【桜吹雪】思い出の薄花桜(森静流 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 はらはらとヨミツキの花びらが舞い落ちる、サクラウヅキ。
 あなたはA.R.O.A.の依頼でサクラウヅキを訪れ、ずっと瘴気とオーガの調査をしていた。城下町全体に咲き誇るヨミツキの美しさは格別で、時折、仕事も忘れて見とれてしまう程である。
 遠くから見るとほんのりと薄桃色の雲がかかったように見えるヨミツキの花。
 近づくと、儚く潔く散り落ちていく花弁。
(ずっといつまでも見ていたい……)
 そのとき、胸の奥で何かが引っかかるような気がした。それは懐かしい記憶……?
 一日中、ヨミツキの周囲で瘴気を探っていたあなただが、夕暮れ時になって足が棒のようになってしまい、一軒の和カフェに入る事にした。
 古風な紺色の暖簾がかかっている店で、店内は広くはないがこざっぱりとしている。テーブルや壁に和風の小物がセンス良く置かれていて、しっかり休めそうな雰囲気だ。
 あなたが二人掛けのテーブルにつくと、すぐに、縦縞の着物の上にひらひらした白いエプロンをつけた若い女給がやってきて水とメニュー表を持ってきた。
「いらっしゃいませ……」
 疲れて飲み物が欲しかったあなたは、早速メニュー表を開いた。写真が何枚も出てくる。それは、知っているようで知らない和菓子の数々だった。
(和菓子……? でもちょっと違うような……?)
 あなたは思わずしげしげと写真を見つめてしまう。
 若い女給はちょっと苦笑しているようである。
「何ですか? この、思い出の薄花桜……って??」
「薄花桜というのは、和の伝統色の一つです。薄い青紫色でとても綺麗なんですよ。思い出の薄花桜はサクラウヅキの特殊な着色料を使ってその色を出した上生菓子になります。薄花桜の色をした桜型の……ういろうと言いますか、独特の食感なんですが……」
「へえ……そんなものがあるんですね……」
 他にも様々な和の伝統食の生菓子などが多く置かれているらしい。だが、あなたはその思い出の薄花桜に興味を持った。
「それじゃあ、これと、冷たい煎茶をください」
「はい」
 若い女給は伝票を書いて、奥に引っ込んだ。あなたはメニュー表を閉じて一息ついた。
 程なく、若い女給は思い出の薄花桜と冷たい煎茶を盆に乗せて戻って来た。
「ごゆっくりどうぞ--」
 そう言いながら、あなたの前に皿を置く。
 出てきた思い出の薄花桜は、女給の言っていた通り、綺麗な薄い青紫色だった。それが半透明のういろうのような生地でやや大きな桜の花型に切られている。中には練り切りが入っているらしい。
 それが2個、それに品の良い匂いの冷たい煎茶。
 あなたは煎茶を一口飲んだ後、薄花桜を切って食べてみた。
 上品な甘さが口いっぱいに広がる。溶けるような味わい。不意に、あなたは眠気を感じた。疲労のせいか--。

 薄く青く透ける桜が見える--。桜の花は薄桃色のはずなのに--。
 薄青に透けていく桜、薄青に透けていく思い出--。
 花吹雪の向こうに、あなたのたった一人の相方の背中が見える。
 あなたは必死に手を伸ばし、相方を追いかけようとする。
 だけど、花吹雪の中、二人の距離は縮まらなくて。
 あなたは春の風の中、相方に向かって何かを叫ぶ--。

 あのときは、ありがとう。
 あのときは、ごめんなさい。
 あのとき--出会えて、よかった。

 薄く青く透けていく想い。薄い花桜のように散っていく思い出。
 あなたと相方が出会ってからの思い出が一気に蘇る。

 はっと気がつくと、あなたは誰もいない和カフェの中で泣いていた。女給は奥で仕事をしているらしい。
 慌てて時計を見ると、十五分ほど経っていた。あなたは、どうやら、初めて相方と出会った時の頃、その思い出の夢を見ていたらしい。むしょうに、離れて活動している相方に会いたくて仕方ない。
 あなたは慌ててハンカチで涙を拭いながら、笑ってしまう。
(私は相方が大好きなんだなあ……この気持ちを大事にしなくちゃ)

解説

 春は出会いの季節。
 あなたが相方と初めて出会った時のエピソード。あるいは出会った頃の二人の思い出。あるいは出会った頃と今日までの関係の変化--などをプランに書いてください。
 座っているのはサクラウヅキ和カフェですが、思い出話ですので、思い出の中で全く別のシーンであっても構いません。
 プロローグの中では、神人が一人で和カフェに入っていますが、相方と一緒に入ってきて薄花桜を食べたというプランでもOKです。
 皆様のウィンクルムの出会い、出会った頃のプランを何でも受け付けます。
★思い出の薄花桜と煎茶のセットで、300Jrいただきます。


ゲームマスターより

春は出会いの季節ですね。ウィンクルムの皆さんはどんなすてきな出会いをしたんだろうと気になります。すてきなプランをお待ちします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  下りられなくなった仔猫を見つけ 木の上へ
なんとか無事でほっとした瞬間 視線に気づき顔を向ける
ーシリウ、ス?
あの 猫が下りられなくなっていたので…
平気、です 登ったんだから下りられー
身じろぎした仔猫が落ちそうになり
気を取られて枝から手を離す
きゃ…
(落ちる!)
猫を抱きすくめ衝撃に備える

…?
恐る恐る目を開けて ほっと息を
-ありがとう
初めて見る柔らかな表情にどきり
…手がかからなくなるよう がんばります
頬を染めて小さく答えた

過去の記憶に微笑
最初からあなたは優しかった
そんなことないとシリウスは言うけれど わたしはそれを知っているもの
だから大好き
だから 護られるだけの神人じゃなくて
あなたを支えられるパートナーになりたい


ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
  出会ったばかりのエミリオはとても冷たい目をしてたっけ
必要以上に近寄るなって全身からオーラが出ていたから凄く戸惑ったのを覚えてる
でも私達はウィンクルムだから
先輩達みたいに誰かの助けになりたい
その為には怖い人がパートナーでも頑張って近づかなきゃって、最初はね義務感で仲良くなろうとしてたの
でもね貴方と過ごすうちに貴方は冷たい人なんかじゃないって分かったんだよ

☆帰宅した精霊に
エミリオさん、その怪我どうしたの!?
(避けられていたのは自分の為だと察する)・・・ううん、やめない!
私ずっとエミリオさんのパートナーでいるから!

真実を思い出した今、私はあの頃のように彼の目を真っ直ぐ見つめることができるのだろうか



リヴィエラ(ロジェ)
  ※カフェには二人で入店

リヴィエラ:

(はわわ…久し振りにロジェにお会いするから、とても緊張します。
頬を染め、ロジェの顔をチラチラ。
緊張を紛らわせる為に、薄花桜を一口)

■夢の中

監禁されている私。
『この忌み子』蔑む視線を送る父と母…ごめんなさい、私はそう繰り返す。
窓から外を見ると、銀髪の男性がこちらを見ている。
ドキドキして、目を見開いた。
直後、お父様と男性の罵声が聞こえた。

数日後、お屋敷はオーガに襲われて…私は重傷を負った。
目を覚ますと、病院の天井。傍らには、あの時の男性が
ほっとしたような表情で私を見ていた…

■覚醒後

あの時の男性が、ロジェでしたね。
そう言えば、お父様の件はどうなったのですか?


クロス(ディオス)
  ☆一緒に食す

☆幼少期
・当時七歳、故郷の村入口に傷だらけで倒れているディオス発見
・酷い傷の為直ぐに家に連れ帰り手当
・半年程同居し仲良くなる
・ある日を境に姿を消した
「ねぇだいじょーぶ?あ、わたしクロス!
妹のクロノスと幼馴染のネーベルだよ!
…ディオス?ならディオだね、よろしく(ニコ」

「ディオってきれーな目だよね~!
わたし、ディオの目、好きだよ(ニコリ
だってほんとうだもん♪
わたしと同じ青にきれーな紅でにあってるから(微笑
どーいたしまして!」

☆契約
「ディオ…?馬鹿!急に姿消すから心配したんだぞ!?
そうだね、あの時約束したもんね…
これから宜しくな」

☆現在
「こちらこそ有難う(微笑
…っ!?(頬にキスされ驚照」


●クロス(ディオス)編

 今日、クロスと精霊のディオスは、サクラウヅキの和カフェで思い出の薄花桜を食べました。そうして二人は、出会った頃の事を思い出したのです。
 幼少期--当時、クロスは七歳。
 村の入り口に倒れていたディオスを見つけたのは、彼女でした。
 同い年ぐらいの少年が、酷い怪我を負って地面に突っ伏していたのです。
「大丈夫!?」
 クロスは慌てて駆け寄り、自分の家に連れて帰って手当をしました。
(たすかった……?)
 同い年ぐらいの少年は、悪魔のような耳を持っていて、頬には逆さ十字の印をつけていました。それに、左右の目の色が違いました。
「だ、れ……?」
 酷い怪我で意識を朦朧とさせていた少年は、覚束ない口調で尋ねます。
「ねぇだいじょーぶ? あ、わたしクロス! 妹のクロノスと幼馴染のネーベルだよ!」
「おれは、ディオス……」
 包帯で巻かれてベッドに寝ているディオスは、隣で顔をのぞき込んでいるクロスを見上げます。
「……ディオス? ならディオだね、よろしく」
 にこっと笑う幼いクロスの笑顔。
「クロ、ロノ、ベルよろしく」
 ふっと安心したような表情で、ディオはそう答えました。
 悪魔の羽のような耳に、左右色違いの目を持つ少年。ですが、クロスは彼に怯えた様子を見せる事はありませんでした。
「ディオってきれーな目だよね~! わたし、ディオの目、好きだよ。だってほんとうだもん♪ わたしと同じ青にきれーな紅でにあってるから」
 むしろ、ディオスの異質な目を自分と同じものに例え、本当に綺麗だと褒めたのです。
「クロと母さんだけだ、そう言ってくれるのは……ありがとう」
 体の傷が癒えるよりも、その言葉で心の傷が癒えていく事を、ディオスは感じました。
「どーいたしまして!」
 クロスはそのことにも気づかずに、ただ元気に笑っています。
 ディオスは半年ほどクロスの家にいて、ある日忽然と姿を消しました。
 時は流れ、ディオスはオーガ殲滅特殊支部隊で働くようになりました。
 ある日、その部隊が合併する事になったのです。
 そのため、ブラッドクロイツの宿舎へ行く途中、A.R.O.A.から適性の神人がいると連絡が入り、本部へ向かう事になりました。
(神人と適性だと? 俺はクロじゃないと契約なんぞしない……)
 ディオスは気が立っていました。かつてクロスと、大きくなったら契約するのだと、約束していたのです。何年経っても、ディオスにとってクロスは大切な存在でした。
 そして本部について驚いたのです。
「ディオ……? 馬鹿! 急に姿消すから心配したんだぞ!?」
 案内された部屋の中には、美しくも凜々しく成長したクロス本人がいたのでした。
 ディオスは唖然としました。クロスは驚きと怒りと安心とが入り交じったような複雑な表情をしています。
 ディオスはやがて我に返り、幼い頃と同じ申し込みをしました。
「やっと逢えた……! あの日からずっと……クロ、俺と契約してくれ。俺があの人達の分まで護る……、絶対に死なせはしない…!」
 それはディオスの過去が誓わせた言葉。
 マントゥール教団と関わりを持っていた実家が、ディオスに言う事を聞かせるために、クロスの村をオーガに襲わせたということ。そのためにクロスは大切な人達を失い、その身に今も消えない傷を受けたということ。
 自分が、クロスを守りたい。それは愛情だけではなく、切ないまでの自責の念。
「そうだね、あの時約束したもんね……これから宜しくな」
 何も知らないクロスは、幼い頃と変わらない、混じりけのない笑みをディオスへと向けたのでした。
 薄花桜が呼び起こした記憶に、二人はため息をつきます。そこでディオスが言いました。
「クロ、俺と出会い契約してくれて有難う」
「こちらこそ有難う」
 二人は笑みをかわします。
「必ず射止めてみせる」
「……っ!?」
 突然、ディオスがクロスの頬にキスをしました。驚き照れて、クロスは微かに頬を赤くします。
 幼い頃からの因縁を越えて、惹かれあう二人。過去の反対に未来は、どんな形が訪れるのでしょう。

●リヴィエラ(ロジェ)編

 今日、リヴィエラは精霊のロジェとサクラウヅキの和カフェを訪れました。おすすめの商品は薄花桜です。
(はわわ……久し振りにロジェにお会いするから、とても緊張します)
 リヴィエラは頬を赤く染めてちらちらとロジェを見ます。
(リヴィエラに再び会う事ができて嬉しい。だが、彼女の父親を始末した事も、マントゥール教団から追われている事も秘密にしなければ)
 ロジェはロジェで秘密を持つ身です。
「折角このカフェに入ったんだ。薄花桜を食べてみよう、リヴィー」
 そう言ってロジェは薄花桜を一口食べました。
 リヴィエラも緊張を紛らせるために一口食べます。
 そして二人は、出会った頃の事を思い出しました。
 過去--。
 思い出の、夢の中。
 リヴィエラは屋敷の中に監禁されています。
 その頃のリヴィエラにとって、世界は灰色の悪夢に覆われていました。
「この忌み子」
 両親はそう呼んでリヴィエラを蔑み責め立てます。
 リヴィエラは壊れたレコードのように、「ごめんなさい」「ごめんなさい」と繰り返すばかり。
 リヴィエラは監禁されている狭い部屋の、一つだけある小さな小さな窓から外を覗きます。それがたった一つリヴィエラに許された自由。
 そこで、銀髪の男性が自分の方を見ている事が分かりました。
 何故だか分からないけれど、リヴィエラは胸がドキドキしてきます。
 その直後、リヴィエラの父親が男性と罵り合う声が聞こえてきて、リヴィエラは怯えて堅いベッドの中に潜り込みました。
(俺は許せなかった。あんな幼い少女を監禁しているこの屋敷の当主も、夫人も。神人を渡せと何度言っても『役人の犬は帰れ』と繰り返されるばかり。マントゥールの一味の癖に…こんな親は、オーガに殺されてしまえば良い)
 過去の記憶をなぞりながら、ロジェもそんな想いに駆られます。
 数日後、リヴィエラの実家の屋敷はオーガに襲われました。
 リヴィエラは重傷を負いました。
 目が覚めると、病院の天井が見えました。
 傍らには、あのとき窓を見上げていた男性が、ほっとしたような顔でリヴィエラを見つめていました……。
(そして俺は、病室で横になるリヴィエラの手にキスをした。ウィンクルムの契約をした……)
 マントゥール教団の両親に忌み子と呼ばれていたリヴィエラの正体は神人。そしてA.R.O.A.の職員だったロジェはその精霊として適性を持っていたのです。
 二人は契約をして、離れられない関係となりました。
--夢から覚めます。二人は同時に薄花桜の思い出の世界から覚醒します--
 リヴィエラはほっと息をついて、ロジェを見つめました。
「あの時の男性が、ロジェでしたね。そう言えば、お父様の件はどうなったのですか?」
 そう。あの灰色の悪夢の世界から救い出してくれた男性は、ロジェ。
 だからリヴィエラはロジェを尊敬し、信頼しています。
「ああ、そうだったな」
 そうしてロジェは何食わぬ顔で言うのです。
「君の父親は、今は遠い所にいるよ」
 偽りの顔で、偽りの言葉を。
 全てはリヴィエラを守るために。
 あたかも罪を背負うのは自分だけでいいとでも言うかのように、ロジェは平然と言うのです。秘密も隠し事も偽りも、全てはリヴィエラが美しい世界で綺麗な歌を歌い続けるために、必要な事。
 リヴィエラが歌っていられるのは、--ロジェが辛い事実を覆い隠しているからこそ。
 可哀想なのは、神人なのか、精霊なのか、殺された父親なのか……。皿の上では薄花桜のかけらが、物悲しげな青を滲ませていました。

●ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)編

 サクラウヅキのある和カフェには、思い出の薄花桜というお菓子があります。そのお菓子が、どうしてか、ミサ・フルールと精霊のエミリオ・シュトルツを思い出の世界に誘います……。
(出会ったばかりのエミリオはとても冷たい目をしてたっけ……)
 ミサは薄い青に透ける桜の花びら、その向こう側にたゆたうような記憶に想いを委ねます。
 その頃はエミリオは必要以上に近寄るなというオーラを全身から放ち、ミサをとても戸惑わせていました。ミサとエミリオはウィンクルム、愛を育てる事によってオーガと戦う力を得るのに、エミリオはミサに近づく事すら許さなかったのです。
(でも私達はウィンクルムだから、先輩達みたいに誰かの助けになりたい……)
 優しく物怖じしない性格のミサは、エミリオに冷たく当たられても、彼と関わる事をやめようとはしませんでした。
 怖い人がパートナーであったとしても、頑張って打ち解けようとしたのです。
 最初は義務感からだったかもしれません。ウィンクルムとしての。
(でもね貴方と過ごすうちに貴方は冷たい人なんかじゃないって分かったんだよ)
 ふっとミサの顔に微笑みが浮かびます。ミサは、エミリオを理解しているのです。
 ある日、エミリオが怪我をして帰宅した事がありました。
「エミリオさん、その怪我どうしたの!?」
「何でもないからあっちにいって」
 そのときもエミリオはミサを遠ざけようとしました。
 ミサは心配して、色々とエミリオに話しかけます。エミリオはついにキレてしまいます。
「いい加減にしなよ!!」
 びくりと震えるミサ。
「お前さ、他の適合者が見つかるまで休んでたら? 俺達相性悪いんだよ、お前を見ているとイライラするんだ」
 せいぜい冷たくエミリオは言いました。
(過去に暗殺業をしていた男とパートナーになるなんて周囲からなんて思われるか……俺は慣れているから別にいい。でも俺に臆することなく接してくれるコイツだけは変な風に思われたくない)
 エミリオは慣れていると思っていますが、本当にそうなのでしょうか。こんな振る舞いをして、それでもミサを気遣って、一番傷ついていたのは誰なのでしょう。
「周りの奴が噂してるでしょ『エミリオ・シュトルツは危険だから近付くな』って」
「……ううん、やめない! 私ずっとエミリオさんのパートナーでいるから!」
 きっぱりとミサは言い切りました。
 そのとき、ミサは気がついたのです。本当に傷ついているのは誰なのか。それでも、ミサを思いやっていたのは誰なのか。
 真っ直ぐな視線でミサはエミリオを見つめ、断固とした意志を見せつけます。
「なっ……」
 エミリオは絶句します。そして、今までにないほど胸が高鳴るのを感じました。それはエミリオの堅い殻を打ち破るほどのときめきでした。
(思えばこの時から俺はお前に惹かれていたのかもしれない)
 追憶の中でエミリオは想いを反芻します。
(真実を思い出した今、私はあの頃のように彼の目を真っ直ぐ見つめることができるのだろうか)
 ミサは何も知らなかった頃の自分の行動、心の動きを、密かになぞります。
 薄く青く透ける桜の花びら……その向こうにあるような出会った頃の記憶。愛を紡ぎその力で邪悪なオーガを倒すウィンクルム。その神人と精霊として適合した二人に、ジェンマはいかなる宿命を負わせたのでしょう。
 二人が再び出会った時、その眼差しはどんな心の動きを綴るのか--。
 二人の心はどんな愛を奏でるのでしょうか。それが悲劇であっても、喜劇であっても。

●リチェルカーレ(シリウス)編

 リチェルカーレと精霊のシリウスは、その日、サクラウヅキに瘴気の調査に行き、和カフェで思い出の薄花桜を頼みました。薄花桜が、二人を出会った頃の思い出に誘っていきます。
 それは出会ったばかりの出来事。
 リチェルカーレは木の上から降りられなくなった仔猫を見つけました。
 仔猫を降ろしてやろうと、せっせと木の上に登ります。
 なんとか無事の仔猫を抱き寄せて、ほっ。
「……何をしている?」
 ちょうどそのとき、A.R.O.A.から渡された書類を持って、シリウスはリチェルカーレを探していました。
 靴が落ちてきて、悲鳴が聞こえたので、見上げてみれば、神人が木の上に。
「--シリウ、ス?」
 リチェはリチェで戸惑います。自分があまりお行儀良い事をしているとは思えませんし、スカート姿ですし。
「あの 猫が下りられなくなっていたので……」
 そういうリチェの腕の中で仔猫がニャアと鳴きます。
 シリウスは何故そこにいるのか理解しましたが、あまり無事な様子に思えず眉を顰めます。
「……下りてこられるんだろうな?」
「平気、です 登ったんだから下りられ……」
 そう言いかけた途端に腕の中で仔猫がもがき始めます。慌てるリチェ。
 シリウスの方は、無事ではなさそうだと、自分も木に登る決心を固めます。
 軽くため息をついた時、リチェが小さな悲鳴を上げます。
 もがく仔猫に気を取られて枝から手を離し……
「きゃっ」
--落ちる!
 目を閉じ仔猫を抱きしめ、衝撃に備える体。
 シリウスは目を見開き、地面に落ちるぎりぎりのところで、リチェの体を抱き留めます。
 寸前で間に合った事で安心するシリウス。
 文句を言ってやろうと思います。
 一方、リチェは恐る恐る目を開きます。シリウスに抱き留められた事を知り、ほっとします。
「……ありがとう」
 花が開くような笑顔。それに、シリウスは息を飲みます。
 文句なんて、言えない。かわりに出てくるのはため息一つ。
 リチェは、シリウスが見せる柔らかい表情に驚きます。彼がそんな優しい表情をするなんて知らなかった。
「--こんなに手のかかる神人だなんて、きいていない」
「……手がかからなくなるよう、がんばります」
 頬を染めて小さく答えるリチェ。
 その答えに、いつもは険しいシリウスの目元が緩みます。
 そんな、出会った頃の思い出。
 過去の記憶に、リチェは微笑を漏らします。
(最初からあなたは優しかった。そんなことないとシリウスは言うけれど、わたしはそれを知っているもの。だから大好き。だから、護られるだけの神人じゃなくて、あなたを支えられるパートナーになりたい)
 優しく、凜々しい想いがリチェルカーレの体に満ちていきます。記憶の中の、出会ったばかりの初々しいウィンクルムに微笑を投げて、ゆっくりと現実の世界に向けて、目を見開きます。
 目の前にいるのは、いつだって、シリウス。
 自分の大事な大事なパートナー。
 シリウスはシリウスで、翡翠の双眸にリチェだけを映して、どこか不機嫌な顔で彼女の事を待っています。
「とてもいい夢を見たわ」
 シリウスは、悪夢から逃れるため、眠る事を避けるようになった青年です。
 眠りの時間も、現実の時間も、辛い過去に縛られて、悪夢に追われ続けるパートナー。リチェは、ふと、彼が綺麗な夢を見る事は出来ないかと思いました。どんなに逃げようとしても、悪夢のような過去が追ってきて、彼を縛ると言うのなら、それを打ち消す程に、強いウィンクルムの絆が見せる、綺麗な夢があってもいいのではないか……と。
「そうか」
 とうのシリウスは味も素っ気も無い答えです。
「あなたともっといい夢が見られればいいわね」
 遠い未来から思い出を見透かした時に、今よりもずっと甘酸っぱく美しい夢を見る事が出来たなら……。それほどに、彼との絆が強くしなやかに、凜々しいものに変わったのなら。



依頼結果:大成功
MVP
名前:リチェルカーレ
呼び名:リチェ
  名前:シリウス
呼び名:シリウス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月15日
出発日 04月23日 00:00
予定納品日 05月03日

参加者

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