共存への道しるべ(梅都鈴里 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「いやー。反対運動もすぐに収まったらしくて良かったな、今回の建設案は」
 工事服に身を包みヘルメットを被った男性二人組が、作業に取り掛かりつつ和やかに談笑している。
 ここはダブロス市のとある小さな町――の、郊外にある森の中。
 自然豊かなこのエリアは、町民達からも『癒しの森』と呼ばれ長年親しまれてきた。
 だが近年、都市部で進む開発案に取り残され、小さな町からは若者や働き手が次々都会へ流れて行き、町は寂しくなる一方。
 そんな現状をなんとか解決するべく、町長は市と協力して観光施設計画を立ち上げた。
 しかし実状は、市としての観光資源を増やしたい、という一部上層部からの圧力があったとも噂されている。
「どうだか。噂じゃあ、市の御偉いさんから町長充てに手厚ーい待遇があったらしいぜ」
「まっ、その程度で黙る様なら、町民も納得してんじゃね? 俺たちは仕事をするまで――」
 言い終わる前に、突如頭上へ掛かった影に何事かと見上げる。
 何が起きたのか認識する間もなく、二人の工事員は巨大な木の枝に叩き潰された。
「ばっ、化物だァ! うわああああっ」
 駆けつけた工事員が現場を目の当たりにし、悲鳴を上げ逃げ出した。
 暴れ狂う森の守護者――トレントと呼ばれる森の生き物が、人間に牙を剥いた瞬間だった。

「お願いです。森に現れた化物を倒してください!」
 この日A.R.O.A.本部へ持ち込まれた依頼は、凶暴化したデミ・トレントの討伐。
 逃げ出した工事員の数少ない情報を頼りに、専門機関であるここへ取り急ぎ足を向けたのは町長だ。
「小さな角があり、節くれだった不気味な姿――デミ・オーガ化と呼ばれている症状に間違いないかと……」
「なるほど。わかりました、ではウィンクルム達を至急……」
「待ってちょうだい!」
 バタン! と扉を勢い良く開き入室してきたのは身なりの良い長身の女性。
 職員に止められるのも構わずカツカツとヒールを打ち鳴らし大股で歩み寄り、町長の眼前で勢いのままにまくしたてる。
「町長、貴方は『建設計画を進め市からの財政補助が欲しい』が故に、邪魔なトレントを倒したいだけでしょう!?」
「こ、これはドリアーヌ殿。いやしかし、このまま放っておけば町にも被害が……」
「話をすり替えないで!」
 怒声と共に、また開かれたままの扉から、二人の男児が女性の足元へ駆け寄って来た。
「そうだよ、ママの言う通りだ!」
「僕らの遊び場を取り上げないでよ!」
 女性――母親を支持する様に子供達もわめき散らす。
「あの森は、町の景観のひとつとしても十分に観光資源となっているはず。わざわざ切り拓いて、新たな観光施設を作ろう等と考える必要はありませんわ。魔物の脅威を考えれば、手を引かれるのが得策ではなくて?」
 もっともらしく鼻を鳴らし、正論を焚きつければ町長の方もむっと眉間に皺を寄せる。
「……言わせて頂きますがご婦人、元はといえば貴方が森で魔物を刺激したのが発端ではありませんか」
「何を証拠に」
「目撃情報があるのですよ。貴方の息子であるアーロンが、湖に潜む人魚の様な魔物の所へ火を放って逃げたと」
「ま、まさか、ラミアも居るんですか!? その森には!」
 状況を整理する為静観を決め込んでいた職員らも、これには流石に声を上げた。
 火を使ったというのが本当であるなら、水辺に棲むラミアだけでなく、火を極端に憎むトレントが凶暴化する可能性も十分にある。
 オーガ対策特務機関からすればとんでもない事案だ。
「ラミアというのかね? よくわからないが……奥地にあるシビル湖にその様な魔物が出る、という噂は以前よりあったのだ。だが、近付く者がおらぬなら被害も無く、危険視はされておらんかった」
「ま……ママ、僕、やってないよ」
「アーロン、私は怒っている訳じゃないんだ、素直に言いなさい。目撃者によれば、森から出る際転んだすり傷が足にあるはずだと聞いた。見せてごらん」
「そんなのないもん! ほら!」
 子供の内の一人がズボンを捲り無実の証拠だといわんばかりに突きつける。
 そこには当然の様に擦り傷などありはしなかった。
「ぬ、ぬぅっ……!」
「往生際が悪いですわよ、町長。大の大人がこんな子供相手に、妙な言いがかりは止めて下さる?」
「ドリアーヌ殿、私は子供を責めておるわけではなく、貴女の指示ではないかと……!」
「落ち着いてください! 分かりました、状況を整理しましょう。お二人は部屋を別れて、それぞれもう少し詳しくお話を窺ってもよろしいでしょうか。……それと念の為、お二人の身辺情報もお願い致します」

******

「――……話を整理すると、存外厄介な事になっている様だ」
 まず一つ目。指を折って職員が告げる。
 主要目的はデミ・トレントの討伐だが、森に集落を構えていたらしいコボルド達がトレントに手を貸すかの様に人へ敵意を剥き出した事。
 二つ目。森の奥の湖には、一年前からラミアの存在が確認されている。
 三つ目は事の発端である村長とドリアーヌ、つまりは町と森の仲介。
「調べてみれば自然豊かな良い森だ。ネイチャー達には居心地が良かったのだろう……土地に歴史もあり、森の守護者たるトレントが森を破壊される事に怒るのも、元々人と相容れず集落を作って暮らすコボルドが期に乗じてしまうのも……火を放たれたというのが本当なら、ラミアが怒るのも全て納得がいく」
 全ての状況が折り合わなかったな、と職員は嘆息した。
「調査も含めて、反乱している全ての個体の討伐を頼みたい。ただ今回は状況が複雑で、トレントに限り、デミ化した個体と『ただ期に乗じて手を貸しているネイチャー』の両方が存在している。ラミアやコボルド含め、ネイチャーまで無闇に殺傷する事は、デミ化を進める要因にもなる為控えてほしい。大変だとは思うが、臨機応変に対応してくれ」

解説

◆ドリアーヌ
町一番の富豪。気位が高いので町民達からの評判が悪い。
夫は市の役員を務めており余り家にいない。

◆アーロン、アビエル
ドリアーヌの息子たち。双子で顔がそっくり。
12歳ぐらい。

◆町長
優しい性格で、町民からの評判はとても良い。
森を切り崩し観光施設の建設を進めたいのも、町から若者が出て行き寂しくなっていく中で、貧困に喘ぐ町を想っての苦渋の決断。

◆癒しの森
町外れに広がる森。数年前までは魔物も住み着いておらず、町民達から親しみを込めて名づけられたが、一年ほど前にシビル湖でラミアが出ると噂され始めてから人が近寄らなくなった。
自然動物も多く、豊かな森。
デミ・トレントが人の前に現れたのも、建設計画で木が森が切り崩され始めてからの事。

◆シビル湖
森の奥地にあるオアシスの様な澄んだ湖。ラミアの存在は目撃証言も多いが、町長の話は町民からの伝え聞きである為、アーロンが火を放ったなどの真相は定かでない。

◆トレント
視認されているものは二体。デミ・オーガ化した個体が確認されているものはその内の一体だが、ネイチャーとしてのトレントも一緒になり反乱している可能性が高い。放置すればデミ化する危険もある為、倒すか、言葉が通じる様なら説得するなどして欲しい。

◆ラミア
過去の目撃情報によれば二体。
害為されるまでは穏便に過ごしていたとされる。現在の状況は不明。

◆コボルド
視認されているものは武装した小さな戦士が五体。
森のどこかに集落があったらしく、トレントの反乱に乗じて町へも姿を現し始めた。
オーガ化はおそらくしていない。対等に扱ってくれない人間達を生来より忌み嫌っている。

強さはざっくり、トレント二体(ボス&中レベル)<ラミア二体<コボルド五体(低)の順です。
トレント一体のデミ化は確定していますが、それ以外の敵は低レベルパーティーでも倒せる、かつ、言葉や気持ちが伝われば十分説得も可能。

ゲームマスターより

お世話になります、梅都です。
ちょっと事情が面倒臭く、長くなりそうなEXエピソードとなります。ジャンルは戦闘に指定しておりますが、推理要素も多少含まれます。
プランには事前用意や情報収集、戦闘、説得含め対峙した際どう動くか。
また討伐後も、森を切り崩すべきかこのまま共存させるべきかの方針含め、町長や婦人に対する説得や町に対する呼びかけなど、森と町にとって最善だと思われる策を、他でも無いトレント達と対面したウィンクルム視点から頂けたら、と思います。多少後味の悪い決断でも構いません。
アドリブは多くなります。大丈夫! という方は奮ってご参加くださいませ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  ネイチャーと対話
こちらから戦闘は仕掛けずデミ化が認められる場合のみトランスし応戦
仲間と共に謝意を伝え
火の件が事実なら工事を中止させようという意図があったらしいこと
森に人が立ち寄れなくなったことも工事の切欠になっていて
このまま人が遠ざかるのが良いことだとは思えないことを話す
人には森の現状を知ってほしい
そのためにも人の入れる場所にしたいと

何を変えようというわけじゃないが
この森の好きなところを聞きたい
ここは広い
まだ知られていない場所もあるかもしれない
可能なら撮影して持ち帰りたい
何の変哲もない写真になるかもしれないが
それでもここがネイチャーにとっても大事な場所だと伝わるなら
リンのメモと一緒に町長に渡す


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  討伐はデミ・トレントのみ。他生物とは戦わない。

森に皆で入りデミ・トレントを探すぜ。
ネイチャー達にデミ・トレントの居場所を尋ねる。
デミ・オーガ化すると結局森を破壊する行動に出る。
デミ化生物は森の脅威なんだぜ。今のうちにオレ達が何とかする。
オレ達や人間達が森を騒がせて済まないと詫びる。
でもオレは森を守りたい。血を流す汚れ役はオレ達だけでいい。
森の生物は出来るだけ争わないで欲しい。

デミに遭ったらトランス→ハイトランス。
速攻でデミを刀で攻撃して倒すぜ。戦闘時間は極力短く。

町長へ「森を切り崩せば森が荒れる。町にもよくない。森やそこに暮らす生物と共に生きて行く方法を一緒考えようぜ」と森生物との対話を提案。


ラティオ・ウィーウェレ(ノクス)
  森に行く前に、アビエルに擦り傷があるか確認と。
アーロンを目撃したという町民に当時の話を聞く。

擦り傷が無く、目撃証言が嘘なら夫人に対する嫌がらせ。
擦り傷が有り、目撃証言が正しければ夫人の発案か、遊び場を残したいアビエルの独断。
どちらにしろ。
問題を起こし討伐で解決というなら、いただけない。
自分の都合で町の住民全てを危険に晒す行為だ。

デミ・トレントに遭遇したらトランス。
ノクスの後ろに退避しながら攻撃する。

デミ化していないネイチャーには「君達の生活を脅かしてしまい申し訳無い」と頭を下げ謝罪をする。

町長には、町おこしで森と町の末永い共存を願う祭りを提案。
町には「今までのように森と共に暮らして欲しい」と。


●情報収集
「貴方がたが、トレントを倒すため派遣されたというウィンクルムのお方?」
 町一番の豪邸――ドリアーヌ邸の扉を叩けば、使用人を通じ夫人が姿を現した。
 その表情は見るからに不機嫌を隠しもしない。
 彼女からすれば、派遣されたウィンクルム達は工事を進める側に立つ者という印象以外の何者でもない。
「連絡をしていた、ウィンクルムのラティオです」
「そう、息子達に御用とか?」
「ええ。……例の目撃例について、ちょっと」
 暫し夫人は黙り込み、尋ね人――ラティオ・ウィーウェレをしげしげと観察していたが、彼の背後に立つ高身長の男が威圧するかの様に見下ろしてきた事に気付いて一歩後ずさった。
「……ノクス、警戒されるから」
「フン。先に偉そうな口振りをしてきたのはあちらの方だ」
「……」
 君がそれを言うのか、という言葉は小声でのやりとりにしても飲み込んでおいた。
 不承不承ながらに神人の情報収集へ付き合っている彼は他でもない、ラティオの精霊であるノクスだ。
 ウルフカットに腰まであるしっぽ髪、極め付きに高圧的な言葉遣いと態度。
 生まれながらにテイルスの血を引く彼にとって、本当は森の事を考えない人間達など、どうでもよかったのだ。
 けれど一度ラティオの護りを引き受けた以上、それを破棄する事にも繋がる様な行動はノクス自身の信義に反した。
 溜息を吐いて、気持ちを一つ切り替える。
「……擦り傷の件を聞きたい。確認できればそれで構わん」
 存外前向きな言葉にラティオは目を丸くする。
 仕事だと割り切っているなら、案外柔軟に対応が出来る男なのかもしれない。
 眉間の皺は相変わらず寄ったままだったが。
「――わかりましたわ。こちらへ」
 二人の対応に、いささか不服そうにしながらも夫人は建物の奥へと彼らを誘った。
 長い屋敷の廊下を抜けて、応接間へ入ると双子がソファで足を投げ出し待っていた。
 しかしやはり、母親に敵意を持つ者と仇名しているためか、その表情は硬い。
「やあ、こんにちは。僕はラティオ・ウィーウェレ。森に現れたトレントの件で……」
「知ってる。森を護ってくれる木を倒しちゃう悪者なんだろ」
「ママや町の人達がどんなに長くあそこと一緒に生きてきたかも知らないでさ!」
 挨拶が終わるのも待たずに双子は声をあげ始めた。なるほど顔立ちは全くのうり二つだ。
 さり気なく足の傷を確認しようと目線を落とすが、それを見越しての事なのか長いズボンをはいていて、やはり視認するのは難しそうだった。
 そして子供の悪態より何より、背後に立つノクスの機嫌が急下降していくオーラがやばい。
「それを証明するためにも、目撃例があったというアーロンの足の傷を見せてほしい」
「僕はないって言ったもん、ほら!」
 本部であったやり取りそのままに、双子の一人が膝小僧を出して見せる。
 しかしすかさず「じゃあ、」とラティオは次の句を紡いだ。
「アビエル。君の足も見せてごらんよ」
「えっ……」
 双子の一人がびくりと身をすくませた。
 同時に夫人の眉もピクリと吊りあがる。
「目撃したという町民が、アーロンとアビエルを見間違えていた可能性がある。本部ではその立証がうやむやになってしまったようだけれど……そこを徹底的に洗い出さないと、君たちや夫人の無実を証明しようがないからね」
 研究者上がりの口調も相まって、至って冷静に双子へと向き直る。
 最初こそ双子の態度に苛立っていたノクスも黙って神人を見守っていた。
 口火を切ったのは夫人だった。
「あなた、うちの子を疑われておりますの」
「疑うも何も、根拠も証拠も無くしては証明に繋がりませんから」
「小難しい事を仰って、結局はそういう事なのでしょう? 子供相手に、ばかばかしい!」
 冷静沈着な物言いにも気分を害したのか――もしくは状況が不利になった為か。
 夫人はガタン! と席を立ち踵を返した。双子も母親の後を着いて応接間の出口へと駆けて行く。
「――待たれよご夫人! まだ話は……」
 身勝手な態度に耐えかねて流石にノクスが声を上げるが、ラティオはす、と手を前に出し精霊を静止した。
「お言葉ですが。貴女の発案にしろ子供達の独断にしろ、問題を起こし討伐で解決というならいただけない。自分の都合で、町の住民全てを危険に晒す行為だ」
 先程よりも強気に放たれた言葉に夫人の足が止まる。
 双子は相変わらず母親を不安そうに見上げていた。
「……僕達はただ、発端を突き止めたいだけです。子供達が本心からあの森を大事な遊び場だと言うのなら、壊すためでなく護るために」
 見せていただけますよね、と駄目押しの様に問いかければ、扉にかけた手を彼女はそっと下ろした。

「……ああ? 嘘だった?」
 こちらは町長に直接話を付け、双子が森でラミアに火を放った、という事案の目撃者である男性に話を聞きに来た二人のウィンクルム――なのだが。
 その男は怯えているようだった。あからまさに、というよりも何か、後ろめたさがある、といった風な……。
「う、嘘じゃあないんです、けど……ちょっと、うろ覚えなところがあるっていうか……」
「まどろっこしいなオイ。簡潔に話してくれ、別にあんたを責めてるとか言うわけじゃ――」
「ヒッ!」
 目撃者の男――ひょろりとした薄幸そうな青年は、眼前に迫るウィンクルムの一人である精霊、ブリンドに続きを促され――いや、なんというのだろう。
 状況を問い質しているだけなのに、どうにも脅しているかの様である。
「リン。お前の顔が怖いんじゃないか。なんだか可哀想だ」
「なんで俺が悪者になってんだよ」
「チンピラ……」
「今なんつった」
「なんでもない。とにかく、少し落ち着かせよう」
 肩に手を置かれ一歩下がるよう促してきた神人であるハティに、ああもう、と頭を掻いて一度深く息を吐く。
 情報収集の際にも、変に思わせぶりになる様な素振りや言動には注意していくつもりだった。
 工事を進めたい町長側にとって、都合のいいヒーローの如く見られたくはなかったし、真相がうやむやである以上噂を広めてしまう訳にもいかない。
 今回の話は発端たる犯人とその意思がどこにあるのか、非常に不明瞭なのである。
 しかし男の反応からするに存外落としどころはすぐ傍にあるのかもしれない。
「急かす様な真似をしてすまない。あんたはそもそも、森に何をしに行って、どこでその子供を見たんだ」
 緋色の髪をした神人から穏やかに問われて、男はようやっと、と言った風に青く震える唇を開いた。
「も――森には、果物を取りに行っていただけです」
「果物?」
「ええ……あそこでしか取れないりんごの実があって。町でも評判で、森で獲れた物を卸して、市街地へも売りに出たり……ラミアの噂が出始めて近寄り難くなったから、機会も減っていたんですが」
 聞けばその日、得意先から入荷予定は無いのかと聞かれ久しく森へ立ち入ったのだと言う。
 しかしラミアの噂が男は何より怖かった。文献などで調べ、歌声で男を惑わすのがラミアの習性なのだと知って、帰れなくなる事が彼は恐ろしかった。
 とはいえ自慢の特産物を得意先へ配りたい気持ちは一町民としてとても大きかった。
 だから、ラミアに万が一出会っても、無事に生還できるように。
「ゆ……許されないことをしました。私は……」
 男はぽつりぽつりと、その日にあった出来事を話し始めた。

●行動
「夫人に話を聞く事が出来たよ。結論から言って、擦り傷はあった」
 あの後、観念した様に双子の――アビエルの方がラティオに見せた膝小僧には、既に塞がりかけてはいたが確かに怪我の跡があった。
 子供の傷の治りなんて早いもので、あと少し遅ければ完全に隠蔽されていたかもしれない。
「……ただ、火を放ってはいない、と言っていた。これが虚偽かどうかはラミアに会うまで確かめようが無い」
 どちらにせよ森に入る予定ではあったものの、人間へ敵意を抱いているネイチャーと対峙し冷静に話を聞くのはことのほか難しい。
 しかしラティオの提案に合わせ、目撃者である男性へといち早く話を聞きに回ったハティらの話により、その根拠は無事裏づけが為された。
「目撃者だという男からも話を聞けた。こちらも結論だけを言うなら……火を放ったのは、その男だ」
 青年の話はこうだ。
 特産物であるりんごを取りに森へ入った際、遊ぶ子供達を見かけた。
 町でも嫌われ者であるドリアーヌ夫人の息子達だ。擦り傷はその時たまたま、双子の一人が転んで泣いていたのを見かけただけのものだった。
 最近立ち上がり始めた建設計画に、彼女らが決して穏やかでない感情を抱いているのは知っていたけれども、特産物にも恵まれた森を大事に想う気持ちは青年も同じだった。
 ただ、それとラミアに対する恐怖は全く別物であったようで。
「しばらく立ち入ってない内に森は荒れていて、迷ってしまったらしい。そうして奥で偶然、ラミアの棲む泉を見つけてしまった」
 そして青年は、ラミアの脅威から逃れる為に――否、本来そんな事をすれば逆上させるなんて事、落ち着いて考えれば分かるはずなのだが、臆病な男は水辺に棲む生き物を見つけ、気付かれて、狼狽していた。
 万が一水辺の生き物ラミアに出会っても、生きて逃げられる様にと思い込み軽率に持ち込んだ、松明を。
『い……泉に投げ入れて、逃げ出したんです。ビックリしてしまって……彼女達は私に何も危害など、加えなかったのに……!!』
 ついに彼は泣き出してしまった。本来、果実の恵みを与えてくれる森を愛する町民の一人なのだ。
 長い歴史のあるそこを愛して居ない訳はなく、ただ人の良い町長の、町を存続させたいという気持ちも分かるからこそ、自分の思いにも目をつむり耳をふさいで、都合の良い目撃者を演じていただけで。
 それに火を投げ入れたと知られれば、魔物を刺激し建設計画を中止させたとして、町長からも一部の町民からも責めを受けるかもしれない。
 だからあそこで見かけた――工事に反発する夫人の子供達の存在は、あの日の自分にとって非常に都合が良かったのだ。
「あっけない顛末だったな。目撃者が、という可能性も視野に入れてはいたが……」
 森に足を踏み入れ、トレントたちの捜索と同時進行で情報を照合していたハティの言葉に、木々を見詰めていた神人――セイリュー・グラシアは「そうでもないぜ」とぼやく。
「生産資源としての森の姿はごく自然なものだ。町と共存してるのに、そういう話が全く出てこないのもおかしいと思う」
 ぱきりと足元の枝が折れて音を立てる。先陣切って進み、蜘蛛の巣を掻き分けて奥へと続くはずの道を探す。
 森は陰鬱な空気に包まれていた。入り口には立ち入り禁止の札が貼られているものの、デミ・トレントの襲撃以来誰も立ち寄ってない為か荒れ放題の様相。付け加えて、中途半端に切り崩された木々があちこちで倒れ、内部を捜索するのは少々骨が折れそうであった。
「きれいな場所だったはずなのに、無理矢理工事を推し進めたりするから……」
 普段は優しげな表情を浮かべている青年――セイリューの精霊であるラキア・ジェイドバインも、荒れ果てた森の姿にまるで自分ごとの様に痛ましい表情を浮かべて呟く。
 事前の情報収集により、工事を進めるにあたって、森に住むネイチャー達――トレントの確固たる目撃例があったのかどうかを町民に聞いた結果。
 デミ化もしていなければ姿形は木々と見分けが付き難いトレントの目撃例は、工事が入りデミ・トレントと共に姿を現すまでは皆無に等しかった。というよりも森の守護者である彼らは、共存を望む人間たちへと無闇に牙を剥いたりはしない。臆病なコボルドや水辺にしか棲まないラミアもそうだ。
 青年が言う様に質のいい果物や澄んだ空気に惹かれてネイチャー達も多く棲み、ある意味で、良い形での住み分けが出来ていたはずだった。
 森の価値を正しく理解せず、先に彼らを裏切ったのは確かに町民の方であった。
「聞いた話だと、確かそろそろ着く筈……ああ、ここだ」
 メモを参照にラティオが誘導した先で、一行が最初に辿りついたのはシビル湖だった。
 ここに至るまでに、ネイチャー達の妨害をひとつも受けることなく。
 不気味な程に、森は静寂を保っている。
「湖に棲む者達、居るならどうか出てきて欲しい。俺達はただ、謝りに来たんだ」
 静まり返る湖面へラキアが語りかければ、奥にある岩陰で何かが動いて波紋を描く。
 暫し沈黙のまま待ち構えていると、一人の女性――ラミアがそろりと一行を窺う様に、岩肌から顔だけ出してこちらを覗き見て来た。
 妙な様子だ。敵意を露にする訳ではなく、どちらかといえば何かに怯えている様な。
「オレ達や人間が森を騒がせてすまない。これ以上、君達に危害を加えるつもりはないんだ」
 ラキアに並び立ったセイリューが告げる。
 棲みかを荒らされ、突然火を投げつけられたともなれば臆病になってしまうのは仕方が無い、とも思った。
 けれども、彼女……ラミアは、もっと恐ろしい物を怖がっていた。
「……アイツハ? イナイ?」
「あいつ……? 火を投げたっていう男の事か?」
「チガウ。アンナヤツ、ドウデモイイ。……ナカマガ、コロサレタ。コノモリニ」
「この森に……まさか」
 はっとして、二人のウィンクルムは顔を見合わせる。
 もしもそうなら、本当に一刻を争う事態だ。
 ラミアは二体居ると聞かされていた。なのに今姿を現しているのは一体だけ。
 デミ・オーガ化したネイチャーの末路とその習性を、長くウィンクルムを続けるセイリュー達はよく理解していた。
「オレ達はそいつの居場所を探してる。これ以上、森の生き物達に争ってほしくない」
 気持ち切羽詰った声で問い質すが、ラミアは首を横に振る。
「シラナイ。アイツ、ウロウロシテル。ニンゲンモネイチャーモ、ミサカイナイ……」
 そこまで告げて、はっと何かを警戒する様に口を閉じる。
 最後尾で万が一の奇襲や尾行に気を配っていたブリンドが、背後の草陰に潜む気配へと言葉を投げかけたのは同時だった。
「盗み聞いてねぇで出てこい。……言葉が通じればの話だが」
 気配の正体にうっすら検討は付いていたのか、殺気を察した複数の『それ』が草むらからザザザッ! と飛び出てきた。
 痩せこけた犬の様な頭部を持つモンスター。
 短剣や防具を身に纏い、コボルドの戦士と化した彼らは、森への侵入者――忌み嫌う人間たちの姿に敵意を露にしつつ立ちはだかった。
 その数五体。
「ニンゲン、マタキタ」
「コロセ! コロセ!」
 口々にギャンギャンと鳴き喚き始めたそれらの姿に、しかしブリンドは決して銃に手を掛けたりはしない。
 生来人を嫌う彼らに対し自衛としての威嚇は必要でも、無闇にネイチャーまで殺生する事は決してベストでないと理解しているからである。
 丸腰のラティオが一歩前に進み出た。
「君達の生活を脅かしてしまい申し訳ない。僕らは、争うつもりは――」
 侘びの言葉を言い切る前に、コボルドの一人がラティオに向け小石を投げつけた。
「オマエラノセイ! オマエラノセイ!」
「アイツガオコッタノモ、オマエラノセイ!」
 興奮した様子で、彼らは次々に小石を投げてくる。
 耐えかねたノクスがラティオを庇う様に立ちはだかり、いきりたつコボルドをひとつ睨み付けた。
「我は気が短い。説得に応じん場合は、攻撃して構わんな……?」
 武器に手を掛けるが、ラティオがそれを静止した。
 だがコボルド達を竦ませ、落ち着かせるだけの効果はあったようだ。
「君達の集落も僕らは守りたい。『怒っている』トレントの場所を、知っているなら教えて欲しい。時間の猶予が無いんだ」
 戦意を向けずただ淡々と問う青年の言葉に、コボルドの戦士達は皆顔を見合わせた。

●デミ・トレント
「暗くなってきたな……」
 空が闇色に染まり始めた頃。
 説得に成功したコボルドやラミアから聞いた話では、凶暴化したトレントは見境無く生き物を殺し、森中を徘徊している様だった。
 彼ら――ネイチャー達も被害にあっていた。コボルドの集落も襲われた。
 そもそも工事が入らなければやはりこんな事にはならなかったのだから、彼らが人間を恨んだのはごく自然な流れだった。
 湖を離れ森の中を更に深くまで歩き続けていると、大きく木々が切り崩され鬱蒼とした空気から一変、空にぽっかり穴が空いたかの様に開けた場所へ出た。
 そこだけきれいに、空を見上げても『何もない』のだ。ごっそりと木々が抜き取られているかの様に。
 工事で切り取られたものではない。重機が入った跡もなかった。
 空を見上げても月は雲に覆われ、霞んだ月明かりの中ギャアギャアと鳥達が騒ぎ出し一斉に飛び立つ。
 あまりに不自然な空間に足を止めていたその時。
「何か居る……!」
 先頭に立つセイリューがいち早くその気配に気付く。
 一行が身構えた瞬間に、しゅるしゅると辺りの木々やツタが動き出し瞬時に通ってきた道が閉ざされた。
 不可解な動きをする現象に心当たりは一つしかない。

―――ザザザザッ……!!

 正面に立つひときわ大きな木――深緑にカモフラージュされていて、木々が動き出すまでは『それ』に気付かなかったが、グオオオ……と轟き声を上げ地響きと共に動き始めたデミ・トレントが、ついにその姿を現した。
「なんてことを……!」
 あまりにも不気味な色と姿にラキアは声を上げる。
 ずっと長く森で生きた木がトレント化するのだと理解していたからこそ、その禍々しい姿に悲哀を覚えずにいられなかった。
 奇怪に節くれ立った大木に幾重にも重なるいびつな枝は、踏み潰してきた小動物たちの血をすすり真っ赤に染まっている。
 ズズズ……と決して早くはない速度で、新たに見つけた獲物の六人へと近付く。
 そしてよくよく辺りを観察すれば、デミ化したトレントの傍にもう一体、一回り小さくはあるが同じ様に移動する巨木があった。
「襲撃で目撃されたっていうもう一体のトレントだね。一緒に居るだろうとは、思っていたけど……」
「ああ。短時間でケリをつける」
 距離を保ったまま、トランスからハイトランスまでを手早く終わらせるセイリューとラキア。
 続く様にして残りの二組もトランスを終わらせた。
「古き森の護り手よ。悪いがお相手願うぞ!」
 巨大なデミ・トレントの眼前へ臆する事無く立った精霊ノクスがアプローチを発動した。
 凶暴化した巨木の幹が彼を襲う。武器を抜き、かわし切れない分は本体ごと叩っ切る。
 幾重にも伸ばされる鋭く尖った枝の切っ先は、前衛でノクスとセイリューが、後衛からはブリンドが応戦し順調に削ぎ落としていく。
 それと同時に、ネイチャートレントの傍へ回り込んだラキアが説得を試みていた。
「俺達は森の守護者たるあなた達に、これ以上森を傷つけて欲しくないんだ」
 デミ化していないトレントに瘴気が与える影響がとにかく彼は心配だった。
 一度凶暴化を果たしてしまうと、結局破壊活動を繰り返し森もネイチャーも破壊する。
 それは森を誰より愛する守護者たるトレント達の本意ではないはずだと、ラキアは理解していたから。
 瘴気の影響をわずかにでも減らすためキュア·テラⅡをトレントに施せば、ネイチャーである守護者はラキアに伸ばしかけた幹の切っ先を寸でで止めた。
 けれどそのすぐ反対側では、デミ化し森の守護者たる自覚を完全に失ったトレントが猛威を振るっている。
「グオオオッ……!」
 血色に染まった幹はネイチャーのトレントにも食いかかった。
 裏切り者、といわんばかりの恨みがこもった一撃は、間に入ったセイリューがその剣で受け止める。
「セイリュー!」
「大丈夫だ! こんなのは……!」
 巻き付いた太い幹の力は決して軽くない。
 体ごと振り抜かれてしまわない様踏みしめる踵に力を込め、全力で幹を叩っ切る。
 樹液と化した鮮血が頬に飛び散った。
「血を流す汚れ役は――オレ達だけで、充分だ!」
 飛び上がり、掲げた剣に力を乗せて振り下ろす。
 歪に生えたデミ化の証たる角ごと、その巨体を引き裂いたセイリューの一撃がトドメとなった。
「グオオ………ッッ!」
 ビキバキビキッ、と耳障りな音を立て本体部分にみるみる亀裂が入り、暫し苦悶に喘いではいたものの、デミトレントは間もなくして動きを停止した。
 ネイチャーのトレントは、その様子を音もなくただじっと見据えている様だった。
「こんな方法しかとれなくて、本当にごめんなさい……」
 二体のトレントを前に、ラキアはただただ苦渋に眉を寄せ哀しげに呟いた。
 停止したデミ・トレントの亡骸にも弔いの意味を込め、浄化のスキルをその巨木に施しながら――。

●その後の事
 デミ・トレントを無事討伐した一行は、一度ラミアの湖へと戻った。
 これから先の双方の在り方をもう一度確認し整えていくために。
「――火の件は先に述べた通りだ。投げ入れた男に他意はなく、彼自身も……どちらかというなら、この実りある森を存続させたいと言っていた」
 ハティの言葉を湖の魔物は静かに聞き入れている。
 敵意も戦意も向けなければ、悪戯に人を惑わす者ばかりではないようだった。
 少なくとも、ここシビル湖に棲むラミアに限っては。
「森に人が立ち入らなくなった事も工事の切欠になっていて、このまま人が遠ざかるのが良い事だとは思えない。森の現状を知ってもらうためにも、また人の立ち入れる場所にしていきたい」
 だから、と手元から取り出したのは簡易の撮影機器だった。
 意図を把握し兼ねたラミアが首を傾げる。
「……何を変えようという訳じゃないが。この森の好きな所を聞きたい。まだ知られていない場所があるのなら撮影して持ち帰りたい。何の変哲もない写真に、なるかもしれないが――」
 頼めるだろうか、と頭を下げた穏やかなウィンクルムの男に、ラミアは微笑んで頷いた。

 そして一行は町へ戻り、まずはラティオが森であった経緯を町長へと報告した。
 彼の周りには派遣されたウィンクルム達の帰還を喜び、よくやったと称える者や複雑な顔をしている者が集まり、ドリアーヌ夫人も遠巻きに会話を見守っていた。
「デミ・トレントは無事討伐しました。これでもう、町が脅威に晒される事は無くなるでしょう」
 町民の一人がわあっと声を上げる。
「じゃあ、これで工事を進められるんだな?」
「よかったですね、町長!」
 同意を求められるも、町長は複雑な表情を浮かべ曖昧に頷くだけだ。
 すかさずブリンドがじろり、と声を上げた町民を睨むと竦んだ様に口を噤む。
「やってよかった、なんて思われるために、俺たちはトレントを討伐した訳じゃねぇよ。代案になるかは、分からないが――」
 ひとまとめにした資料を町長へと差し出す。
「これは……?」
「森で撮影した写真や、ここでしかとれないと聞いた特産物等の情報と……一応、ラミアやコボルド達から聞いた話もまとめておいた」
「どういう事だ? 今更……森は切り崩すというのに、こんなもの必要ないのでは?」
 訝しがる町民には、セイリューが代わりに答えた。
「森を切り崩せば森が荒れる。ネイチャーが棲み続ける限りそれは変わらない。町にとっても良くない筈だ」
「いやしかし、それをなんとかしてくれと私達はA.R.O.A.に依頼を……」
「俺達はデミ・トレントの討伐を頼まれただけで、ネイチャー達まで無闇に殺傷する義理はありませんから」
 どこまでも自分勝手な町民の言い分に、普段穏やかなラキアの声にも僅かに棘が含まれる。
 町民らがざわつき始めたタイミングで、ラティオは提出した資料の下、ある提案をした。
「町おこしとして、この歴史ある森と町の末永い共存を願う祭りを開催してはどうでしょうか、町長」
「祭り?」
「ええ。その様な例は多数ありますし、あの森には実りもある。祭りと並行して広めていければと」
「……工事を中止しろと言うのかね?」
 問いかけつつ、町長の手が資料をぺらぺらとめくる。
 そこにはハティが撮影したシビル湖の写真もあった。
「ラミアは、たどたどしくとも言葉が通じた。ネイチャーにとってあの森は大切な場所だと……コボルドもそうだ。これまで通り双方がお互いの事を考え、共存していく事は出来るはず」
「……森で遊ぶ子供達も多いと聞いた」
 ハティに続き、双子を見やりつつ告げたのはノクスだ。
 情報集めの際、彼は他の子供達からもトレントの話を聞いていた。
「トレントやネイチャーを見た事はないと聞いたが……工事が入るまで何も起こらなかったと言うなら、決して相容れないものではないはずだ」
「森や、そこに暮らす生物と共に生きていく方法を一緒に考えようぜ。分からないなら彼らとちゃんと向き合って、話し合えば良いんだ。資源も実りも、綺麗な水もあそこには全部揃ってる」
 いい所じゃないか、と笑いかけたセイリューに、町長は暫し考えこみ、手にした資料を一通り読み切ってから、ひとつ深く息を吐いた。
「……前向きに、検討しよう。みんな、それで構わないな?」
 町長の決断に、町民達の中には最初こそ渋る者もいたものの、回された資料の中にある写真や対話の記録を読んで、最終的には皆納得した様だった。

「目撃者の男に、双子への謝罪をさせたんだって?」
 木陰で休んでいたブリンドの元へ戻りハティが問うと「強制したわけじゃねぇよ」と返る。
「ネイチャーに関しちゃ落ち着いたが、人間関係の方がうやむやなまま、こじれちまっても後味が悪ィからな。どうしてそうなったか、ってのだけははっきりさせときたかったんだよ」
 ドリアーヌ夫人を怒らせるのも怖いと青年は言ったので、律儀に付き添ってやったらしいと他から聞いて、他人に対するそんな甲斐性がよくあったものだと感心する反面、最初に出会った時を思い出して納得する。
「オーガの徘徊する街で、見ず知らずの男を助けるくらいのお人好しだからな。リンは」
「……それは全く別の話だ」
 一緒にすんな、と困った様に笑われた物だから、それ以上の感情を詮索するのは潔く止めにして、雲の晴れた空の下、ぽっかりと浮かんだきれいな月をひとつ見上げた。

「ノクス、おつかれさま」
 帰り支度を始めた精霊の元へ歩み寄るラティオ。
 夫人邸宅でのやりとりや町での聞き込みなど、出不精な自分たちにしては慣れない事が多く、彼もさぞ疲れただろうと思い労ってみせる。
「これくらい何でもない。貴様の方こそ、人付き合いは苦手だろうに」
「情報集めの事ならお互い様さ。君は言い方も厳しいから」
 ずいぶんと子供に怖がられていた様だったけれど、と言う言葉は言わずとも伝わった様で「とっくに自覚している」とわずかにふてた物言いが返ってくる。
「余談みたいなものだけれど……夫人の工事中止に対する動機には、子供の遊び場である事以外に、やはり家に帰らない夫への反発心も含まれていた様だ。町民達が噂していた」
「貴様の邪推が的を射たのだな。まったくもって理解し難いことだ」
「そう言うなよ。君がもし同じ立場ならどう思っただろう?」
「それは……」
 ふと思い返すが、そもそもそんな相手を作ろうと考えた事も無くひたすらに孤独であった身を鑑みると想像が着かない。
 答えあぐねるノクスに「例えば」とラティオは助け舟を出す。
「一緒に暮らしている僕が、部屋を全く片付けもせず、たまにしか帰らないのに研究にかこつけて好き放題やってる、みたいな事かな」
「……それは確かに」
 御免被りたい、とまで言ったところで、掃除をあまりしない部分に関しては今とさほど変わらない事に気付き苦言を呈するか迷ったが、ふと隣を見ればラティオもこちらを同じ様に窺っていて、ついにはどちらとも無く吹き出してしまった為、掃除の件に関してはうやむやなままこの話は幕を閉じたのだった。

「嫌な任務だったんじゃないか? ラキアには」
 町民達が無事に落ち着いたのを見届けて、森の方を見遣る精霊にセイリューが告げれば「そんな事は」と首を横に振る。
「ネイチャーを守るためのお仕事だからね。デミ化は救えないけれど、被害が広がる前に討伐できて良かったよ」
 セイリューもお疲れ様、と。もうきれいに拭われていたけれど、先程トレントの返り血を浴びた神人の頬をラキアは一撫でする。
「セイリューこそ……いつも嫌な役割を、担わせてしまってはいないかな」
「んー? 別にいいぜ、こうやってラキアが労わってくれるから」
「……もう」
 頬に置かれた手にそのまま手に取り顔をすり寄せる神人に、ラキアは困ったような、照れた様な笑みをくすりと漏らす。
「生産資源としての森のあり方ってのを、町長はこれまで考えた事が無かったらしい。無自覚だっただけで、作物にしても遊び場にしても、充分なほど森には助けられていたのにな」
 無理に観光で町を生きながらえようとさせなくとも、森に助けを得て共存していけばいいじゃないか、と説かれた町の在り方を、町長は感慨深そうに聞いていた。
 ネイチャー達とも、出来る事なら対話を試みていきたい、とも。
「町おこしと並行して、もう一度活気付くと良いね。それがきっと、ネイチャー達にとっても良い事のはずだから」
「うん。そうだな」
 もうウィンクルム達の手を借りなくとも、皆で話し合って行ける様にと集まった町民たちと町長、そしてドリアーヌ夫人の姿を見遣りつつ、任務は無事終結となった。
 敬遠されて止まない存在であるはずのラミアやネイチャーと、町民達が手を取り合う貴重な町だとしてここがニュースに取り上げられたのは、またずっと後の話。



依頼結果:成功
MVP
名前:セイリュー・グラシア
呼び名:セイリュー
  名前:ラキア・ジェイドバイン
呼び名:ラキア

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 04月23日
出発日 05月01日 00:00
予定納品日 05月11日

参加者

会議室

  • プランは提出できた。
    人間達対応はあまり言及出来ていない。ゴメン!
    言いたい事とか考えとかは書いたので、後は天の采配に任せよう。
    うまく伝わると良いなぁ・・・。そして誰も怪我をしませんように。
    怪我したらラキアが治してくれるけど、怪我しないに越したことない。
    ネイチャー達も傷つけたくないし。

    相談その他色々とお疲れさまでした。
    良い結果になると信じてる!

  • [13]ハティ

    2016/04/30-23:05 

    森は広いようだからあるかもしれないという程度で収穫があるかはわからないが。
    …正直他に思いつかなくてな。イチから提案するモジスウもなく。

  • [12]ハティ

    2016/04/30-22:53 

    反応が遅くなってすまない。もうプランは書き進んでいると思うが、俺もこれまで出ている話に異論はないよ。
    俺達は先に言っていたネイチャーと対話する方向で書いてみた。
    提出した内容をざっくりとだが報告させてもらうな。
    代案になるかわからないが少し考えてみた。

    こちらから戦闘は仕掛けずデミ化が認められる場合のみ応戦
    仲間と共に謝意を伝え
    火の件が事実なら工事を中止させようという意図があったらしいこと
    森に人が立ち寄れなくなったことも工事の切欠になっていて
    このまま人が遠ざかるのが良いことだとは思えないことを話す
    人には森の現状を知ってほしい
    そのためにも人の入れる場所にしたい
    何を変えようというわけじゃないが、できればネイチャーにこの森の好きなところを聞きたい
    まだ知られていない場所もある、かもしれない
    話を聞けたら可能なら撮影して持ち帰り
    リンのメモと一緒に町長に渡す

    ・ブリンド
    目撃情報が住民に広まっているような口さがなさがある場合
    変に広めてしまわないよう聞き込みの際には注意
    目撃情報が事実にしろ虚偽にしろ
    やってよかったと思わせるような素振りは避ける
    発端は人にありどちらの話にもネイチャーの意思がないことを冷静に伝える

    戦闘は最低限で
    聞いた場所や情報はメモや頭に記憶しておき
    対話を優先するが可能なら確認してから帰る

  • なんとかやると言った事は書き切れた。

    >弔い
    ああ、構わない。任せる。
    討伐後にデミ化した体を浄化できるなら、森に埋めても瘴気の影響はないだろうから。

  • ラキア:
    デミ・トレントはちゃんと弔ってあげたい。
    デミ化しなければ、この森の守護者としてずっと見守ってくれるはずだったから。

  • 基本的な方針はそれでいいと思う。
    町に対する呼びかけもそんな感じにならざるを得ないよな。
    町側が「今回の開発をどういうメリットを求めて行ったのか」
    がはっきりしない以上、それ以上突っ込みようがないし。
    あれもこれもそれもだと本当にプラン文字数がつらい。
    考慮すべき要因が増えれば増えるほど
    1つの事項に割ける文字数が減っちゃうしさ。

  • ああ、なら【2】をそのまま書かせて貰うよ。
    デミ・トレントに遭ったらトランスしようと思う。

    基本的な方針としては、
    『森を切り崩すのは止めて、共存』
    を目指すという認識で良いかい?

    町に対する呼びかけは、「今まで共に暮らしていたのをどうか続けて欲しい」ぐらいしか浮かばない。

    町長や夫人への説得も、どうしたものかな。
    町長へは、町おこしの手段として森と町の共存を願っての祭りの提案でも。とは思っているけれど。
    夫人がよくわからない。

  • ラティオさん>
    [2]の内容はそのまま実行して貰ってOKだぜ。

    敵はまとまって出てくるとは限らない。
    どちらかと言うと種別で出会った方が説得、というか謝罪はやりやすいと思う。
    ラミアとコボルトでも話す内容は違ってくるし。

    トレントはデミ化していない方への瘴気の影響も心配だし。
    デミ化してないトレントと話をして、争うのを避け、
    キュア・テラⅡで瘴気の影響を浄化したいとラキアは言っている。

    デミ・トレントとの戦闘も短時間で終わらせたいので
    オレ達はハイトランスで敵対応の予定だ。

    町に対する働きかけも必要だな。
    正直、プラン文字数制限が今回は何よりも今日的な気がするぜ。

  • 遅くても早くても、人が増えるのは大歓迎さ。
    こちらこそよろしく頼むよ、先輩方。

    >ドリアーヌ夫人
    夫が市の職員らしいからね。
    仮に町長の予想が正し場合は、あまり家に帰らない夫への反発心なんかも、もしかするとあるかも知れないね。
    少し邪推になってしまうかな。

    >町長
    町を救いたいが為の今回の観光計画というんだから。
    森を切り開く以外に何か案があれば、町長としてはわかってくれるんじゃないかと僕は考えている訳だけど。
    手を入れずとも、人を呼べる何かが提示できればいいんだろうね。浮かばないけれど。

    >ネイチャー
    討伐対象はデミ・トレントだけの認識でまとまってるね。
    うんうん。意見の統一はありがたい。

    今回のきっかけを理解した上でまずは謝罪したいところだ。
    「君達の生活を脅かしてしまい申し訳無い」とね。
    まあ、言い出した僕が頭を下げるさ。

    >やりたい事
    【2】で言ったやりたい事に関しては、僕の方でこのまま書いても良いかい?

    >戦闘
    デミ・トレントを引き付ける為に、ノクスにアプローチを使用して貰うつもりでいる。
    対象を指定できない場合は、他にもいた場合まとめて寄って来てしまうけれど。
    ロイヤルナイトだから、なんとかなるさ。(楽観視

  • [5]ハティ

    2016/04/30-04:08 

    遅くに飛び入り申し訳ない。プレストガンナーのブリンドとハティだ。ラティオさん達は初めまして。セイリューさん達は今回もよろしく頼む。
    書き間違いを見つけての再投稿すまない。

    開発を進める場合戦闘は避けられないだろうし、中止になってもその手段に問題意識を抱けなければ後々ネイチャーとはトラブルが起こりそうだ。
    どちらの思い通りになっても問題がある気がする。ネイチャーへの考慮もそこに加えることが目標だろうか。

    最低限の戦闘で済ませたいというのには同意だ。
    ネイチャーとの関係を改善、また人の立寄れる場所にできればと。
    俺達はネイチャー達と話が出来たらと思っている。

    夫人は魔物のことを理由にしているが子供の遊び場という認識には頓着がなさそうなところがよくわからんな。心配が先に立ちそうなもんだが。
    退治されるだろうと思っての言動だろうか。
    ラティオさんが言うように目撃者が嘘をついている可能性もあるだろうし、目撃者が犯人という可能性もあると思う。
    火を放った話が事実ではなかったとしても工事が入った時点でネイチャー達には敵視されているだろうが。

  • セイリュー・グラシアとライフビショップのラキアだ。
    ラティオさん達は初めましてだな。
    参加人数的に色々と厳しいかもだけど、頑張ろうぜ。ヨロシク!

    討伐するのはオーガ化しているデミ・トレントだけだな。
    ラミアもコボルトも元々そこに棲んでいる野生動物だから
    人間の勝手な理屈で殺しちゃダメじゃん。
    ネイチャーの説得方法は、後で考えよう。

    町にとって「森は観光資源であって生産資源ではない」のかな。
    それだと近くにあっても田舎(林業・農業主体の生活圏)とは森への考え方が違うかも?
    田舎的には元々の有るがままの森が大事(そこから資源を得るから)なんだけど
    ざっと話を聞く限りでは「人が管理する造られた森」にしたいのか?
    それだと元々そこに暮らす生物にはデメリットの方が多いよな。
    オレ達もそーいうのは個人的に嫌なんだよ。ラキアが森側に立った考え方するし。
    変に人間が手を入れて良かったためしはねーじゃん。

    まだ色々なことが、もやもやっと、
    イメージ的な感じに頭の中でふんわりししてる。
    具体的なトコは今から考えるぜ。

  • 僕が森に入る前に事前にやりたい事は、
    ・アビエルに擦り傷がついているか
    ・アーロンを目撃した町民に話を聞く
    ・今までトレントを目撃したことがあるのか
    ・森で遊ぶ子供は多いのか
    かな。

    目撃した町民に話を聞きたいのは、ドリアーヌ夫人は嫌われているようだから。
    アビエルにも擦り傷が無かった場合、ドリアーヌ夫人に嫌がらせしたい人が嘘を言った可能性もあるんじゃないかと思ってさ。

    トレントの目撃については、トレントが住んでる森を何の対応もせずにいきなり開発なんてしないだろうから。
    単なる確認になる。

    森で遊ぶ子供が多いのかについては、よく子供が森で遊んでいるなら。
    森に入る前に子供達に今までの森の様子を聞けないかなと。
    小さな町らしいから子供の数がわからないけどね。

    ああ、説得方法はまだ何も浮かんでいない。
    落としどころも考え中。

  • やあ、と言ったところでまだ他に人はいないようだね。
    一応挨拶はしておくとしようか。

    僕はラティオ・ウィーウェレ。それとロイヤルナイトのノクスさ。
    任務を共にする人はよろしく頼むよ。

    ドリアーヌ夫人の息子が双子。
    アーロンにないなら、アビエルに擦り傷があるか確認したいところだね。

    デミ化した個体以外は説得ができるといいんだが。
    そうすると説得方法と、その為の情報集めが肝心になるのかな。


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