プロローグ
夕闇の忍び寄るサクラウヅキ。
紫を落とし込んだような闇が、ヨミツキの桜並木に訪れる。
絢爛と咲き誇る花は、枝を重くしならせ、その先から花吹雪をこぼれ落としていく。その清楚でありながらしどけない姿は、近くでみると明らかに桜ヨミツキだが、遠くから見れば濃群青の空の下、低く垂れ込めた花雲、春の靄--広がる薄紅と白の妖しさは全く声を失うほどだった。
逢魔が時の桜の下に他に誰もいなかった。その美しさを愛でようにも、ヨミツキの妖艶さは恐い程であったし、何よりも空に浮かぶ巨大な紅月の下では、群れるヨミツキの花靄は全く魔性を思わせたのだった。
だから、人々はぴったりと戸を閉め切って、夕闇のヨミツキを見ようとはしなかった。
あなたは、人の気配のしないヨミツキの桜並木の下を歩いている。
オーガを探して。
サクラウヅキの瘴気の正体を探り、人々を害するオーガを倒すために、あなたと相方は桜並木の下を歩く。
だけれど、その妖しい美しさの前に、二人とも言葉を発することもできず、沈黙のままに桜ばかりを見てしまう。
そのとき、少し離れた花の下に、二人の男が佇んでいることに気がついた。先程まで誰もいなかったはずなのに。
(ひょっとして、オーガ……?)
あなたは思わず息を詰めながら、その和服の二人を見つめる。
紺青の袖の市松と唐草の紋様がやけに目についた。
たっぷりとしなる花枝の数々が邪魔になって、二人の様子ははっきりとは見えない。夢のようにこぼれ落ちる桜吹雪、夕闇の風--何もかもがため息をつくほどに美しい、サクラウヅキの光景。
男の一人がそっともう一人の男の頬を撫でる。弾かれたように顔を上げる背の低い男。背の高い方が低い方に何事か囁く。途端に、ついと顔を背けてしまう男。それを追う背の高い男の手。一瞬、争い合うような間があって--。
男が男のことを捕まえて、その唇に接吻した。
夢のような花吹雪の中、忍び寄る紫闇の夕暮れの中で。
あなたと相方は息を詰めてそれを見守っている。
接吻の後、男がまた男の耳に何か囁いて、二人は艶っぽい空気をまといながら、花の闇に消えていった。
あなたと相方は、まだ沈黙している。
目にした光景が半ば信じられないような気持ちのまま、ため息をつく。
闇の中で角は見えなかったけれど、もしかしたらオーガかもしれないと思った。だけれど、人だったかもしれない。
そんな不安定な気持ちのまま、相方の顔を振り返る。
相方も今見た光景に衝撃を受けているようだった。
--何を言おう。
--何をしよう。
解説
サクラウヅキの人気のいない夕暮れで、キスシーンを見てしまったウィンクルムです。
このまま、自分たちも衝動的にキスをしてしまうとか、相方のことを妙に意識してしまってぎこちなくなるとか、あるいは笑って誤魔化す、あるいは気持ちが昂ぶって告白してしまう……など、様々なプランをお待ちします。
あたりは見渡す限りの桜並木、夕暮れの時間帯で他に人は見られません。
くれぐれも公序良俗は守ってくださいませ!(キスまでです)
★また、サクラウヅキまでの移動費で300Jrかかりました。
ゲームマスターより
夕暮れ時の桜は本当に妖艶だと思います。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
信城いつき(レーゲン)
……! な何にも見てないよ!彼らが何してたかなんて全然! 俺がレーゲンとキスした時もこんな感じなのかな? そういえば、キスする時ってどんな顔してるんだろう……? え!?そのっ、だって俺背伸びしてもレーゲンに届かないし! そこまでしなくていいって…… じゃ、じゃあ目つぶってくれる? 俺からしたことは何度かあるけど、勢いでしたのばかりだし。 普段どんな風にしてもらってたっけ…(思い出しつつ同じように手順を踏んでいく) もうずるい。逆に髪なでられたら俺の方が落ち着いちゃうよ (目をつぶりそっとキスする) あ、そういえば……緊張してレーゲンの顔見るどころじゃなかった 頑張ったのに大事な目的忘れてた……(がっくし) |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
見た光景に心臓が早鐘みたいだ ヨミツキが綺麗過ぎるから…夢を見たみたいで フィンの顔がまともに見れない 俺達は恋人同士で…キスした事が無い訳じゃないのに 何で今更他人のキスを見たくらいで動揺してるんだ 桜の花びらの中、フィンに視線を向ければ…更に鼓動が速くなる …綺麗なんだよな、フィンは…知ってたけど 真剣な目…そうだ、今は任務中だ 俺も雑念を振り払わないと… 桜が舞う さっきの光景を思い出させる 止めようとすればする程 …俺、どうしたんだろう? フィン 振り返る彼の腕を引いて、衝動のまま し、仕方ないだろ、したかったんだ、悪いか フィンが…綺麗だったから…桜のせいだ 俺だって…フィンが好きなんだから……キスしたい時だってある |
日下部 千秋(オルト・クロフォード)
うわ…… さ、さすがに口に直接は……(刺激が強すぎる光景に頭真っ白顔真っ赤 先輩、一見動揺してなさそうに見えるけど何考えてるんだろう…… ……変な事じゃないといいんだけど。 いや任務中のあれとはどう考えても別物でしょさっきのは! 悪かったですねいつも色気もくそもないキスで…… ……俺に聞かれても困るんですけど…… ちょ、なんで距離詰めてるんですか! えっ…… ……ホントにキスされるかと、思った…… わかったってなにがわかったんですかね?! ……あ、これいらんこと覚えちゃった系だ…… また反応見られてたのか俺…… 先輩が最近行動的になりすぎてる気がする……反応見たさに色々してるような気はしてたし……先輩の方が猫じゃん…… |
咲祈(サフィニア)
……あの二人はウィンクルム? それとも、オーガ? どちらにしてももう行ってしまったから放っといておこう 気にしたら、負けさ。サフィニア 相変わらず無表情だがどこか楽しそう そう? 普通にしてるつもりだけど ……。この状況、前にもどこかで… サフィニアの耳に届かないようにぼそりと呟く いや、特になにも。桜、なんだかキレイだけど不気味だと思って ああいうの、僕はあまり好きじゃない ……やっぱり、気になる さっきの二人はなんだったんだろう。…ふむ…… そうだけど。気になるものは気になる 僕はオーガの線はあり得ると思う 本当に人だったのかもしれないけど |
テオドア・バークリー(ハルト)
あれ、見間違いなんかじゃなかったよな、キスしてたよな… …心臓が煩い、絶対ハルにこんなところ気付かれたくない! オーガか人間かしっかり見ておけばよかった… 何しに来たんだよ俺…全然そんな余裕なかった… 全然落ち着かないや… ああいう場面が俺自身苦手なせいなのもあるとは思う。 けど…さっきの光景を思い出そうとすると何故か ハルの姿ばかりよぎって全然ハルの方見れないや… …あれ、そういえばさっきから隣にハルがいな… え…あ、ごめん、全然そんなつもりなかったんだけど… さっきの見た2人組に、その…びっくりしたんだよ。 今あんまこっち見るな! あの、さ…落ち着かないから離してくれない? そろそろ本当に心臓もたな…笑うなってば! |
●咲祈(サフィニア)編
今日、咲祈とその精霊のサフィニアは、サクラウヅキにA.R.O.A.の調査で来ています。そして、二人はヨミツキの桜並木の下で、キスをしているカップルを目撃してしまいました。
「……あの二人はウィンクルム? それとも、オーガ?」
「……さあ? サクラウヅキではヨミツキの異変があったから、なにかあっても可笑しくないけど……」
怪訝そうに前の方を見て問いかける咲祈に、サフィニアは自信のなさそうな返事をします。
「どちらにしてももう行ってしまったから放っといておこう。気にしたら、負けさ。サフィニア」
「ああ、そうだね……」
カップルの姿はもう見えません。咲祈は彼らが消えたのとは違う方向に、さっさと歩いて行きます。顔は無表情ですが、足取りは軽い様子です。
「というか、咲祈。なんか楽しそうだね?」
「そう? 普通にしてるつもりだけど」
咲祈は金色の瞳に不思議な輝きを見せて、サフィニアを振り返ります。サフィニアはふと気がかりを覚えました。
咲祈には、記憶がありません。基本的な知識すら欠落していて、自分の事も何も分かりません。咲祈が今、妙に機嫌が良くて楽しそうなのは、その欠落した記憶の中に理由があるような気がしたのです。
サフィニアは胸騒ぎを覚えました。だけれど、その理由を、うまく説明することは出来ませんでした。
サフィニアは自分こそが何も気にしていないように、前方を行く咲祈の後をついていきます。
「……。この状況、前にもどこかで……」
サフィニアの耳に聞こえるか聞こえないかのような小声で、咲祈が呟きました。
「え? なに、何か言った?」
焦りを隠して平静を装いながら、サフィニアは問いかけました。咲祈がなんと言ったのか、全てを聞き取れなかったのです。咲祈は、一体何を言ったのでしょう。
「いや、特になにも。桜、なんだかキレイだけど不気味だと思って。ああいうの、僕はあまり好きじゃない」
咲祈は言葉を濁しません。
思った時に、思った通りの事を言います。
この美しく妖艶で儚げな桜、ヨミツキの事も、不気味だと思ったのならそのまま言うのです。いつもの咲祈です。サフィニアはほっとしました。
そうして自分もヨミツキを見上げます。空には紅月がかかっていました。
「……赤い月に照らされる桜……キレイだけど、なんか見ていて落ち着かないって気がする」
あまりにも美しすぎるものを見ると、人は畏怖さえも覚えます。今の自分もそんな感情を覚えているのだろうかと、サフィニアは自分の心を見渡しました。
胸騒ぎの理由は、何--
「……やっぱり、気になる。さっきの二人はなんだったんだろう。……ふむ……」
咲祈は腕を組み、顎に手を当てて、先程の二人が消えた方角、花闇の向こうに視線を投げかけました。金色の瞳が花の闇を凝視しています。
「……咲祈、気にしないんじゃなかったの」
戸惑いながらサフィニアが尋ねました。
「そうだけど。気になるものは気になる」
頑固な口調の咲祈。
(言ってること矛盾してるよ……咲祈)
苦笑いを浮かべながらサフィニアは隣に立って、自分も桜の向こうを見つめました。
「僕はオーガの線はあり得ると思う。本当に人だったのかもしれないけど」
咲祈はこだわり続けます。サフィニアは咲祈を見つめます。
「瘴気の影響かもね。だけど咲祈ちょっと考えすぎじゃない?」
何をそんなに固執しているのだろう。気がかりの理由は、何。胸騒ぎの理由は、何。
サフィニアは不安になるほど美しいヨミツキの下で、咲祈を見つめます。咲祈の事は何だって把握していたつもりだったけれど。でも。それは、記憶を失ってからの咲祈の事ばかりで。
恐い程に美しいヨミツキ。恐い程に--大好きな咲祈。
●蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)編
その日、蒼崎海十と精霊のフィン・ブラーシュは、A.R.O.A.の調査でサクラウヅキを訪れていました。瘴気を探っていた二人は、ヨミツキの桜並木の下であるカップルのキスシーンに遭遇してしまいました。カップルはすぐに、花の波の向こうに消えて行きました。
(見た光景に心臓が早鐘みたいだ。ヨミツキが綺麗過ぎるから……夢を見たみたいで)
海十は息を吐き出しました。思わず呼吸を止めて見入ってしまっていた事に、今になって気がつきました。それから、そんなに真剣にカップルの様子を見ていた自分に気がついて、なんだか恥ずかしくなってしまいます。
海十だって思春期十七歳。そういうものに刺激を受けるのは当然なんですけれどね。
それから、海十は息を止めていた事をフィンに気づかれたのではと危惧します。彼のすぐ隣には恋人でもあるフィンがいるのですから。もう、フィンの顔が見られません。
(俺達は恋人同士で…キスした事が無い訳じゃないのに。何で今更他人のキスを見たくらいで動揺してるんだ)
動揺している自分に動揺してしまいます。
みるみるうちに血が上ってきて顔が赤くなっていくのが自分でも分かるのです。
一方、フィンの方はまだ余裕がありました。
(何とも雅な光景だったな……)
それで、同意を求めようと隣にいる海十を振り返ります。すると海十はふいっとフィンから目をそらしてしまいました。様子がおかしいことにすぐ気づきます。
顔は逸らしましたが、角度で海十の赤い耳がフィンの目に入ります。
(……これって……もしかしなくても……キスに中てられちゃった……かな?)
フィンの方まで中てられそうです。
しかし、今は任務中です。海十の身を守るためにも、気持ちを切り替えなければなりません。フィンはそっと深呼吸をしました。
辺りを警戒しながら、フィンが先に歩いて行きます。
海十はその少し後ろを冷静になろうと努力しながらもついていきました。
視線はフィンの横顔にあります。金髪碧眼で色白のフィン。繊細な桜の花の下に薄い色素が映えています。花の雲の下のフィンを見ているうちに、鼓動がどんどん苦しくなっていきます。
(……綺麗なんだよな、フィンは……知ってたけど)
海十は熱のこもった黒い瞳で、フィンの横顔を見つめます。フィンの金髪から白い肌の上を桜の花びらが滑り落ちていきます。降りしきる花の下の二人。
(真剣な目……そうだ、今は任務中だ。俺も雑念を振り払わないと……)
清らかなのに妖しいほどに美しい桜が、舞い散ります。花の吹雪。花の雨。
海十の脳裏を先程の二人が過ぎっていきます。止めようとすればする程、フィンが欲しいという衝動が止まりません。
(俺……どうしたんだろう)
そのまま海十は、フィンの腕をつかみました。驚くフィン。海十はフィンの胸に飛び込んでいくように。そのまま彼の頬を両手でつかんで。--キス。
(キス? 海十から?)
フィンはびっくりして抵抗する事も出来ませんでいた。
「……どうして?」
海十が離れた後に、フィンはかすれた声でそう聞きました。
「し、仕方ないだろ、したかったんだ、悪いか。フィンが……綺麗だったから……桜のせいだ。俺だって……フィンが好きなんだから……キスしたい時だってある」
赤くなって目をそらし、どもりながら海十が言います。
フィンは、その爆弾発言を真正面から受け止める事になりました。
(ああ、もう……ヤバイ)
必死に理性で押しとどめて今は任務中と自分で自分を言い聞かせていたのに。
「海十、俺もね……キスしたかった。更に海十から……なんて嬉し過ぎて……もう一回、していい?……ううん、して欲しい。お願い」
蠱惑的な瞳で熱っぽく語られて、海十は戸惑います。戸惑いながらも、桜に中てられたかのように、もう一度キスをしました。フィンは海十を深く抱き締めました。
「今の俺達も、さっきのように見えてるのかな」
●日下部 千秋(オルト・クロフォード)編
今日、日下部千秋と精霊のオルト・クロフォードはサクラウヅキにA.R.O.A.の調査で来ていました。瘴気の探索をしている途中に、二人はヨミツキの下でキスをしているカップルに遭遇しました。そのカップルは、すぐ桜の闇の中に消えて行きました。
「うわ……さ、さすがに口に直接は……」
刺激が強すぎる光景に、千秋は頭が真っ白、顔は真っ赤です。
「……」
オルトも密かに硬直しています。彼は艶っぽい雰囲気と無縁だったために、耐性がないのです。表情は全く変わりませんが。
千秋とオルトは衝撃の光景に気づいた位置に立ち止まったまま、動けなくなっていました。
(先輩、一見動揺してなさそうに見えるけど何考えてるんだろう……。……変な事じゃないといいんだけど)
そわそわしながら千秋はオルトの顔をそっと盗み見ようとします。ばっちり目が合ってしまったら、何を言われるか分からないと思ったのです。
(今のは、なんだったのだろう。感じたことの無い雰囲気だった)
オルトの方は、無意識では大きな衝撃を受けているようですが、意識上では普段の通りに冷静でいるようでした。
「……日下部? 顔が赤いが」
彼はようやく、隣の千秋の様子に気がつきました。
「キスなら日下部の方はいつもしているだろう。任務中。確かにさっきのとは雰囲気は違うが」
オルトは感情を読ませない声でそう言います。
千秋は流石に動揺します。
「いや任務中のあれとはどう考えても別物でしょさっきのは! 悪かったですねいつも色気もくそもないキスで……」
何故かやけくそ気味になりながら千秋はそう言い返しました。
「……色気? それはどういうことだ?」
感情を感じさせないマキナのオルト。そういう事を露骨に口にします。
「……俺に聞かれても困るんですけど……」
千秋は誰に対してなのか恨みがましい声でそう言いました。
「そういえば先ほどの二人もこれくらい身長差があっただろうか」
そう言いながらオルトは千秋の至近距離まで近づきました。
「ちょ、なんで距離詰めてるんですか!」
慌てる千秋。
「顔は……このくらいの距離だったか」
「えっ……」
目を見開き全く無防備な表情になる千秋。
ですが、オルトはキスはせず、離れていきました。
「……ホントにキスされるかと、思った……」
何もされていないのに、千秋は口を押さえて地面の上にへたりこみました。
「いや、いつもとは違う反応をしているような気がしてな。気になっただけだ。なるほど。つまり「ああいう事」でも日下部は動揺するのか。良くわかった」
「わかったってなにがわかったんですかね!?」
怒りと恥ずかしさで千秋は声を上ずらせます。
(……あ、これいらんこと覚えちゃった系だ……)
声を上ずらせながらも、千秋は変に冷静な部分で気がついていました。千秋は千秋でオルトを観察しているのかもしれません。
(また反応見られてたのか俺……先輩が最近行動的になりすぎてる気がする……反応見たさに色々してるような気はしてたし……先輩の方が猫じゃん……)
なんだか凄く不幸な気分になりながら、千秋は地面からよろよろ立ち上がります。オルトの方は相変わらずの無表情で、何を考えているのか分かりません。オルトの千秋への気持ちは、好奇心なのか、好意なのか。
猫と言えば、今は季節は春。恋猫とか猫の春という季語もありますが、キスを見たオルトの無意識の中では、そんな気持ちが沸き起こっていたのかどうか……。千秋にはまだ分からないのですが、オルト本人も気づいていないのかもしれません。
●テオドア・バークリー(ハルト)編
その日、テオドア・バークリーと精霊のハルトは、A.R.O.A.の調査でサクラウヅキを訪れていました。瘴気を探っていた二人は、ヨミツキの桜並木の下であるカップルのキスシーンに遭遇してしまいました。カップルはすぐに、花の波の向こうに消えて行きました。
(あれ、見間違いなんかじゃなかったよな、キスしてたよな……)
テオドアは、思わず目をこすりながらそう思います。間違いありません。キスをしていました。夢か幻のような光景でしたが、はっきり見えたのです。そのことを認識すると、勝手に頬が熱くなってきて胸が苦しくなります。
(……心臓が煩い、絶対ハルにこんなところ気付かれたくない!)
そう思うと、立ち止まっていたテオドアはすたすたと桜並木の下を凄い勢いで歩き出しました。
(こういう場所だとやっぱカップルいるんだなー……)
一方、ハルトの方はテオドアほど衝撃は受けていませんでした。自分もキスしてみようかなあと軽く考えたぐらいです。
「なぁテオく……あっ、どこ行くんだよー!」
ところが隣のテオドアが無言で猛然と歩き始めたではありませんか。ハルトは慌てて追いかけます。
(オーガか人間かしっかり見ておけばよかった……何しに来たんだよ俺……全然そんな余裕なかった……)
テオドアの方は自分の考えに夢中になって、ハルトを置いて行っている事には気がつきません。顔を赤くして、ハルトの声も聞こえず、衝撃を受けてぐるぐる考えながら、ただ歩きまくります。
(全然落ち着かないや……ああいう場面が俺自身苦手なせいなのもあるとは思う。けど……さっきの光景を思い出そうとすると何故かハルの姿ばかりよぎって全然ハルの方見れないや……)
どんどん歩いて行きながら、頭に浮かぶのはキスシーンの事ばかりで。余裕のない頭でテオドアはぐるぐる考えています。
「テオ君てば歩くの早っ! こんな場所で一人は危ないからさー、一緒に移動しないとマズイって!」
テオドアに追いすがりながらハルトが言いつのります。ですが、テオドアは歩調を緩めもしません。
「……全っ然話聞いてくんねーの……」
ちょっと嫌みっぽく呟いても、テオドアは反応しません。ハルトには彼が何を考えているかも分かりません。
(こうなったら実力行使しかないっしょ!)
ハルトは一瞬、不敵な笑みを見せると、テオドアに一気に駆け寄って距離を詰めました。
(……あれ、そういえばさっきから隣にハルがいな……)
テオドアが気がついたのはそのときです。ですが、ハルトはそのまま……
「……つーかまえたぁっ!」
ハルトはテオドアを思い切り抱き締めました。
「あーあー聞こえなーい、パートナー置いてオーガがいるかもしれないような危険なトコ一人で歩いて行っちゃうような神人の言うことなんて聞こえませーん」
テオドアはまだ何も言ってないのにハルトは凄い勢いでそう言い切ってしまいます。
「え……あ、ごめん、全然そんなつもりなかったんだけど……さっきの見た2人組に、その…びっくりしたんだよ。」
びっくりしながら言い訳をするテオドア。
「今あんまこっち見るな!」
そして何故かそう怒鳴ります。キスを見てびっくりというテオドアにハルトは萌えます。
(テオ、顔真っ赤……何この可愛い反応する生き物! ああもうくっそ可愛い! 殺す気か!)
「あの、さ……落ち着かないから離してくれない?」
「離せ?……やだ」
ハルトはあっさりそう答えます。
「そろそろ本当に心臓もたな……笑うなってば!」
「罰として単独行動反省するまでこのまま離しませーん。……ま、反省しても当分離す気ねーけど」
ますます強くテオドアを抱き締めるハルト。実に高校生男子らしいウィンクルムでした。
●信城いつき(レーゲン)編
その日、信城いつきと、精霊のレーゲンはA.R.O.A.の仕事でサクラウヅキに来ていました。瘴気とオーガの調査をするうちに、二人はヨミツキの桜並木の下で、キスをしているカップルに遭遇しました。カップルはすぐに花の闇に消えていきました。
(……! な何にも見てないよ! 彼らが何してたかなんて全然!)
いつきは心臓がバクバクするのを掌で押さえながら桜の向こうを見ています。もう消えてしまったカップルたちの方を。
(……絶対今隣でいつき赤面してるな)
レーゲンの方は冷静なものでした。いつきの方を隣で観察しています。
自分の顔が赤いのを感じながら、いつきは今までレーゲンにしたキスの数の事を考えています。
「いつき」
レーゲンがそっと声をかけると、いつきは飛び上がりました。
(まぁ艶っぽいもの見てしまったからね)
レーゲンは苦笑します。
「どうしたの?」
「俺がレーゲンとキスした時もこんな感じなのかな? そういえば、キスする時ってどんな顔してるんだろう……?」
いつきはドキドキを隠さない表情でそう言います。
「そうだね、いつきは緊張してすぐ目をつぶるからね……」
レーゲンはふと考え込む顔になりました。
「じゃあ、見てみる? いつきの方からしてくれれば見えるんじゃない」
名案です。
「え!?そのっ、だって俺背伸びしてもレーゲンに届かないし! そこまでしなくていいって……」
「私がかがんだらしてくれる?」
レーゲンが真顔で言うと、いつきもそんな気分になったようでした。緊張の面持ちでレーゲンに向かいます。
「じゃ、じゃあ目つぶってくれる?」
「はいはいちゃんと目もつぶるよ」
レーゲンはくすくす笑っています。
そういう訳で、いつきは、屈んで目を瞑ってくれたレーゲンにキスをすることになりました。いつきがちょっとだけ背伸びすればいい位置に、レーゲンの穏やかな顔があります。いつきは緊張が一段と高まるのを感じました。
(俺からしたことは何度かあるけど、勢いでしたのばかりだし。普段どんな風にしてもらってたっけ…)
いつきはレーゲンからのキスを思い出しながら、その手順を繰り返していきました。ぎこちなくレーゲンの髪を撫でます。
(私がいつもやってるのを真似してるのかな)
髪を撫でるのは、いつきが緊張しているのでいつも落ち着かせるためにしていました。
(見えなくても意識してくれてるんだと、少し嬉しい……)
引き寄せようとする手がまだ緊張しているようだったので、レーゲンは逆にそっといつきの髪の毛を撫でました。
(もうずるい。逆に髪なでられたら俺の方が落ち着いちゃうよ)
ちょっと拗ねながらも、いつきはそっと目を閉じて、レーゲンの唇に唇を重ねました。桜吹雪の中で大好きな彼とのキス。
心臓が切ないぐらいに高鳴って、まるで口から飛び出てきそう。でも、その口は、レーゲンの口とぴったりくっついていて、絶対に開く事は出来ないのでした。
「それで、どうだった? どんな顔してたかい?」
キスが終わるとレーゲンは優しいくせに意地悪にそう聞いて来ました。
「あ、そういえば……緊張してレーゲンの顔見るどころじゃなかった。頑張ったのに大事な目的忘れてた……」
がっくしといつきはうなだれます。レーゲンはそれを見て可愛くてたまらなくなり、またくすくすと笑っているのでした。
大丈夫。いつきがレーゲンとキスをする機会はまた何度だって訪れます。そのうちに、一回ぐらいは、キスするときのレーゲンの顔を観察出来るかもしれません。キスする時に目を閉じてしまうのは何故なんでしょうね。大好きな彼の事は、どんな顔だって見たいのに。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:信城いつき 呼び名:いつき |
名前:レーゲン 呼び名:レーゲン |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 森静流 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 04月08日 |
出発日 | 04月16日 00:00 |
予定納品日 | 04月26日 |
参加者
- 信城いつき(レーゲン)
- 蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
- 日下部 千秋(オルト・クロフォード)
- 咲祈(サフィニア)
- テオドア・バークリー(ハルト)
会議室
-
2016/04/15-23:59
-
2016/04/14-15:04
正直あの光景は見てしまっても良いものだったのか分からないな…
雰囲気が幻想的というか、儚いというか…(ぶつぶつ
あ、よろしくね。咲祈とサフィニアだ -
2016/04/13-22:36
えと、信城いつきとっ 相棒のレーゲン、だよ
べ、別に焦ってなんかないよ!
なにも見てない、見てないからねっ(真っ赤)
あのっ、みんな よろしくねっ -
2016/04/12-00:30
-
2016/04/12-00:30
フィン:
フィンです。
パートナーは海十。
皆、宜しくお願いするね♪
あれは…何だったんだろう?
海十の様子がおかしいし…俺も妙な気分だ。
さて、どうしようかな…。
よい一時になるといいね。