【桜吹雪】カフェでどうぞお花見を(梅都鈴里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「こんにちわぴょん! 『カフェ・さくらあにまる』へようこそ~~~~ぴょん!」

 春先の観光地で知られる城下町『サクラウヅキ』の片隅にある洒落たカフェの店頭で、ふりふりのエプロンをたなびかせながら観光客達を呼び込むのはカフェでお待ちを勤めるツインテールのスタッフ。
 広い店内は常に満員で、店の外まで列を作っている。店へと続く煉瓦の小道には名物の桜『ヨミツキ』が立ち並び、花びらの雨を連日華やかに舞い躍らせていた。
 別たれた城下町の影響にもめげず熱心に客を引くこの店は、ちょっとばかり名の知れた今流行のメイドカフェだ。
 特色は、なんとってもその耳。店の名前が示す通り、こちらの店員はうさぎの長い耳をぴょこぴょこと跳ねさせて、チラシと一緒に笑顔を振りまいている。
 他にも犬耳や定番のネコミミなどさまざま。また多岐に渡る客層に対応するため、女性だけでなく男性スタッフも多く働いている。見た目に関してこれといったルールはないらしく、動物――ネイチャーであればなんでもいいらしい。それこそ妖精の耳でも、ユニコーンの一角でも。
 ただし、扮したからには相応の立ち振る舞いが求められる。別段難しくない。喋り方や仕草をそれっぽくすること、である。
 例えばこの店員ならばうさぎなので、語尾に『ぴょん』を付けている。実際のうさぎが『ぴょん』等と鳴く訳ではないが、まぁ雰囲気が一致していればいいのだ。跳ねる様に元気に動いてみたり、おしりの丸い尻尾をふりふりとアピールしたり。

「皆様のおかげでお店は連日大盛況! なんだけれど……昼時間が伸びてるせいもあって、猫の手もうさぎの手も借りたいくらい忙しくって、おかげで人手が足りてないぴょん。キッチンもホールも、出来れば二人一組くらいでお手伝いしてほしいんだぴょん!」

 刻々と優先順位の入れ変わる多忙な喫茶店などは、スタッフ達のチームワークが何より要求されるのだという。道往く二人組へそこそこ無差別にチラシを配っているのはそのためだ。

「お料理はそんなに難しくないし、接客も楽しんでトライしてくれたら一番だぴょん! お手伝いさん、待ってるぴょん!」

解説

昼食費やまかないで300jrいただきます。

コスプレをしてメイドカフェのお手伝いをするお話です。お仕事体験みたいな。ハピネスなのでお気軽に!
報酬というほどではありませんが、お仕事終わりにオリジナルのケーキをもらえます。
夜桜と一緒に花舞うテラスでどうぞ。

・キッチン(お菓子や料理を作る人)とホール(接客する人)の二人一組で参加
・担当は精霊と神人どっちがどっちでも構いません。
・箱型のよくある喫茶店。オープンキッチンなので、働いている姿はどちらからもお互いよく見えます。
・ホール担当は扮したい動物を一つ指定
・キッチン担当は、仕事終わりに参加CP二人で食べる為の、オリジナルのケーキを一種類(二人分なので二切れ)作ってください。材料費はカフェが負担してくれるのでお好きな形で!

プランに必要な情報
・キッチンとホールをどちらが担当するか
・扮したい動物(ホール担当。コスプレみたいなもんです)耳+尻尾+フリルエプロンの下に黒のパンツルック、となります。
・作りたいオリジナルのケーキ(キッチン担当。見た目や味はざっくりでいいです、イチゴのショートとかモンブランとか。相方さんへのサプライズでも)
・その他、ホール担当は接客はどの様にしてみたいかとか、語尾をどうしたいとかあれば。
・キッチン担当はお客さんに出したい料理を指定下さっても構いません。オムライスにケチャップで絵を描くとかも。

全体でのお仕事描写+個別でお茶のCP描写。
自由度が高いため指定がない部分はアドリブがそこそこ入ると思います。NGあれば遠慮なくご指定ください。





ゲームマスターより

お世話になってます、梅都鈴里です。
カフェや喫茶店が賑わう季節です。花びら絨毯のテラスでお花見とかすごくしたいです。できれば朝晩寒くない日に。
よければお気軽にご参加くださいー。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  キッチン◆スキル:菓子・スイーツ、クッキングアート
菓子や料理を指南しあい学びたい
交流歓迎

キッチンがいいな
(お菓子はメイドや皆に習って積み重ねてきた
自信もつけたいし皆のも参考にしよう)


タイガの虎さんみたいな(虎マニア
楽しみにしてる

■一生懸命と緊張で丁寧な仕事。食べ姿に安堵
餡と抹茶ケーキ、チョコケーキは何度も練習した自信作。上品
僕はこうしてる。へえ勉強になるよ。料理は火加減がわからなくて

こら
かっこよく可愛い)タイガの違う一面がみれて僕は良かったよ


■プリンの乗ったチョコケーキ
タイガ。デザートの時間だよ
赤面。拳でコツ)バカっお疲れ様って意味。差し入れ

そう(幸せ
桜、見惚れるのもわかるよ
◆呆気後、真っ赤


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ホール担当。
シベリアンハスキーな犬耳+しっぽ。
語尾は「~だワン」。
愛想良く元気よく接客だワン。
料理運ぶ時は、ヤベぇ、これまさしく「おあずけ」状態なのだワン?
だが、ラキアの料理は何だってウマいんだ。
これも皆にこの美味しさを楽しんでもらうためだワン。
お薦めメニュー?
オムライスはとろふわ半生卵が絶品だワン。
パンケーキも自然な甘さで何枚でもイケちゃうワン。
「どれもお薦めだワン。欲望の赴くまま、お腹の許す限り食べるととても幸せなのワン!」
他のホール担当者のフォローもする。
皆で楽しく仕事しようぜ。

ご褒美はラキア作のムースだ(わーい!
他の人のケーキも気になるぜ(じーっ。
ラキアのムースは優しい甘さで大好きだ。



李月(ゼノアス・グールン)
  調理3
菓子1

仕様がないだろ
料理ダメなんだからホール係り決定なんだよ
だからこうしてだな…

はっはーどうだ!
後は角に桜の花飾りとリボンと首にカウベルを

いいか
テイルスには角持ちはいない
お前は立派な牛コスをしてるんだ!

切替え早っ

キッチン
皆でサポートしあえたらいい
助け合い歓迎

相棒の仕事ぶり感心
物知らずではあるけど吸収早い、やるな

女性受け良かったら
イケメンだ、当然か…モヤモヤ

テラスで待つ相棒にケーキ運ぶ
食いしん坊のお前には苦行だったか?

は?
周りに人目無いの確認
外でこういうの駄目だからな、特別だぞ
幸腹のフォーク出し
足りないだろうからなこれで補え

ちょっやめ…
溜息
…お疲れさん
恥かしいので桜見上げる


●開店前です
「オレはテイルスじゃねぇ!」
 開店前の更衣室に叫び声が響き渡る。
相方の李月にふさふさと手触りのいい飾りを装着され、どうしたって釈然としないのはゼノアス・グールン。
「仕様がないだろ。料理駄目なんだから、ホール係り決定なんだよ」
 だからこうしてだな……と、こちらも止む無しといった体でゼノアスの身辺を整えて行く李月。
 仕様がない、なんて言いながらも、飾り付けを選ぶ相方が随分と浮き足立って見えたのは絶対にゼノアスの気のせいじゃない。絶対に、気のせいじゃない……!
 大事なので二度繰り返したゼノアスの思いなど何処吹く風、気付けばされるがまま支度を済ませられてしまった。
「はっはー! どうだ!」
「……」
 鏡を見て、腰へ両手を当て得意げに鼻を鳴らす神人に反し、思わず言葉を失う誇り高きディアボロ。
 種族特有の白黒尻尾には柔らかなふさふさ。角には赤いリボンをあしらった可憐な桜の花飾り。
 一般市民にオーガを連想させてはいけない、との二人の計らいで、ゼノアス扮する動物は必然的に。
「いいか。テイルスに角持ちはいない……お前は立派な牛コスをしてるんだ!」
「ぎゅ、牛コス……!」
 どちらかといえば控えめな性格である筈の李月から、いつになく熱く、激励の様に突き付けられた謎の使命感に、勢いのまま乗せられてわなわなと奮え立つ。
 牛。温和でありつつ、果敢で勇猛な戦士たる一面を併せ持つ自然界の戦士。
 そう思うと悪くはない気がした。飼い主よろしく李月に乗せられている様な気がしたけれどこっちはきっと気のせいだ。
「分かったぜ! それならやってやるモー!」
「切替え早っ!」
 ゼノアスが無事納得してくれた所で、いそいそとキッチンのコックスーツに手を通し始める李月。
 そんな二人を横目に見つつ、こちらは特に普段と変わり映え無い出で立ちのまま、黒のエプロンに身を包むのは精霊である火山 タイガ。
「味見出来るし、いいよなー」
 俺もキッチンがいい、と言う前に、神人であるセラフィム・ロイスが「キッチンがいい」と口に出した為、タイガはうっ、と口を噤んだ。
「で、でも、俺も味見……」
「タイガの虎さん、見たいな」
「……」
 にっこり。花の様に笑うものだからそれ以上何も言えない。
 彼自身がキッチンを担当したい、と言うよりも、虎好きが高じて相棒のがおがおと鳴く姿を見たい、的な欲求が割と露骨に出ている気がする。
 タイミングからして確信犯なのか、それとも天然なのか――そして。
「楽しみにしてる」
 駄目押しの様にそう告げられてしまえば了承せざるを得ないのが惚れた弱みというヤツである。
「わーった! 虎で行って来る!」
 タイガの快い返事にセラフィムもつい上機嫌になる。
 料理はともかく、お菓子作りに関してはメイドや皆に習って腕を磨いてきた。
 自信を付けたいという思いもあれど、こうして仲間と共に肩を並べて料理し合える機会もそうそうあるものではない。
 よろしく頼むよ、と同じくキッチンを担当する事となった李月、そしてもう一人の精霊にセラフィムは改まって告げた。
「セラフィムさん、スイーツ作ってる姿とかよく似合いそうだよね、セイリュー」
 勤勉そうな態度に感心しつつ、着替え終わった神人を振り返るラキア・ジェイドバイン。
 こちらは神人であるセイリュー・グラシアがホールを、精霊であるラキアがキッチンを、という、他の二組とは逆の出で立ちで挑む事となった。
 そして、セイリューの選んだ動物はというと。
「ラキアも、コックスーツ似合ってるわん!」
「…………」
 君の方がよっぽど、と言い掛けて思わずバッ! と、口元を抑える。
 噴出しそうになったのだ。似合い過ぎていて。
 シベリアンハスキーの如き黒白の犬耳に、先っちょがくるんと丸まったしっぽ。
 色合いも彼の髪色と相まって全く違和感が無い。笑いを堪える余り端正な顔の口角が引きつった。
「みんなー! 用意できたぴょん? それじゃあ早速、やってもらうお仕事教え……って、きゃああ! かわいい~~!」
 ホール長であるウサ耳のメイドっ娘がひょこっとバックルームを覗き、三人の姿を見るなり黄色い声をあげ騒ぎ始めた。
 くりっとした目の可愛らしい虎の子系男子と、天真爛漫な天然ワンコ系男子と、俺様タイプのイケメンが揃って相応に似合うコスプレをしているのである。
 それだけでも、こういった業種の女性たちには兎にも角にも受けがいい。
「キッチンの三人も、今日はよろしくぴょん。料理長が常に一緒に居るから、分からない事は何でも聞いてぴょん!」
「今日はよろしくね、可愛いアニマルさんたち」
 ついておいで、と料理長が三人を引き連れキッチンへ案内する。
 ホールの三人は、ウサ耳メイドと共に店頭へ。
 こうして、三組のウィンクルム達によるカフェ助力の一日が幕をあげた。

●お仕事お願いします
「いらっしゃいませ! ご注文は何にするがお?」
 開口一番。とびきりの笑顔を見せた虎の子スタッフに、今日初めてカフェを訪れた、という高齢の女性組はつられた様にニコニコと微笑む。
「あらあら、可愛い虎さんねぇ。それじゃあ、このセットをお願いしようかしら」
「チーズケーキに紅茶2セットがおー!」
 初めての店にも関わらず、客に対しては小慣れた口振りで対応するタイガ。
 店内はオープンからあっという間に満員となった。常時から人気の店、という事を差し引いても、今日は客の入りが良い、と店員達も囁き合っている。
「注文は、決まりましたかモー?」
 ある席ではゼノアスがオーダーを取りに伺うと。
「今日は、いつもと違う店員さんが居るって聞いて、いつもと違う友達も誘って来たんです!」
「ねぇあなた牛さん? すっごくかっこいい顔してるのね! お仕事いつ終わるの~?」
 等と女性客グループからちやほや持て囃されている。
 曇りの無い純白色の髪に絹の様な白肌、何よりその無自覚イケメンミステリアススマイル。
 本人に自覚はないが、相棒である李月はその魅力をしっかり理解している。
「物知らずな癖に吸収早い……やるな」
 キッチンから見える精霊の姿に内心ヤキモキしつつ、負けてはいられない、とばかりにしっかりと手元を動かす。
「霧吹きを使って油を引くと、使用量を減らせるよ。オムライスに使う卵には、マヨネーズを入れるとコクが出るんだ」
「へえ、勉強になるよ。お菓子は多少心得があるんだけれど、料理は火加減が分からなくて」
「ラキアさん、料理上手ですね。ゼノに料理作ってる内に、少しは俺も上手くなったと思うんだけど」
 小技を披露していくラキアにセラフィムと李月が感心すれば「俺も一緒」と笑う。
 セイリューに料理を提供している内に自然と腕は上がった。李月もそれは同じ事で、大切な人が美味しいと言ってくれるのは、作り手にとって何よりも嬉しい。
「おおっ、なんだこれ!? うちにない美しいスイーツだねぇ!」
 料理長が声をあげる。三人が振り返ると、本日のお任せデザート、と入ったオーダーに応えたケーキがふたつ、細長く真っ白なプレートへ鎮座している。
「飴と抹茶のケーキです。チョコケーキは何度も練習したので、自信作で……」
「えっ、セラフィムさんが作ったんですか? レシピも自前で?」
「一応、クッキングアートも得意だから」
 初歩レベルだけどね、と謙虚に言うが、ホールの女性スタッフからもその見た目の繊細さと細やかさは評判も上々だ。
 店員が運んだ先で、注文した女性グループがその華やかな出来栄えに歓声を上げているのが見えて、安堵した様に息を吐く。
 普段人様に出す機会はそうないものだから、懸命にやってはいたがその実ずっと緊張していた。
「楽しそうだな、セラ」
「タイガ? あっ」
 客席から見えない様、こそっとキッチン脇にある洗い場へ潜り込んできた虎の子が、セラフィムの足元へしゃがみこみつつ、小皿に切り分けられていたケーキ生地の切れ端をぱくっと口へ放り込む。
「ラーメン屋のバイトで接客慣れてるし、敬語苦手でもこのキャラなら問題ねーから楽だよな。フリルエプロンじゃなかったらな~……いたっ!」
 もぐもぐと口を動かしつつ小声でぼやく相方の頭を「こら」とセラフィムは軽く小突く。
「お仕事体験なんだから、文句言わない。それに……タイガの違う一面が見れて、僕は良かったよ」
 軽く叱って見せた次には、ホールでの働きぶりを思い返してやんわりと笑いかける。
 すみっこだけでも味見したケーキ生地は甘くて、神人からの激励と共にやる気へ繋がった。
「そっか? へへっ! んじゃ、もういっちょ頑張ってくる!」
 ぴょこっと立ち上がり、嬉しそうにはにかんでまたホールへと戻っていった。
「あっ、わんちゃんだー! かわいい!」
「! いらっしゃいませ、わんっ!」
 ある家族連れのグループからは、元気よくホールを駆け回るセイリューに目が留まる。
 賑やかで広い店内ではその忙しなさ故に、呼び止められても中々気付けない事が多いのに比べ、セイリューは周りをよく見ていてお客さんによく気が付くね、と裏方からも評判は上々だった。
「ワンコな店員さん、おすすめおしえてー?」
「オムライスはとろふわ半生卵が絶品だワン。パンケーキも自然な甘さで何枚でもイケちゃうワン」
「迷っちゃうわねえ。じゃあ、これなんかはどう?」
「どれもお薦めだワン。欲望の赴くまま、お腹の許す限り食べるととても幸せなのワン!」
 明るく元気なキャラで順調に接客をこなすホール担当の三人。
 だがしかし、耐え難い試練が一つだけあった。
「……ヤベぇ、これまさしく『おあずけ』状態なのだワン……?」
「いつも独り占めしてる物を他人に食われるのは……つ、辛い」
 料理を手にしたまま葛藤に打ち震えるのは牛と犬である。
 同じタイミングで漏れた言葉に、思わず顔を見合わせてしまった。
 セイリューもゼノアスも、普段パートナーが作ってくれる料理が大好きだ。
 だからこそ据え膳を目の前にしながら、人様に提供しなければならないというのは、これまた心苦しい。
(だが、ラキアの料理は何だってウマいんだ)
(やり抜けばリツキのご褒美ケーキだ!)
 またも同じタイミングで、二人はキッチンに居るパートナーをきっ! と見据えた。
 ラキアがつまみ食いしちゃ駄目だよ……! と、口を動かしているのがセイリューには分かった。
 お預けを食らいつつ頑張って堪えるゼノアスの視線にあてられて、李月も不安そうにしながら頷いていた。
「これも皆に、この美味しさを楽しんでもらう為だワン!」
「ああ、ヘマはしねぇ!」
 預かった肉料理たちを手に、勇ましく二人はホールを忙しなく駆け回るのだった。

●おつかれさまでした
「あー終わった! 風が気持ち良いな~」
 手伝い終了後、テラスにある座敷席でごろりと横になるのはタイガ。
 店が終わった後とあって客足は既に引いており、人気の無い静かなオープンテラスに、今日手伝いをしてくれた六人だけでどうぞ、とスタッフが計らってくれた。
 仰向けに寝そべって夜空を見上げれば月明かりに花びらが照らされキラキラと光る様に舞い散っていく。
「タイガ、デザートの時間だよ」
 ひょこ、と眼前に顔を覗かせたシルバーグレーの瞳。
 夜景のコントラストに相まって、少し影の落ちた儚げで秀麗な輪郭に思わず惚けて呟く。
「こんな所で食っていいなんて、積極的……あいたっ!」
 ゴン、と今度は額を拳で小突かれて小さく鳴いた。
「バカ。おつかれさまって意味」
「なんだよ、見惚れてて損したー」
「もう、折角差し入れ持って来たのに……はいどうぞ」
 テーブルにコトリ、と置かれた小皿には、プリンの乗ったチョコケーキが二人分。
 お昼ごろ、キッチン内で皆や料理長の喉を唸らせていたあの自信作だ。
「マジで!? いただきまーす!」
 一口大きく頬張れば、口の中いっぱいに広がる甘みが疲れた体には心地良い。
 満面の笑みで「うめぇ~!」と素直な感動を口にするタイガを、幸せそうな顔をして「そう」と一言、セラフィムは見詰める。
「綺麗だね。……桜、見惚れるのもわかるよ」
 夜の明かりはタイガの髪色に反射して、夜桜の紅に溶け合い艶やかに輝く。
 先程タイガが漏らしていた言葉を思い出して空に舞い散る桜吹雪を見上げ、ふと一人ごちていると。
「あ? 何が綺麗って?」
「だから、桜が――」
 問い返され、同じ言葉を反芻しようと視線を戻せば。
「桜吹雪の下のセラに、決まってるだろ?」
 ストレートな口説き文句に思わず呆気に取られ、次にはみるみる頬が茹で上がる。
 幾分か大人びた顔をしたのは一瞬で、すぐさまにかっと歳相応の笑顔で歯を見せたタイガに、それでも暫く上気した頭の熱は、元に戻ってはくれなかった。

「おつかれさま、ゼノ」
 こちらもテラスで待つ相棒に差し入れを運び労う李月。
 牛を象ったチョコを添えた彼特製の一品だ。
「待ってたぜ、苺ショートか!」
 据え膳食らわされた犬よろしく、待ちわびたという風体が見て取れる様な反応につい苦笑する。
「食いしん坊のお前には苦行だったか?」
「おう、オレの肉料理……くっ」
 仕事中、次々に見送らざるを得なかった李月の料理を思い出して、言葉尻にも相応の悔しさが滲み出る。
「これだけ我慢したんだから、当然労ってくれるよな?」
「は?」
 大きく口を開けて、ちょいちょいと指先で促す。
 あーん、を要求されているのだと言う事は理解出来たが、幾ら閉店後とは言え屋外だ。
 幸い、二人が座っている席はあとの四人からは影になっている位置で、誰も見ていない事を確認してから、こっそり持参した幸腹のフォークを取り出す。
「……特別だぞ」
 外でこういうの駄目だからな、と念を押しつつも、ケーキを一口運んでやると、はむっ! と美味しそうな音を――実際には立てている訳ではないのだが、フォークの効果もあるのだろうか、そんな効果音が聞こえてきそうなくらいに、ゼノアスは美味しそうに食いついて。
「足りないだろうからな。これで補……わっ!?」
 ちょっとした気遣いも嬉しくて思わず隣に座る神人にゼノアスが抱き寄せれば、道具も本来の味も関係なく、幸せに体中を満たされる。
 犬が飼い主にするみたく、そのまま額をすりすりとこすりつけて。
「ちょっ、やめ――」
 止めろ、と静止しようとするも語尻は溜息へと変わる。
 人も居ないし、頑張ったし、桜は綺麗だし、ケーキは美味しいし。
 これくらいのご褒美はまあ、構わないだろう。
「……お疲れさん」
 口先だけ李月は困った様に笑って、一つさらりと純白色に落ちた花びらを撫でるけれど、やっぱりまだ気恥ずかしくて、照れ隠しの様に夜空に浮かぶ桜を見上げた。

「他の人のケーキも気になるなぁ」
「じゃあ、これは要らない?」
 ちらちらと他の二組の様子を気にするセイリューに、その気もない冗談をラキアが口にすればぶんぶんと首を横に振られる。
 ラキアの作ったのは桜のムースケーキだ。ほんのり桜色の滑らかなクリーム、頂には桜の塩漬けを添えて。
 しっとりと華やかな、ラキアの性格を現した様なその仕上がりにセイリューの瞳も輝く。
「美味そう! いただきまーす!」
 わーい! と子供じみた所作をしつつも、きちんと手を合わせてスプーンでムースを一掬い。
 一口運んで咀嚼すれば、優しい甘さがじんわりと舌に染み渡る。
「今年はとても桜が綺麗だから、ケーキにしてあげたくて」
 呟きつつ桜を見上げるラキアも綺麗だ。何より風にそよぐ長い朱の髪は、桜の紅によく映える。
「セイリュー? ……食べないの?」
「えっ? あ、ああ! 食べる食べる!」
 暫し呆けていたけれど、塩漬けのほろ苦い刺激で我に返り、残りのクリームも残す事無く平らげた。
「セイリュー、本当に犬の格好似合ってたね。慣れないお仕事だったでしょうに」
「そうかな? キッチンにラキアが居るんだ、出来ない事なんてないぜ!」
「ふふ、頼もしいよ」
 結果として、セイリューの働きぶりは店側から本当に評判が良かった。
 本人に伝わったかどうか定かでは無かったけれど、元から働いているスタッフ達の方にも率先して声を掛け手伝いに向かう姿は非常に好感が持たれて「ずっとうちで働いてくれたらいいのに……」「こんなにかわいいのに今日だけなんて」等と思わず零したスタッフの声を、ラキアはちゃんと覚えている。
 今日は接客おつかれさまでした、とセイリューを労い穏やかに笑い掛け、舞い散る桜吹雪と春の夜風に身を委ねた。
 桜咲く季節が過ぎ行くまで、あともう少し。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 梅都鈴里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月01日
出発日 04月09日 00:00
予定納品日 04月19日

参加者

会議室

  • プラン提出でーきーたー。
    ゼノアスさんのウシさんな語尾とか、
    タイガの扮装はがどんな感じになるのかとか、
    結果を超楽しみにしているぜ。

    夜桜はいいものだ。
    桜と共に良い時間を過ごせますように!

  • [8]セラフィム・ロイス

    2016/04/08-23:11 

    わわっ!?ありがとう。菓子指南しあえたら僕としてもとても嬉しいよ
    実は料理も覚えたいと思ってたんだ。そちらも学べたら良いな
    ・・・でも精霊達の演技も気になる(笑)

    気づいたのは今になってしまったけど(背後がPC付けるの遅い;)
    料理のこと聞いてよかったなと思ったよ。話が弾みそうで、どうプラン代えようか
    頭が忙しいというか。
    次の返信できるかわからないから先に挨拶しておくね
    当日はどうぞよろしく。プランお疲れ様でした

  • [7]李月

    2016/04/08-20:51 

    キッチン
    皆でサポートしあえたらいい
    助け合い歓迎

    としておきました

  • あらためて、セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    今回も皆ヨロシク!

    オレがホール担当でワンコなコス。
    (シベリアンハスキーな耳+シッポ)
    ラキアがキッチン担当の予定だ。

    ラキアは料理3、菓子スイーツ2とコーヒー・紅茶2
    なので、一般レベル程度だけれど
    「レシピ交換とかちょっとしたコツを教え合うのもいいんじゃないかな?」
    とか言っているぜ。
    お互いどんなケーキを作るのかも興味あるし。
    (オレもわくわくして味見正座待機の構え。笑)

  • [5]李月

    2016/04/08-02:27 

    セラフィムさん、よろしくお願いします

    調理3と菓子スイーツ1です
    僕の調理レベルでよければ「セラフィムさんに調理指南する」と入れておきますが
    反対に菓子指南して貰えたらおあいこになりますね
    セイリューさんの所はどうなんだろう…?

  • [4]セラフィム・ロイス

    2016/04/08-00:50 

    どうも、僕セラフィムと相棒のタイガだ。
    今の予定では僕がキッチン、タイガが虎でホールをやるつもりだよ
    「全体でのお仕事描写」みたいだし何かとお世話になると思う。よろしく頼むね

    あ、あと料理上手い人とかいないだろうか・・・?
    簡単だとはいうけれどお菓子作りでさえ初心者なんだよね(レベル2)
    反対に教えれる事があれば助けになれたらと思う
    お仕事体験だし習うより慣れろ・・・かな(タイガの受け売り)

  • [3]セラフィム・ロイス

    2016/04/08-00:39 

  • [2]李月

    2016/04/07-15:41 

    よろしくお願いします

    僕はキッチン
    相棒は牛コスでホールです
    ディアポロは角があるのでこれしか思い浮かばなかった


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