プロローグ
『二者面談のお知らせ
神人の皆様を対象とした、二者面談を実施することに致しました。
面談の内容は、精霊との日頃の関係性について及び、対話を行う上での悩みについての聞き取り調査となります。
少数枠、任意での参加となりますので希望される方は受付係までお申し付けください』
「面談……」
本部の掲示板に張り出されていた広告を見つめながら、あなたはぽつりと呟いた。
神人に顕現したことで生まれた、精霊との関係性。
精霊との交流が始まったばかりで不安がある者、長く付き合っていくうちに芽生えてきた悩みを抱えている者。
そうした心の内に溜まる疲れを気にかけることも、A.R.O.A.の担う役割なのだろう。
(……申し込んで、みようかな)
決して、現状に不満がある訳でない……否、不満があると思わないようにしていたのかもしれない。
受付の方へ足を向けると、あなたは二者面談の申し込みを済ませた。
――数日後。
「お集まり頂きありがとうございます」
恭しく一礼する職員の前に並んでいたのは、精霊達だった。
「皆様にはこれより二者面談を行うご自身のパートナーのお話を聞いて頂きます」
職員の発した言葉に、精霊達は互いに困惑した表情を見せる。
「いい、のか? ……そんな盗み聞きをするような真似をさせて」
「面談の様子はマジックミラー越しに確認して頂きます。決して、隣で話を聞かれていることが発覚することはありません……聞いたお話を活かすも、忘れるも皆様次第です」
ただこれだけは忘れないで欲しい――神人は皆一様に、あなたとの繋がりをとても気にしているのだと。
神人の到着前に別室で待機するようにと案内される中、好奇と恐れの入り混じる複雑な心境で精霊はろうかを歩いて行った。
解説
参加費として300Jr消費します
※こちらのエピソードは男性側に公開した『ホントの気持ち』と同じ内容のエピソードです
今回は神人を対象に二者面談という名の中途報告をお伺いします
神人と聞き取り調査を行う職員の隣の部屋に精霊がマジックミラー越しにお話を聞いている状態です
精霊が隣の部屋にいることを神人は知りません、知る方法も一切ありません。
(なんらかの方法で気づいた、という行動も不採用とさせて頂きます)
☆神人の皆さんには以下の調査シートが配られており、以下の質問について確認されます
1.精霊とのこれまでの交流について(初参加の方は第一印象で)
2.精霊との現状の関係について
3.精霊との関係上にある悩みについて
4.精霊との関係を今後どのようにしていきたいか
プランには上記の質問への解答をプランに記入してください
(対応する数字の下に解答を記入してもらえれば読みやすくなると思います)
☆精霊の皆さんは神人の解答に対する心情をプランに書いてください
・こんな話聞いてられるか!俺は離席する!!
・神人の面談に乗り込んでいくぞうぉぉぉぉぉっ!!!
・俺はここにいるぞー!!(バタバタバタバタ)
という感じになってしまいますと、親密度上昇はしませんので主旨に則って頂けますようお願いします
●諸注意
・多くの方が閲覧されます、公序良俗は守りましょう
(特に過度な性的イメージを連想させる恐れがある場合は、厳しめに判断します)
・『肉』の1文字を文頭に入れるとアドリブを頑張ります
ゲームマスターより
木乃です、こちらは男女同時エピソードでございます。
今回は神人の皆さんの抱える本音や悩みをこっそり聞いちゃうお話です。
面と向かって言えなかった言葉も飛び出しちゃうかもしれません。
職員は悩みについて話を聞いてくれますが、アドバイスや否定的な意見を述べることはありません。
あくまで聞き取り調査として、皆様に一言だけ励ます言葉を残すに留めます。
ちょっぴりマジメな雰囲気でお送りいたします。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リヴィエラ(ロジェ)
肉 リヴィエラ: 1. お屋敷にいる時の私は、何もする事ができませんでした。 そんな私を、外の世界へ連れ出してくださったのがロジェです。 ロジェは様々な体験を私にさせてくださいました。感謝しています。 2. ええと…その、あの…恋人同士です…(指に嵌ったリングに目を向けながら) 3. ロジェが、最近私に隠し事をしている気がするのです。 それに、時々何かに苦しんでいるような表情をする時があって… でも、私には何も話してくださらないんです。 4. その…恋人同士ですし、私に何でも話して頂きたいのです…! 私ではお役に立てないかもしれませんが、それでもあの方のお役に立ちたいのです! |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
肉 1.色んな所に一緒に行って、共に戦い…彼の考えている事が少しは分かるようになったかなって… 絆…が二人の間に出来たと思うのです 羽純くんと居ると、ドキドキするけど凄く心が満たされます 2.あのその、所謂一目惚れで…長い間片思いだったのですけども… こ、こここ恋人になりまして… 3.私の問題だと思うのですが…もっと羽純くんに甘えて欲しいなって …実は、喧嘩らしい喧嘩をした事がないんです 彼が大人で…私が頼りない分、広い心で受け止めてくれてるって分かるから 4.私、強くなりたいんです 身体もですけど、心も 羽純くんと支え合っていきたいから 私も我儘言って、彼と喧嘩してもいいかなって… き、嫌われるのは嫌なんですけど…! |
シャルティ(グルナ・カリエンテ)
肉 4 解答シートには「精霊が私に対して何か隠しているように思える 隠し事を全部言えというわけではないが、お互い気兼ねなく話し合えるようになれたら良い」と …この間の任務(EP30)で少し気になることがあって 敵を目の前にしてるのにも関わらず、その敵をなにか信じられないものでも見たみたいに凝視してて なにかを見た それは確かで、だけど敵を倒したあともなにも答えてくれないし、本人も話す気配もないし シートに書いたように、なにも隠してること全部言えってわけじゃないけど 私はパートナーだから パートナーだから悩んでいるなら話せる範囲で話してほしいって、そう思います まあ、話したくないのを無理に聞き出そうとは思わないけど |
秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
肉 1 契約時から凄く親しげで、正直少し馴れ馴れしい方だなと 自分のテリトリーに一歩踏み込んでくる感じがどことなく不安だった けれど行動を共にするうちに、わかったことも 踏み込んでほしくない部分には決して踏み込んでこないし、無理強いすることはない 今では、こちらを最大限に尊重してくれる優しさを感じる 2 良好な方だと思う 3 もっと精霊の事を知りたい、見せて欲しい 優しくて強くて、まるで理想の王子様のような人 それが素なのかもしれないけれど…疲れないのかなと、少し心配 無理して折れてしまう前に、本当はもっと頼って欲しい 4 精霊を支えられるような、強い心を持ちたい お互いを支え合えるようになりたい もっと自分を磨かなくては |
入室した先の小部屋は、四角いテーブルと丸椅子がひとつずつ対面に並んでいた。
その横側の壁に、横長い鏡がはめ込まれている。
一見すると、ただのインテリアにしか見えないが……鏡の裏側からはこの小部屋の様子がはっきりと見える。
――まさか、鏡の向こう側にパートナーが居るとは誰も思わないだろう。
●切望される秘密
リヴィエラは席に着くと、面談を担当する職員と簡単に挨拶を済ませた。
隣の部屋からひっそりと様子を窺っているロジェも、緊張した面持ちで見つめている。
「ロジェさんとはウィンクルムとして契約する前からご一緒だったそうですね」
提出された調査書を留めているバインダーに目を通しながら、職員はリヴィエラにチラリと視線を向けると、リヴィエラはコクリと小さく頷いた。
「私はずっと父の所有するお屋敷に居たのですが……お屋敷にいる時の私は、何もすることが出来ませんでした。そんな籠の鳥であった私を、外の世界に連れ出してくれたのはロジェだったんです」
懐かしむように表情を柔らかくするリヴィエラの言葉に、職員は感心して相槌を打つ。
「ロジェは様々な体験を私にさせてくださいました」
連れ出してくれたことに感謝していると、嬉しそうに語り続けるリヴィエラの横顔を、ロジェは複雑な心境で見つめていた。
(あの屋敷に居ても幸せになれない、そう思ったから攫った)
攫ったことに後悔はないが、リヴィエラを幸せに出来ているかと言われたら話は別だ。
(俺はなにも感謝されるようなことはしていないし、リヴィエラに感謝されるようなことはできていない……)
小さく溜め息を吐いているロジェを他所に話は進んでいく。
「ふむふむ、では現状の関係も大変良好であると言えそうですが……どうでしょう?」
笑顔を浮かべる職員の次なる質問に、リヴィエラの頬にポッと朱が滲む。
「ええと……その、あの……」
そろそろと下に向けた視線の先には、大切な恋人のくれたアクアマリンのリング。
めでるように撫ぜると、愛おしさがこみ上げてきた。
「……恋人同士、です」
ぽつりと呟かれた言葉も、無音の部屋でははっきりと耳に届く。
(あの、バカッ!)
それはロジェの耳にも聞こえており、驚きと羞恥でロジェはカッと顔を赤くして頭を抱えた。
(ド直球すぎるぞ)と、心の中で悪態を吐いてしまうが、嫌な訳ではない。
純粋に思ったことを伝えられてしまうことも、リヴィエラの良さであることはロジェ自身がよく分かっている。
職員はバインダーに補足を赤のペンで綴ると、視線をリヴィエラに戻す。
「そこまで関係が深くなってらっしゃる、と……ですが、現状にご不満や悩みはあるようで?」
片眉を吊り上げながらチラ、と一瞥されるとリヴィエラは不安げな表情をみせて俯いてしまった。
リヴィエラの反応を見ていたロジェも、肯定を示す反応に表情が強ばっていく。
聞いても良いかと職員が尋ねると、リヴィエラは微かに首を縦に振って顔を上げた。
「ロジェが、最近私に隠し事をしている気がするのです。それに、時々何かに苦しんでいるような表情をするときがあって……でも、私には何も話してくださらないんです」
そんなロジェの様子を見ていると酷く不安になると、リヴィエラは悲しげに語る。
(リヴィエラはもう気づいてるんだな、でも言えないんだ)
――まさかリヴィエラの父親を、俺が殺していたなんて。
その父親がマントゥール教団の一味の一人で、そしてマントゥール教団に、自分達の命が狙われているなんてこと……言える訳がない。
(これ以上、彼女に怖い思いをさせる訳にはいかない)
自分とリヴィエラの関係をも壊しかねない重大な秘密であり、ロジェにとって最も知られたくない秘密となっていた。
話を聞いていた職員はゆっくりと相槌を打つ。
「確かに、なにも語られないことこそ怖いですよね」
「その……恋人同士ですし、私に何でも話して頂きたいのです! 私ではお役に立てないかもしれませんが、それでもあの方のお役に立ちたいのです!」
身を乗り出して訴えかけるリヴィエラの感情的な様子に、ロジェは苦しげに眉をひそめて視線を落とした。
「落ち着いてください、人は誰しも秘密を抱えています。こればかりは待つしかないでしょう」
(待つ、か……だが恋人同士だからこそ、話せないこともある)
俺はリヴィエラをこれ以上怖がらせたくないだけなのに、上手く伝えることの出来ないもどかしさにロジェは息苦しさを感じる。
(あのバカ……傍に居てくれるだけで、俺がどれだけ幸せなことか……)
リヴィエラの暗い横顔を見つめるロジェの眼差しには、悲しみの色が感じられた。
●成すべきこと
「くぁぁ……あー」
(二者面談とか、進路相談してる学生じゃねぇんだからよぉ)
グルナ・カリエンテは置かれていたデスクに両脚を乗せて、自身の腰掛ける椅子をゆらゆらと揺らしながら大欠伸を漏らしていた。
すっかり退屈しきった様子の彼は、隣から聞こえてくるシャルティと職員の会話には一応耳を傾けている。
十数分ほど無難な会話のやりとりを続けているシャルティ達に、グルナは全く面白みを感じていなかった。
さしずめ、監視カメラの映す平和な日常風景をモニター越しに眺めている気分だ。
(あいつがこんな聞き取り調査? なんかに申し込んでるのは意外だと思ったけど、つまんねぇなぁ)
もうひとつ大欠伸を漏らしていると、ふと部屋の様子に変化が感じられたのは職員の一言だった。
「特に支障はなさそうで安心しましたが……シャルティさん、今後のグルナさんとの関係に展望があるようですね」
「ええ」
なんの話を始めようとしているのだろうか?
グルナはデスクから脚を降ろすと、前のめりになって覗き込む。
「なにやら隠し事をしているように思える、ということですが?」
具体的にはどうされたいのか、と聴かれてシャルティは静かに言葉を返す。
「隠し事を全部言えという訳ではないですけど、お互い気兼ねなく話し合えるようになれたら良いな……と」
「なにかきっかけはありますか?」
職員の問いかけに、シャルティは僅かに不満そうに眉を寄せる。
「……この間サクラヨミツキに任務で行ったとき、少し気になることがあって」
シャルティの一言に、グルナはギクリと心臓を強ばらせた。
なにが見えているのか訊かれたのは、あの任務で最後だったものだから……もうこのことは気にしていないのだろう、そう思っていただけにグルナとしては予想外だった。
「グルナって凄く好戦的な奴なんですけど、敵を前にしているのにも関わらず、その敵を何か信じられない物でも見たように凝視してて」
――『なにか』を見た。『なにか』を見ていた。
それだけは確信しているとシャルティは口早に語ると、一息ついた。
(やっぱ心配させてたっぽいな……)
グルナは片手を額に押し当てると盛大に肩を竦める。
シャルティにはいつか言わないと、そう思うけれどあの桜吹雪の中で見た幻影がきっかけで、二重に心配をかけてしまったら?
それが気がかりでグルナは言い出すことが出来なかった。
(チッ、及び腰になってたツケが回ってきたってことかよ)
なかなか一歩を踏み出せずに居た自身をグルナは思わず叱責したくなる。
「シャルティさんはグルナさんが見たものが気がかりなのですね?」
「そう、ですね。敵を倒した後もなにも答えてくれないし、本人から話す気配もないし……さっきも言ったように、なにも隠していることを全部言えって訳じゃないけど」
けど。
そこでシャルティは沈黙して、視線を僅かに泳がせる。
鏡越しにグルナとシャルティの視線はかちあうが、鏡の裏側にいるグルナしか気づいていない。
(サクラヨミツキで見たのは本物のシャルティの母親じゃねぇ、それは分かった……なのに)
こんなにモヤモヤとする感情の正体が分からない。
苛立ちなのか、不安なのか、はたまた恐怖なのかさえもグルナは理解しきれなかった。
胸に引っかかる感情に悩まされているグルナが居るとも知らず、シャルティの視線は職員に向き直る。
「私はパートナーだから」
シャルティの一言に、グルナは意表を突かれたような気分だった。
「パートナーだから悩んでいるなら話せる範囲で話してほしいって、そう思います……まあ、話したくないのを無理に聞き出そうとは思わないけど」
シャルティと職員の雑談交じりの相談する光景を、グルナは頬杖をついて眺めていた。
(あいつは、自分のすべきことが見えてる……俺が打ち明けるまで待つつもりだ)
悩んでいたのは自分だけだとグルナは気づき、手で目元を覆いながら自嘲してしまう。
(ふ、ざまぁねぇな……こんな無様なとこ、ぜってー見せらんねぇ)
しかし、この退屈だと思っていた面談は想像以上に有意義であったとグルナは認めざるを得なくなった。
「わぁったよ、あの時見たのはお前の母親だって教えてやるよ」
グルナの独白が薄暗い小部屋の中に消えていく。
●意外な心意
秋野 空は面談が始まるとジュニール カステルブランチについて話し始めた。
「契約当初から凄く親しげに接してきて、正直少し馴れ馴れしい方だなと」
こっそり隣の部屋で聴いているジュニールの胸に『馴れ馴れしい方』という言葉がグサリと突き刺さる。
(か、覚悟はしていたつもりなのですが……!)
実際、耳にしてみて軽くショックを受けてしまったことは否めない。
空はそんなジュニールの傷心を知る由もなく、これまでの関係をぽつぽつと語っていく。
「自分のテリトリーに一歩踏み込んでくる感じがどことなく不安だったんです」
「面識がなければ致し方のないことですよ」
申し訳なさそうに語る空をフォローする職員も、ジュニールが契約前から空と面識があったことを知らない。
(偽名を名乗っていた上に変装していましたからね、一方的に俺が知っているだけで空の反応は当然なのですよね)
心の傷を自力で塞ごうと明後日に向かいそうな意識を引き留め、ジュニールは空達の様子を見やる。
「あ、けれど、ジューンと行動を共にするうちに、彼のことも色々分かりました。踏み込んでほしくない部分には決して踏み込んでこないし、無理強いすることもないんです」
交流を重ねるうちに、繊細な気遣いを出来る方なのだと気づいたと空は表情を緩ませる。
「今はこちらを最大限に尊重してくれる優しさを感じます」
職員は安心したように小さく頷くと、ジュニールも空の言葉にようやく立ち直ることが出来て、ふうと安堵の息を吐く。
「では現状は良好であると?」
「良好な方だと、思います」
(……ほっ、ソラが不安がったままでは本末転倒ですからね)
最初の雲行きが怪しかったこともありジュニールは不安で一杯だったが、悪印象だけが付いていた訳じゃないと解ると途端に嬉しさがこみ上げてきた。
「ふむ、だからこそ『もっとパートナーのことを知りたい、素顔を見せて欲しい』とお悩みなのですね」
バインダーを見つめながら確かめる職員の言葉に空は頷く。
(……え?)
ジュニールは空の書いた調査シートの内容を知らない。
まさか空が自分の事を知りたいと思っていたなんて、ちょっと意外に感じた。
「優しくて強くて、まるで理想の王子様のような人で。それが素なのかもしれないけれど……疲れないのかなと、少し心配なんです」
「理想的な人物に見えるからこそ、無理をしているように思えると」
「はい。無理して折れてしまう前に、本当はもっと頼って欲しいんです」
もしかしたら自分が頼りないのかな、なんて思ってしまうのだと呟いて空はテーブルに視線を落とす。
(理想の王子様、かぁ……そう思って頂いていたとは)
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分、こみ上げてくる喜びの感情が顔に熱を与えて赤く染め、誰も居ないのに左手で口元を覆って顔を逸らしてしまう。
「でも、ソラも頼って欲しいと思っているのですね」
一途に思うあまりソラをただ庇護していたかっただけなのかもしれない、とジュニールは自嘲を込めた微笑を浮かべる。
同時に、ジュニールは胸の内が震えるような微かな感動を感じていた。
「だから……ジューンを支えられるような、強い心を持ちたいです。私だけが頼るばかりではなく、お互いを支えあえるようになりたいんです」
これからもっと自分を磨かなくてはいけないですよね。
両手を膝の上でキュッと握り締め、空は鮮やかな紫の瞳を真っすぐ向ける。
「大丈夫、空さんの気持ちは必ず届きますよ」
職員の言葉に不安そうに頷く空の横顔を見つめながら、ジュニールは感慨深く見つめる。
(ソラ、俺も同じ気持ちです。だから不安に思わないで)
今すぐ抱き締めに行きたい衝動に駆られるが、もし聴いていたと知れば空はショックを受けてしまうだろう。
(ここはぐっと我慢しましょう……ああ、でも。次に会ったら、意味もなく抱き締めてしまいそうです)
空の胸中にあんなにも自分に対する想いがこもっていたなんて!
「……ふふ」
ジュニールが鏡の向こうから熱い視線を向けていることを、空は知らずにいる。
●絆の向こう側
「えー、契約してからだいぶ経過されていますが、いかがですか?」
契約後の経歴を聞かれると、桜倉 歌菜は懐かしむように目を伏せる。
「色んな所に一緒に行って、一緒に戦って……彼の考えていることが少しは分かるようになったかなって」
マジックミラーの奥で様子を見ている彼こと、月成 羽純もうんうんと頷いて歌菜の言葉をひっそり肯定。
(……確かに俺の好みとか、俺がしたいなと思うことを歌菜は先回りするようになったな。俺も、歌菜が考えている事は大体分かるし)
一説によると、契約を交わすと感情が共鳴するようになると言われているが、詳細は不明だ。
(ふふ、歌菜が分かりやすいというのもあるがな)
口元に弧を描いて、羽純は緊張気味の歌菜に視線を戻す。
「興味深いですね、どうしてだと思われます?」
「絆……が、私と羽純くんの間に出来たのかなって思うのです。羽純くんと居ると、ドキドキするけど凄く心が満たされて」
えへへ、照れ笑いを浮かべながら歌菜はぽつぽつと言葉を漏らす。
『絆』と言う言葉に、羽純も同じように感じていただけに嬉しさがこみ上げてきた。
「そうなると、もう特別な関係になってらっしゃったり?」
茶化すような職員の問いかけに、歌菜の顔は茹でダコのように真っ赤になって今にも湯気が吹き出しそうになる。
「あのその、いわゆる一目惚れで、長い間片思いだったのですけども……その、こ、こここ恋人になりまして……!」
あわあわと慌てふためき、支離滅裂になりそうな言葉をなんとか繋げる歌菜の姿を見て、羽純は顔を伏せて片手で押さえる。
(恋人、って口に出すのに照れるな、歌菜)
聴いてるこっちも恥ずかしくなるだろう、と少し呆れる羽純の心の声は当然、歌菜には届いていない。
職員もからかい過ぎたと陳謝して、次の質問に移りましょうと話題を変える。
「そこまで仲が良くても気になることはあるようですね」
職員の一言に、羽純はピクリと肩を震わせる。
「その、大した問題じゃないんです。私の問題だと思うのですが……もっと羽純くんに甘えて欲しいなって。実は、喧嘩らしい喧嘩をした事がないんです」
時には意見の衝突も必要な時はあるし、今のままでもいいのかなと歌菜は疑問に感じていたらしい。
歌菜の悩みについては、羽純も感じていた部分がある。
(確かに……なにかで言い争ったりは、ないかもしれない)
「羽純くんが大人で……私が頼りない分、広い心で受け止めてくれてるって分かるから……ちょっとだけ寂しいなぁ、なんて」
困ったように曖昧な笑顔を浮かべる歌菜を見つめていた羽純は、全く逆の感想を抱いていた。
(歌菜の方が常に俺に合わせようとしてくるように思ってたな、我儘も滅多に言わないし)
――甘えて欲しい、か。
『寂しい』と言う言葉はコーヒーに垂らしたミルクのように、羽純の胸中に僅かな淀みを与える。
(俺が甘えれば、歌菜もまた素直に我儘を言ってくれるのだろうか)
物分かり良く振る舞わなくたっていい、自然体のままでいいのに……複雑な感情を押し殺しながら、羽純は鏡の向こうを見つめ続ける。
「長い付き合いだからこその悩みですね」
数秒、ペンの滑る小さな音だけが聞こえる中で歌菜は静かに口を開いた。
「私、強くなりたいんです。身体もですけど、心も」
――羽純くんと支え合っていきたいから。
「だから私も我儘を言って、羽純くんと喧嘩してもいいかなって……き、嫌われるのは嫌なんですけど……!」
歌菜がわたわたと慌てている様子に、羽純を小さく吐息をつく。
(馬鹿だな、どうしてそこで嫌われるなんて発想が出てくるんだ)
羽純は自分もまだまだ未熟だな、と痛感しながら椅子の背もたれに寄りかかる。
まさか歌菜が、こんな悩みを抱えてるなんて、気づきもしなかった。
(もっと俺に慣れさせないと……遠慮されてると思ってるのはお前だけじゃないんだぞ、歌菜)
――つまらない事で喧嘩も沢山しよう。喧嘩する度に、仲直りして……お互いの心根を知っていく。
「……悪くない光景だ」
目を瞑り、自身と歌菜の言い合う光景を瞼の下に描き、羽純は一人微笑んだ。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 木乃 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | シリアス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 3 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 04月24日 |
出発日 | 05月03日 00:00 |
予定納品日 | 05月13日 |