【薫】君色アイピロー(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「疲れ目に劇的に効くアイピローを作ってみませんかー?」
 タブロス市内、のんびりと買い物を楽しんでいたウィンクルム達に、一人の青年が声を掛けました。
 オープンカフェの一角で、何やらイベントを開催しているようです。
「小豆を入れて作るホットアイピローなんです。眼精疲労の解消にとってもいいんですよ」
 青年はにこにこと、材料を取り出して見せて来ます。
 小豆、様々な布地にスナップボタン。
「小豆を入れる内袋と、カバーを手縫いで作るだけ。簡単でしょう?」
 スナップボタンはカバーに付けて、内袋を自由に取り出せるそうです。
 青年は机の上、見本用に出来上がっている内袋とカバーを示しました。
 確かに縫う面積もそんなに多く無さそう……ウィンクルム達は顔を見合わせます。
「出来上がったアイピローは、こうやって使います」
 青年は、小豆が詰まった内袋だけをレンジに入れました。
 チーンという音と共に、温まった内袋をカバーの中へ押し込みます。
「そして、これが決め手です」
 青年はガーゼを手に取ると、アロマオイルを一滴垂らしました。
「こうしてカバーの中に入れれば……アロマアイピローの完成です♪」
 どうぞ試して下さい。
 そう青年が差し出したアイピローを、ウィンクルム達は使ってみました。
 瞼の上に乗せれば、じんわりと癒しの温かさと適度な重さにほっこりと和みます。
 首の後ろに当てても、ほっと安らぐ温もりと感触です。
「どうです? 今ならお二人で400Jrでアイピロー作りが出来ますよ。是非やって行きませんか?」
 青年の笑顔に、ウィンクルム達は頷いていました。

解説

アイピローを作って頂くエピソードとなります。
自分用に作るのも、パートナーと作って交換するも、自由に楽しんで頂けます。
描写出来るのは、アイピロー作りの様子、パートナーにプレゼントする場合は渡す描写、作ったアイピローを実際に使って頂く所となります。
文字数の都合上、アイピローを使って頂く所の描写は少な目になると思いますので、あらかじめご了承下さい。

プランには以下を明記して下さい。

・誰用に作るか。(自分/パートナー/その他)
・布地の色と模様。(拘りのある方は、布地の種類も)
・手縫いが得意か不得意か。
 (【裁縫】スキルが無くても問題ありませんが、ある場合は得意であるとして扱います。不得意の場合、店員の青年に助けを求める事も可能です)
・プレゼントする場合、どのようにプレゼントするか。
・完成したアイピローをどのように使うか。
 アロマオイルを垂らして使う場合、使うアロマオイルについても記載して下さい。

※アロマオイルは、作ったアイピローにサービスで付いてきます。
 ちなみに、目の疲れに効くアロマオイルは下記のオイルです。
 ラベンダー、ジャーマンカモミール

<場所情報>
・タブロス市内にあるお洒落なオープンカフェ。白いガーデンパラソル、椅子やテーブルが明るい雰囲気。
・コーヒー、紅茶、ケーキを楽しめます。
 注文する場合、別途以下料金が発生します。
 コーヒー、紅茶:50Jr
 ケーキ:150Jr

参加費として、一律400Jr発生いたします。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく『アイピローは癒し』な方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

寿ゆかりGM様主催の『フレグランスイベント』のエピソードです。

アロマアイピローは、目が疲れた時にお役立ちで、癒しアイテムの一つです。
手作りすれば、一層使うのが楽しくなるかも♪
そんな事を思いながら、プロローグを作成しました。

皆様のご参加と、素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)

  (今年は、何かと疲れる事が多そうだからな……。
アイピローであっても、癒して貰いたい)

コーヒーを飲む。
白地の木綿に、濃紺色の糸でアイヌの紋様を刺繍する。
(※裁縫スキル使用、得意)

アイピローを完成させて手を止めた。
さわやかポケTを1枚取り出し、珊瑚の指を止血する。
「……何だ」
見つめられる瞳を無視できない。

珊瑚に見つめられながら、そのアイピローを試しに使った。
ジャーマンカモミールを垂らし、両目を覆い出す。
(糸の不揃いさが珊瑚らしいな)
不意に笑みがこぼれる。

「これ、使う」
珊瑚にそう伝えたけど、本当は……。

本当はアイピローを使う事で、お前を隣に感じる事で、
この先も乗り越えられる気がする、そう思ったから。


フレディ・フットマン(フロックス・フォスター)
  精霊用
芥子色、無地
手縫いは人並
紅茶

えと…目とか、首回りを温める…癒しグッズ、だよ
血行、良くして…凝りを和らげるの…
? あったら…使う、かも
う、うん…?(一緒に作ろう、ってことかな…?

・のんびりチクチク
オジさん、お裁縫上手…だね
そっか…柄も、可愛い
(水玉、好きなのかな

(出来たけど、どうして参加しようなんて…
…え、僕に?
(あ、オジさんの手作り、欲しいのに…そうだ
ち、違うの…これは、オジさん用にって…!
オジさん、2個も使わない…よね、だから…
うん…ありがとう
(よかった…ふふ

帰宅後
オジさんからプレゼント…初めて
あ(オイル見つけ)…同じ匂い
・用意して目元に
(…寂しくなったら、使っちゃおうかな
…大事にするね


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  ※店にいた
紅茶とイチゴのタルト注文

面白そうだな
イェル、互いのを作ろうぜ

紅で無地で作成
オイルはベルガモット選択

最近裁縫練習しててな
作りたいのがあるんだよ
可愛い嫁の式のベール…は無理かも知れねぇけど、刺繍位は頑張りてぇなと※青年へさらっと説明しつつ作業

完成後贈り合う
色が意外そうだな
葉っぱの緑じゃねぇのが意外か?
葉っぱは赤くなるだろ
こういう風に※角にキス
ほらな、同じ色
俺以外に染まらねぇなら、合ってんだろ
俺以外に染められんなよ?
独占欲弱いように見えるのか?
強いに決まってんだろ

俺も大切に使うから
可愛い嫁が頑張って作ったのに無碍にしねぇよ※隙を見て軽くキス
俺が減る?
俺はてめぇが減りそうだが?※ちゃんとキス


楼城 簾(白王 紅竜)
  やってみますと笑っておくか。
紅竜さんにもたまにはいいと思ってねと言えば反論はしないだろう。
彼の手の内を見せるきっかけにしたくてね。

布…これにしよう(青紫の無地布選択)
裁縫は得意ではないので、店員に聞く。
この場限りの交流だ、無難に振舞っておけばいいか。
…中々難しいね。
用途を言わないでおいて良かった。
ラベンサラのオイル自体は僕自身でも問題ないだろうしね。

へぇ。
紅竜さんは僕のこれが欲しいのかい?
…いつから気づいていた。
そうか。興味深い答えだね。
ならば、僕はそちらをいただくとしよう。
綺麗な白色だね。香りもいい。
君の初めての贈り物として受け取っておくよ。

僕がこう見えてるとは酔狂なとは口に出さないでおく。


葵田 正身(うばら)
  眼精疲労の解消……良いですね
――うばら。私は健康体だ。
この所深夜まで読書に感けていたから疲れ目なだけで。
春休みだったが?

うばらは裁縫得意か?
ではご教授願おう

布地は紺地の流水文
カモミールのアロマを頂いておきます

手縫いは不得意なのでうばらの手許を参考に。
料理は毎日の事だが裁縫は機会が無いからな
裁縫道具を何処に仕舞ったか覚えていない
釦?……引き千切ってしまうかな

何とか完成
縫い目が歪んでいる気が……うばらのは見事だな
既製品と較べても遜色無い

良いのか?
では代わりに私の作った物を……押し付ける訳にはいかないか
使わないんじゃなかったのか

就寝前に使う心算です
敢えて告げなかった言葉を思い出しつつ。
“お揃いだな”


●1.

「そうですね、やってみます」
 にこやかに応じた楼城 簾を、白王 紅竜は少し意外な思いで見つめた。
 店員が白いパラソルの下の席を勧めるのに、簾は紅竜を振り返る。
「紅竜さんにも偶には良いと思ってね」
 眼鏡の奥の瞳が形だけは柔らかく微笑むのに、紅竜は瞳を伏せて後に続いた。
 簾と一緒にテーブル席に腰を落ち着ければ、店員が作業の説明を始める。
(どういう風の吹き回しなのか……)
 紅竜が目の前の簾に視線を向ければ、彼は一見リラックスした表情で店員の説明に耳を傾けていた。
「紅竜さんも作ってみる?」
 不意に飛び込んできた声に瞬きすれば、簾が首を傾けて笑っている。
 ──面倒な男だ。
 心の内で溜息。
 簾は警備の対象の相手。
 本日も簾は休日だが、紅竜は仕事だ。
(私の手の内を読みたがっているから、これはその一環だろう)
 紅竜は表情を変えぬまま、頷いて見せる。
(歪んだ計算高さはあるが、聞き分けのいい護衛対象ではある──知る機会が欲しいのは私も同じだ。彼に作ろう)
 満足そうに微笑んで、簾は店員が持ってきた籠の中を覗き込んだ。
 目にも鮮やかな布地が所狭しと詰め込まれている中から、青紫の無地の布を選んで手に取る。
「……これにしよう」
 頷いて、紅竜さんは?と尋ねて来た。
 一瞬だけ考える。目の前の男に似合う色は何だ?
 そうしながら、紅竜の手は無地の白に伸びていた。さらりとした触り心地が良いと思う。
「では、早速縫っていきましょう」
 店員の言葉に、簾は僅か首を傾げた。
「裁断は必要ないのですか?」
「縫うだけで作れる大きさにしていますので、ご安心下さい」
 成程と頷いてから、慣れない手つきで縫い針を持つ。糸の通し方から、丁寧に店員は教えてくれた。
「紅竜さんはもう出来たの?」
「糸を通すくらいは」
 どうやら紅竜は、簾よりは裁縫が出来るようだ。店員の指示に黙々と頷いて、作業を進めている。
(これも彼の一面ってとこかな……)
 簾は眼鏡の奥で、密かに微笑んだ。
「焦らず、ゆっくり作っていきましょう」
「はい」
 店員には笑顔を──この場限りの交流だ、無難に振舞うに限る。
「………中々難しいね」
 針を動かし始めて、少し。
 簾は眉間に皺が寄るのを感じた。
 縫い目は歪んで無残な出来だ。
 目の前で仕上げの作業をしている紅竜を見る。彼の手元の白いアイピローは、こちらより形は整っていた。
(用途を言わないでおいて良かった)
 何とか使えるモノにはなったと思うが、人に贈れるような代物ではない。
 だから、紅竜に渡す為に作ったという事は、このまま秘密にしておこう。
 最後、店員が持ってきたアロマオイルの中から、ラベンサラを選んで、簾はその香りを確かめた。
 すっとした爽やかで刺激の少ない香りが心地良い。
 免疫力を高め、鎮静効果もあるオイル──僕自身が使っても問題ない、簾がそう思った時だった。
「そのアイピロー、頂こう」
 瞬きする。
 目の前の男は、表情を変えずにこちらを見ていた。
「へぇ」
 ゆっくりと簾の唇が弧を描く。
「紅竜さんは僕のこれが欲しいのかい?」
「私の物なら処遇決定は私の権利だ」
 簾の顔から、笑みが一瞬消えた。
「……いつから気づいていた」
「最初から気づいていた」
「そうか。興味深い答えだね」
 再び簾の唇が弧を描く──今度は、至極楽しそうに。
「ならば、僕はそちらを頂くとしよう」
 二人は、アイピローとアロマオイルを交換する。
「綺麗な白色だね。香りもいい」
 手触りと香りを確かめて、簾が笑った。
 紅竜が選んだオイルはティートリー。リフレッシュ効果と殺菌効果のあるスパイシーな香りだ。
「君の初めての贈り物として受け取っておくよ」
 言いながら、簾は白いアイピローを指先で撫でた。
(──僕がこう見えてるとは酔狂な)
 紅竜もまた、手元のアイピローの感触を確かめる。
 紫とは意外だった。
(私をそうイメージしてボロボロでも完成させたなら、大切に使わせて貰うか)
 お互いに秘めた感想は口に出す事なく。

 帰宅後、試したアイピローは、唯々心地良かった。


●2.

「アイピロー?なんだそりゃ」
 ふと立ち寄ったオープンカフェ。
 店員の口から飛び出した言葉に、フロックス・フォスターは頭を掻いた。
「えと……目とか、首回りを温める……癒しグッズ、だよ」
 フレディ・フットマンは、店員から見本として受け取ったアイピローをフロックスに見せる。
「血行、良くして……凝りを和らげるの……」
「へぇ……」
 フレディとアイピローを見比べて、フロックスは顎に手を当てた。
「あったら使うか?」
 フレディはきょとんと瞬きしてから、小さく頷く。
「あったら……使う、かも」
「じゃ、参加するか」
「う、うん……?」
(一緒に作ろう、ってことかな……?)
 フレディは小首を傾げながら、フロックスの後に続いた。

 二人が座ったのは、日当たりのよい白いパラソルの下のテーブル席。
 フレディの前には紅茶、フロックスの前にはケーキと珈琲。
 フロックスが、迷わず早業で珈琲に砂糖を大量投入したのを、フレディは見てないフリをした。
 甘党を指摘すれば、きっと彼は慌ててしまうだろうから。
 沢山の布の中から、フロックスが選んだのは深緑に白の水玉の可愛らしいもの。
 一方、フレディの手の中にあるのは、芥子色の無地の生地。
 店員から簡単な説明を受け、二人は縫う作業を開始した。
 フレディは紅茶を飲みながら、フロックスはケーキを摘まみつつ珈琲を飲みながら。穏やかでのんびりとした時間が流れる。
「オジさん、お裁縫上手……だね」
 フレディは、フロックスの手元を見つめて思わず溜息を吐き出した。
 フロックスの針が動けば、綺麗な縫い目が出来ていく。
「昔、施設のチビ共が破いた服とか直してたら慣れちまったよ」
 少し照れ臭そうに笑って、フロックスはケーキを摘まんだ。無意識に美味しそうに上がる口元を見て、フレディも釣られるように笑みを浮かべる。
「そっか……柄も、可愛い」
 ポップな水玉をフロックスが選んだ事を少し意外に思いながら瞳を細めれば、フロックスは僅か視線を彷徨わせた。
「………別に、男でも使いやすいだろ」
 ──俺用じゃないし。
 フロックスの心の声は、勿論フレディに伝わる事は無く。フレディは、芥子色の生地へと視線を落とす。
(水玉、好きなのかな)
 水玉を選べばよかったかも知れない。
「出来た……」
 縫い代の端を丁寧に始末して、フロックスは出来上がったアイピローを眺めた。
「ま、悪くはないな」
 頷き、アロマオイルの入った籠からカモミールを選んで添える。
「……という訳で、ほれ」
 ぽんと、柔らかく掌に置かれた水玉柄のアイピローに、フレディは大きく瞬きする。
「……え、僕に?」
「あー……でも二個もいらないか」
 フロックスは、フレディのアイピローに視線を遣り頬を掻いた。
(無地で渋い色だな……こっちは好みじゃないかもしれんな)
「じゃ自分用に……」
 フレディの心臓が大きく跳ねる。
(あ、オジさんの手作り、欲しいのに……そうだ……)
「ち、違うの……これは、オジさん用にって……!」
 フレディが思わず身を乗り出し叫ぶように告げれば、今度はフロックスの瞳が見開かれた。
「オジさん、二個も使わない……よね、だから……」
「いいのか?……じゃあ交換だな」
 フロックスは芥子色のアイピローを受け取る。フレディの顔が輝いた。
「うん……ありがとう」
 大事に水玉柄のアイピローを抱き締める。
(積極的になったもんだな……この色なら俺も使いやすいな)
 じわっと広がる安堵と嬉しい感情に、フロックスは笑みを浮かべた。

 帰宅後、瓶から薫るリンゴのような甘い香りを確認し、フロックスは目を見開いた。
「こっちは同じか……」
 カモミールの香り。
「なんか、こういうの照れ臭いな」
 温めたアイピローを瞼の上に置いてみる。
(無意識に同じ物選ぶとは……)
 優しい熱はじわりと癒しをくれる。

「オジさんからプレゼント……初めて」
 フレディは幸せな気持ちでアイピローとオイルの瓶を眺めた。
 アイピローを温めて瓶の蓋を開けてみれば、薫るのは──。
「……同じ匂い」
 優しいカモミールの香りに包まれて、目元に優しい熱。
(……寂しくなったら、使っちゃおうかな)
「……大事にするね」


●3.

 二人の前には、イチゴのタルトと桜のシフォンケーキ。そして紅茶が二つ。
「面白そうだな」
 イチゴのタルトをフォークで突きながら、カイン・モーントズィッヒェルが瞳を細めた。
「イェル、互いのを作ろうぜ」
「では贈り合いましょう」
 イェルク・グリューンは、桜のシフォンケーキに負けない華やかな微笑みで頷いた。
 店員が嬉しそうに笑って、道具を運んでくる。
 籠に入った様々な色と柄の布を二人で覗き込んだ。
「どれにするかな……」
「では、私はあちらで作業します」
 カインが紅の無地の布を手に取ると、選んだ布を隠しながら、そそくさとイェルクは席を立った。
「ん? ああ、分かった。出来上がるまでは別々な」
 カインがヒラヒラと手を振ると、背を向けたイェルクの耳がほんのりと染まり頷く。
 少し離れた席にイェルクが腰掛け、別の店員が道具と紅茶を運んでいくのを確認してから、カインは手触りの良い紅の布を選び、縫い針を手に取った。
 説明を受けながら、迷いなく針を動かし始めたその手の動きに、店員が慣れていますねと声を掛ける。
「最近裁縫練習しててな」
 カインは真剣な眼差しで手元を見つつ、頷く。
「作りたいのがあるんだよ」
 幸せを感じさせる優しい声音に、店員が更に尋ねれば、カインは穏やかに微笑んだ。
「可愛い嫁の式のベール……は無理かも知れねぇけど、刺繍位は頑張りてぇなと」
 がたん!
 背後で音がして、カインは喉を鳴らして笑った。
(最近、私が裁縫始めたら、何故かカインも始めたんだが……その理由がやっとわかった)
 心配する店員に手を振って頷きながら、イェルクは跳ねる胸元を押さえる。
(始めた理由がそれだったのか)
 こんな所で、そんなキラーパスを投げてくるカインが少し恨めしい。思わず身体が跳ねて大きな音を立ててしまった。
 深呼吸して、手元の布へ視線を戻す。
 森のような深い緑の無地。
(この色はあなたの色──)
 アイピローには、スペアミントのボトルを添えようと決めた。
 一針一針想いを込めて、あなたの為に。

 出来上がったアイピローを手に、二人は再び同じテーブルに付いた。
「どうして隣同士に座るんですか」
「その方がイェルクの反応が見やすいからな」
「もう……」
「なんてな、ほら……」
 イェルクの手の中に、紅のアイピロー。そしてベルガモットのオイルのボトル。
「色が意外そうだな」
 イェルクが顔を上げると、カインが笑った。
「葉っぱの緑じゃねぇのが意外か?」
 考えを見抜かれ言葉に詰まれば、カインの唇が耳元へ近寄る。
「葉っぱは赤くなるだろ? こういう風に──」
「……ひゃあああっ」
 角に触れた熱い唇の感触に、イェルクは大きな声を抑えるだけで精一杯だった。痺れるような衝撃と熱さに眩暈がする。
「ほらな、同じ色」
 カインは朗らかに笑っている。
「俺以外に染まらねぇなら、合ってんだろ。俺以外に染められんなよ?」
「俺以外……独占欲、ですか?」
「独占欲弱いように見えるのか?」
 カインの声が熱い。嬉しさに胸が震える。イェルクは緩く首を振った。
「私もあなたと同じですから」
 強いに決まっている──今はあなたが愛しい人なのだから。
 カインが破顔した。イェルクだけが見る事のできる顔。
「大切に使います」
「俺も大切に使うから。可愛い嫁が頑張って作ったのに無碍にしねぇよ」
 嬉しそうに瞳を細めるイェルクを引き寄せ、カインは触れるだけのキスをした。
 驚いたように身動ぎするイェルクに囁く──隅っこのこの席は人目に付かないと。
「こっそりならいいです。カインが減りませんから」
 可愛い事を言う──カインは参ったと天を仰いだ。
「俺が減る?──俺はてめぇが減りそうだが?」
 もう一度、少し長く触れる。
 イェルクは、瞳を閉じる瞬間、垣間見えたカインの表情を瞳に焼き付けた。
(キスの時のカインは甘いから見せたくない)
 そして、キスされてる私もカインだけに教えたい──。
 二人が選んだアロマオイルのボトルが、祝福するように陽の光に輝いた。


●4.

「おーっし! どっちが早く出来るか勝負しようぜ!」
 瑪瑙 珊瑚がぐっと拳を振り上げるのに、瑪瑙 瑠璃は瞬きした。
 何でも勝負に結び付ける、楽しそうな珊瑚の笑顔が眩しい。
(今年は、何かと疲れる事が多そうだからな……。アイピローであっても、癒して貰いたい)
 瑠璃はふっと息を吐き出した。
「作ってみるか」
 白いパラソルの立つテーブル席へと移動すると、店員が布の入った籠と裁縫道具を持って来る。
「コーヒーをブラックでお願いします」
「こっちも同じの!」
「珊瑚?」
 続けて注文した珊瑚に、瑠璃の視線が突き刺さる。
 ──ブラック、飲めたっけ?
 珊瑚はヒラヒラと手を振って誤魔化した。同じものを勢いで頼んだとは言えないので、布を物色する事にする。
 珊瑚の目に留まったのは、黄色の絹だった。絹の柔らかな手触りが気に入った。
 続けて、裁縫箱から黒の縫い糸と、青・赤・橙色の刺繍糸も選ぶ。
「……俺は、白にしよう」
 珊瑚の手の中の布を眺めてから、瑠璃は白い布を手に取る。素朴な木綿の手触りが良い。
 裁縫箱から、濃紺色の糸を瑠璃が選んだ所で、注文したコーヒーが運ばれて来た。
 早速、瑠璃がカップを手に取ると、珊瑚もそれに倣うようにカップを口元に運ぶ。
「クワッチーサビラ!(いただきます)」
 息を吹き掛け冷ましながら、珊瑚がカップに口を付けた。瑠璃はその様子を見守る。
「ぐあぁ苦ぇ!」
「……だろうな」
 思わず瑠璃はクスッと笑みを零す。珊瑚の頬が膨らんだ。無言でカップを置くと刺繍針を手に取る。
「スーブ!(勝負)」
 珊瑚の瞳が集中し細められた。針が黄色の布地に刺繍を施していく。布地に描くのは琉球の紋様だ。
 瑠璃もコーヒーを一口飲むと、針を手に持った。
 濃紺色の糸で、アイヌの紋様を刺繍することにする。
 暫く無言の時が流れた。
(……ウータトーン(くたびれた))
 先に集中が切れたのは、珊瑚だった。半分ほど刺繍した所で、ぱったりと集中力が失せたのを感じる。
 やり方は心得ていても、この細かい作業を継続して行うのが、珊瑚が裁縫が不得手である理由である。
 適当に終わらせよう──そう思った時だった。
「アガー!(痛い)」
「珊瑚?」
 思い切り針を刺してしまい、珊瑚の人差し指に血が滲む。
「何やってるんだ」
 瑠璃の手が伸びてその手を掴んだ。
 鞄から取り出したさわやかポケTで素早く止血する。
 珊瑚が思わずポカンと見返すと、瑠璃と目が合った。
「……何だ」
「……別に」
 交わる視線を互いに逸らせない。
「絆創膏使いますか?」
 心配そうに声を掛けてきた店員に、金縛りから解けたように二人は瞬きする。
「なぁ瑠璃」
 指に絆創膏を巻いて貰いながら、珊瑚は瑠璃と彼が完成させたアイピローを交互に見つめ口を開いた。
「交換しようぜ?」
「交換?」
「直ぐに完成させっから!」
 絆創膏を巻いた指の感触を確かめ、集中力を取り戻した珊瑚はアイピローを完成させた。
「ほら!」
「……試しに使ってみるか」
 瑠璃は珊瑚のアイピローを受け取り、温めてからジャーマンカモミールを垂らしたガーゼを入れ込む。
 瞼の上に乗せると、刺繍の感触。
(糸の不揃いさが珊瑚らしいな)
 不意に、笑みが零れた。
「これ、使う」
「へへっ、決まりやさ」
 珊瑚は嬉しそうに笑い、ラベンダーの香りを纏わせた瑠璃のアイピローを瞼の上に乗せた。
「刺繍が擦れあってイイな」
 椅子に凭れて、二人で互いのアイピローの心地良さを味わう。
 隣の珊瑚が笑っているのが、目を閉じていても瑠璃には分かった。
(本当は……)
 瑠璃は瞳を閉じたまま、ゆっくりと深呼吸した。
(本当はアイピローを使う事で、お前を隣に感じる事で、この先も乗り越えられる気がする、そう思ったから)
 今は只、この温もりに力を貰いたい。
 温かく胸を満たす──優しい時間に、傍らの存在に。
「……ありがとう」
 瑠璃の小さな呟きは、春の陽に柔らかく溶けた。


●5.

「眼精疲労の解消……良いですね」
 葵田 正身が顎に手を当て微笑むのを、うばらは見上げて小さく頷いた。
「年取ると体中にガタがくるからな」
「――うばら。私は健康体だ」
 正身は眉を下げてパートナーを見下ろす。
「この所、深夜まで読書に感けていたから疲れ目なだけで」
「仕事は?」
「春休みだったが?」
 一瞬の間。
 今度がうばらは顎に手を当てた。
「……そういや葵田は学生だったな」
 耐え切れず店員が笑ったのに、正身は頭を掻く。
 どうぞと店員に案内され、二人は白いパラソルが並ぶオープンカフェへと足を踏み入れた。
 純白の椅子に座れば、店員が直ぐに裁縫道具と色々な布が詰まった籠を運んで来てテーブルに並べる。
「うばらは裁縫得意か?」
 針山を珍しそうに眺めながら言う正身に、うばらは彼に視線を向けた。
「繕い物や釦付けはできる」
「ではご教授願おう」
 嬉しそうに笑みを見せる正身を見て、うばらは瞬きした。
「葵田は料理できるだろ。裁縫はできねぇの?」
「料理は毎日の事だが、裁縫は機会が無いからな。裁縫道具を何処に仕舞ったか覚えていない」
「外出先で釦が取れ掛かったらどうするんだよ」
「釦?」
 正身はうーんと空を仰いだ。
「……引き千切ってしまうかな」
「……意外に男らしいというか何というか」
 うばらは呆れ半分感心半分といった様子でふっと息を吐き出し、籠の中の布を摘まんだ。
「口頭では教えにくい。俺も作りながら教える」
「それは助かるな」
「どの柄にするんだ?」
 正身は少し悩んでから、紺地の流水文の布地を選んだ。
「オイルはカモミールを頂いておこう」
「じゃあ、俺も」
 うばらは迷わず、同じ柄の布とオイルの瓶を手に取る。
「俺と一緒のものでいいのか?」
「ただの手本。別の選ぶ必要ねぇだろ」
「成程」
「針に糸を通すくらいは出来るか?……って、せめて糸通しを使ってくれ」
 うばらは軽く溜息を吐いて、糸通しの使い方、玉結びのやり方を正身にレクチャーを開始する。
「しっかり糸を引いて、固く結べ」
「こうかな?」
 うばらは正身の糸の端が玉結びになっている事を確認してから、見やすいように手元を正身側に向けた。
「半返し縫いで縫っていく。見てろ」
 正身が頷くのを確認してから、ゆっくりと針を動かし始める。
 一針進んで、半針戻る──うばらの針の動きを真似て、正身も針を布地に刺していった。
 暫し、無言のままに作業は進んで──。
 正身は完成したアイピローを広げてみた。
 所々、縫い目が歪んでいる。
「……俺の教え方悪かったか?」
 うばらは僅か眉を寄せながら、こちらも完成したアイピローを広げてから、正身に差し出した。
「俺のも出来良いとは思えねぇけど、やるよ」
 無造作に出されたそれを受け取って、正身は何度も瞬きする。とても同じ過程で出来たものとは思えない出来だ。
「うばらのは見事だな。既製品と較べても遜色無い。本当に良いのか?」
 正身が感心したように言うと、うばらは軽く首を振る。
「俺は使わねぇし」
「では代わりに私の作った物を……」
「葵田の?」
 目の前に出されたアイピローを見て、うばらが目を丸くした。
「ああ、すまない。押し付ける訳にはいかないか」
「……せっかくだから貰っておいてやる」
 ふわりとアイピローを手に取るうばらに、正身は首を傾ける。
「使わないんじゃなかったのか」
「て、手直ししねぇと使えねぇだろこれ。だから……」
「そうか。なら貰っておいてくれ」
 正身の笑顔に、うばらは頷いた。

 夜もとっぷりと更けた頃、正身はアイピローをレンジで温めた。
 アロマオイルを垂らしたガーゼを入れると、優しい甘い香りが漂う。
 瞼の上に乗せてから、正身は昼間敢えて言わなかった言葉を思い出した。
 ──お揃いだな。
 今頃、不格好だったあのアイピローは、うばらの元で綺麗になっているのだろうか?

 うばらの手には、正身が作ったままのアイピローがある。
 歪な縫い目にそっと丁寧に触れて、うばらは大事にアイピローを抱き締めたのだった。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:フレディ・フットマン
呼び名:坊主、フレディ
  名前:フロックス・フォスター
呼び名:オジさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月30日
出発日 04月06日 00:00
予定納品日 04月16日

参加者

会議室


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