【薫】うおわ、くっせ!!!!!(寿ゆかり マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 今日は精霊と一緒に外食にきたあなた。
 パンチの効いたものが食べたいな。
 何にしようかな。
 これなんて元気が出るんじゃない?
 なんて相談しながら、メニューを見る。

 ――やめておけばよかったものの。

「すみませーん、えーっと、ガーリックライスステーキ添えお願いします」

 初めて入ったこのお店。
 ガーリックの量が尋常じゃなかった。
 ――すっごく におう。

「おいしい!」
「こんなに美味しいガーリックライスはじめて!」
 皆が口をそろえてそう言うが、この店のなか、そう言えばものすっごく
 ガーリックくさい。

 今日このまま帰るなら良かったんだよ。
 違うんだよ。
 今日はこの後買い物に行ったりとか、なんかこう、色々あるんだよ!
 このにおいのままじゃ会えないんだよ……!

「どうしよう!」
 そんなあなたに差し伸べられた救いの手。

 レジにて会計を済ませた時に、店長がニタリと笑った。

「……最強の口臭対策タブレットがあるんですよ」
「えっ」
「なにそれ、下さい」
 もちろん飛びつく二人。
「ただじゃあ渡せませんね……」
 ニタリ。
「お金なら払いますから!」
「おかね……? あたしゃそんなもんが欲しいんじゃない……」
 じゃ、じゃあどうすれば……顔面蒼白であなたが尋ねると。

「ここで、キスを」
「は?」
 精霊と顔を見合わせるあなた。
「お安い御用だよ、な」
 幸い、この二人はそんなことで照れる二人ではなかった。
「お、おう!」
 そしてゆっくりと近づく顔。
「くっさ」
「くさっ」
 顔をそむけ合う二人。
「がんばって」
「きーす! きーす!」
 いつの間にか店員が集まり周囲で手拍子を始めている。
 恥ずかしい。
 何なんだこの店。
 ああ、でも致し方ない――やるしか、ないのだ!

解説

●ガーリックくさいのを消すタブレットを獲得せよ!(!?!?!?)
 一緒にご飯を食べたので、二人合わせて400Jr消費致します。

 とってもとっても美味しいガーリックライスとステーキを提供してくれるお店です。
 でも、においがきょうれつ。
 早く消したい! ということで、タブレットを貰わなきゃいけないんです。
 そのために店長の目の前でキスをする必要があります。
 キスなんて今更照れないぜ! という方も、このにおいでキスっておい! となってください。
 人前でキスなんて恥ずかしいよ……! しかもくっさい! でもOKです。
 この後人に会うとか、なんやかんや理由があって口臭は絶対消したいんです。がんばれ。
 もちろん、ガーリックライス&ステーキの感想や食べているときの描写、
 終わってタブレットを食べて「息スッキリ~!」の描写も致します。
 が、ほぼキスシーンな気がします。
(ガーリックライス以外のメニューの注文も可ですが、必ずニンニクたっぷりのものにしてください)

*公序良俗に反さないようお願いします。

ゲームマスターより

 初恋はレモンの味って言ったやつ誰だ
 怒らないから出てきなさい

 薫エピなのにギャグですまん。けど、反省はしていない。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アオイ(一太)

  お店に入った時から薄らわかってましたけど、これで外歩くのは厳しいですね…。
キス…(腕組んで考え、あっ!って顔をする)

いち、早くしちゃいましょう。
息止めててくださいね。
僕は別に気にしません。
だってそういうもの食べたんですから。

……なんで逃げるんですか。
いつもクマ(ぬいぐるみ)にしているのと同じだと思って。
大丈夫、口にはしませんから。
場所は指定されていませんもんね(にっこり)

え?いちからしてくれるんです?
まあ僕がクマの役目ならそうですよね。
はいはい、目を閉じ……って、痛っ!
ひどい……。

タブレット、ありがとうございます。
これで一安心ですね。
(両手口にあてて、息はってする)



レオ・スタッド(ルードヴィッヒ)
  いや、確かに今日はステーキ食べたいって言ったわよ?
(それで、どうして男とキスなんて…

絶対イ・ヤ・よぉ!なんで私がこんな奴と…
ちょ、なにがさぁ来いだよ!?
(た、確かに女の子の前でこんな醜態を晒したくは…でも男とキスってあり得ないでしょ…
てか…あんたはいいのぉ?
(慣れてるってどういう意味!?
…解ったわよ(肩に手を置き
(一瞬我慢すれば、恥を晒すよりは…けど、こんな形でルードとキスなんて…

…!?
(…キス、しちゃった…
…っ!(押し退け

クソ、マジかよ…(唇ゴシゴシ
…それに?(タブレットガリボリ
バ、バカじゃないの…顔が好み?(嘲笑
私は…あんたなんか、大嫌いなんだからね!!
(なんだよ、顔『は』好みってこと!?


ローランド・ホデア(シーエ・エヴァンジェリン)
  まったく悪趣味な店だな
食事が美味かったから許してやるが…
大蒜は入れるとなんでもうまくなるくせに、なぜこうも悪臭を放つかな
これこそハイリスクハイリターンというやつか

ほら、シーエ。さっさとヤるぞ
どうした?ほら、もっと近く寄れって
どっちも同じモン食ったんだから、匂いなんて気にするかよ
妙に恥じらうな…??(怪訝
いつもなら時間に煩い(秘書だから)お前が急かす方だろ

オイ店主、舌は入れなくていいんだろ?(にや
(みせつけるような余裕のキス)

…そういえば、お前とキスするなんて初めてだったな
まぁ事故だと思って忘れてくれ
大蒜味のキスなんて色気もないしな
…?どうしてそんな顔するんだ…(戸惑い

実は悪臭はスラムで慣れてる



 レオ・スタッドは冷や汗をだらだらと垂らす。
「え、なんで? なんでキス」
 店長はワクワクした顔でこちらを見ている。
「……条件を飲まないとタブレットは手に入らないようだが?」
 ルードヴィッヒは面白いものを見る目でレオを見遣る。
 そもそも、お前がステーキを食べたいと言ったからこの店に入ることになったのだからお前に責任があるだろうと呟くルードヴィッヒに、レオは口角を引き攣らせる。
「いや、確かに今日はステーキ食べたいって言ったわよ?」
 でも、それでどうして男とキスするなんて話になんのよ、と眉間にしわを寄せる。
「どうしてって、見たいんです。あたしが」
 しれっと告げる店長にレオは首を横に振る。
「絶対イ・ヤ・よぉ! なんで私がこんな奴と……」
「接吻で済むなら安いな」
 レオの反応に反し、ルードヴィッヒはさらりと言い放った。
「はぁ!?」
「さぁ来い」
「ちょ、なにがさぁ来いだよ!?」
 ツッコミが追い付かない――!
 レオは余裕綽々のルードヴィッヒに苛立ちを覚えながら睨みつける。
「俺は我侭に付き合わされた被害者だ、責任をとれ」
 ぅぐ、とレオは言葉を飲み込んだ。そう、今日はどうしてもお肉の気分だったのだ。
 ここのステーキは美味しいと雑誌で読んで知っていたから、たまたま通りかかってスルーなんてできなかった。どうしてもここがいい、と駄々をこねたのも事実と言えば事実。
 実際、味は良かった。
 とても美味しかった。でも、こんなことになるなんて誰が予想した?
「それとも女だらけの職場にそのまま行くか?」
 唇を噛みしめ、レオはルードヴィッヒをじっと見つめる。
(た、確かに女の子の前でこんな醜態を晒したくは……)
 彼の薄い唇が意地悪く弧を描くのが目に入り、悔しくて目をそむける。
(でも男とキスってあり得ないでしょ……)
「俺も後ほど仕事だ、早急に対処したい」
 冷たい声でそう告げられて、レオはぐぬぬと唸りながら顔を上げる。
「てか……あんたはいいのぉ?」
 男よ? 私男よ? わかってんの? と。男同士のキスに抵抗は無いんですか。そう尋ねると、ルードヴィッヒはさらっと吐き捨てるように答える。
「……俺は慣れている、早くしろ」
(慣れてるってどういう意味!?)
 レオは訳が分からずその衝撃発言を脳内で繰り返す。
 慣れてる? キスに? いや、この場合あれでしょ、『男同士のキス』に慣れてる!? 何それ。ぐるぐると脳内で考えを巡らすレオに、ルードヴィッヒは冷たい声を投げかける。
「スタッド」
「……解ったわよ」
 一瞬。一瞬だけだもの大したことじゃないわ。
 レオはそっとその整った手をルードヴィッヒの肩に置く。
(一瞬我慢すれば、恥を晒すよりは……けど、こんな形でルードとキスなんて……)
 息を止め、ルードヴィッヒの整った目鼻を見つめる。
 キスを待つルードヴィッヒは冷めた視線で自分より少し高い位置にあるレオの瞳を見つめた。
(やはりプライドが邪魔するか……)
 ふるふると肩に置かれた手が震えているのに気付いて、ルードヴィッヒは笑ってやりたくなるのを堪える。
(頑張りは認めてやろう)
 ぐい、とレオのネクタイを引く。
「……!?」
 重ねられた唇。ゼロ距離になる二人。
 レオは驚きに目を白黒させている。
(……キス、しちゃった……)
 店長は小さくガッツポーズをしている。
「……っ!」
 たくましいレオの腕が、弱弱しくルードヴィッヒの肩を押し退ける。
「ごちそうさ……ありがとうございました! こちらタブレットでございます」
 2個のタブレットを渡し、店長は深くお辞儀をする。
「あぁ」
 受け取り、ルードヴィッヒはそれをレオに一つ渡してやった。
「……ックソ、マジかよ……」
 ごしごしと唇を拭いながら悪態をつくレオ。ふん、と鼻を鳴らし、ルードヴィッヒは何もなかったかのように腕を組みなおす。
「お前が来ないからだ」
 ぽりぽりとタブレットを噛みながら、ルードヴィッヒはレオを振り返る。
「それに……」
「……それに?」
 先刻の鬱憤を晴らすかのようにがりぼりと豪快にタブレットをかみ砕き、ごくんと飲み込んでレオは聞き返す。
「恥じらう顔が可愛くてな」
 ずい、とレオに顔を近づけニヤリと笑うルードヴィッヒ。
「は、はぁ!?」
 至近距離で見つめられると、鼓動が跳ねあがってしまう。
「……やはり俺好みの顔をしている」
 更に近く。レオの耳元でそう囁き吐息を吹きかけると、レオはぴくりと肩を揺らした。
「バ、バカじゃないの……顔が好み?」
 ハッ、と嘲笑するも、レオの心臓は早鐘を打っている。
 ようやっとレオから離れたルードヴィッヒは意地の悪い微笑みを浮かべたまま、一度だけ頷く。
「私は……あんたなんか、大嫌いなんだからね!!」
 かぁっと頬を染めてぷい、とそっぽを向き、ずんずんと歩みを早めるレオにルードヴィッヒは低く笑った。
「……くく」
 ――そうだ、もっと俺を意識すればいい。
(なんだよ、顔『は』好みってこと!?)
 ずんずんとルードヴィッヒの先を歩みながら、レオは憤る。
 ――え? 顔『は』好きって言われて、どうして苛立ってるの。
 別に、傷ついてなんかない。
 ……でも、理由のわからないもやもやが胸を占めている。
 レオは、やや不機嫌な顔のまま仕事に行くわけにもいくまいと、軽く頬を叩いてはぁっとため息をついた。


「キス、おねがいしまーす!」
 超爽やかな笑顔で店長は告げる。一太はひきつった笑みを浮かべて呟いた。
「もっと考えて店選べばよかった……」
 思わず出た本音。こんな無茶振りされるとは思わなかったし、なによりガーリックを食べなければこんなことになることも。――否。すぐにそれが失言と判断し、一太は店長に謝罪する。
「いや、美味かった。すまない、失礼なことを言ったな」
「えっ、そんな風に言って頂けるなんて照れる……あっ、でもでも、タブレットはキスでお渡しすることにしてますんで、でへへ」
 やっぱこいつなんかむかつく。そう思わずにはいられない。
「お店に入った時から薄らわかってましたけど、これで外歩くのは厳しいですね……」
 アオイは自分の口臭を気にしながら、んー……と考え込む。
「しかしキスか……」
 うぬぬ、と唸り、眉間に深く深くしわを刻む一太。
「キス……」
 腕を組んでややしばらく考え込むアオイ。そして、あっ! と声を上げなにかを閃いたというような表情を見せた。
「いち、早くしちゃいましょう」
「えっ」
 そっと一太の肩を掴み、アオイはそんなことを言うもんだから。
 一太はおろおろと狼狽える。
「えっ、早くするって、えっ」
 ニコッと笑ったアオイは気にするふうでもなく言い放つ。
「息止めててくださいね」
「や、それはお前もだろ」
「僕は別に気にしません。だってそういうもの食べたんですから」
(って絶対しねえだろ。こんな状況でキスとか……!)
 さあ、さっさとしちゃいましょう! 笑顔で迫ってくるアオイに一太はふるふると首を横に振る。
「ってアオイ、なんでそんな作業みたく、いや作業だけど!」
「……なんで逃げるんですか」
アオイが顔を近づけるとその逆を行くようにしゅしゅしゅ、と、一太は顔を避ける。
「そりゃ逃げるだろ!」
 ――だって恥ずかしいじゃないか!
「いつもクマ(ぬいぐるみ)にしているのと同じだと思って」
「クマとは違あぁぁう!」
 え。
 ――一瞬一太が固まる。
「ってか、クマのこと知ってんのかよ!」
 かかか、と一太の頬が赤く染まっていった。
 知ってますよ、と頷くアオイに、今度は青ざめる一太。
「いつ見たんだ、俺自分の部屋でしかしてなっ」
 墓穴。
「……あああ」
 がっくりと膝を折る一太。あーあ認めちゃった。お部屋でクマにちゅってしてるの、認めちゃった。店長はなんて可愛い子なの……と漏らしている。
「大丈夫、口にはしませんから」
 え? と一太はアオイを見上げる。
「場所は指定されていませんもんね」
 にっこりとほほ笑むアオイに、一太はあぁ、と合点がいった。
(そうか、口じゃなくてもいいのか)
 となると、一気にハードルは下がる。……というよりも、唇にしなければならないと思い込んでいた自分がなんだかちょっと恥ずかしくなってきた。
「さ、いち」
 手を取り一太を立たせてアオイはゆっくりと唇を近づける。
「いい、俺からする」
「え? いちからしてくれるんです?」
 こく、と頷く一太。そして、二人の間の身長差に一太は提案する。
「届かねえからちょっと屈め」
「まあ僕がクマの役目ならそうですよね」
「~~~~!!」
 もうその話は無し! そう言いたかったけれど、それよりなによりこの状況を早く打破せねば。
「目、閉じろ。なんか恥ずかしいだろ」
 一太は目を開けたままのアオイとバッチリ視線がかち合ってしまい、むぅと口を尖らせる。
「はいはい、目を閉じ」
「動くなよ」
 その瞬間、一太はアオイの鼻をつまむ。
「……って、痛っ!」
 においがわからないように。息を止め、そのままアオイの唇の横に軽く一瞬だけ口づけて、一太はすぐに離れた。
(こいつは普通なんだよなあ……緊張してるの俺ばっかかよ)
「ひどい……」
 いきなりそんなぎゅって鼻つままなくても……、とアオイは涙目で訴える。
「これで良いか?」
 首をかしげる一太に、店長は一度だけ大きく頷く。
「ホントは唇が良かったとか思っちゃったりしちゃったりもしなくもないんですけど、めちゃくちゃ可愛かったのでOKですふひひひひひ」
 ほんと、なんかむかつく奴。
 タブレットを受け取り、アオイは店長に頭を下げる。
「ありがとうございます」
 ひょい、とタブレットを取り出して口に放り込み、噛み砕いてゆけばすぅっとミントの香りが口の中を爽快な香りに変えていく。
 両手で口を覆い、はぁ、と息を吐き出してアオイは確認し、頷いた。
「これで一安心ですね」
 心なしかげっそりと疲れ果てた表情で一太はタブレットを口に運ぶ。
「……よかったな、これで外安心して歩けて」
 ぽり、ぽり、と哀愁漂う音が一太の口内に響く。
 本当に、この神人は鈍感と言うか天然と言うか……。
 そのおかげで救われた感も否めないが、一太はもう一度、大きくため息をついたのであった。


「とゆーわけで、キスをお願いします!」
 カタギでない雰囲気をさせている二人を目の前にしても、店長は笑顔でそう言い放つ。
「まったく悪趣味な店だな」
 ローランド・ホデアは呆れたような視線を店長に投げかけ、小さくため息をついた。
「食事が美味かったから許してやるが……」
(意訳:美味くなかったら多分しばき倒している)
「でへへー、あざーっす!!!」
 店長は目尻を下げて調子良くそんな返事を返している。
(大蒜は入れるとなんでもうまくなるくせに、なぜこうも悪臭を放つかな……)
 ローランドはそんなことをぼんやりと思いながら、傍らにいるシーエ・エヴァンジェリンを見遣った。
(これこそハイリスクハイリターンというやつか)
 美味かったことには変わりないし、まあ、キスくらい何という事はない。さっと済ませてさっとタブレットを頂いて帰ろうか。
 一方、シーエはというと、頬をほんのり赤く染めておろおろしているではないか。
(どんな状況だろうが、若とくちづけ出来るだなんて!)
 なんとなくローランドをまっすぐ見つめることが出来なくて、ちらちらとその横顔を盗み見るようにしている。
(ああもう夢のようで……匂いだとか人前だとか、そんなこと全然気にできる余裕なんざねえ!)
 ――若と、くちづけ……!
 卒倒しそうなほどに甘美な条件。
 願ってもいないチャンス。
「シーエ」
 ローランドの呼びかけに気付かず、1人ではわはわと想像を膨らませている。
「ほら、シーエ。さっさとヤるぞ」
 ぽん、と肩を叩かれ、ようやく現実に引き戻されるシーエ。
 ローランドは、どうしたんだ? とでも言いたげな顔でそんなシーエの顔を覗き込む。
「えっ、ああ、ハ、ハイ!」
 そうは言いつつも、体が震えてしまってローランドに近づけない。
 ローランドは首をかしげる。
「どうした? ほら、もっと近く寄れって」
 ぐい、と肩を引き寄せる。まるで生娘のようにシーエの肩が跳ねた。
「いや、その、心の準備が……」
「は?」
「……いえ、なんでもありませんハイ」 
 あぁ、と納得したように頷き、ローランドは答える。
「どっちも同じモン食ったんだから、匂いなんて気にするかよ」
 シーエは、においを気にして『心の準備』と言ったわけではない。
 『若とくちづけする心の準備』が、出来ていないのだ――!
 けれど、そんなことにローランドが気付くはずもなく。
「そ、そうですね!」
 顔を赤らめ、もじもじするシーエにローランドは怪訝そうに問う。
「妙に恥じらうな……??」
 ようやっと恥じらっていることに気付いた。
「え、と、あの……」
 なんといえばいいのかわからない。シーエはしどろもどろになりながら視線を逸らす。
「いつもなら時間に煩いお前が急かす方だろ」
 いつもは秘書として次はあれだ、次はどこだと俺を急き立てるくせに、今日はどうしてしまったんだ? と首を傾げられると、シーエはうっと言葉を詰まらせ、そして誤魔化すように笑った。
「さっさと、さっさとしてしまいましょうね、はい!」
(ううう……勿体ない……)
 さっさとなんて……折角のくちづけなのに……心の中では乙女がファーストキスを想うようにさめざめと泣きいたるシーエ。
「そんなに嫌なのか?」
 ローランドが気遣うように問うと、シーエは大きく首を横に振る。
「いえいえ、嫌がるなど滅相も!」
「じゃあ、良いだろう」
 くい、とシーエの顎を持ち上げ、わずかに見つめ合う。
(なんでこう、若はそう、思い切りがいいというか男前すぎるというか……)
 絡み合う視線に、シーエはばくばくと鳴り止まない心音を抑えることで必死だった。
 ふわり、と形の整った柔らかなローランドの唇が降りてくる。
 ――瞬間、気付いた。
(……ああ、俺のことなんざ、何でもないから、どうってことないのか……)
 ぎゅう、と胸の奥が狭くなるような切なさ。
 届かない思いに心がずたずたにされるようで。それでも、キスはこの上なく甘くて、優しくて。見せつけるかのように何度か角度を変えて重ねられたその唇がゆっくりと離れるのを名残惜しく見つめると、ローランドが蠱惑的な笑みを店長に向けた。
「オイ店主、舌は入れなくていいんだろ?」
「いれてもいいよ」
 真顔で言い放つ店長にローランドはくつくつと喉の奥で笑った。
「本当に悪趣味だな」
「はは、それは冗談としまして。良いものを見せてもらいました。はい、お約束通りこちらがタブレットです」
 タブレットを受け取り、店から出るとローランドは思い出したように口を開く。
「……そういえば、お前とキスするなんて初めてだったな」
 ――そういえば。そうか、その程度にしか意識していなかったか、そりゃそうだよな。
「ええ、そうですね」
 胸の痛みを押し殺し、シーエは答える。
「まぁ事故だと思って忘れてくれ。大蒜味のキスなんて色気もないしな」
 何のことは無い。そんな風に流すローランドに、シーエは悲しげに眉尻を下げ俯く。
(事故だなんて……)
「……? どうしてそんな顔するんだ……」
 大丈夫か、と戸惑いながらローランドはシーエの顔を覗き込んだ。
「忘れたくなんか、無いですよ……」
 聞こえるか聞こえないかの声でか細く呟き、シーエは唇を軽く噛む。
「シーエ?」
「いえ、なんでも」
 直後には誤魔化すように笑顔を浮かべ、顔を上げた。
「……シーエ?」
(俺だけでも大事な思い出にしよう)
 触れた唇の感覚、吐息、――においは大蒜だったけど。
 それでも、これが若との初めての口づけ。
 それが、若にとって意味を持たない行為であっても、――俺だけの、大事な。




依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月31日
出発日 04月08日 00:00
予定納品日 04月18日

参加者

会議室

  • [4]アオイ

    2016/04/05-17:59 

    こんにちは。アオイと一太です。
    このまま公道を歩くのは、さすがに周囲の皆さんに失礼ですよね……。
    キス……の匂いは息でも止めてればいいんじゃないかって思うんですが、隣の一太が全力で首を横に振っています。
    案外繊細なようです。
    ……って、ほかの皆さんも、すんなりいかない感じでしょうか。
    お話する機会は、残念ながら今回はないでしょうが、どうぞよろしくお願いしますね。

  • [3]ローランド・ホデア

    2016/04/05-00:41 

    難儀な店だな。
    ああ、ローランドと、隣でしどろもどろなのはシーエだ。
    特段絡むことはないと思うが、同じ場所に行きあわせた者としてよろしく頼むよ。

    とりあえず、プランは出しておいた。
    互いに健闘を祈ろう。……健闘でいいのかね?
    なんとなくレオのところは健闘という言葉でいい気がした。

  • [2]ローランド・ホデア

    2016/04/04-19:41 

  • [1]レオ・スタッド

    2016/04/04-16:24 

    はぁーい…レオ・スタッドよぉ……そこのクソ猫耳がルードヴィッヒ…(突っ伏し

    いや、ガッツリ食べたいと思ったんだけどさぁ…?
    立ち寄った結果がコレってさぁ……え、なに?マジ?マジでやんなきゃダメなの?!
    ……。 ちょっとルード、あんたどうにかしなさいよ!!

    ルードヴィッヒ
    「スタッドが肉がいいと言って聞かなかったからだろう、譲歩した俺は巻き込まれていい迷惑だ」

    …ぐぅぅぅっ…!!(テーブルガンガン


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