プロローグ
○
そろそろ窓から入る日差しが柔らかな暖かさに変わる頃、A.R.O.A.本部にも春を彩る飾りが受付に置かれる。
頂いた桜の枝を眺めて「ああ春だなあ」と微笑んでいると、その子は現れた。
「こんにちは」
桃色の目をした客人は、傍らに座る子犬と一緒にこちらへ頭をさげていました……。
○
「あ、来たきた…お疲れ様でーす」
会議室のドアを開けると、そこには顔馴染みの受付スタッフと依頼主が待っていた。
大きな肩掛けカバンを膝の上に乗せた依頼主はまだ幼く、貴方とパートナーの腰辺りに頭が届くか届かないか程の小ささだ。
立ち上がりこちらに近寄った依頼主は、顔を上げてじっと顔を見た後…深々と頭を下げる。
「初めましてウィンクルムさん、僕はウメコと言います」
よろしくお願いしますと更に頭を下げる依頼主に釣られて、こちらも頭を下げる…ふと、視界に入る一匹の犬に目を見開く。
「きゃふん」
舌をぺろりと出してこちらを見上げるまるまるとした犬に手を伸ばすと、犬は貴方の手の匂いを少しだけ嗅いでしっぽをふりふりと振ってみせる。
「こっちは相棒のトンカツです!」
「きゃふん!」
ウメコに抱き上げられた犬は鼻をふん!と鳴らして…気のせいかドヤ顔をしているようにも見える……何故か頭の中で「どーだ、すんごいだろう!」というセリフが貴方の頭の中で再生された。
(もっと良い名前があっただろう)
耳元で小さく呟くパートナーを肘で小突いて、貴方は咳払いをした。
「さ、自己紹介もしましたし早速依頼内容に移りましょう」
スタッフの言葉に顔をあげ、貴方とパートナーは席についた。
「ふんふん…ふん」
「こらトンカツ、いつまで匂い嗅いでるの!」
ウメコに抱かれて連れ戻されたトンカツは、貴方の匂いをずっと嗅いでいたようだ……。
○
依頼内容はウメコとトンカツの護衛…向かう場所は最近、デミベアーやオーガといった大型モンスターが確認された山頂。
そんな危険区域に何をしに行くつもりなんだろうと貴方達は疑問に思う。
小さな子供と丸い子犬で散歩…には無謀すぎるし、おつかいといってもあの辺りに店もなければ薬草だって生えていないはず。
「危険な場所である事は分かってます…でもあそこを起こしに行かないとお仕事が終わらないんです、お願いします」
「わん!」
「あの…ウメコちゃんのお仕事って?」
どうしても行くの一点張りのウメコに対してスタッフが問いかける。知らないのかと聞けば「聞いたんだけどさっぱりで」と首を傾げていた。
ウメコは咳払いをすると、帽子についてる桜のバッジを指差して言った。
「春を起こすお仕事をしています」
「春を…起こす?」
「はい!僕のおじいちゃんのお仕事を、今度は僕がやるんです」
そう言うと、手を上に上げる動作をしながらウメコは何かを言った。
隣では真似をするようにトンカツが後ろ足で立っている…椅子から落ちないかとパートナーがヒヤヒヤしているのが視界に入る。
「枯れ木に花をー…咲かせましょー!」
「きゃふーん!」
聞き覚えのあるセリフに、貴方とパートナーは目を丸くした。
「え」と言うリアクションに対して、ウメコは胸を叩いて、自分の祖父の話をした。
「僕のおじいちゃん、花咲かじいさんって呼ばれてたんです!けどもう引退じゃーって言うから…僕が二代目、花咲かじいさんするんです!」
○
「花咲かじいさん…なるほど、そういう昔話があったんですね…」
結構有名な昔話に登場するお爺さん…の孫からの依頼。会議室を出た貴方達ウィンクルムとスタッフは改めて打ち合わせをする事に。
ウメコは後日また依頼に来ると言って、今日の分の仕事をしなくちゃいけないからと本部を出て行ってしまった。
「ふんふん」
「こーらトンカツ!」
「きゅうう~…」
名残惜しそうに貴方を見つめ連れて行かれるトンカツが、ふと脳裏をよぎった。
「こちらの調査によると、あの辺りは殆どが枯れ木で新しい植物の生成も確認されていない土地のようです…数年前までは、桜の名所だったとありますが、信じられないですね」
テーブルにまかれた写真はどれもこれも良い景色とは思えない状況を示しており、所々にオーガの影やクマの爪あとが写されていた。
「こう言ったらなんですが…私は花咲かじいさんのお孫さんだなんて信じられませんけど…依頼、どうされますか?」
改めて問いかけるスタッフの言葉に、貴方達は明日もう一度ここに来るとだけ答えた。
解説
お疲れ様です!…依頼、受ける事にしたんですね。
危険が無いよう最善を尽くしましょう、では改めて依頼内容と状況の確認をしますね。
■依頼:ウメコ・トンカツの目的地までの護衛
デミベアーやオーガの出没が確認される山頂が依頼主の目的地です。
妨害を避けながら、無事山頂へと向かって下さい。
■ウメコ・トンカツ
ウメコ:現段階で自称:花咲かじいさんの孫である子供。
トンカツ:丸い子犬、顔がとってもおまぬけでからかわれると怒る素振りを見せるので、人の言葉が分かる事が判明、ウメコのパートナー。
■山頂の状況
数年前までは桜の名所だったが、オーガの出現により枯れ木の目立つ荒れ地へと変わっている。その後出入りするのは調査団のみ。
もし敵と対面する事になったら、依頼主が驚いて走り出さないように注意が必要ですね…特にトンカツは見かけによらずとても足が速いので、注意が必要です。
…にしてももっと良い名前があったと思うんですけどね…コロッケとか…揚げ玉とか…。
護衛となると動きにくくなりそうですが…どうかお気をつけて。
ゲームマスターより
約半年ぶりのエピになります…女性向けはもっともっとお久しぶり。
ごきげんうるわしゅう らんちゃむです!
大きめのモンスターがどどんと出るこの依頼、子供を守りながらという動きづらい状況ですが無事の成功を祈っております…。
犬の名前に意味は無いです、ただ製作中に後ろからトンカツって悲鳴が聞こえたんで。
にしてもトンカツはどうして貴方の匂いをずーっと嗅いでいたんでしょうか?何か美味しいもの食べました?
…さてさて、みなさんの帰りを待ちながら、夕飯のトンカツでも用意しようかと思います…え?コロッケがいい?
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【事前行動】 登山開始したら私はトンカツさんに構えなくなるので… ウメコさんに頼みこんで思い切り可愛がっておきます 私達が守りますから、安心してくださいね(なでなで) 【トランスタイミング】 山登り開始時 遭遇した敵の力量、数と こちらの戦力を見て劣勢そうなら&オーガ登場でハイトランス 【立ち位置】 ディエゴさんと並んで一番前にいて前+横からの敵を警戒 周囲の木々の様子、足跡などを【動物学】の知識を用いて ここら辺にいる動物を推測、その知識から外れるものの形跡を発見したら槍を構えて進む。 どれくらいの時間かかるかわからないので力は温存しますが デミ以上の敵が現れれば本気で前衛に立ち戦う所存です ここに住む動物達の為にも。 |
シルキア・スー(クラウス)
事前 花咲か爺さんの孫というウメコの姿と性別判断感想思う 同行の挨拶をウメコの目線でクラウスと ウメコさんどうぞよろしくね、トンカツ君も、君でいいのかな? 有事の際傍に付いてくれる人等説明し無闇に動かない事お願いしておく 護衛 ウメコの後ろ近くに付きたい 現役の頃のお爺さんの武勇伝とかあるの? 敵遭遇 即トランス クラウスと並んで壁役に ウメコに「みんなで守るから 戦闘 攻撃仕掛けられたら盾効果で弾き飛ばしたい 壁崩さない範囲で好機には攻撃も 隙あれば振り向きウメコ達に「大丈夫! クラウスのMP不足はディスペンサ使用 春を起こすお仕事は興味を持って見守りたい 咲いたら拍手 トンカツに ウィンクルムを嗅ぎ分ける能力でもあるの? |
エセル・クレッセン(ラウル・ユーイスト)
花咲かじいさん…、春を起こす仕事かあ。 どっちにしても、デミやオーガは倒さないとだろうから。うん、手伝うよ。 準備 目的地、数年前まで桜の名所だったなら行ったことがある人がいそうだけれど。 山頂の様子とか道のこととか聞けないかな? 登山中 移動の隊列は後ろにするな。 周りの様子を観察しながら付いて行くことにする。 音にも注意かな? 荒れた土地なら動物とかもあまりいないだろうから、オーガとかデミかもしれないし。 戦闘 山頂が近くなったらトランス。 オーガが数がいる時は私も前に出て気を引いてみるな。 足手纏いにならないように。 |
小鳥遊 光月(甲・アーダルブレヒト)
春を起こす……? 枯れ木に花を咲かせましょう……? なんだか昔話みたいで興味があります。 だけど、ウィンクルムとしての護衛の仕事は初めて。 私に出来るかな……。 他のウィンクルムの人達仕事出来そう……ミスしたらどうしよう……。 ウメコさんとトンカツくんにぴったりくっついて護衛します。 ウメコさんとトンカツくんを挟んですぐ隣あたりに。 犬は大好きですので、トンカツくんと仲良く出来るように ウメコさんが許可してくれたら犬用のジャーキーとかあげます。 もしもオーガと遭遇したら、トンカツくん達の前に出て 武器を構えます。 他のウィンクルムの人達の動きをよく見て援護に徹します。 |
水田 茉莉花(聖)
ウメコくん達の分を含めてお弁当とお茶を申請 目的地に向かいながらウメコくんと話をして(保育スキル使用) …おじいちゃんにあとを継ぐって言ったとき、どんなことを言われたか、とかね 緊張をほぐして信頼してもらえるようにするの あたしはウメコくんの隣で護衛する形にするわね …え、女の子? 戦闘時はトランスしたらコンフェイトドライブでひーくんを強くして 2人で前衛になるの 「ちょっとまって」ひーくん、お願いね(頭ぽん) ブリザードデビルで脚を狙うように攻撃してみる あたし達の攻撃は、足止めがメイン 時の砂「輝白砂」でもスタンを狙ってみるわ 「枯れ木に…」ってお話しは、よく保育所で読み聞かせしてたけど… 実物を見ると、良いモノね |
○
依頼である山頂へ向かう前日、一同は依頼主であるウメコとトンカツに会い山頂までのルートの再確認を行う事にした。
改めて一同に深々と頭を下げるウメコに、一同は挨拶を交わした。
目的地である山頂への地図をデスクに広げると、ディエゴ・ルナ・クィンテロはウメコに問いかけた。
「目的地は山頂だが…先代が決まって通った道はあるか?」
「は、はい!えっと、おじいちゃんはここの脇道に入るんです…それで、ここに繋がるんです」
小さな指で示されるルートをハロルドが赤いペンで引くと、スタッフが事前調査で確認出来た道とは違うルートである事が分かった。
他に何か覚えていないかとディエゴが聞くと、ウメコはカバンから小さなアルバムを取り出して見せる…中には無邪気に笑ってVサインをする老人と、三つ編みをした少女が写っていた。
「あれ、この子って……ウメコ君?」
水田茉莉花が首を傾げると、ウメコは申し訳なさそうに帽子を取って頭を下げる。
「え、えっと…はい、僕です…」
「あ…じゃあ女の子」
「そうなんです…花咲かじいさんって名前をそのまま引き継いで行きたかったから…出来るだけ、男の子っぽくいたいなあって」
紛らわしくてすみませんと頭を下げるウメコは、写真を数枚取り出して地図の側に置いて見せる、どうやら祖父と歩いた道が山頂まで向かうルートのようだ…ラウル・ユーイストが一枚手に取ると写真の至る所を記憶していく。
山頂までのルート、道中の目印など確認が終わった所で時計を見ると…思ったより早く事が進んだようだ。
ハロルドはルートチェックを終えると、ウメコに声をかけた。
「あの、ウメコさん」
「は、はい!…なんでしょうか」
「もしよろしければですが…その、トンカツさんを撫でてもいいでしょうか」
「きゃん!」
「あ!こらトンカツ!」
ウメコの返事を待つ事もなく、本人からどうぞとばかりにハロルドの前に座ってみせるトンカツ。
そっと頭に手を置いたハロルドの指が、ふかふかの毛並みに沈んでいく。
「きゃふ~」
「ふかふかなんですね…あ、私もいいかな?」
側にいたシルキア・スーもトンカツに手を伸ばすと目を細めて嬉しそうにするトンカツ…気のせいか、桃色の花が飛んできてるようにさえ見える程、幸せそうにしている。
まったくもうと怒るウメコに、水田は「まあまあ」とウメコの隣に膝をついた。
「…ウメコさん、トンカツ君も楽しそうだし…もしよければウメコさんもお話とか、どうかな?」
「おは、なし?」
お話聞かせて欲しいなと笑った水田とシルキアに、ウメコは小さく笑って「はい」と返事を返した。
「きゃふ~…きゃんきゃん!くぅ~…」
「それにしても随分懐いてくれるな…」
「元気が有り余ってるようです」
エセル・クレッセンや聖が驚くのも無理は無く、ウメコが水田達と話をしている最中、トンカツはといえばあっちへこっちへと歩きまわって一同に撫でられたり足元で転がってみたりとよく動く…それも幸せそうに。
撫でられると小さな鼻を動かして匂いを嗅いでは、嬉しそうに舌を出すのだ。
「…いい匂いがしますか?」
「わん!」
ハロルドに問いかけられるトンカツは、肯定するように鳴いてみせた。
○
「み、皆様おはようございます!」
「きゃん!」
翌日、十分な交流や事前調査もあってかウメコの表情は明るくなっている…どうやら一同の前日行動が良い結果を生んだようだ。
「今日はどうぞ、よろしくお願いします!」
深々と頭を下げるウメコと、それを真似するトンカツに一同は大きく頷いた。
「…桜の名所、とは思えない風景だな」
「だが間違いなくこの道だ…進んで行こう」
資料と近隣調査の結果を見ておいたエセルは、荒れ果てた周囲を見て溜息をつく…そこは数年前まで桜の名所だったとは思えない程に荒廃しており、草木は生成されているものの、所々に瘴気が漂っている。
写真を記憶していたラウルはその光景が自分が見たものと照らし合わせながら周囲を警戒していく…ウメコが見せてくれた写真と同じ道筋に確信があったのだ。
カバンを抱きしめるように持ってあたりをキョロキョロするウメコにも、先程までの笑みは消えてしまっていた…その姿につられて、トンカツの尻尾もしょんぼりしている。
「きゅう…」
「…ウメコさん、大丈夫ですか?」
「うえ、あ!…だ、大丈夫です!…ちょっと、びっくりしただけでして」
小鳥遊光月がウメコに話しかけるものの、その返答にはぎこちなさが垣間見える…小鳥遊は移動しながらも、ウメコに話しかけた。
「疲れたらいつでも言って下さいね」
「はい…ありがとうございます」
「…緊張、しますか?」
「……緊張というよりは、ちょっとだけ…ちょっとだけ、不安なんです」
ぽつりと呟いた不安という言葉に、小鳥遊はウメコの言葉に耳を傾けた…その言葉は、移動中の一同にも聞こえている。
祖父である花咲かじいさんと来た時とは比べ物にならない程荒廃しているのは聞いていたが…ここまでとは思っていなかったんだとウメコは話す。足元に漂うひんやりした空気は居心地良いものではない…時々トンカツは何かを避けるように歩いている。
「…おじいちゃんにお花見せてあげられなかったらどうしようって…僕…ここの木は特別で…僕は初めてだから…」
俯くウメコに、水田はそっとウメコの頭を撫でる。
「お祖父さんはきっと可愛い孫の成功を祈ってるわ…勿論、依頼主の成功を望んでいるのは私達も一緒…山頂まで絶対連れて行きますとも」
ね、と何処へ向ける事のない返事をすれば、ウメコの視界には頼もしい護衛…ウィンクルムの姿があった。
少しだけでも怖気づいてしまった自分が情けなくなったのか、首をぶんぶんと振ったウメコは「ごめんなさい!」と頭を下げた後…帽子を整え前を向いた。
「皆さんありがとうございます!…僕、もう大丈夫です、山頂までもう少しですし…皆さんにとびっきりの桜お見せします!」
腕まくりをしたウメコに、元気を取り戻せてよかったと安堵する一同…だが。
「まま!オーガだ!」
聖の言葉に穏やかになった空気が崩壊する、オーガ・ナノーカのカメラに映った事を水田に報告すると、それを聞いていた一同が作戦通り配置についた。
地面が揺れる…一歩一歩、確実にこちらに近寄っているのだと分かると、ウメコはトンカツを抱きかかえた。
「いい、ウメコさん…これから来る奴に驚いても走って逃げたりしちゃダメだ…どうか落ち着いて側にいて」
「は、はい…」
「くう…ん」
「…大丈夫、皆で守るから」
シルキアの言葉を聞いたウメコがトンカツを抱きしめる力を強めると、ソレは姿を表した…雄叫びを上げて一同に目をつけたオーガが、枯れ木をなぎ倒して走ってくる…その気迫に押されて震えるウメコとトンカツを、小鳥遊は庇うように背を向ける。
トランスを発動させたクラウスはなぎ倒された木を掴みこちらに投げてくる前にシャインスパークを放つ…手に持っていた木に力が入らず、オーガの攻撃は一同には届かなかった。
その隙を見てウメコとトンカツを攻撃範囲外へと移動を完了させると、ラウルは直ぐ様銃を構えオーガにスキルを発動させる。
…一撃、確実にオーガに当たったと同時に直ぐ様甲・アーダルブレヒトによる誘導攻撃が開始された、遠距離攻撃に反応したオーガは直ぐ様起き上がろうと腕を地面に叩きつける。
「そうはさせません!」
聖の二丁拳銃によるスキル発動により叩きつけた片腕に命中し体制を立て直す事を阻止されるオーガ。
周辺を舞う砂埃や、大きめの石が飛んでくるものの、それはシルキアが盾によりウメコとトンカツに当たらないように防いでいた。
「み、みなさん…」
今にも泣きそうなウメコの顔をトンカツが必死に舐めている…本物のオーガを目撃したのは初めてなのか、状況はこちらが有利だとしても恐怖で震えていた。
…ふと、小鳥遊がウメコの手をしっかりと掴む、顔を上げたウメコに、小鳥遊は安心させようと声をかけた。
「だっ……、大丈夫、だから」
「…おねえさん…?」
「大丈夫、皆います…だから怖くない、すぐに…やっつけてくれます」
……微かに震えている小鳥遊の手に気づき、ウメコは小さな手を重ねて頷いた。
「疲労が見えた、仕留める」
一点への集中を妨げるように四方八方から攻撃を続けていた精霊達…どうやらオーガに疲労が見えている。
ハイトランスを発動させたディエゴはオーガの眉間目掛けてスキルダブルシューターⅡを放った。
次の瞬間、矢を受けたオーガは振り上げていた手を地面に落とし、力尽きた。
立ち込めていた砂埃や飛んでくる物が無くなった事に気づき、シルキアは警戒しながら精霊達と合流した。
…そこには戦いを終えた精霊達がいて、ウメコはまだ何が起こったか分かってはいないようだ。
「……」
「…おわりました、もう大丈夫です」
「ほ、ほんとですか」
「…もう心配はいらない、山頂へのルートに戻ろう」
聖とディエゴの言葉に、安心したウメコは涙を浮かべて座り込んでしまった。
○
…オーガとの戦いを終え、一同は事前調査のルートを通り無事山頂へとたどり着いた。
落ち着きのなかったウメコとトンカツだが、道中安心させてくれようといろいろ話をした一同の行動により、十分な回復を見せていた。
「すみません、トンカツにおやつをくださって」
「いえいえ!…わ、私があげたかったものですから」
トンカツはと言えば、小鳥遊の用意した犬用ジャーキーのおかげでウメコより先に元気を取り戻していた。
「よく食べるからトンカツなんですよ、まったくもう」
「あはは…」
山頂は枯れ木が何本か立っているだけの静かな場所のようだが…麓よりも瘴気の量が多いようにも感じられる。
瘴気に当てられないか心配そうに見守る一同をよそに、トンカツは瘴気にあてられて目を回していた。
「トンカツ君大丈夫?!」
「く、くぅぅ……」
「あ、あの!どなたかトンカツの鼻に手を…そしたらすぐ治りますから」
ウメコの言葉に困惑するものの、側にいたエセルはトンカツの鼻に手を差し出した…するとどうだろうか、項垂れていた尻尾がぴんと立ち上がり、会議室で見せたあの幸せそうな顔に戻ってしまった。
「きゃん!きゃん!」
「よしトンカツ、もうひと踏ん張りだからがんばろう!」
「わおーん!」
枯れ木のあたりを走り回るトンカツを眺めるウメコに、ハロルドとディエゴは先程の行動の意味を質問した。
「…嗅ぎ癖のようだが」
「依頼の時からずっとですが…どうしてでしょう」
エセルは自分の手をじっと見た後、首を傾げて「何も匂わないんだが…」と呟く。
ウメコは同じように疑問符を浮かべる一同に対して、首を左右に振ってみせた。
「いえいえ、トンカツは嗅ぎ癖というか…好きな香りだけ嗅いでいたいといいますか」
「どういう事だろうか…俺達に共通する香りなど特には」
甲がそう言う終えると、トンカツの吠える声がした。
振り返ればトンカツは、大きな枯れ木の前で尻尾を振ってウメコを待っているようだ。
「見つけたの!?…皆さん、さっきのご質問には…あれを起こしてお答えしますね」
ウメコがトンカツの元へ走り出すのを見ながら、一同も近くまで歩み寄っていく…瘴気によって通常の木の色をしていない禍々しい枯れ木となった大木の下で、ウメコはカバンから可愛らしい小瓶を取り出す…中から出てきたのは、灰。
「そ、それって犬の灰じゃ」
驚いて水田の裾を掴む聖に対して、ウメコは瞬きをしてああ、と答えた。
「これはおじいちゃんが私にくれた灰でして…犬…のじゃないんですけど、家にある特別な木の枝から作られたものなんです」
ウメコは「それは長い長い昔話だから眠くなっちゃいますよ」と笑っていた。
灰を木にぱっぱとかけていくその姿は…昔話でよく見る軽快なものでは無かった。
一同の前でせっせとまんべんなく大木に灰をかけるウメコの表情は軽快という言葉は不釣り合い…慎重に、丁寧にかけてはよじ登り、上まで全てかけおわった。
時々足を滑らせる場面があり一同の肝を冷やすものの、なんとかしがみついて難を逃れた。
「…ひ、ひやひやする」
シルキアの言葉にトンカツも同意なのか、わんと鳴いてみせた。
なんとか大木から降りられたウメコの体は灰だらけ…だがお構いなしに、ウメコは一同に汚れた顔を向けて笑った。
「皆さん、とくとご覧あれ」
トンカツが地面に向かってきゃんきゃんと吠える。
ウメコは大木をじっと見つめて何かを待っているかのようだ…ふとトンカツが吠えるのをやめると、ウメコは大きく…息を吸う。
刹那、信じられない光景が一同の目の前に現れたのだ
「すー……っ…おおおおはようございまああああーす!!」
「!?」
とびきり大きな声でウメコが叫んだと思えば、その声に答えるように大木から瘴気が消え…風にゆられて桃色の花びらが舞った。
そう、見覚えのある……桜の花びらが。
荒廃していた山頂にあった大きな大木は、今あるべき姿を取り戻すように桜を開花させていた。
驚いている一同を差し置いて、当の本人はトンカツを抱きかかえて嬉しそうにはしゃいでいた…自分にも出来たと、大喜びしている。
「皆さんありがとうございます!…えっと…僕はこの山頂で…春を起こせる【幸せの香り】を探していました」
「幸せの香り?」
「はい!ここはいろーんな人が春になるとやってきて、いっぱい幸せを溢れさせていくんです」
植物に水を与えるように、この荒廃した枯れ木には僅かながらの幸せが残っているのだと言う…それを起こし春を呼び戻すのが自分の仕事なのだと、ウメコはかいつまんで説明した。
「おじいちゃんはそれが「枯れ木に花を咲かせましょう」だったんですけど…僕はこっちのがしっくりきてて……トンカツは家に代々いる偉いお犬様なんです、幸せの香りが分かる特別な犬なんですよ」
「きゃふ」
「……幸せの香り…じゃあ俺達を嗅いでたのって」
鼻をならしてみせるトンカツをよそに、クラウスが腕を組み考えていると1つの答えが導かれる…ウメコはそれを肯定した。
一同…ウィンクルムには、トンカツからすれば「幸せの香り」を漂わせる珍しい人なのだという、だからすぐに懐いてみせたり…手を当てるだけで元気になったのだとウメコは話した。
「先にお話すればよかったなあって思ったんですけど…その、信じてもらえなかったらどうしようって」
でも私の気苦労でしたと笑うウメコの足元には、淡い緑の草が「目を覚まして」いた。
「…これでおじいちゃんに胸張って跡継ぎ出来るって言えます…皆さん本当にありがとう!」
「わん!」
満面の笑みを浮かべるウメコとトンカツに、一同は不思議な護衛任務を無事、完了させる事ができた。
「さて、立派な桜の木も見れたし…じゃじゃーん、お弁当支給してもらったから、ここで食べてから下山なんてどうかな」
「ぼくはさんせーです!はいはい!」
水田の提案にすかさず手を上げる聖は、一同の目をじっと見つめて「ね!」とお弁当を差し出す。
…雲の隙間から、暖かな日差しが顔を出したようだ、これから晴れて益々天気は良くなっていくだろう。
「お花見もいいなじゃいかな」
口々にそう返事する一同は桜の木の下で、咲いたばかりの桜を見ながら食事を取って下山をする事にした。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | らんちゃむ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 04月12日 |
出発日 | 04月23日 00:00 |
予定納品日 | 05月03日 |
参加者
会議室
-
2016/04/22-23:59
-
2016/04/22-23:57
プラン提出しています
枯れ木に花、咲きますように -
2016/04/22-23:21
プラン、一応書いたけど。
もうちょっと直そう。
あ、移動の隊列は後ろにするな。 -
2016/04/21-23:34
私もプラン提出しました。
子供は好きでも嫌いでもないですが、犬は大好きですので
犬用おやつを持っていく事を書きました。
よろしくお願いします。 -
2016/04/21-11:34
登山中も戦闘時も先行して進んでいく
依頼人のことをよろしく頼む、俺は子どもの扱いはよくわからないんだ
>弁当
必要ではあるかもしれないが手短に食べられるものが良いだろうとは思う
-
2016/04/21-11:33
>皆さんへ
プラン提出画面で神人のジョブスキルが正しく表示されていない不具合があるみたいです
新スキルの影響だと思います
ステシでセットし直して再提出したら正しく表示されました
皆さんもご注意ください
仮プラン提出して気が付きました -
2016/04/21-09:01
>水田さん
お弁当申請よろしくお願いします
ありがとうございます -
2016/04/21-00:18
>スーさん
お弁当とかは、あたしの方で申請してみるわ。
いくらなんでも手弁当って訳じゃない・・・と思いたいなぁ。
>立ち位置とか
登山中は、ウメコくん達の両脇につく感じで、
戦闘時はあたし達、積極攻撃組になるから・・・
ひーくんにはダブルシューターで出て貰おうかな?
ガン・アサルトは別な物にするか、ちょっと考えてみる。
コンフェイトドライブかけるのは、必須かな。 -
2016/04/20-15:50
>隊列
私達はウメコさんの後ろ近くに付きたいと思います
あと、後方からの殺気を警戒してます
>犬
ああ、ここ掘れわんわん!
そういえばそうでした
何か良い事があるという予言ならいいですね
私はウィンクルムを嗅ぎ分けてるのかという質問をするつもりです
◆事前行動
「登山地図を申請、仲間に配る」
ウメコさんに「有事の際傍に付いてくれる人等説明し無暗に動かない事お願いしておく」
と仮プランに入れています
登山なので他にも気になる事はありますが
水とかお弁当とか必要なのかな?
この辺、どこまでいるのかよく分りません -
2016/04/20-13:47
>エセル
気にするな
>隊列
前衛希望だが後衛でも大丈夫だ
>犬
嗅ぎ癖は、花咲かじいさんの話を考えると意味深だよな
だが今回はお宝探しという雰囲気でもない、とするとオーガ等の気配を探ったりできるのか…? -
2016/04/20-07:22
>ディエゴさん
ごめん、名前、勘違いしてた。
本当に、ごめん。 -
2016/04/20-01:10
聖
>ディエゴさん
ぼくも、ゆみにしようかな?と思ったんですが、
ママが「ツラナイ」という、てきをこおらせるじゅうをくれたので、
それでデミベアーの足もとをこおらせてみます。
ぼくとママは、前に出てたたかいます!
>ウメコさんのこと
…たぶん、ママはかんちがいしてると思う。そのあたりも、もくてきちにつくまでに聞いてみますね。 -
2016/04/20-00:30
>銃
ハロルドさん、ありがとう。
うん、じゃあ、戦闘時は直接の護衛は任せる気だし、ちょっと離れておくな。
移動の隊列は、前でも後ろでもどちらでもいいよ。 -
2016/04/20-00:10
戦う組は依頼人を挟み込むような感じで進んでいけば良いかと思う
>銃
子供と子犬であることを考えて銃声は刺激が強いのではと考えたからだ
強制じゃあない -
2016/04/19-23:15
目的地の山頂は、昔は桜の名所で今は枯れ木の目立つ荒れ地…。
見通しは悪くはなさそうかなあ。道も一応はある、んだろうか。荒れていそうだけど。
数年前なら行ったことある人がいそうだけど、麓に村がとか書いてないからなあ。
様子を聞くのは無理だろうか。分かれば助かると思ったけど。
敵も大型モンスターだから、警戒しながら行けば不意打ちされずにすむ、かも。
戦闘時のウメコとトンカツの護衛は大丈夫そうだから、私たちは攻撃してるな。
まあ、私の攻撃力は雀の涙なんだけど。
…武器は銃じゃない方がいいのか?といっても弓とかはもっていないんだけど。 -
2016/04/19-21:39
こんばんは
私と甲さんは、レベルがレベルですので
ウメコさんとトンカツくんの護衛に徹したいと思います。
特に私(光月)は、ウメコさんトンカツくんから離れないようにしますね。
甲さんはいざという時は双葉で戦うと思います。
よろしくお願いします。 -
2016/04/19-19:49
こんばんは
行動予定の変更をしたいと思います
敵との遭遇時はウメコさん達を守る様な立ち位置で
二人で壁作ろうと思います
クラウスのスキルはシャインスパーク(目くらまし+微回復)
敵と複数遭遇した場合と登山してきた皆さんの疲労回復狙いで選択しました
もう一つはファストエイド(瞬時回復)です
(バリアーは他エピで謎の不採用をされてしまったので使わない事に(汗)
攻撃は皆さんにお任せします
今回守り重点で行動したいと考えています -
2016/04/18-10:35
シルキアとライフビショップのクラウスです
初めましての方もみなさんよろしくお願いします
敵との遭遇時はクラウスがバリアーを張って
ウメコさん達の避難所を作ろうかと考えていますが
護りにつく方の人数が十分なら攻撃に回ります
>驚いて逃げる
事前に有事の際どう行動して欲しいかお願いしておくことで防げそうではありますね
トンカツ君の性格を聞いてみるのもいいかもしれません
>匂いを嗅いでいた理由
クイズかな?
ウィンクルムを嗅ぎ分ける能力?
>ウメコの性別
一人称は僕
職員は「ウメコちゃん」と呼んでいる
少女という記述は無い
女の子…でいいのかな?
大した事じゃないけどちょっと気になりました -
2016/04/17-23:21
揃ったか
よろしく
敵を警戒しながら進む
前方にいてオーガが木々を傷つける前に一太刀浴びせてやりたいところだ
銃声は驚くだろうから、弓を持っていったほうが良いかもなと思っている -
2016/04/17-22:08
みんなそろったみたいだから、相談始めましょうか?
えっと、あたしとひーくんは、目的地に着くまでウメコくんとトンカツくんに話しかけて
信頼してもらえるようにしてみるわね。
それと、アヒル特務隊「オーガ・ナノーカ」を先行させてみようかな?とも考えているわ。
戦闘の時は、ひーくんにガンアサルトⅡをメインで攻撃して貰う予定よ。
あたしは時の砂「輝白砂」で足止めを狙ってみるわね。 -
2016/04/17-21:00
小鳥遊光樹です。パートナーは甲・アーダルブレヒトです。
どうぞ、よろしくお願いします。
ウィンクルムとして戦闘初体験になります。
警戒も大事ですが……
オーガが現れた際に、トンカツくんが驚いて一人で逃げ出すとかありそうですね。
人の言葉が分かるのなら、大丈夫でしょうか。
大丈夫でないなら、トンカツくんの護衛と見張りを頑張りたいと思います。 -
2016/04/17-08:56
私はエセル・クレッセン。パートナーはラウル・ユーイスト。
どうぞ、よろしく。
…敵の警戒と、遭遇した時依頼主に走り出されたりしないよう、両方気を付けつつ行くんだな。
敵に先に気付ければいいんだろうけど。 -
2016/04/15-16:17
ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロだ
宜しく頼む
まだオープニングを読み込んでいない
から、今は挨拶だけで -
2016/04/15-16:05
みなさんよろしくおねがいします、ぼくは聖です。
ママの『水田 まりか』ともども、よろしくおねがいします。
とりあえず、ごあいさつします。
えっと、ぼく、おかしもち歩いているから、
トンカツくんが、においかいだの、それがげんいん・・・だった、かな? -
2016/04/15-13:18
参加させて頂きました
どうぞよろしくお願いします
出発まで日があるので人が増えてくれるのを待って
ひとまずごあいさつだけ