プロローグ
破壊の音が、ぴたりと止まった。
そのまま、もう何も聞こえてこない。
「助かった……?」
地下に避難していた人々は、音のしなくなった上階へとおそるおそる上がり、そして安堵した。
店の中は滅茶苦茶に荒らされている。しかし、もうオーガはいない。隠れていることに気付かず諦めたのだろう。
なんにせよ、危機は去った。
「ああ!」
誰かが悲鳴を上げた。何事かと見に行って――それに気づいた店の者はみな、呆然とした。
この店では、ヨミツキを取り扱っている。
それがすべて傷つけられるか、消え去っていた。
●
「ヨミツキとは、城下町『サクラウヅキ』に咲く、固有品種の桜のことです」
職員がそう教えてくれた。
「美しすぎて妖しさすら見せるため、サクラウヅキの人々にとって神格化すらされた対象になっているんですよ」
特別な存在のため、ヨミツキが夜を彩る時間帯は町の名を『サクラヨミツキ』と呼ぶほどだ。
そんなヨミツキを取り扱う店は、信頼と実績のある商家ばかりであるようだ。
その商家のひとつを、オーガが襲撃した。
「実は、その後も何件か商家や民家がオーガに襲われる話が報告されていまして」
そのうち商家では、店の者たちは奥まった場所に隠れて無事ではあったのだが、オーガたちは腹いせか、店のヨミツキを傷つけたり、苗木などは持ち去られたものもあるようだ。
「神聖視してきたヨミツキをそんな風にされて、損害以前に町の人々のショックが大きいようです」
現在、城下町サクラウヅキでは紅く彩られた謎の月が出現し、瘴気とともにオーガの出没が増加したなど、危機的状況にある。
「ただでさえ町の人たちは不安なので、状況をこれ以上悪化させるわけにはいきません。襲撃するオーガたちの討伐をお願いします」
今回、ウィンクルムたちに依頼される内容は、商家の連なる場所での見回りだ。
「まだ被害が出ていない場所ですが、ここも襲われる可能性は高いと思います」
話によれば熊のような毛むくじゃらのオーガらしい。数は一体。知能は低いであろうことから、Dスケール級と推測されている。
「遭遇しても、そのまま戦うと店に被害が及ぶかもしれません。付近に広場があるので、そこへ誘導してから戦うことを推奨します」
成長しきったヨミツキが多く咲く場所だ。
知能の低いオーガであれば、弱ったフリなどをして後退すれば、おびき寄せることができるかもしれない。
「とはいえ、一体でもオーガ。注意して戦ってくださいね」
皆さんのご無事を祈ってます、とその職員は言った。
解説
用語について。
・サクラウヅキと、サクラヨミツキ
一年中ぽかぽかとした気候の城下町「サクラウヅキ」。
この町でしか咲かない『ヨミツキ』が町の至る所で咲き誇っている。
ヨミツキが夜桜として咲き誇る時間は、町は「サクラヨミツキ」と名を変える。
※今回の舞台は夜の城下町、サクラヨミツキとなります※
【危機的状況】
現在、謎の紅い月が出現中。その影響により、
昼時間が多い「サクラウヅキ」、
夜の時間が多い「サクラヨミツキ」、
二つの城下町が同時に存在する「世界の歪み」とも言うべき現象が起きてしまっている。
今はまだこの城下町に留まるほどだが、このままでは歪みがどんどん広がってしまうだろう。
【サクラヨミツキについて】
サクラヨミツキでは現在、活発化したオーガによる被害が報告されている。
今回の事件も、その一つのようだ。
現在、ウィンクルムへのオーガへの対処が推奨されている。
・備考:ルーメンとテネブラ
誰にでも見える月、ルーメン。
ウィンクルムに見える月、テネブラ。
現在はそのどちらも空に確認することはできず、代わりに瘴気にまみれて見える「謎の紅い月」が出現している。
ゲームマスターより
こんにちは、叶エイジャです。
夜の城下町、サクラヨミツキでの対オーガ戦となります。
プレイヤー情報となりますが、見回りをしていればオーガは出現します。
そして、戦いやすいであろう広場に誘導することも、プランに表記してあれば成功するでしょう。
相手は、鋭い爪や牙を武器に、腕力に任せた攻撃や突進を行ってきます。
戦闘については、もちろんルール準拠ではあるのですが、
「技をこんな風に放つ」といった演出重視のプランを歓迎いたします。
あるいは、戦闘におけるオーガへの心情や、パートナーへの心情。夜桜などを見た感想なども歓迎です。
(プラン表記では、平均的に書くのもアリですが、思い入れの出てきた部分の比率を上げる書き方も良いと思います)
限られた字数ではありますが、バトルを通して皆様の関係や個性が出ますよう、心して執筆していきたいと思います。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ひろの(ルシエロ=ザガン)
できれば、事前に広場までの道を確認する。 周りが傷つかないように、誘導の時に広い道を通れたら、って。 二つに分かれて見回り。 私とルシェは第二部隊。グルナさん達と一緒。 マグナライトは点ける。 オーガを発見したらトランス。 見つけたことを通信。 ルシェに駆け寄って、これから広場に誘導することを通信。 第一部隊から発見の通信が来たら、広場に急いで向かう。 先回に着いたら、マグナライトを消して入口の脇に隠れる。 戦闘中なら後衛につく。 明りが足りないなら、マグナライトでオーガの体を照らして攻撃しやすくする。 明りが十分なら、弓でオーガの頭を狙う。 「本当は、もっときれいなのかな」(桜を見上げ、元々の夜を思う (疲労で少し眠い |
向坂 咲裟(カルラス・エスクリヴァ)
サクラヨミツキ…とっても、とっても綺麗ね こんなに美しい場所を荒らすなんて…無粋よ カルさん、サキサカサカサは頑張るわ! ミサさんクロスさん達と一緒に見回りね 見回り開始時にトランスよ 頑張るって言っても、無理はしちゃ駄目ね 見回り中はマグナライトで照らして探索を手助けするわ オーガを発見したら、直ぐに皆に知らせるわ 公園へ誘導する時は 今回は盾を持ってきていないから何時も以上にカルさんが守ってくれる範囲に居る事を意識するわね 攻撃は、今は我慢よ 公園に着いてみんなと合流したら 漸く、攻撃に参加よ!クリアレインで閃光効果を狙うわ …でもやっぱり無理はしないのよ オーガがワタシに向かって来たらしっかり逃げるわね 桜を守るのよ |
シャルティ(グルナ・カリエンテ)
敵を広場へ誘導後にトランス 連絡はひろのさんがサイバースノーヘッド装備しているので必要ないかもしれないが一応自分も所持 一体だけって言っても手強いかもしれないし、だけどそうじゃないかもしれないから油断大敵ね …あんた、気をつけなさいよいろいろと …にしても、幻想的ね なにがって桜 (戦闘にしか興味示さないって度々思ってたけど、本当に興味ないのかもしれないわね)心の声 ・こちらの二組でオーガと遭遇しない可能性はないと思うので、常に周囲を警戒して行動 ・攻撃手段はクリアレイン。基本的に相方精霊の援護 ・こちらがオーガと遭遇したら攻撃受けて弱ったフリをして広場まで後退 |
クロス(ディオス)
☆心情 「夜桜、か…凄く綺麗だ… なっ何言ってんだ!(照 ほら行くぞ!(照」 ☆行動 ・第一部隊として町を探索 ・オーガ・ナノーカとカムイノミ-ホロケウの殺気感知で敵を探る ・敵を見つけたらミサ経由で第二部隊に連絡 ・敵の意識をこちらに向けさせ広場へ誘導 ・広場でトランス ☆戦闘 ・後衛守りながら手足や胴体を斬りつける ・敵の爪には刀で相殺し後ろへ下がる ・敵の牙には刀で受け止めながら蹴り技 ・敵の突進にはある程度近付いて来てから跳び箱の様に跳んだり左右に逃げる ・精霊の傷が多くなったらサクリファイス使用 ・仲間に予期せぬ事が起こったら身を挺して護る ☆討伐後 (もしかして、ディオの記憶が曖昧なのは裏人格のアイツが関係してる? |
ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
☆心情 泣いてばかりじゃいられないもの 部屋から連れ出してくれたシュトルツさんには感謝しなくちゃ ☆オーガ捜索 ・『懐中電灯』で辺りを照らしながら『サイバースノーヘッド』で離れている仲間と連絡を取り合いながら捜索するよ ・『神人はオーガに狙われやすい』からそれを利用して敵をおびき寄せられないかな ☆戦闘 ・敵と遭遇後トランス ・精霊から近すぎず遠すぎない所で待機、仲間のサポートに徹します お願い、皆に力を!(『懐中時計』を使う) ・仲間や自分が攻撃を受けそうになった時は『リュングベル・フォース』で攻撃を弾きます 皆は私が守る・・・! シュトルツさん、連れ出してくれたことも私を気にかけてくれたことも有り難うございました |
●
紅い満月を背景に、桜の花びらが舞っていた。
「夜桜、か……」
音もなくはらはらと落ちゆく花弁を見つめ、クロスが呟いた。きびきびと歩んでいた長身が止まり、桜と同色の唇が微笑みを刻む。
「綺麗だな」
「同感だ」
うなずいたのは、マキナの精霊・ディオスだ。
「とても美しい。まるでクロみたいだ」
「なっ……」
臆面もなく言われたクロスが、首筋から真っ赤になっていく。
「何言ってるんだ!」
「桜と言えば、俺にとってはクロだからな。そう照れるな」
フッと笑みを浮かべるディオス。クロスは「ほ、ほら、行くぞ!」と足早に歩みを再開した。
場所は城下町の中でも、商家の連なる一画だ。
人々は家の奥に閉じこもっており、紅い光に染まった通りは奇妙なほど、音が少ない。
闇夜を舞う桜の花びらの光景はだからこそか、幻想的に見えた。
「サクラヨミツキ……とっても、とっても綺麗ね。こんなに美しい場所を荒らすなんて、無粋よ」
向坂 咲裟はアメジストの瞳に、感嘆と憤りの色を内包していた。
そんな彼女の精霊、カルラス・エスクリヴァは渋みのある声で聞いた。
「お嬢さん、今日は妙に張り切っているな?」
「当然よ!」
――当然なのか。
咲裟は身長に比して長い金の髪を振って応える。何をもって当然と帰結したのかカルラスは知りたくもあったが、せっかくやる気が出ているところに水を差してしまっては意味がない。山羊の角に触れながら、彼は慎重に言葉を選んだ。
「まぁ確かに……オーガはこの場に合わないな」
「まったくそうよね!」
どうやら正解だったらしい。我が意を得たり、と微笑する咲裟にカルラスもほっとする。
「カルさん、サキサカサカサは頑張るわ!」
「お嬢さんが頑張るなら、私も張り切るとするか」
気合のこもった宣言に、カルラスも太い微笑で応じた。
「――――」
そんな彼らの後から歩くミサ・フルールは、どことなく足どりがぎこちなかった。
「ミサ、ぼーっとするな」
「ぁ……すみません」
隣を歩く精霊、エリオス・シュトルツに諭され、ミサの瞳に意志の光が戻る。
泣き腫れた跡がまだ残る顔で、ミサはエリオスに――エミリオに顔立ちのよく似た美丈夫に目礼する。
「すみません、シュトルツさん」
「礼はいらない。ウィンクルムである以上、今は役目を果たすことに集中しろ」
厳格に責務を語った彼はしかし、一転して柔らかな笑みをミサに向けた。
「行動すれば、その間に忘れられることもある。今は前を向け」
「はい……」
「それと、夜道は危険だ。手を引いてやろう」
自然に差し出された手に触れて、その気遣いとぬくもりにミサは泣きだしそうになるのをこらえた。
――だめ。泣いてばかりじゃいられないもの。
それでは、部屋で塞ぎこんでいた自分を連れ出してくれた相手に失礼ではないか。
まるで父のように接してくれる精霊に感謝しつつ、ミサは手にした懐中電灯を握り直した。
商家を襲うオーガを効率よく探し出すため、ウィンクルムたちはグループを二つに分けて見回りをしている。
シャルティとグルナ・カリエンテ、ひろのとルシエロ=ザガンの四人は、先の六人とは違う区画を歩いていた。
「広場までのルートは、これでいいかな?」
ひろのが周辺の略図を指でなぞり、精霊に確認を求める。ルシエロは彼女の指の軌跡を眺めたのち、軽く首肯した。
「良いんじゃないか」
事前に調べたこともあり、ひろのの示すルートは広い道ばかり。オーガを誘導する際、無用な二次災害を防ぐ意図が見て取れる。
「髪、花びらがついてるぞ」
「?」
ルシエロの指摘に、ひろのは頭に手をやる。のそのそとしたその動きに苦笑をしつつ、ルシエロはそっと手を伸ばした。
夜のせいで漆黒にも見える髪は、月光で表層が赤みを帯びている。そこに浮かんだ桜の花弁を取り払うと、花びらは再び地面へと舞い降りていった。
――しかし、随分と妖しい魅せ方を知ってるな。
月のせいもあるのだろうが、紅い燐光をまとって落ちゆくそれは、自然と目を引きつけるものがある。町の者が尋常ならざる扱いをするのもうなずけた。
「一体だけって言っても、その強さが推し量れない以上、油断は大敵ね」
視界の先の暗がりに目をこらし、シャルティは慎重に歩を進めていく。
ひろのが連絡役ではあるが、装着した通信機も万一を備えいつでも起動できるようにしていた。
そんな彼女の視線は、隣でさして警戒するでもなく歩を進める精霊に向けられた。
「……あんたも、気をつけなさいよいろいろと」
「ん?」
グルナは不思議そうな顔をして、歩きながらシャルティを見返した。
当然ながら完全に前方不注意状態である。
「気をつける? なにを?」
――だから、その態度。
声に出すのも馬鹿馬鹿しくて、シャルティは無言のままグルナを見つめた。紫の視線にたっぷりと意味を込めて。
「……あー、周囲見て行動しろってやつか? 分かってるっての」
さすがに同居人。意図は通じたようだが、相変わらず歩みが改善される気配はない。
シャルティは静かに嘆息して、視線を上に向けた。
「……にしても、幻想的ね」
「あ? なにが?」
呟きだったが、聞こえたらしい。今度は彼を見つめずに応じる。
「なにがって、桜」
「桜?」
神人の視線を追って、グルナも顔を咲き誇るヨミツキを見上げる。
「あー……そうだな」
返事に感情はない。特に思うところはないらしい。
(戦闘にしか興味示さないって度々思ってたけど、本当に興味ないのかもしれないわね……)
『戦えればなんでも良い』が口癖の精霊は「熊みてぇな毛むくじゃら、ねぇ……
デミ、とかじゃねぇんかね」と呟いている。視線を彼から転じ、シャルティは新たに現れた通りを観察する。
いた。
かろうじて人に近いと分かる、大きなシルエット。
その奥で爛、と光る赤い双眸が神人たちを捉えていた。
●
「……ひろのさん!」
警告に、ひろのたちも素早く動く。
「『誓いをここに』」
口づけとともに、ひろのとルシエロの足元に黄金の魔法陣が顕現する。同色のオーラが粒子混じりに吹き上がった時には、トランスによる強化が完了していた。
「作戦通りいくか」
ルシエロがワインレッドの髪をなびかせ、オーガへと肉迫する。同時に振るわれた双剣はしかし、オーガの掲げた腕に軽い裂傷を刻んだだけだった。
反撃の横殴りが、精霊の身体を大きく吹き飛ばす。
『――?』
派手に吹き飛んだルシエロにオーガがくぐもった声を上げた時には、横合いからグルナの剣が叩きつけられている。今度はオーガがよろめく番だった。
「グルナ、気をつけて」
「あー、分かってる!」
グルナが剣をかかげる。爪が刀身と交わって火花を散らして、衝撃が彼の身体を弾く。踏ん張った足の筋が、地面に長く刻まれた。グルナが呟く。
「……威力だけなら演技はいらねーか?」
「かもな。腐ってもオーガなんだろ」
舌打ちしたルシエロが応じて、二人して後退を始める。それに先んじて神人たちが下がりつつ、矢を放った。オーガは自らが有利と判断したのか、矢を弾くと突進してくる。急速に迫るオーガを牽制しながら、四人は広場を目指した。
オーガとの決戦場所は立ち回りのしやすい広場だ。そこにうまく誘導するため、通りでの接敵時は精霊が全力を出さず侮らせるか、オーガが神人を狙うことを利用して引きつける。
「そろそろ着くみたい!」
サイバースノーヘッドから連絡を受け、先んじて広場に着いていたミサが警告する。うなずいたエリオスが杖を構えた直後、剣戟の音に追われ、ひろのとシャルティが走ってきた。
そのすぐ後から後退するルシエロとグルナ、そして攻め込むオーガが続く。
『――!?』
広場まで辿り着いたオーガは、ミサとエリオスの姿に妙な声で呻く。が、さしたる脅威と思わなかったのか、すぐさま猛然と速度を上げて迫ってきた。
「ミサ、いまだ」
エリオスの声に、ミサが懐中電灯をオーガへと向ける。
それが合図だった。
「カルさん、攻撃開始よ!」
側方に身をひそめていた咲裟が鉱弓「クリアレイン」の絃を引き絞る。放った矢のクリスタルは懐中電灯の光をまばゆく反射して、オーガの前方で閃光をまき散らした。
闇に目が慣れていたオーガにとって、それは効果的だった。奪われた視界に苦鳴をあげてのけぞる。そしてそのときには、クロスとディオスがオーガの後方へと回り込んでいた。
「『黒き龍と共に、狂い、舞い散れ、紅桜!』」
二人を包み込む黒龍と、荒々しく舞散る紅桜。
紅と黒のトランスオーラが完全に消えるよりも早く、二人は手にした剣を手に疾走する。
一陣の風のごとく迫る彼女たちをオーガは察知したものの、闇雲に爪を振り回すのみ。先行したクロスは冷静にその動きを見切ると、トランスオーラを纏った剣で爪の一撃を相殺した。そのまま敵の膂力を利用して後ろへ下がる。狙いは相手の態勢を崩すこと。
「ディオ!」
「了解!」
声を返し、ディオスが大剣を振りかぶった。『ゼノクロス・ツヴァイ』がオーガの胴に深々と吸い込まれ、衝撃がその巨体を吹き飛ばす。
「魔法を行使する」
怯んだオーガに、即座にエリオスが杖を掲げた。先端にある水晶内部で歯車が回転する。回転とともに紡ぎ出された金の光は燐粉のごとく舞い、術者から上空へとたちのぼると魔法陣を描き出していく。
半透明の魔法陣は次の瞬間、幾条もの熱線を照射した。オーガが防御態勢を取り対抗しようとするが、熱線の雨はオーガへと突き刺さっていく。
「上手く引きつけたな」
カルロスは、ルシエロとグルナを入れる形で聖域を展開。<フォトンサークル>の光が彼らの守護を担っていく。グルナが顔をしかめる。
「本気出せねえってのは意外とストレスたまったけどなー」
「ま、我慢も鍛錬のうちだ」
軽く応じたルシエロはやや上機嫌。途中でスタイリッシュな避け方でも思いついたか、あるいは成功したか。
防御の加護を得、ルシエロが軽やかに地を蹴る。先ほどとは違い今度は本気の攻撃だ。おりしも熱戦の呪縛から解き放たれたオーガが彼を睨みつける。向けられる赫怒の視線はプレッシャーを伴うが、タンジャリンオレンジの瞳に恐怖は生まれない。
「怒るなよ。だまされた方が悪い」
ひろのがジャスト・タイミングで矢を放つ。頭を狙ったそれを打ち払い、オーガが両腕を振り下ろした。
だが、ワンテンポ遅れた攻撃は、精霊の影を切り裂いたに過ぎない。
交差した爪のさらに上を軽やかに飛びこえ、ルシエロはグィネヴィアとエレイン、二振りの剣を解き放つ。
十字の斬撃がオーガを切り裂いた。
ひときわ大きな苦鳴を上げ、オーガが倒れる――ことはなかった。
「まだ立つか」
受けた傷から白煙を噴き上げ、それでもオーガの瞳には衰えぬ禍々しさがあった。続けて放つ咆哮は衝撃波すらともなっていて、間近で受けた者の総毛を立たせる。
「はっ、そうこなくっちゃな」
グルナが笑みを深め、大剣を肩に担いだ。
戦えればなんでも良い。
だが相手が強大なら、なおさら良い。
「シャルティ、頼んだぜ」
「はいはい。怪我しないようにね」
高揚する彼の態度にシャルティが素っ気なく応じる。
「『我に代わり力となれ』」
口づけとインスパイアスペル。
しかし風が吹き抜け、紅のオーラが吹き上がるまさにその直前を、オーガは好機と見たようだった。ウィンクルムたちの攻撃を受けることもいとわず、たたずむ二人へ突進してくる。
「いかん……!」
カルラスが先んじて、その軌道を阻む。自分よりはるかに巨大な質量を前に、スクトゥレの盾を構える。
「援護する!」
エリオスが傍らに立ち、イヤーフックから悪霊を解放。さらにミサが守護の魔法陣を放ち盾を形成する。
直後、二人の精霊へとすさまじい衝撃が襲いかかった。複数の盾の上からなお伝わってくる加重に肉体が軋みを上げ、突き立てたはずの足が地面を抉っていくのをカルラスは感じた。
「カルさん!」
――ここを、退くつもりはない!!
咲裟の声に応えるが如く、カルラスの気迫がそれ以上の後退を押しとどめた。
オーガ相手に拮抗は一瞬。
しかしその間に、トランスは完了していた。
グルナがスパイラルクローが、オーガの上空から凄絶な一撃を刻む。
『――――!』
手にしたムーンスカルを荒々しく振り抜いたグルナ。彼の背をオーガの爪が追うも、ダメージを受けすぎたその身は精彩を欠いている。
「これで終わりだ」
カルラスの斧、そしてディオスの剣が再び振り抜かれ、オーガはついに滅び去った。
●
「……なかなか骨が折れたな」
倒れたオーガがもう動かないことを確認して、カルラスはようやく息を吐いた。少々キャメルの髪が乱れてしまったのが面倒だが、こればかりは仕方がない。
スーツを軽く撫で、駆け寄る咲裟に笑顔を向ける。
「怪我はない?」
「大丈夫だ。お嬢さんのおかげでね」
「……ワタシ?」
首をかしげる咲裟に、最初にオーガの視界を奪っただろう、とカルラスは告げた。
あれで機先を制したから、守るにも攻めるにもウィンクルムたちはやりやすく、流れを作ることができたのだ。
だからカルラスも、ここぞの場面で守り切ることができた。
「……桜を守るのに、貢献できたの?」
咲裟の問いにカルラスがうなずくと、咲裟の笑みに自信が溢れてくる。
「牛乳のおかげね!」
しかし、なぜその帰結になるのかは、牛乳信者以外分からないことだろう。
「怪我はない――わけじゃないの?」
シャルティは剣を納めたグルナに声をかけ、彼の服が切り裂かれていることに気付いた。
「ん? あー、逃げてる時か」
グルナが服の袖に視線を落とす。綺麗な切り口を見せるそれは、しかし血がにじんでいるわけではない。爪が服をかすったのだろう。
「捨てるか」
「……それくらいなら縫ってあげるわ。すぐ終わるし、捨てるまでもないでしょ」
申し出にわずかに目を見開き、グルナがシャルティを見た。しばらく見つめた後、「わりぃ」といって踵を返した。
(笑った……?)
一瞬の間に、彼の表情に変化があった気がして、シャルティはわずかに眉を寄せる。
(……見間違いね)
戦闘後で気が高ぶっているのだろう。
結局そう結論付け、シャルティは先を歩く精霊に続いた。
「ディオ、お疲れ様だ」
クロスはトランスソードをしまうと、ディオスを労う。
ディオスはオーガを斬った立ち位置から顔を上げ、じっと花びらを散らすヨミツキを見上げている。
「――……」
「……ディオ?」
「……ぁ、すまない」
ようやく気付いたのか、ディオスはまばたきしてからクロスに苦笑を見せた。
「つい、見惚れてしまったようだ。これだけ咲いていると圧巻だな」
広場にも数多くのヨミツキが植えられており、紅い月光に浮かび上がるそれらは幽遠な何かを感じさせる。
「そうだな」
同感だとクロスもうなずき――そしてこっそり、彼を盗み見た。
(今回は、何もない、か……?)
以前、クロスがオーガに操られてしまった時。正気に戻って目が覚めたとき、ディオスの雰囲気が別人のようになっていたことがある。
あの時は気のせいかと思ったが、ぼーっとしている彼を見て、ふと思いだしてしまったのだ。
(やっぱり、気のせいなのか?)
そうならばいいと思う。杞憂であるならと。
ただ、それならあの時見た、彼の笑い顔は一体――
「フッ」
考えていると、不意にディオスが顔を向けてきた。クロスは慌てて視線を逸らす。
「クロに盗み見されると、なんだか嬉しいな」
「なっ……盗み見なんてしてるわけないだろ!」
ばれてた。当然否定するが、ディオスは笑うばかり。
再び赤くなったクロスは、それでも見知った彼の笑顔にほっとするのだった。
「シュトルツさん、ありがとうございました」
悪霊の魂がアクセサリへと還っていく。エリオスがそれを眺めていると、ミサが近づいてきて言った。
「何がだ?」
「連れ出してくれたことです。あと、気にかけてくれたことも」
言ったミサの目には、気力が灯りつつあった。
「オーガを間近で見て、戦ってるみなさんを見て、思ったんです。『皆を守りたい』。そのためにできることがあるって」
あらためてそう思えば、なんだか身体に力が湧いてくる気がした。当然と言えば当然かもしれない。
大切な人を守りたい――それがミサの力の根源なのだから。
「……お前は神人だ。自らの責務を果たせば、その経験が力になってくれる」
年長者のおだやかな励ましに、ミサはうなずいた。
――まあ、必ずしも良い力になるわけではないが。
エリオスはミサに言わなかった続きを小さく呟くと、口元をほんの少し歪ませた。
「さて、これからどうなるかな?」
呟いた疑問に答える者はなく、ヨミツキの花びらが静かに舞っていく。
「本当は、もっときれいなのかな」
花を散らす桜を見上げ、ひろのは元々の夜を思う。
紅い月が染めた夜ではない、本当のサクラヨミツキ。
どこか禍々しさをも備えた今と違う、花景色。
考えてたひろのは疲労で少し眠いのか、頭が船をこぎ始める。
「だろうな」
そんなひろのに、ルシエロが隣に立って穏やかに見守る。
寝るなら抱き上げてやるつもりだった。
「元のサクラヨミツキに戻ったら、夜花見物でもするか?」
「う、ん……」
眠たげな返事に、きっとその時もこうなるだろうなと、笑った。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 叶エイジャ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 03月31日 |
出発日 | 04月07日 00:00 |
予定納品日 | 04月17日 |
参加者
会議室
-
2016/04/06-23:46
プラン、提出完了よ。
依頼、頑張りましょうね。 -
2016/04/06-23:40
-
2016/04/06-23:35
-
2016/04/06-23:35
エリオス:
>ディオス
何でもない、気にするな。
プランの最終確認が終わった。
成功させる為にも全力を尽くそう。 -
2016/04/06-15:14
ディオス:
>組み分け
ではそのようにプランに書いておこう
>弱ったフリ
俺のスキルは今の所デーモンズアイとブラッディローズをセットしている
敵が突進してきた時は、ブラッディローズで防御し攻撃を受けたフリをしながらもカウンターをしようかと考えているが何かアドバイスなどあれば遠慮なく言ってくれ
(一瞬頭痛がして様に感じふらつくが直ぐに収まり狂気じみた笑を浮かべる)
『ククッ…挑発や囮、なぁ…
挑発なら俺もしてやるよ。だが、囮は神人でなく血の匂いでも奴さんには効くと思うぜ?
だから囮なら俺が買って出る。怪我や傷なんぞなれちまってるからな、平気さ。
それと、俺の姫さんが殺気感知のホロケウを持っているから探索には役に立つだろ
さてと俺はそろそろ引っ込むぜ…。あぁそうだ、俺が出たことはアイツには話すなよ?
まだ、時期じゃねぇんだからな。分かったな、俺の姫さんとここにいる皆さん?(妖艶な笑』
クロス:
(突然の事で混乱するが無言で頷く
ディオス:
(裏人格が出ていた事の記憶は曖昧だけど先程の発言の記憶は覚えている様子。しかし皆の反応に首を傾げる)
まぁそういう事だが…、皆一体どうしたんだ…?
クロス:
いや、何でもない気にすんなディオ
ディオス:
うむ……? -
2016/04/06-08:32
エリオス:
昨日は仕事に追われて遅くなってしまった。
申し訳ない。
>組み分け
了解した。
俺達もそのように動こう。
今回俺のスキルは敵が突進してきた時の対策として『天の川の彼方』と敵が逃げようとも追い回して焼き尽くす『お日様と散歩』をセットしている。
共に戦う上で何か支障があれば変えるので教えてほしい。
>弱ったフリ
知能が低いのであれば弱ったフリに拘らずとも挑発や攻撃をしかければ追いかけてくるのではないだろうか。
オーガに狙われやすい神人もいることだし気をつけなければな(ちらりとミサの方を見やり)
俺は魔法弾を使って挑発をしながら広場に誘導しようと考えているよ。 -
2016/04/05-22:08
ディオス:
>組み分け
シュトルツ氏はまだだが、大元はこの組み分けで良い感じだな。
第一部隊:『カルラス・エスクリヴァ殿(RK』
『エリオス・シュトルツ殿(EW』
『ディオス・チェリル・アルジリーア(SS』
第二部隊:『ルシエロ=ザガン殿(TD』
『グルナ・カリエンテ殿(HB』
第一部隊にはフルール殿が、第二部隊には最上殿がサイバーヘッドを持っているので分けさせて貰った。
>弱ったフリ
ふむ、そうだな…
確かに大袈裟かも知れないが、敵の攻撃を受けたフリをするのが一番だろう。
-
2016/04/05-21:00
あら、5組揃ったのね。うふふ、安心だわ。
改めて、よろしくお願いするわね。
>組み分け
ディオスさんの言う組み分けに賛成よ。
唯一の後衛であるEWの盾に回りたいと思っていたし、
ワタシとカルラスさんはこの中で一番レベルが低いから、3組に入れてもらえると安心だわ。
>弱ったフリ
オーガの誘導にアプローチを使えたら、と思ったけれどそれは最終手段にした方が良さそうね。
フォトン・サークルを展開させてダメージを軽減しつつやられたフリをしたらいいかしら。 -
2016/04/05-20:12
ルシエロ=ザガン:
>組み分け
弱ったフリをするなら戦闘、のような事はする必要はあるだろう。
この組み分けで異論は無い。
>弱ったフリ
攻撃を受けたフリをして大袈裟に倒れるぐらいしか浮かばんな。
後はわざとらしくよろめきながら後退するとかか。
オレがオーガと遭遇したときのフリはそういう予定でいる。 -
2016/04/05-10:59
二回目の顔出し遅れてわりぃ。
>組み合わせ
こっちはアルジリーアが上げた編成で問題ねぇと思う。二組ずつ組んで一組余るっつーのも違う気するし
それに見回ってる間にオーガ出てきたら一組で広場まで誘導するのは厳しいだろうし。
そういう意味で2:3に賛成だと思った
ジョブは悪くねぇとは思うが、他の人の意見によるよな
で、アルジリーアが言ってるんで、訊くまでもねぇと思うが
これってサイバースノーヘッドを現在の時点で装備してる人同士を分けた編成なんだよな? -
2016/04/04-21:03
ディオス:
挨拶が遅れてしまい申し訳ない。
俺はオーガ殲滅特殊部隊ブラッドクロイツ所属、ディオス・チェリル・アルジリーアと申す。
神人は同じくオーガ殲滅特殊部隊ブラッドクロイツ所属、クロス・テネブラエだ。
宜しく頼む。
組み合わせだが、2:3だろうか?
そうなるなら、EW・SS・RKとTD・HBとういう組み合わせはどうだろう?
最初は特攻隊として前衛組SS・TD・HBと中衛後衛組RK・EWにしようかと思ったが、もし中衛後衛組がオーガを発見した場合、戦闘になりうる可能性を考えたら危険だと判断した。
それとサイバーヘッドを持っている二人をわけさせて貰った。
一応俺の提案だ、皆の意見を聞きたい。 -
2016/04/04-19:46
>サイバースノーヘッド
着けていて困るような物ではないし、所持しているのなら全員装備でもいいのではないかと考えている。
連絡が必要になる度に装備している仲間に頼む、という動作が省けていいんじゃないか。
・組み分け
皆の職をまとめさせてもらうぞ(敬称略)
テンペストダンサー(ルシエロ)
ロイヤルナイト(カルラス)
ハードブレイカー(グルナ)
シンクロサモナー(ディオス)
エンドウィザード(エリオス)
綺麗に職が分かれたな、しかも前衛職が揃っている。
後方で詠唱をする身としてはとても心強く思うぞ、有り難い。
さて、組み分けはどうする? -
2016/04/04-15:58
あ、の。一応、私もサイバースノーヘッドは持ってます。
持ってる人が全員つけるか。それとも、連絡役の人だけつけます、か?
私は、連絡役でも。大丈夫です。
連絡するのは、
・オーガを見つけたこと
・これから広場まで誘導すること
かなって思います、けど。
他にあったら、言ってください。
私は、今回はバチューン(弓)を持って行こうと思います。 -
2016/04/04-11:03
シャルティとハードブレイカーのグルナ。
この依頼に参加させてもらうわ。
で、分担しての見回り、良いんじゃないかしら。
分担見回りで確定するなら、私の方は連絡手段としてのサイバーヘッドは用意できるわ。
取り急ぎこれだけ。よろしくね。 -
2016/04/04-09:15
エリオス:
途中参加失礼する。
エリオス・シュトルツと神人のミサ・フルールだ。
俺の職は『エンドウィザード』だ。
宜しく頼む。
分担して見回るのならばミサがサイバーヘッドを所有しているので装備させよう。
仕事があるので取り急ぎこれにて失礼する。 -
2016/04/03-19:39
こんにちは、向坂 咲裟よ。パートナーはロイヤルナイトのカルラスさん。
よろしくお願いするわ。
そうね、分かれて見回りをするのはオーガを探す時間が短くなっていいと思うわ。
でも、ワタシ達は通信用のサイバーヘッドを持っていないのよね…。
それに、まだ二組しか居ないから…この状態で分かれるのは、ちょっと不安を感じているわ。 -
2016/04/03-11:46
ひろの、と。テンペストダンサーのルシエロ=ザガン、です。
よろしく、お願いします。
見回る範囲が大きいなら。分かれて見回りした方がいいと、思います。
連絡手段が、必要になります、けど。