【桜吹雪】花宵闇に紛れて(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 紫色に忍び寄る薄闇。
 夕暮れの微風にはらはらとこぼれ落ちるのはヨミツキの花びら。
 そろそろ紅月が昇る時刻に、あなたは相方とサクラウヅキの川縁を歩いています。A.R.O.A.からの依頼で、この美しいヨミツキの咲き誇る城下町において、あなたたちは瘴気とオーガの調査をしているのでした。
 サクラウヅキとサクラヨミツキ、二つに分かれてしまった世界--妖しくも美しい紅月の下の瘴気--不穏なオーガの動き……。
 何一つとして安心出来る要素はありませんが、それでもサクラウヅキに来てしまえば目を奪うのは、ヨミツキの華麗さです。
 繚乱と咲き誇るヨミツキの白と薄紅の花枝--それは花の重さにしなるほど。
 夢の音楽のようにこぼれ落ちる花びらは、一陣の風が吹けば、夕暮れを覆い尽くす花吹雪となる。
 紫に墨を流し込んだような空の色。
 宵の明星が微かに見えて。
 やがて大きく昇ってくる、あやかしの紅月--。
 その下に咲きこぼれ風に惑うヨミツキの花吹雪。ヨミツキの桜花。
 あなたと相方は自然と無言になりながら、川縁の桜並木を歩いて行きます。逢魔が時のヨミツキは恐い程に美しく、サクラウヅキの人々でさえも、この時刻はぴったりと扉を閉めて外に出ないようでした。
 声を出すのが恐い反面、相方に、ヨミツキがどう映るか気になります。ふと視線を移したあなたの視界に、人影が過ぎりました。
(誰もいなかったはずなのに--?)
 気配がしないと思っていたのに。あなたはその人影を追いました。
 和服姿の男女でした。花枝がさえぎるので、その顔ははっきりとは見えません。男の人の黒い着流しと、女の人の袖の手鞠と流水の柄がやけに目につきました。
 明らかに人の姿はしていますが、存在感が薄くて、何となく怪しくてあなたは目を凝らします。ですが、降りしきる桜吹雪とヨミツキの花枝が邪魔になって、額に角があるかどうかは分かりませんでした。あなたの相方も気になるようで、立ち止まってしまいました。
 男の人が魅惑的な手つきで女の人の耳から頬を撫でました。女の人に何事か囁きましたが、聞こえません。
 途端に女の人は手を振り上げて、男の人の横っ面を平手で叩きました。
 男の人は叩かれた頬を撫でます。そのまま女の人が背中を向けるのを追いかけて、一瞬争い合うように手が動いて……。男の人は女の人の手をつかみ、手繰り寄せます。女の人は男の人の胸に抱き取られ、仰向いた顔を支えられて、唇を強く吸われました。
 ほんの一瞬のような出来事でした。
 花枝の向こうの、強い接吻--。
 やがて唇が離れて、男の人と女の人は連れ立って、花の宵闇の中へと消えて行きました。あまりにも妖しく、濃い空気が辺りに立ちこめます。
(今の……)
 あなたは息を詰めながら相方の様子をうかがいました。相方も衝撃を受けたようで、その場に立ち尽くして放心しています。
 あなたは何か声をかけようとしますが、咄嗟にいい台詞が出てきません。
 さあ、どうしたらいいのでしょう--。

解説

【解説】
 見ちゃった! というネタです。
 ヨミツキの下で他の人のキスシーンを見てしまいました。二人は立ち去りました。辺りにはもう誰もいません。
 さあ、あなたと相方は、どうしますか? つられたようにキスしてしまう、あるいは笑って誤魔化す、あるいは変にドキドキするだけで何も出来ない、あるいはリア充爆発しろと怒鳴る……etc。色々あるかと思います。
 何でもプランに書いてください。(暗がりで人はいませんが、公序良俗は守ってください! キスまでです!)
★サクラウヅキまでの移動費として300Jr消費しました!
 素敵なプランをお待ちします!


ゲームマスターより

女性向けに書き直しました。素敵なプランをお待ちします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ※神人の両親を殺めたのは最愛の人でした
7年前の真実を突き止めようと神人は次の休みに話し合おうと精霊と約束を交わしています

(話し合おうと思った矢先に男女のキスシーンを見てしまい)っ、エミリオ、向こうにいこう!(精霊の手を引き)
ご、ごめんなさい、ちょっと気が動転していたみたい(手を離す)

(スカートの裾をぎゅっと握り)・・・7年前、私の誕生日
私の村はオーガに襲われた
お父さんとお母さんを殺したのはオーガだと思い込んでいたの・・・でも違った
(今にも泣きそうな顔で必死に言葉を紡ぐ)ねえ、エミリオ、本当に私の両親を殺したのは貴方なの?(お願い嘘だと言って!)

(狂気の笑みを浮かべ近づく精霊に)っ、やだ、嫌!!



吉坂心優音(五十嵐晃太)
  ☆心情
「ふふっ、綺麗な桜…
幻想的で素敵だね、晃ちゃん(微笑」

☆見ちゃった
「ん?ねぇ晃ちゃん、あの人達もあたし達と同じなんだねぇ
……っ!?(キスを目撃し目を見開き暫く固まる
はっ!こ、晃ちゃんっ、あれ、見た…?
多分、現実かも…
(どっどうしようっ!
変な意識しちゃうよぉ!
うー、そりゃ、あたしだって晃ちゃんと、したいとは、思うけど…
外でなんてっ)
(ビクッ)なっなぁに?
ふぇっ!?(思わず赤面
あ、ちがっ、そうじゃ…!
まっ待って晃ちゃん!(服の袖を掴む
あの、ね…?あたしも、晃ちゃんとキスしたい…(上目で見つめる
きゃっ!…うん、言わないよ…(目を閉じ口へ角度を変えながら
んぅっ……晃ちゃん、大好き(ふにゃり」


水田 茉莉花(八月一日 智)
  い、いったいどうすればいいのよ!
もう一人の精霊相手だったら目をふさいで帰ればいいけど
よりによってほづみさんだし
ナリはコレでも成人してんのよ!誤魔化しようが無いじゃない!

食べないわよっ!
それよりほづみさんは何とも思わないんです?あんな、あんな、あ…

思うところ?
ま、まあ、確かにそうです…ね
ってか、見上げる身長差ってどんな感じかしら?
今まで同じくらいの男性としか会ったことがないから…
って、あたしは160.9cmですっ
変な事言わないでくださいっ!
わかったわよ、やってやろうじゃないの

け、結構近い…です、よ、ほづみさん
で、これから、どうするんです、か?
うわあっ、はいぃっ!(とっさに目をつぶる)

※反応お任せ


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  まるで映画のワンシーン
凄く…綺麗で胸がドキドキして

今のって…幻じゃない…よね?
羽純くんに同意を求めて、目が合ったら…
急激に恥ずかしくなってしまいました…!

ヨミツキの花吹雪の中、羽純くんはとても綺麗で…
こんな素敵な人が、私のパートナーなんだと思ったら
どんどん鼓動は速さを増して

『守り続ける
愛している』
羽純くんが言ってくれた言葉を思い出し、胸が熱い

気付いたら無言で羽純くんをじっと見つめてる状態
何か、言わなきゃ
…伝えたい、溢れるこの気持ちを

あのね、羽純くん…大好き

笑顔で驚く程、すんなり言えたけど…
一拍置いて恥ずかしさが

と、ととと突然ごめんね!
どうしても今伝えたくて…
(どうしよう、突然変な奴と思われたら


天埼 美琴(カイ)
  突然のことに声も出ず、二人が居たらしき場所を見つめる
は、はいっ!?
…み、見てませんっ
う…
説明できず言葉が詰まる
…ガイさんどうして平気そうなんですか……?
(もしかして…ガイさんもびっくりして…?)
なっ……!? む…無理ですっ
トランスすらしたことないですし、しかも契約して間もないじゃないですか…!

そんなこと…!
(キスってどうやれば…どんな顔したら良いの……!?)
目をきゅっとつむり、相方の頬に触れるくらいの軽いキス
するとは思わなかったって…! からかってたんですか…!?
ずるいですよ…!
他にするこ……、あっちょ、調査…!
頭を撫でられて驚くけれど悪い気はしない
やっぱりずるいです…
(ああ…顔から火が出そう…)


●吉坂心優音(五十嵐晃太)編

 今日、吉坂心優音と精霊の五十嵐晃太は、サクラウヅキにオーガの調査に来ています。瘴気の事などを調べるのですが、二人はついつい咲き誇るヨミツキの並木を眺めていました。
「ふふっ、綺麗な桜……幻想的で素敵だね、晃ちゃん」
 心優音は微笑んでいます。
「あぁせやな……こないも綺麗ならいつまでも見ときたいわ……」
 美しい光景に、晃太も同意します。
 桜並木の下を歩いて行くと、やがて二人は他の人影を見かけました。それは若い男女二人のようでした。夕暮れの花枝の影になりはっきりとは見えません。
「ん? ねぇ晃ちゃん、あの人達もあたし達と同じなんだねぇ」
「ん、なんや? あぁ俺らの他にもおったんやなぁ」
 逢魔が時のサクラウヅキでは、人の気配が全くしなかったのです。二人は珍しく思って他の男女の方へ視線を向けました。
 そのとき、その妖しい雰囲気の男女がさっとキスをしました。
「……っ!?」
 心優音は目をまん丸にして固まってしまいます。
「……んなぁっ!?」
 晃太も、思わず声を裏返らせて硬直します。
 その男女は心優音達には気がつかなかったようで、そのまま降りしきる桜吹雪の向こうに消えていきました。
 夕闇の中、二人は立ち尽くします。
「はっ! こ、晃ちゃんっ、あれ、見た……?」
 やっと我に返った心優音が晃太の方を見ます。
「うぉ!? み、みゆ? お、おう、見てもうた。見間違い、じゃ……」
 晃太は狼狽える様子を隠さずに、桜吹雪の向こうと心優音の顔を見比べます。顔が真っ赤です。
「多分、現実かも……」
 心優音も赤面してちらちらと晃太の顔を見ながら言いました。
「マジか……」
 晃太は力なく言いました。なんだかまともに心優音の事を見られません。
(どっどうしようっ! 変な意識しちゃうよぉ! うー、そりゃ、あたしだって晃ちゃんと、したいとは、思うけど……外でなんてっ)
(あー、なしてあんな所でキスするんや奴らは! 別に覗き見やあらへんけど、意識しちまうやないか! 最近みゆとしとらんから余計にしたくなっちまったやないかっ!)
 二人は赤くなってそわそわしながらお互いの顔を見て、そのあとヨミツキの方に目をそらし、それからまたお互いの顔を見て、桜の散っている地面を見ます。
「……なぁみゆ、あのさ……」
 やがて、晃太が切り出しました。
「なっなぁに?」
 びくっとしながら心優音は晃太に聞き返しました。心臓がドキドキしています。
「俺達も、せぇへんか……?」
「ふぇっ!?」
 晃太の申し出に、心優音は奇声を立ててしまいます。ますます顔が赤くなっていきます。
「……すまん、何でもないわ。ほな帰ろか」
 心優音の様子に晃太は頭をかいて、先に立って歩き出しました。オーガの調査の途中ですし。
「あ、ちがっ、そうじゃ……! まっ待って晃ちゃん!」
 心優音は慌てて晃太のパーカーの袖をつかみました。
「……?」
 晃太が不思議そうに振り返ります。
「あの、ね……? あたしも、晃ちゃんとキスしたい……」
 心優音は上目遣いになりつつ弱く優しい声で言いました。
「みゆ、可愛すぎやっ!」
 もうたまらなくなって晃太は心優音を抱き締めました。
「きゃっ!」
 悲鳴を上げる心優音。
「今更無理、言うても止まらんからな」
「……うん、言わないよ……」
 目を閉じる心優音。自然に口の角度が変わっていって、そのまま二人の唇が重なりあいます。
「んぅっ……晃ちゃん、大好き」
 ふにゃりと幸せそうに微笑みながら、とろけるような表情を見せる心優音。
「ん……俺も大好きやで」
 愛しくてたまらないように、晃太は心優音を抱き締めほおずりするのでした。先程のカップルに負けないぐらいあつあつです。幸せなウィンクルムにさらなる幸運が届きますように。

●天埼 美琴(カイ)編

 今日、天埼美琴は精霊のカイとサクラウヅキにオーガの調査に来ています。夕暮れ時にヨミツキの桜並木の下を歩いていると、前方に人影が見えました。ずっと人の気配がしなかったので、珍しいと、桜吹雪の向こうに目を凝らすと、薄闇の中でその男女はキスをしました。
 そのまま音もなく立ち去っていきます。
 突然の事に美琴は声も立てられず、二人がいた夕暮れの花吹雪の方角を見つめるばかりです。
「……おい、ミコト」
 先に口を開いたのはカイの方でした。
「は、はいっ!? ……み、見てませんっ」
 ミコトはすっかり動揺しています。
「……いや、何も言ってないだろ」
「う……」
 美琴は自分の上ずった言動を説明出来ず、言葉を詰まらせてしまいます。
「……カイさんどうして平気そうなんですか……?」
 恨めしそうに聞く美琴。
「 ……は? 平気? なんで平気そうに見えんだよ……」
 意外にもカイは心外そうにそう返事をしてきました。美琴は鴇色の瞳をぱちくりさせます。
(もしかして……カイさんもびっくりして……?)
 カイはたまたま動揺が顔に出ない性格なのでしょうか。ところがカイは突然こんなことを言い出しました。
「……思いついた。おい、ちょっとキスしてみろ」
「なっ……!? む…無理ですっ」
 当然、美琴は拒否します。
「なんだって良い。とにかく、やってみろ。口じゃなくて良い」
 それなのにカイは重ねて無茶を言います。
「トランスすらしたことないですし、しかも契約して間もないじゃないですか……!」
 美琴は無理無理と首を横に振ります。
「……。ああ、なるほど? お前にはやっぱり、荷が重すぎる、か」
 カイは小馬鹿にするようにそう言いました。
「そんなこと……!」
 そう言われると美琴も神人のプライドを刺激されて、しなければならない気持ちになります。ですが。
(キスってどうやれば……どんな顔したら良いの……!?)
 美琴は目をきゅっとつむり、隣に立つカイに向かいます。本当にかすめるような、頬に触れるくらいのぎりぎりの軽いキス。それをカイに実行します。
 頬に伝わる柔らかい感触。それにカイは少しばかり驚きます。
 気が弱くて大人しい相方にできるはずがないと思っていました。予想外の展開です。
「……本当にするとは思わなかった……」
 ちょっと動揺の見える声でカイは言いました。
「するとは思わなかったって……! からかってたんですか……!? ずるいですよ……!」
 すると美琴は真っ赤になって抗議します。
「ず、ずるくない」
 カイは顔が熱いことに気づいて、そっと相方から自分の顔が見られないように顔を背けました。
「……そ……そうだ。顔真っ赤にしてる暇あんのか? 他にすることあるだろ」
 カイは話題をすり替えようと仕事の話をしました。
「他にするこ……、あっちょ、調査……!」
 美琴はウィンクルムとしてサクラウヅキに来た事を思い出しました。それを言われたらもうどうしようもありません。
「……思い出したんなら、早く行くぞ」
 カイは美琴の黒髪の頭をぽんぽんっと撫でました。美琴は頭を撫でられて驚きましたが、悪い気はしませんでした。
「やっぱりずるいです……」
 弱々しく言う美琴。誤魔化されてしまった自覚はあります。だけど。
(ああ……顔から火が出そう……)
 何故こんなに顔が熱くなるのか。顔どころか全身が熱いのか、美琴は自分でも説明が出来ませんでした。心臓が生まれて初めてというぐらい高鳴っています。
 本当にカイはずるいと思います。
 こんなにも動揺を隠せない美琴の前で平然として、オーガの調査を始めて。
 だけど、カイだって、顔が熱い事を隠すために、ヨミツキの花枝の影を選びながら歩いている事に、美琴は気づいていないのでした。

●水田 茉莉花(八月一日 智)編

 今日、水田茉莉花は、精霊の八月一日智とサクラウヅキにオーガの調査に来ています。オーガの瘴気を辿るため、夕暮れ時のヨミツキの桜並木の下を歩いていると、前方に人影が見えました。逢魔が時に人の気配は珍しいと、注目すると、その男女は花枝の影でキスをしました。
 そのまま夕闇の中に消えて行きます。二人は取り残されてしまいました。
(い、いったいどうすればいいのよ!)
 茉莉花は動揺を隠せずに立ち尽くしました。
(もう一人の精霊相手だったら目をふさいで帰ればいいけど、よりによってほづみさんだし、ナリはコレでも成人してんのよ! 誤魔化しようが無いじゃない!)
 茉莉花は頭の中がパンクしそうになりながら固まっています。ところが精霊の方はのんきなものでした。
「あー…ちゅーってやってたなぁ、アイツ等」
 団子もぐもぐ食ってます。
「……みずたまり、喰うか?」
 そう言って団子頬張りながら振り向く八月一日。
「食べないわよっ! それよりほづみさんは何とも思わないんです? あんな、あんな、あ……」
 言っているうちにまた羞恥がかーっと込み上がってきて口をぱくぱくさせる茉莉花。
「何とも思わないはずねーじゃん。ただなー……思うところもあるわけでなー……」
「思うところ?」
 のんきな八月一日を茉莉花はジロリと睨みます。
「ホレ、どう考えてもああいう角度おれには無理じゃん」
 八月一日は頭の上に掌をあてて身長を測る仕草をしてみせます。彼の身長は155㎝です。茉莉花は言いたい事を理解しました。
「ま、まあ、確かにそうです……ね」
 彼の男性としての身長に対する意識に配慮して茉莉花は引き下がりました。
(ってか、見上げる身長差ってどんな感じかしら? 今まで同じくらいの男性としか会ったことがないから……)
 色々と想像を巡らせて茉莉花は黙ります。
「野郎の方が背が高くなる為には、おれはそこのベンチの高さくらい改造して背を高くしなきゃなんねーんだぜ。まーみずたまりは170㎝あるからどんな奴でも同じくらいになるよなー」
「って、あたしは160.9㎝ですっ。変な事言わないでくださいっ!」
 いきなり10㎝も背を高く言われて、茉莉花は猛然と反撃をしました。
「だったらそのベンチの前に立てよ! おれがベンチに乗って身長差作ってやるから!」
「わかったわよ、やってやろうじゃないの」
 売り言葉に買い言葉で、茉莉花はベンチの前に進みました。八月一日はベンチの上に飛び乗ります。人工的に出来た身長差で、八月一日が茉莉花を見下ろしました。
「お、おう……見下ろすのって、こんな感じなんだな……」
 八月一日は鼓動を高鳴らせながら間近、それもいつもよりずっと下にある茉莉花の顔を見つめました。
「け、結構近い……です、よ、ほづみさん」
 近くにある、そしていつもよりずっと上にある八月一日の顔を見つめ、茉莉花は勝手に声が途切れ途切れになってしまいます。
「で、これから、どうするんです、か?」
 ちょっと挑発的な響きで言う茉莉花。
「どうもこうも……目ぇつぶれぇ、みずたまり!」
 動揺を隠せず上ずって大きくなった八月一日の声。まるで怒鳴るように言います。
「うわあっ、はいぃっ!」
 八月一日の動揺に引きずられて、胸を高鳴らせながら、茉莉花は咄嗟に目を瞑って俯くようになります。
 八月一日は勢いで言い放ったものの、羞恥が上回ってしまい、手にしていた花見団子を茉莉花の口の中に突っ込みました。
「!?」
 茉莉花は大きく目を見開きます。キスじゃないという事ぐらい、分かります。
 口の中にはお団子のおいしい味。
「ひゃ、ひゃひふるんでふふぁ!?」
 お団子をくわえたまま、茉莉花は喚きます。
「誰もキスするなんて言ってねーし、団子うまいし、これでいいじゃねーか」
 やれやれと言うように手を振りながら、八月一日はベンチから降りていきました。へたれなんですが、うまいかわしです。

● ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)編

 今日、ミサ・フルールは精霊のエミリオ・シュトルツとサクラウヅキにオーガの調査に来ています。
 日暮れまでともに瘴気の正体を探りながら、桜吹雪の中を歩いて、ミサは疲労しつつも物思いに耽ります。ミサの両親を殺したのは、最愛のエミリオでした。七年前の真実を突き止めようと、ミサは次の休みに話し合う約束をエミリオとかわしています。
(本当の事を知りたい……でも、それでいいの……?)
 思い詰めるミサの視界。そのヨミツキの花枝の下に二人の男女がいます。その男女は突然、キスをしました。
「っ、エミリオ、向こうにいこう!」
 精霊の手を引き、ミサはその男女から逃げるように花枝の奥に隠れました。
 ミサの手の温もりを感じエミリオは胸が高鳴ります。
「ミサから手を握ってくれるの久し振りだね……嬉しいな」
「ご、ごめんなさい、ちょっと気が動転していたみたい」
 ミサはすぐに手を離してしまいます。離れていくミサにエミリオは寂しさを感じます。
「俺に聞きたいことがあるんだよね? いいよ、言ってごらん」
 ミサはスカートの裾をぎゅっと握りしめ、俯いて唇を噛みしめました。身につけていたのはマカロンバレリーナ。春とホワイトデーを意識した衣装。ホワイトデーには何をしていたんだっけ? バレンタインは? ……今はそれすらも分からない。思い出す事も出来ない、愛し合っていた日常。確かに愛し合っていた日常を、取り戻すためにも、ミサは真実に直面しなければなりません。でも思い切って話し出します。
「……7年前、私の誕生日。私の村はオーガに襲われた。お父さんとお母さんを殺したのはオーガだと思い込んでいたの……でも違った」
 ミサは今にも泣き出しそうでした。でも、必死に言葉を紡ぎます。
「ねえ、エミリオ、本当に私の両親を殺したのは貴方なの?」
 ミサは顔面蒼白になりながら、エミリオを真っ直ぐに見つめました。
(お願い嘘だと言って!)
 願うのはそればかりです。エミリオを信じたい。だけれど、直面した真実は、残酷で。
(ああ、やはり思い出してしまったんだね)
 そんな予感がしていたエミリオは思ったよりも動揺しませんでした。彼は彼なりに愛情深く冷静に考えます。
(ミサは優しいから真実を話せば俺を許そうとして、でも両親とのことで板挟みになって苦しむんだろう。そうなるのは本意じゃない。罰せられるのは俺だけでいい)
 ミサは無意識に感じ取っているかもしれません。エミリオがまだ隠している事があることを。彼が本当にミサを愛していること、そしてその愛情はとても悲しく深いものであることを。その愛が埋もれるように深い物であるからこそ、ミサは簡単には答えを見いだせず、苦しんでしまうことを……。
「そうだよ。お前の両親を殺したのは俺だ」
 埋もれるように深く、悲しい、狂気の愛。それを見せつけて、エミリオはミサに迫り、激しく口づけました。
「っ、やだ、嫌!!」
 ミサは初めてエミリオに恐怖を感じ、彼を突き飛ばそうとします。だけれど、ミサは到底腕力ではエミリオにかなわなくて、屠るようにくちづけられてしまいました。

『どうか彼女が俺を憎めますように』

 エミリオは祈ります。それは女神ジェンマに対してなのか、ミサ本人に対してなのか、あるいは、殺してしまった、彼女の両親に対してなのか--。ミサを守るためならば自分が悪役になっても構わない。だけれど、彼女の心は欲しいから、彼女が憎しみという形であっても、執着するのは自分以外は許せない。愛憎は表裏一体である事を、エミリオは知っています。
--久し振りにした彼女とのキスは、血の味がした。
 最後の抵抗で、ミサは殺す勢いで、エミリオの舌を噛んだのでした。それは殺意なのか、--愛なのか?

●桜倉 歌菜(月成 羽純)編

 今日、桜倉歌菜は、精霊の月成羽純とサクラウヅキにオーガの調査に来ています。二人で瘴気を調べながら、ヨミツキの桜並木の下を歩いていると、前方に男女の人影が見えました。逢魔が時にたった二人、男と女。ふと目を上げると、その男女はさっと大人のキスをして、離れました。花闇に消えていく二人。
(まるで映画のワンシーン。凄く……綺麗で胸がドキドキして)
 歌菜は思わず立ち止まって二人の消えた桜吹雪の夕闇を見つめます。
(……人だったのだろうか?)
 羽純は羽純で目を疑います。まるで人ではないように妖艶だった光景。もしかしてオーガ? でも、確証はありません。
「今のって……幻じゃない……よね?」
 羽純は歌菜の同意を求める声に視線を向けて、目を合わせます。途端に、その唇を今すぐ奪いたい衝動が浮かんできます。
 羽純と目が合った歌菜は、急激に羞恥心がこみあがってきます。
 ヨミツキの花吹雪の下、羽純は透き通るように綺麗でした。性格は男っぽいのですが、元来、羽純は儚げで端麗な美しさを持っているのです。そんな彼が、自分のパートナーなのかと思うと、どんどん胸の鼓動は速さを増していくばかりです。
 動きを止めて、じっと自分を見つめてくる視線に羽純も気づきます。
 自分の中にある、歌菜に対する男性として当然の欲望を見抜いているようで、羽純も見つめ返す事しか出来ません。
 歌菜は今までの羽純の言葉を思い返します。
『守り続ける』
『愛している』
 胸が熱くなります。
 だけど今の自分は黙って見つめているだけで--
(何か、言わなきゃ……伝えたい、溢れるこの気持ちを)
 歌菜は勇気をふるって口を開きます。
「あのね、羽純くん……大好き」
 舞い散る桜の下で。
 歌菜がじっと見つめていた唇を開いて、はっきりとした言葉で言い切ります。
 言霊というのでしょうか。
 歌菜の言葉が、羽純の前身を駆け巡ります。
 ほとばしるいとおしさ。
 歌菜は自分が笑顔のまま、驚くほどすんなりと言えた事にほっとします。
 ですが、一拍置いて、たちまち恥ずかしさが込み上がってくるのでした。
「と、ととと突然ごめんね! どうしても今伝えたくて……」
 本当に唐突な台詞だった事は分かるのです。
(どうしよう、突然変な奴と思われたら)
 歌菜は相手が羽純だからこそ、そんな心配をしてしまいます。羽純にはいつだってかわいい奴と思われていたいのです。
「……突然過ぎて……心臓に悪い」
 羽純はそう呟いて、歌菜をそっと抱き寄せました。
 自然と唇が重なります。
「……悪かった」
 唇が離れた後、羽純は謝りました。
「どうして謝るの? ……こ、こここ恋人同士なんだから……謝る必要はないと思うの……」
 動揺を隠せずに震える声で歌菜はそう言います。目は、羽純に愛を伝えたくて必死。
(ああもう本当に……愛おしい)
 幸せな感情に羽純は笑みを隠せません。
「でも、親しき中にも礼儀あり……だ。キスしたい、今すぐ。いいか?」
 羽純の言葉に、歌菜はまごつきながらも頷きました。
 雪のようにはらはらと舞い落ちるヨミツキの花弁。
 薄紫色に忍び寄る夕闇の中で。
 大好きなたった一人のためのキス。
 相手に言葉にならない想いを唇で伝えるために。
 一瞬触れ合った後に、確かめるようにもう一度。
 何度も何度も重なり逢う唇は、二人の心の動き。
 本当に幸せなウィンクルムの上に、桜吹雪が、ジェンマの愛のように降り注いだのでした。



依頼結果:大成功
MVP
名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月21日
出発日 04月29日 00:00
予定納品日 05月09日

参加者

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