【桜吹雪】ヨミツキ演舞の儀(一城 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「春の国『サクラウヅキ』では、古来より、舞いには清めの意味があるとされてきました」

 サクラウヅキの語り部である老人の言葉だ。
 月の異変によって溢れかえった瘴気。
 世界の変動にすら関わる怪異の中で尚、『ヨミツキ』と呼ばれる桜の美しさは損なわれなかった。

 はらはらと嬉し涙のように輝きながら散る、サクラウヅキのヨミツキ。
 かなしいほどの美しさで月光に染め上げられる、サクラヨミツキのヨミツキ。

 ギルティ『ヴェロニカ』のまるで呪いのような力で、ふたつに別たれたそれぞれの世界。
 今回はそこで、清めの意味を込めて舞いの祭典が行われるという。
 ヨミツキの花の中で舞うことを目的としており、踊り手に関して神職でなければとか、若き乙女でなければといった制限は無いらしい。
 舞いの指導はサクラウヅキの踊り手の長、『フミ婆』が行うそうだ。
 習得に時間のかかる程複雑な舞ではないので安心してほしいですねぇ、と語って写真の中で微笑んでいる。

 A.R.O.A.本部に掲示されたサクラウヅキからの張り紙を一番下まで読んだあなたは、舞いの祭典『ヨミツキ演舞の儀』への参加を決意する。
 女性である自分が『天真爛漫の舞い(てんしんらんまんのまい)』参加するか、男性である自分の精霊の『明鏡止水の舞い(めいきょうしすいのまい)』を観てみるか。
 それとも、最後に記述してある『男女による比翼連理の舞い(ひよくれんりのまい)』と言う男女による共演の舞か。

 ……彼は、何と言うだろうか。
 配布してあった『ヨミツキ演舞の儀』のチラシを手に取って、あなたはA.R.O.A.本部を後にした。

 かなしみと、よろこびと。
 きらめきと、しずけさと。
 ヨミツキと言う桜の花に秘められたものが、それを愛する者たちの舞で清められることを。
 サクラウヅキの誰もが今はただ、祈っている。

解説

桜の中で舞いを踊る『ヨミツキ演舞の儀』に参加しましょう。

1.まずは昼の国『サクラウヅキ』と夜の国『サクラヨミツキ』どちらの世界で舞うかを選んでください。

2.どの舞いを踊るかを選びましょう。
女性なら『天真爛漫の舞い』を、
男性なら『明鏡止水の舞い』を、
男女で一緒に踊るなら『比翼連理の舞い』を
舞うことになりますので、三つのうちから選んでください。

3.衣装は各自で自由に用意することになっております。
ですので、300Jr~1000Jrの範囲で、舞いのための衣装を購入していただきます。
衣装や髪飾りの色や形に指定がありましたら是非プランに記述していただけると嬉しいです!

GMからの解説は以上です。
ご参加お待ちしております!

ゲームマスターより

初めてのハピネスシナリオ投稿になります。
桜吹雪の中で舞う姿って雅で可憐ですよね。
春らしい、愛しさと美しさに溢れたお話にできたらと思います。
宜しくお願い致します!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)

  昼の国『サクラウヅキ』にて『天真爛漫の舞い』
白無垢のような美しい白い衣装。金のシャラシャラした飾り。

綺麗な衣装ですねー和風の花嫁装束をイメージしているそうです。
イヴェさんが選んでくれたんですよー。似合ってますか?
舞台で踊るのは緊張しますね…拙いですが精一杯練習しました。
お清め上手くいくといいのですが…ううん、上手く行くよう頑張ります。

イヴェさんが選んでくれた衣装です綺麗に見えるように踊りたいな。イヴェさんに綺麗だったって言ってもらいたいな。
我儘、かな?

(抱きしめられてぎゅっと抱きしめ返す)
どうしたんですかイヴェさん?何か悲しいことが?
私があまりに綺麗だったから?ありがとう、ございます。


月野 輝(アルベルト)
  1.昼
2.比翼連理の舞い
3.1000jr

アルと一緒に舞ってみたいと思ったの
ダメって言われたら自分だけで申し込めば…と思ったんだけど
え?意味?
分かってるわ…だからアルと舞いたいのよ
小声でそう言ったら、おかしそうに笑うの
もう、すぐからかう
でもこれがアルの嬉しさの表現だってもう知ってるから怒ったりしない
私も一緒になって笑う

衣装は薄紅の小袿を羽織って前天冠をつけて
なんだか桜の花になったみたい
桜の花は葉と一緒にいられる時間は短いけど
でもきっと一緒にいられる時間は幸せなんじゃないかしら
今の私のように

比翼の鳥のように
連理の賢木のように
ずっとずっと
この人と一緒にいられますように
この舞に願いを込めて祈りを込めて


かのん(天藍)
  夜の国サクラヨミツキで天藍と比翼連理の舞い

衣装:昼と夜、対になるように自身は日の光の様な明るい生地、天藍は夜闇の様な暗い色の生地
2人の着物には桜を主に春の花が染められた同じ柄
サクラウヅキの昼と夜イメージ

ウィンクルムとして清めの舞を行うのならトランスした方が良いでしょうか?
天藍の提案に人前でとなる事に恥ずかしさから躊躇
でも、お役に立てるのなら…頑張ります
舞の練習は真剣に

舞台の脇で待つ間どちらかが舞って傍らで見るのではなく、天藍と一緒に舞えて良かったと思う

隣に天藍がいてくれる、その事が私に安心をくれます

舞を終え
…緊張しました
天藍に支えられ体を預ける
元に戻ったこの場所で一緒にお花見出来たら良いですね


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  『天真爛漫の舞い』
衣装:巫女装束・扇

ディエゴさんには内緒で天真爛漫の舞いを習得することにしました
舞いを見せる前まで彼にはヨミツキ演舞の儀を一緒に見に行こうという体裁です
驚かせたいし、彼がほめてくれたダンスの腕をもっと磨きたいから。

天真爛漫の舞いとはどういう舞いなのか
伝統あるものなら、舞う時の心情や意図をきっちり理解した上で舞いたいです
ただ、サクラウヅキの今の状況から現地の人は不安を抱いているはず
厳かなものであっても自然な笑顔でもってお披露目したいと思います。

この舞いはサクラウヅキの人達が安心できるようにという願いと
そして精霊へのありったけの思いを込めて
舞い散る桜とともに踊りたいですね。


ユラ(ハイネ・ハリス)
  『夜の国』で『明鏡止水』
アドリブ絡み歓迎

制限はないけどさ、一応神職繋がりってことで
ハイネさんがやった方がご利益ありそうじゃない?
私こういうのは、やるより見る派だから
それにハイネさんのカッコいい所が見てみたい!!

浮世離れしてる感があるから、絶対こういうの似合うと思うんだ
写真オッケーならカメラ持参で沢山撮りたいな
他の人の舞もきっと綺麗だと思うから

顔が見えなくても、あれが誰かなんてすぐわかる
本当に……似合うな、あの人
でもなんだか現実味がなくて、知らない人みたい
あ、見惚れすぎて撮れなかった…

終了次第、探しにいく
あ、よかった、まだ(現実に)居た
お疲れさま~はい、お水持ってきたよ

ハイネさん
カッコよかったよ


かなしみと、よろこびと
きらめきと、しずけさと

それぞれの想いをヨミツキの花弁に込めて舞うあなたの姿は
人ならざる何かのようでいながら、誰よりも人間らしく
きっと何よりも、うつくしい


●遅咲きの一輪
 春の国『サクラウヅキ』に住む人々は、温暖な気候の中で暮らすためなのか陽気な者が多い。
 そのような気質の彼らであるから『ヨミツキ演舞の儀』といったいかにも歴史の深そうな祭典であっても、出店や見物客の様子は余所の祭りと変わらない。

「随分賑やかなんですねぇ、イヴェさん」
「そうだな……」

 『淡島 咲』は精霊と歩きながら出店を眺めて少々意外そうに『イヴェリア・ルーツ』に話しかけ、イヴェリアも彼女の感想に頷いた。そして、彼は周囲をもう一度見回して足を止める。

「イヴェさん?」
「……しかし、祭囃子や芸人だけは見当たらないな」
「あ……本当」

 人々の喧騒は賑やかでも、それに紛れて見世物をする存在は一つとして彼らの視界に映らなかった。

「それだけ、この祭典の意義がはっきりしているということだろう」

 ヨミツキの花吹雪の中で、様々な踊り手達が清めの舞いを踊る。
 華やかな女性による『天真爛漫の舞い』、凛々しい男性による『明鏡止水の舞い』、そして男女の共演『比翼連理の舞い』。
 今日、ヨミツキ演舞の儀の日ばかりは、全ての音楽が、感動が、踊り手のものになる。
まして今年の舞いは、ふたつに裂けつつあるこの国にとって殊更重要なのだ。

「……」
「サク、緊張させたならすまない。だが、」

 責任感に身を固くする咲の、頭一つ分下にある頭をそっとイヴェリアが撫でた。

「……大丈夫だ、俺が見ているから。俺の選んだ衣装を纏ったサクが、真剣に練習した舞いを披露するのを。最後まで、見ている」
「イヴェさん……」
「それでも、まだ怖いか?」

 端整な面差しの金色の瞳が覗き込んでくる。
 彼の言葉、声、自分に触れた手、仕草。
 咲はそのすべてに胸を高鳴らせて、明るい笑顔を咲かせた。

 また一輪、遅咲きのヨミツキが綻んだ。


●刹那の甘さは密やかに
「……アル?」

 踊り手の控室である座敷に正座していた『月野 輝』は、背後の気配に振り返る。

「こういうのは、女性の方が支度に時間がかかるものだと思っていたのだがな」

 精霊『アルベルト・フォン・シラー』は少々うんざりした顔で障子にゆるく背を凭せ掛けた。
 萌葱色の狩衣が、複雑に結い上げられ冠を戴いたアルベルトの髪色によく合っており、輝は眩しげに目を細める。
 どうやらその髪を結うのに時間がかかったらしい。
 輝は小袿の着付けにこそやや戸惑ったものの、艶やかな黒髪は素材を活かそうと丁寧に梳かされたのみで前天冠をあしらった。とんとん拍子に支度が済み、此処でアルベルトを待っていたのだ。

「だってアルの方が綺麗だもの、時間がかかっても仕方ないわ」
「おや、私の妻を貶すのは止して貰おうか?」
「妻……って」

 婚約した間柄とは言えまだ正式な夫婦ではないのに、彼は時折こうしてわざと大胆な発言で輝を狼狽させた。
 アルベルトは一転、くつくつと笑いながら追い打ちをかける。

「それにこの舞いは比翼連理の舞いと言うそうだが。比翼連理の意味は……解っているな、その様子では」

 白い頬の紅潮は薄化粧では誤魔化すことなどできない。両手で軽くそこを覆いながら、
 だから、貴方と、一緒に舞いたかったの。
 そう囁く声は、アルベルト以外には聴こえる筈もなかった。

「輝は私の片翼、連なる唯一の枝葉。……美しいひとだ」

 桜色を纏った彼女を、萌葱色がそっと包み込んだ。


●瞳の中は、狐の嫁入り
 しゃん、と涼やかな音が静寂に色を添える。
 それは楽師達の鳴らす鈴の音だけでなく、舞台で袖を揺らした咲の纏う金の装飾から奏でられたものでもあった。
 舞いが始まる前までの喧騒は水を打った様に静まり、観客はすっかり真剣な顔をしていた。
 ヨミツキ演舞の儀が、始まる。

 同じ告知を見たとか、評判を聞きつけたとかで、今日この場は咲の見知った顔も多かった。
 中でも友人である神人『ハロルド』に会えたことは、咲にとって幸運だった。彼女自身もこの祭典に参加するらしく、偶然顔を合わせた二人はそれぞれサクラウヅキ、サクラヨミツキの舞台へと向かう前に少しだけ話をしたのだ。
 互いに演目も同じ天真爛漫の舞いで、生真面目に魅せ方をおさらいする咲にハロルドは微かに微笑んで、一言告げた。

「天真爛漫の舞いは、想いのままに純粋に……そういう舞いですよ」

(私の、想い……)

 真紅の舞台上。舞いの構えを取りすう、と目を閉じて浮かぶのは、イヴェリアの顔。

(イヴェさんに、綺麗だって思ってほしい。それが私の、想い)

 晴れ空に愛された瞳が覗いた瞬間、白く眩しい袖が翻る。

 白無垢を模した舞台衣装は、踊り易いように裾に微妙な切れ込みが入っている。ゆったりとした独特のリズムながらも、どこか大胆さを感じる華やかで自由な舞い。咲の天真爛漫の舞いは、桜の神の胸へ飛び込んでいく清らかな神の花嫁を思わせた。
 純白の衣をヨミツキの花弁が追いかけて、春風を演出する音楽に思わず咲は舞いながら微笑みを浮かべる。規則的な鈴の音に、不規則な装飾の音色が絡み合うと、彼女の舞いは音楽にさえ輝きを与えた。
 ふと腕を持ち上げた時に、自身の纏う細やかな細工の飾りが目に入る。
 その色は、その金色は。

(ああ、イヴェさん……!)

 彼の瞳の色だ。
 イヴェリアが居る。いつだって、自分を護ってくれている。
 溢れそうになる熱い涙を堪えて、咲は最後の一節を舞った。


●春を謳って
『……美しいひとだ』

 アルベルトの舞いに導かれながら、普段のからかいを含まない彼の囁きを輝は思い返していた。
 思わず漏れ出た言葉だとしたら、ヨミツキの魔力なのだろうか。
甘い囁きは一瞬で、それからはいつも通りのふたりだった。アルベルトが軽口で翻弄して、それを許した輝が微笑んで、笑顔が重なる。
 彼らのその関係性は舞いにも表れており、優美で儚い薄紅の桜の花を、新緑が擽るように守護するような美しさを放っていた。輝とアルベルトにしか舞えない、それは愛しき契りの舞いだった。
 どこか楽しそうな表情で舞うアルベルトが愛おしくて、きっと愛すべくして愛されているヨミツキもこんな気持ちなのね、と輝は思う。

(私がもしヨミツキの花なら、アルのために咲いて、アルを護ってあげたい)

 時折触れる体温を感じれば、その想いはただ深まっていく。

(護りたいと願うのはアルだけじゃないわ。私も、アルと過ごす日々を護りたい。どんなことがあっても、アルがどんな道を選んでも、一緒に居たいのよ)

 ヨミツキの花が、凛と微笑む輝の長い黒髪に落ちる。それは至高の宝石も敵わないほどに彼女の舞姿に映える髪飾りで、眩いほどの光景に誰もが夢見心地になる。
 アルベルトは密かに、切なく微笑んだ。

(そこまで桜に愛されていると、妬いてしまいそうだ)


●神人の行方
 ハル、と今此処で大声を出したところで『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』の呼びかけに彼女が応えることはないだろう。銃を扱う身として視力が良く視野の広い方である彼の視界に、あのあたたかい色の髪がひらめくことはなった。

「完全にはぐれたか……」

 隣にハロルドが居なければ落ち着かない自分を笑ってやりたいところだが、ここはサクラウヅキのもう一つの姿、サクラヨミツキの国。ハロルドが一人でいるところをオーガに襲われるとも限らないのだ。
 苦境の中で規模は縮小したとしても、祭りの賑わいとヨミツキの艶やかな光で夜道は明るい。ハロルド曰く、聖なる清めの舞いであるヨミツキ演舞の儀の時ばかりは、此処もオーガを寄せ付けないらしい。
 ハロルドがここに誘ったのだから、清めの外へ出ていることは考え難い。しかしそれならば、彼女は何処へ行ったのか。
 考え込んでいたディエゴだが、不意に周囲が静まって行くのを感じた。
同時に人々が『何か』を待っているかのような顔で一所に集まっていくのが見える。

(おい、これは今日のメインが始まるってことじゃないのか?)

 ディエゴは速足で彼らを追った。


●綻ぶ花、綻ばせるぬくもり
「輝さんとアルベルトさんの舞い、とても綺麗でしたね」
「ああ。新たな一面を見たようだった」

 ほの暗い控室で語り合うふたり。
 サクラヨミツキでの自分たちの出番までは時間があるからと、輝たちがサクラウヅキの青空の下で比翼連理の舞いを舞ったのを『かのん』と『天藍』は観ていたのだった。

「人は誰かと接することで少しずつ、変わっていくものなんですね。草花たちが様々に育つように」

 微笑むかのんを天藍は優しく見つめた。
 ふたりの纏う舞衣は光と影、昼と夜のように対照的な色彩でありながら、散りばめられた花々の模様は共通のものだ。
 桜、タンポポ、白木蓮、ツツジ。
 精巧な春の花の染め色は見事で、彼らの佇まいを神聖に彩っていた。
 普段より丁寧に結わえられたかのんの黒髪の毛先を指に絡めていた天藍は、かのんが頬を染めて何か言いたげにしていることに気付いた。
 ん?と天藍が柔らかく彼女の言葉を促せば、小さな声である提案が返ってきた。
 一瞬硬直した天藍は、すぐさまかのんに耳打ちをした。提案をしたのは彼女の筈なのに、耳打ちの内容に奥ゆかしく恥らう姿を愛おしく思う。

「さあ、かのん。今度は俺たちの番だ。競うものではないが、負けてもいられない」

 何故ならこれは想い合う者達の、比翼連理の舞いだから。


●精霊の行方
 わくわくとした表情を隠し切れず、カメラを手に『ユラ』は落ち着かない様子で観客席に居た。この国では珍しいらしいカメラを珍しそうに眺める国民の視線にも笑顔を返すのみか、そもそも気付いていなかった。

「ハイネさん、今頃準備してるのかな~」

 「こういうの、着慣れない」などと言ってむすっとしながら舞装束を着ている精霊『ハイネ・ハリス』が、あまりに明確に想像できるものだからユラは可笑しくなってしまう。
心配はしていない。控室へ送り出す時まで全く乗り気ではない顔をしていた彼だが、やるからには筋を通す尊敬すべき人物だということを、彼女はよく知っていた。

「今頃スタンバイ中かな?……あれ?そういえばプログラムとかないんだ」

 そこで首を傾げたユラは、ハイネから聞き逃していた重大情報を思い出す。

「ハイネさん、何番目に踊るの……?」


●翠雨、ヨミツキに注ぐ
 ヨミツキの花弁が降り注ぐ中、太陽の衣と宵闇の衣の裾が交わりながら舞うかのんと天藍の姿。それは別たれたサクラウヅキとサクラヨミツキが重なり合う、予感と安心を観客たちに与えた。
 天藍がかのんを導いて、かのんが天藍を支える。比翼連理の舞いに相応しい、深い絆の成せる業だ。
 同様の振り付けであっても、輝とアルベルトの舞いが咲き誇るヨミツキを画面いっぱいに描いたステンドグラスならば、かのんと天藍の舞いはヨミツキを主役とした風景画だ。華やかなヨミツキへの愛を花弁一枚一枚に込めたステンドグラスと、ヨミツキが咲き誇る風景そのものを愛でる風景画。双方の魅力にサクラウヅキの観客も、もう一人の彼らであるサクラヨミツキの観客もほう、と溜め息を零した。

 そして舞いが終盤に差し掛かった頃、天藍がかのんの腰を引き寄せる。
 耳を珊瑚色に染めながらも、かのんはそっと囁いた。

「共に最善を尽くしましょう」

 交わしたインスパイアスペルは春風に溶け、かのんが天藍のくちづけを受け容れる。
 瞬間、ヨミツキの若葉から、嬉し涙にも似た翠雨がこの空間に波紋を起こす。広がる波紋の煌めきは壇上のふたりを覆い、ヨミツキと共に舞いの最大の魅せ場を彩った。
 彼らが舞う度、淡く輝く衣が纏う神の力の片鱗と、花弁が踊る。
 神秘的な光景に観客の一人であるユラも息を呑む。思わずカメラのシャッターを切って、そこからは見惚れるばかりだった。
 オーラの輝きが一層強くなったところで舞いは終わりを迎え、天藍と手を重ねたかのんが作法通りのお辞儀をしようとした時。ぐっと腰に手を回され天藍に片腕で抱き上げられてしまう。驚くかのんごとくるりと一回転し、彼女を降ろしてお辞儀をする天藍。慌ててそれに倣うかのんの姿は微笑ましく、回転で花弁と共に渦のようになった煌きは誰の心にも残った。


●舞姫を見守る者
 ヨミツキを筆頭に豊かな自然に恵まれたサクラウヅキは、雅俗や貴賤を問わず歌や絵画といった芸術を愛する国民性であった。
 中でも音楽と舞踊は特別で、人々だけでなく自然の神、すなわちヨミツキに捧げるものであるという認識が今も根付いている。
 だから舞いの動作一つ一つに意味があり清めの力を持つのだと、踊りを指導してくれたフミ婆の教えを、舞台に上がったハロルドは深く記憶していた。

(大いなる存在に感謝を、祈る人々に希望を。きっと私がこの舞いを舞うのにも、意味があるのでしょう)

 ならば、今の自分はどう在るべきか。
 鈴の音の中ハロルドは、ぱっと笑顔を見せた。
 一見静かな印象を与える彼女の花咲くような表情は、天真爛漫の舞いの本質を理解したものであり、心の込められた完璧な演舞だ。
 巫女装束が華麗に揺れて、黄金の扇が軌跡を描く。
 ハロルドの纏う極彩色は舞い散るヨミツキの淡い光を際立たせ、観る者の心を明るく照らした。

「……まったく。そういうことか」

 遅れて観客席にたどり着いたディエゴは呟いた。
 大人しそうに見えて案外茶目っ気のある、さながら高貴な猫の様な彼の神人の目論み通り、ディエゴは舞台上で舞うハロルドの姿に目を瞠っていたのだった。
 十代特有の幼さを感じていた彼女の姿が、今日は何故だか艶めいて見える。
 ディエゴの心までも光で満たす、ヨミツキの女神の様だった。


●水面は透明な想いを映して
 ヨミツキ演舞の儀も終盤に差し掛かった頃、ユラはひとりムムムと唸っていた。

(ハイネさんの出番、まだかなあ……)

 夜の国であっても時刻はもう深い。
 主に彼の為に持ってきたカメラは、まだ数枚の撮影にしか使われていない。
 そして、次の踊り手が静かに現れた。
 闇夜を彩る星の様に煌びやかな舞装束の長い袖から覗く白い手や、ヨミツキの花のあしらわれた面で隠された顔。神々しい出で立ちは謎めいて、性別すら曖昧にする。
 けれど、ユラにはすぐにそれがハイネだと解った。

(本当に……似合うな、あの人)

 明鏡止水の舞いを勧めた時のハイネは不満顔だったが、彼は間違いなくあらゆる神に愛された存在で、ユラにとっては神様そのものと言えるかもしれなかった。
 す、とハイネが腕を伸べると、装束の袖の瑠璃色の鈴が静かに鳴った。
 明鏡止水の舞いに音楽はなく、無音の中で緩やかに舞う。華を添える要素が少ない分一つ一つの身振りが大きく、洗練されている。優雅な雰囲気に反してある程度の筋力を必要とするこの舞いは、男性にこそ舞えるものとされている。
 首を傾けたハイネの髪がさらりと流れ、彼を包むように降るヨミツキの花弁と併せてどこか扇情的ですらある。

(……綺麗、だけど。ハイネさん、なんだか消えてしまいそう)

 儚げな面差しでも普段はどこか真面目さに欠けた彼が、今夜はまるで別人のよう。ユラの心を騒がせる不安はどこか甘く、ただ瞬きもできないままハイネの舞いを見つめることしか出来なかった。

『ユラ』

 その時、名前を呼ばれた気がした。
 はっとしたユラは舞台を注視する。
 面に隠されている筈の彼の顔の、口元がふっと笑んだのをユラだけが確かに見た。
 ハイネの存在を感じ緩やかに高鳴る鼓動に、ユラはそっと心を委ねた。


●彼だけの花嫁
「イヴェさん?」

 舞い終わったばかりで薄ら汗ばむ体を、会うなり抱きしめられ咲は動揺する。
咲を包み込む腕の力は強く、かすかに震えていた。

「何か、悲しいことがありましたか?」
「……いや、何も。ただサクが、あまりに綺麗だった」

 上手く言えないが抱きしめたくなったんだ、と囁くイヴェリアの声は優しくも切なげだった。

「ヨミツキがサクを攫って行くように感じたんだ。それくらい綺麗で、そして桜にも神にも、お前を奪われたくないと考えた」

 イヴェリアの金の瞳の真っ直ぐな光に眩みながら、咲は愛しい彼の独占欲と、密かに望んでいた賛辞に柔らかく笑った。

「ありがとう、ございます」


●Ich kämpfe mit Ihnen
 一匙掬った桜色の液体をそっと垂らして輝が差し出した湯呑を、アルベルトは興味深げに眺めた。

「桜茶、か」
「ええ。さっきフミお婆様に頂いたの」

 桜の花の塩漬けの瓶をアルベルトに見せながら、輝は自分の桜茶にも仕上げの一匙を垂らした。いい香りだ、とアルベルトは暫し沈黙し、それから輝に呼びかけた。

「塩漬けにされるのは八重桜の花だと、知っていたか?」
「そうなの?……本当ね、よく見たら分かったわ」

 湯呑の中で再び花開く桜を眺めている輝の左手に、アルベルトはそっと自分の手を重ねた。

「八重桜の花は、その葉と共に樹を飾る」

 ふたりで舞った比翼連理の舞いになぞらえるように輝を八重桜、自分を葉に例えているのだと、悟った輝は身も心も花の色に染まった。

「後悔しても遅いぞ、輝」

 葉が花を掴まえたなら、もう逃がすことなど出来ない。
 『共に戦う』と誓った、運命の相手なのだから。

「……そうだ、もうひとつ教えておこう」
「え?」
「桜の香りには、媚薬の効果もあるそうだ」
「……えぇっ!?」

●春はまた訪れるから
「……緊張しました」

 くったりと身を預けてくるかのんを、天藍はそっと抱き留めた。
 衣に焚きしめられた香の薫りが、穏やかにかのんの疲れを癒していく。

「……ねえ、天藍。私、今日はとても嬉しかったです。天藍とふたりで舞えて、良かった」

 奥ゆかしい性格で、本当は寂しがりな彼女のことを、天藍はよく知っていた。
 共に舞うことを提案した理由の一つは、かのんのそのような一面への考慮だった。

「よく頑張ったな、かのん。これだけやったんだ、瘴気もすぐ清められるさ」
「そう、ですね。そうしたら今度はここで……一緒にお花見、しましょうね」
「……そうだな、とっておきの酒を買って、な」

 ゆっくりと腕の中で眠りに落ちていくかのんに、天藍は優しく微笑んだ。


●素直に寄り添って
 急に消えるなとディエゴが窘めても、ハロルドは何処吹く風だった。

「驚くだろう」
「驚かせたかったので」
「あのな……いや、でもあの舞いにも驚いたぜ、エクレール。ああいうのも踊れたんだな」

 綺麗だった、良いものを見せてもらったと素直に言えば、面映ゆそうにはにかみながらハロルド……エクレールはそっとディエゴに身を寄せた。

「清めの願いのためでもありましたけど、私の想いはいつもあなたへ向かっていますから」

 少女のストレートな言動にどきりとしつつも、今日はそんな意趣返しもいいかとディエゴはエクレールを腕の中へ閉じ込めた。

「ありがとう、エクレール」


●いつもの彼と、彼女
 畳でだらしなく転がっているハイネは、本当に先程の踊り手と同一人物なのか。

「よかった、まだ此処に居た。ハイネさん、お疲れさま~」

 内心で疑いつつ、ユラはしゃがみこんでよく冷えた水を彼に差し出した。

「疲れた、もう動きたくない」

 水を飲むのも億劫そうな彼にユラが冗談半分で膝枕する?と問いかけると、

「……ばかじゃないの」

 やや間を置いてから返され、寝返りを打たれてしまった。

「ね、ハイネさん」
「ん」
「カッコよかったよ、とっても」

その言葉で、舞っていた自分をユラが確りと見つけていたのだと知ったハイネの、返した言葉は素っ気無い。

「……それは、どうも」

そして声音は、『此処に居るよ』と囁く春のあたたかさだった。

「ねぇねぇ、一緒に写真撮ろうよー、着替えちゃう前にさ!フィルム余っちゃって」
「……ぐう」
「あれ?あからさまに狸寝入りかな?」





世界で唯一の、特別な桜吹雪の中
特別な絆を育む彼らの舞いで
青空と宵空は、ゆっくりと在るべきかたちへと近づいた




依頼結果:大成功
MVP
名前:かのん
呼び名:かのん
  名前:天藍
呼び名:天藍

 

名前:ユラ
呼び名:ユラ、君
  名前:ハイネ・ハリス
呼び名:ハイネさん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: シラユキ  )


エピソード情報

マスター 一城
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月06日
出発日 04月11日 00:00
予定納品日 04月21日

参加者

会議室


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