キツネの狩り道で(叶エイジャ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 とある地方の森の中。
 かつて貴族の領地であったというその森で、貴族たちはキツネ狩りを楽しんだらしい。
 猟犬を放ち、馬を駆り、仕留める。
 今では廃れた風習だ。

 廃れはしたが、森の中の道は今も残っていて、そこを馬に乗って周遊する催しが開かれている。
 地元の村が観光資源として企画したらしい。
 初心者コースではまず乗馬体験をし、ガイドに連れられて周る。
 すでに乗り慣れている人は、上級者コースで。こちらは目的地まで自分のペースで進める。
 どちらも、途中に大きな草原があり、そこに建てられたロッジ風レストランで昼食休憩となる。運が良ければ狐を見かけることもあるだろう。
「どうでしょう?」
「どうでしょう、って……」
 馴染みのA.R.O.A.職員(女性)に、神人は首を傾げる。
「あなたと、私が行くってこと?」
「ああ~いいですねぇ。いっそ神人&職員で女子会……って、違いますよ! ウィンクルムとしてこういう場所はどうかなって話です!」
 バンバン、とテーブルをたたいて力説する職員。
「男女ペアなら参加費もお得らしいし、貴女たちも、参加してみません?」
「ああ、そういうこと」
「なお、最近人気が出てきたのか、需要に対して馬の数が足りていないようで」
「……はい?」
「場合によっては、一頭に相乗りになるかもしれないので、あしからず!」
 

解説

こんにちは。叶エイジャと申します。
今回は楽しくキツネ狩り……の行われていた森へお出かけです!

参加費:800Jr
キツネ用のエサ:追加100Jr

・できそうなこと
初心者コース:
まずは馬に乗る練習を。
できた一方が、もう一方がまごついているのを見守ったりアドバイスしたり(あるいは乗れない人が悔しがったり?)……という感じになるかもしれません。

練習が終わったら、二人でコースをゆっくり回ります。
ガイドさんがいるはずですが、彼or彼女たちは空気を読んでくれます。
パートナーがガイドさんと仲良くして、それでちょっと不機嫌に……というシチュエーションもあるかもしれません。

・上級コース
経験のある方は練習なしで、または練習して大丈夫になったという方は、長いコースを。
ちょっとくらい、早駆けもいいかもしれません。
こちらは二人の会話がキモとなる予定。プラン頑張ってください!

・共通
全コースの途中には草原があり、そこで食事をすることができます。
レストラン内で食べて、休憩は草原で。
中で食べず、草原に持っていって食べる。
どちらでも大丈夫です。が、汚したりゴミを出さないようにしましょう(ツアー注意書きより)。

キツネ用のエサも売ってます。
場合によっては姿を見せてくれるかもしれません。

ゲームマスターより

上で自己紹介してた!?
えっと、改めまして叶エイジャです!

いやあ、急な都合で二頭に乗るはずが一頭に相乗りになるとか。
一頭に相乗りドキドキ!――が気を利かされて二頭になってちょっと残念とか。
近づきたいけどお互い馬に乗ってるから縮められないよ、とか。
ちょっと込み入った話ができたと思ったら、お馬さんのせいでタイミングを失うとか。
上記に関係なく二人で道中を心ゆくまで楽しむとか!
よくありますよね!
ね!

はい、冗談はともかく、皆様がこの森で、一体どんなシチュエーションを過ごすのか。
楽しみにしつつ、皆様の参加とプラン、お待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リヴィエラ(ロジェ)

  初心者コースへ

リヴィエラ:

お馬さんにきちんと乗れるか心配なので、
ガイドさんに教えて頂きましょう、ロジェ?
(あわわ、一頭に相乗りだなんて…胸の音が聞こえてしまいそう)

(馬に揺られながら、男のガイドと仲良さげにお喋り)

●レストランにて

ロジェ、どうして怒ってらっしゃるのですか?
(不機嫌そうなロジェの顔をチラチラ)

あ、あの…外の、草原にも出られるみたいなのです。
良かったら、外に出て休憩しませんか?

●草原にて

わぁ…気持ちの良い風ですね、ロジェ…
? お父様がどうかなさったのですか?
…? うふふ、変なロジェですね。


シルキア・スー(クラウス)
  彼が乗馬が得意なのは知っている
以前の生活で必須スキルだったとか
機会があればと思ってたそうなので誘われ即OK

乗馬と馬について彼から教授
首撫でよろしくねと馬にも挨拶

彼の手綱で前に乗り景色眺めながら乗馬堪能
アドバイスの度顔を寄せられちょっと緊張するけどメンヘルで平常心コントロール

キツネは前の生活圏じゃしょっちゅう遭遇してた
久し振りに見たいかも

歌?ええっ(こういうお願い珍しい
そ、そんな大した事ないと思うけどじゃあ…

愛読書百葉集の詩を即興ポップ調で歌う
振り返ると頷いて笑顔をくれる

ご静聴ありがとうございました
くす

昼食は草原
餌も仕掛けた
彼とサンドイッチ+飲物

今日は誘ってくれてありがと
満面笑み
心が晴れた様
感謝


真衣(ベルンハルト)
  初心者コース

ガイドさん。今日はよろしくお願いします!(笑顔で挨拶
馬にのれる身長って、どのくらいからかしら?
ハルト、もちあげてのせてほしいの。
2人のりしても大丈夫? 重くない?
大丈夫ならハルトといっしょにのるね。

ハルトが後ろなのね。
馬のたてがみってごわごわしてる。(撫でる

きつねはいっぱいいるのかしら。
きつねにはさわっていいの? なでてみたい。

お昼はレストランで食べて、草原できつねにえさをあげて。
きつねにさわれたら、背中をちょっとだけなでる。

休みおわったら、またハルトといっしょにのる。
生き物にのるってふしぎな感じ。思ってたよりゆれるのね。
ハルト。私が馬にのれる身長になるまでよろしくね。(笑顔で見上げる


シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  初級者コース
…馬
乗れる、かしら…分野じゃないのよね
…まあ。そうね
意外。あんた、乗れるの?
…。とりあえず、頑張ってみるけど

ちょっと、どういう意味よ…それ
…にしても、あんたって馬の乗り方、詳しいのね
…普通、ね…
(戦闘中はそんな素振り一切見せなかったけど最近、グルナ思い詰めてたから多少はリフレッシュできればいいけど…)EP30詳細有

草原(レストラン内で食事済)
馬、結構かわいいかも
あの目とか。かわいいと思うんだけど
そう? わりと好きなんだけど
そう、ね…大事に、かわいがってあげないとね
あんたも、悩みがあるなら相談しなさいよね。…これでもあんたのパートナーなんだから


クロス(ディオス)
  ☆上級

☆心情
「馬に乗って散歩かぁ…楽しそうだ(微笑
草原で休憩なら弁当作って食べるのも良いなぁ…
ふふっ任せてくれ、飛っきり美味しいの作るからさ(微笑」

☆行動
・騎乗は出来るが今回は相乗り
・可能なら調理スキルで弁当とレジャーシート持参
・草原に着いたら弁当食べる
「うん平気
それにしても乗ってると風が吹いて気持ちいな…
おう全然良いぞ!」

☆草原
「ここが草原か…
凄く良い所だな…
おう!今日の弁当は和食で攻めてみたぜ
ディオは和食が好きだったろ?
どうぞ召し上がれ(微笑
ふふっ口に合って安心したよ♪」
・片付け後精霊のあぐらの上に姫だきで乗せられる
「にゅやっディオっ!?
ご、御免…
あぅ、ディ、オ…(疲れてたのか寝てしまう」



「お馬さんにきちんと乗れるでしょうか?」
 リヴィエラは近づいてくる馬に、期待と不安をないまぜにした視線を向ける。ガイドのテイルスが二カッと笑った。
「一頭しか用意できず申し訳ないっス。んでも優しいヤツだから安心してくださいね」
「触ってもいいですか?」
「どうぞどうぞ! 初めてっスか?」
「いえ、以前成り行きで乗ったことが。ただ、あまり上手く乗れなくて……」
 おずおずと手を伸ばして馬に触れるリヴィエラ。改めて乗るとなると緊張していたが、こちらを見つめてくる大きな馬の目を見ると、それも和らいできた。
「そうそう、リラックスっス。緊張すると伝わっちゃうっスからね」
「はい……」
 そうして触れ合っていると、乗ってみようということになった。これは経験があったおかげか、すんなり乗れる。
「じゃ、彼氏さんもどーぞ」
 しかしガイドがそう言ったことで、リヴィエラは気づいた。
 馬は一頭のみ。つまりロジェも同じ馬に乗るのだ。
(あわわ、一頭に相乗りだなんて……胸の音が聞こえてしまいそう)
 早鐘を打ち始めた鼓動をごまかすように、リヴィエラはロジェに笑いかけた。
「ガイドさんに色々教えて頂きましょう、ロジェ?」
「……そうだな」
 精霊の口調が硬いことに、神人はこの時気付かなかった。

(馬が相乗りなのは構わない。彼女を支えられるからな)
 リヴィエラの後ろに乗ったロジェは、彼女の空色の髪から漂う香りが好きだったし、彼の胸に背を預けるのが恥ずかしいのか、ぎこちなく体重をあずけてくる彼女の初心な面が微笑ましくもあった。
 が。
「それじゃゆっくり進むっスね」
 ……でも何で、ガイドが男なのか。
(ああもう、俺のリヴィエラに気安く話しかけるな……!)
 この幸せなひと時に、どうして彼女と他の男の楽しげな会話を聞かねばいけないのか。
「あ、その笑顔いいっスね。可愛いっス!」
 ガイドをひと睨みする。
「おい、今の話は乗馬の練習と何か関係があるのか?」
 釘は刺しておかねばならない。
「え、何がっスか?」
 こいつ、天然か……!
 アホみたいな声と顔(ロジェ主観)で不思議そうに返され、ロジェは血管がぶち切れるかと思った。

 リヴィエラにとって、今回の乗馬体験は良いものとなった。
 練習したおかげで馬と心を合わせて進んでいる気がするし、森の中は空気が澄んでいるし、静かで鳥の声は綺麗だし。
 ただ分からないのが、
「ロジェ、どうして怒ってらっしゃるのですか?」
 昼食休憩に寄ったレストランで、不機嫌そうなロジェの顔をチラチラと見るリヴィエラ。
 何かあったのだろうか。
「……君は警戒心がなさすぎる!」
「は、はあ」
「見知らぬ男と仲良さげに……帰ったら説教だからな」
 彼は何のことを言っているのだろう?
 話題を変えるため、リヴィエラは視線を外へと転じた。
「あ、あの…外の、草原にも出られるみたいなのです。良かったら、外に出て休憩しませんか?」
「草原……?」
 どぎまぎして返答を待っていると果たしてロジェはうなずいてくれた。
「そうだな、良いかもしれない。風が気持ち良さそうだ」

 森の中にできた草の原を、風が薙いでいく。
 海原のようなその光景に、神人は目を細めた。
「わぁ……気持ちの良い風ですね、ロジェ」
「風が通り抜けて、気持ちが良いな」
 なびく彼女の髪を手にすくい、ロジェは愛おしいそれを優しく撫でた。
「――――」
 ふと、遠くを見つめる彼女の横顔を見て、曇りのない空と同じ瞳を見て、精霊の顔は一瞬歪んだ。
「……リヴィエラ」
「え?」
 リヴィエラがロジェに向き直る。意を決した。
「君の父親は、俺が――」
 こ、ろ……。
 言葉はしかし、青く輝く目に射抜かれた気がして、紡げなかった。
「お父様がどうかなさったのですか?」
「……いや、何でもない。気にしないでくれ」
「……? うふふ、変なロジェですね」
 屈託のない笑顔。
 ただ今は、それがロジェの心のまやかしを苛んだ。


 ブルルルル……。
 たぶん、擬音で書けばそんな表記になるだろう。
 鼻息荒く吐き出した馬を、シャルティは紫水晶の瞳でじっと見つめていた。
「馬……乗れる、かしら」
 なんとかなるかしら、とは思ってはいたものの。
「正直……分野じゃないのよね」
「占い師とかは乗らねぇだろーしな、馬は」
 グルナ・カリエンテが進み出た。距離感をもてあます神人に代わって、ぽんぽんと馬の身体に触れる。
 と思っていたら、地を蹴った精霊の身体は軽やかに馬上におさまっている。無造作な結果に、シャルティの目にも驚きの色が混ざった。
「意外。あんた、乗れるの?」
「あ? あー。まあ、な」
 言葉を濁すグルナ。
「で、どうなんだよ? 乗れそうか?」
 疑問に、神人はしばし逡巡した。
「……とりあえず、頑張ってみるけど」

 結局、グルナが乗り方を教えることになった。
「まず手綱引いて、角っぽいやつと一緒に持つ」
「これ?」
「おう。んで、鐙に足かけて、背もたれみてーなとこ掴んで一気に上がる」
「足をかけて、掴んで一気に……!」
 言葉を反復し、最後に力を入れて身体を上へ。
 そうすると、視線の高さは上昇したまま、そこで止まる。
 思いのほかすんなりと、シャルティは馬上の人となっていた。
「あ……」
「おー、一回でできるとは思わなかったな!」
「ちょっと、どういう意味よ。それ」
 一瞬湧いた感情もなんのその、グルナの言葉にシャルティは眉を寄せた。
「……にしても、あんたって馬の乗り方、詳しいのね」
「そうか? 別にフツーじゃね?」
「普通、ね」
 一度で乗れたのはアドバイスが的確だったから。大雑把ではあったが的を射ていたとシャルティは思う。
 おそらくはグルナは、「馬に乗るのが普通」という経験を――たぶん子どもの頃に――しているのだろう。
 そういった彼の過去を、シャルティはほとんど知らない。
 自分の母親と彼の間に何があったのかも、分からない。
(戦闘中はそんな素振り一切見せないけど……色々、思い詰めているみたいだったし)
 この前の面談でグルナが言ったことは、シャルティにとっても気掛かりなことであった。
 ただ気にはなるが……詳しい話は、もう少ししてからでいいと思っていたりする。
(パートナーだし、話してくれるまで待てばいい)
 それに、なんというか今のグルナは自然体で、肩の力を抜いている気がする。
(あんたも多少はリフレッシュできればいいんだけれど)
 心の中でそう呟きながら、シャルティはグルナと森へと入っていった。

 結局、シャルティとしてもかなり楽しんだ形になった。
「結構かわいいかも」
 途中にあるレストランで食事が終わった後。柵につないだ馬を撫でながら、神人はそんな言葉を漏らした。
「馬がかわいい? そうか?」
 聞いた精霊が、珍妙なものでも見るような目つきをしてきたのは、納得いかなかったが。
「目とか。かわいいと思うんだけど」
「……お前の感覚、全くわかんねぇ」
「そう? わりと好きなんだけど」
 むつかしそうな顔をするグルナ。どこか野生児じみた一面を持っている彼だが、馬が可愛いとはならないらしい。
 彼なりに気を利かせたのか、しばらく唸った末に首を振って、口を開いた。
「まあ……大事にすりゃあ、こいつらも応えてくれる。だから大事に乗れよ? シャルティ」
「そう、ね……大事に、かわいがってあげないとね」
 たてがみに手を滑らせて、シャルティはグルナを見た。
「あんたも、これからも悩みがあったなら相談しなさいよね……これでもあんたのパートナーなんだから」
「あー、まあ……おう」
 この前のことを思いだしたのか。少し歯切れ悪くなるグルナ。
「もちろん話せる範囲でいいから」
「わぁってるよ。そういう時が来て、必要だと思ったらな。話すさ」
 ややうるさそうな返事は、それでも、彼女の受け入れる余地や覚悟を認めたということなのだろう。
 風が吹いて、草がさざ波を奏でていく。
「……なあ。今、あんた『も』って、馬と俺を同列に扱わ――」
「そんなわけないでしょ」
 シャルティの返事は微妙に早かった。


「ガイドさん。今日はよろしくお願いします!」
「はい。こちらこそよろしくお願いしますね」
 笑顔で挨拶する真衣に、馬を連れてきた女性ガイドはにこやかに返事をした。
「ごめんなさい。もう少し小さな子を用意できれば良かったんだけれど。お二人とも、乗馬は今日が初めてということですね」
 ベルンハルトは首肯し、馬を見る。予想より小さかった。
 だが、それでも、
「真衣が乗るには身長が足りないな」
「馬にのれる身長って、どのくらいからかしら?」
 あぶみは足よりも胸や顔に近い。なにより間近で見る馬の迫力に、真衣はマリンブルーの瞳を大きくして馬に見入っていた。
「ハルト、もちあげてのせてほしいの!」
 おっかなびっくり、でも乗りたくてうずうずしている真衣に微笑みつつも、真衣が一人で乗るのは心配なベルンハルト。
「ガイドと相乗りか、俺と相乗りのどちらにする?」
「ハルト!」
 即答してから、真衣は不安そうな顔つきになった。
「でも、2人のりしても大丈夫? 重くない?」
 精霊とガイドは、思わず顔を見合わせて笑った。

 乗馬技術的にガイドと乗る方が安全だと思ったが、大丈夫とのこと。
 まずはベルンハルトが一人で乗り、手綱や指示の扱いを教えてもらう。元々レンジャー部隊だったこともあって、身体を通しての感覚は馴染みやすい。
「どうです?」
「歩かせるのはなんとか」
 教えられた通りに馬に跨りながら、コツを覚えていく。
(真衣との相乗りだ。止まり方は確実に覚えないと)
「ハルト、ファイトー!」
 応援の声に手を振ってこたえる。
 そうしているうち、合格のサインが出た。

「うわぁ……高いね!」
 精霊に持ち上げられ、真衣は生まれて初めて馬の背に乗った。
「ハルト、お疲れ様っ」
 なんといっても、いつも見上げている彼よりも高い位置にいるのが新鮮らしい。
 ちょっと嬉しそうに頭を撫でてくる真衣。笑顔を返し、ベルンハルトも馬に乗った。
「馬のたてがみってごわごわしてる」
「そうなのか?」
 真衣が撫でているたてがみに触れる。見た目より硬い。さっきまで操作技術に専念していたから、改めて新鮮な驚きが湧いてきた。
「他に、なにか気づいたことはあるか?」
「うーん……あ!」
 真衣が顔を上に向け、ベルンハルトに下から笑いかける。
「背中があったかい!」

 森の中は木々がまばらで、太陽が高いこともあってか明るかった。木漏れ日の中を歩いていると、馬の肌の上をまだらの絨毯が通り過ぎていく。真衣と一緒に手綱を握りながら、彼女が落馬しないようベルンハルトはゆっくりと歩かせた。
「きつねはいっぱいいるのかしら」
「運が良ければ森の中でも見れますよ」
 ガイドが真衣にそう答えた時、ベルンハルトは木々に紛れて動く影を見つけた。
「いた」
「え、どこ?」
「ほらあそこ――あっ、消えてしまったか」
 彼の指先を目で追った時には狐は隠れてしまっていて、真衣が肩を落す。名残惜しそうな視線を木陰に投げる。
「また見つけられるよ。草原ではよく会えるみたいだし」
 人に近づいてくることも多いらしい。
「きつねにはさわっていいの? なでてみたい」
 真衣のその願いは、レストランでお昼を食べた後に叶った。

「わぁ!」
 真衣が草の上に餌を放って離れると、狐たちが食べ始める。真衣に害はないと思ったのか、神人が近づいても逃げなかった。小さな手が背中をほんの少し、なでていく。
「ハルトー」
「真衣、餌を上げ過ぎてはいけないよ」
 ベルンハルトは狐たちを刺激しないよう、小さな声で注意する。
 やがて餌を食べ終わった狐たちが帰っていって、真衣の至福のひと時は終わった。
「さあ、帰ろうか」
 陽はそろそろ赤くなりつつあった。

「生き物にのるってふしぎな感じ。思ってたよりゆれるのね」
 草地に長く伸びた影を見ていた真衣は、弾かれたように精霊を見上げた。
「ハルト。私が馬にのれる身長になるまでよろしくね」
――これは、乗馬の練習をした方がいいかな。
 苦笑しつつ、ベルンハルトは彼女の頭を撫でる。
 影はゆっくりと進んでいった。


「馬に乗って散歩かぁ……楽しそうだ」
 ディオスから「クロ、馬に乗って散歩しないか?」と言われ、それから詳しく話を聞いたクロスは微笑を浮かべた。
「草原でのんびりしよう」
「そうだな……草原で休憩なら、弁当作って食べるのも良いなぁ」
 想像して、まるでもう草原にいるような表情のクロス。
「クロの手作りか、それは楽しみだな」
「任せてくれ、飛っきり美味しいの作るからさ」
 そう言って笑顔を見せる彼女に、ディオスもまた微笑を浮かべるのだった。

 そして当日。
 お弁当とレジャーシートを持って村にやって来た二人は、アクシデントに見舞われた。
「馬の数が足りない……?」
「そう言えば人気だと言ってたな」
 二人で早駆けする予定だったが、現在は一頭しかすぐに用意できないらしい。
「クロ、相乗りでも大丈夫だろうか?」
「もちろん」
 元より経験者。上級コース希望だったこともあって騎乗に問題はない。
 道中も問題なく、のんびりと二人で進んでいく。
「クロ、疲れてはいないか?」
「うん平気」
 姫抱きされ前に乗ったクロスが、森の空気を吸い込む。
「それにしても乗ってると風が吹いて気持ちいな」
「そうだな、心地良い風だ……もう少しスピードを上げても平気か?」
 風を、もっと感じるために。
 意図を察したクロスが楽しげに瞳を輝かせた。
「おう。俺は全然良いぞ!」
「では、しっかり捕まっていろ!」
 打てば響くような返答に笑みを見せると、ディオスは馬に促した。指示に応じた馬が徐々に足を速め、早駆けとなっていく。身体が感じる風が比して強まっていく。
「ふふっ、やっぱり『馬に乗る』はこういう感じじゃないとな」
「ああ――よし、更に上げるぞ!」
 馬がさらに速度を上げる。
 森に、二人の楽しげな声が響いた。

「ここが草原か……凄く良い所だな」
 しばらく駆けると森が開けて、二人の視界に草地が顔を見せる。
 さわやかな風に出迎えられ、それがはやる鼓動に気持ちいい。
「あぁそうだな、これなら心が休まる……さて、昼餉としよう」
 時刻はもう昼だった。適当な場所を見繕い、シートを広げた。お弁当箱を手にしたクロスにディオスは意味ありげな視線を投げる。
「期待してもいいのだろう?」
「おう! 今日の弁当は和食で攻めてみたぜ」
 開かれた中身に、ディオスのまなじりがピクリと反応した。
「ディオは和食が好きだったろ? どうぞ召し上がれ」
「……流石クロだな。俺の好みばかりだ」
 口ではそう言いつつ、すでに意識は食事の方に反応している。
「頂きます――――あぁ、美味しいな」
 手料理にディオスの味覚中枢が陥落した。クロスには勝者の笑み。
「ふふっ、口に合って安心したよ♪」

 風の吹く草原とゆるやかに流れる雲を眺め、二人の昼は過ぎていった。
「そろそろ行くか」
 片付けも終えた後、クロスがあくび混じりに言う。眠くなってきたのだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。これで落馬なんて――!?」
 短い悲鳴。近くの木に寄りかかっていたディオスが、神人をあぐらの上に姫だきで乗せたのだ。
「にゅやっ……ディオっ!?」
「らしくない隙だ。クロ、最近俺達の事で疲れてるだろ」
 狼狽えていると、ディオスが間近でそんなことを言ってくる。クロスは思わず視線をそらしてしまった。
「ご、御免……」
「謝る必要はない。焦らずゆっくり決めれば良い」
 そう言って静かに微笑むと、ディオスはさぁお休み、とクロスの頭を撫でる。
「少し寝て休もう。今日はのんびり休んでくれ」
「あぅ、ディ、オ……」
 やはり疲れていたらしい。
 照れたような反応を見せていたクロスだったが、徐々にまぶたが降りていく。
「俺は……クロが幸せであればそれで良い」
 完全に寝入った彼女の口元へと、そう言った精霊は口づけをした。


 気まぐれな風が吹いて、森の奥から枯葉が転がってきた。
 枯葉は、シルキア・スーとクラウスの乗った馬の歩みを縫うようにして、反対側の木々へと過ぎていく。
「良い香りね」
 森の香りには優しい陽光の匂いが混じっている。シルキアが胸いっぱいにその香りを吸い込み揺られていると、クラウスの柔らかな声が紡がれてきた。
「体の力が良いあんばいで抜けてきた」
「そう?」
 精霊がうなずく。
「馬に慣れてきたのだろう」
「クラウスのアドバイスのおかげね」
 言いつつ、シルキアは心の中でくすりと笑った。
 ――やっぱりクラウス、楽しそう。

 クラウスがシルキアを誘ったのは数日前のことだった。
「依頼続きであったし、気分転換にどうだ」
 そう言う彼が乗馬が得意なことを、シルキアも知っていた。
「乗り方、教えてくれるの?」
「以前は生活に欠かせない技術だった。だが、それを引いても馬に乗ることは楽しい。以前から機会があればと思っていた」
 その様子からは「楽しませたい」という雰囲気が伝わってきて、シルキアは即答でOKしたのだった。

「よろしくね」
 そして当日。
 シルキアは用意された馬の大きさに唸る。
「やっぱり大きい。上手く乗れるかな」
「コツを掴めば大事ない」
 そう言う彼に教授され、乗り降りの練習をしたのが数時間前。
 今、クラウスは手綱で馬を操り、シルキアはその前に乗ることで、ゆっくりと動く景色を眺めながら乗馬を堪能していた。
 ――アドバイスの度、顔を寄せられるのが緊張したけど。
 そのたびに平常心、平常心。と心のコントロールを行う。
「キツネ、久し振りに見たいかも」
 馬の揺れにも慣れてきたので、余裕が生まれてきた。この森周辺には狐がいるという。前の生活圏ではしょっちゅう遭遇していたので、懐かしくもあった。
「ああ、今の環境に越して見なくなった。餌を仕掛けるか」
「草原なら大丈夫かな~」
 馬の揺れに合わせて、シルキアが頭を揺らす。不意にクラウスが呟いた。
「良い香りだ」
「森のこと?」
 くるりと後ろを向くと、精霊は少し目を丸くした。
「良い香りよね」
「む……ああ。そうだな」
 珍しく、やや歯切れの悪いクラウス。
 先日贈ったヘアオイルの香りのことだとは、さすがに口にできなかったのだ。

 昼食は草原ですませ、狐を見るため餌が仕掛けられた。
「キツネ、来てるといいね」
 シルキアが期待を込めた声を出す。
「……一つ、願いを聞いてくれるか」
 待っていると、クラウスが突然言った。
「歌を、聴かせてくれないか」
「歌?――ええっ」
 内容もそうだが、彼が「お願い」というのも珍しい。
「以前依頼先で聴いたお前の歌声は見事なものだった」
「そ、そんな大した事ないと思うけど……」
 とはいえ今は彼しかいない。せっかくなので「じゃあ」と始めた。
 ただし、やっぱり恥ずかしいので、背を向ける。
 歌は、愛読書である百葉集の詩を、即興ポップ調にしたものだ。
 風に乗って、歌声が草原へと流れてゆく。空に吸い込まれるような感覚の中シルキアは唄い、やがていくつかの詩の終わりとともに唄い終わると、拍手が起こった。
 クラウスは静かに聞いてくれていて、振り返ると頷いて笑顔をくれる。
「ご静聴ありがとうございました」
「……百葉集は自分も読む」
 覚えのある詩を歌として聴けて、クラウスとしても中々に興味深いひと時だった。
「いい歌だった」
「そう?」
「ほら」
 彼が指さした先を見て、神人が思わず声を上げる。
「彼らにも、分かったようだ」
 そこには、狐の親子がシルキアたちを見て佇んでいた。

「今日は、誘ってくれてありがと」
 傾き始めた夕陽に向かって、馬が草原を進んでいく。
 ――こんな笑顔を、久し振りに見た様に思う。
 夕陽色に染まった彼女の満面の笑みは晴れやかで、楽しんでくれたのだと、クラウスもつられて笑みを返した。
「日暮れ前に森を抜けよう。早駆けをするぞ」
 嬉しくて見上げた空には、安らかな夜の気配があって。
 風に乗って、どこかで狐の声が聞こえた気がした。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 叶エイジャ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月29日
出発日 05月06日 00:00
予定納品日 05月16日

参加者

会議室

  • [7]クロス

    2016/05/05-18:03 

  • [6]リヴィエラ

    2016/05/04-18:24 

  • [5]リヴィエラ

    2016/05/04-16:52 

    リヴィエラとロジェと申します。
    どうぞ宜しくお願いしますね。

    お馬さんは…以前の依頼で一度乗ったのですが、
    上手く乗れなくて…ガイドさんに教えて頂きたいと思っています。

  • [4]シャルティ

    2016/05/03-22:20 

    シャルティと、グルナ…よ。よろしく
    馬……乗ったことないけどなんとかなるかしら…

  • [3]クロス

    2016/05/03-21:36 

  • [2]真衣

    2016/05/03-21:31 

    真衣です!
    よろしくね。

    馬は、はじめてだけど。
    のれるかしら?(馬を見上げて首を傾ぐ

  • [1]シルキア・スー

    2016/05/02-10:10 

    どうぞよろしくお願いします


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