プロローグ
「城下町『サクラウヅキ』の現状は、もうご存知かと思われます」
A.R.O.A.職員が、そう前置いて話し始めた。
紅い月の影響で、城下町は昼と夜の二つ世界が生じてしまっている。そして、ただよう瘴気にオーガたちが活発化し、集まってきているのだ。
特に夜の多い世界『サクラヨミツキ』では、オーガによる事件が後を絶たない。
「そのいくつかの事件で、オーガたちがヨミツキを商家から持ち出し、どこかへ持ち去っているという報告がありました」
持ち去られているのは、ヨミツキの苗木だ。
ヨミツキは城下町の人々にとって特別な存在だ。その苗木が消えることは、人々の不安が増す事件だろう。
だが同時に、どうしてオーガが、という疑問もわく。
「オーガの、商家への襲撃事件はたびたび起きているようです。みなさんには、その原因調査をお願いしたいと思います」
方法は二つある。
ヨミツキのある商家で待ち伏せし、オーガの襲撃を阻止する。そして倒したオーガを調べて手掛かりを得ること。
もう一つは、あえて襲撃を阻止せず、苗木を持ち去るオーガがどこに向かうのか尾行すること。
オーガの襲撃を阻止した場合は、被害は確実に防げる。だがオーガを調べて手掛かりが得られるのか、それは現時点で不明である。
反対に尾行する場合は、確実に一店舗に被害が出るし、オーガに気付かれないよう慎重に行動する必要がある。加えて、尾行した先でどのような危険が待ち受けているか分からない。
「判断はみなさんにお任せします。ですが、どちらか一方に決めて行動してくださいね」
一応、商家の人々には尾行する際に被害が出ることも了解をとっている。根本的な解決がなされるなら、という意図のようだ。必要なら大事にしているヨミツキの苗木もウィンクルムたちに託せるとのこと。
「どちらか一方と今言いましたが、何かアイデアがあるのなら話は別です。どちらかの行動をベースに、工夫などしてより良い結果が得られるのなら、それにこしたことはありません」
みなさんどうかご無事で、とその職員は言った。
解説
・舞台は夜の城下町、サクラヨミツキ
城下町「サクラウヅキ」固有の桜、『ヨミツキ』が夜の桜として咲き誇る時間の町の名前。
いまはギルティによって二つに分けられた城下町のうち、夜の多い城下町を指す言葉。
空には紅い月が輝いている。
【状況】
サクラヨミツキでは現在、活発化したオーガによる被害が報告されている。
今回の事件も、その一つのようだが、どうもヨミツキの苗木を持ち去るオーガがいるらしい。
その原因を調査するのが、今回の話。
【できること】
・オーガが襲撃しそうな場所で待ち伏せて、討伐。襲撃の理由をオーガなどから発見できないか調査する。
・オーガにあえてヨミツキの苗木を運ばせて、その跡を尾行してどこへ向かうのか突き止めること。
以上が二大方針となります。
リスクなどの情報はプロローグ内準拠です。
オーガはクマのような、毛むくじゃらの個体が一体です。鋭い爪や牙を武器に、腕力に任せた攻撃や突進を行ってきます。
苗木については、少し大きめの植木鉢に植えられたもの、をイメージしてください。
オーガは、持てる物なら2つ3つ、抱えたりなどして持ち去っているようです。
ゲームマスターより
こんにちは、叶エイジャです。
サクラヨミツキでの事件となります。
【できること】の『オーガが襲撃しそうな場所で待ち伏せて』はA.R.O.A.の調査により判明した『次にお障れそうな場所』です。プレイヤー情報としては、待ち伏せれば必ずオーガは現れます。
大まかにどちらの方針をとるか、参加者様の間で決めておいてください。
討伐せず尾行する場合は、その場でオーガとの戦闘は起こりませんが、尾行の最中や辿り着いた先で戦闘が起こらないとは限りません。
プラン等の表記は難しくなると思いますが、決断して対処していただければと。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【道具申請】 インカム 【追跡】 オーガ・ナノーカを先行させ 小型カメラの映像でオーガの動向を探りながら進む オーガの警戒が高まった場合、後ろの組にインカムで進行を止め そのまま追跡が可能なら同じく追跡継続を伝える 【合図】 インカムの申請が通らない場合 お互いの位置を知らせるためにハンドサインとマグナライトを一瞬点けて消す合図を提案 光が仲間内にのみわかるよう点灯時は仲間に向けて、服など布を被せた上で合図する 【尾行成功時】 行き着いた場所 苗木の使用目的を推測できるオーガの行動 指揮者の有無等出来る限り見て【記憶】する 長居すればするほど危険なので上記の情報が集まり次第速やかに撤退、オーガが2匹以上いた場合も同じ |
シルキア・スー(クラウス)
インカムと隠密用の布クラウスと着用 インカム不可の場合 マグナライトで合図送る 事前に仲間とライトでの合図方法決め記憶しておく クラウスと共有 苗木を運ばせ皆と追跡の方針 次に襲われそうな商家が見える適度に離れた物陰に潜む 襲撃後オーガの位置皆と連絡し追跡に入る 追跡 ハロルドさんの数メートル後ろを道沿いに追随 仲間と連絡時は小声で短く通信 入る連絡はよく聞いておく ※ライト合図使用時は布越しに光量少し抑えて使用 ライトは紐付けて肩斜め掛けしておく 追跡成功時 皆と集合 場を観察 気取られない配慮意識し声出さない メモ取りたい 苗木がどう使われているか見たままを 戦闘 敵の攻撃はシャイニングアローを盾にする 後衛でマグナライトで照明補助 |
シャルティ(グルナ・カリエンテ)
位置:ハロルドさんペアの後ろで追跡(相方精霊の少し後ろ) * トランスは万が一オーガに追跡がバレた時に インカムが通らなかった場合 インカム申請が通らなければ、「マグナライトを自分の位置を知らせる合図として使用」 申請が通った場合 インカム申請が通った場合はオーガに気づかれないように小声 (相手に聞こえる程度の声量)で連絡を取り合う インカムで連絡を取り合える場合は自分がいる現在の位置や、その場の状況 なにか変わったことがあった時・オーガの動きに変化があった時‥ 基本的に神人はオーガだけでなく、周囲にも気をつけ、観察 周りの事で変わったことなどあれば連絡・合図 |
紅い月に染められた夜の城下町【サクラヨミツキ】。
いま、その一角でオーガの咆哮と、家屋が破壊される音が響き渡った。
「現れたようだね……」
シルキア・スーが物陰から顔をのぞかせ、通りをうかがう。
商家の連なる区画にて、現れたオーガは門扉を壊し、中に押し入っていくところだった。
この町で固有の桜『ヨミツキ』を扱う店である。
「公園で戦ったオーガにも似ているようだ」
精霊のクラウスは切れ長の目を細め、記憶を探るように言った。
先日、公園でヨミツキを傷つけるオーガを討伐した時のことを言っているらしい。
「そうだった? 私、暗いからよく分からなかった」
『こちらも確認したわ』
シルキアの装着していたインカムから、小さな声が聞こえた。
「前にも商家を襲うオーガを倒したけど、ほぼ同じ外見のようね」
シャルティはインカム越しにささやくと、家に押し入ったオーガの姿を思い返した。
見回り時に遭遇したため、何度もオーガを確認しては誘導場所に誘い込んだ。
「グルナ、あんたも覚えてるでしょ?」
「ん? あー」
シャルティが振り返ると、精霊のグルナ・カリエンテは手持ちぶさたでたたずんでいた。まだ戦うわけではないからだろう。間延びした返事をする。
「たぶんな」
「たぶんって……」
つい先日、しかも神人以上に間近で見ていた者の台詞ではない。
「戦えば分かるぜ。同じなら楽に対処できる」
(要するに戦わなきゃ分からないってことね……)
頼もしいような、そうでないような。ある意味グルナらしい発言に、シャルティはため息をついた。インカムに向けて質問をする。
「公園に現れたのも、同じで間違いないのかしら?」
『おそらくは』
ディエゴ・ルナ・クィンテロは別の場所から、破壊された商家の入り口を見守る。
「グルナの言う通りだ。同じなら動きに見覚えがある分、戦いになっても動きやすいだろう」
問題は、今回はオーガとの戦いが主目的ではないことだ。
オーガが苗木をどこに持っていくか探る……それが六人で決めたことだった。
「知能は低そうだったから、気付かれないと良いですね」
ハロルドがそう言った時、オーガが出てきた。
禍々しい気配のまま、抱えるように苗木を持ったオーガは、少々滑稽にも見える。
そのまま無人の闇へと歩んでいくオーガを見据え、ハロルドは用意してきたそれを取り出した。
お役立ちアイテム「アヒル特務隊オーガ・ナノーカ」。
小型カメラが搭載されたそれは、某ギルティのせいで瘴気を帯びている。オーガに気づかれにくい特性を持っているので、こうした場合にうってつけだ。
「では、行きましょう」
動かしたオーガ・ナノーカを先行させ、ディエゴとハロルドが慎重に歩き出す。
少し距離を置いてグルナとシャルティが、その後にシルキアとクラウスが続いた。
●
紅い月が出ているとはいえ、サクラヨミツキを支配するのは夜の闇だ。オーガを目視で追うにも限界がある。
その点、オーガ・ナノーカの起用は大きかった。カメラからの映像を利用することで、少々離れていても見失うことはない。
足音や会話に注意はしているが、気持ち楽に尾行できていた。
(けっこう、歩いたかな?)
道沿いにオーガを追いながら、シルキアが周囲に目を走らせる。
周囲は変わらず、城下の街並み。しかし徐々に中心部から遠ざかり、家の数自体は少なくなってきている。
「いま、どのあたりかしら……南側の郊外?」
シャルティも、ちょうど同じことを感じていたのか、インカム越しに確認を行う。シルキアがうなずく。
「はい。私もそう思います」
「こんなに歩いているのに苗木は持ったまま……なにか意図があるのは間違い無いようだけど」
シャルティが眉根を寄せた。その意図が分からない。
よからぬ企みに使われそうなら苗木は奪還していきたいが――
「向きを変えました」
前を歩いていたハロルドの声。
今まで道なりに夜の城下町を歩いていたオーガだが、それが突如として家々から離れていく。
「森があるな」
オーガの前方に黒く大きなシルエットが現れ、クラウスの目に警戒の色が宿る。
「見失うてはまずい。近づくか?」
「仕方がない、そうしよう」
ディエゴが応じ、ウィンクルムたちは互いの位置をさらに密にし、オーガとの距離を縮める。万一に備え、神人を後方にすることも忘れない。
月の光が森にさえぎられ、闇が濃くなった。地面に起伏が生まれ、それはオーガ・ナノーカの移動に支障を及ぼし始めたようだった。映像が大きく揺れている。
(回収すべきでしょうか……)
ハロルドがそう思った時だった。突如カメラからの映像が乱れ、そのままブラックアウトしてしまったのだ。
ハッとして顔を上げると、先ほどまで見えていたオーガの影が消えている。
オーガ・ナノーカも消えてしまっていた。
「見失った……?」
シルキアが呟く。道は蛇行している。木々に紛れてしまったのだろうか。
「いや、それならオーガ・ナノーカも見えないのは変だ」
クラウスが首を振る。
「気付かれたのかしら?」
シャルティは闇に沈んだ森に視線を走らせる。
森には虫たちの声と、動物たちの気配があるばかりだ。
「道順に進んで、様子を見るか?」
前進か、後退か。ディエゴも判断に迷う。待ち伏せなら最悪、撤退も視野に入れなければいけない。
「そっちじゃないんじゃないか?」
そこで、グルナから待ったがかかった。
「あのアヒルは、まっすぐ進んでたぜ。ならこっちだろ」
グルナが指差したのは、蛇行して曲がる道とは反対の、森の暗がりだった。
「そうでしたか?」
シルキアが首を傾げる。ハロルドがしばらくその闇を見つめた。
「オーガ・ナノーカの映像は見えないまま。なら、何か普通でない場所を通過したのかもしれません」
「転移……あるいは結界のようなものね」
シャルティが自らの言葉を確かめるように、道を見る。
グルナの言ったことが正しければ、この曲がり道は認識を操作するために使われているのかもしれない。
おそらくは、この先に待ち受ける何者かの意志によって。
「覚悟を決め、往こう」
クラウスの言葉に、シルキアがうなずく。
六人は道を外れ、森の奥を目指して分け入った。変化はほどなくして訪れる。
「!!」
乗り物酔いにも似た感覚に襲われ、視界が揺れる。
それが収まった時には、六人の前には広けた場所が現れていた。
●
「み――」
森の中にできた広場。しゃべりかけたハロルドをディエゴが制す。インカムが通じなくなっていた。離れた場所にはオーガ・ナノーカが転がっている。完全に停止していた。
――みんな、無事か?
あらかじめ決めておいたハンドサイン。ディエゴの確認に反応はすぐにあった。全員無事。
(今のは『結界』の中に入った影響のようね)
シャルティが広場を見渡す。開けた場所で、紅い月の光が地面を満たしている。木々が数本、そこに影を落としていた。
その中で最も巨大な影は、ヨミツキによるものだった。
その場でただ一つ咲いているヨミツキは、これまで見たどの桜の木よりも大きい。
大樹からとめどなく舞い散る花弁が、広場の地面をあやしく彩っていた。
だが。
クラウスが手を握られ、シルキアを見た。神人は不安そうな視線をヨミツキの大樹に向けている。
(クラウス、私、なんだか『あれ』が怖い)
シルキアの感情を、クラウスはその表情から読み取った。手を握り返し、『大事ない』の意志を込めて強くうなずき返す。同時に鋭い視線を桜の木に投げる。
彼女を守るのが、精霊である自分の役目だ。
――とりあえず、今は安全だな。
グルナは広場にオーガがいないことを確認した。これだけ視界が良ければ気づきそうだが、どこかに隠れているのか?
「……小声なら、出しても良いんじゃないか?」
「そのようだ。油断せず進もう」
オーガはいない。だが、シルキアのみならず神人全員がヨミツキの大樹に不安を覚えたようだった。
真相への鍵があるとしたらこのヨミツキしか考えられない。六人は注意深く進み、手前にあった別の木に隠れるようにして、ヨミツキの全体が見える位置に動いた。
そして気づく。
大樹の前に、盗まれた苗木が置かれていた。一つではない。隣には、ヨミツキの若木が何本も横たえられていた。
「オーガたちはここに持ってきていたのね」
シャルティが木の幹から観察しているうちに、妙なものを捉える。
「あれ、何かしら?」
ヨミツキの幹に、人らしき影がはりつけにされているように見えた。ハロルドとシルキアが確認する。
「……人?」
「オーガではないと思います。事件の関係者でしょうか」
ここからは暗がりなうえ、上手く判別できない。人影は身じろぎもしないため、生きているか死んでいるかも分からない。
「できれば長居したくないが……」
ディエゴが苦く呟く。有益な情報を手にしだい撤退したいが、オーガは見えず、情報自体も断片が多い。あの人影が人か精霊ならば救助する必要がある。
「ハル、ここまでのことは記憶しているな?」
ハロルドがうなずくのを見て、「俺たちだけで確認しよう」とディエゴがグルナとクラウスに提案する。神人たちを木陰に置いたまま、三人の精霊はヨミツキへと歩んだ。
さらに進んで、人影の正体がわかった。
男だった。精霊たちに勝るとも劣らぬ美丈夫で、長い黒髪が風に揺らしている。眠ったように目を閉ざしていた。
しかしその胴から下、そして肘から先はヨミツキの幹に飲み込まれていた。額から伸び生えた角には包帯が巻かれている。足を止めた三人に緊張が走った。
――デミ・ギルティだ。
『誰だ』
広場に声が響いた。男が目を開け、精霊たちを見据える。
●
『ほぅ、ウィンクルムか』
直後、突風が生まれた。
「ぐ……!」
「これは……瘴気か?」
それが男のプレッシャー……しかも、ヨミツキが纏いだした濃密な瘴気の塊だと知って、戦慄が三人の身体を駆け抜ける。
この存在感に瘴気、名だたるギルティたちに匹敵するのではないか。
『なるほど』
男は優美に唇を歪めると、低い笑声を放った。
『クク……思ったより気付くのが早かったと褒めるべきか。それとも無能な部下しか使えない自分を嗤うべきか――まぁ、ここは褒めてやろうか』
「で、お前はどこのどいつだ?」
グルナが臨戦態勢に入る。全身に緊張による汗が浮き出ているが、ここまで来たら戦いは避けられそうにない。
『我と話す価値が、貴様らにあると?――だがせっかくだ、もてなしてやろう。我が名は“妖満月(ヨミツキ)の君”。ギルティとなり、やがてあまねくギルティを統べる者』
恍惚の表情で、デミ・ギルティが宣言する。
「ギルティになる……なら、これは儀式か!」
クラウスが魔導書を構える。ディエゴも小銃を、『妖満月の君』と名乗った男に向けた。
「答えろ、妖満月の君とやら。お前のその姿……なぜヨミツキと同化している?」
『無礼な男よ……だが良い質問だ。それにも答えてやろう』
妖満月の君がそう言った直後、神人たちの声が響く。精霊が振り返ると、地中からあのオーガたちが飛び出し、神人たちの後方から襲いかかってきたところだった。
『妖満月の君』が嗤った。
『答えてやろうとも。貴様らの恐怖を味わいながら』
●
オーガは十体近くいた。それが逃げ道を塞ぐ形で、神人たちを追い立てる。
「エクレール!」
ディエゴが焦った声で、妖満月の君をスナイプ。銃声が鳴り響く。
弾丸は、しかし地面を突き破って現れた『それ』に防がれ、弾かれてしまった。
ヨミツキの根だ。
『聞いたのはお前だというのに、つれないな……我が何故、ヨミツキを集めていたか気になるだろう?』
根は飛び出した勢いのまま反転すると、今度は積み上げられていた苗木や若木を襲った。鋭い根の先端が木々に巻き付き、あるいは貫いていく。
そして根が脈打つと、若い木々は冗談のように枯れていき、最後には粉々になって散ってしまった。まき散らされた木々の破片は灌木のようで、生命力がまるでない。クラウスがその人外の行為に呻いた。
「これは……ヨミツキを吸収したのか?」
『あの女が瘴気を撒いた時、我は気づいたのだ。ヨミツキの一部は瘴気に触れると突然変異を起こし、瘴気を栄養源に成長する性質を持つようになると!』
高らかな男の声に合わせ、根の先端が精霊たちを襲う。
シャルティの元に向かおうとしていたグルナは咄嗟に転がったが、完全にはかわし切れず、肩口を切り裂かれる。地面に落ちた血を吸って、根が妖しく蠢いた。
『そして変質してしまったそのヨミツキを、我は取り込み力とすることができると分かった。誰でもないこの我だけが! これぞ天意よ!』
さらなる大樹の攻撃を、精霊たちはかわし続けた。受け止めるなど論外だった。巨大な木の根は質量もあり、素早いその一撃の力はオーガの一撃を超えている。なおかつ、刺されば枯れたヨミツキと同じ目に遭ってしまう。
『もっとも、成熟したヨミツキは変異しにくい。苗木や若木の段階でなければ意味がなく、ここまで成長するには時間がかかってしまったがな』
(それでオーガは、公園ではあのような行為を……)
クラウスの中で、オーガが成熟した桜を傷つけたり、若木の中でも傷付けるのと持ち去るので分かれていた謎が解けた。根の攻撃をかいくぐると、神人たちの援護に向かう。
「まっすぐ駆けよ!」
神人たちを保護すべく、突進してきたオーガの前に立つ。掲げた盾で攻撃を受け止め、耐える。グルナがそこでオーガに斬りつけ、体勢を立て直す時間を稼いだ。妖満月の君が嗤った。包囲するオーガたちを制して止まらせる。
『さぁ、トランスせよ。この状況でどれだけあがけるか。我が直々に相手してやろう』
幹に埋もれた男が再び眠りにつき、大樹近くの地面が盛り上がった。飛び出た根は膨れ上がると、男とまったく同じ容姿を形作る。六人の前で薄笑いを浮かべる。
『神人には我が供物としての敬意を表し、願いを聞き届けてやろう。精霊を殺され、怯えながら最期を迎えるか。それとも男どもの目前で命を吸い尽くされ死ぬか……選ぶがよい』
●
――Youre My Best Friend!
――我に代わり力となれ!
――光と風、交わり紡ぐ先へ!
三組のウィンクルムがトランスを行い、オーラが解き放たれる。シャルティが矢をつがえた。
「教えてあげる。男はおしゃべりが過ぎると嫌われるわ」
矢が放たれ、妖満月の君が腕を薙いだ。衝撃波が生じ、水晶の矢が砕け散る。
『その言葉、高くつくぞ』
「どうかしら?」
シャルティが冷たく返した時には、グルナが大剣をデミ・ギルティに叩きつけている。
がす、と奇妙な音が響いた。
『植物の身体というのは、便利なものでな』
妖満月の君の腕が膨大化し、分厚い盾を形成していた。大剣の刃はそれにめり込んだまま、止まっている。
『堅固なうえ、適度な重さがある。水分調節で変形も自在だ』
衝撃波が大気を震わせ、グルナが地面に叩きつけられた。吐血する彼へと、男は今度は手を長剣状に変えて振り下ろす。
『まず、ひと――』
声は銃声にさえぎられた。長剣はクラウスの盾が受け止め、ハロルドとディエゴの集中砲火が妖満月の君に突き刺さる。男の表面に銃痕が穿たれていく。
『――少し効いた。中々楽しいな』
だが、現れた男がそう言うと、全身にめり込んだ弾丸が抜け落ちていった。穴だらけになった男の身体は修復されて元通りになっていく。
『この身を構成する植物組織は堅固。加えてヨミツキはもともと耐火性。この程度の銃火、何ほどでもない』
「それでも、無傷ではあるまい」
完全に治りきらぬうちに、ディエゴとハロルドが再びトリガー。その後方ではクラウスがグルナにファストエイドをかけ、治療にあたる。シルキアとシャルティは銃撃の援護をしつつ、包囲からの脱出路を探す。
だがいかんせん、敵の数が多すぎる。
「ぐぁっ!」
衝撃波と、苦鳴。
ハロルドをかばう形で、ディエゴが直撃を受けた。そのまま倒れてしまう。
「ディエゴさん!」
『もはや勝負あったか?』
妖満月の君が剣を振り上げる。
『光栄に思え。全員我が養分に…………?』
途中で動きを止めたデミ・ギルティ。振り返った彼につられるようにして、全員の視線が巨大なヨミツキへと向いた。
トランスをした新たなウィンクルムがいた。神人が瘴気を漂わせる幹に触れようとする。
『バカな! やめろ、我に触るな!』
デミ・ギルティが叫んだ直後、神人のオーラが瘴気と触れ、爆発を引き起こした。新たなウィンクルムのうち、神人が衝撃で吹き飛ばされる。ヨミツキの大樹は幹がごっそりと削られ、そこから輝く球体が飛び出してきた。精霊がそれを手にする。
転瞬、ヨミツキの大樹に鳴動が起こる。
『お、おのれええええ! 我の種子がぁ!』
苦しむデミ・ギルティ。先ほどとは打って変わった、余裕を無くした表情だった。
そこへ、
「加勢する、今のうちに退避を!」
別の場所から他のウィンクルムたちが現れ、包囲していたオーガに攻撃を開始する。
六人の視線が交わった。状況はまだよくわからないが、絶体絶命の中にチャンスが生まれている。
『この、下郎めが!』
光る球体と、気絶したらしい神人を抱えた精霊に怨嗟をもらす妖満月の君。その背から羽が生え、飛翔を始める。
「させるか」
しかしその時には、グルナが猛然と地を蹴り、振り抜いた剣が男の身体を半ばまで両断している。
『なに!?』
「お前、さっきより斬りやすくなってるな」
瞠目する妖満月の君へと、グルナが立て続けに剣を振るう。植物の腕や足を斬り飛ばし、続くディエゴの銃撃がそれらを討ち抜きつぶしていく。
「確かに弱くなったな。さっきのあれが力の源か何かというわけか。ならなおさら、そちらには行かせるわけにはいかないな」
次々と斬撃と銃撃が男に放たれる。
『おのれ、許さぬ、貴様らも許さぬぞ! 何をしているオーガども、こいつらを殺せ!』
命じられたオーガたちはしかし、包囲していたウィンクルムを狙うか、新たに攻撃してきたウィンクルムを狙うか判断に迷ったようだった。結局、それぞれがバラバラに動き出す。
当然包囲は崩れ、突破口が開かれた。
「クラウス!」
「心得た!」
シルキアの魔法陣と、クラウスの光の輪がオーガたちの侵攻を阻む。生じたスペースを残る神人たちが駆け抜けた。
「今度はこちらの番です」
ハロルドの弾丸、シャルティの一箭(いっせん)がオーガに命中し、ひるんだところでシルキアのトランスソードがとどめをさす。
「グルナ、もういいわ。撤退しましょう!」
シャルティの言葉に、グルナはデミ・ギルティの首を斬り飛ばした。中指を突き立てる。
「だとよ。命拾いしたな?」
『侮辱は許さんぞ! 樹の暴走さえ収まれば貴様など……』
パァン! とディエゴの弾丸が頭を吹き飛ばした。
「力を取り込み過ぎた……といったところか。貪欲さが仇となったな」
見れば、ヨミツキの大樹は根がのたうっている。幹にいるデミ・ギルティの本体が無傷である以上、あれが収まればひとたまりもない。
早急に避難する必要があった。
――A.R.O.A.に早く伝えないと。
「こっちだ!」
オーガが追ってくる中、クラウスの誘導に従い、残る五人も結界の出口を目指す。
背後から聞こえる、大樹の暴れる音。それはまるでデミ・ギルティの怨嗟のごとく、不気味で激しかった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 叶エイジャ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 推理 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 難しい |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 3 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 04月08日 |
出発日 | 04月15日 00:00 |
予定納品日 | 04月25日 |
参加者
会議室
-
2016/04/14-23:50
ああ、問題ない
二人ともありがとう -
2016/04/14-23:39
>位置関係
ハロルドさんの数メートル後ろを道沿いに追随
としていますが[13]のでいうと最後尾に当ると思います
これで問題ないでしょうか? -
2016/04/14-23:35
13で上げてもらった図の通りだとナノーカ組の後ろで追跡っていう感じで書いてるわ。
解釈違いだったらごめんなさい。 -
2016/04/14-23:03
悪い、プランを改めて見返したんだが
肝心のそれぞれの位置関係の記載が抜けてしまっていた
悪いがそこも、文字数の融通が利くなら記載を頼む -
2016/04/14-20:33
道具の申請はインカムと、隠密用の布を書いておいた
文字数が足りないので携帯を持つ者は各自で頼む -
2016/04/14-20:24
わかった
任せろ -
2016/04/14-20:15
>ディエゴさん
あ、お願いできますか>ナノーカ
こういった役を努められる度胸はまだないので
お願いできれば感謝感激です -
2016/04/14-20:08
インカムが通らなかった場合に備えてのライト合図だからな
通るなら良いんだ
距離を開けるなら小声で伝達しあう分には問題ない…と思う
未知のオーガだ、絶対とは言えないが
こちらのプランは主に
神人→インカムが通らなかった場合の合図提案・情報記憶(PL:これは文字数が許すなら皆さん書いた方が良い行動指針かと思います)
精霊→カモフラ・撤退戦闘を中心に書いている
>ナノーカ
不安なら変わろうか?
ナノーカ組だったとしても固まって動くのには問題ないだろうし
神人の文字数はある程度修正できるぞ
-
2016/04/14-20:01
ディエゴさんは図、ありがとうそんな感じで良いと思うわ。
>ライト合図
ええと。私はナノーカ持ってないからモニターチェックは持ってる人に任せるようになるわね…
マグナライトはさっき手に入れたからライト合図なら対応できるわ。
>途中ばれた場合の対処&発見時の撤退作戦
こっちも、それで問題ないと思うわ
>苗木
…そう、ね。状況次第で取り返せるか変わると思うし難しいかもしれないけど
苗木は追跡中に取り返せそうなら試みても良いんじゃないかしら。 -
2016/04/14-19:50
>追跡時のポジション
仮配置を拝見して
精霊が一人先行するスタイルなんですね
提案時は精霊が皆先行組というイメージでしたが
こちらの方がスムーズそうです
>途中ばれた場合の対処&発見時の撤退作戦
はい、固まって移動でいいと思います
>苗木の奪還
可能であれば回収したいですね
>ライト合図
インカムの申請が通らなかった場合の手段という認識でいますが
モニタチェック係りから後ろの人は小声ならインカム連絡問題無い様に思います
ライト合図と小声でしゃべるのはばれるリスクそう変わらない感じです
>ナノーカ係りとモニタ係り
言い出しっぺの法則、私達が努める事になるのでしょうか?(不安)
ナノーカは所持しています
誰がされてもいいと思いますがモニタに送るハンドサインに関して考えてみました
・順調に追跡中
・警戒
・到着
・ばれた時はインカムに「ばれた!」
で良いのかな -
2016/04/14-16:43
訂正を
[11]で・オーガ3体以上で撤退
と上げましたが、2体以上いたら撤退の方が良さそうです
複数体居るという事は戦闘中にまた増えるかもしれない可能性があるなと気付きました
とりあえずこれだけ
他発言まとめている所です -
2016/04/14-15:10
悪いな・・・投稿してみるとわかりにくい図だ
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2016/04/14-15:10
なるほど、賛成だ
オーガナノーカは前方安全も兼ねることができるんじゃないか
全員が持つ必要はないとは思う
モニタチェックで確認したら神人は他の組でハンドサイン等で他の組に合図する
↓
移動開始、ライト合図でお互いの位置を送りあう…とか
指揮するものは声を発しているだろうからわかりやすいだろうな
苗木を集める目的か…前回のイベントの怨嗟の金平糖を思い出した
あれの桜版を作ろうとしているんじゃないかと、まあ、これは追跡成功してからだな
>途中ばれた場合の対処&発見時の撤退作戦
俺も神人も遠距離攻撃ができる武器を持っている、撤退時は一番に足を狙いながら後退しようと思う
咄嗟にスキルが出せないと負傷させられる危険も増えるだろうから、こちらは固まって移動しようかと考えているがどうだろう
追跡途中の場合は苗木の奪還も目指してみるか?
追跡成功後の奪還は、おそらく無理だろうが。
追跡中のポジションを図にしてみた、こんな感じで良いか
●:精霊 ◎:神人 ☆:オーガ
☆
I●(ナノーカ所持) I
I I
I◎(モニタチェック) I
I I
I (ハンドサイン)●I
I ↓ I
I (ライト合図)◎I
I ← I
I◎●(ライト合図) I
ウィンクルムの位置や合図は今のところ仮として -
2016/04/14-14:40
ナノーカって、小型カメラのついたアヒルだったかしら…(考
敵にバレないようにする工夫、シルキアさんが上げてくれたので良いと思うわ。
だけど話し声が聞こえたりしたら、こちらの存在がバレるだろうから
会話はできる限りは避けた方が良いかもしれないわね -
2016/04/14-13:26
思いついた事を上げます
>追跡成功率を上げるための工夫
・オーガナノーカを精霊に持っていてもらい、神人がモニターチェックして先行組の状況と有事の連絡に
・ライト点灯時は服などで布被せて光量抑える
>追跡成功時、どの程度情報を取得して帰還するか、引き際
・オーガ3体以上で撤退
・場所情報の把握
・指揮する何者かいたらその見た目把握(オーガか、ギルティか、マントゥールか
・苗木集めてた理由の推測材料の取得 -
2016/04/14-10:55
よろしく
必要そうな道具提案ありがとう
携帯電話が無理そうなら、レベル2ではあるがハロルドの【記憶力】を使う
これまでに申請が却下された事は考えても少ないが、一度インカムが却下されたことがあった
だから、もし通らなかった場合のケアも考えておこう、難易度【難しい】だしな
…ハンドサインとか、マグナライトがあれば点けて一瞬で消す、等の合図とか
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2016/04/14-10:44
話進んでる最中でわりぃ。
どうも気になるんで入らせてもらうことにした
ハードブレイカーのグルナと神人シャルティだ
ジョブ的にはバラけてるっぽいな
もし戦闘になるようなことがあっても戦いやすくはある、か。
ざざーっと発言は確認したが取り急ぎ挨拶だけにしとく -
2016/04/14-10:39
人が増えましたね
よろしくお願いします
盛り込む情報上げて頂き
考えやすくなりました
ありがとうございます
>行き着く先
集められた苗木と運んできた他のオーガと
それを指揮している何者か、が想像できます
尾行成功したら戦闘が困難と判断できる場合は観察だけで撤退に賛成です
必要そうなもの上げておきます
◆インカム
◆闇に紛れるマント的な羽織るモノ
◆記録用に携帯電話(便利過ぎて無理そう? -
2016/04/14-10:24
現人数で追跡の場合
何をプランに盛り込むべきなのか思いつく限り羅列してみる
これも追加したほうが良い、とか、それは違う、というのがあれば突っ込みくれ
・追跡の方法・位置(【4】で案有)
・追跡成功率を上げるための工夫
・途中で追跡がばれた場合の対処
・追跡成功時、どの程度情報を取得して帰還するか、引き際
・追跡成功→敵に発見された場合の撤退作戦
…こんな感じか
分担して書いて、共有事項としておけば良いか
どちらにせよ引き際はきっちり決めるべきかと思う
情報が取得できるならそれに越したことはないが、負傷は避けたい
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2016/04/14-02:16
いや、この一日で何とか頑張ろう(笑)
シルキアの案でいいと思う
相手は知性はないが強敵とあるしな
ばれたら神人が突っ込むのではなく
精霊が後退する、というのが安全かと。
苗木を二つ三つ持っている状態なのなら、一匹の相手はそう難しいものではあるまい
問題は行きつく先がどうなっているかだ
最後まで隠密できれば良いが、複数オーガがいる状態で尾行がばれたら大事だ
建物に隠れつつ、尾行し、何らかの場所や行動の一片でも掴むことができるなら撤退も視野に入れたほうが良いかなと思う。
この人数、あまり深入りはできないだろうし。 -
2016/04/14-01:48
しまった
商家の人々に被害が出るかもという懸念はプロローグにありました
失礼しました -
2016/04/14-01:19
入っていいか戸惑いはありました(汗)
追跡の仕方について少し考えていました
トランス維持中のトランスオーラと神人を感知されない為に
トランスせず、精霊が先行して追跡し、神人が離れて追随する方法なんですが
難易度的に尾行を完遂するならこのくらい必要かと思いました
ばれたら精霊が神人の元へ走りトランスする形です
1つの案です
苗木は玄関にでも置いておいたら持って行ってくれるでしょうか
いつもと違って警戒されるかな?
家の人に被害が出ない様にと思うんですが(メタ的になさそうですが) -
2016/04/14-00:41
シルキア、クラウス よろしくな
正直流れると思っていたから具体的な方針は決めていなかった…(汗
この人数で追跡ならやりやすそうであるな、敵にばれなければの話だが -
2016/04/14-00:18
シルキアとクラウスです
よろしくお願いします
滑り込み参加失礼します
前に出発した依頼とつながりがありそうなので気になっていました
希望は尾行です -
2016/04/11-07:13
ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロだ
まだ人はいないが思うところを書き込んでおく
俺個人としては追跡が気になるが、撃破でも良い
メンバーと相談次第で方針を固めたい