夜桜の下で(如月修羅 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ


 昔あるところに、1人の男が居た。
 その男には愛する人がいたが、その愛する人は別に愛する人がいて、男の思いに気が付かず、結婚してしまったという。
 絶望した男は、桜の木の下に思いの丈を綴った手紙を埋め、その後姿を消したのだ。
 しかしある晩、その埋められた所が光り、不審に思った村人がそこを掘ったところ……。
「綺麗な桜色の石が出てきたそうです。その石は桜石と呼ばれているのですが、この桜石。
先ほど話した通り、愛を込めた……それは愛憎でも、情愛でも、信愛でも、親愛でも。とにかく愛情と呼ばれる物を書いた手紙を桜が咲いた頃に埋めると、石が生まれるそうです。
そしてその石を持つと、恋愛が成就する、または恋愛が永久に続くと言われています。
勿論、その石は自分の書いた手紙を埋めて生まれた石だと最高の力を持つそうですよ。
……なんてしたり顔でいいましたが、勿論、迷信です。
この話を近年掘り起こした村が、観光の目玉の一つとして形を整えたようです」
 そう、これはあくまでも迷信である。
 ただの桜色をした石で、なんの力も、自ら光ることもないというのだが、実際あった事件を元に脚色された物語だという。
「ただ、桜色の石自体は希少みたいであまり出回っていないことからそれなりに信憑性はありますよね」
 小さく笑みを零した職員が、少しさみしげに瞳を伏せる。
「そんなちょっと不思議なお話がある村に、デミ・ベアーが現れました。
丁度桜の木々を傷つけているようですので、倒してください」
 人に危害は加えらえておらず、敵は一体。
 皆ならばすぐに対処し倒すことも可能だろうという。
 人々はちゃんと避難しているので、現場に向かうだけだ。
 最後に、と職員がぽそりと呟いた。
「あのですね、もしも大丈夫でしたら……お願いがあるんです。
既に許可は貰っていますので、皆様が大丈夫でしたら、なんですが、桜石を採ってきてほしいのです」
 桜石は、桜の木々の近くに埋まっているという。
 そして、月がある夜に掘れば、月の光を受けて桜色に光るために見つけやすいだろうと微笑む。
「今日は満月ですから、夕方に向かって倒した後に、大丈夫ならお願いしたいのです」
 どうして? と聞くのに、職員が瞳を伏せつつ言葉を紡ぐ。
「先ほどお話した村から消えた男性は……私の曾祖父らしいんです」
 驚くウィンクルム達に、小さく微笑む。
「曾祖父は、曾祖母を愛していたそうですが、それでもやはり、その人を生涯忘れられなかったといいます。
曾祖母にとっては理不尽なことは多々あったかもしれませんが、それでもどうしようもなかったんでしょうね」
 その話を聞いた時、彼女は思ったのだという。
 その桜石を墓前に供えようと。
「あの迷信を信じるのならば……桜石には曾祖父のその人への思いが詰まっているのでしょう。
私はそんな思いの詰まった石を曾祖父の元へ返したいのです。
貴方のその人への思いは、とても美しい色をしていたと伝えたいのです」
 だから、どうか。
 そう言って職員は頭を下げる。
「あ、勿論、これは強制ではないですし、寧ろ皆様でしたらお花見なんかを楽しむのも素敵だと思います!」
 沢山の桜の木々は、月の明かりに照らされてきっと幻想的だろうと職員が微笑む。
「ランプなんかもっていっても、きっと幻想的でしょうねぇ……」
 どちらにせよ、デミ・ベアー自体はそんなに強くないため、楽しんできてくださいね、と微笑むのだった。

解説

 戦闘+桜石探しorお花見
 ですが、戦闘+桜石探し+お花見 でも勿論大丈夫です!

●デミ・ベアー
 1体。
 ひっかき、体当たり。
 そんなに苦戦することはないでしょう。

●桜
 戦う場所は沢山の桜があります。
 戦い終了後は、職員の願いを聞き届けるのもよし、お花見するのもよしです。


●桜石
 スコップで30cmぐらい掘れば桜色の石が出てきます(その際、月の光を受けて光ります)
 あまり数がないために少々時間はかかるかもしれません。
 戦闘に参加したウィンクルム分+職員分でしたら、戦利品としてお持ち帰り可能ですが、配布はされません。
 大きさは小指の爪より少し大きめという、あんまり大きくはない石です。

ゲームマスターより

 ちょっと変わったお花見、如何でしょうか?

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  現場到着後すぐトランス。皆と協力して熊を倒す。
オレ達はデミ・ベアーの攻撃を引きうける盾役だ。
熊を軽く殴って気を引き、桜から引きはがすぜ。
その後本気で殴る。スタンしてくれたらラッキーだ。
オレ達はEWの呪文詠唱時間を稼ぎ
その間味方が殴られないようにするのが役目。
他の人が死角から攻撃できるように熊を挑発するぜ。

熊倒したら夕闇の桜を愛でつつ、樹の傷を確かめる。
見付けた傷はラキアに言うぜ。
これが元で枯れたりしたらやっぱ嫌じゃん?
来年も綺麗な花を咲かせてくれよな。
また見に来るからさ!と桜へ笑顔。
今も綺麗な花じゃん!

石はラキアと一緒に探す。
後で職員さんに好きなの選んでもらう。
残ったら欲しいな。ひとつずつさ。


俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  到着後トランス&ハイトランス
俺は前衛担当、すぐに敵のいる方へ向かう
敵が桜の木を傷つけていたら他の前衛と協力して引き剥がし
その木を背にして守りながら、後衛の詠唱タイミングを確認
後衛からも敵の姿が見えるように位置取りを気をつける

敵が別の木を襲いに行こうとしたら阻止に向かう
前衛全体の包囲が薄い所をカバーするように動く

倒したら周辺を片づけながら桜石探し
瘴気があるなら浄化も兼ねる
見つけた石は皆の分まとめてその中から状態のいいのを選んで職員に渡す

片付いたら改めて花見
いや、俺達は個別だからそのざると手拭いはしまっておけよ、やらないからな
全く…こうやって黙って大人しくしてればすげえ綺麗なのにな
色々残念だよな…


暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
  申請:癒合剤

敵は1体といえど、村人にとっては脅威でしょう
被害が広がらないうちに、早々に倒してしまいましょう

まずは桜から引き離さないといけませんね
「オ・トーリ・デコイ」で比較的開けた場所へ誘導を
先生の詠唱が終わるまで、そちらと桜の方へ敵が行かないよう引き付けます
ヒット&アウェイを基本に、敵の攻撃も直接食らわないよう注意
戦闘後、傷ついた桜の確認
必要なら癒合剤で処置

桜石探索と花見(職員分は仲間と厳選
そうですね…素敵な話だとは思いますよ
ただ曾祖母のお気持ちを考えると、素直に感動できないというか
それは…そうかもしれませんけど
先生にもいるんですか?
どうしても忘れられない人が

…食べられないのが残念ですね


西園寺優純絆(十六夜和翔)
  ☆心情
「折角の桜が綺麗なのに!
滅茶苦茶にするなんて許せない!」

1戦闘
・最初に全員で敵を引き離す
・オトーリデコリ使用
・後方で敵の注意を引く
・敵を発見次第トランス
・ジェンマで力を上昇させ与える

2石探し
「えーっと、確か職員の人分だけ探すんだよね?
それにしても素敵な言い伝えなのだよ
ユズもいつかは、あんな風に恋をしてみたいのだよ…
でも、まだ恋って言うのが分からないから無理かなぁ…
カズちゃんは恋とかした事ある?
ってまだユズ達には早いよね」

3花見
「ふふっ桜が綺麗だねぇカズちゃん(微笑
お花見とか来るの初めてなのだよー
ユズ、姉様達がいた時もやった事無いから…
でも今日はカズちゃんと来れて嬉しい♪
うんそれで良いよ」


シムレス(ロックリーン)
  現場到着トランス

ロックと行動
デミベアーに攻撃されたらシャイニングアローⅡを盾にする
好機にはコネクトハーツで切り付けたいが無理はしない

戦後
ロックが石掘りしている間、桜とこの場の瘴気の浄化をしたい
手をかざしたり触れたり浄化しながらデミベアーが桜を傷つけていた理由を考える
「人に愛でられる花は愛の集う場所、そこに愛の結晶化の謂れの桜石、瘴気に支配されたオーガにはさぞ忌々しい場所だったのだろうか

掘り出された桜石の輝きを目に焼き付ける
桜石は実物を見られればそれで満足なので自分のはいらない

石掘りが終わったのならロックと花見でもするか
今季何度目かの花見
「今年はこれで見納めか

石渡す際はロックと同席する



 ひらり、はらり。
 10人のウィンクルムへと桜の花びらが舞い落ちる。
 既にトランスを終えた面々は、あとはデミ・ベアーを発見するだけとばかりに、桜の木々の間を皆で探索していた。
「折角の桜が綺麗なのに! 滅茶苦茶にするなんて許せない!」
 西園寺優純絆は視線を桜の木から十六夜和翔へとうつし、ね? と問いかける。
「全くだ、風情ある桜を傷付けるのはムカつくな。ぜってぇ許さねぇよ……?」
 2人が頷きあい足を進める傍ら、暁 千尋は申請し受け取った癒合剤を今一度確認しつつ思う。
(敵は1体といえど、村人にとっては脅威でしょう)
 被害がひろまらぬうちに、早々に倒してしまわないとと決意を新たにする千尋とは違い、ジルヴェール・シフォンはデミ・ベアーに少々同情していた。
(1対10ってなんだか苛めみたいねぇ……)
 とはいえ、敵は既に桜の木々を傷つけこのままだと人々をも襲うだろう。
(まぁイケナイ事をしてるのだから、お仕置きは必要だけれど)
 というわけで、そろそろお仕置き対象が見えてもいい頃だと視線を走らせる。
 そんな中、一番先を行く俊・ブルックスが足を止め皆を制止した。
「ひょっとして、あれがそうか?」
 彼の視線の先には、幹に深々と爪の痕がある。
 ネカット・グラキエスも確認するように視線を先へとやれば、確かにそこには傷ついた桜の木々が。
「そうですね……普通の動物という線も捨てきれませんが」
「でも、状況的にはデミ・オーガの可能性が高いと言う事だね」
 ロックリーンの言葉に、シムレスがあたりを見渡した。
 とはいえ、今はまだその視線の先に映ることはない。
「よし、気を引き締めて探そうぜ!」
 セイリュー・グラシアの言葉にラキア・ジェイドバインがそうだね、と頷く。
 木々についた傷は真新しい。
 ということは、近くを探せばいるのだろうか。
 どこから出てきてもいいように、優純絆と千尋はオ・トーリ・デコイの用意を怠らず、どこかに身をひそめているかもしれないデミ・ベアーを警戒しつつ先を進む。
「……あっちで何か聴こえる気がするんだが」
 シムレスが指さした方。
 そちらでは木々が揺れる音が聴こえていた。
 先行するのはデミ・ベアーの攻撃を受ける面々がいいだろうか。
 セイリューとラキアが視線を交わしあい、先にセイリューがその方面へ。
「よし、とっとと倒そうぜ!」
 和翔の言葉に、ユズも頑張る! と共に向かっていく……!


 音がした先では、桜の木々を傷つけているデミ・ベアーがいた。
「まずは桜から引き離さないといけませんね」
 出来るだけ開けた方へ誘導を……と千尋が示した先は比較的、桜の木々が密集していない所だった。
「オ・トーリ・デコイを使うのだよ!」
 2人が視線を交わし合い、オ・トーリ・デコイが向かう方向を確認しあう。
 ぜんまいをきりきり動かし躍り出たオ・トーリ・デコイは、2匹ということもあってかけたたましい鳴き声をあげながら目的の場所を目指し進んでいく……のに、合わせ、幹に爪を喰い込ませていたデミ・ベアーが動きを止めた。
 デミ・ベアーが木から離れる……!


 千尋と優純絆の目論見は無事成功し、デミ・ベアーはそれを追いかけウィンクルムたちにとって有利な場所へと向かっていくのだった。
「ここで終わらせないとだね」
 ラキアの持つ本が光り輝き、周囲を覆う。
 デミ・ベアーにとって視界を遮るものだが、皆にとっては癒しをくれる、そんな優しい光だ。
「オレ達が相手だぜ!」
 先にデミ・ベアーの背に追いついたのはセイリューと和翔だ。
「カズちゃん!」
 背中を向ける敵の肩付近を狙い、双剣を繰り出す和翔。
「助かったぜ!」
 優純絆が振る杖からは光の粉が舞い、そんな和翔へと力を与える。
「行かせない!!」
 詠唱が終えるまでの守りを。
 ネカットの元へ行きそうなのを俊が攻撃を仕掛け注意をひきつける。
 注意が向いたところで攻撃を引き受けたのはシムレスとロックリーンだ。
 シムレスのコネクトハーツがデミ・ベアーの腕を抉る……それ自体に、威力はない。
「ロック、そこだ」
 しかし、シムレスの攻撃に続き、隙を与えることなく流れるようにロックリーンの本……陶器製の表紙を持つそれは、鈍器のように鈍い音をたててデミ・ベアーの腕を強打した。
 2人の連携により、明らかにデミ・ベアーの動きが鈍る。
 ジルヴェールが思った通り、1:10。
 今は詠唱でネカットとジルヴェールがいないとはいえ、総勢8名が攻撃に加われば、デミ・ベアーも戦いにくいようであった。
 それでもある程度の知恵は回るのか、弱い者を狙おうとその爪を振るい、さらに木の近くに行けば皆が木を守るように動くことも把握したようだ。
「させません」
 千尋が幹を狙うデミ・ベアーの攻撃をトランスソードで受けたその瞬間。
 詠唱が終わったジルヴェールの視線がそんな千尋を捉え、細められた。
「いくわよー」
 詠唱を終了したジルヴェールが千尋へと声を掛ける。
 巻き込みはしないとは思うけれど、その一言はやはりあるとないとでは心の持ちようが違うだろう。
「いきますよ」
 ネカットも避けて下さいねと声を掛ければ、ぱっと皆が飛びのいた。
 敵そのものを攻撃する魔法だから、避ける必要はないのだが、突如飛びのいた皆に驚き、デミ・ベアーの動きが完全に止まった。
 2人の乙女の恋心。
 その熱いエナジーは、全身を熱く焼き尽くすのに十分の威力だった。
 武器による攻撃も受けていたデミ・ベアーはふるふるとその体を震わせた後、どしんと音をたてて地面にと崩れ落ちる。
「終わりましたね」
 ネカットが確実に倒れたことを確認し、皆が頷く。
 酷い怪我をした者はラキアのおかげでいないようで、残った傷も、もう少したてば完全に癒えるだろう。
 また、桜の木々も配慮のおかげで着く前に既に傷つけられていた桜以外は、無事な姿に皆がほっと息をつくのだった。


 傷ついた木々は点在しているようだった。
 千尋はそんな木々を確かめながら、癒合剤を傷を覆うよう塗っていく。
 そんな彼の近くで穴を掘るのはジルヴェールだ。
「迷信とはいえ、想いが石になるなんてロマンチックね」
 そんな風に言う彼は、二個目の穴掘りになるのだが、まだ桜石は見つかっていない。
「そうですね……素敵な話だとは思いますよ」
 傷口に塗る手は止めずいう千尋に、ちらりと視線をあげたジルヴェールはそんな彼に首をかしげた。
「あら、気のない返事ねぇ……こういうお話は嫌い?」
 そういわれ、自然と止まった指先。
 その視線の先には、桜の花々。
「ただ曾祖母のお気持ちを考えると、素直に感動できないというか」
 一体曾祖母はどんな気持ちで過ごしていたのだろう。
 そう思う千尋に優しく声をかけるジルヴェール。
「二人は愛し合ってたのだから別にいいじゃない」
 過去の一部くらいくれてやりなさいよと微笑む彼に、それは……そうかもしれませんけど、と千尋が答えを返す。
「それに曾祖母の方にも、そういう人がいたかもしれないわ」
 ひらり、と薄ピンクの花びらが地面にと落ちる。
「……叶わなかった想いほど忘れられないものよ」
 ジルヴェールのその言葉に、千尋の視線が桜から彼の元へと移っていく。
「先生にもいるんですか?」
 どうしても、忘れられない人が。
 その言葉とともに、舞い散った桜のせいで彼の表情は見えなかった。
「ふふ、さぁどうかしらね?」
 されど、次に見えたジルヴェールはそういって微笑みを浮かべる。
 何か言葉を繋ごうとした千尋から視線を穴へと移し、ジルヴェールが今までの雰囲気を払拭するかのように声をあげた。
「ところで……こうして掘ってると、なんだか潮干狩りみたいねぇ」
 潮干狩りよりも見つかる率がかなり低いのが難点な気もするが、そんな彼に千尋は小さくため息を吐いた後、頷く。
「……食べれないのが残念ですね」
 そうね~なんて笑いを返した瞬間、あ! と2人の声があがる。
 土の中から、ピンク色の光が見えたのだった。


「えーっと、確か職員の人分だけ探すんだよね?」
 ロックリーンから受け取ったスコップを手に、優純絆と和翔は2人仲良く穴を掘っていた。
「確かそのはずだ」
 ざくりとスコップで土を掘りながら頷き、和翔は光る部分はないかと瞳を凝らす。
 2人で小さな輝きを逃すまいとみるものの、まだないようだ。
「それにしても素敵な言い伝えなのだよ」
 もう少しかとスコップで掘りながら優純絆が微笑む。
「ユズもいつかは、あんな風に恋をしてみたいのだよ……」
 その言葉に、びくっと手が止まった和翔に気が付かない優純絆。
 ピンクの花びらが掘っている穴の中に舞い落ちたのを見つつ、ほぅっとため息つく。
「でも、まだ恋って言うのが分からないから無理かなぁ……」
 それにどこかほっとしたような、残念なような気持ちを悟られまいと和翔が声をかけた。
「ゆ、ユズにはまだ早い!」
 上ずった声がでたものの、不思議そうに見つめられるのにあわてて言葉を紡ぐ。
「こ、恋がなんなのか分からん奴だからな!」
 そっか、と頷きつつ、ぱっと瞳を輝かせた。
「カズちゃんは恋とかした事ある?」
「なっ、俺様っ?!」
 あーっと、その……ともごもごと意味のない言葉を綴る和翔のスコップを掘る手は、完全に止まってしまう。
(いっ言えねぇっユズが気になる、だなんてっ!)
 恋する少年の心の中は大荒れであるが、残念ながらそれに気が付いてもらえないようだ。
「ってまだユズ達には早いよね」
「おう! 俺様達には早い!」
 間髪いれずに返答したところで、この気持ちが通じ合うのはまだ先なのだろうと思うのだった。


 そんなかわいらしいやりとりをしている2人の近くでは、桜の木の傷の具合をチェックするセイリューの姿が。
 その瞳は美しく幻想的に咲き誇る桜の木々の様子に、細められていた。
「ラキア、ここに傷があるぜ!」
 どこか青白く輝いて見えるような幹に痛々しい傷跡。
 これが元で枯れたりしたら嫌だと、傷の見落としがないように真剣だ。
「痛かったね、ゴメンね」
 ラキアは優しく声を掛け、ファストエイドで癒してく。
 痛みを感じないといいのだけれど……と瞳を細め、治っていくのを見守った。
「ラキア、こっちは酷い傷だ」
「あぁ、まって。なら……」
 その近くの木の幹は、酷く抉れてしまっている。
 痛々しそうに瞳を細め、キュア・テラⅡで浄化していくのを見守る2人。
 そんな2人に桜はお礼だとでもいうように、はらり、ひらりと桜の花びらを散らした。
 その花びらを受け止め、セイリューが微笑む。
 心なしか花びらの色も濃くなったような、そんな印象。
「と、あとは……他もやってるみたいだし、なさそうだ」
 ほかのウィンクルムの方を見て、セイリューがほかにはなさそうだとラキアに微笑む。
「じゃぁ、桜石を探そうか」
 すっかり日は落ちているから、浄魔の焔があたりを照らす。
「桜石を探している人がいるから足元を掘らせてね」
 桜をびっくりさせてはいけないと、一声かけてから、2人で掘り始める。
 そっといれたスコップがざくり、ざくりと土を掘っていき……。
 そして。
「あ、もしかして……」
 きらり、と光った気がしてセイリューがそっと手で土を払いのける。
 そこには。
「綺麗だね」
 月の光を受け輝く、桜石を指先で拾い持ち上げる。
 きらきらと輝く桜石を2人、見詰めるのだった。


 俊とネカットも借りてきたスコップを手に桜石を探していた。
 おられてしまった枝や、どこから持ってきたのか大き目な石などを片付けながらの作業だ。
 暴れながらやってきたときに、いろいろ引き連れてしまったのかもしれない。
「そう簡単には見つかりませんね」
 ネカットが今日三つ目の穴を掘りながら言えば、浄化しながら枝をそっと片付けていた俊が頷く。
「恋する思いが石になるっていうぐらいだから、石になるまで時間がかかるんだろう」
「そうですね……」
 一体どんな原理でその桜石ができるのかはわからないが、とにもかくにも探すしかないようだ。
「もうひと頑張りしないとですね」
 ざくざくと穴を掘るネカットの傍に、枝を危なくない場所へ移動していた俊がやってくる。
 覗きこんでみるが、まだ光る物は見つからない。
「次は俺が掘るぜ」
 ありがとうございます……と交代して暫くした後。
「あれ、シュン待って下さい」
「ん?」
 俊が掘っていた穴の中。
 きらりとピンク色に光る物……。
「綺麗ですね」
 小さな桜石が転がり出てきて。
 自分たちの分も見つけ出せたら、嬉しいのだけれど!
 もう少し、探してみるのも一興かもしれない……。


 シムレスはロックリーンが穴を掘る間、戦闘場所になった桜の木々を中心に幹へと触れていた。
 色濃く残っていた瘴気も、そのおかげでなくなっていく。
「人に愛でられる花は愛の集う場所、そこに愛の結晶化の謂れの桜石……」
 そっと指先で傷跡に触れながら、シムレスはなぜあのデミ・ベアーが桜を傷つけていたのか考える。
 今こそ人はいないが、通常ならば人々で賑わっていただろう。
「瘴気に支配されたオーガにはさぞ忌々しい場所だったのだろうか」
 愛を忘れたデミ・ベアーにはそれが忌々しかったのかと思いを馳せる。
 そんな彼の近くでは、一番ひどく傷つけられた桜の根元をライトで照らし、もくもくと穴を掘るロックリーン。
 曰く。
「なんとなくここにあるんじゃないかな、とっておきの逸品」
 ということらしい。
 シムレスの思う通り忌々しい場所だと思っていたのならば、愛の結晶ともいわれる桜石が埋まっている率は高そうである。
 傷つけぬよう、ゆっくり丁寧にやっているため、穴を掘る速度はそんなに早くはない。
 次の木を浄化しよう……そうシムレスが離れようとしたときだった。
「……?」
 その視界の隅に、光るものが見えた気がした。
「ロック」
「うん、見つけたよ」
 スコップではなく、手で土を払いのければ、淡いピンク色の光を放つ、小さくも綺麗な楕円の桜石が出てきた。
「……」
 ロックリーンが持つそれを、シムレスはただ見つめる。
 この輝きを、ずっと覚えておきたかった。
「僕もいつか手紙を埋めてみようかな」
 へへっと笑いながらそう言うロックリーンに、シムレスが瞳を細める。
 彼の桜石は、一体どんな形になるだろうか。
 そして、どんな光の強さをみせてくれるのだろうか。
 もしもそんな機会が訪れることがあれば、埋めるのもいいかもしれない……。


 それぞれ見つけた桜石。
 きちんと穴を埋め立てて、皆が集まるのだった。



 そして集まった桜石。
 そんなに数は多くなかったが、それでも職員と欲しい人達分は見つけ出せた。
「これがいいのでは?」
 桜色にひときわ輝くのを手に取り、シムレスが言えば皆が頷く。
「じゃぁ、残りは私たちで分けましょうか」
 ネカットの提案で、俊に、セイリュー、ラキアがそれぞれ桜石を受け取った。
 ころりと掌で転がる桜石は、淡い光を放っている。
「そして待ちに待ったお花見ですよ!」
 その言葉に、皆が笑顔で頷き花見のためにそれぞれ、思う場所へと歩き出す……。


 月明かりの下、桜の花々は青白く輝いていた。
「ふふっ桜が綺麗だねぇカズちゃん」
 その笑顔は、桜に負けず劣らずとても愛らしく輝いているのにフッと笑みをこぼしながら和翔も頷く。
「あぁそうだな、綺麗だ」
「お花見とか来るの初めてなのだよー」
 ユズ、姉様達がいた時もやった事無いから……と瞳を伏せつつ呟く優純絆。
「俺様も来た事ねぇや……」
(と言うか、奴等が行かせてくれなかったからな……)
 2人とも心中思うことはあるが、それでも今、この時間を共に過ごせるのがとてもうれしい。
「でも今日はカズちゃんと来れて嬉しい♪」
「お、おう……俺様も、うっ嬉しいと思っといてやる!」
 にこりと微笑む優純絆に、照れて顔を赤くしつつそっぽを向く和翔。
「うんそれで良いよ」
 そんな彼の様子に、優純絆はさらにうれしそうに微笑むのだった。


 改めてお花見だと、俊とネカットは共に先程片付けた場所へと戻ってきた。
 にこやかに微笑んでいるネカットは、ずっと温めていたとある道具を取り出して。
「この日のために新生ネカザイルのドジョウ・キャプチャーを披露……」
 ずずいっと俊の方へと差し出す。
 ひらりと舞い散る桜の花びらの中、踊るのもある意味、粋かもしれない。
「いや、俺達は個別だからそのざると手拭いはしまっておけよ、やらないからな」
 だがしかしそれに頷けるはずもないと、俊はぐいぐいと押し返した。
「だめですか」
「だめだ」
 残念そうにしまわれたざると手拭い。
「全く……こうやって黙って大人しくしてればすげえ綺麗なのにな」
 色々残念だよな……、と実感が籠った俊の呟きは、はらりと舞う花びらの間に消えて行く。
(仕方ありません、ダンスはまた次の機会にして、今日はシュンと二人で夜桜を楽しみましょうか)
 どこか憂いを帯びた俊を瞳を細めて見守りつつ、ネカットは思う。
 次の機会には是非、踊ってもらおう。と。
「では、夜桜を楽しみましょうか、シュン」
 手を差し伸べられ、微笑まれればどうやら穏やかに花見が出来そうだと安堵する。
 その指先に手を伸ばす俊はまだ気が付いてない。
 彼の思惑が分かったとき、俊のツッコミが炸裂するのはそう遠い未来ではないのは確かそうであった。


 夜桜を楽しむシムレスとロックリーン。
 花見は何度か見ている。
「今年はこれで見納めか」
 それでも、やはり美しいその光景に瞳を細めつつも、これで今年は見納めだと呟く。
 それはどこか寂しさを引き寄せるような気もするけれど、その隣でロックリーンが微笑んだ。
「また来年も」
 見ようね。
 その言葉に、シムレスはそうだな、と頷きを返した。


 桜石も無事探し終え、傷も癒し終えた。
 ならば桜を楽しませてもらおうと、ぽんぽんと癒し終えた桜の幹を親しみを込めて撫でる。
「来年も綺麗な花を咲かせてくれよな。また見に来るからさ!」
 健康状態、とは今は言えないがそれでも美しく咲き誇る桜の木々をセイリューとラキアはのんびりと眺めていた。
「これが今年最後の桜かな。綺麗な桜達の姿が見れてとても嬉しいよ」
 ありがとう、もう痛くないよ。
 まるでそう伝えるかのように桜の木々が風に揺れる。
「今も綺麗な花じゃん!」
 にこりと桜たちへ笑顔を見せるセイリューにつられ、ラキアも笑みを浮かべた。
「来年もまた元気に咲いてね」
 もちろん、来年も来てね!
 そんな声が聞こえた気がした……。


 ジルヴェールの瞳がはらりと舞う桜を見て細められる。
「綺麗ですね、先生」
「本当ね。チヒロちゃんたちのおかげで、幹も早く治るかしら」
 傷ついた木々も、早めに治癒されるだろう。
 静かに木々を眺める2人の元へロックリーンとシムレスがやってきた。
 桜石をこれから職員の元へと届けるというのに、それがいいと答えが返る。
 思いが詰まった桜石は、ようやく本来の持ち主の元へと帰るのだ。
『どうぞ』
 そういって渡された桜石。
 後日、お墓へと桜石が供えられたと言う。
 はらり、はらりとその上にどこからか桜の花びらが降り積もったときくのは、もう少しあとの話であった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 如月修羅
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 04月27日
出発日 05月05日 00:00
予定納品日 05月15日

参加者

会議室

  • [16]西園寺優純絆

    2016/05/04-20:32 

  • [15]西園寺優純絆

    2016/05/04-20:32 

    和翔:
    取り敢えず他に話し合う事はなさそうだな
    という事で…

  • [14]俊・ブルックス

    2016/05/03-06:49 

    >石探し
    トータル必要数皆で掘るのはいいな。
    それならまずそれぞれ石を探す→見つけた分を集めてその中から選んで職員用に→花見
    …って流れかな。
    まあこの辺は個別でやりたい奴も多いだろうから各自好きなように、だな。

    ネカット:
    (ざると手拭いを用意しつつ)
    えっ私達お花見二人きりですか?
    皆さんに新生ネカザイルのドジョウ・キャプチャーを披露しないんですか!

    俊:
    誰がするかっ!?

  • [13]シムレス

    2016/05/02-22:29 


    ロックリーン:
    人が増えましたね、よろしくお願いします

    僕達はじゃあ桜の木守ってますね

    >石探しと花見
    戦いの片付けというと瘴気の浄化かな、行動予定してます
    僕は石掘りしてシムさんは浄化して、終わったら花見まったりな予定です

    石探しだけど
    職員さんの分掘る方が複数いると石がダブるので
    トータルの必要数皆で掘って集めて一番良い物を職員さんに渡して
    他のは持ち帰り希望の人が持ち帰るのがいいかなとちょっと考えました

  • [12]暁 千尋

    2016/05/02-22:18 

    片付けは先にやってしまった方が良いでしょう。
    石は月が昇ってからの方が見つけやすいでしょうし。
    夕方に向かって戦闘と片付け→夜に石探しや花見というイメージでしたね。
    石探しと花見は各組分かれてやるでしょうし、そちらは自由でいいと思いますよ。

  • [11]西園寺優純絆

    2016/05/02-21:25 

    和翔:
    いや、特にどっちを先にやるかは決めてねぇや
    でもまぁ、片付けがてら石探しの方が良いのか?

  • [10]俊・ブルックス

    2016/05/02-06:46 

    あ、デコイは俺も持ってたな…でもあんまり多すぎてもよくねえか。
    俺は自分で突っ込んでいくから俺の分は使わないことにするぜ。

    ところで、石探しと花見は両方やるとしてどっち先にやるとか決めてるか?
    ちょっと変則的だが、戦いの片づけと石探しをゆっくりやりつつ花見も楽しむ…って風に考えてるんだけど。

  • [9]西園寺優純絆

    2016/05/01-22:42 

    和翔:
    オトーリデコリならユズも持っているから使わせる
    2つもあれば十分引き離せるだろ!

  • [8]暁 千尋

    2016/05/01-15:17 

    人が集まりましたね。
    西園寺さん、セイリューさん方もよろしくお願い致します。

    最初に桜から引き離す方法ですが、
    「オ・トーリ・デコイ」を使ってみようかと思ってました。
    いきなり攻撃して暴れられるよりは、比較的安全に誘導できるかなと。
    人手も増えたので、それほど慎重に考えなくても良くなりましたが。

  • セイリュー・グラシアとライフビショップのラキアだ。
    アドはお久しぶりな人の方が多いかも?今回もヨロシク。

    概ね方向性は決まっているようなのでそれに合わせるぜ。
    オレはデミ・ベア-の気を引き敵からの攻撃を引きうける。
    武器は水玉ハンマーの予定なのでクマを倒すのは皆に任せるぜ。
    敵をスタン出来たらラッキーだ。
    ラキアは負傷者対応だな。
    さっさと倒して花見&石捜ししよう。

  • [6]西園寺優純絆

    2016/04/30-22:44 

    和翔:
    >戦闘
    成程、確かにそうだな
    既に傷付けているなら先に引き離すのが先決だ
    ならその引き離す役を皆でやれば良いのか…
    他の木にも行くようなら俺様が回り込んで阻止してやるよ
    前衛だしそれくれぇお安い御用だぜ!

  • [5]俊・ブルックス

    2016/04/30-21:10 

    ネカット:
    わぁ、人が増えましたね!改めてよろしくお願いします。

    前衛さんも来てくれたことですし、ちょっと考えたことを言ってみますね。
    プロローグを読むに、敵は既に桜の木を傷つけているようなんですよね…
    なので到着後、まずは前衛が敵を木から引き剥がさないとですね。
    その後はロックリーンさんの仰るようにシャイニングアローⅡでその木を守るようにするのがいいと思います。
    他の木に向かうようだったら、他の前衛が回り込んで阻止、ですかね?
    これはTDのカズ君が適任でしょうか。よければ考えてみてくださいね。

    >魔法詠唱
    お気遣いいただきありがとうございます。
    ただ、乙女の恋心は、対象の心臓部を直接熱して攻撃するスキルなので
    射線が通ってなくても使用可能…だったはずです。
    なので誤射はないと思うので、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ。
    詠唱を終えるまでの足止めはすごく助かります!よろしくお願いしますね。

  • [4]西園寺優純絆

    2016/04/30-19:52 

    和翔:
    全員初めましてだな
    途中参加だが、まぁ宜しくと言っといてやる
    俺様はテンペストダンサーの十六夜和翔、神人は西園寺優純絆だ

    >戦闘
    今の所俺様が前衛か
    なら俺様のスキル、アルペジオⅡかスタッカートを使用し魔法の詠唱が終わるまで耐え抜いてやるよ
    一気にカタを付けたほうが花見する時間や石を探す時間が多くなるだろうしな
    ユズはジェンマを持って後方に位置させておく
    ユズにも敵が桜に近付けさせない様に注意を引きつけておくよう伝えておく
    ……ホントは怪我させたくねぇが……(小声

    まぁ俺様の方はこんな感じをイメージしている
    そうそう、魔法打つときは合図してくれ
    瞬時にどくからさ

  • [3]シムレス

    2016/04/30-12:28 


    ロックリーン:
    初めまして、よろしくお願いします
    シムレスと僕はライフビショップのロックリーンです
    戦闘+桜石探し+お花見でいきたいと思ってます

    戦闘
    僕はシャイニングアローⅡ(自動防御+カウンター)で体張って桜に行かない様デミベア牽制する感じかな
    魔法撃つ時に知らせてもらえたりしますか?
    僕、どかないといけないですよね?
    もしくはEWさんの詠唱終わるまでお二人の盾役の方がいいかな

    申請はスコップ

    桜石は職員さんの分だけ掘りたい

    人がまだ増えるかもなのでこの辺で

  • [2]暁 千尋

    2016/04/30-09:17 

    暁千尋とエンドウィザードのジル先生です。
    お二組とも、よろしくお願い致します。

    そうですね。
    避難も済んでいるようですし、集中して早々に片づけましょう。
    僕らも行動としては俊さん達と似た感じになりますね。
    僕が熊の気を引き付けつつ、先生には乙女の恋心Ⅱを使ってもらいます。

  • [1]俊・ブルックス

    2016/04/30-07:22 

    ネカット:
    エンドウィザードのネカさんと相方のシュンですよー。
    シムレスさん達とははじめましてでしょうか、よろしくお願いします。

    敵はデミ・ベアーが一体ということなので、さくっと片付けてお花見でも桜石探しでも楽しみましょう。
    気を付けることは…やっぱり桜を傷つけないようにしないとですよね。
    スキルは乙女の恋心Ⅱとパッシブの天空の涙、あとは朝霧あたりを持っていこうかと。
    シュンにはハイトランスで敵が桜に近づくのを阻止してもらうつもりです。


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