の方を引き寄せた。

「エヴァンジェリスタですわ」

 エヴァンジェリスタは楽しそうなオンディーヌに内心呆れながら、自分が今、どういった立ち位置にいるのかを瞬時に理解した。
「ごめんなさい、エヴァン。どうしてもわたくしと共にいたいと仰るものだから……」
「ほう……」
 エヴァンジェリスタは、高い位置から男を見下ろす。
「自分から貴女を奪うと――そう仰るか、成程」
 頷くエヴァンジェリスタだが、視線は完全に凶器と化している。
 射竦めるように睨みつけ、男が露程も動けなくなっていることを知りながら、一歩近づくような素振りを見せた。
「ヒ……ッ」
 男は何か、見てはいけないものを見たような、そんな悲鳴を上げる。
「エヴァンは取って食べたり致しませんわ」
 取って食べないかもしれないが、締め上げて食べるかもしれない。
 口をぱくぱくとさせ、男は動かなくなっている足を懸命に後ろへと踏み出そうとしている。つまり、とっとと逃げたいのだ。
 けれど、エヴァンジェリスタが男の手を取り、力を込めて握手する。
 男からすれば、この瞬間にもへし折られると思ったのだろう。顔がどんどんと青ざめて行く。
「二度と行き交う女性を煩わせることの無きよう」
 低く、地を這うような、腹にずん、と響くような声でエヴァンジェリスタは告げる。
「貴殿の面構えはしっかりと胸に刻ませていただきましたぞ。努々忘れられますな」
 努々忘れるどころか、夢に出てきそうだ。
 エヴァンジェリスタの圧力は、それほどまでに男を震え上がらせた。
 床を這うように逃げ出した男を見送って、オンディーヌが口を開いた。
「あまりにもしつこいから辟易してしまって……」
「貴女と言う人は……」
「それに、少々お灸をすえる必要があると思いましたの。ああいう輩を放置すると、他の女性にも被害が出ますもの」
 渋い表情のエヴァンジェリスタに、オンディーヌは信頼の眼差しで微笑む。
「流石、わたくしのエヴァンですわ。ありがとうございます」
 その言葉に、うっすらと赤面しつつ、それでもエヴァンジェリスタの渋い表情は崩れない。
「あまり無茶をなさいますな」
 瞼を閉じ、そう告げると、オンディーヌはゆっくりと笑みを刻んだ。



依頼結果:大成功
MVP
名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: シラユキ  )


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月08日
出発日 05月16日 00:00
予定納品日 05月26日

参加者

会議室

  • [7]秋野 空

    2016/05/15-22:14 

  • エヴァンジェリスタ:

    エヴァンジェリスタ・ウォルフと申します
    パートナーはオンディーヌ……

    む、何やら妙な雲行きのようですな……
    (ディーナと見知らぬ男の様子に注視し

  • [5]秋野 空

    2016/05/12-23:19 

  • [4]八神 伊万里

    2016/05/12-09:20 

  • [3]リチェルカーレ

    2016/05/12-07:28 

  • [2]桜倉 歌菜

    2016/05/12-01:18 

  • [1]桜倉 歌菜

    2016/05/12-01:18 

    桜倉歌菜と申します。
    パートナーは羽純くんです。
    皆様、よろしくお願いいたします♪

    は、はわわ…!ちょっと目を離した隙に、羽純くんに女の人が…!?
    ど、どどどどどうしよう…

    がんばりましょうねっ


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