ぽかぽかしましょう(錘里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 それはとある領地のとある領主の館にて。
「マリエル、君の旦那さんともう少し仲良くなりたいのだけど、何か手っ取り早い方法はないものだろうか」
「領主としての仕事に差し支えのない範囲でしたらスキンシップでも増やしてください」
 それから数日後。
「マリエル……君のお兄さんがやたらと構ってきて仕事が滞りそうなんだけれどどうしたら良い……?」
「ウィンクルムとしての仕事に差し支えのない範囲でしたら、ぶん殴って頂いて結構です」
 この繰り返しでは仲が良くなるわけがない。
 これではいけない。領主の妻、マリエルは考えた。
 神人ミハエルと精霊エリックは、二人共が小さいながら領主であり、己の仕事がある。
 ウィンクルムとしての活動以前に親睦を含める機会がなかなかないのはしかたのないことだ。
 そこでマリエルは思いついた。
 なかったら作れば良い。
「あなた、お祭りをしませんか?」
 我らの領地で、催しを。
 当然、マリエルが敬愛してやまないA.R.O.A.のウィンクルムたちも、招いて。

 と、言う訳で。
「菖蒲湯を作りました」
「作れちゃう貴方の行動力半端ないですね」
 そっとチラシを差し出してくるマリエルに、A.R.O.A.の受付は素直な気持ちで告げた。
 拝見しますね、とチラシを確認して要項を眺める。
 写真を見る限り、岩で囲った浴場に、菖蒲の葉を長いまま浮かべてあるようだ。
 それだけではなく、周囲には花菖蒲が植えてあり、見た目にも華やかになっているらしい。
「一応領地内で行いますので、男女で分かれる予定ではいます。入り口に足湯ゾーンも設けて気軽に楽しんで頂けるようにしたいと思っております」
「ふむふむなるほど。あ、水着の貸出あるんですね」
「着用は義務ではありませんが、体を洗うようなスペースは設けてないので、着ていても邪魔にはなりませんよ」
「なるほど分かりました。このチラシ、このまま活用させて頂きますね」
 にこりと笑みを返した受付に、マリエルも微笑んで。
 それから、皆様のお越しをお待ちしておりますと深く頭を下げた。

解説

消費ジェール:
入湯料として300jr頂きます

概要:
菖蒲の葉っぱが浮かんでいる露天風呂。温泉ではありません
岩で囲った周囲には花菖蒲も植えてあります
一本ならお持ち帰り頂いて構いません(アイテム発行はありません)
体を洗うようなスペースはありません。ぬくぬくするだけです

男女で分かれておりますが、水着の貸出も可能です
脱ぐのはちょっと…と言う方用に足湯も設けてありますのでお気軽にどうぞ

やれること:
菖蒲湯でぬくぬく
足湯でぬくぬく
両方という選択肢もありますが、どちらをメインにするかは明記頂けると幸いです

ゲームマスターより

ご無沙汰しております、錘里です。
菖蒲とあやめって違うんだぜってうぃきせんせーに教えて頂きながら、そういえば菖蒲湯って入ったことがないと気が付きました。
ウィンクルムの皆さんがぽかぽかになれたらいいですね。

領主組は特にいるともいないとも言いません。
関わりたければお声掛けして頂いて大丈夫ですが、関わらなくてもなんにも問題ありません。
お仕事の息抜きに精霊とイチャイチャしてくれていいのよ?というマリエルの気遣いのつもりなので、
彼らが働かなければならないような状況は避けて頂けますと幸いです

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  菖蒲湯に入るぜ。
風呂に入るなら素っ裸が基本だ。オレはためらいなく、脱ぐ!
すぱーんと!
湯の外ではタオル巻くから良いんじゃね?
見えなきゃいいだろ?

菖蒲のおかげで普通の湯より超リラックス出来るし。
全部脱いだから超解放感だし。キモチイイじゃん?
超癒されるよな。

むむっ!?
そんな効用倍増手段があるなら早く教えてくれよ。
菖蒲の葉で鉢巻き。早速作って締めてみる。
何だか菖蒲の香りがより判るかも。

風呂と言えば手鉄砲だぜ。
ラキアか花見て和んでいる隙をついてぴゅっぴゅっと!
お湯を飛ばしてやろう。
「ふふふ、油断したなラキア!」
ラキアからの鉄砲水は軽く避けて、更に飛ばす。
ふはは、射程は大事だな!
ラキアと楽しく遊ぶぜ。


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  菖蒲湯・水着着用

足湯の方がいいか?と尋ねたら、フィンが菖蒲湯が良いと言ってくれて…内心嬉しい
すっかり体の傷痕を見られる事に抵抗が無くなったみたいで…
なんて考えてたら、顔が緩んでたみたいだ…ナンデモナイ

菖蒲湯、初めてだ…良い香り
へえ…そんな効果があるのか
花菖蒲も綺麗で癒されるな…

よし、もっとフィンを癒そう
フィン、ちょっと足を貸してくれ…マッサージしてやる
最近学校で習ったんだ
温泉でやるとより血行が良くなって疲れが取れるんだって
足首を回して丁寧に指をマッサージ

え?俺はいい…
うわ…足、くすぐったいから、苦手なんだって…!
バシャバシャお湯を掛けて抗議

凄く癒されたから、マリエルさん達にお礼を言って帰りたい


鳥飼(隼)
  水着を借りる

他の人も入りますから。髪はまとめておきますね。
手伝ってくれるんですか?
なら、この束ねたところを持っていてください。
はい。っと。(タオルをピンで固定
ありがとうございます。助かりました。

ふふ。菖蒲湯、気持ち良いですね。(へにゃりと微笑む
気持ちよすぎて、ふあ。(口を手で隠し、小さく欠伸
寝ちゃいそうです。
本当に寝たりしないです。(といいつつ眠たげな目
でも、ちょっと嬉しいです。

隼さんの体格が羨ましいです。
それだけがっしりしてたら、女の人には間違えられないですし。
大きくなったら、男らしくなれると思ったんですけど。
無理でした。(うつらうつら

「寝ないですって」(そわそわしてる様子に見え、つい微笑む


フィリップ(ヴァイス・シュバルツ)
  菖蒲湯
こんな感じ…か…
…菖蒲? ああ、本当だ
なんか効果があったりするんかね
どっちでもいいけど

…ヘアゴム持ってないのかアンタ?
あっそ。ゴム貸せよ邪魔だろ入るのに
うるさい
ゴムで相方の髪を結う

なんとなく、疲れがとれる気がする
…にしても、菖蒲の葉っぱか…なんか、良いな
菖蒲の葉っぱを手に取り、眺める
…みたいだな。菖蒲って実際見たことないからよく知らないけど


アオイ(湖都)
  足湯でぬくぬく、気持ちいいですねえ。(足ぐっぱー)
あー……(目閉じ)
え? 寝てませんよ。

話すこと……ですか?
うーん……最近お仕事どうです?
改めて考えると、案外話すことってないものですね。
他の皆さんは菖蒲湯を楽しまれているようですが、折角の機会ですから、
一緒につかって、お話してみれば良かったですかね。

こうやってぼんやりしていられるのって、幸せだなって思うんです。
世の中にはオーガがいて、なんでかウィンクルムになってしまったけれど、
毎日普通に過ごせるって、すごいと思いませんか。

湖都さんがいて、一太がいて、ごはんがおいしくて、のんびりできて、
幸せです、僕。
ふふ、のんびりしましょう。



●君となら、その熱も
 菖蒲湯、とは。フィリップとヴァイス・シュバルツの感想は至極率直だった。
 耳に聞きかじった程度の情報はあるが、実際に見たことはない。ゆえに、ぷかりと葉っぱの浮かぶ露天風呂を前にして、なるほど、とまず一つ頷いた。
「こんな感じ……か……」
「おい、フィリップ。案内どおり菖蒲が植えてあるぞ」
 ヴァイスの声に視線を巡らせれば、なるほど、露天風呂を囲うようにして落ち着いた紫の花が植えられている。
「ああ、本当だ。なんか効果あったりするんかね」
 ちゃぷん、と。足先だけを湯につけ、波紋で流れていく葉とそよぐ花を見ながら小首を傾げるフィリップに、さあなと肩を竦めるヴァイス。
「けど露天風呂だし、なんらかの効果はありそうだけどな」
 少なくとも、目に鮮やかな光景は、癒やしの効果を持っている気は、するし。
 同じようにして足を入れたヴァイスに、どっちでもいいけど、と小さく呟いたフィリップは、ふと気がついて視線を精霊へとやる。
 長い白髪が、背に降ろされたままだった。
「……ヘアゴム持ってないのかアンタ?」
「あ? ゴム? 持ってるけど」
 フィリップの指摘を受け、ぐい、と。手首に巻いたゴムを示すヴァイスに、小さく溜息をつく。
「あっそ。ゴム貸せよ邪魔だろ入るのに」
 ごく自然に、そしてさも当然のように。手を差し出してヘアゴムを渡すように要求してくるフィリップの意図は、すぐに悟れた。
 結って、くれる。
 それが、少し意外だった。
「フィリップ……お前今日は優しいんだな」
 どういう風の吹き回しか、と言うように瞳を瞬かせたヴァイスに、薄ら、怪訝に瞳を眇めたフィリップは、うるさい、と突っぱねてゴムを渡すよう急いた。
 好意には、甘えておくものだ。こと、珍しく思える好意には。
 礼を言って手渡せば、手早く髪を結われる。纏まった髪を確かめるように触れて、ヴァイスは機嫌よく湯船に浸かった。
 熱が体に染みて、自然と溜息が零れる。
「なかなか良いな」
「なんとなく、疲れがとれる気がする」
 フィリップもゆっくりと湯に浸かり、同じように吐息を漏らす。
 同じ場所で、おなじ感覚を共有する時間は、それもまた、いいもので。
 たまにはこういうのも悪く無い、と。ヴァイスはしみじみとしていた。
 と。そんな彼の視界の端で、ざぱ、と音を立てて菖蒲の葉っぱが拾い上げられる。
「菖蒲の葉っぱか……なんか、良いな」
 しげしげと物珍しげに眺めているフィリップの手の中で、ゆらゆらと揺れている葉っぱを上から下まで眺めて、ヴァイスはふむと呟いた。
「想像してたのより、葉っぱ、割とでかいんだな」
「……みたいだな。菖蒲って実際見たことないからよく知らないけど」
 初めて見るものと、初めて体験するものと。
 それを、悪くはないと思える時間。
 今日は、なんだか穏やかで温かい日だと。露天の岩に凭れながら、フィリップは緩やかに思案していた。

●笑い合うぬくもり
 蒼崎 海十はとても機嫌のいい顔で湯船に浸かっていた。
 なんでもないつもりでいるけれど、自然と頬が緩んでいる状態。それを横目に見て、フィン・ブラーシュは不思議そうに首を傾げていた。
「どうかした?」
「え、いや、ナンデモナイ」
 わざとらしくはぐらかしつつ、海十は内心だけでまた笑う。
 二人がいるのは、菖蒲湯の露天風呂。他の領民やウィンクルもいる場所。
 海十は、ちらりとフィンの体を見る。そこには、痛ましい記憶と共に刻まれた無数の傷跡が未だ残っている。
 それを見られるのを、嫌がるだろうかと思って。足湯の方がいいかと尋ねたのだ。
 だが、フィンはけろっとした顔で、「やっぱり菖蒲湯だよね」と朗らかに笑った。
(すっかり体の傷痕を見られる事に抵抗が無くなったみたいで……嬉しいな)
 傷も記憶も消えないけれど、そこにあった悲嘆が薄れているようで。
 また、頬が緩む。でもそれはきっと、菖蒲湯のよい香りのせいも、あるのだろう。
「菖蒲湯、初めてだけど……良い香り」
「うん、リラックスできる香りだよね♪」
 揃ってゆっくりと香りを楽しんでから、そういえば、とフィンは思い出した様に告げる。
「海十、菖蒲って邪気を払う薬草なんだよ。しかも、菖蒲湯は血行促進、保湿効果、腰痛や神経痛を緩和する効果もあるんだ」
「へえ……そんな効果があるのか」
「ゆっくり浸かって疲れを取らなきゃね」
 体にいいらしい、ということだけは知っていたが、そんな効果があるなんて。
 植えられた花菖蒲も綺麗で、癒される。
 ならば、と。海十はフィンの足元に移動した。
「フィン、ちょっと足を貸してくれ……マッサージしてやる」
「マッサージ……何だか少し照れちゃうな」
 くすぐったげに笑いながらも、素直に岩に背を預け、足を差し出すフィン。
 その足をとって、最近学校で習ったんだ、と手技を披露する海十。
「温泉でやるとより血行が良くなって疲れが取れるんだって」
「そうなんだ……」
 足首をくるりと回し、指先も丁寧にほぐして。
 真剣な表情の海十を、フィンは頬を緩ませて見つめていた。
 一通り終わって、どう? と小首を傾げてくる海十に、うん、と大きく頷いたフィンは、満面の笑顔で礼を述べて。
「海十だって、疲れてるでしょ? 今度はオニーサンがマッサージしてあげる」
「え? 俺はいい……」
「遠慮しないでいいよ」
 ほらほら、と足に触れて、先ほど海十がしてくれたのを真似るようにマッサージを始めると、じたばたと暴れられた。
「足、くすぐったいから、苦手なんだって……!」
「え、涙目? そんなにくすぐったい?」
 驚きつつも、やめない。過るのは悪戯心。
「……止めて欲しかったら、さっき笑った理由を教えて?」
「だ、だからっ、なんでもないって……!」
「早く言えば楽になるよ」
 涙目で悶える海十に、可愛いな、と笑みを零していると、その顔にバシャッとお湯がかかる。
 拍子で足を手放してしまったが、それはもう良いのだ。
 やったな、と子供のように笑ってお湯をかけ返して、かけ合って、最後にはまた顔を見合わせて笑った。
「あー癒されたね!」
「うん。マリエルさん達にお礼言って帰ろうか」
 身も心もすっかり温まった二人は、主催の顔を過ぎらせながら、仲良く帰路につくのであった。

●託す、温熱
「他の人も入りますから」
 そう言って髪を纏め始めた神人の鳥飼を、同じく水着を着用して待機していた精霊、隼はまじまじと眺める。
 なんだか、苦労しているように見えて。つい、手が出ていた。
 纏まりから零れそうな髪に手を添えると、少し意外そうな鳥飼の声。
「手伝ってくれるんですか? なら、この束ねたところを持っていてください」
 指示には頷きながらも、その手が手伝おうとした意志ゆえなのかは、定かではないまま。
 示された箇所を持っていると、くるり、手際良くタオルを巻いた鳥飼が、最後にピンで留めて、笑顔で振りかえる。
「ありがとうございます。助かりました」
 そうは、言うけれど。
 鳥飼の所作は、どこか慣れているような手つきだったように、思う。
(手伝う必要は無かったのではないか……)
 少しだけ考えて、すぐにやめた。
 神人である鳥飼が指示をして、納得したのだ。それで、充分ではないか。
 少しの思案を挟んだ隼を他所に、鳥飼は一足先に湯船に入り、大きく息を吐きだした。
「ふふ。菖蒲湯、気持ち良いですね」
 緩く幸せそうな笑みを見て、やや遅れて湯船に浸かった隼はまた疑問を覚える。
 何故、自分を誘ったのだろう、と。
 鳥飼には精霊が二人いる。既に相応の絆を培ってきた精霊が、もう一人。
 しかしこの主は、それらを分け隔てして扱うことはせず、もう一人と同じように自分もこういった場所へ誘ってくるのだ。
 それが、不思議だった。
「ふあ……」
 また、少しの思案にくれていると、傍らから小さな声。
 口元を手で覆っているが、鳥飼が欠伸をしたのはすぐ分かるし、なんだか、眠そうだった。
「気持ち良すぎて……寝ちゃいそうです」
 ふわふわとした顔で笑う鳥飼の様子を確かめると、隼は彼を支えられるよう距離を詰める。
(余程疲れていたのか……)
 精霊二つを使い物にするためには、神人は一層働かなければならない。
 その疲れが出ているのだろうか。
 今にも寝てしまいそうだと胡乱な瞳で見ていると、考えていることが伝わったのか。鳥飼はふるりと首を振って苦笑した。
「本当に寝たりしないです」
「その状態で、その言葉は信用出来そうにない」
 指摘と物言いたげな視線を半分に閉じた視界で確かめて、ふふ、と鳥飼は笑う。
「ちょっと嬉しいです」
 心配してくれているのでしょう。と。穏やかに紡いだ鳥飼は、支えてくれようとする隼に、素直に寄りかかる。
 その体は華奢で、握れば折れてしまいそう。
 以前運んだ時に、その軽さに驚いた事を思い出す。よく生きている、と。
 知った神人の中でも一等細く見える。そんな鳥飼が、ぼんやりと呟いた。
「隼さんの体格が羨ましいです。それだけがっしりしてたら、女の人には間違えられないですし」
 うつら、うつら。
 夢と現を行ったり来たりしながら、独り言のように、鳥飼は羨望をこぼす。
「大きくなったら、男らしくなれると思ったんですけど。無理でした」
 幾つになっても我が身は細く、頼りなくて。
 それが少し、少しだけ、さみしい。
 その沈黙が、眠りへ落ちかけているように見えて、隼はそっと顔を覗き込む。
(寝る前に運び出すべきか……)
 見つめる視線に、視線が重なる。
「……寝ないですって」
 目を合わせれば見つけた、そわそわしているような隼の様子に、つい、微笑んで。
 言葉通り、運びだされることなく菖蒲湯を楽しむ鳥飼であった。

●暖かな笑顔
 風呂にはいるなら素っ裸が基本。それが駄目なら話は別だが、許可されているならセイリュー・グラシアに躊躇う理由はなかった。
「セイリュー、君は羞恥心をドコへ忘れてきちゃったのかな?」
「湯の外ではタオル巻くから良いんじゃね? 見えなきゃいいだろ?」
 水着を着ながら小さく溜息をつくラキア・ジェイドバインに、セイリューは腰にタオルを巻きながらけろりと笑う。
「菖蒲のおかげで普通の湯より超リラックス出来るし。全部脱いだから超解放感だし。キモチイイじゃん?」
「まぁ、それはそうなんだけどね」
 ラキアもそれ以上は何も言わずに肩を竦めて、共に菖蒲の浮かぶ露天風呂へと向かった。
 この夏は健康に過ごそう。そんな願いを込めて熱い湯に体を浸せば、心地よさに呆れとは違った溜息が漏れる。
「セイリュー、肩までしっかりお湯に浸かってね。君、春先に風邪で寝込んだでしょ」
 湯の中で目一杯体を伸ばしているセイリューに、ラキアが少し険しい顔をすれば、今度はセイリューが肩を竦めて、しっかりと体を沈めた。
 それを見とめ、うんうん、と笑顔で頷いたラキアは、一度周囲の花菖蒲を愛でるように眺め見てから、そういえばね、と切り出す。
「菖蒲湯に入れば熱い夏を丈夫に過ごせるって話だよね」
「んー? 詳しい話までは知らないけど、気持ちいいのは確かだよなー」
「うんうん。それでね、お風呂の中で菖蒲の葉の鉢巻きを締めると効用が更に高まるって話あるよ?」
「むむっ!?」
 ラキアの話を聞いたセイリューが、がばっと身を起こして、近くにあった菖蒲の葉を手にとった。
「そんな効用倍増手段があるなら早く教えてくれよ」
 そう言いながら菖蒲の葉で鉢巻を作り始めるセイリューの目は、活き活きとしていた。
(こういうの、大抵セイリューって試すんだよね)
 きゅっ、と器用に頭に巻きつけているのを微笑ましく見つめていると、出来上がったらしく、ぺたぺたと額を撫でながら、ふむ、と呟いた。
「何だか菖蒲の香りがより判るかも」
 実際にどう効果があるのかは分からないけど、いい香りはそれだけで満足で。
 それが分かる笑顔に同様の笑みを返して、ラキアは周囲の花菖蒲に改めて視線を移す。
 紫色の花は、とても美しく艶やかで、大事に育てられたのが分かる。
「セイリュー、花菖蒲も綺麗だよ?」
 和やかな気分でセイリューを振り返ったラキアの顔に、びしゃっ、とお湯が掛けられた。
「わっ!」
「ふふふ、油断したなラキア!」
 手を組んでぴゅぴゅっとお湯を飛ばしてくるセイリューの悪戯っ子のような顔に、むむ、とラキアは唸る。
「奇襲なんでズルい」
 えい、とお返しに水を飛ばすが、ラキアの位置からではセイリューまで届かないではないか。
 セイリューからの水攻撃は、ばっちり的中してくるというのに。
 射程が違いすぎる事にショックを受けていると、また追撃。
「ふはは、射程は大事だな!」
「セイリュー、随分飛ばすね? 上手だなぁ」
 いつの間にか奇襲されたことはすっかり忘れて、セイリューの手元を真似て夢中になって水鉄砲を楽しみ始めるラキア。
 レクチャーしたり掛け合ったり、セイリューもまた、全力で楽しんで。
 すっきりとした気分で、菖蒲湯を後にするのであった。

●寄り添った温度
 賑やかな声が、衝立の向こう側から聞こえてくる。
 それを聞きながら、アオイは入り口脇の足湯で、ぬくぬくと菖蒲の湯を楽しんでいた。
「気持ちいいですねえ」
「ほんと疲れが抜けるわ……」
 湯の中で足の指を曲げ伸ばししているアオイに同意を返し、精霊の湖都もゆるりと脱力する。
 と。傍らの神人がすっかり気の抜けた声を漏らしながら目を閉じるのを見つけて、おい、と声を掛けた。
「アオイ、起きてるか?」
「え? 寝てませんよ」
「いや、ぜったいうとうとしてただろ」
 まったく、と呆れたように呟いて、寝るくらいなら何か話せと促す湖都。
 それに、アオイは一度瞳をぱちくりと瞬かせてから、うーん、と唸った。
「……最近お仕事どうです?」
「仕事ぉ? なんでそんな話なんだよ」
「いえ、改めて考えると、案外話すことってないものですね」
 自分の知らない湖都の話となると仕事以外思いつかなかったという、ただそれだけ。
 ウィンクルムとしての仕事もあるし、程々でぼちぼち。以上。
 当たり障りのない話を選んでみたら、思いの外会話が広がらなかった。
 代わりに話の種となったのは、再び聞こえてくる賑やかな声。
「他の皆さんは菖蒲湯を楽しまれているようですが、折角の機会ですから、一緒につかって、お話してみれば良かったですかね」
「湯? お前、行きたかったら行って来いよ」
「いえ、そういうわけではなく……」
 ウィンクルム同士の交流というのは意外と少ない。
 同じ場所で他愛ない話をするというのも楽しかったかもしれないと思ったのだと告げるアオイに、湖都はふうん、と気のない返事。
 そんな彼に、くすりと笑って。アオイは建物の壁に背を預けてぼんやりと視線を上げる。
「こうやってぼんやりしていられるのって、幸せだなって思うんです」
 世の中にはオーガがいて、なんでかウィンクルムになってしまったけれど。
 それでも、いや、だからこそ。
「毎日普通に過ごせるって、すごいと思いませんか」
 不意に向けられた視線に、湖都は思案するような間を返して。
「普通に過ごせるのがすごい、か。考えたことねえよ。なにせそれが『普通』だからな。俺から見たら、そんなこと言うお前がすごいわ」
 ごく、素直な感想を述べる。
 その簡単なやり取りが、アオイを穏やかに微笑ませた。
「湖都さんがいて、一太がいて、ごはんがおいしくて、のんびりできて、幸せです、僕」
「まあ、確かにお前の飯はうまい。お前がいなかったら、ぜったいまともな生活できねえわ、俺」
 辟易したように肩を竦めた湖都に、アオイは小さく笑って、のんびりしようと提案する。
「のんびり、ねえ……」
 家でゴロゴロとは違うゆったりとした過ごし方も、たまにはいい。
 なんて思っていたら、肩に、重み。
「っておい、よっかかってくんな、お前寝るだろそれ! 目閉じるなって!」
 ころん、と凭れかかってきたアオイに、湖都の盛大な抗議が返る。
「人の頭って重いんだぞ、せっかく湯につかってるのに、俺の肩が凝るじゃねえか」
 文句に文句を重ねるけれど、どかさない。
 のんびりしやがって。悪態をついた湖都は、ただやれやれと、その重さを許容するのであった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:セイリュー・グラシア
呼び名:セイリュー
  名前:ラキア・ジェイドバイン
呼び名:ラキア

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月07日
出発日 05月14日 00:00
予定納品日 05月24日

参加者

会議室

  • [8]蒼崎 海十

    2016/05/13-23:58 

  • [7]フィリップ

    2016/05/13-23:46 

    フィリップだ…
    足湯も捨てがたかったけど
    こっちは、菖蒲湯にしようと思う。

  • 改めて、セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    オレ達は菖蒲湯でぬくぬくしようと思っている!
    すっげー楽しみ。良い時間を過ごそうぜ。

  • [5]アオイ

    2016/05/12-15:24 

    こんにちは。
    僕はアオイ、となりの疲れたおじさんは湖都さんです。
    僕たちは足湯でぬくぬくしようと思っています。

    皆さん、ゆっくりと日々の疲れを癒せるといいですね。

  • [3]蒼崎 海十

    2016/05/12-01:15 

  • [2]蒼崎 海十

    2016/05/12-01:15 

    蒼崎海十です。
    パートナーはフィン。
    皆様、宜しくお願いいたします!

    俺達も菖蒲湯に入ろうと思っています。
    フィン曰く、色々効能があってお得なんだとか…。

    楽しい一時になりそうですね!

  • [1]鳥飼

    2016/05/10-20:38 

    僕は鳥飼と呼ばれています。
    よろしくお願いしますね。

    菖蒲湯もいいですし、あえて足湯だけって言うのもいいですよね。
    うーん。
    隼さん、どちらがいいとかありますか?

    隼「……」(一瞥して沈黙

    なら、菖蒲湯にしましょうか。


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