【桜吹雪】懐かしい記憶の話(梅都鈴里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 連日続いた雨の影響で、その日はとても濃い霧が出ていた。
 パートナーと一緒にサクラウヅキでの用事の帰り道。

「視界が悪いな……迷ってしまいそうだ」

 足を一歩踏み出せば、辺りは真っ白な靄に包まれている。
 雨が降っても風が吹いても、散らず残った桜は変わらず美しい。
 薄い靄の世界にぼうっと浮かぶヨミツキというのも、また普段と違う風情がある。
 昼時間が延びている事もあり、霧で空の明かりは遮られて、今が果たして朝なのか昼なのかも、よく分からなくなってしまいそうな、そんな非日常な世界。

「綺麗だね」

 呟いて、ふと隣を見れば、歩いていた筈のパートナーが居ない。
 ぼんやりと歩いていた為だろうか、はぐれてしまったのだろうか。
 彼を探し歩き始める。覚えている筈の道筋、知っていた筈の景色が、霧に覆われてまるで迷路の様だ。
 やがて霧が晴れ、たどり着いた先にパートナーの後ろ姿を見つける。
 声を掛けようとして、咄嗟に躊躇した。

「君は……?」

 知っていた筈の、長く共にした筈の『彼』は。
 あの日と同じ……出逢ったあの時と、同じ歳で、同じ姿をしていて。
 霧に包まれていた筈の景色は、彼と最初に出会ったあの日と同じ、懐かしい風景へと変わっていた。

「僕は、――……だよ」
「……そう。はじめまして」

 それから、あの日と同じ様に、似た様な会話をして。
 同じ様に彼とは別れた。たったそれだけの事なのだけれど。

「……あ」

 また帰路へ歩いていると、濃霧に包まれ、けれども今度はすぐに晴れた。
 気付けばヨミツキの桜舞う、元居た場所へ立っていて、隣にはちゃんとよく知っている『彼』の姿があって。

「……やあ、おかえり? いや、ただいま、かな」
「うん。ああ、なんだ。君もか。なんだかこんな時間から、おかしな夢でも見ていた様だよ」
「そうか。実は、僕もね――……」

 君と出会った日を、思い出したよ。

解説

▼個別エピソードとなります。

▼サクラウヅキでの買い物で300jr。

神人と精霊の出会いを再現してください、なんていう懐古エピソードです。
冒頭は一例なので、例えばオーガと遭遇した後だとか、学校や自分の家だったりとか、本部のマッチングシステムで出逢った時だったりとか、シーンはどこでも構いません。霧を抜けたら、そこはあの日と同じ場所、パートナーも自分も出会った時そのままの姿です。

掛け合いがある程度終了すれば、また濃霧に包まれ元の世界に戻れます。
サクラウヅキではありますが、ちょっとした不思議な世界、記憶の中、みたいな曖昧な設定なので、過去の世界でオーガと遭遇したり怪我をしても、戻った時に影響はありません。また完全に再現しなくても現在に影響は無いので、何を思うのも自由です。

とはいえ、タイムパラドックスとまでは行きませんが、ある程度は『再現』しないと今との整合性が取れないため、過度な改変はしない様お願いします。
二人の出会いを改めて思い出す事で、より深まる絆もあるかと思います。現在へ戻った際の掛け合い希望もよければプランへどうぞ。
不思議な世界での過去体験は、夢の様におぼろげですが、二人共が覚えているものとします。

▼プランに必要なもの
・出会った時の場所や思い、掛け合い
・戻った時の思いや掛け合い

ゲームマスターより

お世話になります、梅都鈴里です。
第一印象だとか始まりの記憶は、どれほど経っても大切な物の様に思います。
ウィンクルムさんたちの出会いが知りたいなぁと思い、シナリオにさせて頂きました。
よければお気軽にご参加くださいませ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  ・オーガ襲撃で壊滅した村
生存者は外へ、追わせないよう村を閉ざし
あとは順番待ちだ
自警団最後の仕事は予定通りに行われた
最後に俺を残して
武器を握りその時を待ったが
現れたのはオーガではなかった
村の人間でもない
彼らは俺達に祈ったりしない
焔の…?…ハティだ
…かもしれないな
だが俺は…
アンタも逃げられないわけか
災難だな
ブリンドの協力を得て片付け白々としてきた頃だった
アロアの車が現れたのは

…リン
痛いんだが…
自分で確かめろよ
この男は案外心配症のようだし
口にしなければ過去の事になりそうにない
言い損ねていた言葉を伝える
あの時は有難う
反応がないので頬を引っ張り返す
やられた分はやり返せってアンタが教えたんだろ
…どうした?


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  天気いいしどこかへ「じゃ探偵ゲームしようぜ!」?
■各地の暗号メモを渡り歩き
思いつきは刺激的でいいけどね、待たせたかな
霧?

◆洋館の庭のテラス昼食中、オカリナを吹き終えた後

食べないと…いつも残すのは悪いし
(誰!?何でティルスの子が)※病人+自信喪失ゆえ言葉が出せない
駄目だ…
喉が、動悸が、視線が、怖くて固まる
頭をふり返答

(…褒められた?嬉しい『ありがとう』って言いたいのに)
おずおずサンドイッチの皿を出す

セラ…フィム
暖かさに微笑


ありがとう。お花見にいいね
?じっとみてどうしたの?
あ。僕も小さなタイガみたよ。あの頃の

それは悔しいんだけど
頭寄せ)…タイガから沢山もらってる。僕はあげれてるのかな
うん、守るよ


柳 大樹(クラウディオ)
  色々億劫で、ソファに寝転がっていれば黒いのが来た。
「あんたが俺と契約する精霊?」(寝転がったまま、聞く
物語なら暗殺とかしてそうな、そんな空気。

「四六時中なら遠慮するわ」
学校まで来られたら、何かあったって言うのと同じだし。
「余計にいらないんだけど」(体を起こし、睨む
何だこの堅物。物を見るような冷めた視線も気に食わない。
「……好きにしろよ」どうせ駄々捏ねても意味ねぇし。(溜息
ソファに凭れて左腕を出せば、意外と丁寧に手を掴まれた。
※終始平坦な声

戻り:
感触が残ってる気がする。(左手の甲に一度触れる
「あんたと契約したときのを、見たと思う」
「クロちゃん、やりたいこととかないの」
やっぱくそ真面目だわ。(溜息


咲祈(サフィニア)
  精霊宅で目が覚めた時対面/神人は目覚めた時は記憶を失くした後
…キミ、は……?
サフィニア?
名前? ……。さあ?
覚えていない。……だから、重要な記憶というわけでもないのだろう
記憶を失くしているというのに、のんきに窓の外を眺める
たぶん。そういうことになるだろうね
良いの?
分かった。…いや、良い。この部屋で
別に。理由なんて、ないさ?
こだわりなんてないから好きなように呼んでくれれば、返事はする

わ。びっくりした
おかえり? ただいま? まあ、良いかどっちでも
…僕は間違えてた
重要な記憶だからこそ、忘れてしまう
どうせなら、彼女を亡くす前の記憶見たかったな…
…ああ、いや。君と出会ったばかりの記憶は、勿論大切ものさ


テオドア・バークリー(ハルト)
  確か小学校に上がる直前くらい?
同級生と会えるって母さんはしゃいでたっけ…
俺は不安で母さんの後ろに隠れてた。
そんな俺に平気で話しかけてくるあたりハルは昔からハルっていうか…
よく喋るけど楽しい奴っ思ったのを覚えてる。

鬼ごっこの誘いを最初は断った。
走るの苦手だったから俺がいない方が皆が楽しめると思って。
結局強引に連れて行かれたけど。
ああしてハルがずっと俺のこと引っ張ってくれたから
色んなこと出来たんだよな、いい意味でも悪い意味でも
…嫌な気はしない。

…あの公園も桜咲いてたっけ
いいよ、今回は2人だけだし出口まで競争、負けた方がジュース奢りでどう?
一緒にいてくれてありがとう、な
…気恥ずかしいから言い逃げる


●オカリナとサンドイッチ
 その日は天気がとても良く、どこかへ出かけよう、とお互いどちらともなしに言い出して、桜で有名な街へ繰り出した帰り道での事だった。
 精霊である火山 タイガが突然「探偵ゲームしようぜ!」なんて言い出したものだから、思いつきは刺激的でいいけど……と言いながらも、神人であるセラフィム・ロイスも快く承諾した。
 ゴール地点である丘へ先に到着したタイガは、大きな桜の下で相方を待っていた。
 ゲームなんて口実だ。綺麗な桜を、大切な神人と一緒に見るための。
「わふ……ねむ」
 やがて西日の光にまどろみ、うつらうつらと瞼が重くなる。
 相方の到着を待たずして、タイガは眠り込んでいた。

「……霧?」
 待たせたかな、と不安に思いつつ、そこはヒントを元に辿り着いた丘――である筈なのに、先程までの快晴はどこへやら、突然濃霧が立ち込め始め、セラフィムは辺りを見回す。
 一歩足を踏み出し、何かに引き寄せられる様にやがて霧を抜ければ――そこは。
(ここは……うちの)
 セラフィムの住む洋館の、庭にあるテラスに彼は居た。
 はっとすれば手に握られているオカリナと、あの日の幼き姿の自分。
 昼食が思うようにすすまず、オカリナを吹き終えた後だった、と何故か鮮明に思い出す。
(食べないと…いつも残すのは悪いし)
 そう思うものの、食欲は言う事を聞いてくれない。
 どうする事も出来ず立ち往生していた時だった。
 ――ガサガサッ!
「だっ、誰!?」
「……あっ!」
 茂みを抜け飛び出してきた小さな少年――幼き日のタイガがそこにいた。
 実際には一つしか違わないのに、その見た目の幼さ故、自分よりずっと子供だと思い込んでいた。
(何で、テイルスの子がここに……!?)
 セラフィムは、幼少から病弱で館へこもりっきりだった為、極端なくらい他人に怯えていた。
 病人で、周りに迷惑ばかりかけて。信じられる者はごくごく近しいメイドのみで、それすら体の事から距離を置いてのもので。
 喉が乾く。動悸が跳ね上がる。向けられる視線が怖くて固まる。
 そんなセラフィムの緊張を余所に、はっと我に返った虎の子は慌てて辺りを見回す。
「――わっ、悪りぃ!お前ん家かここ」
「……っ」
 問いかけにも唇が震えて、きっと誰から見ても青い顔をしていたと思う。
 喋れねぇの? と心配そうに聞かれれば、精一杯首を振ることで否定を表す。
「ならいいけど――」
 ぐうう、と空気も読まず鳴ったタイガの腹の虫に、赤面しつつあははと笑って頭を掻けば、ぽかんと秀麗な顔が呆けた。
「あ! さっきなんか吹いてただろ? ここら辺通る度に気になっててさ」
「……」
 おずおずと手元のオカリナを見る。
「綺麗で、透き通ってて悲しいのに、なんか癖になるっていうか……」
 好きだな、俺。臆しもせずそう言って。
 今まで話してきた他人は、家柄や体の事で常に一線を画してきた。
 こんな風に何のてらいもなく、無邪気に話しかけてくれる子供なんか、知らなかったから。
(褒められた……嬉しい。ありがとうって、言いたいのに)
 思うように出ない言葉の代わりに、食べ切れなかったサンドイッチを差し出す。
「おっ! くれんの? ありがとう!」
 おかしな子供だ。礼を言うのはきっと自分の方なのに。
 美味しそうにたいらげて、口の周りにパンくずをつけたまま、太陽みたいに笑って。
「俺、タイガ。火山タイガってんだ! お前は?」
 差し出された手を、勇気を振り絞って握ったら、自然と言葉も口をついた。
「セラ……フィム。セラフィム・ロイス」
「じゃあセラ、って呼ぶ。よろしくな、セラ!」
 多少強引な、けれど暖かい笑顔と握手した小さな手のぬくもりに、自然とセラフィムは微笑んでいた。

「ゴールおめでと! セラ!」
 霧を抜けた先に精霊の姿を見つけ、掛けられた言葉に安堵する。
 見上げれば満開のヨミツキが桜吹雪を降らせていた。
「ありがとう。お花見にいいね」
 見上げて、先程の白昼夢の様なそれを思い出し感慨に浸っていれば、じっとこちらを見る精霊の視線に気付いた。
「……? どうしたの?」
「生きてるセラ、いいな~ってさ」
 出会った頃の夢見てた、と続けるタイガ。
「人形みてぇで放っておけねぇって思ったのが最初だけど……今の顔見て、しみじみした」
 まさか同じ夢を、と今更聞くのもなんだか野暮で、自らも先程の光景を思い出す。  
「あ……僕も小さなタイガを見たよ、あの頃の」
 背が小さくてどこの子供かと思ってた、と微笑めば、彼はむきになって頭上に手を遣り、セラフィムのそれと自分のてっぺんを比べる様に動かす。
「もうセラより高いぞ!」
「それは悔しいんだけど」
 子供じみた所作がやっぱり可愛らしくてくすくすと笑う。
「……会えてよかった?」
 不意に問われて、返答の代わりに頭を肩に預けた。
「うん……思えば沢山、タイガからは大切な物を貰ってる。僕は君に何か、あげられているのかな」
 その言葉に、思い当たる節なんて山ほどある。知り合ってもう随分経つのに。
 例えばあの時――崩壊した建物に人々と閉じ込められ極限状態にあったあの日。
 いつも内気だとばかり思っていたセラフィムが、いつもは強気である筈のタイガの怯えを知って、しっかりと落ち着かせてくれた時の事。
「俺の心の安定剤になってくれてる。これから先も、セラの事沢山見せてほしい」
 約束してくれるか? と問いかけられれば、答えなんて最初から決まっている。
「うん、約束。ずっと守るよ」
 差し出された小指で、ゆびきりげんまん。
 今日の誓いが、永久に続きますように。

●返り咲く想い
「……あ。目、覚めた?」
 精霊、サフィニアの自宅で、金色の目をした青年が目を覚ました時。
 それが最初の二人の日。
「キミ、は……?」
 ぼう、と瞳を開けば見覚えない天井と、知らない人。
「俺? サフィニア」
「サフィニア?」
「君の名前は?」
 問いかけに記憶を探る。
 けれど当然あるはずの単語が、何一つ出てこない。
「……。さあ?」
「さ、さあっ? 覚えてない、とか……」
「覚えていない……だから、重要な記憶というわけでもないのだろう」
 記憶を失くしているというのに、彼は呑気に窓の外を眺める。
 青年をここへ運んだのは家主であるサフィニアだ。
 道すがら倒れていた彼は血を流して、とても酷い状態だった。
「もしかして、記憶喪失……」
「たぶん。そういうことになるだろうね」
 まるで他人事のようだ。
 記憶を失った人間というのは、こうも落ち着き払っていられる物なのだろうか。
 否、落ち着いているというより、何もかも投げ打っている、と言った様な……。
 少々考え込み、やがて決意した様に顔を上げるサフィニア。
「――よし。記憶がないなら、帰る場所も分からないだろうし、うちに居れば良いよ」
「……良いの?」
 断られるかも、と多少なりとも構えていたから、存外快い返答に思わず笑みがこぼれる。
「良いって良いって! ここ、物置と化してるから別の部屋に……」
 きょろ、と部屋を見回し思案していると、彼はゆるゆると首を横に振った。
「……いや、良い。この部屋で」
「え、なんで?」
「別に。理由なんて、ないさ?」
「そ、そっか……」
 その目は本当に、全く気にしてない、という風で、そんな言い方だと強気にも出られない。
 世話焼きの気質すら振りまわされる。拾った青年は当時からひどくマイペースだった。
「……あ、名前ないっていうのは、不便だよね。なんて呼べば良い?」
 思い至って呼び名の提案をする。
 暫し考えて、けれどやっぱり白紙の頭では何も思い浮かばなかったのか。
「こだわりなんてないから、好きなように呼んでくれれば……返事はする」
 また困った答えが戻って来たのだけれど。
 でも彼を見つけた時、体の状態以上に、青年は辛そうな顔をしていた。
 きっと大切な記憶を抱えていたのでは、と少し思った。
 だから、一日でも早く、彼の記憶が返り咲く様に、と。
「じゃあ……咲祈、で。『咲くのを祈る』で、咲祈」

 ――お互い、霧の中で別れたかと思えば、不思議な現象に囚われて。
 気付けばまた隣に相方の姿が。
 どちらから、という訳でもなく、ただ自然な形で、当たり前のように、そこへ居た。
「……あ、咲祈」
 先程までの無機質な姿を不意に思い出すが、きょとりと見上げられた山吹色は、やっぱりあの日とは違っていて。
「……わ、びっくりした。おかえり? ただいま?」
 まあ良いか、どっちでも。なんて平気で言う所は全く変わってない、と思ってふと笑みが零れる。
「僕は間違えてた。重要な記憶だからこそ、忘れてしまう」
 咲祈がぽつりと呟く。失っていた名前や、過去の思い出。
 羽根傀儡との戦いで、咲祈はそれらをほんの少し思い出した。
 鮮明ではなくても、それがどんなに辛く、大切であったのかも。
「……そうだね、大事なものほど、忘れやすいし壊れやすい」
「どうせなら、彼女を亡くす前の記憶を見たかったな……」
「俺との記憶じゃご不満?」
 ちょっとだけ冗談めいてサフィニアは告げる。彼女さんが大事なのは分かるけど、もうちょっとこっちを見てくれても良いのにな、なんて。
 本当の名前を知った今でも、サフィニアが付けた名を使ってくれている意味も、ちゃんと知っているけれど。
「……ああ、いや。君と出会った記憶は、勿論大切ものさ」
 駄目押しの様に確信を得られたから、少ない言葉でも今はそれでいい、と満足して、大切な神人「咲祈」へと、サフィニアは一つ笑いかけた。

●第一印象
「あんたが俺と契約する精霊?」
 場所はA.R.O.A.本部、応接室の一つ。
 ソファで寝そべって足を投げ出している柳 大樹の元へ、契約予定の精霊が音も無く現れた。
(物語に出てきたら、暗殺とかしてそう……)
 大樹が精霊を見た初見の印象はそんなものだった。
 億劫そうな感情を隠しもしないその表情に、A.R.O.A.とは別ルートで得ていた情報とも一致する、と精霊は確信を得る。
「私はクラウディオと言う。契約後から、神人、柳大樹の護衛の任に着く」
 護衛等した事は無いが、任務だというならそうするまでの話だ。
 やむを得ず、といった空気を感知されたのか、大樹の瞳が不機嫌そうに逸らされた。
「四六時中なら遠慮するわ。学校まで来られたら、何かあったって言うのと同じだし」
「外出の際は常に傍に控える」
「……余計いらないんだけど」
 体を起こして、いよいよもって大樹はクラウディオを睨み付けた。
 いかにもといった堅物に加えて、物を見るような冷めた視線も気に食わない。
「帰宅中に襲われたのだろう。再び同じ事が無いとは限らない」
 その場に居なくては守る事も出来ないのに、と当たり前に考え至るが、視線を合わせていたのが気に入らなかったのか、大樹の目に不快の色が一瞬走る。
「……好きにしろよ」
 どうせ駄々捏ねても意味ねぇし、とあからさまな溜息。
 これから長く任務を共にしなくてはならない存在だというのに、酷くぞんざいな扱いだ。
 大樹とクラウディオの出会いは、お世辞にも平穏なそれとは言い難かった。
 そんなものだから、ソファに凭れて差し出した大樹の左腕を掴んだ精霊の手が意外なほど丁寧だった、と今でも鮮明に覚えている。

「……感触が残ってる気がする」
 霧を抜けるなり呟かれた言葉。
 突然はぐれた事に存外動揺したのは精霊の方であった。
 妙な幻術にでも掛かったのではないか、と。
 感情を表に出す事はなかったものの、一通り神人の体を確認して。
 以前と変わらない大樹のそれに、少しだけ安堵する。
「あんたと契約した時の事を、見てた気がする」
「……同じ物を、私も見たらしい」
 そう、と驚きもせず精霊を一瞥する。
 もとより落ち着いた性格な事もあって、任務にあいまみえる度に、妙な現象や出来事には多少慣れた。
 それと同時に、この無感情に見える精霊の事も随分わかって来た。
 だからこそ――任務だからと止む無しに、お互い契約したあの日を思い出して、大樹は精霊に問いかける。
「クロちゃん、やりたい事とかないの」
 仕事だからと、割り切るのは簡単だ。そこに何の感情も葛藤も無い。
 神人である自分に生きて行くための選択肢はここにしかない。だからある意味ですぐ諦めも付いた。
 けれどだからといって、精霊である彼自身の全てを捧げさせてしまう事に、決して躊躇いが無い訳じゃなくて。
「私は大樹の護衛だ」
 堅物顔のまま、考えた事も無い、と続けられた言葉に。
 やっぱクソ真面目だわ、と呆れ果てた顔で。
 けれども少しだけ暖かな感情を胸に灯して、大樹は溜息を一つ吐き出した。

●鬼ごっことジュースの行方
 ――鬼ごっこの誘いを最初は断った。
 走るの苦手だったから、俺がいない方が皆が楽しめると思って。
『やだ。行かない』
『そう言うなって。たのしーから!』
 新天地に越したばかりの初友達であるテオドア・バークリーを、そうやって半ば強引にハルトは外へと連れ出した。
 お互い小学校に上がる少し前、母親に連れられた先で会ったのが二人の最初。
 母親の後ろに隠れていた臆病なテオドアに、てらいなく平気で話しかけるお喋りなハルトという、対照的な関係だった。
『名前は?』
『て……テオドア』
『じゃ、テオ、って呼ぶな!』
 びくびくと怯えながらも真面目に答えを返す怖がりな子供がハルトはずっと気になって、安心させてやらないと、なんて、幼心に使命感など抱いたりして。
 鬼ごっこの時だって、行かない、と言いながらもはしゃぐ子供達を、テオドアが羨ましそうに見ていたのを知っている。
 幼少からそんな風に、分かりやすい性格をしていた。
 そこが可愛い、と、そんな頃からそういえば思っていた様な気もする。
 幼馴染がそうやって引っ張ってくれたから、良い意味でも悪い意味でも、いろんな経験が出来たんだよな、とテオドアは思い至る。嫌な気はしなかった。

「……あの公園も桜咲いてたっけ」
 霧から抜けて、眼前に広がる桜に、白昼夢の様に垣間見た思い出をぽつりとぼやいたのはテオドア。
 強引に誘われて混ざった鬼ごっこに、今となっては綺麗な思い出しか見繕えないのだけれど。
 足が遅くても、走るのが苦手でも、思えばウィンクルムとなってからのどんな任務だって、ハルトが居るとなんだって。
「あの時みたいに、また鬼ごっこしちゃう?」
 感慨にふけっていた所へ、ハルトが悪戯っぽく笑って告げる。
「いいよ、今回は二人だけだし出口まで競争。負けた方がジュース奢りでどう?」
「おっ、いいねぇ~!」
 いつもと変わらない何気ないやり取りだけれど、たまにはこんな風に過去を思って、感謝を改めるのも悪くは無い。
 それじゃ、三つ数えたらスタート……とハルトが言い終わる前に、並びあった幼馴染はひとりごちる様に呟く。
「あのさ……一緒にいてくれてありがとう、な」
 えっ、と向けられた視線の気恥ずかしさから、スタートの合図も構わずテオドアは全力で走り出した。
「テオ君フライング! 待って、俺今月ピンチなのぉ!」
 理不尽な遅れを取ったハルトが、走るのが苦手だった筈の幼馴染に果たしてこの後勝てたのかどうか、それはまた別のお話。

●手を引いてくれたもの
 生存者は外へ。追わせないよう村を閉ざし、あとは順番待ち。
 自警団最後の仕事は予定通りに行われた。最後にハティを残して。
 武器を握りその時を待ったが、現れたのはオーガではなかった。
 村の人間でもない。……彼らは自分達に、死者を弔うよう、祈ったりはしない。
 オーガに壊滅させられたあの日の村に、ハティは居た。
 そしてその『誰か』は、こちらに気付き一瞬だけ驚いた顔をして、けれどもすぐに懐から何やら手紙を取り出した。
「――名前は? あれじゃあ、呼び難えからな」
 妙な名前で手紙寄越しやがって、と手元のそれを確認する無愛想なマキナの男。
「焔の目をする者」
「焔の……? ハティだ」
 手紙など出した覚えはない、と言う顔で、敵意が無い事を確認しひとまず名を告げる。
 死を目前にしていた以上、名乗る事に意味はなく、それでも思い詰めた様に強く緋色が瞬いていた。
 そう、この時に。一目で射竦められたのだ。駆けつけた精霊ブリンドは、この焔色の瞳に。
「別人か」
「……かもしれない」
「だが、手紙の内容は間違いない様だ。連れ出して治療してほしい、と」
「アンタも逃げられない訳か……災難だな」
 皮肉めいた物言いに、僅か眉間に皺が寄る。
 武装して、徘徊している化物を倒そうという風体の割に、先程から生き残ろうという意志は微塵も感じ取れない。
 無感情にも見えるその瞳の強い輝きは、どちらかといえば、刺し違えてでも、と言いたそうな。
「本当に殺す気あんのか?」
「……ああ」
「足りねえよ、お前一人の命じゃ」
「そう言うならお前は逃げればいい。誰も責めたりしない」
 先程災難だな、と皮肉を告げたその口で、今度は置いていけ等と言う。
 見れば彼――ハティ以外に生存者は残っておらず、村はオーガやデミ化したネイチャー達の巣窟になっている。
 置いていけばどうなるかなんて明白だ。そうと分かっていて……こんな手紙を寄越されてなお看過出来ない程度には、自分で思うよりも存外お人好しに出来ているのかもしれない、とブリンドは一つ嘆息した。
「悪戯だったらぶっ飛ばそうと思って来たんだ。相手がオーガになっても構わねえよ、悪路で車も動かねえしな」
 そっけない物言いの割にその言葉の表す意味をどうにも咀嚼し兼ねたものの、結果的に折れたのがどちらだったのかと言えば、自警団の生き残りである不器用な死にたがりの男だったのだろう。
 A.R.O.A.の車が現れたのは、ブリンドの協力を得てオーガを片付け、空が白々としてきた頃だった。

「リン……痛いんだが」
 霧が晴れ何故だかすぐ目の前で棒立ちしていた男から頬を抓られ、一応静かに抗議してみる。
「……戻ってきたらしいな」
「自分で確かめろよ」
 言いつつもブリンドが手を引いて、どんな顔をしているのかと窺えばハティは笑顔で。
 まじまじと見てくるレンズ越しの瞳に不安の色を見つけた。
 この男は案外心配性のようだし、口にしなければ過去の事になりそうもない。
 あの日言い損ねていた言葉を正直に伝える。
「あの時はありがとう」
「……」
 呆けてしまったのか、折角素直に礼を告げたというのに反応がないので頬を引っ張り返した。
「案外伸びるな……」
「本気でいてえよ」
「やられた分はやり返せって、アンタが教えたんだろ」
「俺は加減したぞ」
 素直に手を離したらなるほど確かに赤く腫れた。
 ちょっかいかけつつ、いつもの反応が戻った事に安堵する。
 それは相手も同じだったようで、頬を摩りながらも一つ息を吐いて、何やら一言小さく呟いた。
「……お望みどおり連れ出せたのかねぇ」
 はっきり聞き取れずどうした? と問えば、なんでもねぇよ、とやはりそっけない返事が返ってきたので、それ以上を問答するのはまた後日にしようとハティは決めた。
 彼が連れ出してくれた光差す世界で、まだまだ二人の歩む道は先が長いのだから。




依頼結果:成功
MVP
名前:テオドア・バークリー
呼び名:テオ君、テオ
  名前:ハルト
呼び名:ハルト、ハル

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月14日
出発日 04月22日 00:00
予定納品日 05月02日

参加者

会議室

  • [4]ハティ

    2016/04/21-22:37 

  • [3]セラフィム・ロイス

    2016/04/21-15:00 

    どうも。僕セラフィムと相棒のタイガだ。どうぞよろしく
    テオドアとハルトは初めましてだよね。他の皆とは久しぶりに一緒になった気がする
    霧か・・・
    あの頃がついこの前のようだけど・・・。うん、皆の過去も楽しみにしてるよ

  • [2]咲祈

    2016/04/20-19:16 

    …気がついたらいなくなっていたわけだけど…よく分からない霧、だね
    僕は咲祈だよよろしくね。

  • [1]柳 大樹

    2016/04/18-20:34 

    柳大樹でーす。よろしくー。(右手をひらひらと振る

    変な霧。
    懐かしい気もするけど。もう少しで丸2年になるのか。


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