【桜吹雪】黄昏に掴んだ腕(月村真優 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

陽光に咲き誇る桜は綺麗だ。夜風に揺れる桜は美しい。では、黄昏の桜はどうだろう?


昼の世界と化した『サクラウヅキ』といえど、時には夜が訪れる事もある。
となれば、その前触れとして夕闇が訪れるのもまた必至。あなた達はどうやら、珍しい時間にその場所を訪れたようだ。

なんてことはない城下町の一角。だが、西の空がとても綺麗に見える場所だった。そして、その風景に咲き誇る『ヨミツキ』が華を添える。
サクラウヅキへ訪れた最初の目的は既に果たした後だ。そして、この後の時間にも余裕がある。どちらが言い出した事だったか、あなた達はしばらくこの景色を堪能していくことにした。

傾いた夕陽と紅い月が空を妖しく染めていく。その下であなたのパートナーの横顔が淡く照らし出された。

その光景は確かに美しくもあるが、それ以上に妖しいものでもあった。

一度瞬きをする間に、一人だけ別の世界へと攫われてしまうのではないか。一瞬でも目を逸らした隙に、パートナーが忽然と姿を消してしまうのではないか。そんな不安が胸裏を掠める。馬鹿げた妄想だと一笑に付すには、あまりにも『ヨミツキ』は艶やかで、空はどこかおそろしい色合いをしていた。
 生まれた不安を紛らわせるように口を開こうとした、まさにその時、一陣の強い風が二人の間を吹き抜けた。その風に桜がもぎとられ、夕焼けの空に舞い散っていく。その花びらに視界が遮られそうになる。何かが起こるとしたらこの瞬間ではないか。

 そう思った瞬間、衝動的にあなたはパートナーの腕を掴んでいた。不安から逃れるためか、繋ぎ止めようとしての事かは自分でもわからない。ただ、考える間もなく体が動いたのだ。

 風が止んでみれば、いきなり腕を掴まれたパートナーは驚いた顔であなたを見つめていた。冷静に考えてみれば当然だ。そもそも何で不安なぞ覚えたのだろう。パートナーに見つめられると頭が冷えてきた。それもこれも黄昏の桜がいけない。

 ……などと言ってもしょうがない。どうしようか、この空気。

解説

●概要
夕桜の雰囲気にあてられて衝動的にパートナーの腕をつかんでしまったけれど、さてどうしようか。というだけの話です。笑ってごまかすもよし、心情を打ち明けてみるもよし、そのまま衝動に身を任せてもよし?

●消費ジェール
 ここに来る前に何かをしていたので300 Jrほどかかっております。


●注意事項
描写はそれぞれ別とさせていただきます。夕焼けがよく見える場所なら多分沢山あるはず。
それと、腕をつかんだ方のプランに〇を書いておいて頂けると助かります。


それでは皆様のプランを楽しみにしております。


ゲームマスターより

お久しぶりです。夜桜も昼の桜も夕方の桜も等しく愛する月村真優です。
 朝の桜は早起きが出来ないのでちゃんと見たことがないのはご愛嬌。春眠暁を覚えずって言うじゃないですか……?
 それではよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  びっくりしました…
あの、もしかして考えてたこと口に出ちゃってました?
えっと…その…グレンがいなくなっちゃいそうで怖いなって…
そんなことある訳ないんですけど、でも一度不安になったら
どうしても怖くなっちゃって…

内緒ですけど、実はそれだけじゃないんですよね…
風が吹く前に一瞬だけ、グレンが不安そうに見えた気がするんです、
安心させてあげたくて手を繋ごうと思ったら先を越されちゃいましたけど…

あの!私、ずっとグレンのそばにいますから!
この先お別れしなきゃいけない時になっても
最後の最後までそばにいられるように諦めずに頑張りますから、
だからもし寂しいなぁって思ったら…
はい!どうぞ遠慮なく頼ってください!


アリシエンテ(エスト)
 
任務の帰り
大きな桜の樹に囲まれた高台で桜の下から、下の見えない高台の向こうにある黄昏に染まる空を見ていた
一歩下がって同じ景色を見ているであろうエストを供に空を上げていた最中、視界にふわりと一枚の花びらが舞った

枚数が増えていく。妖の空の色に魅入られながら何気なく手に入れようとした花びらは手から零れ落ちたが、その枚数は1枚1枚増えていく

いつも傍にいるから、エストがいる気配も空間も当然だと当然だと思っていた
桜吹雪にのまれて、相手の気配が消えるまでは

「──エスト!」
振り返り。幽かに見えたエストの姿に手を伸ばし掴んで、怒鳴る

私よりも大きな体格をしておいて、勝手に消え入りそうになっているのでは無いわ!!


かのん(天藍)
  天藍?
急に強い力で腕をつかまれ振り返り首を傾げる

引き寄せられ彼の腕の中に
痛いくらいに腕を握る天藍の手が震えているような気がして
反対の手を腕を掴む彼の手に添え解き、私の頬にその手を導く

天藍?こちらへ目を向けて欲しくて、そっともう一度彼の名を呼ぶ

…かのんが手の届かない所へ行ってしまいそうな気がしたと
大きく息を吐き出した後、やっと目を合わせた彼の言葉

大丈夫。私は、天藍、貴方の傍にいます

安心した様子で背中を丸め、私の肩口に額を乗せる天藍の背中に腕を回し、さすったりポンポンと軽く叩いたり

傍にいます…、今までに幾度か交わした約束の言葉
何かの拍子に不安を覚える事はあると思うから、彼に届くように何度も繰り返す


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  (ビクッとするも、ルシェだと判り身を任せる
?(瞬き
「……ルシェ?」
桜に。(ルシェの胸に額を預ける
私なんか、攫わないと思う。(一拍遅れ、少し頬を染める

最近、抱きしめられるの多い。「ルシェは」
「スキンシップ、好きなの?」(ぽろっと呟く
どういう意味だろう。
(小さく首を横に振り、少し迷って口を開く
「嫌じゃ、ない。ルシェにくっつくのは好き」安心する。
ただ、「ドキドキするから」
どうしていいか、わからない。(ルシェの服を握る

また風。(ふと思った事を口にする
「あの、ね」(少し体を離し、見上げる
「桜に攫われても。ルシェと一緒なら、怖くないよ」

ルシェの事は好き、だと思う。けど。
私の好きは、どの『好き』なんだろう。


シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  捕まれた腕の力が思ったより強くて思わず眉を寄せてしまった。
それにノグリエさんが傷付いたような顔をした。
だから私はひどく後悔した。

ノグリエさんが私に隠してきた過去は思ったよりも悲しいものだった。
両親がいない。それくらいは理解していたつもりだったけれど…それだけではない。
父が私を愛し私を憎んだ日々の幻。それを見てしまった。
父はマントゥール教団に多額の献金をしていたらしい。
それはきっと多くの人を傷付けるために使われてただろう。
父が厭世的な思考を持つようになったのは私がきっかけだった。
ツェラさんは私がマントゥール教に関わってると思ったのかもしれないあながち間違いではない。
私がすべてのきっかけだった。


●掴む腕と敬愛

 黄昏の桜というのは、人の感覚をどこか狂わせるものでもあるらしい。主人アリシエンテに付き従っていたエストは、舞い落ちる桜の花弁に視野を遮られて初めて距離感がどこか狂っている事に気がついた。

 任務の帰りに、二人は桜の樹に囲まれた高台で黄昏の空を見上げていた。アリシエンテは枝を広げた桜の真下、執事エストはその一歩後ろに付き従って。それが彼らの日常だ。
 エストが見守る中で、アリシエンテは妖の空の色に魅入られながらも舞う花びらを追って手を伸ばしていた。花弁はひらりひらりと彼女の指をすり抜け、零れ落ちていく。その枚数が一枚、また一枚と増えていくのをエストはどこかぼんやりと眺めていた。どこか妖しい空の下、金糸と桜が揺れ踊る。その風景がどこか遠ざかっていくような心地がしていく。
 一陣の風に乗った花びらが彼の視界を遮り、彼女の姿を覆い隠したときにようやく彼は我に返った。だが、たった一枚の花弁に覆い隠されるほど遠ざかっていたのだ。気づいた時には遅すぎた、そう思った。
「──!!」
 伸ばした手は虚空を掴むだけ。踏み出そうとした足は動かない。絞り出したはずの呼び声は声にもならない。エストは桜色の風が吹く世界でただもがいていた。

「――エスト!」

 ふいに声が聞こえた。ヨミツキと黄昏の支配する薄闇を打ち破るような、凛とした声だった。そして虚空を彷徨っていた腕に、確かな感触が走る。
 この腕を誰かが掴んでいる――そう思った瞬間、目の前にアリシエンテが立っていた。
 頭上には咲き乱れる桜、眼下には宵に染まる城下町、目の前には自分の手を掴んだアリシエンテ。間違いなく、先ほどまで二人で居た高台だ。
 一拍遅れて、アリシエンテが自分の腕を掴んで体ごと引き寄せたのだと彼は理解した。
 自分が腕を伸ばしても届かなかったものを、易々と彼女は打ち破り、彼を取り戻して見せたのだ。黄昏を打ち払うだけの輝きが彼女の瞳に見えた。
 それに目を見張るエストに対し、アリシエンテは声を荒げ、息を弾ませて怒鳴る。
「私よりも大きな体格をしておいて、勝手に消え入りそうになっているのでは無いわ!!」
 その様を見ていると申し訳ないやら少し情けないやらで胸が一杯になる。だがそれ以上に溢れるものが、伝えたい思いが彼にはあった。心配をかけたという謝罪よりも、引き戻してくれた感謝よりも先に伝えなければいけない。
 彼はそっと自分の腕を掴んでいた手を取る。普通の男性のように胸に引き寄せる事なぞ出来ようもないが、それでもいい。エストはそっと恭しく傅き、彼女の右手の甲に唇を落とした。
 その位置に込めた意思は『敬愛』。ウィンクルムとしての感情ではない。ただ、彼女への想いを込めて。
 わずかに強張っていた彼女の指先から力が抜けていく。いつも傍にいるから、エストがいる気配も空間も当然だと思っていた。そんな呟きが頭上から降ってきた。
「供に往きます、地の果てまで」
 そう答えれば、彼女が笑ってくれたのを感じる。これでいつもの、共に在る日常だ。

 黄昏は終わり、宵が訪れる。ヨミツキの花びらが二人を包むように風に舞っていた。


●抱く罪と記憶

 傾いた夕陽が全てを染め上げていく。ヨミツキの花も、それよりも淡い色彩をしたシャルル・アンデルセンの揺れる白髪も。細められた蜂蜜色の瞳は桜を見ているのか、夕焼けを眺めているのか、それとももっと遠い何かに向けられているのか。ヨミツキよりも儚い彼女の横顔が紅く照らされているのを、ノグリエ・オルトはどこか不安げな面持ちで見つめていた。

 先日、もう一人の精霊ツェラツェルと共に帰ってきて以来、ずっと彼女は上の空だ。傍には居てくれているが、ずっとここではない何処かへと思いを馳せている。ふと目を離した隙に彼女がどこかへと言ってしまうのではないか。ノグリエはそれが気がかりでならない。
 自分は天使ではないのだ、なんて彼女は何度も言っている。だがこの有様はどうだ。桜の下で佇む彼女の存在は消えてしまいそうなほど淡かった。いつ天に戻ってしまっても不思議ではないではないか。シャルルを溺愛してやまない彼にはそんな風に思えてしょうがない。
 だから、風が吹いた時も桜吹雪に攫われそうなシャルルの腕を掴まずにはいられなかった。

 失いたくないという気持ちが強すぎたのだろうか、掴んだ手には思った以上に力がこもっていたらしい。こちらを見上げるシャルルは少し眉を寄せて痛そうにしていた。彼は後悔しながらすぐに手の力を緩める。だが、シャルルは自分以上に心を痛めた面持ちで目を伏せた。自分が傷ついた事を気取られてしまったのだろうか。自責の念に駆られているように見えた。

 きっと過去の事を知ったのだ、と彼は確信している。 

 シャルルを愛し、シャルルを憎んだ彼女の父親。
 何の因果かは知らないが、彼女がきっかけで厭世的な思考を持つようになったその男はマントゥール教団に多額の献金をしていた。その金が何に使われたか。
 ノグリエは今でもその男を憎んでいる。だが、その男がいなければ彼の愛するシャルルは生まれてさえ来なかったのだ。その現実に彼は小さく溜息をついた。
 それが引き金となったのだろうか。小さく彼女の唇が動いた。
「……私がすべてのきっかけだった」
 うっかりしていれば聞き落してしまいそうな声に、彼は静かに答える。
「キミは何も悪くない」
 シャルルは何も答えない。ただ黙って目を伏せるだけだ。彼女は何も悪くない。それなのに、彼女は自分を責めるのだ。
 彼は何も言わず、ただ空いた手で彼女の髪を撫で、その上に舞い落ちた桜の花びらを払い落としてやる。そうして、最大限の慈しみをこめてそっと彼女の白い頬を指でなぞる。そうして、彼は再び溜息をついた。
 世界をどこまでも赤く染めていた夕日はいつの間にか沈み、空はいつのまにか彼女の青い羽根飾りと同じ色に染まっている。夜が、近い。


●宿す熱と抱擁

 目の前の妖しくも美しい風景に、ひろのはほう、と一つ感嘆の息を吐いた。そして目を輝かせながら彼女は夕陽に見入っている。その姿は実に愛らしい、とルシエロ=ザガンは心からそう思った。愛おしいが、いや、愛おしいからこそ、それを誰にも渡したくはない。黄昏の空にも、咲き誇るヨミツキにも。
 一陣の風が吹いた時、その思いでルシエロは掴んだ彼女の腕を引き、自分の腕の中に抱え込んでいた。
 
 抱き寄せられたひろのは何事かと一瞬身を強ばらせたが、それがルシエロだとわかるとすっと力を抜いて身を任せてくれた。
 ああ、大丈夫だ。此処にいるな。腕の中の確かな温もりに彼は小さく安堵の息をついた。
「……ルシェ?」
 呼び声に目を落とせば、腕の中に収まったひろのは一つ瞬きをしてこちらを見上げていた。首を右に傾けて不思議そうな顔だ。
「オマエが桜に攫われるかと、そう思った」
 陳腐だがな。その台詞は飲み込んでおく。
「桜に」
 ひろのは彼の胸に額を預けておうむ返しに言う。一拍遅れて、その頬に朱が差したのが垣間見えた。照れ隠しなのか、私なんか攫わないと思う、などという声がもごもごと聞こえた。自分が桜だったらそうしているかもしれない。自分の執着は自覚済みだ。ルシエロはそっと彼女の髪を撫でる。

 しばらくそうやっていると、「ルシェは」という声が聞こえてきた。手を止めて続きを待つ。
「スキンシップ、好きなの?」
「そうだな。お前に限って好きだと言える。嫌だったか?」
 ぽろりとこぼれた呟きに、ルシエロは静かに答えた。実際はこれでも足りないぐらいだし、止める気も無いのだが。有難い事にひろのは小さく首を横に振ってから、迷った様にぽつぽつと話し始める。
「嫌じゃ、ない。ルシェにくっつくのは好き。落ち着く」
 様子を見て加減はしていたが、上手く行っているらしい。一安心していると「ただ」という声がさらに聞こえて来た。ただ、何だ。
「ドキドキするから」
 その後に続く言葉はどんどんと尻すぼみになっていった。ひろのは俯いて服の裾を握りながら戸惑うように、恥じるように話している。どうしていいか、という単語がかろうじて聞き取れた。ただ愛おしいと思う。
 そうしていると、また風が吹いた。風にもがれた花びらが空に舞う。先ほどと同じ風景だが、彼女が腕の中にいる以上特に不安も覚えない。
「あの、ね」
 確かめる様に、適度に強く抱きしめているとひろのがこちらを見上げていた。少し体を離し、柔らかく続きを促す。
「桜に攫われても。ルシェと一緒なら、怖くないよ」
 ああ、全く。そういう事を言うから、より愛おしくなるんだ。熱の籠った視線を落とし、柔らかくルシエロは応えた。
「共に攫われるのなら、それも良いかも知れないな」
 桜が宵闇に舞い落ちるのをルシエロの体越しにひろのは見つめていた。彼の体温を感じながら、ふと考える。
(ルシェの事は好き、だと思う。けど。私の好きは、どの『好き』なんだろう)
 彼女の熱は、まだ彼には伝わっていない。


●誓う花と約束

 穏やかに春の小鳥が鳴き交わす下で、天藍は二歩ほど先を行くかのんの後姿を眺めていた。
 普段は並んで歩く事の方が多いが、植物が絡んでくると少し状況が変わる。今回も花を愛する彼女の興味が桜に向けられて、先を行かれてしまったのだ。黄昏に染まった桜がふわりと揺れる彼女のコートに合わせて踊る。普段は落ち着いた雰囲気のかのんが無邪気に花を楽しんでいる様子を眺めるのは楽しくもあった。

 だが、突然の桜吹雪の中で、彼は不意に不安を覚えた。別離の予感にも似たそれに、彼は思わずかのんの腕を掴んでいた。
 腕をつかまれたかのんは振り返って首をかしげる。いつも通りの彼女だ。
「天藍?」
 その声に我に返れば、腕の中には優しい笑みでこちらを見上げるかのんがいた。無意識のうちに引き寄せていたらしい。そうして初めて自分の手が震えている事に気が付いた。
 彼女の腕を掴んだまま震える手に目を落としていると、そっと添えられた手があった。彼女の反対側の手だ。そのまま握り締められた彼の手を解いてかのんの頬へと手を導かれる。
 再度名前を呼ばれ、ようやく天藍は彼女の目を見据えた。その深い紫色に気持ちが穏やかになっていく。
「……かのんが、手の届かない所へ行ってしまいそうな気がしたんだ」
 大きな息の後に吐き出した言葉に、かのんは柔らかく微笑んで答えた。
「大丈夫。私は、天藍、貴方の傍にいます」
 その言葉に安堵のため息が漏れた。そのまま脱力して、彼女の肩口に額を預けてしまう。漂う優しくて甘い香りが肺を満たし、心を落ち着けてくれた。
 婚約まで交わしているのに、それでも不意にこんな不安を覚える。一体何故なのか、彼にはわからない。ただ、こうして彼女を腕の中に入れている時は心が安らいだ。背中に回る手がさすってくれているのが酷く心地が良くて、思わず目を細める。抱き寄せたはずなのに、いつの間にか子供のように抱き締められていた。この神人には叶わないな、と思う。だが、それ以上にただ愛しい。
 あやすように背中をぽんぽんと叩きながら、彼女は「傍にいます」と何度も繰り返した。今までに幾度か交わした約束の言葉だ。
「約束だ」と言えば、「そうですね」とかのんは笑って返してくれた。
 安らぎをくれるかのんの支えになるためにも強くあろう。彼は密かにそう誓った。
 桜は今も宵闇へ誘うように散り、舞い踊るその誘いは抱きしめる腕と約束に阻まれて届く事は無かった。ただ、阻まれて舞い落ちるだけだ。


●繋ぐ手と家路

 夕陽に金髪を赤く染めながら、ニーナ・ルアルディはひどく驚いた顔で自分の腕を掴んでいるグレン・カーヴェルを見上げていた。その二人の間に、思い出したように桜の花びらが一枚舞い落ちる。 
 我に返ったグレンは手に力を込めすぎた事に気がついた。
「ああ悪い、痛かったか」
「あ、いえ。びっくりしました……」
 力を緩めた後も、ニーナはまだ驚いた顔でゆっくりと呟いた。確かにいきなり掴んだのは悪かったが、そんなに驚くようなことだったろうか?
「どうした、そんな顔して……」
 そう水を向ければ、彼女は少し首を傾けて「あの、もしかして考えてたこと、口に出ちゃってました?」と聞いてきた。首を横に振れば、少しずつ彼女はしゃべり始める。
「えっと…その…グレンがいなくなっちゃいそうで怖いなって……」
 ああ、こいつも同じことを考えていたのか。お互い、ある日突然、何でもない日常が壊れた経験があるとふとした瞬間に怖く感じるのかもしれない。一人納得するグレンをよそにニーナは話し続ける。
「そんなことある訳ないんですけど、でも一度不安になったら、どうしても怖くなっちゃって……」
 それだけです、そう言って彼女は言葉を切った。表情を見るに、まだ何かあるのではないか、と思わないでもない。彼女は隠し事をするのが下手だ。だが、らしくもない事をしてしまった手前でもあるし、ここはそういう事にしておこう。きっと彼女なりの優しさなのだ、という事は簡単に想像がついたから。

 春の夕は刻一刻と空の色を変え、夕焼けの時もすぐに終わってしまう。この夜が短くなった昼の世界では尚更だ。いつの間にか空はすっかり紺色へと色を変えていた。
「ほら、もうこんな時間だ、帰るぞニーナ。道中手を繋いでおけばもう怖くねーだろ」
 そう言って手を出せば、ニーナは優しい笑みを浮かべてその手を握った。歩調を合わせて歩いていれば、ニーナが「あの!」と声を上げる。
「私、ずっとグレンのそばにいますから! この先お別れしなきゃいけない時になっても、最後の最後までそばにいられるように諦めずに頑張りますから……」
「おい」
 どこか不穏な台詞に思わず遮りたくなったが、ニーナはその先を続ける。
「だからもし寂しいなぁって思ったら……」
「慰めてくれるって?」
「はい! どうぞ遠慮なく頼ってください!」
 明るい笑みを浮かべて彼女はそう言い切った。グレンはそれに少しだけ苦笑を浮かべると、「んじゃ遠慮なく」と抱きしめて額に顔を寄せてみる。
「わわわ!?!? あの、人目が、その……!」
 腕の中でもごもごと何かを口走っているニーナを解放してその顔を見てみれば、夕焼けもびっくりの赤色に染まっていた。頭から湯気が出ているんじゃないかと言う勢いだ。
「人目って、これだけ暗い場所なら誰からも見えねーだろ」
 わたわたしているニーナに向けて、グレンは唇の端を釣り上げて言い放つ。
「……お前が自分から言ったんだぞ、責任持てよ?」
 ニーナはもはや何も言えなくなったようだ。その頬を夕日よりも赤く染められた事に奇妙な満足感を覚えながらも、グレンは繋いだその手を引いて帰路へとつくのだった。


●迫る宵と連星

 かくしてウィンクルムたちは夕日にも咲き誇り誘うヨミツキにも背を向けて、それぞれの家路へ、帰るべき場所へと迷うことなく共に歩き出した。夕日に背を向ければ、東の空は美しい紺と紫の混じった色をしている。一番星はないかと見てみれば、空には寄り添う連星が輝いている。まるで、連れ添って歩く二人のように。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アリシエンテ
呼び名:アリシエンテ
  名前:エスト
呼び名:エスト

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 月村真優
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月06日
出発日 04月14日 00:00
予定納品日 04月24日

参加者

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